説明

釣竿

【課題】並継式釣竿において、小径竿管への応力集中による損傷を防止しつつ、継合部前後に亘る撓み性を向上させる。
【解決手段】少なくとも1組の繊維強化樹脂製の大径竿管10と小径竿管12とが並継式に継ぎ合わされる継合部を有する釣竿であって、小径竿管の雄型継合部12Tは、該雄型継合部を除く領域の小径竿管の80%以上の長さに亘って設けられている本体層が延長した層の外側に、表面部が研摩又は研削された嵌合層を設けておらず、該雄型継合部の直前竿管領域には、前記本体層の外側に補強層12Hが設けられており、該補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面K1であり、継ぎ合わされた場合に、雌型継合部10Tの先端部が前記補強層後端面に当接すると共に、該当接範囲における雌型継合部の内面先端縁TP1は、前記傾斜面の下端位置KP1よりも前方に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並継式継合部を有する釣竿に関する。本願では、継合部とは、挿脱可能な場合は勿論であるが、例えば穂先竿製造において、接着等されて挿脱不能になっている場合も含む。
【背景技術】
【0002】
継式釣竿においては、大径竿管と小径竿管とを継ぎ合わせた継合部においては、両竿管が重合する故、その前後の単一竿管領域に比べて一段と撓み剛性が高くなる。その結果、釣竿が撓んだ際には、その継合部を境にして、所謂、への字状の撓み曲線になり、滑らかな撓みが得られない。また、その前後の竿管領域に比べて継合部の撓み剛性が一段と高いため、撓み作用を受けた際に、特に継合部直前の小径竿管に応力集中が生じ、竿管の破損に至る場合がある。こうした継合部においては、例えば下記特許文献1,2に開示のように、研摩や研削によって継合部の径を調整する嵌合部専用の層を小径竿管外周に設けたり、また、補強層を設ける。
【特許文献1】実開平3−129065号公報
【特許文献2】特開2002−101788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
然しながら、小径竿管の継合部に嵌合部専用の層を設ければ、小径竿管の継合部が厚肉になる他、その外径も大きくなる。このため、小径竿管継合部の撓み剛性が高くなる他、その層の分だけ大径竿管の内径も大きくならざるを得ず、このため大径竿管の継合部の撓み剛性も高くなる。従って、継合部の撓み剛性は、その前後領域と比較して相当に高くなり、釣竿の滑らかな撓みが阻害される。また、補強層を設ける場合も同様なことがいえる。
依って解決しようとする課題は、並継式釣竿において、小径竿管への応力集中による損傷を防止しつつ、継合部前後に亘る撓み性を向上させた釣竿を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題に鑑みて本発明の第1の発明は、少なくとも1組の繊維強化樹脂製の大径竿管と小径竿管とが並継式に継ぎ合わされる継合部を有する釣竿であって、小径竿管の雄型継合部は、該雄型継合部を除く領域の小径竿管の80%以上の長さに亘って設けられている本体層が延長した層の外側に、表面部が研摩又は研削された嵌合層を設けておらず、該雄型継合部の直前竿管領域には、前記本体層の外側に補強層が設けられており、該補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面であり、継ぎ合わされた場合に、雌型継合部の先端部が前記補強層後端面に当接すると共に、該当接範囲における雌型継合部の内面先端縁は、前記傾斜面の下端位置よりも前方に当接することを特徴とする釣竿を提供する。
本体層が延長した層とは、本体層の一部の層が無くて、残りの層の延長であってもよい。
【0005】
第2の発明では、少なくとも1組の繊維強化樹脂製の大径竿管と小径竿管とが並継式に継ぎ合わされる継合部を有する釣竿であって、大径竿管の雌型継合部の範囲内における前側継合部領域は、10度未満の傾斜角度の前拡がりテーパ面であり、該テーパ面の後側継合部領域はストレートを含み前記前側継合部領域の傾斜角度よりも小さい角度であり、小径竿管の雄型継合部の範囲内における前記後側継合部領域に対応する後側雄型継合部領域では、該雄型継合部を除く領域の小径竿管の80%以上の長さに亘って設けられている本体層が延長した層の外側に付加された補強層を有しておらず、該雄型継合部の直前竿管領域には、前記本体層の外側に他の補強層が設けられており、該補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面であり、継ぎ合わされた場合に、雌型継合部の先端部が前記他の補強層後端面に当接すると共に、該当接範囲における雌型継合部の内面先端縁は、前記傾斜面の下端位置よりも前方に当接することを特徴とする釣竿を提供する。
