説明

釣糸ガイド

【課題】軽量化が図れるとともに、撓み特性に優れ、屈曲部分の破損が防止できる釣糸ガイドを提供する。
【解決手段】本発明に係る釣糸ガイド1は、釣糸が挿通されるガイドリング6が取り付けられ、複数の繊維強化樹脂層からなるフレーム3を有している。フレーム3は、釣竿に装着固定される固定部5と、ガイドリング6が取り付けられるリング保持部7と固定部5との間に位置する支脚部8と、を有し、固定部5から支脚部8に向けて立ち上がる屈曲部10aに、釣糸ガイド1を正面視した際、鉛直方向の強化繊維を有する補強層20b、20gを設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣竿に装着されて釣糸を案内する釣糸ガイドに関し、詳細には、釣糸が挿通されるガイドリングを保持するフレーム部分に特徴を有する釣糸ガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した釣糸ガイドは、釣竿の外周面に装着されるフレームと、フレームに止着され、実際に釣糸が挿通されるガイドリングとを備えた構成となっている。前記フレームは、例えば、特許文献1に記載されているように、ステンレスやチタン等の金属製の板材料をプレス加工することで一体形成するのが一般的となっており、フレームには、釣糸を挿通させるガイドリングを保持するためのリング保持部と、釣竿の外表面に装着するための固定部が一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−340661号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した公知技術では、フレームが金属材料で構成されているため、重量が重いとともに、撓み性等の性能が悪く、釣竿の性能の向上を図る上でネックとなっている。例えば、より軽量化が要求される釣竿では、上記したような釣糸ガイドを軸長方向に沿って多数装着すると、所望の性能が発揮できなくなってしまう。
また、上記したフレームには、釣竿に固定される固定部と、ガイドリングを保持するためのリング保持部との間の部分に、必然的に屈曲部が形成されるが、釣糸ガイドに釣糸が引っ掛かって大きな負荷が作用すると、屈曲部において破損し易いという問題がある。
【0005】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、軽量化が図れるとともに、撓み特性に優れ、屈曲部分の破損が防止できる釣糸ガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明は、釣糸が挿通されるガイドリングが取り付けられ、複数の繊維強化樹脂層からなるフレームを有する釣糸ガイドであって、前記フレームは、釣竿に装着固定される固定部と、前記ガイドリングが取り付けられるリング保持部と前記固定部との間に位置する支脚部と、を有し、前記固定部から支脚部に向けて立ち上がる屈曲部に、前記釣糸ガイドを正面視した際、鉛直方向の強化繊維を有する補強層を設けたことを特徴としている。
【0007】
上記した構成の釣糸ガイドは、そのフレーム部分が、複数の繊維強化樹脂層を積層した構造となっているため、軽量化が図れるとともに撓み性の向上が図れ、このような構造の釣糸ガイドを装着した釣竿は、本来の特性を発揮し易くなる。また、フレームの内、固定部から支脚部に向けて立ち上がる屈曲部に、立ち上がり方向に沿う強化繊維を有する補強層を配設したことで、釣糸ガイドに大きな負荷が作用しても、破損などを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、重量が軽く、撓み特性に優れ、屈曲部分の破損が防止できる釣糸ガイドが得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る釣糸ガイドの第1の実施形態を示す正面図、及びフレームを構成するプリプレグの積層構造を拡大して示す図。
【図2】図1に示す釣糸ガイドの側面図。
【図3】フレームの屈曲部の拡大断面図。
【図4】釣糸ガイドを構成するフレームを成形する金型の構成例を示す図。
【図5】金型で成形された板状体からフレームを切り出す状態を示す図。
【図6】本発明に係る釣糸ガイドの第2の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図。
