説明

金属錯体の製造方法

【課題】簡便で穏やかな反応条件を用いた工業的に有用な金属錯体の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】上記課題は、多座配位子と金属化合物とを分子内にリン原子を含有する溶媒中で反応させる金属錯体の製造方法により、達成できる。リン原子を含有する溶媒はリン酸エステルであることが好ましく、多座配位子は四座配位子であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農薬、医薬品、触媒、電子材料等に有用な遷移金属錯体の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子内に炭素−金属結合を有する白金及びパラジウムの2価4配位オルトメタル化錯体は、配位子をn−ブチルリチウムで、リチオ化した後に、塩化白金−ジエチルスルフィド錯体(もしくは塩化パラジウム−ジエチルスルフィド錯体)と反応させ合成する方法(例えば、非特許文献1参照)、有機水銀化合物の金属交換反応によって合成する方法(例えば、非特許文献2参照)が報告されている。
【0003】
上記n−ブチルリチウムを用いた合成法は、低温(−78℃)での取り扱いが必要であり、工業的な製造方法としては好ましくない。また有機水銀を用いた合成法に関しては、その毒性のため、実際の製造に使用することは困難であった。ベンゾニトリルを溶媒として用いる錯体化方法は、反応温度が非常に高いため工業的な製造には適していない。そのため、より簡便で穏やかな反応条件を用いた工業的に有用な金属錯体の製造方法が望まれていた。
【非特許文献1】インオーガニック・ケミストリー(Inorg.Chem.)1996年、35巻、4883−4888頁
【非特許文献2】オーガノメタリクス(Organometallics)2003年、22巻、5243−5260頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便で穏やかな反応条件を用いた工業的に有用な金属錯体の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、多座配位子と金属化合物とを分子内にリン原子を含有する溶媒中で反応させることにより、穏やかな反応条件で、錯体化反応が進行することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の手段によって達成された。
【0006】
(1)多座配位子と金属化合物とを分子内にリン原子を含有する溶媒中で反応させることを特徴とする金属錯体の製造方法。
(2)分子内にリン原子を含有する溶媒がリン酸エステルであることを特徴とする上記(1)に記載の金属錯体の製造方法。
(3)金属化合物として、パラジウムを含有する金属塩を用いることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の金属錯体の製造方法。
(4)多座配位子が2座以上6座以下の配位子であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
(5)多座配位子が下記一般式(1)で表される4座配位子であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
【0007】
【化1】