本体層が延長した層の外側に付加された補強層とは、強化繊維を有する層であり、例えば、撥水性の樹脂層を設けていても、その層に強化繊維を有していないので、補強層ではない。また、クリヤ層や塗装層にも強化繊維が無いので補強層ではなく、こうした層を設けていても本発明の範囲内である。
【発明の効果】
【0006】
第1の発明では、雄型継合部は本体層が延長した層の外側に、表面部が研摩又は研削された嵌合層を有していないため、雄型継合部は嵌合層の分だけ外径を小径にでき、それ故、これに対応する大径竿管の雌型継合部の内径、外径も小径化が可能となる。従って、継合部の撓み剛性を低減できて滑らかな撓みが得られる。また、雄型継合部には研摩や研削された嵌合層が無くて表面部の強化繊維の切断が防止されているため強度が強い。嵌合層が無くて済むのは、竿管の加熱成形精度が向上しているためである。然しながら、小径竿管の雄型継合部の直前竿管領域に補強層が無ければ、大きく撓んで大径竿管側から応力集中を受けた際に損傷する虞があるが、この直前竿管領域の外側に補強層を設けており、厚肉化している。この補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面、即ち、後方に行くに従って厚さが漸減しており、補強層自体の存在による応力集中は防止されており、大径竿管の雌型継合部の先端部はこの傾斜面に当接し、その当接範囲における雌型継合部の内面先端縁が傾斜面の下端位置よりも前方に当接するように構成しているので、撓み時に小径竿管は前記内面先端縁から応力の集中を受けるが、厚肉化された位置で受けるため応力集中に対して強い。また、小径竿管は補強層による厚肉化によって撓んだ際にも断面円形状を保持し易く、断面偏平化による小径竿管の縦割れも防止できる。
【0007】
第2の発明では、雄型継合部の後側雄型継合部領域は本体層が延長した層の外側に付加された補強層を有していないため、後側雄型継合領域は外径を可級的に小径にでき、それ故、これに対応する大径竿管の雌型継合部の内径、外径も小径化が可能となる。従って、継合部の撓み剛性を低減できて滑らかな撓みが得られる。然しながら、小径竿管の雄型継合部の直前竿管領域に補強層が無ければ、大きく撓んで大径竿管側から応力集中を受けた際に損傷する虞があるが、この直前竿管領域の外側に補強層を設けており、厚肉化している。この補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面、即ち、後方に行くに従って厚さが漸減しており、補強層自体の存在による応力集中は防止されており、大径竿管の雌型継合部の先端部はこの傾斜面に当接し、その当接範囲における雌型継合部の内面先端縁が傾斜面の下端位置よりも前方に当接するように構成しているので、撓み時に小径竿管は前記内面先端縁から応力の集中を受けるが、厚肉化された位置で受けるため応力集中に対して強い。また、小径竿管は補強層による厚肉化によって撓んだ際にも断面円形状を保持し易く、断面偏平化による小径竿管の縦割れも防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を添付図面を用いて更に詳細に説明する。図1は本発明に係る並継式継合部を有する釣竿の側面図、図2は図1の釣竿の継合部を外した状態の分解部分図、図3は図1のZ3領域の拡大縦断面図と撓み剛性図、図4は図3の要部の拡大図である。釣竿は、エポキシ樹脂をマトリックスとし、炭素繊維を主たる強化繊維とした繊維強化樹脂製の大径竿管としての元竿10の雌型継合部10Tに、エポキシ樹脂をマトリックスとし、炭素繊維を主たる強化繊維とした繊維強化樹脂製の小径竿管としての穂先竿12の雄型継合部12Tを並継式に継ぎ合わせて使用する。各竿管には適宜位置に釣糸用の外ガイドGが配設されており、元竿適宜位置にはリール(ここでは、両軸受け型リール)Rが保持固定されている。
【0009】
