説明

金属錯体を含む複合体及びそれを用いた放射性セシウム吸着材

【課題】成形容易でかつ成形体が堅牢であり、さらなる機能の追加も実現できる金属シアノ錯体の複合体及びそれを用いた放射性セシウム吸着材を提供する。
【解決手段】主たる組成が下記一般式(1)で示される金属シアノ錯体と、金属原子を含む酸化物を混合、複合化処理して得られる金属錯体含有複合体。
xA[MB(CN)6y・zH2O (1)
[式中、MAは、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛等より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。MBは、鉄、コバルト、クロム等より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。Aは一価もしくはそれ以上の陽イオンである。xは0〜2の数であり、yは1.1〜0.3の数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属シアノ錯体及び酸化物を含む複合体及びそれを用いた放射性セシウム吸着材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プルシアンブルー型金属錯体の実用としては、放射性物質吸着材、エレクトロクロミック素子、センサ、二次電池電極材、顔料等、様々なものが挙げられる。特に、セシウム吸着材としては、原子力発電の結果排出される放射性廃液からの放射性セシウム分離(特許文献1参照)、土壌散布による放射性セシウムの土壌から植物への移行係数低減(非特許文献1参照)、人や家畜への投与(Use of Prussian blue for decorporation of radiocesium by HPA, 非特許文献2参照)等に利用されている。いずれも、放射性セシウムを環境、体内、廃液等から吸着、分離し、その影響を低減することを目的として利用されている。その利用法としては、液体への散布、粒状とし、カラム等の吸着材として利用、土壌等への散布等が挙げられる。
【0003】
前述の利用法を実施する場合、いくつかの課題がある。一つは成形の問題である。多くの金属シアノ錯体は、微粉末としてのみ得られると考えられており、成形が困難とされている(非特許文献3参照)。
金属シアノ錯体として、AxA[MB(CN)6y・zH2OにおけるMAとしてコバルトを利用したもの等、一部は粒状化等を行う手法が提示されている(特許文献2参照)が、最も安価に製造できるプルシアンブルー(MA=Fe、MB=Fe)等の成形方法は明らかとなっていない。また、得られた成型物の堅牢性が維持できない等の問題がある。
この問題を解決するため、ゼオライトへ坦持させる方法(特許文献3参照)や、活性炭へ坦持させる方法が提案されている(特許文献4参照)が、いずれもゼオライト、活性炭に金属イオンとフェロシアン化物イオンを含有する水溶液を逐次添加することにより、細孔中でプルシアンブルー型錯体を析出させることで得られるものであり、プルシアンブルー型錯体を含む複合体としての堅牢性は増すものの、成形の容易さ等は解決されていない。また、複合体におけるプルシアンブルー型錯体の占める量を向上させることが困難であり、放射性セシウム吸着材としての性能低下が課題となる。
【0004】
また、一般的な成形には、高分子等のバインダを利用した手法が挙げられる。しかし、放射性セシウムの吸着を目的とする場合、一般的には有機物は放射線への耐久性が低く、放射性セシウムの吸着の耐久性に課題が残る。
また、放射性セシウム吸着材は、特に、後処理の問題から、さらなる機能追加が可能であることが望ましい。放射性セシウム吸着材は、利用後は放射性セシウムを大量に含有するため、強い放射線を発する。そのため、取扱いが困難である。この課題を解決する一つの手法として、取り扱いを簡単化する他の機能追加が考えられる。また、放射性廃棄物を回収するにあたり、家屋等の一般的な空間で実現する場合には、意匠性等も重要となるため、それらも新たな機能追加の一つとして考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4168172号公報
【特許文献2】米国特許第3296123号公報
【特許文献3】特公昭62−43519号公報
【特許文献4】特開平2−207839号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Vandenhove97JERa
【非特許文献2】IAEA TECDOC-926(1997/02)