【0008】
(一般式(1)中、Q、Q、Q、及びQは、各々独立に、金属に配位する原子群を表す。L、L、L、及びLは、各々独立に、単結合または連結基を表す。nは0または1を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、毒性の高い試薬を用いることなく、穏やかな反応条件で、今まで合成が困難であった金属錯体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0011】
本発明に用いる多座配位子としては、特に制限はないが、2座以上6座以下の配位子を用いることが好ましく、3座及び4座配位子がより好ましく、さらに少なくとも1つ以上分子内に金属−炭素結合を生成しうる4座配位子を用いることがより好ましい。
【0012】
このような配位子の例としては、国際公開第04/108857号、国際公開第05/042550号、国際公開第05/042444号パンフレッド等に記載の有機配位子等を挙げることができる。その中でも、一般式(1)で表される4座配位可能な配位子を用いることが好ましい。
【0013】
一般式(1)について説明する。Q、Q、Q、及びQは、それぞれ金属に配位する(配位により形成される結合としては、例えば配位結合、共有結合、イオン結合がある)原子群を表す。Q、Q、Q、Qは金属に配位する原子群であれば、特に限定されないが、炭素原子で配位する原子群、窒素原子で配位する原子群、酸素原子で配位する原子群、硫黄原子で配位する原子群、りん原子で配位する原子群が好ましく、炭素原子で配位する原子群、窒素原子で配位する原子群、酸素原子で配位する原子群がより好ましく、炭素原子で配位する原子群、窒素原子で配位する原子群がさらに好ましい。
【0014】
炭素原子で配位する原子群としては、例えば芳香族炭化水素環基(ベンゼン、ナフタレンなど)、ヘテロ環基(チオフェン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、ト
リアジン、チアゾール、オキサゾール、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾールなど)およびこれらを含む縮合環、およびこれらの互変異性体が挙げられる。これらの基は、さらに置換基を有していても良い。置換基の例としては、後述の置換基群Aで説明する基が挙げられる。
【0015】
窒素原子で配位する原子群としては、例えば含窒素ヘテロ環基(ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、チアゾール、オキサゾール、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾールなど)、アミノ基(アルキルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばメチルアミノ)、アリールアミノ基(例えばフェニルアミノ)などが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、イミノ基などが挙げられる。これらの基はさらに置換されていても良い。置換基の例としては、後述の置換基群Aで説明する基が挙げられる。
【0016】
酸素原子で配位する原子群としては、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)、カルボニル基(例えばケトン基、エステル基、アミド基など)、エーテル基(例えばジアルキルエーテル基、ジアリールエーテル基、フリル基など)などが挙げられる。これらの基はさらに置換されていても良い。置換基の例としては、後述の置換基群Aで説明する基が挙げられる。
【0017】
硫黄原子で配位する原子群としては、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、チオカルボニル基(例えばチオケトン基、チオエステル基など)、チオエーテル基(例えばジアルキルチオエーテル基、ジアリールチオエーテル基、チオフリル基など)などが挙げられる。これらの基はさらに置換されていても良い。置換基の例としては、後述の置換基群Aで説明する基が挙げられる。
【0018】
りん原子で配位する原子群としては、ジアルキルホスフィノ基、ジアリールホスフィノ基、トリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、ホスフィニン基等があげられる。これらの基はさらに置換されていても良い。置換基の例としては、後述の置換基群Aで説明する基が挙げられる。
【0019】
、Qは窒素原子で配位する原子群、酸素原子で配位する原子群、りん原子で配位する原子群が好ましく、窒素原子で配位する原子群がより好ましく、窒素原子で配位する含窒素へテロ環基がさらに好ましく、窒素原子で配位する単環の含窒素へテロ環基が特に好ましい。Q、Qは可能であれば後述の置換基群Aから選ばれる置換基を有していても良い。
【0020】
、Qは炭素原子で配位する原子群、窒素原子で配位する原子群、酸素原子で配位する原子群が好ましく、炭素原子で配位するアリール基、炭素原子で配位するヘテロアリール基、窒素原子で配位するヘテロアリール基、酸素原子で配位するカルボキシル基、酸素原子で配位するアリールオキシ基、酸素原子で配位するヘテロアリールオキシ基がより好ましく、炭素原子で配位するアリール基、炭素原子で配位するヘテロアリール基、窒素原子で配位するヘテロアリール基、酸素原子で配位するカルボキシル基がさらに好ましく、炭素原子で配位するアリール基、炭素原子で配位するヘテロアリール基が特に好ましい。Q、Qは可能であれば下記に示す置換基群Aから選ばれる置換基を有していても良い。
【0021】
置換基群A
アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ま
しくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子であり、具体的にはイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)などが挙げられる。
【0022】
、L、L、及びLはそれぞれ単結合または連結基を表す。連結基としては、特に限定されないが、アルキレン基(例えばメチレン基、ジメチルメチレン基、ジイソプロピルメチレン基、ジフェニルメチレン基、エチレン基、テトラメチルエチレン基など)、アルケニレン基(ビニレン基、ジメチルビニレン基など)、アルキニレン基(エチニレン基など)、アリーレン基(フェニレン基、ナフチレン基など)、ヘテロアリーレン基(ピリジレン基、ピラジレン基、キノリレン基など)、酸素連結基、硫黄連結基、窒素連
結基(メチルアミノ連結基、フェニルアミノ連結基、tブチルアミノ連結基など)、ケイ素連結基、及び、これらを組み合わせた連結基(例えばオキシレンメチレン基など)などが挙げられる。下記に具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0023】
【化2】

【0024】
、Lは、単結合、アルキレン基、酸素連結基、窒素連結基が好ましく、アルキレン基、酸素連結基が好ましく、アルキレン基が特に好ましい。
【0025】
、Lは、単結合、アルキレン基、酸素連結基が好ましく、単結合、アルキレン基
がより好ましく、単結合が更に好ましい。
【0026】
これらの連結基は可能であればさらに置換基を有していてもよく、導入可能な置換基としては、一般式(1)の説明で、置換基群Aとして挙げたものが適用できる。
【0027】
nは、0又は1を表す。nが0の時は、QとQのLを介した結合は存在しない。
【0028】
本発明の製造方法により、一般式(1)で表される配位子と金属化合物を反応させることにより、一般式(2)で表される金属錯体を得ることができる。
【0029】
【化3】

