説明

金属酸化物の窒化装置

【課題】本発明は、微粒子の窒化物や低結晶性の窒化物、並びに基板ないしは導電膜層と金属酸化物層とが一体となった試料の窒化を可能とする窒化物製造装置の提供すること。
【解決手段】本発明の窒化物製造装置1では、窒素化合物ガス雰囲気にした反応管3の内部に窒素化合物のガス解離促進部6を共存させる。ガス解離促進部6が存在しない場合と比較して、より低温で窒素化合物ガスが解離し原子状水素と原子状窒素が生成するため、より低温で窒化反応が進行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を出発原料として、前記金属酸化物を構成する酸素原子の一部もしくは全部を窒素原子に置き換える、金属酸化物の窒化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属酸化物の窒化装置としては、内部をアンモニア等の窒素化合物ガス雰囲気にした反応管内で金属酸化物を加熱する装置が報告されている。
上記装置を用いた窒化方法のメカニズムについて説明する。窒素化合物ガスは加熱されることによって解離し、その結果解離生成物として活性な原子状水素や原子状窒素を生じる。金属酸化物を構成する酸素原子はこの原子状水素によって引き抜かれ、水分子が生成する。さらに酸素原子が抜け、結合が切れた金属原子と原子状窒素とが反応する。以上のメカニズムにより窒化反応が進行する。
【0003】
これらのことから、反応管内のガス温度は以下に示す要請を満たすことが求められる。すなわち、上記メカニズムに基づく窒化反応を進行させるためには、反応管内のガス温度をそのガスの解離温度以上にしなければならない。例えばアンモニアガスを用いて、金属酸化物試料のバルク内部まで窒化を進行させる場合には、反応管内温度を700℃以上にする必要がある。
【0004】
このような従来の技術としては、例えば酸化物のみを出発原料とする特許文献1及び2や非特許文献1に記載された方法や、炭素または炭素化合物を出発原料である酸化物に加える特許文献3及び4に記載された方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−66333号公報
【特許文献2】特開2002−233769号公報
【特許文献3】特公昭62−51884号公報
【特許文献4】特開昭63−297305号公報
【特許文献5】国際公開第01/010552号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Catalysis Today 78 (2003) 555−560
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜特許文献4や非特許文献1で示されている装置構成においては、窒素化合物ガスの解離温度以上での耐熱性を持たないガラス等の基板上や導電膜上に塗布された状態の金属酸化物層を、基板ないしは導電膜と一体として窒化処理することはできない。これは、金属酸化物層が窒化反応を起こす温度条件下で処理を行うと、基板ないしは導電膜が変形もしくは変性するからである。すなわち、反応管内での窒化過程において、基板や導電膜と金属窒化物層との界面に化学結合を形成させ金属窒化物層を強く密着させることが、非常に困難である。
【0008】
また、特許文献5で示されている方法では、基板や導電膜の変形・変性温度以下で金属酸化物の窒化反応が行われているが、この方法では窒素ドープ金属酸化物は合成されるが
、結晶バルク内部まで窒素原子が導入され結晶構造の構成主元素となる、すなわち完全な窒化物ないし酸窒化物を合成することはできない。
【0009】
本発明は上記従来の問題点を解決するものであり、窒素化合物ガスの解離温度を下げることにより、基板ないしは導電膜が変形もしくは変性を起こさない温度領域において金属酸化物層の窒化反応を進行させ、基板ないしは導電膜と金属酸化物層とを一体とした窒化処理を可能とする装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記従来の課題を解決するために、本発明の窒化物製造装置では、窒素化合物ガス雰囲気にした反応管内部の金属酸化物近傍に窒素化合物ガスの解離促進部を設ける。解離促進部が存在しない場合と比較して、より低温で窒素化合物ガスが解離し原子状水素と原子状窒素が生成するため、より低温で窒化反応が進行する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、窒化装置において、反応管の内部に窒素化合物ガスの解離促進部を設けるという構成にしたことにより、窒素化合物ガスが解離することで生じる原子状水素と原子状窒素がより低温で生成する。これにより、窒化温度が前記基板ないしは導電膜の変形・変性温度を下回ることにより、基板ないしは導電膜と金属酸化物層とが一体となった試料の窒化や、また、基板や導電膜と金属窒化物層との界面に化学結合が形成された試料の合成、さらには結晶化度が低く粒径が小さい窒化物試料の合成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1における窒化装置の構成図
