説明

金属硫化物およびその製造方法

【解決課題】工業的規模で、安全に、酸化物を不純物として含まず、不要な金属混入のない高純度の硫化亜鉛を製造する方法、上記の方法により製造された六方晶硫化亜鉛半導体、更に、この六方晶硫化亜鉛半導体を生成する際に同時に異種金属をドーピングして得られる六方晶硫化亜鉛蛍光体を提供する。
【解決手段】溶融硫黄中で、金属電極又は金属硫化物電極と、金属硫化物電極との間に放電を発生させることにより、無水下に六方晶金属硫化物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属硫化物及びその製造方法、特に硫化亜鉛蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化錫・硫化亜鉛・硫化銅などの金属硫化物は、顔料、固形潤滑剤などの様々な用途に使用されるものとして知られている。この金属硫化物の製造方法としては、乾式法や湿式法が知られている。
【0003】
乾式法は、金属と硫化水素や単体硫黄とを常圧や加圧下で高温反応させる方法や金属化合物とチオアミドなどの硫化物を気化させて反応させる方法である。その具体例としては、例えば、反応性の良い粉末金属を単体硫黄と反応させる方法(特許文献1参照)や、またその改良として、塊状金属と硫黄とを、塊状金属を解砕しながら反応させる方法(特許文献2参照)が知られている。さらに、金属塩化物とチオアセトアミドなどを気化させて反応させる方法も知られている(特許文献3参照)。
【0004】
乾式法において、金属原料として粉末金属を用いる場合には、インゴット等からの加工が必要である。また、硫黄源として固体硫黄を用いる場合には、粉末状のものを必要とする。一般的に顔料、固形潤滑剤用の金属硫化物は粉末状で使用されるが、乾式製造工程において加熱合成された金属硫化物のほとんどは焼結しているため、粉砕工程を経て、製品化される。
【0005】
一方、湿式法は、金属化合物の水溶液と硫化水素や水硫化ソーダ(硫化水素ナトリウム)等とを反応させる方法であり、例えば、金属アルコキシドと硫化水素を反応させる方法(特許文献4参照)、金属塩と硫化ナトリウムを水中下反応させる方法(特許文献5参照)、金属塩とチオアセトアミドなどのチオアミドを反応させる方法(特許文献6)が知られている。
【0006】
また、パルスプラズマを硫黄中で発生させて金属を硫化させる方法も知られている(特許文献7、特許文献8、特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−511517号公報
【特許文献2】特開2007−284309号公報
【特許文献3】特開2004−091233号公報
【特許文献4】特開平6−293503号公報
【特許文献5】WO2003/020848号公報
【特許文献6】特表2004−520260号公報
【特許文献7】USSR No.860428
【特許文献8】特開昭61−199096号公報
【特許文献9】国際公開第2009/099250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
乾式法に関する特許文献1、及び特許文献2に記載の方法は、硫黄のような爆発性のある物質を高温で金属と接触させる必要があり、安全性を確保することが難しい。また、特許文献3の方法では、気化させるなど特殊な設備を要するため、工業的な規模で実施することは難しい。
【0009】
一方、湿式法に関する特許文献4のような金属アルコキシドを用いる方法では、原料が加水分解されやすく、酸化物を不純物として含有する場合、酸化物は、硫化物中に不純物として取り込まれる可能性が高い。したがって、高純度のものを得るには、厳しい管理が必要であるうえに、反応中にも加水分解物が生成するため、実質上、高純度の硫化物を得ることが難しい。特許文献5、及び特許文献6に記載の方法に関しても同様であり、反応中の原料および生成物の加水分解は避けがたく、高純度の硫化物を得ることは難しい。
【0010】
さらに、乾式法、湿式法ともに熱的に安定な立方晶構造の金属硫化物しか得ることができず、六方晶構造の金属硫化物を得ることは極めて難しい。
また、特許文献7、及び特許文献8には、パルスプラズマを用いた製法の記載はあるものの、パルスプラズマ法を用いて生成する硫化物に異種金属をドープする方法については記載されていない。
【0011】
さらに、特許文献9には、パルスプラズマ法を用いて生成する硫化物に異種金属をドープする方法が記載されているが、特許文献7、特許文献8、及び特許文献9のいずれの文献も、両方の電極に一般的な金属電極を使用しており、金属電極から生成する硫化物への不要な金属混入を抑制することが出来ない。
【0012】
