説明

鉄−クロム系鑞材

本発明は、ステンレス鋼基材との濡れ性が優れた鑞材に関する。この鑞材は、高強度及び良好な耐食性を有する鑞付接合部を形成する。この鑞材は、ステンレス鋼、並びに耐食性及び高強度を必要とするその他の材料に鑞付するのに適している。典型的な応用例は、熱交換器及び触媒コンバータである。本発明による鉄−クロム系鑞材用粉末は、11〜35重量%のクロムと、0〜30重量%のニッケルと、2〜20重量%の銅と、2〜10重量%のケイ素と、4〜10重量%のリンと、0〜10重量%のマンガンと、少なくとも20重量%の鉄とを含み、ケイ素が6重量%以下の場合にはリンは8重量%超であり、リンPが8重量%以下の場合にはケイ素は6重量%超である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼並びに耐食性及び高強度を必要とするその他の材料の鑞付けに適した鉄−クロム系鑞材に関するものである。典型的な適用例は、熱交換器及び触媒コンバータである。
【背景技術】
【0002】
鑞付けは、鑞材及び加熱によって金属部材を接合する方法である。鑞材の融点は、基材の融点よりも低くなければならないが、450℃超でなければならない。鑞材が、450℃よりも低い鑞付け温度を有する場合、接合工程は、はんだ付けと呼ばれる。ステンレス鋼の鑞付けに最も一般的に使用される鑞材は、銅系鑞材又はニッケル系鑞材である。コストを考慮すると銅系鑞材が好ましいが、ニッケル系鑞材は、高耐食性及び高強度を必要とする用途で必要である。銅系鑞材は、例えば、地域暖房用の熱交換器及び水道水設置用の鑞付けにしばしば使用される。
【0003】
クロム含有量が大きいニッケル系鑞材は耐食性に優れるので、腐食性環境に暴露される用途で使用される。ニッケル系鑞材は、使用温度が高い用途及び/又は高強度が必要とされる用途でも使用できる。腐食性環境であり、かつ高い使用温度に暴露される典型的な用途は、自動車のディーゼルエンジンにおける排ガス再循環(EGR)冷却機である。この用途用の鑞材は、鑞付け中に基材の脆化を引き起こさないように、耐食性、耐高温酸化性、基材の良好な濡れ性などの、使用に適した一定の特性を有していなければならない。
【0004】
関連技術
異なる数種のニッケル系鑞材が、米国溶接協会(American Welding Society)規格(ANSI/AWS A 5.8)に列挙されている。こうしたニッケル系鑞材のうちの多数が、熱交換器を鑞付けするために使用される。Ni−7Cr−3B−4.5Si−3Feという組成を有するBNi−2が、高温用途において高強度接合部を形成するために使用されるが、ホウ素を含有することが欠点である。その理由は、ホウ素が基材内に拡散した場合、基材の脆化を引き起こす虞があるからである。他のホウ素を含むニッケル系鑞材も同じ欠点を有する。
【0005】
ホウ素による欠点を克服するために、他のニッケル系鑞材も開発された。BNi−5(Ni−19Cr−10Si)は、クロム含有量が大きいために耐食性に優れる。この合金の鑞付け温度はかなり高い(1150〜1200°C)。その他のホウ素を含まないニッケル系鑞材は、BNi−6(Ni−10P)及びBNi7(Ni−14Cr−10P)である。リンの含有量が10重量%と高いので、こうした鑞材の鑞付け温度はより低くなる。リン含有量(10重量%)が大きいと、リン含有脆性相が形成されるリスクのために必要な強度を満たさない鑞付け接合部を形成する虞がある。
【0006】
別のニッケル系鑞材は、米国特許第6696017号及び米国特許第6203754号に記載されている。この鑞材は、組成がNi−29Cr−6P−4Siであり、高強度および高耐食性を合わせ持っており、鑞付け温度もかなり低い(1050〜1100°C)。この鑞材は、高腐食性環境で使用される新世代のEGR冷却機のために特に開発された。
【0007】
すべてのニッケル系鑞材の有する欠点は、高価なニッケルの含有量が大きいことである。ニッケル含有量は、少なくとも60%であるが、通常さらに大きい。こうした鑞材の高ニッケル含有量のために、鑞材並びに熱交換器及び触媒コンバータの製造がコスト高になる。
【0008】
コスト高になるというニッケル系鑞材の有する欠点を克服するために、鉄系鑞材の使用可能性が調査された。市場には2種類の鉄系鑞材が存在している。国際出願公開第02098600号に記載されたAlfaNovaは、ステンレス鋼に近い組成を有し、鑞材の融点を低減させるために、ケイ素、リン及びホウ素が添加されている。この合金の鑞付け温度は1190°Cである。
【0009】
米国特許出願公開第20080006676号に記載された別の鉄系鑞材AMDRY805の組成は、Fe−29Cr−18Ni−7Si−6Pである。この合金は、ホウ素による欠点を克服するためにホウ素を含まない。この合金の鑞付け温度は1176°Cである。
【0010】
