釣り用穂先竿、及び釣竿
【課題】屈撓性が良好で、大撓みしても破損し難い釣り用穂先竿を提供する。
【解決手段】本発明は、軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで形成される中実状の釣り用穂先竿20を有している。釣り用穂先竿20は、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部における樹脂含浸量よりも多く、かつ径方向に沿って、連続的に樹脂含浸量が変化している。
【解決手段】本発明は、軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで形成される中実状の釣り用穂先竿20を有している。釣り用穂先竿20は、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部における樹脂含浸量よりも多く、かつ径方向に沿って、連続的に樹脂含浸量が変化している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用穂先竿、及び、そのような釣り用穂先竿を有する釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、釣竿の穂先竿は、魚信感度を向上するために、撓み易く、かつ、魚がかかったときに大きく撓んでも破損しないように構成されていることが好ましい。通常、穂先竿のような部材に荷重が作用した際の曲げの変位は、曲げモーメントによる変位と、せん断力による変位の和で表されることが知られている。せん断力に関しては、せん断弾性率が小さくなれば、それに反比例してせん断変位が増大するという特徴がある。ここで、穂先竿のような部材に荷重が作用した際のせん断力を見ると、中心領域のせん断応力が高くなるのであり、所定の曲げ剛性を確保するためにせん断弾性率を大きくすると、曲がり難い穂先竿になってしまう。
【0003】
しかし、穂先竿は、ある程度の曲げ剛性が確保された状態で、屈撓性が良く大撓みしても破損等しないような特徴であることが好ましい。このため、例えば、特許文献1に開示されているように、せん断変位に曲げ剛性を低くする役割を持たせることで、大きな曲率(大撓みを許容する)を得るようにした穂先竿が開示されている。具体的には、穂先竿を、半径方向において複数の繊維強化樹脂層で構成すると共に、内層側の強化繊維比率(マトリックス樹脂に対する強化繊維の比率)を小さくすること、換言すれば、内層側に樹脂含浸量が多い繊維強化樹脂層を配設することにより、中心領域のせん断変位を増大させ、粘りのある屈撓性の良好な穂先竿が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−276897号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した公知の穂先竿は、内層側の強化繊維比率を低く(樹脂含浸量を多く)し、外層側の強化繊維比率を高く(樹脂含浸量を少なく)したことで、屈撓性の向上は図れるものの、大撓みした際に、各層間で層間剥離が発生して破損等が生じ易いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、屈撓性が良好で、大撓みしても破損し難い釣り用穂先竿、及び釣竿を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明は、軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで形成される中実状の釣り用穂先竿であって、前記釣り用穂先竿は、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部における樹脂含浸量よりも多く、かつ径方向に沿って、連続的に樹脂含浸量を変化させたことを特徴とする。
【0008】
上記した構成の穂先竿は、軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで中実状に形成されている。この場合、穂先竿は、複数の強化繊維束(多数の強化繊維が引き揃えられて束状に構成される)を引出しながら合成樹脂を含浸させると共に、各強化繊維束を集合させて中実状になるように金型を通過させて行き、更に、加熱することで合成樹脂を硬化せしめ、最終的に1本の中実体の構造を得ることが可能である。
【0009】
このような工程において、例えば、各強化繊維束を引出して金型を通過させるに際し、複数の強化繊維束を周囲に配置し、かつ中央部分に、樹脂含浸量が多い強化繊維束を配置したり、或いは中央部分に合成樹脂製の紐を引出すこと等により、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量を、表層部における樹脂含浸量よりも多くした中実状の穂先竿とすることが可能となる。
【0010】
そして、このように中心部分における樹脂含浸量が多くなることで、穂先竿が大撓みした際に、中心部におけるせん断変位を増大させることが可能となって、屈撓性に優れた穂先竿とすることが可能となる。また、前記いずれかの位置の横断面における樹脂含浸量については、径方向に沿って連続的に変化した状態になっているため、上記した公知文献にあるように、半径方向に複数の強化繊維層が存在することによる層間剥離が生じることはなく、大撓みした際の破損を効果的に防止することが可能となる。
【0011】
なお、ここでの「連続的な変化」とは、穂先竿のいずれかの断面で半径方向を見た際、樹脂含浸量が極端に変化する部分がなく(異なる繊維強化樹脂層の境界部分のように極端に変化する部分がない)、半径方向に亘って、その変化率が5%以下となるような状態を意味する(境界部分が存在すると、その位置における樹脂含浸量の変化率は急激に変化する)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、屈撓性が良好で、大撓みしても破損し難い釣り用穂先竿、及びそのような釣り用穂先竿を有する釣竿を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る穂先竿を有する釣竿の全体図。
【図2】本発明の一実施形態に係る穂先竿の側面図。
【図3】図2の穂先竿の中実体を構成する強化繊維芯体の断面図。
【図4】図2のA−A線(この位置は任意である)に沿った横断面の模式図。
【図5】穂先竿の断面における強化繊維の含有量の測定位置、その測定結果、及び測定結果示したグラフ。
【図6】穂先竿の横断面の寸法関係を示す概略図。
【図7】穂先竿の中実体の横断面を示した写真(周方向の樹脂含浸量が均等でない状態を示した写真)。
【図8】穂先竿の中実体の横断面を示した写真(周方向の樹脂含浸量が均等の状態を示した写真)。
【図9】図2の穂先竿の中実体を構成する強化繊維芯体の別の構成を示す断面図。
【図10】図2の穂先竿の中実体を構成する強化繊維芯体の更に別の構成を示す断面図。