【図2】本発明の実施例1における窒化装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における窒化装置の構成図である。
【0015】
図1において、窒化される対象となる金属酸化物試料1は、反応管3内部に設けられた試料設置部2に設置される。前記反応管全体は加熱部5によって所定温度まで加熱される。窒素化合物ガスは、窒素化合物ガス供給部4から前記反応管3に供給される。反応管3を通過する間にガスは解離温度以上まで加熱され、解離によって原子状窒素が生じる。この原子状窒素が金属酸化物試料1に作用することで窒化反応が進行する。このとき、窒素化合物ガス解離促進部6を反応管3内に共存させれば、ガス解離による原子状窒素の生成が促進される。使用済みのガスは、ガス排出部7から排出される(実施の形態1の構成)。
【0016】
かかる構成によれば、窒素化合物ガス解離促進部6を反応管3内に設けることにより、より低温でガス解離による原子状窒素の生成が起こる。すなわち、金属酸化物試料1を従来の装置より低温で窒化することが可能になる。
【0017】
以下に、本発明をより詳細に説明する。本発明の方法で窒化を行うことのできる金属酸化物試料1は、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、タングステン等の金属元素のうち少なくとも1つを含む酸化物である。また、前記酸化物は、前述に列挙した金属元素以外に、他の元素を含んでいてもかまわない。これらの酸化物の形状は、粉末状、板状、ペレット状、ロッド状、薄膜状等いずれでも差し支えない。更に言えば、酸
化物と窒素化合物ガスとの接触面積が大きいほど反応場が増加し反応の進行が促進されるという観点から、試料の形状としては粉末状や薄膜状が好適である。
【0018】
窒素化合物ガスとしては、窒素と水素を主構成元素とする気体が利用可能である。すなわち、アンモニア、ヒドラジン、アセトニトリル等を用いることができる。特に、アンモニアが本発明の窒化反応においては有利である。窒素と水素に加えて酸素を構成元素に含む気体は本発明には適さない。なぜならば、前記気体分子の解離時に生成する活性な酸素種が原子状水素と反応するために、原子状水素による酸化物中の酸素引き抜きが妨げられるからである。
【0019】
含窒素化合物ガス解離促進部6としては、鉄、ニッケル、ルテニウムを含む化合物が有効である(特開平11−12715号参照)。特に鉄金属を主成分とする合金が好適である。反応管3内における解離促進部6の位置は、解離促進部6で生成した原子状水素と原子状窒素が他の原子または分子と結合することなく、活性な状態で被窒化物質である酸化物表面上まで到達できる距離に配置する必要がある。具体的には、前記距離は20cm以下である。前記条件を満たしていれば、解離促進部の形状に特に制限はない。例えば、反応管3の壁表面の一部または全部を解離促進部6で構成する方法、解離促進部6と金属酸化物試料1を混合させる方法、ガスが通過できる解離促進部6を酸化物試料1近傍に設置する方法などが考えられる。
【0020】
実際の装置の操作方法は以下の通りである。まず、金属酸化物試料1を設置した反応管3中を、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスでパージする。これは、窒化反応を阻害する空気中の酸素を反応管内から除去するためである。次に、反応管3内部に窒素化合物ガスを流通させ、窒素化合物ガスの解離温度以上まで加熱することにより、窒化反応が行われる。このとき、必要に応じて窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスと混合しても差し支えない。窒素化合物ガスと不活性ガスの混合比率及びガス流量を変化させることによって窒化反応の速度をコントロールすることができる。不活性ガスの混合比率がより少なく、全体のガス流量がより大きいほど、窒化反応の速度は速くなる。これは、前記条件にすることによって、窒素化合物ガスの解離によって生成する原子状水素及び原子状窒素の数が増加するためである。金属酸化物試料1の窒化が進み、安定または準安定な窒化物相が試料全体に形成された時点で窒化反応は完了する。この窒化反応完了までに必要となる時間は約1〜30時間である。窒化反応完了後、反応管3内部を常温まで冷却させると共に、前記不活性ガスでパージを行う。最後に、反応管3内部より窒化された試料1を取り出す。
【0021】
(実施例1)
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0022】
図2は、実施例1における窒化装置の構成図である。
【0023】
