説明

釣糸ガイド

【課題】軽量化を図りつつ剛性を高めることができる釣糸ガイドを提供する。
【解決手段】本発明に係る釣糸ガイドは、釣糸が挿通されるリング保持部5と、釣竿に固定される固定部6と、リング保持部5と固定部6とを連結して釣糸を釣竿の表面から離間させるための支脚部7とを有する繊維強化樹脂製のフレーム3を備える。フレーム3は、比重が2.0以下に設定されるとともに、固定部6を固定した状態でリング保持部5の頂部に対して該リング保持部5に対する釣糸挿通方向に引張荷重Fを加えたときのフレーム3の伸びLに基づいて得られるその剛性値G=(F/L)×H (Hはフレームの高さ)が5.0以上に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣竿に装着されて釣糸を案内する釣糸ガイドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上記した釣糸ガイドは、釣竿の外周面に装着されるフレームと、フレームに止着され、実際に釣糸が挿通されるガイドリングとを備えた構成となっている。前記フレームは、例えば、特許文献1に記載されているように、ステンレスやチタン等の金属製の板材料をプレス加工することで一体形成するのが一般的となっており、フレームには、釣糸を挿通させるガイドリングを保持するためのリング保持部と、釣竿の外表面に装着するための固定部が一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−340661号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した公知技術では、フレームが金属材料で構成されているため、重量が重いとともに、軽量化を図りつつ剛性を高めるのに限界があり、釣竿の性能の向上を図る上でネックとなっている。一般に、仕掛けを投擲する際にリールから釣糸が繰り出されると、その繰り出される釣糸が釣糸ガイドに何度も衝突し、その衝突によって釣糸ガイドが振動や変形を引き起こすともに、その振動や変形が抵抗となって仕掛けの飛距離に影響を及ぼすという問題があり、釣竿の所望の性能を発揮できるようにするためには、釣糸ガイドを軽量化しつつ高剛性にすることが極めて重要になってくる。
【0005】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、軽量化を図りつつ剛性を高めることができる釣糸ガイドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係る釣糸ガイドは、釣糸が挿通されるリング保持部と、釣竿に固定される固定部と、前記リング保持部と前記固定部とを連結して釣糸を釣竿の表面から離間させるための支脚部とを有する繊維強化樹脂製のフレームを備え、前記フレームは、比重が2.0以下であり、前記固定部を固定した状態で前記リング保持部の頂部に対して該リング保持部に対する釣糸挿通方向に引張荷重Fを加えたときのフレームの伸びLに基づいて得られるその剛性値G=(F/L)×H(Hはフレームの高さ)が5.0以上であることを特徴とする。
【0007】
上記構成の釣糸ガイドは、そのフレーム部分が、繊維強化樹脂によって構成されてその比重が2.0以下であるとともに、その剛性値Gが5.0以上であるため、軽量で高剛性の釣糸ガイドを実現できる。したがって、仕掛けを投擲する際にリールから繰り出される釣糸が釣糸ガイドに衝突しても、その衝突によって釣糸ガイドが振動したり変形することを防止でき(そのため、釣糸を円滑に案内でき、釣糸放出性が向上するとともに、仕掛けの飛距離を伸ばすこともできる)、釣竿の所望の性能を発揮できるようになる。また、軽量化および比剛性の向上により、魚の当りに対する応答性も向上するため、魚の当たりに合わせる合わせタイミングの遅れも防止できる。このような軽量で高剛性の釣糸ガイドは、フレームを繊維強化樹脂によって形成するからこそ実現できるものである。なお、フレームの剛性値Gが5.0未満であると、釣糸の接触時に釣糸ガイドのフレームが大きく振れて糸抵抗が増大することとなり好ましくなく、また、フレームの比重が2.0を超えると、フレームの振れがより大きくなり好ましくない。なお、剛性値Gは、好ましくは5.0〜30であり、より好ましくは7.0以上(好ましくは、7.0〜25)である。
【0008】
なお、上記構成において、「フレームの高さ」とは、釣竿の表面に対する固定部の取り付け面からリング保持部の頂部(上端)までの垂直距離のことである。
【0009】