【図11】図2に示す穂先竿の任意位置における縦断面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る釣り用穂先竿の一実施形態について、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1は本発明に係る外ガイド付き継式釣竿(例えば、磯竿)1の側面図であり、元竿10と、複数の中竿12と、穂持竿18と、穂先竿20とが振出式に継ぎ合わされている。無論、並継式や逆並継式であってもよい。これら各竿杆は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等の合成樹脂をマトリックスとし、炭素繊維等の強化繊維で強化した繊維強化樹脂製竿杆である。
【0016】
図2には穂先竿20が示されており、ここでの穂先竿20はそれを構成する中実体20Aの後端部20aに穂持竿18の中空体18aを接続している。以下、穂先竿を中実製という場合は、この例のように、中実体20Aが少なくともトップガイドG20を有する穂先竿先端から最も近接している第1の外ガイドg1よりも後方にまで至っているものをいう。
【0017】
各竿杆12,18,20の先端部には外ガイド12G,18G,20G(トップガイド)が固定されており、その他、穂先竿20には図2に示されるようにその途中位置に遊動式の第1および第2の外ガイドg1,g2が装着されている。従って、各竿杆を振出式に収納して仕舞うことができる。なお、図中、参照符号22はリールであり、また、参照符号12g,18gは中竿12および穂持竿18にスライド可能に設けられる移動式のガイドである。
【0018】
以下、図2を参照しつつ、穂先竿20を構成する中実体20Aの構造形態を説明する。中実体20Aの寸法形態は、先端の直径(0.7mm)と、接続後端部20aを除いた前細テーパ部の基部の直径(1.9mm)との差を、その間の長さ(500mm)で除したテーパ率が、0.0024である。また、トップガイド20Gに最も近接している第1の外ガイドg1の装着位置は、穂先竿20の先端90から105mm後方位置である。また、第2の外ガイドg2も中実体20Aの領域に設けている。
【0019】
中実体20Aは、全ての強化繊維(補強繊維)が軸長方向指向の、所謂、ソリッド体で形成されている。この場合、多数の強化繊維から成る強化繊維束を複数束集合させ、例えばポリエステル樹脂をマトリックスとした繊維強化樹脂製穂先竿としている。強化繊維としては、主に炭素繊維などが用いられ、引張弾性率は10000kgf/mm2(98000N/mm2)〜40000kgf/mm2(392000N/mm2)の範囲内のものが使用される。また、強化繊維束における合成樹脂の含浸量については、最終的に横断面を見た際に、中心部の樹脂含浸量が多い状態で40〜70重量%の範囲内となっていれば良い。
【0020】
この場合、合成樹脂の含浸量については、成形品となった穂先竿のいずれかの位置における横断面を見た際に、露出した樹脂の部分と繊維の部分の面積比率によって特定することが可能である。すなわち、断面を切った状態で、単位面積内に表れる合成樹脂の部分と強化繊維の部分の面積を比較することで、樹脂含浸量(繊維含有率;VF)を特定することが可能である。また、各強化繊維束を構成している個々の繊維径については、約6〜10μmである。さらに、各強化繊維束は、例えば、12000本の強化繊維を束ねて構成されており、そのような繊維束を複数本集合させて中実体20Aが構成される。
【0021】
上記したように、本発明では、いずれかの位置で断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部よりも多くなるように中実体を形成する。以下、このような中実体を製造するための工程例について説明する。
【0022】
中実体20Aは、例えば、引き抜き成形法によって製造される。すなわち、中実体20Aを構成する強化繊維束(繊維芯体)80は、図3に示すように、周囲に4本(無論、それ以上の本数であっても良いし、3本であっても良い)の強化繊維束50を配置すると共に、中央部に、その周囲に配置された強化繊維束50よりも樹脂含浸量が多い1本の強化繊維束51を配設しつつ、これらを集合させることで中実体が構成される。
【0023】
具体的には、ボビン等から引出した強化繊維束50,51を、合成樹脂が貯められた含浸槽中に通して通量の合成樹脂を含浸させた後(中心に位置する強化繊維束51には強化繊維束50よりも多くの樹脂を含浸させる)、同心円上に配置したガイドを通して金型に引き抜き、金型に絞り込んで樹脂をしごき各強化繊維束を密着させる。このとき、加熱工程により、各強化繊維束50,51は、密着状態で樹脂が流出して一体化され、1本の中実体が成形される。そして、そのようにして成形されたものを所望の長さに切断してテーパ加工(砥石研磨加工)することにより、中実体(穂先竿)20Aが形成される。
【0024】
これにより、穂先竿の横断面における半径方向には、公知技術のような複数の繊維強化樹脂層が存在しないことから、層間剥離が生じない穂先竿構成が得られる。また、合成樹脂の含浸量については、中央に合成樹脂を多く含浸させた強化繊維束51を配置したことで中心部が樹脂リッチな状態となっており、これにより中心部から表層部に向けて、樹脂含浸量が「連続的に変化」する構成が得られるようになる。すなわち、このような工程で得られる中実体は、いずれかの断面で半径方向を見た際に、複数の層が形成されないことから、樹脂含浸量が極端に変化する部分がなく、また、径方向に亘って、樹脂含浸量の変化率(ここでは、径方向に沿って任意位置において隣接する単位面積あたりの樹脂含浸量を比較した場合の変化率となる)が5%以下となるような状態が得られるようになる。
【0025】
ここで、図4から図6を参照して、上記した合成樹脂の含浸量について、具体的に説明する。
【0026】
図4は、図2のA−A線(この位置は任意である)に沿った断面の模式図である。この図に示すように、穂先竿20は、上記した製造工程を用いることで、中心部Cにおける樹脂含浸量が、表層部Sにおける樹脂含浸量よりも多くなった状態となっている。なお、樹脂含浸量については、単位面積当たりの合成樹脂と強化繊維の面積比率で特定することができ、そのように特定される中心部Cの領域の合成樹脂の含浸量が、同様にして特定される表層部S側の合成樹脂の含浸量よりも多くなっていれば良い(ここでの中心部Cの領域は、図6に示すD/5の範囲内であり、表層部S側の領域は図6に示すD/10の範囲内となる)。
【0027】
具体的には、上述した製造工程により、図5に示すように、穂先竿の横断面の直径をDとした場合(この位置ではDは2.04mmとなっている)、直径方向において、任意位置で強化繊維の含有量VF(合成樹脂含浸量の反対値)を測定すると、その中心部におけるVFが最も少なく(合成樹脂含浸量がもっとも多い)、表層側に移行するに従って、大きな変位点を生じることなく連続的にVFが多くなった構成が得られる。すなわち、径方向における任意の位置において、合成樹脂含浸量を測定し、その測定位置をプロットしてグラフ化すると(近似曲線を引く)、図に示すように、極端に変化する部分がない(大きい変曲点がない)滑らかな湾曲線が得られる。
