説明

金属接合方法および金属接合構造

【課題】銅同士を接続信頼性良く接合する。
【解決手段】銅を主成分とする第1の被接合部材10の所定領域に酸化膜除去液30を塗布し、銅を主成分とする複数の第2の被接合部材20の所定領域を前記酸化膜除去薬液を介して第1の被接合部材10の所定領域上に載置し、第1の被接合部材10と複数の第2の被接合部材20とを加熱および加圧して第1の被接合部材10と複数の第2の被接合部材20とを一括して金属固相拡散により接合する。複数の第2の被接合部材20を加圧することにより、第1の被接合部材10との接合界面とは反対側の複数の第2の被接合部材20の各背面を凹ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属同士を接合する方法に関する。特に、本発明は銅同士を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属同士を接合する方法として、アーク溶接法が知られている。アーク溶接法では、アーク放電で生じた熱により被接合部材(母材)を溶融させて接合を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−224241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アーク溶接法では、溶融した溶接部が大気中の酸素、窒素、水素等と反応し脆化することにより、十分な接続強度が得られない場合がある。また、銅は熱伝導性が高いため、アーク放電により加えられた熱が急速に母材に拡散することにより、溶接部に融合不良が生じやすくなるという課題がある。
【0005】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、銅同士を接続信頼性良く接合することができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、金属接合方法である。当該金属接合方法は、銅を主成分とする第1の被接合部材の所定領域に酸化膜除去薬液を塗布する工程と、銅を主成分とする第2の被接合部材の所定領域を酸化膜除去薬液を介して第1の被接合部材の所定領域上に載置する工程と、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを加熱および加圧して第1の被接合部材と第2の被接合部材とを金属固相拡散により接合する工程と、を備え、第2の被接合部材を加圧することにより、第1の被接合部材との接合界面とは反対側の第2の被接合部材の背面を凹ませることを特徴とする。
【0007】
上記金属接合方法において、複数の第2の被接合部材を用意し、複数の第2の被接合部材の所定領域を酸化膜除去薬液を介して第1の被接合部材の所定領域上に載置する工程と、第1の被接合部材と複数の第2の被接合部材とを加熱および加圧して第1の被接合部材と複数の第2の被接合部材とを一括して金属固相拡散により接合する工程と、を備え、複数の第2の被接合部材を加圧することにより、第1の被接合部材との接合界面とは反対側の複数の第2の被接合部材の各背面を凹ませてもよい。この場合に、複数の第2の被接合部材を加圧する部材の加圧面が、複数の第2の被接合部材を跨る形状であってもよい。
【0008】
本発明の他の態様は、金属接合方法である。当該金属接合方法は、銅を主成分とする第1の被接合部材の所定領域に酸化膜除去薬液を塗布する工程と、銅を主成分とする第2の被接合部材の所定領域を酸化膜除去薬液を介して第1の被接合部材の所定領域上に載置する工程と、第1の被接合部材と第2の被接合部材とを加熱および加圧して第1の被接合部材と第2の被接合部材とを金属固相拡散により接合する工程と、を備え、第2の被接合部材を加圧することにより、第1の被接合部材との接合界面とは反対側の第2の被接合部材の背面を凹ませることを特徴とする。
【0009】
上記いずれかの態様の金属接合方法において、酸化膜除去薬液は銅に対して不活性であってもよい。酸化膜除去薬液が銅と錯体を形成する配位子を含んでもよい。この場合に、錯体が加熱分解性であってもよい。また、酸化膜除去薬液がアンモニア水またはカルボン酸水溶液であってもよい。カルボン酸水溶液に含まれるカルボン酸が多座配位子であってもよい。多座配位子のうち、少なくとも2つの配位子が1つの銅イオンに対して配位していてもよい。
【0010】
本発明のさらに他の態様は、金属接合構造である。当該金属接合構造は、銅を主成分とする第1の被接合部材と、第1の被接合部材に金属拡散接合により接合された複数の第2の被接合部材と、を備え、第1の被接合部材との接合界面とは反対側の第2の被接合部材の背面が周囲に対して凹んでおり、凹部分の結晶粒が凹部分の周囲における結晶粒より小さいことを特徴とする。
