説明

金属部材及びその製造方法

【課題】金属基材上に被覆層を有する金属部材において、視覚や触覚的質感が部分的に異なる表面領域を備える金属部材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】金属基材10と、この金属基材10の表面に形成された被覆層20とを備える金属部材1において、被覆層20は、絶縁性を有する材料からなる絶縁層21を有する領域と、絶縁層21とは異なる質感を有し、電着塗装又は電解めっきによって形成された電着層22を有する領域とを備える。この金属部材1は、金属基材10の被覆層20を設ける領域の全表面に絶縁性を有する材料からなる絶縁層21を形成する絶縁層形成工程と、絶縁層21の一部分を除去することで金属基材10が表面に露出された露出部30を形成する除去工程と、露出部30に絶縁層21とは異なる質感を有する塗料を電着塗装又は電解めっきによって塗装することで電着層22を形成する電着層形成工程とを施すことで容易に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面に被覆層を備える金属部材及びその製造方法に関する。特に、表面上で異なる質感の領域を備える金属部材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材の表面に、微細な凹凸加工を施すことで金属質感を高め、携帯電気機器類等の筐体に利用される金属部材が知られている。
【0003】
金属基材が軽合金からなる場合は活性度が高いため、金属基材面をむき出しにしていると錆びる虞があるので、その表面上に耐食性を有する被覆層を形成することが必要となる。例えば、特許文献1では、マグネシウム合金からなる基材の表面に、ダイヤカット加工やヘアライン加工を施し、その上に、透明な樹脂からなる被覆層を形成した金属部材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009‐120877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、上記筐体といった金属部材に対して、金属質感を高めて高級感等を増すことが要求されている。特許文献1では、透明な被覆層を介して、ヘアライン加工等の凹凸加工を施した金属基材の表面を可視化することで、視覚的に金属質感を高めている。しかし、上記金属基材の表面に形成される被覆層の表面は平滑であるため、金属基材における凹凸加工の触覚的な質感を得ることは難しい。つまり、視覚的に凹凸の質感を得たとしても、視覚的かつ触覚的に凹凸の質感を得ることができない。
【0006】
被覆層の表面の触覚的質感は、金属基材の表面質感に関わらずほぼ共通であり、部分的に異なる質感の被覆層を形成することについて検討されていない。また、視覚的質感についても、被覆層を部分的に異なる質感とすることについて検討されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、金属基材上に被覆層を有する金属部材において、視覚や触覚的質感が部分的に異なる表面領域を備える金属部材を提供することにある。
【0008】
また、本発明の別の目的は、上記金属部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、被覆層の形成方法に工夫を施すことで、金属基材の表面の所望領域に選択的に塗装を行うことを可能とし、上記目的を達成する。
【0010】
被覆層の形成方法として、例えば、マスキングを用いて行う方法が考えられる。まず、金属基材の表面の一部(所望領域)にマスキングを施して塗装を行い、部分的に被覆層を形成する。次に、上記マスキングを撤去し、部分的に形成した被覆層にマスキングを施して、先に行った塗装の際に用いた塗料とは視覚的・触覚的に異なる塗料で、金属基材の表面の残部に塗装を行う。上記方法により、金属基材の表面において、視覚的・触覚的に異なる質感を有する被覆層を形成することができる。しかし、マスキング領域が細部であると作業が行い難く、マスキングを用いた被覆層の形成は非常に手間が掛かる。
【0011】
本発明者らは鋭意研究した結果、金属基材の全表面に絶縁性を有する層を形成した後に、この層の所望領域を除去して金属基材の表面を露出させ、露出させた上記表面に電着塗装又は電解めっきによって層を形成することで、マスキングを用いることなく容易に視覚的・触覚的に異なる質感の表面領域を備える被覆層を形成できることを見出した。本発明は以上の知見に基づいてなされたものである。