【0028】
これにより、屈撓性に優れ、大撓みしても、その内部で層間剥離が生じることはなく、破損等が生じ難い穂先竿が得られるようになる。
【0029】
なお、上記した構成では、図6に示すように、任意位置における穂先竿の断面の直径をDとした場合、中心部Cを中心としたD/5の範囲内における樹脂含浸量が、表面からD/10の範囲内の樹脂含浸量に対して、10%以上多くなるように構成することが好ましい。
【0030】
このような樹脂含浸量の比率に設定しておくことで、中心部におけるせん断変形が十分に許容され、より屈撓性に優れ、大撓みしても破損等が生じ難い穂先竿が得られるようになる。
【0031】
また、上記した構成の穂先竿を成形するに際しては、最終的に成形される中実体の横断面を見た際、径方向のいずれかの位置で、周方向に対しても樹脂含浸量が変化していない状態となっていることが好ましい。すなわち、上記したように、径方向のみならず、周方向に沿った状態でも、樹脂含浸量が大きく変化しない構成(放射方向に延びるような境界部が存在しない構成)となっていることが好ましい。
【0032】
周方向において、合成樹脂の含浸量が変化する要因としては、図3に示したように、複数本の強化繊維束50,51を引出す際に、各強化繊維束を単にそのまま集合させて引出すと、各強化繊維束同士が相互に密着せずに、その境界部分に樹脂が残ることで発生するものと推測される。このように、各強化繊維束同士が十分に密着しないと、その境界部分で合成樹脂が溜まり易く、図7の写真で示すように、合成樹脂が多くなった部分が不定形状(放射方向に不定形状)に存在するようになる。
【0033】
このため、例えば、各強化繊維を集合させて引出す際に、各強化繊維束同士が相互に密着でき、境界部分で樹脂溜りが生じないように各強化繊維束自体に予め縒れを形成しておき、これを集合させて引出して行くことで、図8の写真で示すように、周方向で見たときに樹脂含浸量が大きく変化しない構成が得られるようになる。なお、図7及び図8の写真において、白く写っている部分は、横断面として見た場合、露出した強化繊維(切断された強化繊維の断面)であり、写真の黒い部分は合成樹脂(強化繊維が存在しない合成樹脂部分)である。
【0034】
この場合、予め形成する縒れについては、適宜、変形されるが、縒りが大きすぎたり少なすぎると、樹脂含浸量の変化が顕著になるため、長手方向で1m当たり、5〜10巻回の捩じりを形成して加熱炉に通して加熱硬化することで、周方向における樹脂含浸量の変化を±5%の範囲内に抑制することが可能となる。このように、ある径方向位置において、周方向を見た際、樹脂含浸量の変化が、±5%の範囲内に構成されることが好ましい。
【0035】
この結果、周方向で見ても、合成樹脂の含浸量が大きく変化する部位(このような部位は剥離し易い部分となる)がなくなることから、大撓みしても、破損等が生じ難い穂先竿が得られるようになる。
【0036】
上記した構成では、各強化繊維束50,51に用いられている強化繊維については、その径、弾性率など、同一の特性のものを用いることにより、上記したような大撓みしても破損などが生じ難い、という作用効果をより向上することが可能となる。
【0037】
或いは、釣竿(穂先竿)としての特性を考慮した場合、中心部における強化繊維の弾性率よりも、表層側における強化繊維の弾性率が高くなるようにしても良い。具体的には、図6に示したように、穂先竿の横断面において、直径をDとした場合、表面からD/10の範囲内にある強化繊維の弾性率が、中心部からD/5の範囲内における強化繊維の弾性率よりも高くなるように構成することで、ひずみが大きくなる外層側を高弾性化することができ、これにより、大撓みを可能としつつ、所望の剛性を確保することが可能となる。
【0038】
上記したような中心部の樹脂含浸量の多い穂先竿を得るための工程として、図3に示したように、樹脂含浸量が多い1本の強化繊維束51の周囲に、それよりも樹脂含浸量が少ない複数の強化繊維束50を配置したが、本発明は、このような構成に限定されることはない。例えば、図9に示すように、中央部分に、合成樹脂製の紐53を配置して引出すようにしても良い。これにより、中心部における樹脂含浸量が表層部に比較して高い穂先竿を得ることが可能である。或いは、図10に示すように、上記した複数の強化繊維束50を4本集合させて、例えば、中心部に合成樹脂を注入しながら金型に強化繊維束50を引き抜いたり、金型に引き抜く際のダイス径を調整することで表層部の樹脂をしごく等の工程を用いることによっても、中心部における樹脂含浸が表層部に比較して高い穂先竿を得ることが可能である。なお、このような工程では、強化繊維束同士を全体として撚る等することで、周方向で見たときに樹脂含浸量が大きく変化しない構成を得ることも可能である。
【0039】
また、上記した構成では、中実状の穂先竿の横断面について考慮したが、いずれかの位置における縦断面構造についても、以下のような構造となるように、強化繊維束を構成することで更に屈撓性に優れ、大撓みしても破損等が生じ難い構成が得られるようになる。
【0040】
すなわち、穂先竿をいずれかの位置で長手軸方向に沿って切断した縦断面を見た際、縦断面に露出する強化繊維について、その長手軸方向に沿う露出長さが、切断した縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さよりも短く、かつ露出長さの異なるものが混在するように構成するのが好ましい。
【0041】
具体的には、中実体20A(穂先竿20)の長手軸方向に沿ういずれかの位置でその長手軸方向に沿って切断した際、強化繊維は、図11に模式的に示すように配置されている(ここでは、強化繊維の状態を判り易くするために、露出する強化繊維の量を少なく示してある)。このような縦断面は、穂先竿20の長手軸方向に沿ういずれかの任意の位置(長手方向の軸心位置、あるいは、軸心位置から偏心した任意の径方向位置)で必ず見られるのであり、符号60,62,64,66…は、縦断面に露出する強化繊維の(切断された)露出部分となっている。
【0042】
この縦断面に露出する繊維は、その全てが(あるいは、少なくとも80%以上が)、その長手軸方向に沿う露出長さl1,l2,l3,l4・・・が切断した縦断面の長手軸方向の単位長さL=1.0mmよりも短くなっている。すなわち、上述した強化繊維束50,51を構成する強化繊維が、穂先竿の全長にわたって延在しているにもかかわらず、切断した縦断面に露出する強化繊維は、その長手軸方向に沿う露出長さl1,l2,l3,l4・・・が切断した縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さLよりも短くなっている。
【0043】