3番目の鉄系鑞材Fe24Cr20Ni10Cu7P5Si5Mnは、Hoganas AB SwedenからBrazeLet(商標)F300として市販されている。この合金は、リンの析出を抑制し且つ耐食性を向上させるために銅を含む。この合金の鑞付け温度は1100°Cである。
【0011】
粒成長を抑制できる最高実用温度は、ASM特殊金属ハンドブック:ステンレス鋼(speciality hand book Stainless Steel)、1994年、291頁によれば1095°Cである。したがって、延性の低下や硬度の上昇などの基材中の粒成長に伴う問題点を防止するために、鑞付け温度を低くすることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6696017号明細書
【特許文献2】米国特許第6203754号明細書
【特許文献3】国際出願公開第02098600号
【特許文献4】米国特許出願公開第20080006676号明細書
【特許文献5】米国特許第4444587号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2008006676号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】ASM特殊金属ハンドブック:ステンレス鋼(speciality hand book Stainless Steel)、1994年、第291頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高強度及び良好な耐食性を有する鑞付け接合部を形成する鉄系鑞材に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
鑞材は、粉末形態で提供することができ、鑞材を粉末形態にすることは、当技術分野で公知の方法を使用することによって実現できる。例えば、特許請求の範囲に規定された組成を有する粉末は、均一な合金を溶融し、それをアトマイゼーション法によって粉末形成することによって作製できる。粉末の平均粒径は、10〜150μm、通常10〜100μmの範囲にできる。
【0016】
本発明による鑞材は、11重量%〜35重量%のクロムと、2重量%〜20重量%の銅と、0重量%〜30重量%のニッケルと、2重量%〜10重量%のケイ素と、4重量%〜10重量%のリンと、少なくとも20重量%の鉄とを含む合金である。ケイ素が6重量%以下の場合には、リンは8重量%超である。Pが8重量%以下の場合には、ケイ素は6重量%超である。
【0017】
一具体例によれば、ケイ素は、6重量%超かつ最大10重量%であるべきであり、リンは、6重量%〜10重量%であるべきである。別の具体例によれば、ケイ素は、6重量%超かつ最大10重量%であるべきであり、Pは、8重量%〜10重量%であるべきである。鑞材は、最大10重量%のマンガンも含むことができる。この鑞材は、触媒コンバータ及び熱交換器の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】T供試体を表す図。
【図2】接合部の強度の試験方法を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、ステンレス鋼に対する濡れ性の優れた鉄−クロム系鑞材に関する。鑞材は、良好な耐食性を有する高強度鑞付け接合部を形成し、ニッケル系鑞材に比べてコストが顕著に低い。この鑞材は、従来のニッケル系鑞材よりも顕著に低いコストで多様な型の熱交換器及び触媒コンバータを鑞付けするのに適している。
この鑞材の典型的な使用は、腐食環境で動作する高温用途である。こうした用途は、自動車用途、例えば、排ガス再循環で使用される多様な型の熱交換器(板状又はパイプ状)でありうる。他の実例は、多様な型の触媒コンバータである。
【0020】
本発明による鑞材の組成は、
少なくとも20重量%の鉄、
約2〜20重量%、好ましくは、5〜15重量%の銅、
約11〜35重量%、好ましくは、20〜30重量%のクロム、
約0〜30重量%、好ましくは、10〜20重量%のニッケル、
約2〜10重量%のケイ素、
約4〜10重量%のリンであり、
ケイ素が6重量%以下の場合には、リンは8重量%超であり、
リンが8重量%以下の場合には、ケイ素は6重量%超である。これは、
ケイ素含有量が6重量%超かリン含有量が8重量%超かのいずれかであるか、又は
その両方、即ち、Si含有量が6重量%超かつP含有量が8重量%超であること
を意味する。
【0021】
一具体例によれば、ケイ素は6重量%超かつ最大10重量%であるべきであり、リンは6重量%〜10重量%であるべきである。第2の具体例によれば、ケイ素は6重量%超かつ最大10重量%であるべきであり、リンは8重量%〜10重量%であるべきである。
【0022】
上記で列挙したもの以外の成分も含有することができる。
【0023】
鑞材は、場合によっては、最大10重量%、通常7重量%未満のマンガンを含むことができる。