【0012】
本発明の金属部材は、金属基材と、この金属基材の表面に形成された被覆層とを備える。この金属部材において、上記被覆層は、絶縁性を有する材料からなる絶縁層を有する領域と、上記絶縁層とは異なる質感を有し、電着塗装又は電解めっきによって形成された電着層を有する領域とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記質感は、触覚的質感や視覚的質感を含む。触覚的質感及び視覚的質感の一方だけ異なる表面領域を備える金属部材としてもよいし、双方を異なる形態としてもよい。
【0014】
上記構成によれば、絶縁層と電着層とが異なる質感を有する材料で形成されているので、金属部材の表面上で異なる質感の領域を備えることができる。
【0015】
上記質感のうち触覚的質感を絶縁層と電着層とで異ならせることにより、触覚による質感を部分的に変えることができる。例えば、被覆層が凹凸形状を有する表面領域と凹凸形状の無い平滑な表面領域とを備えることで、この凹凸の有無による金属光沢を、該凹凸の触覚的質感で得ることができる。上記質感のうち視覚的質感を絶縁層と電着層とで異ならせることにより、視覚による質感を部分的に変えることができる。例えば、被覆層が、その一部につや消しされた領域を備え、他部に透明な領域を備えることで、つや消しされた領域で落ち着いた印象の視覚的質感を出すと共に、透明な領域を介して金属基材の表面を可視化することができ、該金属基材の高級感のある金属質感を顕著に視覚的質感で得ることができる。また、被覆層が全表面に亘ってつや消しの金属質感を有する場合、このつや消しの度合いを絶縁層と電着層とで部分的に異ならせることで、色調の濃淡が部分的に変わり、つや消し度合いの相違を視覚的質感として得ることができる。
【0016】
本発明では、上記質感のうち触覚的かつ視覚的に質感を絶縁層と電着層とで異ならせることにより、触覚と視覚とが適合した質感を部分的に変えることができる。例えば、被覆層が、その一部につや消しの金属質感を有しかつ凹凸形状を有する領域を備える場合、当該領域では、該凹凸の視覚的質感を得ると共に、該凹凸の視覚的質感に適合した触覚的質感も同時に得ることができる。また、被覆層が、その他の部分に、鏡面加工が施された金属基材上に形成された透明で平滑な領域を備える場合、鏡面加工された光沢感のある金属基材の視覚的な金属質感と、その鏡面加工面に適合した平滑な被覆層の触覚的質感とを、被覆層を介しながらも同時に得ることができる。つまり、被覆層を備える金属部材において、視覚的質感と触覚的質感とを合致させることができる。よって、被覆層が全表面に亘って平滑であった従来技術のように、凹凸の質感を視覚的に得たとしても、触覚的に得ることができないという課題を解決することができる。
【0017】
また、上記構成によれば、絶縁層と電着層とを異色材料で形成した場合、視覚的質感を異ならせることにより、金属部材表面に模様や文字等の加飾を施すことができる。本発明の被覆層は、絶縁層と電着層とが独立して形成されるので、両層を独立した色彩で形成できるため、色むらの発生を防止できる。
【0018】
絶縁層は絶縁性を有する材料から構成されており、電着層が電着塗装又は電解めっきによって形成されていることで、後述する本発明の金属部材の製造方法において、金属基材の一部に選択的に電着層を形成することができ、マスキングを用いることなく容易に被覆層を形成することができる。
【0019】
本発明の金属部材の一形態として、上記絶縁層及び上記電着塗装からなる電着層の少なくとも一方は、添加剤を含有する樹脂からなることが挙げられる。
【0020】
絶縁層と電着層との質感を異ならせる方法として、層の構成材料に添加剤を含有する樹脂を用いると、容易に触覚的・視覚的質感を部分的に変えることができる。特に、添加剤による凹凸形状を有する表面領域において、光沢感を有する金属質感を視覚的に高めるためには、添加剤として金属材質を用いるとよく、Al等が挙げられる。金属材質以外に、雲母を用いることでも金属質感を高めることができる。この添加剤の形状は、繊維状や扁平状、粒子状のものが挙げられる。また、つや消しの金属質感を視覚的に高めるためには、添加剤として、SiO2やポリマー粒子等を用いることができ、特に、触覚的質感をより高めたい場合、透明なものを用いるとよい。光沢感を有する金属質感とつや消しの金属質感を併せ持った質感を触覚的・視覚的に高めるためには、上記Al等の金属添加剤とSiO2等の添加剤を混練するとよい。他に、金属添加剤を含有する樹脂層の上に、SiO2等の添加剤を含有する透明な樹脂層を積層してもよい。この添加剤の大きさや添加量を調整することによって、上記触覚的質感や視覚的質感の度合いを変えることができる。