このことは、縦断面において繊維を短くしている部分、すなわち、縦断面に露出する繊維の非露出部位(その断面において露出していない部位)が、穂先竿20の長手軸方向に沿って延びておらず、該長手軸方向に対して任意の方向に角度を成して(長手軸方向からそれて)延び、そのため、合成樹脂により隠れてしまっている(あるいは、その長手軸方向に沿う縦断面に現れない)ことを意味している。
【0044】
したがって、縦断面に露出する強化繊維自体の実際の長さ(この縦断面内での長さ)は長手軸方向に対して傾斜している分だけ、その縦断面の長手軸方向の長さLよりも長く、結果的に、その繊維の全長も穂先竿20の全長より長い状態になっている。
【0045】
また、この縦断面において、強化繊維は、露出長さの異なるもの(縦断面に露出している強化繊維部分の長手軸方向に対する傾斜角度が互いに異なっているもの(l1,l2,l3,l4・・・))が混在している。このように、露出長さが異なる形態としては、同一の強化繊維がこの縦断面を複数回横切る(蛇行する)ためにその強化繊維の複数の部位がこの縦断面で露出してその露出長さが異なってしまっている場合や、異なる強化繊維間で互いに露出長さが異なっている場合などがある。また、この縦断面に露出する強化繊維は、露出方向(長手軸方向に対する向き)の異なるものも混在している。
【0046】
更に、この切断した縦断面に露出する繊維全体の50%以上は、穂先竿20の長手軸方向に対して任意の方向に1°〜20°傾斜している。すなわち、図示した構成例では、縦断面に、例えば、穂先竿20の長手軸方向に対して20°傾斜する繊維の露出部分60(露出長さl1の部分)、穂先竿20の長手軸方向に対して10°傾斜する繊維の露出部分62(露出長さl2の部分)、穂先竿20の長手軸方向に対して6°傾斜する繊維の露出部分64(露出長さl3の部分)、穂先竿20の長手軸方向に対して1°傾斜する繊維の露出部分66(露出長さl4の部分)などが一例として描かれているが、そのような1°〜20°の傾斜角を成す強化繊維が、縦断面に露出する繊維全体の50%以上を占めていれば好ましい。
【0047】
また、露出長さが0.5mm以下の強化繊維の比率については、露出長さが0.5mmより長い繊維の比率よりも多くなっているのが好ましい。このような断面形態を成していれば、傾斜角度の大きい繊維の比率が多くなるため、より大撓みしても破損することを防止できる。具体的に、前記縦断面において、露出長さが0.05mm〜0.4mmの繊維の全体に占める比率は20%以上とされる。好ましくは、露出長さが0.05mm〜0.3mmの繊維の全体に占める比率は30%以上である。このような縦断面を有していれば、傾斜角度の大きい繊維が多くなり、大撓みによる破損防止効果が高まる。
【0048】
上記のような強化繊維の配置態様を得る手段としては、例えば、強化繊維束50,51同士を全体として撚ることで達成することが可能である。或いは、強化繊維束における強化繊維が、長手軸方向に沿って波打つ形態(波状形態)にしても得ることが可能である。そのような強化繊維の波状形態は、例えば、樹脂が含浸され且つ複数本の強化繊維束50,51が軸方向に引き揃えられた繊維芯体80を、同心円上に配置したガイドに通して型に引き抜く際に、中心に位置する強化繊維束51を他の強化繊維束50よりも強く引き抜くことで、その周囲の強化繊維束が波状となって得ることが可能である。また、各強化繊維束は、それを構成する多数の強化繊維が、軸方向に真直ぐに引き揃えられていても良く、或いは撚って形成されていても(各繊維束自体に撚りがあっても)良い。
【0049】
以上のように、縦断面に露出する強化繊維自体の実際の長さ(その縦断面内での長さ)は、長手軸方向に対して傾斜している分だけ、その縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さよりも長くなっており、結果的に、その強化繊維の全長も穂先竿の全長より長いことになる。すなわち、穂先竿が曲がった際の強化繊維の軸方向の伸びの分だけ予め強化繊維の長さが長く確保された状態となっているため、その確保された分だけ穂先竿を大きく撓ませることができ、これにより、大撓みして局部的な曲がりが生じても破損し難い構成にすることが可能となる。
【0050】
また、上記した構成において、縦断面に露出する強化繊維は、露出長さの異なるものが混在しているため、穂先竿の曲げによって露出長さの長い強化繊維(破断伸度が小さい強化繊維)が先に破断した場合でも、露出長さの短い強化繊維(破断伸度が大きい強化繊維)が破断せずに残存することとなり、結果として、上記作用効果を更に促進させることが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態として説明した穂先竿に関しては、長手方向全体に亘って中実状に形成されていたが、中実部分と中空部分が結合した構成であっても良い。その場合、強化繊維は、少なくとも中実部分の全長にわたって延在しており、少なくとも中実部分において上記した構造が得られれば良い。
【符号の説明】
【0052】
1 外ガイド付き継式釣竿(釣竿)
20 穂先竿
50,51 強化繊維束
53 合成樹脂製の紐
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用穂先竿、及び、そのような釣り用穂先竿を有する釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、釣竿の穂先竿は、魚信感度を向上するために、撓み易く、かつ、魚がかかったときに大きく撓んでも破損しないように構成されていることが好ましい。通常、穂先竿のような部材に荷重が作用した際の曲げの変位は、曲げモーメントによる変位と、せん断力による変位の和で表されることが知られている。せん断力に関しては、せん断弾性率が小さくなれば、それに反比例してせん断変位が増大するという特徴がある。ここで、穂先竿のような部材に荷重が作用した際のせん断力を見ると、中心領域のせん断応力が高くなるのであり、所定の曲げ剛性を確保するためにせん断弾性率を大きくすると、曲がり難い穂先竿になってしまう。
【0003】