【0011】
上記態様の金属接合構造において、凹部分と、凹部分の周囲の部分との間に形成された段差が複数の第2の被接合部材において直線上に配置されていてもよい。
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、銅同士を接続信頼性良く接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係る金属接合方法を示す工程図である。
【図2】実施の形態1に係る金属接合方法を示す工程図である。
【図3】実施の形態1に係る金属接合方法を示す工程図である。
【図4】実施の形態1に係る金属接合方法を示す工程図である。
【図5】実施の形態1に係る金属接合方法に従って接合された銅の加圧領域の断面SEM像である。
【図6】実施の形態1に係る金属接合方法に従って接合された銅の加圧領域の模式図である。
【図7】図7(A)は、実施の形態2に係る半導体装置を示す平面図である。図7(B)は、図7(A)に示すA−A線に沿った断面図である。
【図8】実施の形態2に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図9】実施の形態2に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図10】実施の形態3に係る半導体装置を示す平面図である。図10(B)は、図10(A)に示すA−A線に沿った断面図である。
【図11】実施の形態3に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【図12】実施の形態3に係る半導体装置の製造方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
(実施の形態1)
図1乃至図4は、実施の形態1に係る金属接合方法を示す工程図である。
図1〜図4において、(A)図は平面図であり、(B)図は(A)図に引いたA−A線に沿った断面図である。
【0016】
まず、図1に示すように、銅を主成分とする第1の被接合部材10の所定領域に酸化膜除去液30としてアンモニア水を塗布する。酸化膜除去液30は、酸化銅を主成分とする酸化物を溶出させる溶液である。酸化膜除去液30を塗布する方法としては、たとえば、所定領域を開口とするマスクを第1の被接合部材10の上に載置した状態で、アンモニア水をマスクに対して噴霧または塗布する方法が挙げられる。
【0017】
次に、図2に示すように、下型50および上型52を有するプレス機に第1の被接合部材10ならびに第2の被接合部材20a、第2の被接合部材20bおよび第2の被接合部材20c(以下、これらをまとめて第2の被接合部材20という場合がある)を設置する。具体的には、下型50の上に第1の被接合部材10を載置し、酸化膜除去液30が塗布された各所定領域に、第2の被接合部材20a、第2の被接合部材20bおよび第2の被接合部材20cの接合領域を位置合わせし、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20との間に酸化膜除去液30を介在させる。第2の被接合部材20は、20a、20b、20cそれぞれの左端をタイバー20dでリンクされており、タイバー20dは第1の被接合部材10と第2の被接合部材とが接合された後に切除される。上型52の加圧面は、第2の被接合部材20a、第2の被接合部材20bおよび第2の被接合部材20cの接合領域に跨っており、上型52により、複数の第2の被接合部材20を一括して加圧することができる。第2の被接合部材20が延在する側の第1の被接合部材10の辺と、第2の被接合部材20が延在する側の上型52の辺との間に所定距離のマージンを設ける。すなわち、上型52は、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20とが重畳する領域のうち、第2の被接合部材20が延在する側の領域の一部を覆わないように設置する。
【0018】
なお、第1の被接合部材10の最表面および第2の被接合部材20の最表面は、ともに酸化銅を主成分とする酸化物で形成されている。ここで、「銅を主成分とする」および「酸化銅を主成分とする」という表現中、「主成分とする」は、銅または酸化銅の含有量が50%よりも大きいことを意味する。本実施の形態では、第1の被接合部材10の最表面および第2の被接合部材20の最表面は、銅が大気中で酸化することにより形成される自然酸化膜で形成されている。
【0019】