【0021】
本発明の金属部材の一形態として、上記金属基材は、その表面の一部分に鏡面加工が施された表面加工部を備え、上記絶縁層及び上記電着塗装からなる電着層の一方は、この表面加工部上に形成された透明な樹脂からなり、上記絶縁層及び上記電着塗装からなる電着層の他方は、添加剤を含有する樹脂からなることが挙げられる。
【0022】
金属部材の触覚的質感は、金属基材の表面質感に関わらず、被覆層の表面性状に依存する。一方、金属部材の視覚的質感は、被覆層の表面の視覚的質感に依存する場合もあれば、金属基材の表面の視覚的質感に依存する場合もある。金属基材の表面の一部分に鏡面加工が施された表面加工部を形成することで、金属基材の光沢感と平滑性に富む金属質感を高めることができる。そして、絶縁層及び電着層の一方が、この表面加工部上に形成された透明な樹脂からなると、この透明な層を介して表面加工部の上記金属質感を可視化することができる。この透明な層は、有色透明でもよいが、無色透明であると、金属基材の地金自体の色合いを感じ易いと考えられる。なお、透明とは、金属基材が目視にて確認できる程度の透過率を被覆層が備えることを言い、半透明も含む。この透明な層の表面は、通常、平滑であるため、金属部材の表面からこの領域を見ると、視覚的に平滑な質感を得ると共に、触覚的に平滑な質感も同時に得ることができる。一方、絶縁層及び電着層の他方が、添加剤を含有する樹脂からなると、この添加剤による凹凸を触覚的かつ視覚的につや消しの金属質感として得ることができる。この構成によれば、絶縁層と電着層は異なる質感を有し、かつ各々の層には触覚と視覚とが適合した金属質感を与えることができる。
【0023】
本発明の金属部材の一形態として、上記絶縁層と上記電着塗装からなる電着層とは、色が異なることが挙げられる。
【0024】
絶縁層と電着層とを異色材料で形成した場合、両層の該色が異なることにより、金属部材表面に模様や文字等の加飾を施すことができる。ここで言う「色が異なる」とは、有色の場合はもちろん、無色の場合も含む。無色の場合、透明と不透明、透明と半透明等が挙げられる。
【0025】
本発明の金属部材の一形態として、上記金属基材は、マグネシウム合金からなることが挙げられる。
【0026】
マグネシウム合金は、軽量で比強度が高いため、携帯電気機器類等の筐体に好適に利用できる。特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる。特に、Alを2.5〜9.5質量%含有することが好ましい。上記含有量のMg-Al系合金の代表的な組成として、ASTM規格のAZ31,AZ61,AM60,AZ91合金が挙げられる。
【0027】
上述した本発明の金属部材は、以下の製造方法によって容易に製造することができる。本発明の金属部材の製造方法は、次の工程を備えることを特徴とする。
絶縁層形成工程:金属基材の被覆層を設ける領域の全表面に、絶縁性を有する材料からなる絶縁層を形成する。
除去工程:上記絶縁層の一部分を除去することで、金属基材が表面に露出された露出部を形成する。
電着層形成工程:上記露出部に、上記絶縁層とは異なる質感を有する塗料を電着塗装又は電解めっきによって塗装することで、電着層を形成する。
【0028】
上記工程を行うことで、金属基材の表面に、上記絶縁層と上記電着層とを備えた被覆層が形成される。上記構成によれば、電着層形成工程において用いる形成方法として、電着塗装と電解めっきは、金属基材の一部に形成された露出部にのみ選択的に電着層を形成することができるため、マスキングを用いることなく容易に視覚的・触覚的に異なる質感の表面領域を備える被覆層を形成できる。
【0029】
本発明の金属部材の製造方法の一形態として、上記除去工程は、レーザを絶縁層に照射して行うことが挙げられる。
【0030】