【図7】本発明に係る釣糸ガイドの第3の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図。
【図8】本発明に係る釣糸ガイドの第4の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図。
【図9】本発明に係る釣糸ガイドの第5の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る釣糸ガイドの実施形態について説明する。
図1から図3は、本発明に係る釣糸ガイドの第1の実施形態を示す図であり、図1は、釣糸ガイドの正面図(元竿側から穂先竿側を見た図)、及びフレームを構成するプリプレグの積層構造を拡大して示す図、図2は、図1に示す釣糸ガイドの側面図、そして図3は、フレームの屈曲部の拡大断面図である。なお、図2の矢印A方向は、釣糸ガイドが釣竿に装着された際、釣竿の軸長方向と一致しており、リング保持部が穂先側で、固定部が元竿側となるように取り付けられている。以下において、前側とは穂先側を意味し、後側は基端側(元竿側)を意味する。
【0011】
釣糸ガイド1は、強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグ(以下、プリプレグと称する)を積層した複数の繊維強化樹脂層を有する積層材によって形成されたフレーム3を備えている(プリプレグの構成、積層態様、及びフレームの詳細な製造方法については後述する)。
【0012】
前記フレーム3は、釣竿(竿管)40の外表面に取り付けられる固定部5と、釣糸が挿通されるガイドリング6が取り付けられるリング保持部7と、リング保持部7と固定部5との間を連結する支脚部8とを具備しており、前記リング保持部7の軸線方向(図2の矢印A方向;前後方向)における厚みよりも左右方向の幅が大きい板状に形成されている。
【0013】
前記固定部5は、フレームの下端において、釣竿の表面に固定される部位(足部とも称される)であり、本実施形態では軸長方向に延び、その裏側の当接面5aが釣竿の表面に載置した状態で、糸止め、接着等によって固定される。なお、固定部5は1本足や2本足など、様々な形状をとることができる。
【0014】
前記リング保持部7は、釣竿の表面から離間した状態で釣糸を案内させるべく、ガイドリング6を止着させる部位である。リング保持部7には、ガイドリング6を嵌入、固定させるための開口が形成されており、全体として略円形の外形状を備えている。なお、開口に嵌入されるガイドリング6は、リング状に構成され、その内周面である釣糸案内面6a部分での摺動抵抗が小さい部材、例えば、チタン、アルミ、SUS、セラミックス等によって形成されている。このガイドリング6は、フレーム3が前記プリプレグによって一体形成された後、リング保持部7に形成された開口に対して嵌入、固定される。
【0015】
また、前記支脚部8は、ガイドリング6を釣竿の表面から離間させるように、固定部5とリング保持部7とを連結する部位である。この支脚部8は、釣糸ガイドを正面(釣竿の軸長方向)から見た際の鉛直方向Xに沿うように形成しても良いし、図1に示すように、鉛直方向Xに対して傾斜するように形成しても良い。
【0016】
前記フレーム3には、少なくとも1つ以上の屈曲部が形成されている。本実施形態では、固定部5と支脚部8との間の境界部分に第1屈曲部(固定部5の端部から支脚部8に向けて立ち上がる屈曲部)10aが形成されており、さらに、支脚部8のリング保持部7側に、第1屈曲部よりも緩やかに屈曲した第2屈曲部10bが形成されている。この場合、第1屈曲部10aが、フレーム3の中で最も曲げ角度が急な屈曲部である。
【0017】
フレーム3に上記したような屈曲部を形成する場合、特に、支脚部8に第2屈曲部10bを形成しておくことで、フレーム全体として、屈曲させることによる曲げ角度を段階的に設定することが可能となり、応力集中を分散させて強度を向上することが可能となる。また、上記のようにフレーム3に複数の屈曲部10a,10bを形成するのであれば、固定部5と支脚部8との間の境界部分、又はその近傍に形成される屈曲部(図において、第1屈曲部10aが対応する)よりも、支脚部8に形成される屈曲部(図において、第2屈曲部10bが対応する)の屈曲角度を小さく設定することが好ましい。
【0018】