【0024】
鑞材の主成分の組成がステンレス鋼基材に類似していることは利点になりうることは理解されよう。ステンレス鋼の各種の等級の実例は、典型的な組成がFe−17Cr−13.5Ni−2.2Moである316L及び典型的な組成がFe−18.8Cr−11.2Niである304Lである。ステンレス鋼はすべて、定義によって最小11%のクロムを含むが、30%超のクロムを含むステンレス鋼はほとんどない。11%超のクロム含有量は、酸化クロムの保護層を形成するのに必要であり、この保護層が、鋼に耐食特性を賦与する。クロム含有量が高いほど耐食性が良くなるが、35%を超えると接合部強度の低減を引き起こす虞がある。したがって、クロム含有量は、11〜35重量%、好ましくは、20〜30重量%である。
【0025】
合金の融点を低下させるために、融点抑制剤が添加される。ケイ素、ホウ素及びリンはそれぞれ、有効な融点抑制剤であることは周知である。Fe−P系状態図を調査すると、この系は約10重量%のリンの所に最低融点1100℃を有することが判る。Fe−Si系は、10重量%のケイ素の所に融点1380℃を有し、約19重量%のケイ素の所に最低融点約1210℃を有する。それぞれリン及びケイ素の含有量10重量%超は望ましくない。その理由は、脆性相が形成されるリスクがあまりにも高過ぎるからである。米国特許第6696017号及び米国特許第6203754号には、ケイ素+リン含有量は、9〜11.5重量%に保つべきであると記載されている。ケイ素及びリンの合計含有量が11.5重量%超である場合、合金は脆くなり強度が低下する。
【0026】
驚くべきことに、銅は、鑞付け操作中の基材内へのケイ素及びリンの拡散を低減させることが判明した。基材中の粒界でのリンの析出も防止される。これは、基材の脆化も防止されることを意味する。さらには、これは、銅と合わせてケイ素及びリンの合計量をより大きくすることによって鑞付け接合部の強度を向上させることができることを意味する。したがって、高強度を必要とする場合、リン及びケイ素の含有量を大きく保つことが好ましい。したがって、銅含有鑞付け材料中のケイ素及びリンの合計含有量は、最大20重量%であり得る。
【0027】
したがって、ケイ素が6重量%以下であれば、リンは8重量%超であるべきであり、リンが8重量%以下であれば、ケイ素は6重量%超であるべきである。また、ケイ素+リンは、10重量%超でなければならず、通常、ケイ素+リンは、14重量%超になることになる。
【0028】
銅の存在は、10%HS0中の鑞付け接合部の耐食性に対して有利な効果を有することが判明したことも予想外である。銅による有利な効果を得るには2重量%の銅が必要であると考えられる。本発明の範囲内の鑞材の銅含有量は、鑞付けされた基材と化学成分的に離れ過ぎないように20重量%未満に保つべきである。したがって、銅含有量は、2〜20重量%、好ましくは、5〜15重量%であるべきである。
【0029】
Fe−B系は、約4重量%のホウ素の所で最低融点1174℃を有する。しかし、ホウ素は、鑞付け成分の脆化を引き起こすという欠点を有する。ホウ素は侵入型元素であり、その直径が小さいために、基材の格子内に速やかに拡散し、脆いCrB相を形成することができる。ホウ素が拡散するために、合金の再溶融温度が上昇するが、これは一部の場合望ましい効果である。米国特許第4444587号には、マンガンも融点を抑えるので、マンガンがホウ素の良好な代替物になり得ることが記載されている。鉄系で、10〜30重量%のマンガンは、ケイ素及び炭素と一緒になって200℃超も融点を低下させる。2番目に、マンガンは、ほとんど完全に鑞付けサイクル中に蒸発するので、再溶融温度の上昇を可能にするが、CrBのような脆い相の形成のリスクも全くない。
【0030】
ニッケルは、オーステナイトを安定化させるために、合金の耐酸化性が向上する。ニッケルは、鑞付け接合部の靭性をも向上させる。Cr−Fe−Niの三元系状態図を見ると、ニッケルは、融点抑制効果も有することが理解できる。Crが30重量%、Niが20重量%の場合、Cr−Fe−Ni系の融点は、ASM特殊金属ハンドブック:ステンレス鋼(speciality hand book Stainless Steel)によれば約1470°Cである。本発明に係る鑞材のニッケル含有量は、鑞材のコストを最小化するために30重量%未満に保つべきである。
【0031】
本発明による鑞材は粉末の形態であり、ガスアトマイゼーション法又は水アトマイゼーション法により製造できる。鑞材は、粉末の形態で使用することもでき、従来の方法によって、ペースト、テープ、箔の形態又は他の形態に転換することもできる。適用される技術に応じて、異なる粒径分布が必要であるが、鑞材粒子の平均粒径は10〜100μmである。
【0032】
鑞材は、真空(<10−3Torr)を使用する真空炉鑞付けに適している。鑞材は、1100℃未満の融点を有し、鑞付け温度1120℃でいかなる粒成長も観察されず、高強度及び良好な耐食性を有する接合部を形成する。