また、本発明に係る釣糸ガイドは、釣糸が挿通されるリング保持部と、釣竿に固定される固定部と、前記リング保持部と前記固定部とを連結して釣糸を釣竿の表面から離間させるための支脚部とを有する繊維強化樹脂製のフレームを備え、前記フレームは、比重が2.0以下であり、前記固定部を固定した状態で前記リング保持部の頂部に対して該リング保持部に対する釣糸挿通方向に振動を加えたときの共振周波数fに基づいて得られるその振動指数fw=f×H (Hはフレームの高さ)が13000以上であることを特徴とする。
【0010】
上記構成の釣糸ガイドは、そのフレーム部分が、繊維強化樹脂によって構成されてその比重が2.0以下であるとともに、振動指数が13000以上であるため、軽量で且つ制振性に優れた釣糸ガイドを実現できる。したがって、仕掛けを投擲する際にリールから繰り出される釣糸が釣糸ガイドに衝突しても、その衝突によって釣糸ガイドが振動することを防止でき(そのため、釣糸を円滑に案内でき、釣糸放出性が向上するとともに、仕掛けの飛距離を伸ばすこともできる)、釣竿の所望の性能を発揮できるようになる。なお、振動指数が13000を下回ると、釣糸ガイドに振動が生じやすくなり、釣糸ガイドに釣糸が絡みやすくなるとともに、安定した釣糸の放出を確保できなくなる。また、共振周波数は、釣糸ガイド(フレーム)の高さが高いほど小さくなることから、ガイド高さの影響を踏まえたこの振動指数fwは、釣糸ガイドの制振性を評価するのに適した値である。また、請求項1の構成と関連して、剛性値Gを高くすればするほど、振動指数fwが大きくなり、高い剛性および制振性能を得ることができる。また、仕掛けの投擲操作時の釣糸の影響を最も大きく受ける釣糸ガイドは、釣竿の最も手元側に位置する釣糸ガイドやその次(竿先側)の釣糸ガイドであることから、そのような大径の釣糸ガイド(例えば外径が10mm以上または12mm以上)において振動指数を評価することが特に重要である。
【0011】
また、上記構成において、フレームを構成する強化繊維は、その引張弾性率が20000kgf/mm2以上であることが好ましく、この引張弾性率が20000kgf/mm2以上の高弾性の強化繊維は、リング保持部、支脚部、および、固定部に配設される。高弾性の強化繊維は、強化繊維使用量全体の50%(重量%または体積%)以上であることが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、高弾性の強化繊維の使用量が10%未満では、釣糸ガイドが高くなる(大型化する)ほど上記した高い剛性値Gが得られ難くなるため好ましくない。
【0012】
また、上記構成において、フレームの支脚部にはその長手方向に沿って強化繊維が配されていることが好ましい。これによれば、撓み性の向上が図れ、釣糸が引っ掛かっても破損等し難くなる。
【0013】
また、上記構成において、フレームは、保持部の頂部の肉厚よりも支脚部の下端部の肉厚が大きいことが好ましい。ここで、「肉厚」とは、リング保持部に対する釣糸挿通方向にほぼ沿う方向での寸法(釣糸ガイドが釣竿に取り付けられた状態で釣竿の長手方向にほぼ沿う方向での寸法)のことであり、また、「支脚部の下端部」とは、支脚部の固定部との連結部位のことである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軽量化を図りつつ剛性を高めることができる釣糸ガイドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る釣糸ガイドの一実施形態を示す正面図。
【図2】図1に示す釣糸ガイドにおいて、強化繊維の状態を説明する斜視図。
【図3】図2のA部分の断面図。
【図4】図1に示す釣糸ガイドを構成するフレームの成形方法を説明する図。
【図5】図4に示す金型による成形状態を説明する側面断面図。
【図6】釣糸ガイドのフレームの剛性測定試験の方法を概略的に示す図。
【図7】繊維束の他の配置形態を成す釣糸ガイドの正面図。
【図8】図6の試験結果の一例(保持部外径30mm)を示すグラフ図。
【図9】図6の試験結果の一例(保持部外径19mm)を示すグラフ図。
【図10】図6の試験結果の一例(保持部外径13mm)を示すグラフ図。
【図11】図6の試験結果の一例(保持部外径10mm)を示すグラフ図。
【図12】釣糸ガイドのフレームの振動指数測定試験の方法を概略的に示す図。
【図13】カーボン繊維を強化繊維とする繊維強化樹脂製の釣糸ガイドの振動指数(図中、○で示される)とチタン製の釣糸ガイドの振動指数(図中、△で示される)との比較をリングガイド外径との関係で示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る釣糸ガイド及びその製造方法の実施形態について説明する。