第1の被接合部材10の最表面および第2の被接合部材20の最表面を構成する酸化銅が酸化膜除去液30に溶出することにより、第1の被接合部材10の露出面および第2の被接合部材20の露出面にそれぞれ銅が露出する。また、酸化膜除去液30中では、配位子となるアンモニアイオンと銅イオンとにより銅錯体が形成される。本実施の形態では、銅錯体は、[Cu(NH2+で表される加熱分解性のテトラアンミン銅錯イオンとして存在すると考えられる。なお、アンモニア水は銅に対して不活性であるため、第1の被接合部材10および第2の被接合部材20を構成する銅はアンモニア水と反応せずに残存している。
【0020】
次に、図3に示すように、下型50および上型52を用いて、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20との距離を縮めるように、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20とを加圧する。この工程における加圧時の圧力は、たとえば、1MPaである。なお、加圧当初は、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20との接合面には上述した酸化膜除去液(図示せず)が介在している。
【0021】
第1の被接合部材10と第2の被接合部材20とを加圧した状態で、200℃〜300℃の比較的低温な条件下で加熱することにより、第1の被接合部材10の接合面および第2の被接合部材20の接合面への銅の固相拡散を進行させる。本実施の形態では、加熱により水分が蒸発するとともに、テトラアンミン銅錯イオンが熱分解してアンモニア成分が蒸発する。これにより、酸化膜除去液において銅の割合が徐々に高まるとともに、プレス機による加圧により第1の被接合部材10の最表面と第2の被接合部材20の最表面との距離が徐々に近づき、第1の被接合部材10の接合面と第2の被接合部材20の最表面とが銅の固相拡散により接合される。
【0022】
次に、図4に示すように、固相拡散による接合が完了した後、加熱を停止して加圧を解除し、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20との接合工程が完了する。次に、タイバー20dを切除し、第2の被接合部材20a、20b、20cをそれぞれ分離する。以上の工程により、図4に示す金属接合構造が得られる。なお、酸化膜除去液中に溶出した銅成分は、上述した固相拡散により、第1の被接合部材10や第2の被接合部材20の中に拡散する。
【0023】
第2の被接合部材20の接合面とは反対側の背面において、上型52によって加圧された領域は、加圧されていない領域、言い換えると、加圧された領域の周囲の領域に対して凹んだ凹部領域となり、上型52によって加圧された領域と加圧されていない領域との間に視認可能な段差21が生じる。この段差は、加圧時の圧力にもよるが、たとえば、50〜100μmである。
【0024】
上型52による加圧により、第2の被接合部材20の凹部領域の表面近傍の銅の結晶粒は、周囲の結晶粒に比べて小さくなる。この傾向は、段差21の近傍領域において顕著である。
【0025】
以上説明した金属接合方法で得られる効果としては少なくとも以下の項目が挙げられる。
【0026】
金属拡散接合により第1の被接合部材10と第2の被接合部材20とを接合することにより、接合部に水素脆化が生じることを抑制し、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20との接合強度を向上させることができる。
【0027】
第2の被接合部材20の凹部領域、特に、段差21の近傍領域において、表面近傍に位置する銅の結晶粒が周囲の結晶粒に比べて小さいため、結晶粒が小さいほど材料の強度が高くなるホールペッチ法則により、第2の被接合部材20の接合面とは反対側の背面部分の剛性を高めることができる。この結果、曲げ応力等が加わった場合において、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20との接合部が破断することを抑制できる。
【0028】
第1の被接合部材10と複数の第2の被接合部材20との接合を一度の加圧工程で済ませることができるため、接合工程に要する時間を短縮することができる。
【0029】