絶縁層の一部分を除去する方法として、レーザ照射を用いることで、絶縁層の除去領域が細部であったり、角部であっても、その所望の除去領域をきれいに除去することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の金属部材は、絶縁層と電着層とが異なる質感を有する材料で形成されているので、金属部材の表面上で異なる質感の領域を備えることができる。特に、この質感のうち触覚的かつ視覚的に質感を異ならせ、かつ各々の領域において、触覚と視覚とが適合した金属質感とすることで、金属質感を効果的に高めることができる。
【0032】
本発明の金属部材の製造方法は、金属基材の表面の所望領域に選択的に塗装を行うことができ、マスキングを用いることなく容易に視覚的・触覚的に異なる質感の表面領域を備える被覆層を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施形態に係る金属部材の製造方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の金属部材の実施形態を説明する。
【0035】
≪金属部材≫
本発明の金属部材は、金属基材と、この金属基材の表面に形成された被覆層とを備える。
【0036】
[金属基材]
本発明の金属部材を構成する金属基材には、軽合金が好適であり、マグネシウム合金やアルミニウム合金が挙げられる。特に、マグネシウム合金は、強度に優れて好ましく、Al,Zn,Mn,Si,Ca,Be,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計2.5質量%以上含有し、残部がMg及び不純物からなる合金が挙げられる。
【0037】
特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れ、Alの含有量が多いほど、これらの効果が高い傾向にある。従って、Alの含有量は、4.5質量%以上、更に7質量%以上が好ましい。但し、Alの含有量が12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、上限は12質量%、更に11質量%が好ましい。また、上記列挙した元素のうち、Al以外の元素を含む場合、その含有量は、合計で0.01質量%以上10質量%以下、特に0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。不純物は、例えば、Fe,Ni等が挙げられる。希土類元素の含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yの含有量は0.5質量%以上が好ましい。
【0038】
より具体的な組成として、Mg-Al系合金は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg-Al-Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AJ系合金(Mg-Al-Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)等が挙げられる。特に、Alを7.3質量%超12質量%以下含有する形態、より具体的にはAlを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg-Al系合金、代表的にはAZ91合金は、強度に優れる上に耐食性にも優れて好ましい。
【0039】
金属基材は、代表的には、鋳造材を圧延した圧延材、この圧延材に更に熱処理やレベラー加工、研磨加工等を施した加工材、これら圧延材や加工材に更にプレス加工や曲げ加工、鍛造加工といった塑性加工を施した塑性加工材が挙げられる。圧延やプレス加工等の塑性加工が施された金属基材は、結晶粒径が細かく、鋳造材よりも強度といった機械的特性に優れるだけでなく、引け巣や空隙といった内部欠陥や表面欠陥が少なく、良好な表面性状を有する。また、圧延材は、鋳造材に比べて表面欠陥が少ないことから、被覆層の形成前に、欠陥のパテ埋め(欠陥補正)を低減できる、或いは行わなくてもよく、また、欠陥補正の不十分による不良品の発生を低減できるため、製品歩留りの向上に寄与することができる。
【0040】
[被覆層]
被覆層は、絶縁性を有する材料からなる絶縁層を有する領域と、この絶縁層とは異なる質感を有し、電着塗装又は電解めっきによって形成された電着層を有する領域とを備える。
【0041】