図1及び図2は本発明に係る釣糸ガイドの一実施形態を示している。これらの図において、図1は釣糸ガイドの正面図、図2は図1に示す釣糸ガイドにおいて、強化繊維の状態を説明する斜視図である。なお、図2の矢印D方向は、釣糸ガイドが釣竿に装着された際、釣竿の軸長方向と一致しており、固定部が元竿側となって釣竿に取り付けられている(図1は図2を矢印D方向から見た図となる)。以下において、前側(前方側)とは穂先側を意味し、後側(後方側)とは基端側(元竿側)を意味するものとする。また、左右方向とは、フレームを矢印D方向から見た場合、軸線Xに対する左右方向とする。
【0017】
釣糸ガイド1は、強化繊維に合成樹脂を含浸した、いわゆる繊維強化樹脂製のフレーム3を備えている。前記フレーム3は、釣糸が挿通されるガイドリング20を保持する保持部(リング保持部)5と、釣竿の外表面に固定される釣竿取付け用の固定部6とを備えており、本実施形態では、保持部5と固定部6との間に連結部(支脚部)7を設けた構造となっている。すなわち、連結部7の端部を、基端側に向けて屈曲させることで前記固定部6が一体的に形成されている。なお、連結部7は、図2に示されるように、固定部6から斜め上方に向けて立ち上げられており、釣糸が引っ掛かり難いようにしている。
前記保持部5と固定部6との間に、連結部7を形成することで、ガイドリング20に挿通される釣糸は、釣竿の外表面との間で一定の隙間を確保する(釣竿の表面から離間される)。
【0018】
前記保持部5は、前後方向(図2の矢印D方向)における厚みよりも左右方向の幅が大きい板状に形成されており、その中央領域には、ガイドリング20を嵌合させるための開口5Aが形成されている。この開口5Aについては、後述するように、フレーム3を金型によって成形する際に一体形成することが可能である。また、連結部7には、その中心の軸線Xを含む位置で、左右対称となるように貫通孔7Aが形成されており、フレーム部分の軽量化を図れるようにしている。また、本実施形態において、フレーム3は、保持部5の頂部5aの肉厚(左右方向の寸法)W1よりも連結部7の下端部(連結部7の固定部6との連結部位)の肉厚(左右方向の寸法)W2が大きく設定されている。
【0019】
前記フレーム3は、フレームの延設方向に指向する方向の強化繊維が配設された繊維強化樹脂によって形成されている。強化繊維は、フレームを構成する部位において、その延設方向(ここでの延設方向とは、方向性を持って形成されたフレームの部位が配される方向で、フレームを構成する面を含んだ方向に延出する方向)に指向したものを含んでいれば良く、これにより、撓み性の向上を図ることが可能となる。本実施形態の釣糸ガイドのフレーム3を構成する部位は、固定部6が前後方向、連結部7が軸線Xに対し上方に向かって離れるように傾斜する方向、保持部6が環状に周回する方向にそれぞれ方向性を持って延設されている。また、本実施形態における強化繊維は、複数の強化繊維が束状(繊維束10)となって構成されており、フレーム3を形成する合成樹脂内に、骨材のように配設されて補強をしている。すなわち、本実施形態のフレーム3は、上記した繊維束(強化繊維の束)10が、フレームを構成する部位の延設方向に沿って連続するように配された繊維強化樹脂で形成されている。従って、繊維束10は、フレーム3の外側に突出しないように配されている。
【0020】
具体的に、上記の連続した強化繊維の繊維束10は、固定部6の内、軸線Xを境にして一端側(左側)の固定部6aから連結部7の一端側(前記貫通孔7Aを挟んで左側)7aを通り(フレームの連結部(支脚部)7の長手方向に沿って強化繊維が配されている)、開口5Aの周囲である環状の保持部5aを周回するようにして折り返して、連結部7の他端側(前記貫通孔7Aを挟んで右側)7bを通り(フレームの連結部(支脚部)7の長手方向に沿って強化繊維が配されている)、他端側(右側)の固定部6bに至るように連続している。すなわち、図2に示すように、繊維束10は、フレーム形状に沿って連続して配設されており、フレーム3は、その周囲領域が、連続した繊維束10によって補強された状態となっている。
【0021】
ここで、図3を参照して、繊維束10の構成について説明する。
図3は、フレーム3の所定の部位の一部(右側の連結部)の断面構造を示している。この図に示されるように、繊維束10となる骨材は、合成樹脂材の中央側に配されて、繊維束10の周囲に合成樹脂層15が形成された状態となっている。前記繊維束10を構成する強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等が用いられ、その繊維束10は、長手方向に配した芯部繊維10Aと芯部繊維10Aの周りを周回する周辺繊維10Bで構成されている。