酸化タンタル(Ta)粉末5.0g(高純度化学社製)11を、窒化反応中に反応管内に飛散することを防ぎ、かつ反応ガスと十分に接触させる目的で、石英ウール12(東ソー製)で包んだ。これを、ガスが流通するようにメッシュ状にした試料設置部13の上に設置、固定した。反応管14の大きさは内径500mm×高さ750mmであり、前記試料設置部13は反応管14の入口より高さ500mmの位置に水平に設置されている。この試料設置部13及び反応管14は全てステンレス鋼(SUS304)で構成されており、本実施例1における流通ガスであるアンモニアの解離を促進する役割を果たす。試料11の設置後、まず反応管14内を窒素ガスで十分にパージし、空気を除去した。その後、アンモニアガスを流量15L/min(=反応管内流速76mm/min)で流通
させ、反応管14内の昇温を開始した。昇温速度60℃/hrで700℃まで加熱した後、700℃において15時間保持し窒化処理を行った。前記窒化処理完了後、降温速度60℃/hrで常温まで冷却した後窒素パージを十分に行い、試料11を取り出した。
【0024】
前記窒化処理後の試料についてX線回折(XRD)分析を、線源にCuKαを用いて行った。そのXRDパターンにおいて、2θ=29.0°、32.5°、35.6°、36.6°、42.1°、50.8°、52.0°にピークが見られた。これらは全て酸窒化タンタル(TaON)に帰属されるピークであった。また、同じ試料について紫外可視拡散反射スペクトルを測定したところ、TaONに特徴的な波長500nm付近の吸収端が観測された。以上のことから、本発明の窒化処理によってTaONが形成されたことが示された。従来の方法(非特許文献1参照)では、850℃での窒化処理によってTaONを形成させていたが、本実施例での処理温度は700℃であった。すなわち本発明では、アンモニアガスの解離促進部であるステンレス鋼(SUS304)の効果によって窒化処理温度の低下に成功した。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明にかかる窒化物製造装置は、ガラス等の基板ないしは導電膜上の金属酸化物層について、前記基板ないし導電膜の変形・変性温度以下での窒化が可能である。これにより、前記基板ないしは導電膜と金属窒化物層が積層された試料の一段階合成が実現される。さらに、基板や導電膜と金属窒化物層との界面に化学結合が形成され、前記両層が強く密着した試料が合成される。
【0026】
また、結晶化度が低く粒径が小さい窒化物試料の合成が可能となる。
【0027】
金属窒化物の中にはワイドバンドギャップ半導体であるものが数多く存在する。これらは主に可視光領域の光で駆動、あるいは前記領域の光を放出する光半導体として、さまざまな用途のデバイスへと応用可能である。本発明は、このようなデバイスの新たな製造方法を提案するものであり、産業上有用である。
【符号の説明】
【0028】
1 金属酸化物試料
2 試料設置部
3 反応管
4 ガス供給部
5 加熱部
6 窒素化合物ガス解離促進部
7 ガス排出部
11 酸化タンタル粉末
12 石英ウール
13 試料設置部(SUS304製)
14 反応管(SUS304製)
15 ガス供給部
16 加熱部
17 ガス排出部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物製造装置であって、
チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、バナジウム、タングステン等の金属元素のうち少なくとも1つを含む金属の酸化物試料1を設置するための試料設置部と、
前記試料設置部2を内部に含む反応管と、
前記反応管内部に窒素化合物ガスを供給するガス供給部と、
前記反応管内部の前記ガスを、原子状窒素と原子状水素とに解離する温度以上に加熱する加熱部と、
前記反応管内部で前記試料の近傍に配置され、鉄、ニッケル、ルテニウム等の金属元素のうち少なくとも1つを含み、前記ガスの解離を促進する解離促進部と、
を有する窒化物製造装置。
【請求項2】
前記試料設置部が前記解離促進部である、請求項1に記載の窒化物製造装置。
【請求項3】
前記解離促進部が少なくとも鉄元素を含む合金で構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の窒化物製造装置。
【請求項4】
前記解離促進部がステンレス鋼で構成されることを特徴とする、請求項3に記載の窒化物製造装置。
【請求項5】
前記窒素化合物ガスが少なくともアンモニアを含むガスであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の窒化物製造装置。

【図1】
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【図2】
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