説明

針キャップ用ゴム組成物

【課題】要求される特性が全く異なるγ線滅菌とEOG滅菌処理に対してともに利用可能なキャップを作製できるゴム組成物を提供する。
【解決手段】ベースポリマー中の70〜100質量%がエチレンプロピレンジエンゴムである注射筒先端に装着された針を保護する針キャップ用ゴム組成物に関する。エチレンプロピレンジエンゴムは、ベースポリマー中100質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射器等の針キャップを作製するためのゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、注射器等医療用器具は、蒸気滅菌を始めとした何らかの滅菌処理を施した後に、医療機関等へ納品される。滅菌処理としては、たとえば高圧蒸気滅菌の他に、γ線滅菌、電子線滅菌、EOG(工チレンオキサイドガス)滅菌等が知られている。近年、高圧蒸気滅菌と比較して極めて厳しい条件下での殺菌であるγ線滅菌処理やEOG滅菌処理が増加してきている。これらのγ線滅菌やEOG滅菌処理は、注射器の針部に針キャップを装着した状態で殺菌される。
【0003】
特許文献1では、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコンゴムなどのゴム材料からなるシリンジ損傷防止キャップが提案されている。しかしながら、EOG滅菌処理において、猛毒のEOGガスを滅菌後に確実に除去するために、空気透過性の高いイソプレンゴム(IR)やブタジエンゴム(BR)を使用すると、その分子構造内に不飽和結合を多く有するので、逆にγ線滅菌時の放射線照射を受けるとゴムが劣化してしまうという問題がある。一方、γ線滅菌処理において、γ線などの放射線に対する耐性のために、滅菌不飽和結合が少なくラジ力ル電子の攻撃を受けにくいブチルゴム(IIR)を使用すると、空気が抜けにくい性質を有しているため、猛毒のEOGガスの透過性に劣り、EOGガスが充分に除去できなくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−125205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、要求される特性が全く異なるγ線滅菌とEOG滅菌処理に対して利用可能な注射器の針キャップに使用されるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、ベースポリマー中の70〜100質量%がエチレンプロピレンジエンゴムである注射筒先端に装着された針を保護する針キャップ用ゴム組成物に関する。
【0007】
ベースポリマー中の100質量%がエチレンプロピレンジエンゴムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、エチレンプロピレンジエンゴムを使用することで、特殊な条件下にさらされる注射筒先端に装着された針を保護する針キャップにおいて、耐γ線性と気体透過性の両特性を両立することができ、γ線滅菌とEOG滅菌処理に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】針キャップの断面図(a)と全体図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の針キャップ用ゴム組成物は、ベースポリマー中の70〜100質量%がエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)である。ベースポリマー中のEPDMの含有量の下限は、70質量%であるが、80質量%が好ましく、100質量%がより好ましい。70質量%未満では、γ線滅菌時の放射線照射を受けるとゴムの劣化が顕著になる傾向がある。
【0011】
針キャップは、注射器等医療器具のある部分に組み込まれた状態で一緒に滅菌処理される。特にγ線滅菌処理の場合、殺菌されると同時に、ゴム製品自体も劣化してしまう場合が多い。ゴムが劣化すると、ゴム材質によっては「日本薬局方輸液用ゴム栓試験法」の「溶出物試験」が不合格になる可能性がある。一方、EOG滅菌処理の場合、例えば、注射筒の先端に装着された針に「針キャップ=ニードルキャップ」と呼ばれるゴム製品を被せた状態で滅菌処理されるが、キャップを被せた針や注射筒先端を滅菌するためには、「針キャップ」をEOGガスが通過して内部にガスが到達する必要がある。また、EOGガスは猛毒で反応性が高いため、ガスが残留したままだと薬剤が変性失活する恐れがあるので、滅菌が終了した後はガスが速やかに注射筒から抜ける必要がある。このような観点から、本発明では、ガスの透過性が高く、γ線による劣化の小さいエチレンプロピレンジエンゴムを使用する。
【0012】
本発明の針キャップ用ゴム組成物は、架橋剤を含有する。架橋剤としては、過酸化物系架橋剤などが挙げられる。過酸化物系架橋剤としては、ターシャリーブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどが挙げられる。架橋剤の配合量は、ベースポリマー100質量部に対して、1.0〜3.0質量部が好ましく、1.5〜2.5質量部がより好ましい。1.0質量部未満であると、架橋量が少なくなり、針キャップ製品の強度が弱くなる傾向があり、3.0質量部を超えると、未反応の架橋剤が多くなり、滅菌時に薬への溶出量が多くなる傾向がある。
【0013】
本発明の針キャップ用ゴム組成物は、ベースポリマー以外に、ゴム組成物の製造に一般に使用される添加剤を配合することができる。たとえば補強用充填剤、老化防止剤、オイルなどの軟化剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、ワックス、加硫促進剤、加工助剤などを適宜配合することができる。
【0014】
補強用充填剤としては、シリカ、カーボンブラック、タルク、焼成クレー、酸化チタンなどが挙げられ、特にタルク、焼成クレー、酸化マグネシウム、酸化チタンなどが好ましい。充填剤の配合量は、ベースポリマー100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、3〜40質量部がより好ましい。
【0015】
針キャップとは、図1に示すように注射筒先端の針基に装着されて、針基に存在する注射針を保護するものであって、通常、材質はプラチックまたはゴムである。EOGガス滅菌が多く採用されると、ガス透過性の高いゴムが多く使用される。図1(a)が断面図で、(b)が全体図であり、断面図からわかるように、中心部に注射針のための空洞が形成されている。注射器に針キャップをした状態で滅菌されるものとしては、たとえばプレフィルドシリンジが挙げられる。針キャップは、その上に針ケースが装着される場合もある。
【0016】
γ線滅菌処理とは、最終状態の製品にγ線を照射して滅菌させる処理をいう。γ線の照射線量は25〜40kGyであることが好ましく、30〜40kGyがより好ましい。25kGy未満であれば、滅菌処理が不十分となり、40kGyを超えると、針キャップ用ゴムの劣化が大きくなる傾向がある。
【0017】
EOG滅菌処理とは、エチレンオキサイドガスの雰囲気下で、機器を滅菌する方法である。エチレンオキサイドガスの濃度は、450〜550mmg/lであることが好ましく、450〜500mmg/lであることがより好ましい。550mmg/lを超えると、滅菌後、EOGガスの残留濃度が高くなる傾向がある。
【実施例】
【0018】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0019】
以下に、実施例及び比較例で用いた各種薬品について説明する。
イソプレンゴム:日本ゼオン(株)製のニッポールIR2200GA
ブチルゴム:日本ブチル(株)製のHT−1066
エチレンプロピレンジエンゴム:三井化学(株)製のEPT9090M
酸化マグネシウム:協和化学工業(株)製のキョウマグMF150
酸化チタン:石原産業(株)製のタイペークA100
老化防止剤:共同薬品(株)製のソグノックス1076PW
焼成クレー:BASF Catalysts LLC社製のサテントンW
タルク:Luzenuc America/Rio Tinto Minerals社製のミストロンCB
ターシャリーブチルパーオキサイド:日油(株)製のパーブチルL
硫黄系架橋剤:三協化成(株)製のジスネットDB
【0020】
実施例1〜2および比較例1〜2
表1に示す配合割合に従って、密閉式混練機あるいはオープンロールにより混練し、未加硫ゴム配合物を得た。この未加硫ゴム配合物を、所定の成形金型を用い155℃で加圧・加熱することで架橋させることにより、下記2種類の成形加硫品を得た。
(1)ガス透過性試験用サンプル
厚み約1.0mm、110mm×240mmの加硫スラブシート
(2)γ線照射前後の溶出物試験用サンプル
「針キャップ」の形状をした成形金型を使用した成形加硫品
【0021】
【表1】