(絶縁層)
絶縁層は、後述する電着層の形成条件に耐え得る材料からなる。電着層は、電着塗装又は電解めっきによって形成されるため、絶縁層は、耐アルカリ性、耐熱性(好ましくは160℃以上、より好ましくは180℃以上)、及び絶縁性を有する材料からなる。絶縁層の構成材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。絶縁層は、所望の用途に応じて、色(有色か無色、透明か不透明等)、厚さ、デザイン等を適宜選択することができる。
【0042】
絶縁層は、その層の構成材料に添加剤を含有することが挙げられる。添加剤を含有することで、容易に層の触覚的・視覚的質感を調整することができる。添加剤としては、所望の質感を得ることができるものであれば特に問わず、導電でも非導電のものでもよい。この添加剤の大きさや添加量を調整することによって、触覚的質感や視覚的質感の度合いを変えることができる。特に、添加剤による凹凸形状を有する表面領域において、光沢感を有する金属質感とするためには、添加剤として金属材質のものを用いるとよく、Al等が挙げられる。また、つや消しの金属質感を視覚的に高めるためには、添加剤として、SiO2やポリマー粒子等を用いることができ、特に、触覚的質感をより高めたい場合、透明なものを用いるとよい。これら添加剤の形状は、繊維状や扁平状、粒子状のものが挙げられ、その大きさは、例えば、Alの場合粒子状で平均粒径0.5〜50μm、SiO2の場合粒子状で平均粒径0.2〜50μmが好ましい。また、添加量は、例えば、Alの場合絶縁層中に1〜30vol%、SiO2の場合絶縁層中に0.5〜30vol%の割合とすることが好ましい。
【0043】
絶縁層は、金属基材側に、防食性を有する防食層を備えることが挙げられる。この防食層は、化成処理等の防食処理により形成することができる。防食層を設けることで、絶縁層と金属基材との密着性を高めることができる。また、絶縁層は、防食層以外の層を形成して多層構造としても構わない。
【0044】
(電着層)
電着層は、上記絶縁層とは異なる質感を有する材料からなる。この質感は、触覚的質感や視覚的質感を含み、触覚的質感及び視覚的質感の一方だけ異なっても、双方が異なってもよい。電着層の構成材料としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。電着層は、所望の用途に応じて、色(有色か無色、透明か不透明等)、厚さ、デザイン等を適宜選択することができる。
【0045】
電着層も、絶縁層と同様に、その層の構成材料に添加剤を含有することが挙げられる。また、電着層も、金属基材側に、防食性を有する防食層を備えることが挙げられる。
【0046】
電着層は、電着塗装又は電解めっきによって形成される。この形成方法については後に詳述する。
【0047】
≪金属部材の製造方法≫
上述した本発明の金属部材は、以下の絶縁層形成工程と、除去工程と、電着層形成工程とを施すことで、容易に製造することができる。以下、各工程ごとに製造方法を図1に基づいて説明する。図1は、本発明の金属部材の断面の一面を拡大して示す図である。
【0048】
[絶縁層形成工程]
絶縁層形成工程は、金属基材10の全表面に、絶縁性を有する材料からなる絶縁層21を形成する。絶縁層21の形成方法には、吹付塗装、電着塗装、静電塗装等、従来公知の種々の方法を採用することができる。
【0049】
[除去工程]
除去工程は、絶縁層21の一部分を除去することで、金属基材10が表面に露出された露出部30を形成する。絶縁層21の一部分の除去方法には、化学的、物理的いずれの方法を採用することができる。化学的な除去方法としては、例えば、高温のアルカリ(熱アルカリ)水溶液を用いて行う方法が挙げられる。この場合、熱アルカリ水溶液に除去領域を浸漬することで除去するので、除去領域が細部である場合等、除去しない領域にマスキングが必要な場合がある。物理的な除去方法としては、例えば、ダイヤカット加工、レーザ照射加工、サンドブラスト加工等が挙げられる。特に、レーザ照射は、除去領域が細部であったり、角部である場合、その除去領域をきれいに除去することができて好ましい。上記方法で絶縁層21の一部分を除去することができるが、ここで言う一部分とは、連続的な領域も断続的な領域も含む。図1においては、金属基材10の角部に位置する絶縁層を除去している。
【0050】
[電着層形成工程]