【0022】
前記芯部繊維10Aは、多数の強化繊維を束ねて構成することが可能であり、周辺繊維10Bは、芯部繊維10Aの長手方向周囲に編み込まれた状態で配設することが可能である。この場合、周辺繊維10Bについては、1本の繊維で構成されるが、所定本数の繊維が束ねられた状態で芯部繊維10Aの周囲に配設されるものであっても良い。そして、上記のように強化繊維が束状にされた状態で、これが合成樹脂層15によって覆われ、繊維強化樹脂のフレーム3の骨材となって補強がなされている。このように編み込まれた繊維を有していると、編み目の空間に合成樹脂が入り込んで強く保持され、強度の大きなフレームにすることができる。
【0023】
なお、前記繊維束10については、フレームを1つの繊維束で強化したものであっても複数の繊維束で強化したものであっても良く、フレーム3の中央側のみならず、断面視した際、全体に配設された状態となっていても良い。また、図に示した構成では、芯部繊維10Aを構成する各繊維よりも外部側の周辺繊維10Bの繊維を太径にしているが、両者は同じ径で構成しても良く、芯部繊維10Aの繊維を太径にしても良い。さらに、繊維束については、複数本の強化繊維を長手方向に引き揃えたもの、複数本の強化繊維を蛇行させて互いに絡み合うようにしたもの、撚り合わされたものであっても良い。また、繊維束については、各繊維間に空間ができるように形成されたものであっても良い(このような空間については、合成樹脂層15を構成する合成樹脂によって充填される)。
【0024】
また、繊維束10を構成する強化繊維(フレーム3を構成する強化繊維)のうちの少なくとも一部は、その引張弾性率が20トン/mm以上に設定されている。この引張弾性率が20トン/mm以上の高弾性の強化繊維は、リング保持部5、連結部7、および、固定部6に配設される。特に、高弾性の強化繊維は、強化繊維使用量全体の50%(重量%または体積%)以上であることが好ましいが、これに限定されるものではない。なお、高弾性の強化繊維の使用量が10%未満では、釣糸ガイド1が高くなる(大型化する)ほど後述する高い剛性値Gが得られ難くなるため好ましくない。
【0025】
このように、合成樹脂を含浸した強化繊維を束状に構成することで、その取り扱いが容易となり、後述するようにフレームを容易に成形することが可能となる。また、複数本の強化繊維を蛇行させて絡み合うようにすることで、撓み性の向上が図れると共に、比強度を向上することが可能となる。
【0026】
前記ガイドリング20は、リング状に構成され、その内周面である釣糸案内面20a部分での摺動抵抗が小さい部材、例えば、チタン、アルミ、SUS、セラミックス等によって形成されている。このガイドリング20は、フレーム3が前記繊維束を骨材として一体形成された後、保持部5に形成された開口5Aに対して嵌入、固定される。なお、保持部5はガイドリング20有していなくてもよく、その場合には、保持部5の開口5Aが釣糸案内面20aを形成する。
【0027】
次に、上記したような形態のフレーム3を形成する方法について、図4及び図5を参照しながら説明する。
図1及び図2に示したようなフレーム3は、図4及び図5に示す金型50によって形成可能である。本実施形態の金型50は、上下に型割りされる上型51と下型52によって構成されており、図4は、下型52を上型51に対して開き、上方側から見た概略図が示されている。この場合、下型52には、一端面側がなだらかな傾斜面52b,52cで、他端面側がそれよりも急な傾斜面52dとなる断面が略三角形状の山部52aが形成されており、急斜面52d側において、フレーム3の前記固定部6が形成され、緩斜面52b,52c側において、フレーム3の前記連結部7及び保持部5が形成されるようになっている。なお、上記した金型50は、一例を示したに過ぎず、型割りの方向については、左右方向としたり、傾斜方向にする等、任意の形態にすることが可能である。
【0028】
下型52の表面(山部52aの表面)には、フレーム3の全体形状に沿ったキャビティ(溝)52Cが形成されており、そのキャビティ52Cには、前記連結部7に形成される貫通孔7Aの位置に応じて貫通孔用凸部52eと、保持部5に形成されるガイドリング固定用の開口5Aの位置に応じて開口用凸部52fが形成されている。
【0029】