【非特許文献3】JAERI-Review 2001-027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、成形容易でかつ成形体が堅牢であり、さらなる機能の追加も実現できる金属シアノ錯体の複合体及びそれを用いた放射性セシウム吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は以下の手段により達成された。
1.主たる組成が下記一般式(1)で示される金属シアノ錯体と、金属原子を含む酸化物を混合、複合化処理して得られる金属錯体含有複合体。
xA[MB(CN)6y・zH2O (1)
[式中、MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。Aは一価もしくはそれ以上の陽イオンである。xは0〜3の数であり、yは1.5〜0.1の数であり、zは0〜30の数である。]
2.混合、複合化処理において、100℃以上200℃以下での加熱処理がなされる上記1に記載の金属錯体含有複合体。
3.混合、複合化処理において、バインダとして高分子材料を添加する上記1に記載の金属錯体含有複合体。
4.混合、複合化処理が他の構造物の表面又は内部において完結される上記1〜3のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
5.MA及びMBが鉄である上記1〜4のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
6.酸化物の主成分が酸化チタンである上記1〜5のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
7.酸化物として活性白土を含有する上記1〜5のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
8.1〜7のいずれかに記載の金属錯体含有複合体を用いた放射性セシウム吸着材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡便かつ量産可能な手法で製造が可能であり、かつ堅牢な金属シアノ錯体の複合体及びそれを用いた放射性セシウム吸着材が得られる。
複合化させる材料として、各種機能を持つ酸化物を利用することで、金属シアノ錯体の持つ機能と、酸化物の機能を併せ持った複合体が得られる。
所望の物性が付与された複合体は、特にセシウム吸着体としてその機能を最大限に発揮し、この種の材料のバリエーションを豊富化すると共に、アプリケーションの態様や機能の拡大に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に用いられる金属シアノ錯体の典型的な構造を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、酸化物は二種類の役割を果たすために金属シアノ錯体と複合化される。一つは、酸化物そのものがバインダとして機能し、有機物を含有するバインダを使用することなく金属シアノ錯体の成形が可能になる点である。前述の通り、有機物は放射線に対する耐久性が低く、放射性セシウム吸着後の耐久性に課題が生じる場合がある。また、複合体中の金属シアノ錯体が占める量を向上させることも可能となる。
【0012】
もう一つの酸化物の役割は、酸化物の持つ機能を複合体に新に付与することである。例えば、酸化物として磁性体を利用した場合、磁石に吸着する複合体を作製することが可能である。金属シアノ錯体の機能として、放射性セシウムの吸着を目的とする場合、吸着後の金属シアノ錯体は強い放射線を発することが想定され、人が直接取り扱うこと等が困難となる。しかしながら、複合体化により、磁性を持たせることにより、磁気を利用した遠隔操作等が可能となるため、被曝の危険性を低減させることができる。また、土壌に分散した放射性セシウムを吸着させ、植物への移行低減を目的とする際には、その吸着後の回収が課題となっているが、磁性を持たせることにより、磁石等による回収が可能となる。
【0013】
さらには、大気中に浮遊している放射性セシウムが雨等により地面や家屋等に付着することを防ぐには、放射性セシウム吸着材を保護シート等に具備させ、地面や家屋等保護すべきものを覆うことが考えられるが、その際には有機物等が同時に付着し、吸着材の機能が低下する恐れがある。この場合には、例えば酸化チタンや酸化タングステン等が有する光触媒機能や、超親水機能を付与することにより、有機物堆積による機能低下を防ぐことが可能となる。さらには、家屋等で利用する際には、吸着機能だけでなく、意匠性等も重要な機能となる。この場合には、顔料等の無機材料を添加することにより、吸着材の色を制御することが可能であり、意匠性制御にも効果がある。
このように、金属シアノ錯体と、酸化物を複合化することにより、耐久性や成形性等の直接的な放射性セシウム吸着性能の向上に資するだけでなく、磁性機能、光触媒機能、光学的機能等を付与することが可能となる。
【0014】
