説明

金矢

【課題】狭い隙間で使用するに適した薄い形状でコンパクトな構成を有し、汎用性に富み、狭い場所でも取付作業がしやすく、容易にゆるむことがなく、固定対象物を安定して支える金矢とそれを用いる重量物の固定方法を提供する。
【解決手段】平行に配置され、それぞれが加重面5と傾斜面6を有する2本の加重受け部3と、それら加重受け部の端部をコの字形に結ぶ連結部4からなる同じ形の本体2を2個組み合わせ、ボルト・ナット9にて繋ぎ合わせた金矢1であって、2個の本体2はそれぞれの傾斜面6が互いに接触し、それぞれの連結部4が両端に位置するように向かい合わせに配置され、ボルト・ナット9は2本の加重受け部3が作る間隙の中に配置され、連結部4に設けたボルト受け座に掛け渡したボルト・ナット9を緊緩することにより2個の連結部4の距離を変化させることにより、2個の加重面5間の距離を変える金矢である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械装置やプラントの製造や建設の現場で重量物を固定するときに用いる金矢に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械装置やプラントの製造や建設の現場で、図4(a)に示すように大型の圧力容器などの重量物(以下「固定対象物」という。)を一時的に固定する方法として、従来より図4(b)に示す金矢(鋼製のくさび)が用いられてきた。
【0003】
木製のくさびと異なり金矢は弾力性が乏しいため、振動等が加えられるとゆるむ場合があり、脱落したり、脱落しないまでも固定の状態を維持できないことがあった。また、固定対象物やその対象物が固定される側の構造物(以下「固定用構造物」という。)に面で接触することが難しかったので、安定性を欠いたり、局部的に過大な応力が掛かって固定対象物を傷を付けることもあった。また、取付時にハンマーを用いるので、狭い場所では作業がしにくいと言う問題もあった。
【0004】
これらの改善策を求めて、特許電子図書館にアクセスしたが、「金矢」を改良した発明は見あたらなかった。
【0005】
一方、平面的な基礎や台座の上で重量物を正確な設置高さに維持する装置として「レベリング・ブロック」があり、重量物を所定の位置に固定するという点では類似の技術といえる。例えば、以下に記載した特許文献1乃至3である。
【特許文献1】特開2008−87139号公報
【特許文献2】特開2006−263899号公報
【特許文献3】特開2000−334631号公報
【0006】
これらレベリング・ブロックは、いずれも、設置される重量物に対応してその基礎と一緒に設計・製作されるので一品生産的な面があり、機械装置やプラントの製造や建設の現場で汎用的に使うのは適さない。
また、強度や作業員の操作の面から、必要に応じた十分大きな加重面間の距離を採ることができる構成となっており、従来金矢を使っていた狭い隙間、例えば30mm程度の隙間に挿入するには適さない大きさとなっている。さらに、多数の種類の構成部材の組み合わせから成り、構造的にも複雑で、高価でもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
狭い隙間で使用するに適した薄い形状で、少ない種類の構成部材の組み合わせからなる、コンパクトな構成を有し、安価で、汎用性に富み、狭い場所でも取付作業がしやすく、振動等が加えられても容易にゆるむことがなくて固定の状態をしっかり維持でき、固定対象物を安定して支え、局部的に過大な応力を掛けることが少ない金矢と、それを用いる重量物の固定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、平行に配置され、それぞれが加重面と傾斜面を有する2本の加重受け部と、それら加重受け部の厚肉側の端部をコの字形に結ぶ連結部からなる同じ形の本体を2個組み合わせ、ボルト・ナットにて当該2個の本体を繋ぎ合わせた金矢であって、
当該2個の本体は、それぞれの加重受け部の傾斜面が互いに接触し、それぞれの連結部が当該金矢の両端に位置するように、向かい合わせに配置され、
当該ボルト・ナットは平行して配置された当該2本の加重受け部が作る間隙の中に配置され、
それぞれの当該連結部に設けたボルト受け座に掛け渡した当該ボルト・ナットを緊緩することにより当該2個の本体のそれぞれの連結部の距離を変化させることにより、当該2個の本体の加重面間の距離を変える金矢である。
【0009】
従来のレベリング・ブロックでは、例えば上記の特許文献2に示すように、基本的に、基礎の上に据える本体(基体)と、その上を移動し上面に傾斜面を有するくさび(移動勾配体)と、そのくさびの傾斜面に接した斜面を持つ加重受け部(昇降勾配体)と、くさびを動かす機構と、それらを収納するための壁などの各種部材の組み合わせから成っている。
これに対し、本発明の金矢は、平行に配置された2本の荷重受け部とそれをコの字形に結ぶ連結部より成る同じ形の本体2個と、それらを繋ぐボルト・ナットの組み合わせである。
【0010】