このような下型52のキャビティ52Cに対して、図3に示したように構成される繊維束10を、図4の二点鎖線で示すようにフレーム3の外形状に沿うように湾曲させる。すなわち、繊維束10の端部側を重ねると共に、その中間部分に、連結部7及び保持部5に対応したループを形成してキャビティ52C内に収容する。このとき、繊維束10については、予め合成樹脂を含浸させておき、成形前の状態で屈曲したときに保形性を有するようにしておくことが好ましい。これにより、繊維束10を、フレーム3に合致するような屈曲作業と、金型収容作業が容易に行えるようになる。
【0030】
そして、この状態で上型51を下型52に対して閉じ、前記キャビティ内に熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)や熱可塑性樹脂(例えば、ナイロン)をマトリックス樹脂として充填し、その後、マトリックス樹脂を硬化させて繊維強化樹脂製のフレーム3を得ることが可能となる。この場合、充填されるマトリックス樹脂は、図3に示した合成樹脂層15を構成することとなるが、このマトリックス樹脂は、上記した繊維束10の各繊維間にも侵入した状態となっている。なお、金型成型時に、キャビティ内で繊維束10が動かないように、金型内で繊維束10を保持しても良く、また、上型51がキャビティを閉塞するだけでなく、下型52のキャビティ内に入り込んで繊維束10を下型のキャビティ内に押圧するように、図示しない押圧片を設けておいても良い。
【0031】
なお、上記した金型から成形体(フレーム)を取り出した後、再度、別の金型で樹脂成形(二重成型)して、確実に合成樹脂が周るようにしても良い。このようにすることで、強度及び外観を向上することが可能となる。また、金型から得られたフレーム3に対しては、必要に応じて細部加工が施される。この細部加工は、例えば、釣竿の固定部6の形状を釣竿に載置し易いように曲面状に形成したり、糸巻き・糸止めし易いように、固定部の端部を研磨等することが該当する。
【0032】
次に、フレーム3の表面処理を施す。例えば、バレル加工を施すことで、表面のバリを除去すると共に、表面の光沢が得られる程度に仕上げ研磨を施す。この研磨の程度については、釣糸ガイド1のサイズや形状、材質特性などによって研磨剤や研磨時間などを任意に調整することが可能である。このようなバレル加工を施すことにより、強化繊維を切断することなく、フレーム3を研磨することが可能となり、強度の安定化が図れると共に、外観の優れた釣糸ガイドとすることが可能となる。
【0033】
なお、このような研磨工程を施すに際しては、フレーム3の表面に強化繊維が一部露出しマトリックス樹脂が一部残るように研磨することが好ましい。こうすることで、研磨表面の光沢をより一層向上することが可能となる。
【0034】
次に、必要に応じて、フレーム3の全体又は一部分に被膜を形成する。例えば、外観向上やフレーム本体の保護のために塗装を行なうことや、金属やセラミックスを蒸着等することも可能である。
【0035】
そして、上記したように形成されたフレームの保持部5の開口5Aにガイドリング20を取り付ける。ガイドリング20の取り付け方法は、圧入や接着、カーリング、その他、任意の固定方法を採用することが可能である。
【0036】
上記したような製造方法によって形成される釣糸ガイド1によれば、金属製のものと比較して、重量が軽くなり、更には、比強度、比剛性、及び撓み性に優れた構成とすることが可能となり、釣糸を安定して案内することが可能となる。このため、そのような釣糸ガイドを多数個装着しても釣竿全体が重量化することはなく、釣竿の性能が向上する。特に、穂先竿のような部分では、より軽量化が図れることから、繊細な当たりを感知し易くなり、より釣竿の性能の向上を図ることが可能となる。
【0037】
特に、保持部5の領域や連結部7の領域に、上記したような延設方向に指向する強化繊維束10を有することで、撓み性の向上が図れることから、釣糸が引っ掛かった場合等、大きな負荷が作用しても、破損等が生じ難くなる。さらに、固定部6から連結部7に移行する領域では、屈曲角度が大きいことから、大きな曲げ応力が作用するものの、そのような方向性を有する強化繊維によって効果的に補強された状態となっているため、破損等を生じ難くすることが可能となる。
【0038】
さらに、上記したような製造方法によれば、強化繊維がフレームの延設方向に指向した釣糸ガイドを容易に形成することが可能となる。
【0039】