以下、本発明についてその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0015】
本発明における金属シアノ錯体は、金属原子MAと、MBが中心金属としてその周辺にシアノ基が配位した錯構造を構成要素に含んでいるものであり、それらを含めた総称として定義される。
その主たる組成を式(1)で表すことができる。
xA[MB(CN)6y・zH2O (1)
【0016】
式中、金属原子MAはバナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。
金属原子MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。
xは0〜3の数であり、特に0〜2の数であることが望ましい。yは0.1〜1.5の数であり、特に0.3〜1.1の数であることが望ましい。本発明においては、金属シアノ錯体は、水に懸濁、もしくは分散させて利用するため、zは特に限定されないが、乾燥時の一般的な値としては、zは0〜30をとる。
陽イオンAはその種類は特に限定されないが、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが好ましく、中でも、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンが特に好ましい。
式(1)の組成式で示される構造は、利用する金属シアノ錯体の主要な要素があればよく、望ましくは複合体中において、30重量%以上、さらには50重量%以上がこの組成で構成されることが望ましい。また、他の材料が添加されている場合、結果的にxやyの値が上記の望ましい範囲を逸脱することもあるが、そういった状況も本発明は含むものである。例えば、金属シアノ錯体に、塩化アンモニウムが等量添加されている場合には、Aとしてのアンモニウムイオンの量が2を超えることもあり得る。
また、必要に応じて、金属シアノ錯体結晶の表面を他の材料で処理したものを使用してもよい。特に、酸化物との結合を強める表面処理を行うことは有効である。また、溶媒への分散性を向上させる表面処理を行うことも有効である。これにより、酸化物とのより均一な混合を実現することが可能となる。
【0017】
本発明における酸化物は、その主たる組成が金属及び酸素を含む物であればよく、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、マグネタイト等の磁性体、活性白土、酸性白土等の粘土由来物質等が利用できる。それらの選択は、付与すべき機能により選択が可能である。例えば、堅牢性を重視する場合には、チタニア及び活性白土等が望ましい。磁性機能を付与する場合には、バリウムフェライトやストロンチウムフェライトが特に望ましく、光触媒機能や超親水性機能、光学的機能を付与する場合には、それぞれに応じたチタニアを利用することが望ましい。
なお、チタニアを酸化物の主成分とする場合、酸化物中でのチタニアの比率は50重量%以上とすることが望ましい。
【0018】
金属シアノ錯体、酸化物の比率については、金属シアノ錯体の比が重量比で20〜95%であることが望ましく、特に30〜90%であることが望ましい。
【0019】
また、酸化物の表面は、必要に応じて付加的な処理を施すことができる。例えば、酸化チタンを利用する場合、光触媒効果が不要な場合には、逆に光触媒効果により複合体の劣化が加速する恐れがある。この場合には、酸化チタンの表面をジルコニア、シリカ、アルミナ等で覆うことが有効である。また、溶媒への分散性を向上させる処理を施すことも、金属シアノ錯体とのより均一な混合を実現するためには有効である。
【0020】
また、本発明の複合体は必ずしも金属シアノ錯体及び酸化物のみで構成される必要はない。放射線耐久性等が問題にならない用途に利用する場合には、高分子等のバインダを合わせて利用することもあり得る。さらには、得られた複合体をシートや不織布等に吸着もしくは塗布すること等により、シート状の複合体としてもよい。酸化物の形状は、後述の通り、その製造法に合わせて選択することが重要である。
【0021】
本発明による金属シアノ錯体及び酸化物の複合体を製造するには、下記のいくつかの手法が可能である。
方法1.金属シアノ錯体と、酸化物の微粒子を水等の溶媒に懸濁もしくは分散させ、スラリー状とした上で成形し、加熱処理を行う。
方法2.金属シアノ錯体と、酸化物の微粒子を水等の溶媒に懸濁もしくは分散させ、スラリー状とした上で、シート等他の構造物に塗布もしくは吸着させた上で加熱処理を行い、構造物の表面又は内部において複合化を完結させる。
方法3.金属シアノ錯体と、酸化物の微粒子、高分子等のバインダを水等の溶媒に懸濁もしくは分散させ、乾燥処理等を行う。
【0022】
以下、各々の手法について詳細に説明する。