しかし、穂先竿は、ある程度の曲げ剛性が確保された状態で、屈撓性が良く大撓みしても破損等しないような特徴であることが好ましい。このため、例えば、特許文献1に開示されているように、せん断変位に曲げ剛性を低くする役割を持たせることで、大きな曲率(大撓みを許容する)を得るようにした穂先竿が開示されている。具体的には、穂先竿を、半径方向において複数の繊維強化樹脂層で構成すると共に、内層側の強化繊維比率(マトリックス樹脂に対する強化繊維の比率)を小さくすること、換言すれば、内層側に樹脂含浸量が多い繊維強化樹脂層を配設することにより、中心領域のせん断変位を増大させ、粘りのある屈撓性の良好な穂先竿が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−276897号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した公知の穂先竿は、内層側の強化繊維比率を低く(樹脂含浸量を多く)し、外層側の強化繊維比率を高く(樹脂含浸量を少なく)したことで、屈撓性の向上は図れるものの、大撓みした際に、各層間で層間剥離が発生して破損等が生じ易いという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、屈撓性が良好で、大撓みしても破損し難い釣り用穂先竿、及び釣竿を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明は、軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで形成される中実状の釣り用穂先竿であって、前記釣り用穂先竿は、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部における樹脂含浸量よりも多く、かつ径方向に沿って、連続的に樹脂含浸量を変化させたことを特徴とする。
【0008】
上記した構成の穂先竿は、軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで中実状に形成されている。この場合、穂先竿は、複数の強化繊維束(多数の強化繊維が引き揃えられて束状に構成される)を引出しながら合成樹脂を含浸させると共に、各強化繊維束を集合させて中実状になるように金型を通過させて行き、更に、加熱することで合成樹脂を硬化せしめ、最終的に1本の中実体の構造を得ることが可能である。
【0009】
このような工程において、例えば、各強化繊維束を引出して金型を通過させるに際し、複数の強化繊維束を周囲に配置し、かつ中央部分に、樹脂含浸量が多い強化繊維束を配置したり、或いは中央部分に合成樹脂製の紐を引出すこと等により、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量を、表層部における樹脂含浸量よりも多くした中実状の穂先竿とすることが可能となる。
【0010】
そして、このように中心部分における樹脂含浸量が多くなることで、穂先竿が大撓みした際に、中心部におけるせん断変位を増大させることが可能となって、屈撓性に優れた穂先竿とすることが可能となる。また、前記いずれかの位置の横断面における樹脂含浸量については、径方向に沿って連続的に変化した状態になっているため、上記した公知文献にあるように、半径方向に複数の強化繊維層が存在することによる層間剥離が生じることはなく、大撓みした際の破損を効果的に防止することが可能となる。
【0011】
なお、ここでの「連続的な変化」とは、穂先竿のいずれかの断面で半径方向を見た際、樹脂含浸量が極端に変化する部分がなく(異なる繊維強化樹脂層の境界部分のように極端に変化する部分がない)、半径方向に亘って、その変化率が5%以下となるような状態を意味する(境界部分が存在すると、その位置における樹脂含浸量の変化率は急激に変化する)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、屈撓性が良好で、大撓みしても破損し難い釣り用穂先竿、及びそのような釣り用穂先竿を有する釣竿を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る穂先竿を有する釣竿の全体図。
【図2】本発明の一実施形態に係る穂先竿の側面図。
【図3】図2の穂先竿の中実体を構成する強化繊維芯体の断面図。
【図4】図2のA−A線(この位置は任意である)に沿った横断面の模式図。
【図5】穂先竿の断面における強化繊維の含有量の測定位置、その測定結果、及び測定結果示したグラフ。
【図6】穂先竿の横断面の寸法関係を示す概略図。
【図7】穂先竿の中実体の横断面を示した写真(周方向の樹脂含浸量が均等でない状態を示した写真)。
【図8】穂先竿の中実体の横断面を示した写真(周方向の樹脂含浸量が均等の状態を示した写真)。
【図9】図2の穂先竿の中実体を構成する強化繊維芯体の別の構成を示す断面図。
【図10】図2の穂先竿の中実体を構成する強化繊維芯体の更に別の構成を示す断面図。
【図11】図2に示す穂先竿の任意位置における縦断面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る釣り用穂先竿の一実施形態について、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0015】
図1は本発明に係る外ガイド付き継式釣竿(例えば、磯竿)1の側面図であり、元竿10と、複数の中竿12と、穂持竿18と、穂先竿20とが振出式に継ぎ合わされている。無論、並継式や逆並継式であってもよい。これら各竿杆は、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂等の合成樹脂をマトリックスとし、炭素繊維等の強化繊維で強化した繊維強化樹脂製竿杆である。
【0016】
図2には穂先竿20が示されており、ここでの穂先竿20はそれを構成する中実体20Aの後端部20aに穂持竿18の中空体18aを接続している。以下、穂先竿を中実製という場合は、この例のように、中実体20Aが少なくともトップガイドG20を有する穂先竿先端から最も近接している第1の外ガイドg1よりも後方にまで至っているものをいう。
【0017】
各竿杆12,18,20の先端部には外ガイド12G,18G,20G(トップガイド)が固定されており、その他、穂先竿20には図2に示されるようにその途中位置に遊動式の第1および第2の外ガイドg1,g2が装着されている。従って、各竿杆を振出式に収納して仕舞うことができる。なお、図中、参照符号22はリールであり、また、参照符号12g,18gは中竿12および穂持竿18にスライド可能に設けられる移動式のガイドである。
【0018】
以下、図2を参照しつつ、穂先竿20を構成する中実体20Aの構造形態を説明する。中実体20Aの寸法形態は、先端の直径(0.7mm)と、接続後端部20aを除いた前細テーパ部の基部の直径(1.9mm)との差を、その間の長さ(500mm)で除したテーパ率が、0.0024である。また、トップガイド20Gに最も近接している第1の外ガイドg1の装着位置は、穂先竿20の先端90から105mm後方位置である。また、第2の外ガイドg2も中実体20Aの領域に設けている。
【0019】
中実体20Aは、全ての強化繊維(補強繊維)が軸長方向指向の、所謂、ソリッド体で形成されている。この場合、多数の強化繊維から成る強化繊維束を複数束集合させ、例えばポリエステル樹脂をマトリックスとした繊維強化樹脂製穂先竿としている。強化繊維としては、主に炭素繊維などが用いられ、引張弾性率は10000kgf/mm2(98000N/mm2)〜40000kgf/mm2(392000N/mm2)の範囲内のものが使用される。また、強化繊維束における合成樹脂の含浸量については、最終的に横断面を見た際に、中心部の樹脂含浸量が多い状態で40〜70重量%の範囲内となっていれば良い。
【0020】