接合が良好な場合には、上述のように、第2の被接合部材20の背面に段差21が生じるため、段差21の有無を目視で確認することにより、接合の良否確認を容易に行うことができる。上型52の加圧面の辺を直線とすることにより、複数の第2の被接合部材20に均等に荷重がかかっている場合には、複数の第2の被接合部材20の段差21が直線上に並ぶ。このため、段差21が生じていない箇所が目立ちやすくなり、接合の不良箇所の発見をより容易にすることができる。また、さらなる信頼性確保の目的で、被接合部に樹脂のポッディングや、はんだの塗布を行うと、段差21にアンカー効果が働き信頼性が向上する。
【0030】
(金属構造における結晶粒の確認)
金属接合方法を適用して銅A(第1の被接合部材10に相当)と銅B(第2の被接合部材20)とを接合した。接合加工の加温加圧条件は、200℃、30MPaである。得られた金属接合構造について、断面SEMにより断面構造を観察した。図5は、銅Bの加圧領域すなわち接合面とは反対側の背面における凹部領域の断面SEM像である。図6は、銅Bの加圧領域の構造を示す模式図である。図5に示すように、接合面とは反対側の銅Bの背面において、段差近傍領域の結晶粒が周囲の結晶粒の大きさより小さくなっていることが確認された。
【0031】
(実施の形態2)
図7(A)は、実施の形態2に係る半導体装置100を示す平面図である。図7(B)は、図7(A)に示すA−A線に沿った断面図である。本実施の形態は、上述した金属接続方法および金属接続構造を適用した、半導体素子等の回路素子が基板に実装された半導体装置(混成集積回路装置)に関する。
【0032】
半導体装置100は、金属基板110、絶縁樹脂層120、配線層130、半導体素子140、チップ部品142、リード150および封止樹脂層160を備える。
【0033】
金属基板110は放熱性が良好な部材であれば特に限定されないが、たとえば、アルミニウムを主成分とした基板や銅を主成分とした基板が挙げられる。また、金属基板110に代えて、アルミナイトライド、シリコンナイトライド、アルミナなどからなるセラミック基板や、放熱性が良好なプリント基板などの絶縁樹脂板を用いてもよい。
【0034】
絶縁樹脂層120は、金属基板110の上に積層されている。絶縁樹脂層120を構成する絶縁材料としては、たとえば、エポキシ樹脂が挙げられる。
【0035】
配線層130は、絶縁樹脂層120の上に形成された所定パターンの導電層である。配線層130は、たとえば、銅で形成される。
【0036】
半導体素子140は、配線層130の上に実装されたIC等の能動素子である。半導体素子140は、銀ペーストやはんだなどの接合部材170を用いて配線層130に接続されている。半導体素子140は、金線などのワイヤ141を介して配線層130と電気的に接続されている。チップ部品142は、配線層130の上に実装された抵抗、コンデンサ等の受動素子である。チップ部品142は、はんだなどの接合部材172を用いて配線層130に電気的に接続されている。
【0037】
配線層130の引き回し先の一部は外部接続用端子134となる。本実施の形態では、複数の外部接続用端子134が半導体装置100の一辺に沿ってSIP型として配置されている。なお、半導体装置100は、対向する二辺に沿って外部接続用端子が配置されるDIP型パッケージであってもよい。
【0038】
リード150は外部接続用端子134に電気的に接続されている。外部接続用端子134とリード150との接合方法および接合構造については後述する。
【0039】
封止樹脂層160は、上述した金属基板110、絶縁樹脂層120、配線層130、半導体素子140、チップ部品142、リード150等を封止し、外部環境からこれらの部材を保護している。封止樹脂層160は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてトランスファーモールド法やインジェクションモールド法により形成される。また、封止樹脂層の形成方法は、溶融樹脂にパッケージを浸けるデップ法でもよい。
【0040】
(製造方法)
実施の形態2に係る半導体装置100の製造方法について、外部接続用端子134とリード150との接合方法を中心に、図8乃至図9を参照して説明する。
【0041】
まず、図8(A)に示すように、金属基板110の上に絶縁樹脂層120および金属箔132を積層し、熱圧着して貼り合わせる。
【0042】
次に、図8(B)に示すように、周知のフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いて、金属箔132を選択的に除去し、所定パターンの配線層130を形成する。配線層130の引き回し先の一部が外部接続用端子134(実施の形態1における第1の被接合部材10に相当)として金属基板110の一辺に沿って配置される。
【0043】