方法1の場合、金属シアノ錯体と酸化物が十分に混ざることが望ましく、各々が微粒子もしくはコロイド等の微細構造を持つことが望ましい。金属シアノ錯体としては、事前に合成したものを利用してもよく、懸濁もしくは分散させる溶媒中で共沈法等により析出させてもよい。事前に合成する場合には、顔料として市販されているものを利用することができる。また、共沈法や電解析出法等で合成したものを利用してもよい。粒径は、100μm以下が望ましく、30μm以下であることが特に望ましい。金属シアノ錯体の組成としては、上述のものが利用できるが、MAについては、鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、銀、チタン、クロムが望ましく、特に鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛が望ましい。MBについては、鉄、コバルト、クロムが望ましく、特に鉄が望ましい。また、MA、MBは二種類以上の元素を利用することもできる。二種類の元素を用いる場合、MA、MBともに好適であると示した元素の組み合わせを利用することが望ましい。
【0023】
利用する酸化物に特に制限はないが、金属シアノ錯体により酸化されること等が避けられる化学的安定性を持つことが必要となる。具体的には、上述の通り、目的とする用途によって使い分けることが望ましい。例えば、堅牢性を重視する場合には、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性白土等が望ましく、特に活性白土、チタニアが望ましい。磁気特性を付与することが目的の場合には、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、マグネタイト、ヘマタイト、もしくはそれらの派生物を利用することができる。光触媒特性を付与する場合には、酸化チタン、酸化タングステン等を利用できる。色等の光学特性を制御する場合には、酸化チタン、マグネタイト等の顔料用途で利用されている酸化物を利用することができる。
【0024】
これらを各種溶媒に懸濁もしくは分散させ、スラリー化を行う。利用する溶媒については、懸濁もしくは分散が可能であれば特に制限はないが、水、エタノール、メタノール、ブタノール、トルエン、酢酸エチル、オクタンもしくはそれらの混合物が利用できる。それらを混合する比については、特に制限はないが、溶媒の量を増やすと得られる複合体が多孔質的になり、例えばセシウム吸着性能は向上するが、堅牢性に関しては弱くなる。酸化物の量を増やすと堅牢性は増すが、金属シアノ錯体の量がへるため、吸着可能なセシウムの量は減る。これらのことから、用途に合わせた混合比の調整が必要である。また、磁性機能を付与する場合には、酸化物の量をあまり減らすことはできないこと等に注意を要する。具体的には、金属シアノ錯体、酸化物の混合比については、金属シアノ錯体の比が重量比で20〜95%であることが望ましく、特に30〜90%であることが望ましい。
【0025】
これらを利用しスラリーとするが、それを加熱処理する前に、脱水等の、溶媒を除去する処理を行ってもよい。例えば遠心分離法、吸引濾過法等が利用できる。この場合、スラリー内の溶媒の量が著しく低減し、流動性を失う場合もあるが、成形が可能であれば問題はない。また、このような脱溶媒処理を行う場合には、スラリー化の際の溶媒量をより多くすることも可能である。溶媒の、金属シアノ錯体及び酸化物の和に対する混合比については、このような脱溶媒処理を実施しない場合には、30%から200%が好ましく、50〜150%が特に好ましい。
【0026】
得られたスラリーを必要に応じて成形した後、加熱処理を行う。加熱温度は100℃から200℃の間が望ましく、特に110℃から180℃の間が望ましい。金属シアノ錯体は、概ね200℃から250℃付近で分解が加速するため、その温度を上回らないことが望ましい。加熱時間は十分に乾燥していれば特に問題はないが、一般的には長時間加熱処理を行った方が堅牢性が増す。具体的には5分以上が望ましく、特に15分以上が望ましい。必要な成形は、加熱後に行うことも可能である。例えば、微粉末を必要とする場合には、加熱乾燥後に破砕することで所望のものが得られる。
【0027】
方法2の場合、スラリー化する時点までは、方法1と同様の手法で進めることが可能である。ただし、塗布することが必要であるため、溶媒の量を増やし、流度を増すことが望ましい。具体的には、溶媒の、金属シアノ錯体及び酸化物の和に対する混合比については、50%から2000%が好ましく、100〜1000%が特に好ましい。
金属シアノ錯体−酸化物複合体を坦持させる構造物としては、スラリーの塗布等による吸着が可能であり、金属シアノ錯体により酸化されない等の化学的安定性があれば特に問わない。ただし、耐久性が必要な場合には、多孔質状のもの等、塗布後乾燥により、金属シアノ錯体−酸化物複合体が強固に密着することが望ましい。具体的には、セラミック、グラスファイバー及びそれを原材料とするシート等、表面のラフネスを向上させたステンレス等が利用できる。