【0033】
ペースト、テープ、箔の形態又は他の形態の鑞材は、接合すべき基材表面間の間隙に又は間隙中に置かれる。加熱中に鑞材は溶融し、毛細管力によって基材表面を濡らし間隙に流れ込む。冷却中に鑞材は、凝固した鑞付け接合部を形成する。鑞材は、毛細管力で作用するので、鑞付けすべき基材との鑞材の濡れ性は極めて重要である。本発明の範囲の鑞材は、ステンレス鋼基材との濡れ性が優れている。また、この鑞材は、間隙幅に対する許容度が大きく、500μm超の間隙に鑞付けすることができる。
【0034】
本発明による鑞材を用いて鑞付けされた接合部は、Cr−Pに富む相とNi−Fe−Si−Cuに富む相の均一な混合された微細組織を有する。驚くべきことに、ケイ素及びリンの拡散が鑞材中の銅の存在によって制限されることが判明した。基材中の粒界でのリンの析出も銅の存在によって防止された。銅を含まない鑞材は、基材中により広い拡散領域を有し、又、粒界にリンの析出が存在し、このために基材の脆化が引き起こされる虞がある。
【実施例】
【0035】
参考材料として2つの鉄系鑞材を使用した。
Fe24Cr20Ni10Cu7P5Si5Mn(参考材料1と呼ぶ)及びFe29Cr18Ni7Si6P(参考材料2と呼ぶ)である。
【0036】
参考材料1(Ref1)は、Hoganas ABによって製造された鉄系鑞材、BrazeLet(商標)F300である。参考材料2(Ref2)は、米国特許出願第2008006676号に記載された鉄系鑞材である。
【0037】
さらには、本発明による3つの異なる鑞材を水アトマイゼーション法によって調製した。
【0038】
表1は、製造された鑞材の実際の組成を示す。それぞれの成分量を重量%で示す。「残部」という表現は、溶融物中の残りの材料がFeからなることを意味する。本発明によれば、鑞材粉末は、少なくとも20重量%のFeを含み、残りの成分は、示された限界内で調整して合わせて最大100重量%になる。微量元素は、製造方法によってもたらされる不可避の不純物の結果であり、微量元素は、鑞材の特性に影響を与えない程度の少量で存在する。微量元素は、通常、合計1重量%未満の量で存在する。
【0039】
鑞材が満足すべき第1の基準は、鑞付け温度が、好ましくは1100℃以下であるべきであるということである。鑞材が溶融し鑞付けされる温度は、銅によって影響されることが表1から理解されよう。参考材料2は1100℃で溶融しない。
【0040】
特性試験に使用される方法は以下の通りである。
【0041】
1)濡れ性試験
鑞材(0.2グラム)をステンレス鋼基材の中心に直径9mmの円形に置いた。粉末で覆われた領域、すなわち元の粉末領域(A)は63.6mmであった。次いで鑞材が置かれた基材を10−4Torrの真空下で1100℃で30分間加熱した。濡れ性をS=A/Aにより定義される拡がり比で求めた。上式中、Aは溶融鑞材の領域であり、Aは元の粉末領域である。
【0042】
銅の多い鑞材(参考材料1)は、濡れ性が非常に良好であることが表2から理解されよう。本発明の範囲の鑞材(合金1、2及び3)は、濡れ性が中程度であった。
【0043】
2)金属学的組織検査
金属粉末を結合剤と混合することによって鑞材をペーストに転換した。ステンレス鋼304を基材として使用した。図1によるT供試体を10−4Torrの真空下で1100℃で30分間鑞付けした。鑞付け後、T供試体を切断して、鑞付け接合部の断面領域を光学顕微鏡で検査した。良好な鑞付け接合部が、均一な微細組織を有する孔及び亀裂のない接合部であると同定された。
【0044】
表2から分かるように、本発明による鑞材合金(合金1、2及び3)は、均一な微細組織を形成し、基材内への元素の拡散は限定されており、粒界でのリンの析出は見られない。銅を含まない鉄系鑞材(参考材料2)を使用する場合、基材内への拡散がはるかに顕著であることが判明した。
【0045】
3)接合部の強度
100μmの平行クリアランスを有するラップ型接合構造についてANSI/AWS C3.2M/C3.2.2001で勧奨されたものと類似の手順を使用して接合部の強度を試験した(図2を参照されたい)。鑞付けする前に、鑞材を結合剤と混合することによって鑞材をペーストに転換した。次いで、ペーストを付与した接合部の強度用供試体を10−4Torrの真空下で1100℃で30分間加熱した。
【0046】
最高強度が、ケイ素+リンの最大含有量を有する合金、即ち、合金1および合金3で得られることが表2から理解されよう。合金2でさえ、より少ないケイ素+リンを含む参考材料1よりもはるかに大きい強度を有する。考えられていたこととは全く反対に、これは、銅と合わせたケイ素及びリンの高含有量により、高強度が得られることを証明する。
【0047】
4)腐食試験
腐食媒体を入れたビーカー内に鑞付けしたT供試体を1週間浸漬することによって耐食性を調査した。その後に供試体の腐食の徴候を検査した。それぞれの合金につき1つ、合計で5つの鑞付けされた供試体を作製した。用いた腐食媒体は10重量%のHS0水溶液であった。