本発明の目的は、工業的規模で、安全に、酸化物を不純物として含まず、不要な金属混入のない高純度の硫化亜鉛を製造する方法を提供することにあり、加えて、上記の方法により製造された六方晶硫化亜鉛半導体を提供すること、更には、この六方晶硫化亜鉛半導体を生成する際に同時に異種金属をドーピングして得られる六方晶硫化亜鉛蛍光体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、溶融した硫黄中で、少なくとも一方に金属硫化物電極を用い、電極間に放電を発生することにより、無水下に金属硫化物を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0014】
本発明によれば、溶融硫黄中で、金属電極又は金属硫化物電極と、金属硫化物電極との間の放電により、金属硫化物を製造する方法が提供される。
本発明により製造される金属硫化物の構造としては、特に限定されるものではなく、アモルファス、立方晶、六方晶など、硫化される金属や当該硫化物の用途に応じて様々な構造を取ることが可能であるが、有用な構造としては六方晶金属硫化物が挙げられ、蛍光体としての用途を考慮に入れると、特に六方晶硫化亜鉛が好ましい。
【0015】
本発明では、溶融硫黄は金属の硫化剤として作用する。硫黄は、通常130〜150℃に加熱することで流動し、150℃を超えると液体になる。本発明で用いる溶融硫黄は、硫黄粉末、ゴム状硫黄などの硫黄原料を130〜150℃に加熱して得られる溶融状態の硫黄である。溶融硫黄は、少なくとも一部の硫黄が溶融状態であれば使用することができるが、プラズマ放電の効率を考慮して実質的にすべての硫黄が溶融状態であることが好ましい。
【0016】
金属電極は、2族金属の電極、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛、カドミウムなど周期表の12族に属する金属を用いることができる。これらの金属は、単独で用いても、いくつかの金属を組み合わせて合金として用いてもよい。
【0017】
金属硫化物電極は、硫化銅、硫化マンガン、硫化鉄、硫化亜鉛などの金属硫化物を単独又は均一になるように事前に混合した電極であることが好ましい。
金属硫化物電極に使用する金属硫化物は、電気伝導性を有することが必要である。また、金属硫化物電極は、例えば加熱・加圧成型、加熱成型などの方法を用いて、粉末原料を成型して作成することができる。
【0018】
金属硫化物電極を成型する方法としては、例えば、硫化銅を200〜2000Kg/cm程度の圧力を加えて、加圧成型し、600〜800℃程度で焼成して成型物を得る方法、あるいは200〜2000kg/cm程度の圧力を加えながら、400〜800℃程度の熱を加え、加圧成型する方法などを用いることができる。
【0019】
金属電極及び金属硫化物電極の形態としては、棒状、針金状、板状などいずれの形態であってもかまわない。両極の大きさは同一でも異なっていてもよい。
本発明の方法では、溶融硫黄中で電極間に放電、好ましくは直流連続放電又はパルス放電をすることによりプラズマを生じさせる。
【0020】
プラズマを発生させる電圧としては、特に制限されるものではなく、50〜500Vの範囲、安全性、特殊な装置の必要性を考慮して、60〜400Vの範囲が好ましく、80〜300Vの範囲がより好ましい。
【0021】
プラズマを発生させる電流としては、特に制限されるものではなく、0.1〜20Aの範囲、エネルギー効率を考慮して、0.2〜10Aの範囲で実施することが好ましい。
パルスプラズマを与える間隔に関しては、特に制限されるものではないが、5〜100ミリ秒が好ましく、6〜50ミリ秒のサイクルがより好ましい。
【0022】
パルスプラズマ1回あたりの持続時間もまた、与える電圧および電流によって異なることはいうまでも無いが、通常1〜50マイクロ秒、放電の効率を考慮して、好ましくは2〜30マイクロ秒の範囲で実施される。
【0023】
パルスプラズマ放電を行う際の溶融硫黄の温度としては、特に制限されるものではなく、室温〜300℃の範囲で実施されることが好ましい。高すぎる温度では、硫黄の蒸気圧が上がり、特殊な反応容器が必要になるため好ましくなく、低すぎる温度では、プラズマ発生時の硫化物の生成効率が低下するため好ましくない。60℃以上200℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。
【0024】
本発明を実施する雰囲気としては特に限定するものではなく、減圧下、加圧下、常圧下いずれの状態でも実施することができるが、通常、安全、操作性を考慮して、窒素、アルゴンなどの不活性ガス下で実施することができる。
【0025】
本発明では、電極に振動を与えることも可能である。振動を与えることで、電極間に析出する金属硫化物の滞留もなく、放電が効率的に行われるため好ましい。振動を与える方法としては、特に限定されるものではなく、定期的に振動を与えても、間欠的に振動を与える方法でもよい。