【0028】
方法3は、高分子等のバインダが放射線耐久性に関する問題とならない場合には、複合体の耐久性をより向上させるために有効な手法である。分子バインダとしては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー、エチレン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロアルコキシアルカン(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコン樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、PVA(ポリビニルアルコール)等が利用できる。
【0029】
基本的には方法1、方法2で作製するスラリーに高分子を添加し、加熱等の乾燥工程を行うことで実現する。高分子は、スラリー作製時はモノマーを添加し、加熱や光照射により高分子化する工程をとってもよい。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0031】
(実施例1)
紺青顔料(商品名:ミロリブルー905、化学式はNH4Fe[Fe(CN)6]、大日精化工業株式会社製)100g、蒸留水200g、アルミナ(和光純薬製型番MPアルミナA、粒径50μm〜200μm)100gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で20分の加熱処理を行い、複合体1(5ミリ×5ミリ×5ミリの立方体ペレット)を作製した。
大日精化工業株式会社製のミロリブルー905を200g、蒸留水210g、酸化チタン(堺化学製型番GTR-100、粒径260nm)100gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で20分の加熱処理を行い、複合体2を作製した。
大日精化工業株式会社製のミロリブルー905を200g、蒸留水180g、酸化チタン(堺化学製型番GTR-100、粒径260nm)100g、シリカゾル(日産化学工業製型番スノーテックス30)5gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で20分の加熱処理を行い、複合体3を作製した。
大日精化工業株式会社製のミロリブルー905を200g、蒸留水210g、酸化チタン(石原産業製型番CR−97、粒径250nm)100gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で20分の加熱処理を行い、複合体4を作製した。
0.1M硫酸鉄と、0.1Mフェロシアン化ナトリウムを混合し共沈法にて鉄−鉄シアノ錯体(ベルリンホワイト)を析出後、遠心分離法により洗浄後、乾燥した試料を100g、蒸留水120g、酸化チタン(堺化学製型番GTR−100、粒径260nm)50gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で20分の加熱処理を行い、複合体5を作製した。
また、比較のため、紺青顔料(商品名:ミロリブルー905B、化学式はNH4Fe[Fe(CN)6]、大日精化工業株式会社製)200g、蒸留水220gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で20分の加熱処理を行って作製した、複合体0を準備した。
【0032】
これらの硬度の比較は爪の先でペレットを割ることと指の先で押し砕くことにより感覚的に判定した。また、スクリュー管瓶に人工塩水と共に入れて振ることにより水中での壊れやすさを判定した。その結果、複合体0に比べ、全ての試料で硬度は向上した。中でも、複合体5は最も高い硬度を示した。
【0033】
また、チタニアを利用した複合体2〜5は、紺青色を示す複合体1と比べ、薄い水色を呈した。これは、チタニアが白色顔料として販売されているものを利用しているため、その光学特性が、紺青色と白色の混色である水色になったと考えられる。
【0034】
(実施例2)
大日精化工業株式会社製のミロリブルー905を30g、蒸留水110g、活性白土(水沢化学製型番ガレオンアースV2)70gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で1時間加熱処理を行い、複合体6を作製した。
大日精化工業株式会社製のミロリブルー905を40g、蒸留水100g、活性白土(水沢化学製型番ガレオンアースV2)60gを混合し、スラリー化したのち、シリンジに充填、押し出すことにより成形を行った後に、150℃で1時間加熱処理を行い、複合体7を作成した。これらの硬度の測定は、実施例1で行った方法と同じように実施した。その結果は、複合体0より硬度が向上しており、さらには実施例1で作成した複合体1〜5よりも硬度が向上していた。
