説明

鉄道用レール

【課題】作業効率を上げるとともに、温度上昇を抑制する鉄道用レールの提供。
【解決手段】表面に所定の外気温で融解する融解成分を含む熱融解層31を形成し、融解成分がマイクロカプセル32内に封入され、所定の融解温度になると融解熱によって鉄道用レール1の温度を吸熱する。また融解温度の異なる複数の前記融解成分を、レール1の両側面の一方のみに第1層として設ける。また前記第1層の上層に放熱性を有する金属成分を含む第2層を設る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄道用レールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄道用レールは特許文献1に開示される。平行な二条の鉄道用レールはバラスト上に配した枕木に固定され、長手方向に順に配して鉄道の軌道を形成する。バラストは砂利等を盛り上げて形成され、車両の振動を和らげる。夏場等に気温が高くなると鉄道用レールが熱膨張するため、長手方向に隣接する鉄道用レールには隙間が設けられる。
【0003】
気温が著しく高温になると鉄道用レールの熱膨張が大きくなり、隣接する鉄道用レールが互いに押圧して変形する虞がある。このため、鉄道用レールの昇温を抑制するために太陽光を反射する反射塗料が鉄道用レールの表面に塗布される。反射塗料は顔料等に金属粉等を含有して形成される。
【0004】
この時、反射塗料は鉄道用レールだけでなく枕木やバラストにも塗布される。反射塗料が鉄道用レールのみに塗布されると、鉄道用レールの表面の反射塗料で反射した光がバラストや枕木に吸収される。これにより、バラストや枕木の昇温が促進され、枕木に接する鉄道用レールが枕木からの伝熱によって昇温を十分制御できない。従って、枕木及びバラストに塗布した反射塗料によって枕木やバラストの吸熱が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−196462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の鉄道用レールによると、鉄道用レールだけでなく枕木やバラストにも反射塗料が塗布されるため、反射塗料の塗布面積が大きく使用量が多くなるとともに塗布の作業効率が低下する。このため、軌道の形成時やメンテナンス時のコストが大きくなるという問題がある。
【0007】
本発明は作業効率を上げてコストを削減するとともに、昇温を抑制する鉄道用レールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、表面に所定の外気温で融解する融解成分を含む第1層を形成し、前記融解成分がマイクロカプセル内に封入されることを特徴とする。
【0009】
この構成によると、夏日等で外気温が高温になると融解成分がマイクロカプセル内で融解し、鉄道用レールは融解成分によって融解熱が奪われる。また、外気温が低下するとマイクロカプセル内で融解成分が凝固する。
【0010】
また、本発明は上記構成の鉄道用レールにおいて、融解温度の異なる複数の前記融解成分を第1層に設けたことを特徴とする。この構成によると、例えば25度、30度、35度、40度とそれぞれの温度になると融解する融解温度の異なる融解成分が第1層に設けられる。
【0011】
また、本発明は上記構成の鉄道用レールにおいて、両側面の一方のみに第1層を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は上記構成の鉄道用レールにおいて、第1層の上層に放熱性を有する第2層を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は上記構成の鉄道用レールにおいて、第2層が金属成分を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、表面に所定の外気温で融解する融解成分を含む第1層を形成し、前記融解成分がマイクロカプセル内に封入されるので、コストを削減して温度上昇を抑制する鉄道用レールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態の鉄道用レールを示す平面図
【図2】本発明の実施形態の鉄道用レールを示す側面図
【図3】本発明の実施形態の鉄道用レールを示す正面断面図
【図4】本発明の実施形態の鉄道用レールの被膜を示す断面図
【図5】本発明の実施形態の鉄道用レールの示す正面断面図
【図6】本発明の実施形態の実験結果を示す図