配線層130の所定位置に半導体素子140およびチップ部品142をはんだ(それぞれ、接合部材170、接合部材172)を用いたリフロー処理により実装する。なお、はんだに代わって銀ペースト等を塗布し、その上に半導体素子140およびチップ部品142を設置した後に熱硬化させることにより実装してもよい。
【0044】
次に、図8(C)に示すように、半導体素子140に設けられた素子電極(図示せず)と配線層130とをワイヤボンディング法により金線などのワイヤ141を用いて電気的に接続する。
【0045】
次に、図9(A)に示すように、外部接続用端子134の上に酸化膜除去液30を塗布する。
【0046】
次に、図9(B)に示すように、リード150(実施の形態1における第2の被接合部材20に相当)先端の接合部分を外部接続用端子134の上に載置する。
【0047】
次に、図9(C)に示すように、プレス機の下型50および上型52を用いて、外部接続用端子134とリード150先端の接合部分とを加熱および加圧し、複数の外部接続用端子134と複数のリード150先端との接合部分とを金属拡散接合により一括して接合する。加熱および加圧条件は、実施の形態1と同様である。実施の形態1と同様に、加圧により、接合面とは反対側のリード150背面に凹部領域が形成される。さらに、凹部領域の表面近傍の銅の結晶粒が周囲より小さくなる。
【0048】
本実施の形態では、上型52とリード150の先端との間にマージンが設けられている。このため、加圧によって生じた凹部領域より先端側に位置するリード150の背面は凹まずに残っており、凹部領域とリード150の延在側との間に形成された段差151aの他に、凹部領域とリード150の先端側との間にも段差151bが形成されている。
【0049】
次に、前述したトランスファーモールド法等の封止法により半導体素子140およびチップ部品142を熱硬化性樹脂を用いて封止する。以上の工程により、実施の形態2に係る半導体装置100を製造することができる。
【0050】
本実施の形態の半導体装置100によれば、外部接続用端子134とリード150との接合構造に関して、実施の形態1と同様な効果を得ることができる。また、本実施の形態では、凹部領域とリード150の延在側との間および凹部領域とリード150の先端側との間にそれぞれ段差151a、段差151bが形成されているため、凹部領域において封止樹脂層160とのアンカー効果がより働きやすくなる。この結果、リード150と封止樹脂層160との密着性を向上させ、ひいては、半導体装置100の構造安定性や動作信頼性を向上させることができる。
【0051】
(実施の形態3)
図10は、実施の形態3に係る半導体装置200を示す平面図である。図10(B)は、図10(A)に示すA−A線に沿った断面図である。本実施の形態は、上述した金属接続方法および金属接続構造を適用した、リード端子が4方向より導出されるQFP(Quad Flat Package)型の半導体装置に関する。半導体装置200は、主な構成としてランド210、半導体素子220、リード230、封止樹脂層240を備える。
【0052】
ランド210の素子搭載面とは反対側の裏面は、必要に応じ、後述する封止樹脂層240の上面に露出している。ランド210は、放熱性が良好な部材であれば特に限定されないが、たとえば、Al板、Cu板などが挙げられる。
【0053】
ランド210の素子搭載面には、銀ペーストやはんだなどの接合部材212を用いてIC等の半導体素子220が固着されている。ランド210と反対側の半導体素子220の電極形成面には、素子電極222が設けられている。
【0054】
リード230の一方の端部は、素子電極222に電気的に接続されている。素子電極222とリード230との接合方法および接合構造については後述する。リード230の他方の端部は、半導体装置200の縁部において露出している。
【0055】
封止樹脂層240により、半導体素子220が封止されている。封止樹脂層240は、たとえば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をトランスファーモールド法やインジェクションモールド法により成型することで形成される。
【0056】
(製造方法)
実施の形態3に係る半導体装置200の製造方法について、素子電極222とリード230との接合方法を中心に、図11乃至図12を参照して説明する。図11乃至図12は、実施の形態3に係る半導体装置200の製造方法を示す工程図である。図11乃至図12において、(A)図は平面図を示し、(B)図は(A)図のA−A線に沿った断面図を示す。
【0057】
まず、図11に示すように、ランド210の上に接合部材212を介して半導体素子220を固定する。続いて、半導体素子220の側辺に沿って設けられた複数の素子電極222(実施の形態1における第1の被接合部材10に相当)の上に酸化膜除去液30を塗布する。