【0026】
本発明により製造される金属硫化物は、異種金属のドープに適している。よって、本発明の別の側面では、銅、銀、金、マンガンおよび希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素をドープした金属硫化物を製造することもできる。
【0027】
銅、銀、金、マンガンおよび希土類元素から選ばれる少なくとも一種の元素をドープする方法としては、特に限定されるものではなく、反応させる硫黄または有機硫黄化合物と共存させておいても良いが、使用する電極に合金化しておくことが望ましい。
【0028】
ドープする元素を電極に予め合金化しておく場合の組成量としては、ドープする元素によって差があることは言うまでも無いが、通常、元素量として、1ppmw(1×10−4重量%)〜50重量%の範囲で存在させることが望ましい。銅のように、生成後化学的処理により、適正な濃度を調整できる場合には、100ppmw(0.01重量%)〜50重量%の範囲で添加して合金化することができる。化学的な処理による調整が困難な元素をドープする場合には、1〜1000ppmw(1×10−4〜1×10−1重量%)の範囲で添加して合金化することが好ましい。
【0029】
ドープする元素を溶融硫黄中に共存させて電極間に放電することによっても、金属硫化物に元素をドープすることができる。ドープする元素を溶融硫黄中に共存させる態様としては特に限定されるものではないが、硫化銅、硫化銀、硫化金、硫化マンガンまたは希土類硫化物などの硫化物や、相当する硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、蟻酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、およびアセチルアセトネートなどの有機錯体を硫黄と一緒に溶融させることが好ましい。元素をドープして得られる蛍光体の純度、操作性の面からは、硫化物の添加が好ましい。
【0030】
本発明では、更に、必要に応じて、塩素、臭素などのハロゲン、アルミニウム、ガリウム、インジウム、イリジウムなどの元素を金属硫化物にドープしてもよい。これらの元素の導入方法としても特に限定されるものではないが、溶融硫黄に、ハロゲン化物、硫化アルミニウム、硫化ガリウム、硫化インジウム、硫化イリジウムなどの硫化物、相当する硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、蟻酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、およびアセチルアセトネートなどの有機錯体を添加して、一緒に溶融させることが好ましい。元素をドープして得られる蛍光体の純度、操作性の面からは、ハロゲン化物、硫化物の添加が好ましい。
【0031】
ドープする元素の硫黄への添加量は、溶融硫黄の重量を基準として、硫化物0.1〜5000ppmw(1×10−5〜5×10−1重量%)の範囲が好ましく、1〜3000ppmw(1×10−4〜3×10−1重量%)の範囲がより好ましい。
【0032】
本方法により生成する金属硫化物は溶融硫黄中に堆積するので、金属硫化物を含む溶融硫黄を一般的な方法によって回収した後、硫黄を除去することによって金属硫化物を得ることができる。例えば、二硫化炭素のような良溶媒に硫黄を溶解させ、残渣である金属硫化物を回収することができる。また、真空下、200℃に加熱して硫黄を昇華除去して金属硫化物を得ることもできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の製造方法により、加水分解を起こさずに高い生産性で高純度の六方晶金属硫化物を製造することができる。さらに、電極に用いられる不要な金属の混入が抑制された金属硫化物を得ることができる。本発明は、内部に銅などの異種金属が高度な分散性でドープされた複合硫化物の製造方法も提供する。特に、本発明の方法により製造された六方晶硫化亜鉛、及びこれに銅が高度な分散性でドープされたものは、蛍光体として非常に有用である。
【0034】
上記の本発明の効果である高い生産性、不要な金属混入の抑制、ドープ金属の高度な分散性は、いずれも、主に電極の少なくとも一方に金属硫化物電極を使用することによってもたらされる。金属硫化物電極を用いた場合には、金属電極のみを用いた場合に比べて、金属アニオン種が生成し易いため、両電極間の金属活性種の生成バランスが平滑化し、反応が平易に起こるため、金属硫化物の生成量を増加させることができる。
【0035】
更に、少なくとも一方に金属硫化物電極を用いることにより、両極を金属電極とする場合より、金属アニオン種が生成し易いため、金属溶融飛沫の発生や金属ラジカルのカップリングによる金属種の生成が抑制され、結果として電極からの0価金属の混入を抑制できるという利点がある。