図4に図示するように、穂先竿12の全長の大部分(80%以上)に亘って配設されている本体層は、この例では3層構造を成しており、内周層12Aは、強化繊維としての炭素繊維が円周方向に指向しており、中間層12Bは、強化繊維としての炭素繊維が軸長方向に指向しており、外周層12Cは内周層と同様である。図3において、釣竿の長手方向を1点鎖線で区切っており、その領域Cが継合部の領域であり、穂先竿の雄型継合部12Tは領域Cに対応している。この雄型継合部12Tは上記本体層が先方領域A,Bから延長したものであり、この本体層(に相当する層)以外に嵌合層も、付加的な補強層も設けていない。従って、雄型継合部12Tの外径は、その直前竿管領域の本体層の外径を外挿延長したものである。また、本体層の一部を設けず、より小さくしたものでもよい。
【0010】
従って、これに継ぎ合わせる元竿10の雌型継合部10Tの内径は可級的に小さくなり、雌型継合部10Tの撓み剛性も小さくできる。図3の各竿管の上方に描いた線図は、撓み剛性EIの概略図である。2点鎖線で描いた部分は従来構造の場合の撓み剛性であり、本発明構造の場合は、継合部の領域Cにおいて従来よりも撓み剛性が低減できていることを示している。また、継合部の領域の直前竿管領域Bにおいては、逆に、補強層12Hの分だけ従来よりも撓み剛性が大きくなっていることを示しているが、この補強層としては穂先竿管の厚肉化が主たる目的であるため、ここの強化繊維を後述する傾斜方向指向として軸長方向指向にしないようにすれば、領域Bにおける従来との撓み剛性差は大きくない。
【0011】
上記した領域Cの工夫のみでは、釣竿が撓んだ際に、元竿の雌型継合部の内面先端縁から受ける応力集中による穂先竿の耐強度性能が低く、穂先竿12が応力集中によって破損する虞がある。これを防止するために、穂先竿の雄型継合部12Tの直前竿管領域Bに補強層12Hを設けていると共に、雌型継合部10Tの内面先端縁TP1は、補強層の後側の傾斜面K1の下端位置KP1よりも前方、即ち、上端位置KP2寄りに当接するように構成している。
【0012】
補強層12Hは、例えば、プリプレグの強化繊維が穂先竿の軸長方向に対して45度等の傾斜方向に指向するようにして巻回する。また、この例では、傾斜角度が左右対称になるように指向させて強化繊維が交差状となった織布プリプレグを使用しているが、2枚の引き揃えプリプレグを使用して強化繊維方向が左右対称になるようにしてもよい。また、強化繊維の指向方向を円周方向にさせた引き揃えプリプレグを巻回してもよく、更には、強化繊維を軸長方向等の他の任意の方向に指向させて引き揃えプリプレグを使用できる。
【0013】
上記補強層の前後の端面である傾斜面K2,K1は図示の如き傾斜状に形成されている。これは、当該補強層の影響により該補強層各端部における応力集中を防止するためである。一方、元竿10の雌型継合部10Tの内面の一部である前側継合部内面10N1は、図示のように角度が10度未満の、例えば、2〜3度の緩いテーパ状に形成されており、穂先竿12の雄型継合部12Tの外周面に当接していないが、雌型継合部10Tの先端部が傾斜面K1に当接するように構成している。このため、雌型継合部10Tの内面先端縁TP1が傾斜面K1の下端位置KP1よりも前方に当接し、撓んだ際の応力集中を補強層の存在する分厚肉化された部位で受けるため、強度的に強い。
【0014】
また、穂先竿12は、継合部の直前竿管領域の本体層に補強層12Hが重なった分だけ厚肉化されているため、大きく撓んで穂先竿12の断面形状が円形から楕円状に偏平状に潰れるように変形することに対して抵抗力があり、割れが生じ難い。
一方、元竿10の雌型継合部10Tの内面の内、前側継合部内面10N1を除いた後側継合部内面10T0はストレート状か、或いは、テーパ状であって前記テーパ面10N1のテーパ角よりも小さいテーパ角であり、雄型継合部12Tの外周面(後側雄型継合部領域)に当接している。
【0015】
図5は本発明に係る釣竿の他の形態の要部図であり、図3に対応する縦断面図である。図3の構造と異なるのは雌型継合部10Tの形態であり、その他は同じである。雌型継合部10Tの前端部は傾斜面10N2に形成されており、その傾斜角度は補強層12Hの後側傾斜面K1と実質同じであり、例えば30度である。従って、補強層の傾斜面K1と面当たりしている。この場合、傾斜面10N2の下端に位置する内面先端縁TP1は図3(図4)の場合と同じであるが、上端TP2は補強層の傾斜面K1をはみ出した上方位置にある。即ち、傾斜面10N2の上端TP2は傾斜面K1との当接範囲を外れているが、内面先端縁TP1は傾斜面K1の範囲にある。また、別な説明として、本願では、雌型継合部領域10Tの内面とは、傾斜角度が10度未満である内面10N1の先端までを示しており、数十度という傾斜角度の傾斜面10N2は前端面とみなしている。
【0016】
上記図5の傾斜面10N2の上端TP2が、補強層12Hの傾斜面K1の途中位置に位置する形態も有り得る。