【0058】
次に、図12に示すように、下型50および上型52を有するプレス機にランド210、半導体素子220、リード230(実施の形態1における第2の被接合部材20に相当)等を設置する。プレス機の下型50および上型52を用いて、複数の素子電極222と複数のリード230先端の接合部分とを加熱および加圧し、素子電極222とリード230先端の接合部分とを金属拡散接合により一括して接合する。加熱および加圧条件は、実施の形態1と同様である。実施の形態1と同様に、加圧により、接合面とは反対側のリード230背面に凹部領域が形成される。さらに、凹部領域の表面近傍の銅の結晶粒が周囲より小さくなる。
【0059】
本実施の形態では、実施の形態2と同様に、上型52とリード230の先端との間にマージンが設けられている。このため、加圧によって生じた凹部領域より先端側に位置するリード230の背面は凹まずに残っており、凹部領域とリード230の延在側との間に形成された段差231aの他に、凹部領域とリード230の先端側との間にも段差231bが形成されている。
【0060】
半導体素子220の残りの3辺についても上述した金属接合方法により、複数の素子電極222と複数のリード230先端の接合部分とをそれぞれ金属拡散接合により接合する。なお、図12では一側辺ずつ接合が行われているが、四側辺を一度に接合してもよい。
【0061】
次に、トランスファーモールド法により半導体素子220を熱硬化性樹脂を用いて封止する。以上の工程により、実施の形態3に係る半導体装置200を製造することができる。
【0062】
本実施の形態の半導体装置200によれば、素子電極222とリード230との接合構造に関して、実施の形態1と同様な効果を得ることができる。また、本実施の形態では、凹部領域とリード230の延在側との間および凹部領域とリード230の先端側との間にそれぞれ段差231a、段差231bが形成されているため、凹部領域において封止樹脂層240とのアンカー効果がより働きやすくなる。この結果、リード230と封止樹脂層240との密着性を向上させ、ひいては、半導体装置200の構造安定性や動作信頼性を向上させることができる。
【0063】
なお、本実施の形態では、半導体装置200の各辺ごとに、複数の素子電極222と複数のリード230先端の接合部分とを一括して接合しているが、半導体装置200の4辺の複数の素子電極222と複数のリード230先端の接合部分とを一括して接合してもよい。この場合には、上型52の加圧面を、各辺のリード230の先端部にそれぞれ跨るような矩形状とし、各リード230の先端部分を凹部領域とし、段差231bを設けなくてもよい。なお、本実施の形態では、リード230は板状のものを例示したが、リード230の形状はこれに限定されず、断面が円形のリードを用いてもよい。
【0064】
(金属接合に用いる溶液)
上述した各実施の形態における金属接合工程では、金属接合に用いる酸化膜除去液としてアンモニア水が用いられているが、銅と錯体を形成する配位子を含む溶液であれば、これに限られず、たとえば、カルボン酸水溶液であってもよい。
【0065】
カルボン酸水溶液の調製に用いられるカルボン酸としては、酢酸などのモノカルボン酸、また、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フタル酸、マレイン酸などのジカルボン酸、さらに、酒石酸、クエン酸、乳酸、サリチル酸などのオキシカルボン酸が挙げられる。
【0066】
このうち、カルボン酸水溶液は多座配位子となるカルボン酸を有することが好ましい。多座配位子となるカルボン酸を有するカルボン酸水溶液では、カルボン酸と銅がキレートを形成することにより銅錯体の安定性が非常に大きくなる。この結果、接合に必要な温度をより低温化させることができる。なお、酒石酸がキレートを形成することについては、「理化学辞典 第4版(岩波書店)」の第593頁に記載されている。また、酒石酸、シュウ酸などがキレートを形成することは「ヘスロップジョーンズ 無機化学(下) 齋藤喜彦 訳」の第666頁に記載されている。ここで、キレート化とは、多座配位子によって環が形成されることによって錯体の安定度が非常に大きくなることをいう。
【0067】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0068】
また、上述の各実施の形態では、第1の被接合部材10と第2の被接合部材20とを金属接合させる際に、加熱および加圧を行っているが、加熱および加圧に換えて超音波を印加してもよく、また加熱および加圧のうちいずれかを超音波印加に換えてもよく、また加熱および加圧に加えて超音波を印加してもよい。