【0030】
(一般式(2)中、Q、Q、Q、Qは、金属に配位する原子群を表す。L、L、L、Lは、単結合または連結基を表す。nは0または1を表す。Mは金属原子を表す。金属原子とQ、Q、Q、Qとの結合は、それぞれ共有結合でも、配位結合、イオン結合でも良い。)
【0031】
一般式(2)について説明する。一般式(2)中、Q、Q、Q、Q、L、L、L、L、nは一般式(1)におけるQ、Q、Q、Q、L、L、L、L、nと同義であり、好ましい範囲も同様である。Mは金属原子を表す。金属原子としては特に限定されないが、遷移金属原子が好ましい。具体的には、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金であり、より好ましくは、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金であり、さらに好ましくはパラジウム、白金である。
【0032】
以下に、本発明の製造方法により、製造可能な一般式(2)で表される金属錯体の具体例を列挙するが、本発明はこれらの化合物に限定されることはない。
【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
本発明に用いられる金属化合物に含有される金属としては、特に限定されないがルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金であり、より好ましくは、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金であり、さらに好ましくはパラジウム、白金である。
【0038】
本発明に用いられる金属化合物でパラジウムを含有する化合物としては、2価のパラジウムを含むものとして、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、酢酸パラジウム、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、パラジウムトリフルオロアセテート、アリルパラジウムクロライド−ダイマー、(2,2’−ビピリジン)ジクロロパラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム、(ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタ−2,5−ジエン)ジクロロパラジウム、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)パラジウム、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ジクロロ(N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ジクロロ(1,10−フェナントロリン)パラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィンパラジウム)、アンモニウムテトラクロロパラデート、ジアンミンジブロモパラジウム、ジアンミンジクロロパラジウム、ジアンミンジヨードパラジウム、ポタッシウムテトラブロモパラデート、ポタッシウムテトラクロロパラデート、ソジウムテトラクロロパラデート等、0価のパラジウムを含むものとしては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、トリス(ジベンジリ
デンアセトン)ジパラジウム等が挙げられる。
【0039】
本発明に用いられる金属化合物で白金を含有する化合物としては、2価の白金を含むものとして、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金、プラチナアセチルアセトナート、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロプラチナ、ビス(アセトニトリル)ジクロロプラチナ、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)プラチナ、ジブロモビス(トリフェニルホスフィン)プラチナ、ジクロロ(1,10−フェナントロリン)プラチナ、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)プラチナ、アンモニウムテトラクロロパラデート、ジアンミンジブロモパラジウム、ジアンミンジクロロプラチナ、ジアンミンジヨードプラチナ、ポタッシウムテトラブロモプラチナ−ト、ポタッシウムテトラクロロプラチナート、ソジウムテトラクロロプラチナート等、0価のパラジウムを含むものとしては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)プラチナ等が挙げられる。
これらの金属化合物は、結晶水、結晶溶媒、配位溶媒を含んでいても良い。金属の価数は、特に問わないが、金属が、2価と0価が好ましく、より好ましくは2価である。
【0040】
本発明に用いる金属化合物の使用量は、該金属化合物中に金属錯体を形成する金属原子が1つ含まれる場合は、通常、配位子1モルに対して0.1〜10モル、好ましくは0.5〜5モル、更に好ましくは、1〜3モルである。なお、金属化合物に金属錯体を形成する金属原子が、n個含まれる場合は、その使用量は、1/n倍で良い。
【0041】
本発明に用いられる溶媒としては、分子内にリン原子を含有するものであれば、特に限定されないが、好ましくは、分子内にリン原子を含有する溶媒であり、より好ましくはリン酸エステルであり、さらに好ましくは亜リン酸トリアルキル(Trialkyl Phosphite:P(OR’))、リン酸トリアルキル(Trialkyl Phosphate:PO(OR’))、フェニルリン酸ジアルキル(Dialkyl Phenylphosphonate:PhPO(OR’))であり、特に好ましくはフェニルリン酸ジアルキル、リン酸トリアルキルであり、最も好ましくはリン酸トリアルキルである。
【0042】
R’について説明する。R’は、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基を表す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トリル基等が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基が好ましく、アリール基としては、フェニル基が好ましい。更に好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0043】
本発明に使用される分子内にリン原子を含有する溶媒は、単独で用いても構わないが、リン原子を含有しない溶媒と混合して使用しても構わない。
分子内にリン原子を含有しない溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、4塩化炭素、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコー
ル類、水等が挙げられる。
【0044】
本発明に用いられる溶媒の量としては、反応が十分に進行できる量であれば特に制限されないが、通常は使用する配位子に対して、1〜200倍体積量、好ましくは5〜100倍体積量が好ましい。
【0045】
本発明の製造法において、金属化合物と配位子の錯体形成反応時に、ハロゲン化水素等の酸性物質が生成する場合、塩基性物質の存在下で反応を行っても構わない。塩基性物質としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の3級アミン類、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基類が挙げられる。
【0046】
本発明の製造方法は、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0047】
本発明の製造法における反応温度、反応時間、反応圧力は、原料、溶媒などによって異なるが、通常、20℃〜300℃、好ましくは50℃〜200℃、更に好ましくは80℃〜170℃の範囲である。反応時間は、通常30分〜24時間であるが、好ましくは1〜12時間、さらに好ましくは2〜10時間であり、反応圧力に関しては、通常、常圧であるが、必要に応じて加圧下でも減圧下でも差し支えない。
【0048】
また、本発明においては、加熱手段は特に限定されない。具体的には、オイルバス、マントルヒーターによる加熱や、マイクロ波照射による加熱を使用することができる。
【0049】
本発明によって製造できる金属錯体は、反応終了後、析出した結晶を濾過することにより、単離することができる。また結晶が析出しない場合は、溶媒を留去し、メタノール等の溶媒を加え、析出した結晶を濾取するか、反応終了後、水を加えた後、クロロホルム等の溶媒を用いて、抽出後、有機層を濃縮することによっても単離することができる。得られた金属錯体は、再結晶、再沈殿、昇華、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製方法を用いることにより、さらに精製し高純度の金属錯体を得ることもできる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明による金属錯体の代表的な合成例を示すが、本発明はこれらの合成例に限定されるものではない。本発明の他の金属錯体も同様にして合成することができる。
【0051】
〔実施例1:例示化合物2の合成〕
【0052】
【化8】