電着層形成工程は、露出部30に、絶縁層21とは異なる質感を有する塗料を電着塗装又は電解めっきによって塗装することで、電着層22を形成する。電着層22は、露出部30に導通して塗料を塗装するため、マスキングを用いることなく容易に形成することができ、かつ金属基材10の一部に選択的に形成することができる。上記3工程を施すことで、金属基材10の表面に絶縁層21と電着層22とからなる被覆層20を備える金属部材1を得ることができる。
【0051】
以下、本発明の金属部材の実施形態をより具体的に説明する。
【0052】
≪実施形態1≫
実施形態1では、表面上で触覚的かつ視覚的に異なる領域を備え、かつ各領域において、触覚と視覚とが適合した金属質感を備える金属部材の例を示す。
【0053】
まず、マグネシウム合金からなる金属基材の全表面に、無色透明なエポキシ樹脂を下塗りし、その上にAl(平均粒径10μm)とSiO2(平均粒径2μm)の添加剤を1:1の割合で含有した無色透明なアクリル樹脂を形成した2層からなる絶縁層を形成する。この形成方法は特に問わない。絶縁層の一部分、ここでは角部にダイヤカット加工を施し、金属基材の表面が露出された露出部に表面加工部を形成する。この表面加工部は、鏡面加工され、光沢感と平滑性を兼ね備えた表面を有する。この露出部に無色透明なアクリル樹脂を電着塗装によって塗装して電着層を形成する。
【0054】
上記方法によれば、電着層が、鏡面加工が施された表面加工部上に形成された透明な樹脂からなるので、この透明な樹脂を介して表面加工部の光沢感のある金属質感を可視化でき、金属部材の角部の金属質感を顕著に高めることができる。また、この透明な樹脂は平滑であるため、電着層は、視覚的かつ触覚的に上記鏡面加工部に適合した平滑な質感を得ることができる。一方、絶縁層は、AlとSiO2の添加剤を含有した樹脂からなるので、光沢感を有する金属質感とつや消しの金属質感を併せ持った質感を得ることができる。また、視覚的にこの添加剤の凹凸の質感(つや消しの金属質感)を得ると共に、凹凸の触覚的な質感も同時に得ることができる。つまり、本例の金属部材は、表面上に触覚的かつ視覚的に異なる領域を備え、かつ各領域において、この触覚と視覚とが適合した金属質感を有することで、所望領域の金属質感を顕著に高めることができる。
【0055】
≪実施形態2≫
実施形態2では、全表面に亘って視覚的質感はほぼ同じであるが、触覚的質感が部分的に異なる領域を備える金属部材の例を示す。絶縁層及び電着層の双方の構成材料に、透明なSiO2(平均粒径1μm)の添加剤を含有した無色透明なアクリル樹脂を用いる。このとき、絶縁層と電着層の添加剤の含有量を異ならせる。例えば、絶縁層の添加剤の含有量を電着層の添加剤の含有量よりも多くする。添加剤の含有量が多いと凹凸度合いが多くなるので、電着層と絶縁層とは触覚的に質感を異ならせることができる。本例では、除去工程において、絶縁層の除去方法は、その除去に伴って、露出部の金属基材の表面性状に変化を実質的に及ぼさない方法で行うことで、金属基材の表面は、全表面に亘って視覚的に同じ金属質感を有している。よって、無色透明な樹脂で被覆層を構成していることで、金属基材の表面を可視化できるため、本発明の金属部材は、視覚的質感はほぼ同じである。つまり、本例の金属部材の触覚的質感は、被覆層の表面性状に依存しており、金属部材の視覚的質感は、金属基材の表面の視覚的質感に依存している。本例の金属部材は、表面上に触覚的に異なる質感を与えることができる。
【0056】
≪実施形態3≫
実施形態3では、表面に文字や模様を施した金属部材の例を示す。絶縁層及び電着層の双方の構成材料に、不透明で有色の樹脂を用いる。絶縁層と電着層の色は異色である。例えば、絶縁層形成工程において、金属基材の全表面に、黒色の樹脂からなる絶縁層を形成する。絶縁層の一部分、ここでは、所望の文字や模様の形状にレーザを照射し、金属基材の表面が露出された露出部を形成する。この露出部に赤色の樹脂を電着塗装によって塗装して電着層を形成する。上記方法によれば、電着層と絶縁層とは視覚的質感を異ならせることで、黒色の背景の中に赤色で文字や模様が描け、商品価値を高めることができる。ここで、レーザを用いることで、絶縁層の細部の除去を容易にできるため文字や模様の輪郭を明確に描くことができる。本例の場合も、実施形態2と同様、絶縁層の除去方法は、その除去に伴って、露出部の金属基材の表面性状に変化を及ぼす方法であってもよいし、表面性状に変化を実質的に及ぼさない方法であってもよい。本例の金属部材の視覚的質感も被覆層の表面の視覚的質感に依存しているからである。