この形態も図5の形態も、図3の形態と同様な効果を奏する。
【0017】
以上の各形態例とは異なり、雌型継合部10Tの前側継合部内面10N1と対面する範囲の雄型継合部12Tと成す隙間領域に樹脂の層を設けたり、或いは、この範囲の雄型継合部12Tの外側に、強化繊維を有する補強層(表面部を研摩、研削されてはおらず、嵌合層ではない)を設けることもできる。また、上記隙間領域に、強化繊維を有する補強層をシート材として介在させてもよい。更には、穂先竿の前半部が小径竿管12であり、後半部が大径竿管10であって、各継合部10T,12Tを接着接合して1本の穂先竿を構成してもよい。この場合、小径竿管の本体層用強化繊維を、大径竿管の本体層よりも低弾性な強化繊維を選択使用して、曲げ剛性が小さくなるようにすることもできる。
【0018】
後側継合部内面10T0と対面する後側雄型継合部12T0の外周には、本第2の発明の観点からは強化繊維を有する補強層は設けられていない。しかし、第1の発明では、研摩や研削された嵌合層ではない補強層であれば設けていてもよい。
【0019】
釣竿全体の継合部として、例えば、振出式と並継式とが併用されている場合、その並継式継合部に本願発明構造が適用される。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、並継式継合部を有する釣竿に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明に係る並継式継合部を有する釣竿の側面図である。
【図2】図2は図1の釣竿の継合部を外した状態の分解部分図である。
【図3】図3は図1のZ3領域の拡大縦断面図と撓み剛性図である。
【図4】図4は図3の要部の拡大図である。
【図5】図5は本発明に係る釣竿の他の形態の要部図であり、図3に対応する縦断面図である。
【符号の説明】
【0022】
10 元竿(大径竿管)
10T 雌型継合部
12 穂先竿(小径竿管)
12A,12B,12C 本体層を成す各層
12H 補強層
12T 雄型継合部
C 継合部の領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1組の繊維強化樹脂製の大径竿管と小径竿管とが並継式に継ぎ合わされる継合部を有する釣竿であって、
小径竿管の雄型継合部は、該雄型継合部を除く領域の小径竿管の80%以上の長さに亘って設けられている本体層が延長した層の外側に、表面部が研摩又は研削された嵌合層を設けておらず、
該雄型継合部の直前竿管領域には、前記本体層の外側に補強層が設けられており、該補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面であり、
継ぎ合わされた場合に、雌型継合部の先端部が前記補強層後端面に当接すると共に、該当接範囲における雌型継合部の内面先端縁は、前記傾斜面の下端位置よりも前方に当接する
ことを特徴とする釣竿。
【請求項2】
少なくとも1組の繊維強化樹脂製の大径竿管と小径竿管とが並継式に継ぎ合わされる継合部を有する釣竿であって、
大径竿管の雌型継合部の範囲内における前側継合部領域は、10度未満の傾斜角度の前拡がりテーパ面であり、該テーパ面の後側継合部領域はストレートを含み前記前側継合部領域の傾斜角度よりも小さい角度であり、
小径竿管の雄型継合部の範囲内における前記後側継合部領域に対応する後側雄型継合部領域では、該雄型継合部を除く領域の小径竿管の80%以上の長さに亘って設けられている本体層が延長した層の外側に付加された補強層を有しておらず、
該雄型継合部の直前竿管領域には、前記本体層の外側に他の補強層が設けられており、該補強層の後端面は前方に向かって傾斜した傾斜面であり、
継ぎ合わされた場合に、雌型継合部の先端部が前記他の補強層後端面に当接すると共に、該当接範囲における雌型継合部の内面先端縁は、前記傾斜面の下端位置よりも前方に当接する
ことを特徴とする釣竿。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−232803(P2009−232803A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85524(P2008−85524)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002495)ダイワ精工株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】