【0036】
更には、この金属硫化物電極に用いられる金属とは異種の金属がドープされた金属硫化物を製造する場合でも、電極材料中にドープされる金属が均一に分散しており、反応場に常にドープされる金属が存在するため、ドープした金属が生成した金属硫化物中で高い分散性を保つことが出来るという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、本発明の製造方法で得られる金属硫化物の一例のXRDスペクトルである。
【図2】図2は、本発明の製造方法で得られる金属硫化物の一例のTEM写真である。
【図3】図3は、本発明の製造方法で得られる金属硫化物の一例のTEM−EDX分析による銅のマッピング分析結果を示す写真である。
【図4】図4は、本発明の別の製造方法で得られる金属硫化物の一例のXRDスペクトルである。
【図5】図5は、本発明と比較するための、金属電極のみを用いた製造方法で得られる金属硫化物の一例のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の金属硫化物の製造方法は、溶融した硫黄中で、少なくとも一方の電極材料として金属硫化物を用いた二つの金属電極間に放電させることを特徴とするものである。
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の測定は下記条件で実施した。
【0039】
[TEM観察]
JEOL JEM−3000F(分解能0.17nm)を使用し、加速電圧300kV、倍率5万倍で観察を実施した。EDXの検出器にはNORAN社製、System SIXを使用した。
【0040】
銅の分散性は、倍率50万倍における観察時、視野中の粒子存在箇所のうち、任意の2nm四方10点における銅濃度をEDX分析により算出し、10点の銅濃度測定値の平均値からの乖離により評価した。
【0041】
[XRD測定]
株式会社リガク社製MiniFlexIIを使用し、電圧30kV、電流15mA、発散スリット1.25°、散乱スリット1.25°、受光スリット0.3mmにて測定を行った。
【0042】
[ICPによる発光中心定量]
ジャーレルアッシュ社IRIS APを使用し、測定を行った。尚、KHSO融解法で前処理を行った。
【0043】
[蛍光スペクトル測定]
日本分光株式会社製、分光蛍光光度計 FP−6500を使用して、1mmスリット装着、励起波長320nm、励起バンド幅3nm、蛍光バンド幅3nmの条件で行った。
[製造例1]
<硫化銅焼結体の作製>
硫化銅(I)粉末を直径15mmのステンレス容器に入れ、400kg/cmの圧力を加えて、加圧成型し、坩堝に入れた。焼成炉に坩堝を入れ、アルゴン置換後、焼成炉を炉内温度800℃まで、毎分10℃で昇温し、設定温度到達後、焼成炉内温度を設定温度に3時間保持した後、室温まで冷却した。得られた硫化銅焼結体の嵩(かさ)密度は3.55g/cmであった。
【0044】
ここで、嵩密度は、成形物の体積、質量を測定し、質量を体積で割った値として定義される。
[製造例2]
<硫化亜鉛/硫化銅複合硫化物電極の作製>
酢酸亜鉛2水和物65.9g、硝酸銅7.5g(銅105000ppm(10.2重量%)相当)、チオアセトアミド45.0g、酢酸5gをイオン交換水500gに溶解した。2L三つ口フラスコに、ジーンスターク、還流管、温度計、攪拌器を装着し、o―キシレン800mlを注入した後、系内を窒素置換した。オイル浴の内温を150℃に調整し、フラスコ内のo−キシレンを130℃まで昇温し、酢酸亜鉛を含有する溶液を毎時100mlで加えながら、流出する水をジーンスタークで除去しながら反応を進めた。約6時間で全ての酢酸亜鉛を含有する溶液を供給し、更に30分間でフラスコ内に残っている水分を除去した。室温に冷却後、析出した硫化物を沈殿させ、有機溶剤を除去して、目的物を回収し、真空乾燥機内にて100℃で12時間乾燥した。硫化物の回収量は、31.6gであり、ICP発光分析により測定した銅の含有量は、103000ppm(10.3重量%)であった。本反応を4回繰り返し、硫化物の粉末126gを得た。直径3インチ(7.6cm)のモールドに、得られた硫化物の粉末112gを入れ、プラズマ焼結機に充填した。モールド内を130Paまで減圧し、10分間保持した後、アルゴンを注入して常圧に解放した。この操作を3回実施し、硫化物複合体内の酸素及び水分を除去した。その後、モールド内を140Paまで減圧し、123kg/cmの圧力を加え、700℃まで50℃/minで昇温し、モールド温度が700℃に到達した後、モールド内部にアルゴンを導入して減圧を開放した。その後、アルゴン雰囲気下で15℃/minで850℃まで昇温し、10分間保持した後、圧力を開放し、室温まで冷却した。モールドから成型体をはずし、直径3インチ(7.6cm)の成型体の厚さを測定したところ、6.31mmであった。得られた成型体の嵩密度は3.89g/cmであり、相対密度(実測密度と理論密度との比)は0.970であった。