【図7】本発明の実施形態の実験結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1、図2は本実施形態の鉄道用レール1を示す平面図及び側面図である。鉄道の軌道100はバラスト11と枕木10と鉄道用レール1とによって形成される。バラスト11は砂利等を盛り上げて形成され、バラスト11の上に枕木10が所定の間隔で並設される。枕木10の上には二条の鉄道用レール1が平行に固定され、長手方向に順に配される。また、長手方向に隣接する鉄道用レール1間には熱膨張による緩衝を防ぐ所定の隙間dが設けられている。
【0017】
図3は鉄道用レール1を示す正面断面図である。鉄道用レール1は水平方向に伸びる底部1dと、底部1dの中央から上方に伸びる中間部1cと、中間部1cの上端から左右に延びた上部1bとを有したI型に形成される。上部1bの上面1aは鉄道の車輪が転動する。鉄道用レール1の一方の側面29上には被膜30が形成される。図4に示すように被膜30は熱融解層31(第1層)、熱融解層31上の放熱層35(第2層)を積層して形成される。
【0018】
熱融解層31及び熱融解層31は塗料に使用する樹脂は状況に適したアクリル樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ウレタン樹脂など塗膜構成する液体樹脂などが使用できるが、火気に対して安全な水性樹脂エマルジョンが適している。熱融解層31及び熱融解層31の塗料の指触乾燥時間は20分であり、塗装後の乾燥が早く作業時間を短縮できる。また上層の放熱層35の塗料の色はシルバーブラウンであるため、鉄道用レール1からの太陽光の反射を抑制して車両の運転士の視認性の低下を防止することができる。また、放熱層35の塗料の色は他の色にも調色が可能である。
【0019】
次に被膜30の塗布方法について説明する。まず、鉄道用レール1の浮き錆、汚れなどをサンドペーパー、ワイヤーラシなどで除去する。錆面下地処理は第3種ケレン程度を目安にするとよい。
【0020】
その後、さび止め剤を所定の配合(主剤:硬化剤=3:1)で混合し、充分攪拌して刷毛又はローラー刷毛で塗布する。塗布量は0.1〜0.2kg/m2であり、乾燥には1時間以上を目安にするとよい。その後、熱融解層31を刷毛又はローラー刷毛で塗布する。塗布量は0.2kg/m2以上であり、乾燥時間は2時間以上を目安にするとよい。
【0021】
放熱層35も刷毛又はローラー刷毛で塗布する。塗布量は0.2kg/m2以上であり、乾燥時間は3時間以上を目安にするとよい。
【0022】
図4に示すように、熱融解層31にはマイクロカプセル33が含まれる。マイクロカプセル33は熱融解層31を形成する塗料に含有され、塗料の硬化によって熱融解層31内に保持される。マイクロカプセル33内には常温(例えば、15℃)で固体状態で所定の外気温で融解する融解成分が封入されている。
【0023】
また、融解温度の異なる複数の融解成分がそれぞれ異なるマイクロカプセル33内に封入される。例えば、融解温度として20℃、30℃、40℃の融解成分が設けられる。
【0024】
放熱層35には金属(例えば、アルミニウム)の粉体が含まれる。金属の粉体は放熱槽35を形成する塗料に含有され、塗料の硬化によって放熱層35内に保持される。
【0025】
上記構成の鉄道用レール1において、熱融解層31のマイクロカプセル33内の融解成分は外気温の上昇により融解温度に到達すると融解する。これにより、鉄道用レール1は融解熱が奪われて昇温が抑制されるため昇温速度が遅くなる。日中の外気温が高温の時間帯で温度上昇する鉄道用レール1は外気温の降下によって降温するため、昇温速度の低下によってピーク温度を下げることができる。また、外気温が低下すると融解成分は凝固する。
【0026】
また、融解温度の異なる融解成分が熱融解層31に設けられるため、各融解温度毎に融解熱によって鉄道用レール1の昇温が抑制される。これにより、鉄道用レール1の昇温速度をより低下し、ピーク温度を更に下げることができる。
【0027】
更に、熱融解層31に蓄積される熱は放熱層35によって放熱が促進される。これにより、鉄道用レール1の昇温速度を更に低下させることができる。
【0028】
表1及び図6は本実施形態の鉄道用レール1の温度上昇を計測した実験結果を示している。鉄道用レール1の左右それぞれの上方に100Wの発熱電球50を配置し、上部1bの塗装面と未塗装面とにそれぞれ設けた温度センサ51により温度変化を計測している。図6において、縦軸は温度(単位:℃)であり、横軸は経過時間(単位:分)である。図中、Aは全体が未塗装の鉄道用レール1、Bは本実施形態の未塗装面、Cは本実施形態の塗装面を示す。また、比較のために被膜30を設けていない未塗装の鉄道用レール1についても同様に計測した。