【0053】
窒素雰囲気下、ナスフラスコに配位子A−1(50mg、0.107mmol)、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド(28mg、0.107mmol)、リン酸トリメチル(4ml)を仕込み、130℃で、4時間半加熱、攪拌した。室温まで冷却し、析出した固体を濾過し、メタノールで洗浄後、減圧下で乾燥し、例示化合物2を灰白色の固体として18.6mg得た。収率30%。
H−NMR(CDCl):δ(ppm)=8.02(t,J=8.0Hz,2H),7.88(dd,J=0.8,8.4Hz,2H),7.27(dd,J=0.4,7.6Hz,2H),6.74(s,2H),2.00(s,6H)
【0054】
〔実施例2:例示化合物3の合成〕
【0055】
【化9】

【0056】
窒素雰囲気下、ナスフラスコに配位子B−1(3.5g、7.9mmol)、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド(2.25g、8.7mmol)、リン酸トリメチル(200ml)を仕込み、90℃で、1時間、120℃で、10時間加熱、攪拌した。室温まで冷却し、析出した固体を濾過し、メタノールで洗浄後、減圧下で乾燥し、例示化合物3を灰白色の固体として1.2g得た。収率28%。
H−NMR(CDCl):δ(ppm)=7.84(t,J=8.0Hz,2H),7.68(dd,J=0.8,8.1Hz,2H),7.24(dd,J=0.8,8.1Hz,2H),6.44(s,3H),1.92(s,6H),1.40(s,18H)
【0057】
〔実施例3:例示化合物5の合成〕
【0058】
【化10】

【0059】
窒素雰囲気下、ナスフラスコに配位子C−1(2.34g、4.6mmol)、ビス(アセトニトリル)パラジウム(II)ジクロリド(1.21g、4.6mmol)、リン酸トリメチル(160ml)を仕込み、85℃で、5時間半加熱、攪拌した。室温まで冷却し、析出した固体を濾過し、メタノールで洗浄後、減圧下で乾燥し、例示化合物5を灰白色の固体として1.0g得た。収率36%。
H−NMR(CDCl):δ(ppm)=7.14(d,J=2.0Hz,2H),6.75(d,J=2.0Hz,2H),6.42(s,2H),4.01(s,6H),1.83(s,6H),1.40(s,18H)
【0060】
〔比較例1〕
窒素雰囲気下、ナスフラスコに配位子A−1(64mg、0.107mmol)、パラジウム(II)ジクロリド(23mg、0.107mmol)、ベンゾニトリル(4ml)を仕込み、オイルバスの温度200℃で、4時間加熱還流、攪拌した。室温まで冷却し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開液:クロロホルム)で精製し、例示化合物2を淡黄色固体として2.2mg得た。収率3.6%。
【0061】
上記実施例と比較例から明らかなように、本発明の手法を用いることにより、4座配位子を有するパラジウム錯体を簡便且つ穏やかな反応条件で製造することができる。また、本発明の手法を用いることにより、他のパラジウム錯体、3座以上の配位子を有する金属錯体に関しても、同様に簡便且つ穏やかな反応条件で製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多座配位子と金属化合物とを分子内にリン原子を含有する溶媒中で反応させることを特徴とする金属錯体の製造方法。
【請求項2】
分子内にリン原子を含有する溶媒がリン酸エステルであることを特徴とする請求項1に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項3】
金属化合物として、パラジウムを含有する金属塩を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の金属錯体の製造方法。
【請求項4】
多座配位子が2座以上6座以下の配位子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
【請求項5】
多座配位子が下記一般式(1)で表される4座配位子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の金属錯体の製造方法。
【化1】


(一般式(1)中、Q、Q、Q、及びQは、各々独立に、金属に配位する原子群を表す。L、L、L、及びLは、各々独立に、単結合または連結基を表す。nは0または1を表す。)

【公開番号】特開2007−91660(P2007−91660A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284828(P2005−284828)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】