上記したようなフレームに形成される屈曲部10a,10bは、応力集中して破損等し易い領域となっているが、後述するような製造方法、及びプリプレグの構成を用いることで、比強度、及び比剛性の向上が図られている。特に、屈曲部(少なくとも第1屈曲部10a)に、後述する補強層を設けておくことで、釣糸による負荷が作用しても、損傷などがし難いように構成されている。なお、第2屈曲部10bについては、形成されない構成であっても良い。
【0019】
前記フレーム3は、予め上記したような構成の屈曲部を形成した状態のプリプレグ(加熱成形後は板状体となっている)から、プレス加工等によって形成されるが、この際、所定の外形を有するように形成される。本実施形態では、図1に示すように、固定部5の端部から第1屈曲部10aを介して立ち上がる支脚部8は、上方に移行するに従って次第に幅広となっており、ガイドリング6が取着される開口が形成された略円形のリング保持部7に一体的に連結される。この場合、図に示すように、支脚部8には、軽量化を図るために、開口(肉抜き)8aを形成しておいても良い。
【0020】
次に、上記したような形態のフレーム3を形成する方法について、図4及び図5を参照して説明する。
【0021】
上記したように、フレーム3は、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを、前後方向(釣糸挿通方向;図2の矢印A方向)に、順に複数枚積層することで形成される。この場合、プリプレグは、例えば、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維が所定の方向に引き揃えられた状態、或いは編成されたシート状に構成されており、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)や熱可塑性樹脂(例えば、ナイロン)をマトリックス樹脂として含浸した構成となっている。なお、フレーム3は、複数の繊維強化樹脂層によって構成されるが、上記した屈曲部が補強されるよう、補強層を含んだ構成となっている。
【0022】
最初、上記したようなプリプレグを所定形状に裁断し、これを複数層となるように重ね合わせる。重ね合わせるプリプレグの枚数(層数)や、個々のプリプレグの構成については特に限定されることはないが、上記したように、フレーム3に屈曲部10a,10bが形成されるため、この部分を補強する補強層が配設される(補強層の構成については、後述する)。
【0023】
複数枚積層されるプリプレグは、図4に示すような金型50にセットされる。本実施形態の金型50は、上下に型割りされる上型51と下型52によって構成されており、積層されたプリプレグ(積層材20)は、下型52の所定位置にセットされる。上型51と下型52との間には、積層材20がセットされる位置に応じて空洞部50aが形成されており、その表面領域には、離型剤がコーティングされている。
【0024】
上記金型50を構成する上型51は凹状、下型52は凸状に構成されており、両者を押圧した際にフレーム3が形成されるように、両者の間に前記空洞部(この空洞部については、フレーム3の肉厚に対応している)50aが形成されている。そして、下型52には、前記積層材20を載置した際、上記した屈曲部10a,10bに対応する位置に、屈曲形成凸部52a,52bが形成され、上型51には、屈曲形成凸部52a,52bに対応して屈曲形成凹部51a,51bが形成されている。
【0025】
なお、前記積層材20は、一度に全体を重ね合わせた状態で下型にセットしても良いし、1枚づつセットする等、複数回に分けて積層しても良い。このように複数回に分けることにより、強化繊維の動きを少なくして、精度良く下型52の所定位置にセットすることもできる。本実施形態では、上記のように、金型50を上下割りにしているため、積層材20は下型52に載置して、金型の形状に合わせて所定形状に保持する。もちろん、金型については、一例を示したに過ぎず、型割りの方向については、左右方向としたり、傾斜方向にする等、任意の形態にすることが可能である。
【0026】
そして、積層材20を下型52にセットした後、積層材20を加圧し固定する。この加圧、固定については、上型51によって締め付けしても良いし、手や押圧具で押し付けても良い。この段階で、前記屈曲部を含め、成形後のフレーム形状に相当する形が保持され、これにより、成形後の内部残留応力の発生を防止でき、強度の向上、及び安定化が図れるようになる(この段階では、各プリプレグは未硬化状態(仮キュア後を含む)であり、屈曲部は加熱硬化前に形成されることとなる)。