コの字形の2本の平行部分を成す加重受け部は、連結部から遠くなるほど厚さが薄くなるくさび状を成している。すなわち、コの字形の本体の片面は全体が平面であり、その反対側では加重受け部が先端に行くほど厚さが薄くなる傾斜面となっている。全体が平面の側が固定対象物やその対象物が固定される側の構造物、すなわち、固定用構造物に接触する加重面となり、傾斜面の側はもう一つの本体の傾斜面と互いに接触し、両本体を繋ぐボルト・ナットの緊緩によりお互いに摺動する。
【0011】
くさび状の加重受け部の傾斜面は同じ角度で傾いているから、2個の本体をそれぞれの連結部が金矢の両端に位置するように向かい合わせに配置し、それぞれの加重受け部の傾斜面が互いに接触させると、それぞれの加重面は常に平行に保たれる。
【0012】
一方、2個の本体を繋ぐボルト・ナットは2本の加重受け部が作る間隙の中に配置され、そのボルト・ナットの位置に対応してそれぞれの連結部に設けたボルト受け座に掛け渡たされる。そのボルト・ナットを緊緩することにより2個の本体のそれぞれの連結部の距離が変化し、2個の本体はそれぞれの傾斜面を接触させているから、連結部の距離が変化すれば傾斜面での摺動が生じ、2個の本体の加重面間の距離が変わる。
【0013】
固定対象物と固定用構造物との間に本発明の金矢をボルト・ナットが緩んだ状態、すなわち、加重面間の距離が小さい状態で挿入し、ボルト・ナットを締めることにより加重面間の距離を大きくして、固定対象物を固定する。
【0014】
この構成により、従来の金矢に比べて、ボルトの張力により常に加重面には圧力が掛かっているので緩みにくく、固定の状態をしっかり維持できる。また、固定対象物および固定用構造物に面で接触することができるので、安定性があり、局部的に過大な応力をかけることが無い。さらに、取付時にハンマーを使用しないので、狭い場所でも作業がしやすい。
【0015】
さらに、2本の加重受け部の間にボルト・ナットを収納するように配置することにより、狭い場所(間隔)で使用するのに適した薄い形状に作ることができ、2個の同じ形状を有する本体とボルト・ナットの組み合わせであるから、少ない種類の部材からなるコンパクトな構成を有する。ボルト・ナットは汎用品を用いることができるから、同じ形の本体を多数準備しておけば、機械装置やプラントの製造や建設の現場で汎用的に使用することができ、安価でもある。
【0016】
また、本発明の金矢を用いて重量物を固定させる方法を用いれば、狭い場所でも容易に取付作業ができ、振動等があっても容易に緩むことが無く、固定状態をしっかり維持できるので、製造や建設の作業を安全にスムースに行なうことができる。さらに、固定状態をしっかり維持できるので作業の精度が上がり、また、固定対象物や固定用構造物に面で接触するので、それらに局部的に過大な応力を掛けて傷つけると言うことも少なく、無用な修正作業や補修作業を低減できる。
【発明の効果】
【0017】
以上に説明した通り、本発明の金矢は、振動等が加えられても容易に緩むことが無くて固定の状態をしっかり維持することができ、固定対象物を安定して支え、局部的に過大な応力を掛けることが少ない。また、狭い場所での使用に適した薄い形状であり、少ない種類の構成部材の組み合わせからなるコンパクトな構成を有し、安価で、汎用性に富み、狭い場所でも取付作業がしやすいという効果を有する。
【0018】
また、本発明の金矢を用いて重量物を固定させる方法を用いれば、上記の効果に加えて、固定状態をしっかり維持できるので、製造や建設の作業を安全でスムースに行なうことができ、作業の精度が上がる。また、固定対象物や固定用構造物に局部的に過大な応力を掛けて傷つけると言うことも少ないので、無用な修正作業や補修作業を低減できると言う効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明をする。なお、本発明はかかる実施の形態には限定されず、本発明の範囲内でその具体的構造に種々の変更を加えて良いことは言うまでもない。
【0020】
図1は、本発明にかかる金矢の一つの実施例の平面図と側面図、図2はそのボルト・ナットを締めて加重面間の距離を大きくした状態の側面図、図3は金矢本体の構造図、図4は金矢を使って固定している状況の説明図である。
【実施例1】
【0021】
図1に示すように、本実施例の金矢1は同じ形の2個の本体2をボルト・ナット9で繋ぎ合わせた形になっている。
【0022】
本体2の構造を図3に示す。本体2は平行に配置された2本の加重受け部3とそれをコの字形に結ぶ連結部4から成り、加重受け部3は連結部4から遠くなるほど薄くなるくさび状を成している。すなわち、図3(c)に示すように、本体の片面5は加重受け部3および連結部4の全体が平面をなし、反対側の面では加重受け部3が先端に行くほど厚さが薄くなる傾斜面6となっている。
【0023】
全体が平面の面5が固定対象物や固定用構造物に接触する加重面となり、傾斜面6は図1に示すように、もう一つの同じ形の本体2の傾斜面6と互いに接触するように配置される。二つの本体2を組み合わせた際に、両方の加重受け部3の傾斜面6は同じ角度で傾いているから、この様に2個の本体2をそれぞれの連結部3が金矢1の両端に位置するように向かい合わせに配置し、それぞれの傾斜面6を接触させると、それぞれの加重面5は自ずと平行に保たれることとなる。