なお、上記した構成において、フレームの延設方向に指向する強化繊維については、繊維束でなくても、フレームに沿って連続した強化繊維が互いに間隔を有して配される構成であっても良い。さらに、強化繊維は、フレーム全体に沿って途切れることなく設けても良いが、フレームを構成する部位の保持部、固定部、連結部等ごとに、その延設方向に沿って連続する繊維を設けても良い。また、フレームの製造方法は上記に限らず、任意の製法でフレームを形成できる。また、繊維強化樹脂は糸状体に限らず、プリプレグ、シート、または、プリプレグテープ状にしたものを積層したり、直接に金型に配設してもよい。また、樹脂は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0040】
また、本実施形態において、このようにして成形される釣糸ガイド1は、以下で規定されるその剛性値Gが5.0以上となるようにその構造形態(材料、繊維配置形態、樹脂含浸量、繊維比率など)および寸法が設定される。ここで、図6を参照して釣糸ガイド1のフレーム3の剛性値測定試験の方法を説明する。
【0041】
図6に示されるように、フレーム3の剛性値Gを測定する場合には、まず、釣糸ガイド1のフレーム3の固定部6を釣竿に設置するかのように測定支柱72に糸巻き等の固定手段74を介して取り付け固定する。そして、この固定状態で、保持部5の頂部5aに対して保持部5に対する釣糸挿通方向(釣竿の軸長方向Dと一致)にワイヤ等の引張手段76を介して引張荷重F(kgf)を加え、そのときのフレーム3の伸びL(mm)を測定する。そして、これらの引張荷重Fの値と伸びLの値とから、フレーム(ガイド1)の高さH(釣竿(ここでは、支柱72)の表面に対する固定部6の取り付け面から保持部5の頂部5aまでの垂直距離(mm))に基づいて、剛性値G=(F/L)×Hを算出する。また、このような測定試験では、例えば、試験スピード(引張速度)10mm/分の下で引張荷重Fを連続的に加え、剛性を0.2kgf〜0.8kgf間の勾配で評価してもよい。
【0042】
このような引張試験により測定される剛性値Gが5.0以上で比重が2.0以下の繊維強化樹脂製の少なくとも片脚タイプの釣糸ガイド1は全て、その構造形態や寸法にかかわらず、本発明に含まれるものであり、そのような釣糸ガイド1は前述した効果を奏するものである。ここで、片脚ガイドとは、保持部5から1本の支脚部7が延びてこの片方の脚の固定部6が釣竿に取り付けられるタイプのものであり、支脚部7から補助的に別の脚部が延びるような構造も含まれる。なお、剛性値Gは、好ましくは5.0〜30であり、より好ましくは7.0以上(好ましくは、7.0〜25)である。
【0043】
図8〜図11には、比重が2.0以下で且つ剛性値Gが5.0以上の釣糸ガイドを対象とした引張試験の結果を示すグラフ図である。この場合、図8の試験結果は、図1〜図3に示される構造(材料はカーボン繊維)を有するとともに、ガイド高さH=60mm、保持部外径=30mm、フレーム厚=2.0mmの釣糸ガイドに関して行なわれたものであり、図9の試験結果は、図1〜図3に示される構造(材料はカーボン繊維)を有するとともに、ガイド高さH=34mm、保持部外径=19mm、フレーム厚=1.8mmの釣糸ガイドに関して行なわれたものであり、図10の試験結果は、図1〜図3に示される構造(材料はカーボン繊維)を有するとともに、ガイド高さH=21mm、保持部外径=13mm、フレーム厚=1.4mmの釣糸ガイドに関して行なわれたものであり、図11の試験結果は、図1〜図3に示される構造(材料はカーボン繊維)を有するとともに、ガイド高さH=11mm、保持部外径=10mm、フレーム厚=0.9mmの釣糸ガイドに関して行なわれたものである。これらの図から分かるように、剛性値が5.0以上になる。
【0044】
また、本実施形態の釣糸ガイド1は、以下で規定されるその振動指数fwが13000以上となるようにその構造形態(材料、繊維配置形態、樹脂含浸量、繊維比率など)および寸法が設定される。ここで、図12を参照して釣糸ガイド1のフレーム3の振動指数測定試験の方法を説明する。
【0045】
図12に示されるように、フレーム3の振動指数fwを測定する場合には、まず、釣糸ガイド1のフレーム3の固定部6を釣竿に設置するかのように測定支柱(または竿管)82に糸巻き等の固定手段80を介して取り付け固定する。そして、この固定状態で、保持部5の頂部5aに対して保持部5に対する釣糸挿通方向(釣竿の軸長方向Dと一致)に例えば引張治具によって振動Pを加え、そのときのフレーム3(竿管82)の振動を加速度センサ84によって測定する。加速度センサによって測定される振動信号は、アンプ86で増幅された後、例えばパソコン88に送られ、パソコン88内の振動解析ソフトによって共振周波数f(Hz)が求められる。そして、この共振周波数fの値とフレーム(ガイド1)の高さH(釣竿(ここでは、支柱82)の表面に対する固定部6の取り付け面から保持部5の頂部5aまでの垂直距離(mm))に基づいて、振動指数fw=f×Hを算出する。このような引張試験により測定される振動指数fwが13000以上で比重が2.0以下の繊維強化樹脂製の少なくとも片脚タイプの釣糸ガイド1は全て、その構造形態や寸法にかかわらず、本発明に含まれるものである。
