説明

金属発泡体の製造方法

本発明は金属発泡体の製造方法に関し、気体(ガス)含有溶融材を作成し、この溶融材を凝固するまで放置して金属発泡体を形成するものである。本発明の目的は、複雑な装置を必要とせず、また作業員の安全面でのリスクを減じて、所望の形状を有する高品質の金属発泡体を製造することである。この目的を達成するために、使用材は、大気圧下で溶融され、気体(ガス)はこれと同時に及び/またはその後溶融金属中に導入される。溶融金属は鋳型に注ぎ込まれ、周囲の気圧が少なくとも一時的に減じられた状態で凝固するまで放置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体(ガス)含有溶融金属を作成し、該溶融金属を金属発泡体の形成下凝固させる金属発泡体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属からなる、あるいはその重量のほぼ大部分が金属である固定されたマトリックス中に、気体が充填された空孔が埋め込まれている多孔物は、金属発泡体と称せられる。この埋め込まれている空孔は、一般に球および/または楕円体の形状であり、マトリックス材の壁によって互いに隔てられている。製法によって、金属発泡体は、その外側表面域を概ね密緻に或いは無孔に設計することができる。このような場合には、金属発泡体は、多孔質な内部が、少なくとも部分的に、緻密な(dicht)外層または緻密な表皮によりとり囲まれる。
【0003】
金属発泡体は、製造技術的に高気孔率および低密度が達成可能であり、また多くの用途に有利な性質、例えば良好な吸音性、高密度のマトリックス材料と比べて比較的低い熱伝導性、あるいは衝突時の高変形能を有することから、軽量機能性構成要素として幅広い用途を有し得る。
【0004】
この潜在的な適用範囲を完全に活用するためには、経済的ならびに技術的観点から、簡単で費用効率の高い方法で製造できるだけでなく、高品質を有する金属発泡体の鋳物を製造できることが望ましい。主たる品質基準は、緻密なあるいは無孔の外層を有する金属発泡体を設計する場合における外層の表面品質だけでなく、鋳物密度や、空孔の数、形状、大きさ、および鋳物中でのこれらの分布状態である。
【0005】
金属発泡体の周知高適用潜在能の結果として、前記望まれる期待を実現する製造方法を提供するための多くの努力がすでになされている。
【0006】
技術の現状によると、現在、数種類の方法が用いられている。
第一に、例えば電気化学的プロセス手段によって物体を被覆することにより、空孔を有する多孔性金属体を製造することがすでに提案されている。さらに詳細にのべると、このような方法で、被覆基体として働く緻密な基体部分、およびこれらの基体部分から区画された多孔質金属部分からなる複合体が製造される。この方法の欠点は、被覆技術を用いたのでは、基本的にはごく薄い層厚しか得られず、それ故、この基体から区画されて設けられる多孔質金属の形成可能体積に限界があることである。また、これらの複合体の場合、区画された金属発泡体部分が、使用中に基体部分から容易に剥離するという類の接着性の問題もある。
【0007】
第二に、粉末冶金法が、例えば米国特許3,087,807またはドイツ特許4018360(DE4018360C1)において提案されている。この種の方法においては、金属粉末が発泡剤粉末と混合され、この混合された粉末材料が圧縮または変形により密にされる。その後、発泡剤から気体が分離するまでこの密にされた材料を加熱することで、あらかじめ密にされた材料中に空孔が形成される。このような粉末冶金法の助けをかりて、高品質の金属発泡体を製造することができる。しかしながら、これらの方法は、少なくとも2種の粉末成分の製造ならびに使用が必要なため、使用する物質や必要とされる装置について言えば煩雑である。個々の粉末成分も加熱前に均質に混合されなければならず、金属発泡体中で均質分布の空孔を得るためには、例えば熱等方加圧により粉末粒子が互いに融着されなければならない。
【0008】