【実施例1】
【0045】
100mlビーカーに粉末硫黄100gを加え、140℃で融解させた。次に、直径5mm、長さ100mmの円柱状の亜鉛電極(純度99%以上)と製造例1で作製した硫化銅焼結体電極を溶融硫黄中に挿入し、電極間の距離を1mmに固定した。電極表面に反応生成物が堆積することを防止して反応効率を高めるために振動を与えた。各電極を交流電源に接続し、200V、60A、パルス間隔20ミリ秒、パルス放電1回あたりの持続時間100マイクロ秒のパルスを印加して、パルスプラズマを発生させた。30分間反応を継続した結果、亜鉛電極の質量減少は257mg、硫化銅焼結体電極の質量減少は44mgであった。硫黄を減圧溜去した後に得られた固体粉末の質量は448mgであった。孤立したCuS粒子を除去するため、この粉末を5%NaCN水溶液50gを用いて25℃で60分撹拌洗浄し、イオン交換水で5回洗浄し、濾過した後に、真空下で加熱乾燥した。得られた粉末の質量は214mgであった。XRD測定からは、六方晶硫化亜鉛由来のピークのみが検出され、硫化銅のピークは検出されなかった。これは、硫化亜鉛中に硫化銅が非常に小さな分散物として分散し、その量が微量であることを意味する。また、六方晶硫化亜鉛及び硫化銅の標準的な試料の回折ピークとこの粉末のピークを比較すると、六方晶硫化亜鉛(Wurtzite−2H−ZnS)由来の回折ピーク(26.8°、28.4°、30.4°、39.5°、47.4°、51.6°、56.2°)は検出されたが、硫化銅(Covellite−CuS)由来のピーク(31.5°、32.7°、52.4°)は検出されなかった。結果を図1に示す。得られた粉末に含まれる銅含量はICP分析から9130ppmと見積もられた。
【0046】
得られた粉末のTEM写真(倍率:5万倍)を図2に示す。TEM観察の結果、生成物は5〜50nm程度の結晶性の粒状物として得られることが分かった。
図3に示すように、TEM−EDX分析による銅のマッピング分析を行い、結果を表1に示す。全粒子から銅が検出され、局所的に偏在が無く、高度に分散していることがわかる。
【0047】
【表1】

【実施例2】
【0048】
100mlビーカーに粉末硫黄100gを加え、140℃で融解させた。次に、直径5mm、長さ100mmの円柱状の亜鉛電極(純度99%以上)と製造例1で作製した硫化銅焼結体電極を溶融硫黄中に挿入し、電極間の距離を1mmに固定した。電極表面に反応生成物が堆積することを防止して反応効率を高めるために振動を与えた。各電極を交流電源に接続し、200V、60A、パルス間隔20ミリ秒、パルス放電1回あたりの持続時間20マイクロ秒のパルスを印加して、パルスプラズマを発生させた。30分間反応を継続した結果、亜鉛電極の質量減少は245mg、硫化銅焼結体電極の質量減少は41mgであった。硫黄を減圧溜去した後に得られた固体粉末の質量は437mgであった。孤立したCuS粒子を除去するため、この粉末を5%NaCN水溶液50gを用いて25℃で60分撹拌洗浄し、イオン交換水で5回洗浄し、濾過した後に、真空下で加熱乾燥した。得られた粉末の質量は217mgであった。XRD測定からは六方晶硫化亜鉛由来のピークのみが検出され、硫化銅のピークは検出されなかった。これは、硫化亜鉛中に硫化銅が非常に小さな分散物として分散し、その量が微量であることを意味する。また、六方晶硫化亜鉛及び硫化銅の標準的な試料の回折ピークとこの粉末のピークを比較すると、六方晶硫化亜鉛(Wurtzite−2H−ZnS)由来の回折ピーク(26.8°、28.4°、30.4°、39.5°、47.4°、51.6°、56.2°)は検出されたが、硫化銅(Covellite−CuS)由来の回折ピーク(31.5°、32.7°、52.4°)は検出されなかった。結果を図4に示す。得られた粉末に含まれる銅含量はICP分析から7040ppmと見積もられた。
【実施例3】
【0049】
100mlビーカーに粉末硫黄100gを加え、140℃で融解させた。次に、直径5mm、長さ100mmの円柱状の亜鉛電極(純度99%以上)と製造例2で作製した硫化亜鉛/硫化銅複合硫化物焼結体電極を溶融硫黄中に挿入し、電極間の距離を1mmに固定した。電極表面に反応生成物が堆積することを防止して反応効率を高めるために振動を与えた。各電極を交流電源に接続し、200V、60A、パルス間隔20ミリ秒、パルス放電1回あたりの持続時間100マイクロ秒のパルスを印加して、パルスプラズマを発生させた。30分間反応を継続した結果、亜鉛電極の質量減少は、193mg、硫化亜鉛/硫化銅複合硫化物焼結体電極の質量減少は29mgであった。硫黄を減圧溜去した後に得られた固体粉末の質量は228mgであった。