【0027】
その後、加熱工程を施し、マトリックス樹脂を硬化して成形した後、成形品(屈曲部を有する板状体30となっている)を金型50から取り出す。
なお、上記した屈曲部を金型50で押えて加熱硬化するときに、その屈曲部は、その前後の領域よりも相対的に強く加圧することが好ましい。このように、屈曲部の領域を強く加圧することで、成形されたフレームの屈曲部(10a,10b)のボイドを防止することができ、強度の向上、及び安定化が図れるようになる。また、これに伴い、成形されたフレーム3の屈曲部10a,10bは、その前後の領域(固定部や支脚部)よりも繊維比率を高くすることができるので、破損等しやすい屈曲部を強化することが可能となる。
【0028】
次に、板状体30から所定の形状となるようにフレームを切り出す。上記したように、プリプレグは、加熱硬化処理後に屈曲部が形成された板状体となっているため、プレス加工による切り出し、液体(ウォータージェット等)による切り出し、或いは刃具(エンドミル等)による切り出し等、任意の方法を採用することで、図5に示すように、1枚の板状体30から複数のフレーム3を切り出すことが可能となり、軽量で高強度の釣糸ガイドを効率良く製造することが可能となる。
【0029】
なお、この加工時において、フレーム3の基本的な外形状、すなわち、開口を有するリング保持部7、開口8aを有する支脚部8等を同時に形成することが好ましいが、これらを別々の工程で形成しても良い。また、前記板状体30に関しては、一枚の単純な平面形状に限らず、積層厚さを位置によって変化させたり、板状部分が複数方向に延びる形状(T字形状や逆Y字形状等)としたり、曲面形状を含んでいたり、更には、複数の板状の部分が組み合わされていても良い。
【0030】
次に、必要に応じて細部加工を施す。この細部加工は、例えば、固定部5の形状を釣竿に載置し易いように曲面状に形成したり、糸巻き・糸止めし易いように、固定部の端部を研磨等することが該当する。
【0031】
次に、フレームの表面処理を施す。例えば、バレル加工を施すことで、表面のバリを除去すると共に、表面の光沢が得られる程度に仕上げ研磨を施す。この研磨の程度については、釣糸ガイドのサイズや形状、材質特性などによって研磨剤や研磨時間などを任意に調整することが可能である。このようなバレル加工を施すことにより、強化繊維を切断することなく、フレームを研磨することが可能となり、強度の安定化が図れると共に、外観の優れた釣糸ガイドとすることが可能となる。
【0032】
なお、このような研磨工程を施すに際しては、フレームの表面に強化繊維が一部露出しマトリックス樹脂が一部残るように研磨することが好ましい。こうすることで、研磨表面の光沢をより一層向上することが可能となる。
【0033】
次に、必要に応じて、フレームの全体又は一部分に被膜を形成する。例えば、外観向上やフレーム本体の保護のために塗装を行なうことや、金属やセラミックスを蒸着等することも可能である。
【0034】
そして、上記したように形成されたフレームの開口の部分にガイドリング6を取り付ける。ガイドリングの取り付け方法は、圧入や接着、カーリング、その他、任意の固定方法を採用することが可能である。
【0035】
上記したような製造方法によって形成される釣糸ガイドによれば、金属製のものと比較して、重量が軽くなり、更には、比強度、比剛性、及び撓み性に優れた構成とすることが可能となる。このため、そのような釣糸ガイドを多数個装着しても釣竿全体が重量化することはなく、釣竿の性能が向上する。特に、穂先竿のような部分では、より軽量化が図れることから、繊細な当たりを感知し易くなり、より釣竿の性能の向上を図ることが可能となる。
【0036】
次に、上記したようなプリプレグによってフレーム3を形成するに際して、そのプリプレグの好ましい配置態様等について、再び図1から図3を参照して説明する。