【0024】
本体2の連結部4にはボルト受け座7が設けられる。ボルト受け座7の位置は、そこに掛け渡されたボルト9aが平行に配置されて2本の加重受け部3が作る間隙8の中に収まる位置とする。この構成を取ることにより、従来のレベリング・ブロックのようにくさびや加重受け部を収納する箱形の基体がなくても2個の本体がずれることが無く、簡単な構成で、安定した取り扱いやすい装置とすることができ、また、狭い隙間でも挿入が可能な薄い形状に仕上げることができる。
【0025】
なお、ボルト受け座7は、本実施例では片側を解放したU字型に構成されているが、円形の穴でも良い。U字型にすれば、取り外しの際に容易に分解できるという利点がある。
【0026】
ボルト・ナット9は、1本のボルト9aと、それぞれ2個のナット9bおよびワッシャ9cの組み合わせで示したが、緊緩により連結部4の距離を変えられるものであれば良い。特別な仕様を要求されるものではないので汎用品を用いればよく、単純に製作できる本体2との組み合わせで安価に製作できる。また、本体2をたくさん作っておけば、どこの現場でも簡単に組立てて金矢1とすることができ、汎用性に富んでいる。
【0027】
図1(b)は、ボルト・ナット9を緩め二つの加重面5間の距離が最も狭くなった状態を示している。この状態で、固定対象物と固定用構造物の間に挿入し、ボルト・ナット9を締めると図2に示すように、2個の本体2は互いに接触している傾斜面で摺動し、加重面5間の距離が増大して、固定対象物を固定させる。
【0028】
2個の本体2を繋ぎ合わせるボルト・ナット9を2本の加重受け部3が作る間隙8の中に収納していることに加え、固定対象物と固定用構造物の間の狭い隙間に挿入されるので、作業中にバラバラになったりすることが無く、取付および固定作業は容易に行なうことができる。
【0029】
この構成により、ボルト9aの張力により常に加重面5には圧力がか糧いるので緩みにくく固定の状態をしっかり維持することができる。また、固定対象物や固定用構造物に面で接触することができるので、安定性があり、局部的に過大な応力を掛けることがない。
【0030】
本実施例の金矢1を用いて重量物の固定作業を行なえば、従来の金矢のように取付時にハンマーを使用することがないので、狭い場所でも容易に取付作業ができ、固定状態をしっかり維持できるので製造や建設の作業を安全でスムースに行え、作業の精度が上がる。また、固定対象物や固定用構造物に局部的に過大な応力を掛けて傷つけると言うことも少ないので、無用な修正作業や補修作業を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、機械装置やプラントの製造や建設の現場で重量物を固定するときに汎用的に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかる金矢の一つの実施例の平面図と側面図である。
【図2】そのボルト・ナットを締めて加重面間の距離を大きくした状態の側面図である。
【図3】金矢本体の構造図である。
【図4】金矢を使って固定している状況の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 金矢
2 本体
3 加重受け部
4 連結部
5 加重面
6 傾斜面
7 ボルト受け座
8 加重受け部の作る間隙
9 ボルト・ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に配置され、それぞれが加重面と傾斜面を有する2本の加重受け部と、それら加重受け部の厚肉側の端部をコの字形に結ぶ連結部からなる同じ形の本体を2個組み合わせ、ボルト・ナットにて当該2個の本体を繋ぎ合わせた金矢であって、
当該2個の本体は、それぞれの加重受け部の傾斜面が互いに接触し、それぞれの連結部が当該金矢の両端に位置するように、向かい合わせに配置され、
当該ボルト・ナットは平行に配置された当該2本の加重受け部が作る間隙の中に配置され、
それぞれの当該連結部に設けたボルト受け座に掛け渡した当該ボルト・ナットを緊緩することにより当該2個の本体のそれぞれの連結部の距離を変化させることにより、当該2個の本体の加重面間の距離を変える金矢。
【請求項2】
請求項1記載の金矢を用いて重量物を固定させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−94770(P2010−94770A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266945(P2008−266945)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(593162361)日本建設工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】