【0057】
本例では、絶縁層と電着層との構成材料を異色とすることで視覚的質感のみを異ならせる場合に注目したが、有色の樹脂中に添加剤を含有することで、視覚的質感を異ならせると同時に、触覚的質感も異ならせることもできる。
【0058】
≪実施形態4≫
実施形態4では、凹凸形状を有する表面領域において、光沢感を有する金属質感を視覚的に備える金属部材であって、この光沢度合いが部分的に異なる領域を備える金属部材の例を示す。絶縁層及び電着層の双方の構成材料に、Alの添加剤(平均粒径10μm)を含有した無色透明なアクリル樹脂を用いる。このとき、絶縁層と電着層の添加剤の含有量を異ならせる。例えば、絶縁層の添加剤の含有量を電着層の添加剤の含有量よりも多くする。添加剤の含有量が多いと光沢感の金属質感の色調が濃くなるので、電着層と絶縁層とは視覚的に光沢感の色調の濃淡を異ならせることができる。また、添加剤の含有量が多いと凹凸度合いも多くなるので、電着層と絶縁層とは触覚的にも異ならせることができる。本例では、除去工程において、絶縁層の除去方法は、その除去に伴って、露出部の金属基材の表面性状に変化を及ぼす方法であってもよいし、表面性状に変化を実質的に及ぼさない方法であってもよい。これは、本例の金属部材の触覚的質感及び視覚的質感は、共に被覆層の表面の触覚的質感と視覚的質感に依存しているからである。本例の金属部材は、表面上に触覚的かつ視覚的に異なる質感を与えることができる。
【0059】
≪試験例≫
AZ91相当材のマグネシウム合金からなる金属基材と、この金属基材の表面に形成された被覆層とを備える金属部材を作製し、外観について調べた。
【0060】
(試料1)
まず、金属基材(大きさ:約90mm×60mm×3mm)の全表面に、化成処理を施し、その上にプライマ層(厚さ10μm)としてエポキシ樹脂を吹付塗装を用いて形成し、更にその上にAl(平均粒径10μm)とSiO2(平均粒径1μm)の添加剤を1:1の割合で含有したアクリル樹脂を吹付塗装して絶縁層(厚さ15μm)を形成した。つまりこの絶縁層は多層構造となっている。
【0061】
次に、上記絶縁層の一部として、角部にダイヤカット加工を施して面取りし、金属基材が表面に露出された露出部を形成する。
【0062】
そして、上記露出部に、透明なアクリル樹脂を電着塗装して電着層(厚さ15μm)を形成した。以上のようにして作製した金属部材(金属基材上に、絶縁層と電着層からなる被覆層を有する)を試料1とした。
【0063】
(試料2)
まず、試料1と同じ金属基材の全表面に、サンドブラスト加工を施して凹凸形状を形成した。次に、表面に凹凸形状を有した金属基材の角部にダイヤカット加工を施して面取りした。そして、金属基材の全表面に、透明なアクリルシリコン樹脂を吹付塗装して被覆層(厚さ15μm)を形成した。以上のようにして作製した金属部材を試料2とした。
【0064】
(試料3)
まず、試料1と同じ金属基材の全表面に、サンドブラスト加工を施して凹凸形状を形成した。次に、表面に凹凸形状を有した金属基材の角部にダイヤカット加工を施した。そして、金属基材の全表面に、透明なSiO2(平均粒径1μm)の添加剤を3vol%含むアクリル系樹脂を電着塗装して被覆層(厚さ15μm)を形成した。以上のようにして作製した金属部材を試料3とした。
【0065】
(評価)
試料1は、視覚的質感について、金属部材の角部以外は光沢感を有する金属質感とつや消しの金属質感を併せ持った質感を有しており、面取りされた角部のみ光沢感と平滑性が顕著な金属質感を有していた。そして、触覚的質感については、金属部材の角部以外は絶縁層の構成材料の添加剤による凹凸の質感を有しており、面取りされた角部は平滑な質感を有していた。つまり、試料1の金属部材は、面取りされた角部とそれ以外の領域において異なる質感を有し、かつ各領域には視覚と触覚とが適合した金属質感を有していた。一方、試料2と試料3は、金属基材の表面が被覆層によって均一に平滑となっているため、金属部材の表面上で、異なる質感の領域を得ることができなかった。また、試料2では、透明な被覆層を介して凹凸形状を有した金属基材の地金を可視化することで、該金属基材の凹凸形状を視覚的に得たが、触覚的には平滑であり、視覚と触覚とが適合した金属質感を得ることができなかった。試料3では、被覆層が均一に凹凸形状を有した層で形成することで、視覚的かつ触覚的につや消しの金属質感を得たが、金属部材の全面が同一であるため、金属基材の地金の金属質感を得ることができなかった。