孤立したCuS粒子を除去するため、この粉末を5%NaCN水溶液50gを用いて25℃で60分撹拌洗浄し、イオン交換水で5回洗浄し、濾過した後に、真空下で加熱乾燥した。得られた粉末の質量は199mgであった。XRD測定からは六方晶硫化亜鉛由来のピークのみが検出され、硫化銅のピークは検出されなかった。これは、硫化亜鉛中に硫化銅が非常に小さな分散物として分散し、その量が微量であることを意味する。また、六方晶硫化亜鉛及び硫化銅の標準的な試料の回折ピークとこの粉末のピークを比較すると、六方晶硫化亜鉛(Wurtzite−2H−ZnS)由来の回折ピーク(26.8°、28.4°、30.4°、39.5°、47.4°、51.6°、56.2°)は検出されたが、硫化銅(Covellite−CuS)由来の回折ピーク(31.5°、32.7°、52.4°)は検出されなかった。結果を図4に示す。得られた粉末に含まれる銅含量はICP分析から1080ppmと見積もられた。
【0050】
<比較例1>
実施例1において、両極亜鉛電極を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られた硫化亜鉛のXRD測定結果を図5に示す。硫化亜鉛中に硫化銅は分散し、分散物は非常に小さく、微量であるために検出されなかった。得られた硫化亜鉛には、六方晶硫化亜鉛(Wurtzite−2H−ZnS)由来の回折ピーク(26.8°、28.4°、30.4°、39.5°、47.4°、51.6°、56.2°)が検出されたが、一方で、金属亜鉛(Zinc−Zn)に由来する43.2°の強い回折ピークも観測された。実施例1では、六方晶硫化亜鉛に由来する47.6°のピーク強度に対しする金属亜鉛に由来する43.2°のピーク強度の相対比率が9.7%であり、実施例2および3では、金属亜鉛に由来のピークが検出されていない。これに対して、比較例1ではこの相対比率が30.9%であり、多量の金属亜鉛が含まれていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融硫黄中で、金属電極と、金属硫化物電極との間の放電により、金属硫化物を製造する方法。
【請求項2】
金属硫化物電極は、硫化銅を含む金属硫化物電極である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
金属硫化物電極は、硫化銅と硫化亜鉛とを含む金属硫化物複合体電極である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
金属硫化物電極は、銅、銀、金、マンガン及び希土類元素から選択される少なくとも1種の金属元素が合金化された金属硫化物電極である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
放電は、直流連続放電又はパルス放電である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
溶融硫黄は、銅、銀、金、マンガン及び希土類元素から選択される少なくとも1種の金属元素を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
金属電極は、亜鉛、カドミウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムから選択される金属電極である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
溶融硫黄中で、亜鉛電極と、硫化銅を含む金属硫化物電極との間でパルス放電することにより、硫化亜鉛を製造する方法。
【請求項9】
溶融硫黄中で、亜鉛電極と、銅、銀、金、マンガン及び希土類元素から選択される少なくとも1種の金属元素が合金化された金属硫化物電極との間でパルス放電することにより、当該少なくとも1種の金属元素がドープされた硫化亜鉛を製造する方法。
【請求項10】
銅、銀、金、マンガン及び希土類元素から選択される少なくとも1種の金属元素を含む溶融硫黄中で、亜鉛電極と、金属硫化物電極との間でパルス放電することにより、当該少なくとも1種の金属元素がドープされた硫化亜鉛を製造する方法。
【請求項11】
銅含有量が1000ppm以上であって、銅濃度の分散性が±5%以内である、請求項3又は8に記載の方法で製造される六方晶硫化亜鉛−銅蛍光体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−157228(P2011−157228A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19890(P2010−19890)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)