【0029】
【表1】

【0030】
表1及び図6によると、未塗装の鉄道用レール1が50℃以上に昇温された時間経過時に本実施形態の鉄道用レール1は5℃以上低温になっている。従って、鉄道用レール1の昇温が抑制され、昇温速度が遅延されている。
【0031】
また、表2及び図7は両方の側面29に被膜30を形成した鉄道用レール1の温度上昇を計測した実験結果を示している。上記と同様に、鉄道用レール1の左右それぞれの上方に100Wの発熱電球50を配置し、上部1bの塗装面と未塗装面とにそれぞれ設けた温度センサ51により温度変化を計測している。図7において、縦軸は温度(単位:℃)であり、横軸は経過時間(単位:分)である。図中、Dは未塗装の鉄道用レール1、Eは両側面塗装の鉄道用レール1を示す。また、比較のために被膜30を設けていない未塗装の鉄道用レール1についても同様に計測した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2及び図7によると、未塗装の鉄道用レール1が50℃以上に昇温された時間経過時に鉄道用レール1は5℃以上低温になっている。従って、鉄道用レール1の昇温が抑制され、昇温速度が遅延されている。即ち、鉄道用レール1の両側面29に被膜30を形成してもよい。しかしながら、一方の側面29のみに被膜30を形成した場合は両側面29に形成した場合と昇温の抑制が同程度である。このため、一方の側面29のみに被膜30を形成すると塗料面積を削減してコストを削減することができる。
【0034】
本実施形態によると、表面に所定の外気温で融解する融解成分を含む熱融解層31を形成し、融解成分がマイクロカプセル32内に封入される。これにより、コストを削減して温度上昇を抑制する鉄道用レールを提供することができる。
【0035】
また、融解温度の異なる複数の前記融解成分を熱融解層31に設けたため、鉄道用1の温度上昇速度を低減することができる。また、例えば融解温度が0℃〜10℃の融解成分を設けて、鉄道用レール1に凝固熱を与えて凍結を防ぐようにしてもよい。これにより、鉄道用レール1を冬季の寒冷地などで利用することができる。
【0036】
また、一方の側面29に熱融解層31を設けたため、塗布時の作業効率を向上するとともに、容易にコストを削減することができる。
【0037】
また、熱融解層31の上層に放熱性の放熱層35を設けたため、熱融解層31の熱を放熱することができる。
【0038】
また、金属製の成分を放熱層35に設けたため、容易に熱融解層31の熱を放熱することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によると、鉄道用レールに利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 鉄道用レール
10 枕木
11 バラスト
29 側面
30 塗料
31 熱融解層(第1層)
32 マイクロカプセル
35 放熱層(第2層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定の外気温で融解する融解成分を含む第1層を形成し、前記融解成分がマイクロカプセル内に封入されることを特徴とする鉄道用レール。
【請求項2】
融解温度の異なる複数の前記融解成分を第1層に設けたことを特徴とする請求項1に記載の鉄道用レール。
【請求項3】
両側面の一方のみに第1層を設けたことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の鉄道用レール。
【請求項4】
第1層の上層に放熱性を有する第2層を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鉄道用レール。
【請求項5】
第2層が金属成分を含むことを特徴とする請求項4に記載の鉄道用レール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44091(P2013−44091A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180307(P2011−180307)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(311011195)
【出願人】(311011209)