この場合、合成樹脂の含浸量については、成形品となった穂先竿のいずれかの位置における横断面を見た際に、露出した樹脂の部分と繊維の部分の面積比率によって特定することが可能である。すなわち、断面を切った状態で、単位面積内に表れる合成樹脂の部分と強化繊維の部分の面積を比較することで、樹脂含浸量(繊維含有率;VF)を特定することが可能である。また、各強化繊維束を構成している個々の繊維径については、約6〜10μmである。さらに、各強化繊維束は、例えば、12000本の強化繊維を束ねて構成されており、そのような繊維束を複数本集合させて中実体20Aが構成される。
【0021】
上記したように、本発明では、いずれかの位置で断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部よりも多くなるように中実体を形成する。以下、このような中実体を製造するための工程例について説明する。
【0022】
中実体20Aは、例えば、引き抜き成形法によって製造される。すなわち、中実体20Aを構成する強化繊維束(繊維芯体)80は、図3に示すように、周囲に4本(無論、それ以上の本数であっても良いし、3本であっても良い)の強化繊維束50を配置すると共に、中央部に、その周囲に配置された強化繊維束50よりも樹脂含浸量が多い1本の強化繊維束51を配設しつつ、これらを集合させることで中実体が構成される。
【0023】
具体的には、ボビン等から引出した強化繊維束50,51を、合成樹脂が貯められた含浸槽中に通して通量の合成樹脂を含浸させた後(中心に位置する強化繊維束51には強化繊維束50よりも多くの樹脂を含浸させる)、同心円上に配置したガイドを通して金型に引き抜き、金型に絞り込んで樹脂をしごき各強化繊維束を密着させる。このとき、加熱工程により、各強化繊維束50,51は、密着状態で樹脂が流出して一体化され、1本の中実体が成形される。そして、そのようにして成形されたものを所望の長さに切断してテーパ加工(砥石研磨加工)することにより、中実体(穂先竿)20Aが形成される。
【0024】
これにより、穂先竿の横断面における半径方向には、公知技術のような複数の繊維強化樹脂層が存在しないことから、層間剥離が生じない穂先竿構成が得られる。また、合成樹脂の含浸量については、中央に合成樹脂を多く含浸させた強化繊維束51を配置したことで中心部が樹脂リッチな状態となっており、これにより中心部から表層部に向けて、樹脂含浸量が「連続的に変化」する構成が得られるようになる。すなわち、このような工程で得られる中実体は、いずれかの断面で半径方向を見た際に、複数の層が形成されないことから、樹脂含浸量が極端に変化する部分がなく、また、径方向に亘って、樹脂含浸量の変化率(ここでは、径方向に沿って任意位置において隣接する単位面積あたりの樹脂含浸量を比較した場合の変化率となる)が5%以下となるような状態が得られるようになる。
【0025】
ここで、図4から図6を参照して、上記した合成樹脂の含浸量について、具体的に説明する。
【0026】
図4は、図2のA−A線(この位置は任意である)に沿った断面の模式図である。この図に示すように、穂先竿20は、上記した製造工程を用いることで、中心部Cにおける樹脂含浸量が、表層部Sにおける樹脂含浸量よりも多くなった状態となっている。なお、樹脂含浸量については、単位面積当たりの合成樹脂と強化繊維の面積比率で特定することができ、そのように特定される中心部Cの領域の合成樹脂の含浸量が、同様にして特定される表層部S側の合成樹脂の含浸量よりも多くなっていれば良い(ここでの中心部Cの領域は、図6に示すD/5の範囲内であり、表層部S側の領域は図6に示すD/10の範囲内となる)。
【0027】
具体的には、上述した製造工程により、図5に示すように、穂先竿の横断面の直径をDとした場合(この位置ではDは2.04mmとなっている)、直径方向において、任意位置で強化繊維の含有量VF(合成樹脂含浸量の反対値)を測定すると、その中心部におけるVFが最も少なく(合成樹脂含浸量がもっとも多い)、表層側に移行するに従って、大きな変位点を生じることなく連続的にVFが多くなった構成が得られる。すなわち、径方向における任意の位置において、合成樹脂含浸量を測定し、その測定位置をプロットしてグラフ化すると(近似曲線を引く)、図に示すように、極端に変化する部分がない(大きい変曲点がない)滑らかな湾曲線が得られる。
【0028】
これにより、屈撓性に優れ、大撓みしても、その内部で層間剥離が生じることはなく、破損等が生じ難い穂先竿が得られるようになる。
【0029】
なお、上記した構成では、図6に示すように、任意位置における穂先竿の断面の直径をDとした場合、中心部Cを中心としたD/5の範囲内における樹脂含浸量が、表面からD/10の範囲内の樹脂含浸量に対して、10%以上多くなるように構成することが好ましい。
【0030】
このような樹脂含浸量の比率に設定しておくことで、中心部におけるせん断変形が十分に許容され、より屈撓性に優れ、大撓みしても破損等が生じ難い穂先竿が得られるようになる。
【0031】
また、上記した構成の穂先竿を成形するに際しては、最終的に成形される中実体の横断面を見た際、径方向のいずれかの位置で、周方向に対しても樹脂含浸量が変化していない状態となっていることが好ましい。すなわち、上記したように、径方向のみならず、周方向に沿った状態でも、樹脂含浸量が大きく変化しない構成(放射方向に延びるような境界部が存在しない構成)となっていることが好ましい。
【0032】
周方向において、合成樹脂の含浸量が変化する要因としては、図3に示したように、複数本の強化繊維束50,51を引出す際に、各強化繊維束を単にそのまま集合させて引出すと、各強化繊維束同士が相互に密着せずに、その境界部分に樹脂が残ることで発生するものと推測される。このように、各強化繊維束同士が十分に密着しないと、その境界部分で合成樹脂が溜まり易く、図7の写真で示すように、合成樹脂が多くなった部分が不定形状(放射方向に不定形状)に存在するようになる。
【0033】
このため、例えば、各強化繊維を集合させて引出す際に、各強化繊維束同士が相互に密着でき、境界部分で樹脂溜りが生じないように各強化繊維束自体に予め縒れを形成しておき、これを集合させて引出して行くことで、図8の写真で示すように、周方向で見たときに樹脂含浸量が大きく変化しない構成が得られるようになる。なお、図7及び図8の写真において、白く写っている部分は、横断面として見た場合、露出した強化繊維(切断された強化繊維の断面)であり、写真の黒い部分は合成樹脂(強化繊維が存在しない合成樹脂部分)である。
【0034】
この場合、予め形成する縒れについては、適宜、変形されるが、縒りが大きすぎたり少なすぎると、樹脂含浸量の変化が顕著になるため、長手方向で1m当たり、5〜10巻回の捩じりを形成して加熱炉に通して加熱硬化することで、周方向における樹脂含浸量の変化を±5%の範囲内に抑制することが可能となる。このように、ある径方向位置において、周方向を見た際、樹脂含浸量の変化が、±5%の範囲内に構成されることが好ましい。