第三に、溶融金属法が知られている。この方法においては、発泡可能な溶融金属が製造され、次いで気体(ガス)が溶融金属中に導入され、これにより流体金属泡が生成され、これは溶融表面に集まる。溶融表面に存在する金属泡は、ヨーロッパ特許第666784(EP666784B)に開示されているように、その流動性のために、慎重な鋳型への押圧により多孔質構造を維持しつつ処理される。このような溶融金属法の欠点は、溶融金属が純粋な状態では発泡できないということである。発泡性を得るという目的のためには、発泡を行う前に、溶融された材料が増粘剤、例えば不活性気体(英国特許第1,287,994)、またはセラミック粒子(ヨーロッパ特許第0666784(EP0666784B))で置き換えられなければならない。すでに述べたように、溶融表面に集められた金属泡は流動性である。これは金属泡の成型処理で有利であるが、金属壁が安定性を欠いている結果、発泡した金属泡の粒子がつぶれ、このことは製造された物の内部の緻密な領域の形成が制御不能となることにつながる。
【0009】
溶融冶金法に関しては、増粘剤を添加することなく行える方法も提案されている。すなわち、高圧、高温下での金属溶融においては、溶融物の凝固中における溶解度の大幅な変更により、水素が放出され、これにより気泡が形成されることが知られている。この気泡は溶融物の凝固中に固定され、これにより多孔質金属体が形成される。このような方法によって、緻密な金属出発物質を直ちに空孔を有する物体に変換できるが、これには非常に複雑な装置が必要とされる。特に、水素を溶融物中に導入するためには、高圧、高温に耐えうるオートクレーブが必要とされる。さらに、高圧および少なくとも数百度の高温での水素の使用は、安全面で作業員に著しい危険性をもたらす。さらに、溶融物の凝固中において、形成された気泡の一部のつぶれや、放出された気体の一部の抜けが起こることがあり、このため放出された気体は溶融物中に固定されず、その結果、この方法で製造された物体の気孔率は低い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡単な装置を用い、また安全面で作業員の危険性が軽減された、高品質の金属発泡体を製造できる一般的な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、上記のタイプの方法において、導入された材料を大気圧下で溶融させ、それによって、および/またはこの後に、気体を流体中に導入し、その後流体金属を型に入れ、少なくとも一定時間、減圧された周囲圧力で凝固させることにより達成される。
【0012】
本発明の利点は、高多孔質の金属発泡体を、簡単な装置を用いて、驚くほど簡単な方法で製造できることにある。導入物質を大気圧下、開放るつぼ中で加圧装置を用いることなく溶融させる際に、導入物質の流動相中に気体を同時および/または続けて導入することによって、低密度の金属発泡体の形成をその凝固中に行うに十分な気体が、溶融物に導入され得ることが分かっている。この効果は、流体金属をまず型に入れ、次いで少なくとも一定時間減圧された周囲圧力下で凝固させるならば、有利な方法で所望の形状の金属発泡体を形成する本発明において利用可能である。溶融物の減圧された周囲圧力での固化の結果、溶融物中にいくつかの気泡が形成されるが、これは設定しまた継続する溶融物の凝固によりその内部に固定され、結果として、本発明の金属発泡体は低密度を有する。
【0013】
さらに、本発明の方法では、本発明の方法の実行まで行われていた、高圧、高温での気体の使用を回避できるので、作業員の安全性がより高いという利点がある。
本発明の方法においては、少なくとも導入物質の一部が、導入物質の溶融インターバル(Schmelzintervall)領域および/またはこれを超えた領域において流体金属に可溶な少なくとも1種類の気体を発生させる少なくとも1種類の化合物に、溶融前に変換される場合特に有利であることが証明されている。この方法によれば、導入材料の溶融前に、空孔形成成分、すなわち気体は、気体放出化合物形態ですでに利用可能にされているので、溶融物中に気体を導入するための仲介装置の使用を完全に排除することができる。
【0014】
また、この化合物への変換は金属の融点より著しく低い温度で起こり得ることが有利である。これによれば、気体は低温で結合形態で導入でき、それ故エネルギーを実質的に節約できる。続いて気体を溶融物中に導入するには、前処理された導入物質を気体放出または気体分離化合物の分解温度まで短時間加熱すればよく、これにより炉内の滞留時間が減らされることから、物質のスループットが増大される。
【0015】
本発明の方法おいては、溶融前に、導入物質の少なくとも一部が少なくとも1種類の化合物、この化合物は、溶融インターバル領域及び/またはそれを超えた領域において流体金属に可溶な少なくとも一種のガスを放出するものであるが、に変換されること、より好ましくは、この変換がガスあるいはガス混合物との接触を通して起こることである。また、表面近傍域での導入材の転換の程度、すなわち溶融中に導入される気体の量を、供給される気体の充填手段により制御でき、また処理期間を厳密に制御できることが好ましい。