【0022】
得られた成形加硫品を用いて、以下の評価を行った。その評価結果を、表2および3に示す。
【0023】
サンプル評価方法
(1)ガス透過性試験
厚み約1.0mm、110mm×240mmの加硫スラブシートを使用して、JIS K7126に従い、透過性試験を実施した。
酸素透過度と空気透過度の2種類を算出した。数字が大きいほど、ガス透過度が高くなる。
【0024】
(2)γ線照射前後の溶出物試験
「針キャップ」形状サンプルに、γ線40kGyを照射し、照射サンプルと未照射サンプルの両者に対し、日本薬局方「輸液用ゴム栓試験法 溶出物試験」を実施した。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
ベースポリマーがイソプレンゴム(IR)である比較例1のゴム組成物では、ガス透過度の数値が高くガス透過性には優れるため、EOGガス滅菌には対応可能なゴム材質である。しかしながら、溶出物試験の結果からわかるように、γ線を照射すると溶出物試験の「KMnO還元性物質」が不合格となってしまうため、γ線滅菌ができない。
【0028】
また、ベースポリマーがブチルゴム(IIR)である比較例2のゴム組成物では、γ線を照射した後でも溶出物試験は合格となり耐γ線に優れている。しかしながら、ガス透過度が非常に低く、ガスを通しにくいため、EOGガス滅菌には使用することができない。
【0029】
一方、実施例1および2のゴム組成物では、ガス透過度は比較例1のイソプレンゴム(IR)と比較するとわずかに低いが、比較例2のブチルゴムよりははるかにガス透過度が高く、EOGガス滅菌にも対応可能である。また、γ線を照射した後であっても、溶出物試験の各項目は問題なく、γ線滅菌にも使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースポリマー中の70〜100質量%がエチレンプロピレンジエンゴムである注射筒先端に装着された針を保護する針キャップ用ゴム組成物。
【請求項2】
ベースポリマー中の100質量%がエチレンプロピレンジエンゴムである請求項1記載の針キャップ用ゴム組成物。

【図1】
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