【0046】
図13には、カーボン繊維を強化繊維とする繊維強化樹脂製の釣糸ガイド1の振動指数(図中、○で示される)とチタン製の釣糸ガイドの振動指数(図中、△で示される)との比較がリングガイド外径との関係で示されている。このように、本発明に係る繊維強化樹脂製の釣糸ガイド1の振動指数とチタン製の釣糸ガイドの振動指数との間には歴然とした違いが存在し、振動指数13000を境に区分し得る。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した構成に限定されることはなく、種々変形することが可能である。
【0048】
本発明は、釣糸ガイド1のフレームを構成する強化繊維に関し、束状に構成されたものでなくても良い。また、フレームの延設方向に指向する強化繊維の種類や弾性率、樹脂含浸量、径などの構成、及び配列状態等については、実施形態に限定されることはなく、種々変形することが可能である。また、強化繊維束10の配設形態は、前述した実施形態に限らず、例えば図7に示されるように保持部5の全周にわたって繊維束10が周回していてもよい。
【0049】
また、釣糸ガイド1は、釣竿に対して糸止め等によって固定される構成(固定部6を有する構成)を説明したが、例えば、釣竿に対して摺動可能に外嵌される遊動ガイドとして構成されていても良い。
【符号の説明】
【0050】
1 釣糸ガイド
3 フレーム
5 保持部
6 固定部
7 連結部(支脚部)
10 繊維束
20 ガイドリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣糸が挿通されるリング保持部と、釣竿に固定される固定部と、前記リング保持部と前記固定部とを連結して釣糸を釣竿の表面から離間させるための支脚部とを有する繊維強化樹脂製のフレームを備え、
前記フレームは、比重が2.0以下であり、前記固定部を固定した状態で前記リング保持部の頂部に対して該リング保持部に対する釣糸挿通方向に引張荷重Fを加えたときのフレームの伸びLに基づいて得られるその剛性値G
G=(F/L)×H (Hはフレームの高さ)
が5.0以上であることを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項2】
釣糸が挿通されるリング保持部と、釣竿に固定される固定部と、前記リング保持部と前記固定部とを連結して釣糸を釣竿の表面から離間させるための支脚部とを有する繊維強化樹脂製のフレームを備え、
前記フレームは、比重が2.0以下であり、前記固定部を固定した状態で前記リング保持部の頂部に対して該リング保持部に対する釣糸挿通方向に振動を加えたときの共振周波数fに基づいて得られるその振動指数fw
fw=f×H (Hはフレームの高さ)
が13000以上であることを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項3】
前記フレームを構成する強化繊維は、その引張弾性率が20トン/mm以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の釣糸ガイド。
【請求項4】
前記フレームの前記支脚部にはその長手方向に沿って強化繊維が配されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項5】
前記フレームは、前記保持部の頂部の肉厚よりも前記支脚部の下端部の肉厚が大きいことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の釣糸ガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−75363(P2012−75363A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221896(P2010−221896)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002495)グローブライド株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】