【0035】
(実施例3)
亜鉛−鉄シアノ錯体(Zn[Fe(CN)60.5・xH2O)を以下の通りに調製した。塩化亜鉛1.09gを水20mLに溶解した溶液に塩酸を少量加えpHを1.9に調節した水溶液と、フェロシアン化ナトリウム1.94gを水20mLに溶解した溶液を一気に混合し、3分間攪拌した。析出した亜鉛−鉄プルシアンブルー錯体の沈殿物を遠心分離で取り出し、これを水で5回洗浄後した。これを酸化チタン(堺化学製型番GTR-100、粒径260nm)と重量比3:1の割合で混練し、プラスティックシリンジに充填後、射出したのち切断することで粒状に成形した。射出物を150℃20分の条件で焼成することで、粒状物が得られた。すなわち、金属シアノ錯体の一種である亜鉛−鉄シアノ錯体(MA=亜鉛,MB=鉄)でも同様に金属原子を含む酸化物との複合化処理により粒状に成形することができた。
【0036】
(実施例4)
実施例2で得られた粒状体を使用してセシウムイオン吸着試験を行った。10mgの粒状体を1.3ppbのセシウムイオン濃度に調製した水溶液に添加し、600rpm120分の条件で振とうした。初期濃度と、遠心分離器で固液分離を行った上澄み液のセシウム濃度を測定した。5回の実験を行ったところ、吸着率はそれぞれ89.2%、90.8%87.7%、92.3%、92.3%となり、セシウムイオンの吸着が確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明により、金属シアノ錯体の成形が簡便となり、必要に応じて高分子バインダを使用しなくとも成形が可能になった。特に、放射性セシウム吸着を用途とした場合に、カラム用ビーズ、吸着用シート等、多彩な形成が可能となる。これにより、原子力発電により排出される放射性廃棄物処理における放射性セシウムの分離回収のみならず、環境中に放出された放射性セシウムの、各種水(用水、雨水、飲料水等)、土壌、家屋等建築物等幅広い対象からの放射性セシウムの分離回収が容易となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる組成が下記一般式(1)で示される金属シアノ錯体と、金属原子を含む酸化物を混合、複合化処理して得られる金属錯体含有複合体。
xA[MB(CN)6y・zH2O (1)
[式中、MAは、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。MBは、バナジウム、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、白金、及び銅からなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属原子である。Aは一価もしくはそれ以上の陽イオンである。xは0〜3の数であり、yは0.1〜1.5の数であり、zは0〜30の数である。]
【請求項2】
混合、複合化処理において、100℃以上200℃以下での加熱処理がなされる請求項1に記載の金属錯体含有複合体。
【請求項3】
混合、複合化処理において、バインダとして高分子材料を添加する請求項1に記載の金属錯体含有複合体。
【請求項4】
混合、複合化処理が他の構造物の表面又は内部において完結される請求項1〜3のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
【請求項5】
A及びMBが鉄である請求項1〜4のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
【請求項6】
酸化物の主成分が酸化チタンである請求項1〜5のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
【請求項7】
酸化物として活性白土を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の金属錯体含有複合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の金属錯体含有複合体を用いた放射性セシウム吸着材。

【図1】
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【公開番号】特開2012−250904(P2012−250904A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−104837(P2012−104837)
【出願日】平成24年5月1日(2012.5.1)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】