上記したように、フレーム3は、その前後方向に、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグを積層した複数の繊維強化樹脂層を有する積層材20によって構成されている。本実施形態では、全体で8層のプリプレグが用いられており、ここでは、便宜上、積層材20を、前方側(穂先側)から後方側(元竿側)に移行するに連れて、順に、第1層20a、第2層20b、第3層20c、第4層20d、第5層20e、第6層20f、第7層20g、第8層20hとして定義する。この場合、各層における繊維方向については、斜線又は格子線で示してある。また、図1において、釣糸ガイドを正面(釣竿の軸長方向)から見た際の鉛直方向Xは、上記したフレーム3の固定部5を立ち上げて屈曲部10aを形成する際、その立ち上がる方向に沿った方向となっている。
【0037】
本発明においては、固定部5から支脚部8に向けて立ち上がる屈曲部10aに補強層が配設されるよう構成されている。この場合、本実施形態では、固定部5からリング保持部7に至るフレームの略全長に亘って補強層が配設された構成となっており、これにより、屈曲部10bについても補強層が配設された構成となっている。
ここで、補強層とは、釣糸ガイドを釣竿40に取り付けたときに、フレーム3のその前後方向の曲げ剛性を高め、負荷により屈曲部10aが撓んだときの曲げ角度の変化が小さくなるよう補強する層であり、積層材20を構成している複数のプリプレグの内、いずれかのプリプレグに上記した立ち上がり方向(鉛直方向X)に沿って延びる強化繊維が含まれた構成となっていれば良い。具体的には、図1において、複数の繊維強化樹脂層に介在された状態にある第2層20b、及び第7層20gを構成するプリプレグが、鉛直方向X(立ち上がり方向)に沿って強化繊維を一方向に引き揃えた構成となっており、屈曲部を補強する補強層としての機能を備えている。そして、このような補強層は、屈曲部における補強効果を高めるように、積層されるプリプレグの内、外層側に配設されていることが好ましい。
【0038】
前記積層材20の内層側には、強化繊維を鉛直方向Xに対して傾斜させたプリプレグが配設されており、フレームに対する捩れ方向に対する強度を向上させている。具体的には、上記のように、補強層として機能する第2層20b及び第7層20gの内層側にある第3層20c及び第6層20fは、前方から見たときに強化繊維が鉛直方向Xに対して右方向に斜向した斜向繊維強化樹脂層によって構成されている。この場合、鉛直方向Xに対する右方向の傾斜角度は、10°より大きく60°以下の範囲が好ましく、また、両層の強化繊維の斜向角度は、正確に一致しなくても良い。さらに、その内層側(第4層20d及び第5層20e)は、前方から見たときに強化繊維が長手軸Xに対して左方向に斜向した斜向繊維強化樹脂層によって構成されている。この場合、鉛直方向Xに対し左方向に傾斜していれば良いが、鉛直方向Xに対する左方向の傾斜角度は、10°より大きく60°以下の範囲が好ましく、また、両層の強化繊維の斜向角度は、正確に一致しなくても良い。
【0039】
そして、上記した補強層(第2層20b、及び第7層20g)の外側の第1層20a及び第8層20hは、最外層となっており、この層を構成するプリプレグは、織布状に構成された強化繊維を備えている。この場合、織布を構成する強化繊維は、図1に示されているように、前記鉛直方向Xに沿った方向と、これに直交する方向(水平方向)となるように設定されていることが好ましい。
なお、このような織布状に構成されるプリプレグによる層も、鉛直方向X(屈曲部の立ち上がり方向)に延びる強化繊維を含んでいるため、屈曲部を補強する機能を有する。
【0040】
以上のような積層材20の構成によれば、フレーム自体の軽量化が図れると共に、比強度、比剛性及び撓み性に優れた釣糸ガイドを構築することが可能となる。特に、積層材20の内層側に、フレームの鉛直方向Xに対して、右方向及び左方向に傾斜した斜向繊維強化樹脂層を配設したことで、キャスティングや魚が掛かったとき等、釣糸ガイドのフレーム3に負荷が掛かって前後に曲がったり、捩じれが生じても撓り方向が片寄らないため、破損等を効果的に抑制することが可能となる。また、フレーム3の撓りによってガイドリングへの釣糸の当たり場所が集中し難いことから、釣糸の磨耗を防止することが可能となる。
【0041】