【0035】
この結果、周方向で見ても、合成樹脂の含浸量が大きく変化する部位(このような部位は剥離し易い部分となる)がなくなることから、大撓みしても、破損等が生じ難い穂先竿が得られるようになる。
【0036】
上記した構成では、各強化繊維束50,51に用いられている強化繊維については、その径、弾性率など、同一の特性のものを用いることにより、上記したような大撓みしても破損などが生じ難い、という作用効果をより向上することが可能となる。
【0037】
或いは、釣竿(穂先竿)としての特性を考慮した場合、中心部における強化繊維の弾性率よりも、表層側における強化繊維の弾性率が高くなるようにしても良い。具体的には、図6に示したように、穂先竿の横断面において、直径をDとした場合、表面からD/10の範囲内にある強化繊維の弾性率が、中心部からD/5の範囲内における強化繊維の弾性率よりも高くなるように構成することで、ひずみが大きくなる外層側を高弾性化することができ、これにより、大撓みを可能としつつ、所望の剛性を確保することが可能となる。
【0038】
上記したような中心部の樹脂含浸量の多い穂先竿を得るための工程として、図3に示したように、樹脂含浸量が多い1本の強化繊維束51の周囲に、それよりも樹脂含浸量が少ない複数の強化繊維束50を配置したが、本発明は、このような構成に限定されることはない。例えば、図9に示すように、中央部分に、合成樹脂製の紐53を配置して引出すようにしても良い。これにより、中心部における樹脂含浸量が表層部に比較して高い穂先竿を得ることが可能である。或いは、図10に示すように、上記した複数の強化繊維束50を4本集合させて、例えば、中心部に合成樹脂を注入しながら金型に強化繊維束50を引き抜いたり、金型に引き抜く際のダイス径を調整することで表層部の樹脂をしごく等の工程を用いることによっても、中心部における樹脂含浸が表層部に比較して高い穂先竿を得ることが可能である。なお、このような工程では、強化繊維束同士を全体として撚る等することで、周方向で見たときに樹脂含浸量が大きく変化しない構成を得ることも可能である。
【0039】
また、上記した構成では、中実状の穂先竿の横断面について考慮したが、いずれかの位置における縦断面構造についても、以下のような構造となるように、強化繊維束を構成することで更に屈撓性に優れ、大撓みしても破損等が生じ難い構成が得られるようになる。
【0040】
すなわち、穂先竿をいずれかの位置で長手軸方向に沿って切断した縦断面を見た際、縦断面に露出する強化繊維について、その長手軸方向に沿う露出長さが、切断した縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さよりも短く、かつ露出長さの異なるものが混在するように構成するのが好ましい。
【0041】
具体的には、中実体20A(穂先竿20)の長手軸方向に沿ういずれかの位置でその長手軸方向に沿って切断した際、強化繊維は、図11に模式的に示すように配置されている(ここでは、強化繊維の状態を判り易くするために、露出する強化繊維の量を少なく示してある)。このような縦断面は、穂先竿20の長手軸方向に沿ういずれかの任意の位置(長手方向の軸心位置、あるいは、軸心位置から偏心した任意の径方向位置)で必ず見られるのであり、符号60,62,64,66…は、縦断面に露出する強化繊維の(切断された)露出部分となっている。
【0042】
この縦断面に露出する繊維は、その全てが(あるいは、少なくとも80%以上が)、その長手軸方向に沿う露出長さl1,l2,l3,l4・・・が切断した縦断面の長手軸方向の単位長さL=1.0mmよりも短くなっている。すなわち、上述した強化繊維束50,51を構成する強化繊維が、穂先竿の全長にわたって延在しているにもかかわらず、切断した縦断面に露出する強化繊維は、その長手軸方向に沿う露出長さl1,l2,l3,l4・・・が切断した縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さLよりも短くなっている。
【0043】
このことは、縦断面において繊維を短くしている部分、すなわち、縦断面に露出する繊維の非露出部位(その断面において露出していない部位)が、穂先竿20の長手軸方向に沿って延びておらず、該長手軸方向に対して任意の方向に角度を成して(長手軸方向からそれて)延び、そのため、合成樹脂により隠れてしまっている(あるいは、その長手軸方向に沿う縦断面に現れない)ことを意味している。
【0044】
したがって、縦断面に露出する強化繊維自体の実際の長さ(この縦断面内での長さ)は長手軸方向に対して傾斜している分だけ、その縦断面の長手軸方向の長さLよりも長く、結果的に、その繊維の全長も穂先竿20の全長より長い状態になっている。
【0045】
また、この縦断面において、強化繊維は、露出長さの異なるもの(縦断面に露出している強化繊維部分の長手軸方向に対する傾斜角度が互いに異なっているもの(l1,l2,l3,l4・・・))が混在している。このように、露出長さが異なる形態としては、同一の強化繊維がこの縦断面を複数回横切る(蛇行する)ためにその強化繊維の複数の部位がこの縦断面で露出してその露出長さが異なってしまっている場合や、異なる強化繊維間で互いに露出長さが異なっている場合などがある。また、この縦断面に露出する強化繊維は、露出方向(長手軸方向に対する向き)の異なるものも混在している。
【0046】
更に、この切断した縦断面に露出する繊維全体の50%以上は、穂先竿20の長手軸方向に対して任意の方向に1°〜20°傾斜している。すなわち、図示した構成例では、縦断面に、例えば、穂先竿20の長手軸方向に対して20°傾斜する繊維の露出部分60(露出長さl1の部分)、穂先竿20の長手軸方向に対して10°傾斜する繊維の露出部分62(露出長さl2の部分)、穂先竿20の長手軸方向に対して6°傾斜する繊維の露出部分64(露出長さl3の部分)、穂先竿20の長手軸方向に対して1°傾斜する繊維の露出部分66(露出長さl4の部分)などが一例として描かれているが、そのような1°〜20°の傾斜角を成す強化繊維が、縦断面に露出する繊維全体の50%以上を占めていれば好ましい。
【0047】
また、露出長さが0.5mm以下の強化繊維の比率については、露出長さが0.5mmより長い繊維の比率よりも多くなっているのが好ましい。このような断面形態を成していれば、傾斜角度の大きい繊維の比率が多くなるため、より大撓みしても破損することを防止できる。具体的に、前記縦断面において、露出長さが0.05mm〜0.4mmの繊維の全体に占める比率は20%以上とされる。好ましくは、露出長さが0.05mm〜0.3mmの繊維の全体に占める比率は30%以上である。このような縦断面を有していれば、傾斜角度の大きい繊維が多くなり、大撓みによる破損防止効果が高まる。
【0048】