【0016】
本発明の方法においては、溶融インターバル領域及び/またはそれを超えた領域において流体金属可溶のガスを発生する少なくとも1種類の化合物への、導入材の少なくとも一部の転換は、エーロゾルとの接触で行われてもよい。これは、導入物質とその反応パートナーとしての流体との反応が膨大な熱の放出を伴って起こる場合に特に有利である。一方、エーロゾルの助けをかりる場合、キャリア気体で反応パートナーを希釈し、流体状態で供給することができ、これにより変換中に、導入物質の局部的な高加熱を回避することができる。他方、キャリア気体は処理された材料の放熱、或いは冷却効果を有する。
【0017】
本発明の方法においては、溶融インターバル領域及びまたはそれを超えた領域において流体金属に可溶のガスを発生する少なくとも1種類の化合物への溶融前の導入物質の少なくとも一部の転換に関して、該化合物が金属の融点または凝固点より最大250℃、好ましくは最大150℃高い温度で気体を放出することが予め考慮され得る。これは、前記化合物から気体を放出させる目的での金属の過熱および金属発泡体の製造方法に包含されるエネルギー消費を、できるだけ低く抑えることができるという利点を有する。
【0018】
導入材料が軽金属、特にマグネシウムまたはマグネシウム合金から形成されている場合、これらの金属が非常に良好なガス溶解特性を有することから、高品質の金属発泡体で作られた鋳物を特に簡単な方法で製造することができる。それ故、本発明の方法に軽金属を導入することで、金属発泡体の高気孔率が達成ができる。
【0019】
本発明の方法において、流体金属の凝固が0.03バールから0.2バールの範囲の周囲圧力で起こるなら、製造された金属発泡体の最大気孔率が簡単な装置で達成できる。この選択された範囲の周囲圧力は、製造技術的に簡単であり、最も簡単な装置、例えばいわゆるウォータージェットポンプを用いて精密に設定でき、また発生させることができる。
【0020】
本発明の方法のさらに有利な態様においては、流体金属を導入する前に鋳型が余熱される。この方法により、少なくとも大部分が緻密な外層を有する金属発泡体が形成されると同時に、衝撃が加わった場合に発生する、緻密な外層または表面層上または内のひび割れを最低限に抑えることができる。
【0021】
本発明の方法において、断熱された鋳型が用いられれば、製造される金属発泡体の密度を著しく低下させることができる。この理由は現在のところ明かではない。従来からの専門家の意見では、放出される溶融物の凝固熱のできる限り効果的な発散とそれに続く急速な冷却とが、溶融物の凝固の際に溶融物に導入される気体を保持する、或いは気体が出て行くのを防止するための課題とされるべきものであった。
しかしながら、この意見とは反対に、本発明の方法においては、断熱された鋳型を使用することで放熱および冷却を遅らせることができ、著しく低密度の金属発泡体が得られることが見出された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0023】
アルミニウム約9重量%、亜鉛約1重量%、残部がマグネシウムからなるマグネシウム合金 AZ91のブロック(塊)が製造された。その後、この製造された素材は数日間戸外にて保管され、これにより素材は湿った空気や雨にさらされた。
この保管後、前記ブロックを、大気圧下、1容量%のSFおよび99容量%のアルゴンからなる雰囲気で、溶融るつぼ中で溶融させた。溶融金属は685℃に加熱され、次いでこの溶融金属 約70グラムを、300℃の温度に予熱されたるつぼに入れた。続いて、この溶融金属が入れられたるつぼを減圧チャンバー中に入れ、チャンバーを密閉し、その後直ちに80ミリバールの減圧をチャンバー中に発生させた。この減圧は7分間保持され、その後、チャンバーの換気を行い、チャンバーを開いてるつぼを取り出した。
るつぼ中には、内部に空孔を有し、約0.95gm/cmの密度を有する多孔質金属発泡体が形成されていた。この発泡体の外表面は、大部分が緻密であり、またひび割れはなかった。この発泡体を切断した後断面を観察したところ、形成された空孔の直径は約1〜4mmであり、しかも空孔は断面全体にわたって均一に分布していた。緻密な外層または表皮は約1mmの厚さであった。
【実施例2】
【0024】