【0048】
結果を表2に示す。合金1〜3及び参考材料2には腐食を受けた跡があったが、参考材料2が最も腐食していた。参考材料2を他の鉄系合金と比較すると、鉄−クロム系鑞付材料の耐食性に対する銅のプラスの効果が証明される。本発明の範囲の合金(合金1、2及び3)及び参考材料1を比較すると、耐食性に関してよりクロム含有量が大きいことの利点が示されている。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼基材の鑞付に適した鉄−クロム系鑞材用粉末において、
11〜35重量%のクロム、
0〜30重量%のニッケル、
2〜20重量%の銅、
2〜10重量%のケイ素、
4〜10重量%のリン、
0〜10重量%のマンガン、及び
少なくとも20重量%の鉄
を含み、ケイ素が6重量%以下の場合にはリンは8重量%超であり、リンが8重量%以下の場合にはケイ素は6重量%超であることを特徴とする、鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項2】
11〜35重量%のクロム、
0〜30重量%のニッケル、
2〜20重量%の銅、
2〜10重量%のケイ素、
4〜10重量%のリン、
0〜10重量%のマンガン、
1重量%未満の量の微量元素、および
残部である少なくとも20重量%の鉄
からなり、ケイ素が6重量%以下の場合にはリンは8重量%超であり、リンが8重量%以下の場合にはケイ素は6重量%超である、請求項1に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項3】
ケイ素含有量が6重量%超かつ10重量%以下である、請求項1又は請求項2に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項4】
リン含有量が6重量%超かつ10重量%以下であり、通常、リン含有量が8重量%かつ超10重量%以下である、請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項5】
ケイ素とリンとの合計量が20重量%以下である、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項6】
ニッケル含有量が10〜20重量%である、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項7】
銅含有量が5〜15重量%である、請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項8】
マンガン含有量が7重量%未満である、請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項9】
クロム含有量が20〜30重量%であり、通常、クロム含有量が11〜20重量%である、請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項10】
前記鉄−クロム系鑞材用粉末が10〜100μmの平均粒径を有する、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項11】
前記鉄−クロム系鑞材用粉末が、従来の方法によって、ペースト、テープ、ホイル又は他の形態に形成される、請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項12】
炉内鑞付けのための、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末。
【請求項13】
熱交換器及び触媒コンバータを鑞付するための、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末の使用。
【請求項14】
鉄基材料を、請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載された鉄−クロム系鑞材用粉末によって接合することによって製造されたことを特徴とする、鉄基材料の鑞付による鑞付製品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−505133(P2013−505133A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529282(P2012−529282)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063689
【国際公開番号】WO2011/033056
【国際公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(595054486)ホガナス アクチボラゲット (66)