【0069】
さらには、大電力を扱う半導体装置ではオン抵抗を低減する目的で、従来の金線やアルミワイヤに代えて銅ワイヤを用いた超音波接合が用いられる。銅ワイヤを用いた超音波接合では、接合時の銅の酸化を抑制するためにNガス等の吹き付け等が必要である。しかし、銅ワイヤの接合に本発明の技術を適用するとNガス等の吹き付けが不要となる。さらに、本発明の技術を適用すると、ワイヤよりも大電流を流せる板状リードや太ワイヤが使用可能であり、よりオン抵抗の低い大電力装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0070】
10 第1の被接合部材、20a,20b,20c 第2の被接合部材、21 段差、30 酸化膜除去液、50 下型、52 上型、100 半導体装置、110 金属基板、120 絶縁樹脂層、130 配線層、140 半導体素子、142 チップ部品、150 リード、160 封止樹脂層、200 半導体装置、210 ランド、212 接合部材、220 半導体素子、222 素子電極、230 リード、240 封止樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を主成分とする第1の被接合部材の所定領域に酸化膜除去薬液を塗布する工程と、
銅を主成分とする第2の被接合部材の所定領域を前記酸化膜除去薬液を介して前記第1の被接合部材の所定領域上に載置する工程と、
前記第1の被接合部材と前記第2の被接合部材とを加熱および加圧して前記第1の被接合部材と前記第2の被接合部材とを金属固相拡散により接合する工程と、
を備え、
前記第2の被接合部材を加圧することにより、前記第1の被接合部材との接合界面とは反対側の前記第2の被接合部材の背面を凹ませることを特徴とする金属接合方法。
【請求項2】
複数の前記第2の被接合部材を用意し、
前記複数の第2の被接合部材の所定領域を前記酸化膜除去薬液を介して前記第1の被接合部材の所定領域上に載置する工程と、
前記第1の被接合部材と前記複数の第2の被接合部材とを加熱および加圧して前記第1の被接合部材と前記複数の第2の被接合部材とを一括して金属固相拡散により接合する工程と、
を備え、
前記複数の第2の被接合部材を加圧することにより、前記第1の被接合部材との接合界面とは反対側の前記複数の第2の被接合部材の各背面を凹ませる請求項1に記載の金属接合方法。
【請求項3】
前記複数の第2の被接合部材を加圧する部材の加圧面が、前記複数の第2の被接合部材を跨る形状である請求項2に記載の金属接合方法。
【請求項4】
前記酸化膜除去薬液は銅に対して不活性である請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属接合方法。
【請求項5】
前記酸化膜除去薬液が銅と錯体を形成する配位子を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属接合方法。
【請求項6】
前記錯体が加熱分解性である請求項5に記載の金属接合方法。
【請求項7】
前記酸化膜除去薬液がアンモニア水またはカルボン酸水溶液である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の金属接合方法。
【請求項8】
カルボン酸水溶液に含まれるカルボン酸が多座配位子である請求項7に記載の金属接合方法。
【請求項9】
前記多座配位子のうち、少なくとも2つの配位子が1つの銅イオンに対して配位している請求項8に記載の金属接合方法。
【請求項10】
銅を主成分とする第1の被接合部材と、
前記第1の被接合部材に金属拡散接合により接合された複数の第2の被接合部材と、
を備え、
前記第1の被接合部材との接合界面とは反対側の前記第2の被接合部材の背面が周囲に対して凹んでおり、凹部分の結晶粒が前記凹部分の周囲における結晶粒より小さいことを特徴とする金属接合構造。
【請求項11】
前記凹部分と、前記凹部分の周囲の部分との間に形成された段差が複数の前記第2の被接合部材において直線上に配置されている請求項10に記載の金属接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−111632(P2013−111632A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261672(P2011−261672)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】