また、上記した構成の積層材20は、鉛直方向Xに沿った方向(屈曲部に沿った方向)に引き揃えられた強化繊維を有する繊維強化樹脂層(第2層20b及び第7層20g;補強層)を備えており、強化繊維が屈曲部の湾曲に沿って配置された状態になるため、曲げ剛性が高められる。したがって、釣糸ガイドに釣糸が引っ掛かって屈曲部が前後方向に引かれるような負荷が作用しても、屈曲部の破損などを効果的に防止することができる。更に、このとき、同時に複数の繊維強化樹脂層が引き離されるように負荷がかかるものの、補強層(第2層20b及び第7層20g)によって屈曲部の変形が防止されるため、層間剥離が生じることが抑制される。
【0042】
また、本実施形態では、第2層20b及び第7層20gは、固定部5からリング保持部7に亘って連続して配設された構造となっているため、上記した屈曲部10a,10b部分において層間剥離が生じることなく、効果的に補強することが可能となる。特に、第2層20b及び第7層20g(補強層)は、複数の繊維強化樹脂層の間に介在された状態にあり、屈曲部の内層側に位置しているため、補強層自体の剥離も防止することができる。
【0043】
この場合、補強層は、複数の繊維強化樹脂層の内、中間位置(符号Cで示す)よりも外面側(曲率半径の大きい穂先竿側)に配置しておくことが好ましい。
補強層を配設する位置については特に限定されないが、補強層を外面側に配置することで、内面側(元竿側)に配置する場合と比べて補強効果を高めることが可能となる。
【0044】
そして、上記した構成の積層材20は、最外層となる前後面(第1層20a及び第8層20h)に織布の繊維強化樹脂層を備えているため、釣糸が接触しても強化繊維の裂けや剥離などが生じ難く、強度の向上、及び安定化が図れると共に、内側の繊維強化樹脂層を効果的に保護することが可能となる(補強層としての機能を備える)。すなわち、最外層に織布の繊維強化樹脂層20a,20hを配設することで、より確実に強化繊維が剥離、破損することを防止でき、強度の向上、及び安定化が図れるようになる。また、上述した屈曲部10a,10bについても相対的に強化することができ、軽量で強度バランスに優れた釣糸ガイドとすることが可能となる。
【0045】
なお、補強層を構成する繊維強化樹脂層の強化繊維は、補強効果が高められるように、第2層20b及び第7層20gのように、釣糸ガイドを正面視した際、鉛直方向Xに沿った方向に配設されているのが好ましいが、釣糸ガイドを正面視した際に、鉛直方向Xに対して傾斜角度10°以下(鉛直方向に対して+10°から−10°の範囲)であれば、多少、斜向していたり、或いは、鉛直方向Xに延びる強化繊維を有していれば上記のような織布として構成されていても良い。
また、補強層は、屈曲部10aの屈曲領域のみに設けても良いが、屈曲部10aを介して固定部5から支脚部8にかけて連続して設けることが好ましい。
【0046】
図6は、本発明に係る釣糸ガイドの第2の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図である。なお、以下に説明する実施形態では、上記した実施形態における積層材20を構成する層と、同一に構成された層については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0047】
本実施形態では、屈曲部10aの外面側に、上記した繊維強化樹脂層(補強層)20bに加え、さらに、補強片22を配置している。このような補強片22は、鉛直方向Xに沿った方向に引き揃えられた強化繊維を含んでおり、本実施形態では、上記したように構成される第2層20b(補強層)と、第1層20aとの間に介在される。なお、補強片22は、フレーム3を固定部からリング保持部に亘って形成するものではなく、屈曲部10a(必要に応じて屈曲部10b)を局部的に補強する構成であれば良い。具体的には、固定部5の端部から屈曲部10aがカバーされる領域に配設された構成となっている。
【0048】
このように、屈曲部の外面側に、さらに、別の補強層となる補強片22を配設しておくことで、補強効果を高めることが可能となる。もちろん、このような補強片は、中間位置Cよりも内面側にも設置しても良く、比較的外面側(屈曲部の外面側に近い位置)に配設しておくことで、内面側よりも補強効果を高めることができる。
【0049】
図7は、本発明に係る釣糸ガイドの第3の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図である。
この実施形態で示すように、補強片22aは、上記第2実施形態の補強片22のように所定の長さを有するのではなく、屈曲部10aのみを補強するように配設されたものであっても良い。