【0066】
以上の結果から、本発明の金属部材は、金属基材上に被覆層を有する金属部材において、視覚や触覚的質感が部分的に異なる表面領域を備え、更にこれら各々の領域を視覚と触覚的質感が適合した金属質感とすることで、高級感を有して金属質感が非常に高く、商品価値に優れることがわかった。
【0067】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、本発明の範囲は上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の金属部材は、携帯電気機器類等の筐体に好適に利用可能である。また、本発明の金属部材の製造方法は、上記本発明の金属部材の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 金属部材
10 金属基材
20 被覆層
21 絶縁層 22 電着層
30露出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、この金属基材の表面に形成された被覆層とを備える金属部材であって、
前記被覆層は、
絶縁性を有する材料からなる絶縁層を有する領域と、
前記絶縁層とは異なる質感を有し、電着塗装又は電解めっきによって形成された電着層を有する領域とを備えることを特徴とする金属部材。
【請求項2】
前記質感は、触覚的質感を含むことを特徴とする請求項1に記載の金属部材。
【請求項3】
前記質感は、視覚的質感を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の金属部材。
【請求項4】
前記絶縁層及び前記電着塗装からなる電着層の少なくとも一方は、添加剤を含有する樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項5】
前記金属基材は、その表面の一部分に鏡面加工が施された表面加工部を備え、
前記絶縁層及び前記電着塗装からなる電着層の一方は、この表面加工部上に形成された透明な樹脂からなり、
前記絶縁層及び前記電着塗装からなる電着層の他方は、添加剤を含有する樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項6】
前記絶縁層と前記電着塗装からなる電着層とは、色が異なることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項7】
前記金属基材は、マグネシウム合金からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属部材。
【請求項8】
前記マグネシウム合金は、添加元素として、Alを2.5〜9.5質量%含有することを特徴とする請求項7に記載の金属部材。
【請求項9】
金属基材の表面に被覆層を備える金属部材の製造方法であって、
前記金属基材の被覆層を設ける領域の全表面に、絶縁性を有する材料からなる絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、
前記絶縁層の一部分を除去することで、金属基材が表面に露出された露出部を形成する除去工程と、
前記露出部に、前記絶縁層とは異なる質感を有する塗料を電着塗装又は電解めっきによって塗装することで、電着層を形成する電着層形成工程とを備え、
前記被覆層は、前記絶縁層と前記電着層とを備えることを特徴とする金属部材の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程は、レーザを前記絶縁層に照射して行うことを特徴とする請求項9に記載の金属部材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−197498(P2012−197498A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63323(P2011−63323)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)