上記のような強化繊維の配置態様を得る手段としては、例えば、強化繊維束50,51同士を全体として撚ることで達成することが可能である。或いは、強化繊維束における強化繊維が、長手軸方向に沿って波打つ形態(波状形態)にしても得ることが可能である。そのような強化繊維の波状形態は、例えば、樹脂が含浸され且つ複数本の強化繊維束50,51が軸方向に引き揃えられた繊維芯体80を、同心円上に配置したガイドに通して型に引き抜く際に、中心に位置する強化繊維束51を他の強化繊維束50よりも強く引き抜くことで、その周囲の強化繊維束が波状となって得ることが可能である。また、各強化繊維束は、それを構成する多数の強化繊維が、軸方向に真直ぐに引き揃えられていても良く、或いは撚って形成されていても(各繊維束自体に撚りがあっても)良い。
【0049】
以上のように、縦断面に露出する強化繊維自体の実際の長さ(その縦断面内での長さ)は、長手軸方向に対して傾斜している分だけ、その縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さよりも長くなっており、結果的に、その強化繊維の全長も穂先竿の全長より長いことになる。すなわち、穂先竿が曲がった際の強化繊維の軸方向の伸びの分だけ予め強化繊維の長さが長く確保された状態となっているため、その確保された分だけ穂先竿を大きく撓ませることができ、これにより、大撓みして局部的な曲がりが生じても破損し難い構成にすることが可能となる。
【0050】
また、上記した構成において、縦断面に露出する強化繊維は、露出長さの異なるものが混在しているため、穂先竿の曲げによって露出長さの長い強化繊維(破断伸度が小さい強化繊維)が先に破断した場合でも、露出長さの短い強化繊維(破断伸度が大きい強化繊維)が破断せずに残存することとなり、結果として、上記作用効果を更に促進させることが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態として説明した穂先竿に関しては、長手方向全体に亘って中実状に形成されていたが、中実部分と中空部分が結合した構成であっても良い。その場合、強化繊維は、少なくとも中実部分の全長にわたって延在しており、少なくとも中実部分において上記した構造が得られれば良い。
【符号の説明】
【0052】
1 外ガイド付き継式釣竿(釣竿)
20 穂先竿
50,51 強化繊維束
53 合成樹脂製の紐
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで形成される中実状の釣り用穂先竿であって、
前記釣り用穂先竿は、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部における樹脂含浸量よりも多く、かつ径方向に沿って、連続的に樹脂含浸量を変化させたことを特徴とする釣り用穂先竿。
【請求項2】
前記釣り用穂先竿の横断面において、直径をDとした場合、中心部を中心としたD/5の範囲内における樹脂含浸量は、表面からD/10の範囲内の樹脂含浸量に対して10%以上多いことを特徴とする請求項1に記載の釣り用穂先竿。
【請求項3】
前記釣り用穂先竿の横断面において、直径をDとした場合、表面からD/10の範囲内にある強化繊維の弾性率が、中心部からD/5の範囲内における強化繊維の弾性率よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の釣り用穂先竿。
【請求項4】
前記中心部から表層部にかけて、同一特性の強化繊維が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の釣り用穂先竿。
【請求項5】
前記釣り用穂先竿の横断面において、径方向のいずれかの位置においても、周方向に沿った樹脂含浸量の変化は、±5%の範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣り用穂先竿。
【請求項6】
前記釣り用穂先竿は、いずれかの位置で長手軸方向に沿って切断した縦断面を見た際、縦断面に露出する強化繊維は、その長手軸方向に沿う露出長さが、切断した縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さよりも短く、かつ露出長さの異なるものが混在していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の釣り用穂先竿。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の釣り用穂先竿を有する釣竿。
【請求項1】
軸長方向に指向した多数の強化繊維に合成樹脂を含浸した強化繊維束を、複数束配置することで形成される中実状の釣り用穂先竿であって、
前記釣り用穂先竿は、いずれかの位置で長手軸方向に対して直交する方向に切断した横断面を見た際、中心部における樹脂含浸量が表層部における樹脂含浸量よりも多く、かつ径方向に沿って、連続的に樹脂含浸量を変化させたことを特徴とする釣り用穂先竿。
【請求項2】
前記釣り用穂先竿の横断面において、直径をDとした場合、中心部を中心としたD/5の範囲内における樹脂含浸量は、表面からD/10の範囲内の樹脂含浸量に対して10%以上多いことを特徴とする請求項1に記載の釣り用穂先竿。
【請求項3】
前記釣り用穂先竿の横断面において、直径をDとした場合、表面からD/10の範囲内にある強化繊維の弾性率が、中心部からD/5の範囲内における強化繊維の弾性率よりも高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の釣り用穂先竿。
【請求項4】
前記中心部から表層部にかけて、同一特性の強化繊維が用いられていることを特徴とする請求項1に記載の釣り用穂先竿。
【請求項5】
前記釣り用穂先竿の横断面において、径方向のいずれかの位置においても、周方向に沿った樹脂含浸量の変化は、±5%の範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣り用穂先竿。
【請求項6】
前記釣り用穂先竿は、いずれかの位置で長手軸方向に沿って切断した縦断面を見た際、縦断面に露出する強化繊維は、その長手軸方向に沿う露出長さが、切断した縦断面の長手軸方向の1mmの単位長さよりも短く、かつ露出長さの異なるものが混在していることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の釣り用穂先竿。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の釣り用穂先竿を有する釣竿。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2010−259347(P2010−259347A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111385(P2009−111385)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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