【0050】
図8は、本発明に係る釣糸ガイドの第4の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図である。
この実施形態で示すように、補強片22bは、上記第3実施形態の補強片22aのように、層間に介在するのではなく、外層(最外層となる織布による繊維強化樹脂層20aの外側)に配設したものであっても良い。
【0051】
図9は、本発明に係る釣糸ガイドの第5の実施形態を示す図であり、フレームの屈曲部の拡大断面図である。
この実施形態では、上記した第1の実施形態における補強層(第2層20b,第7層20g)の代わりに、強化繊維を鉛直方向に対して傾斜させたプリプレグによる斜向強化繊維層20b´,20g´を配設したものであり、フレームに対する捩れ方向に対する強度をより向上させたものである。そして、屈曲部10aの領域には、所定の範囲に亘って強化繊維が鉛直方向に沿うような状態で、補強用のプリプレグシートを巻回することで、補強片22cを配設している。このように、補強片については、屈曲部を補強するように、帯状のプリプレグシートを巻回する構成であっても良い。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した構成に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
本発明は、釣糸ガイドを構成するフレーム部分を、繊維強化プリプレグで構成すると共に、比強度、比剛性等を高め、特に、屈曲部の領域で破損等が生じないように、上述したような補強層(補強片)を配設したことに特徴がある。上記したフレームを構成するプリプレグについては、強化繊維の種類、弾性率、指向方向(傾斜角度)、樹脂含浸量、肉厚などの構成、及び積層枚数や積層状態等については、上記した実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。また、補強層(補強片)については、屈曲部の外周側、内周側のいずれに配設されたものであっても良いし、表層側に露出していたり、層間に介在される構成、複数層で構成されていても良い。
【0053】
また、釣糸ガイドは、釣竿に対して糸止め等によって固定される構成を説明したが、例えば、釣竿に対して摺動可能に外嵌される遊動ガイドとして構成されていても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 釣糸ガイド
3 フレーム
5 固定部
6 ガイドリング
7 リング保持部
8 支脚部
10a,10b 屈曲部
20b,20g 補強層
22,22a,22b,22c 補強片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣糸が挿通されるガイドリングが取り付けられ、複数の繊維強化樹脂層からなるフレームを有する釣糸ガイドであって、
前記フレームは、釣竿に装着固定される固定部と、前記ガイドリングが取り付けられるリング保持部と前記固定部との間に位置する支脚部と、を有し、
前記固定部から支脚部に向けて立ち上がる屈曲部に、前記釣糸ガイドを正面視した際、鉛直方向の強化繊維を有する補強層を設けたことを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項2】
前記補強層は、複数の繊維強化樹脂層の間に介在させたことを特徴とする請求項1に記載の釣糸ガイド。
【請求項3】
前記補強層は、前記複数の繊維強化樹脂層の内、中間位置よりも外面側に配置したことを特徴とする請求項1又は2に記載の釣糸ガイド。
【請求項4】
前記補強層を構成する強化繊維は、一方向に引き揃えて配設されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項5】
前記補強層は、前記屈曲部に設けられる補強片で形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−152092(P2011−152092A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16499(P2010−16499)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】