断熱されたるつぼを使用して、別の実験が実施例1と同様に行われた。これにより、大部分が緻密でひび割れのない表面を有する金属発泡体が得られた。空孔の構造は実施例1で説明された空孔の構造に相当するものであった。実施例1に記載の断熱されていないるつぼで製造された金属発泡体に比べ、この金属発泡体の密度は約0.75gm/cmと著しく低かった。
【実施例3】
【0025】
実施例1および2で述べた実験が、AZ91タイプの市販のマグネシウムスクラップ片を用いて繰り返された。実施例1または実施例2と類似した結果が得られた。従って、本発明の方法を用いると、簡単な方法でリサイクル材を高価値の機能的構成要素に転換することができる可能性がある。
【0026】
リサイクル材を用いたさらに別の実験においては、導入材料としてマグネシウム合金のダイカストスクラップを用い、低発泡体密度および空孔形成について特に有利な結果が得られた。すなわち、実験は実施例1および実施例2と同様の技術的工程で行われ、0.85gm/cmおよび0.65gm/cmの密度を有するマグネシウム発泡体が得られた。これは、ダイカスト工程中に気体(ガス)が鋳造金属中に導入され、それ故、ダイカスト品は常に多孔質であるという事実による。ダイカストスクラップが本発明の方法で用いられる場合、気体(ガス)はスクラップ表面に存在する化合物の分解によるだけでなく、導入材中に存在する孔または気泡を通して導入される。このように、2通りの気体導入法が得られる。このことは、金属発泡体においてより高い密度となるサンドブラストダイカストスクラップを用いての実験により裏づけられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体含有溶融金属を製造し、該溶融金属を金属発泡体形成下、凝固させる金属発泡体の製造方法において、
導入物質が大気圧下で溶融され、これによっておよび/またはその後に、気体が流体金属中に導入され、流体金属が鋳型中に入れられ、少なくともしばらくは減圧された周囲圧力下で凝固される金属発泡体の製造方法。
【請求項2】
溶融前に前記導入物質の少なくとも一部が、流体金属の溶融インターバル領域でおよび/または溶融インターバルを超えた領域で流体金属に可溶な気体を放出する少なくとも1種類の化合物に変換される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記導入物質の一部の変換が、気体または気体混合物との接触により起こる請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記導入物質の一部の変換がエーロゾルとの接触により起こる請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記化合物が、金属の融点または凝固点より最大250℃、好ましくは最大150℃高い温度で気体を放出する請求項2〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記導入物質が軽金属、特にマグネシウムまたはマグネシウム合金からなる請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記流体金属の凝固が0.03バール〜0.2バールの範囲の周囲圧力下で起こる請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
流体金属が導入される前に鋳型が予熱される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
断熱された鋳型が使用される請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法における、導入物質としてのダイカストスクラップの使用。

【公表番号】特表2006−513319(P2006−513319A)
【公表日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−565852(P2004−565852)
【出願日】平成15年12月22日(2003.12.22)
【国際出願番号】PCT/AT2003/000380
【国際公開番号】WO2004/063406
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(505261508)アルライト インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)