説明

鉄道用車両の制振装置

【課題】 乗り心地の向上化を図る。
【解決手段】 車体1の所要個所に、可動マス13を、並列に配した上下方向のばね要素15とダンパ要素14を介して設け、更に、ばね要素15により定まる可動マス13の固有振動を可変とするための固有振動数調整機構16を備えた制振装置本体12を形成する。台車2の上に車体1を支持するために設けてある空気ばね10の空気圧を検出する圧力計17と、圧力計17より入力される圧力検出値に基づいて制振装置本体12の固有振動数調整機構16へ指令を与える制御器18を備える。制御器18により、圧力計17より入力される空気ばね10の空気圧の圧力検出値を基に車体重量を検出すると共に、固有振動数調整機構16へ指令を与えて、制振装置本体12における可動マス13の固有振動数を、検出された車体重量のときの車体1の弾性振動の固有振動数に対応するように調整させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台車上に車体を所要のばねを介して支持してなる形式の鉄道用車両における上記車体に生じる弾性振動を減衰させるための鉄道用車両の制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道とバスとの中間の輸送力を持つ公共交通機関として、新交通システムと呼ばれる中量輸送システムが知られており、この種の中量輸送システムとしては、車両が、専用の軌道に設けた案内軌条(ガイドレール)に誘導されて走行するようにしてある案内軌条式鉄道が多く採用されている。
【0003】
上記案内軌条式鉄道は、APM(Automated People Mover)とも略称されるもので、案内軌条が、車両の走行する走行路の側方にある側方案内軌条方式のものと、案内軌条が走行路の中央にある中央案内軌条方式のものがある。
【0004】
このうち、側方案内軌条方式の案内軌条式鉄道(以下、単にAPMと云う)の車両は、図4にその一例の概要を示す如く、本体部である車体1と、ゴムタイヤ製の車輪3で支持された台車2を備えた構成としてある。
【0005】
上記台車2には、左右両側部に、走行路4の左右両側に設置してある案内軌条5に沿って案内させるための案内部材としての案内アーム6を備えて、走行路4がカーブしている個所では、上記案内アーム6が走行路4のカーブに応じたカーブ形状とされている上記案内軌条5に沿って案内されるときに生じる左右方向への変位に基づいて、上記車輪3を左右方向へ操舵できるようにした操舵系を具備するようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
又、上記台車2は、図5に示すように、上記車輪3の車軸7を保持させた懸架枠8の上側に、車体1を支持する台車枠9が、空気ばね10を介して取り付けてある。更に、上記台車枠9と懸架枠8との間には、平行リンク機構11を備えてなる構成としてある。これにより、上記台車枠9と懸架枠8の前後左右方向への相対的なずれを規制できるようにしてあると共に、上記空気ばね10により、走行路4を転動する車輪3からの振動が伝わる上記懸架枠8と、上記車体1側に取り付けられている台車枠9との間で、振動を絶縁させることで、上記車体1の上下方向の乗り心地の向上を図ることができるようにしてある。
【0007】
ところで、上記構成としてあるAPMの車両における振動系では、車体1(厳密には、上記空気ばね10の上側に取り付けられている台車枠9を含む)が上下方向に大きく揺れる振動と、台車2(厳密には、空気ばねよりも下側の懸架枠8)が大きく揺れる振動の二種類が生じ、それぞれ、ばね上共振、ばね下共振と呼ばれている。
【0008】
一般に、ばね下共振では、車体1が大きく揺れることはないが、車体1が柔軟で、弾性モードの固有振動数が、ばね下共振の共振振動数に近接する場合には、車体1が共振を起こし、びびり振動が発生する。
【0009】
そのために、従来は、通常、車体1の弾性振動の固有振動数を、ばね下共振の共振振動数よりも高く設計することで、お互いが干渉しないようにする対策が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−265570公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、近年、APMの車両は、乗車定員を増加させるために車体1が大型化される傾向にあり、このようにして車体1が大型化されると、該車体1の弾性振動の固有振動数が低下する結果、車両走行時における車体1の上下方向の弾性振動が顕在化してしまい、そのために、乗り心地が低下してしまうというのが実状である。
【0012】
ところで、APMの車両は、車体1が比較的軽量なため、車体重量に対して乗客重量が占める割合が大きくなり易く、たとえば、空車時と、満員の乗客重量が加算された時では、車体重量が1.5倍程度にまで増加することがあり、そのために、空車時と乗客乗車時では、車体1が弾性振動するときの固有振動数が変化してしまう。
【0013】
そこで、本発明は、上記APMの車両のように台車に車体を所要のばねを介して支持させてなる形式の鉄道用車両にて、車体に生じる弾性振動を低減でき、しかも、乗客の人数が変化しても、車体に生じる弾性振動を効率よく低減できる鉄道用車両の制振装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するために、請求項1に対応して、台車に所要のばねを介して車体を支持させてなる構成を有する鉄道用車両における上記車体の所要個所に、上下方向に変位可能な可動マスと、該可動マスと車体の所要個所との間に介装した上下方向のダンパ要素及びばね要素と、上記ばね要素により定まる上記可動マスの固有振動数を変化させるための固有振動数調整機構を備えてなる制振装置本体を設け、更に、車体重量を検出するためのセンサと、該センサより入力される車体重量の検出信号に基に、上記制振装置本体における固有振動数調整機構へ指令を与えて、上記可動マスの固有振動数を、上記センサにより検出された車体重量のときの車体の弾性振動の固有振動数に対応させる機能を有する制御器とを備えてなる構成とする。
【0015】
又、上記構成において、固有振動数調整機構を備えてなる制振装置本体を、車体の所要個所に上下方向揺動可能に長手方向一端部を片持ち支持させた支持梁と、該支持梁の長手方向他端部寄りの所要個所と上記車体の所要個所との間に並列に介装した上下方向のばね要素及びダンパ要素を備え、更に、上記支持梁に、可動マスと、該可動マスの支持梁の長手方向における位置を変化させて、該支持梁の揺動中心から可動マスの重心位置までの距離を拡縮するための固有振動数調整機構を具備してなる構成とした構成とする。
【0016】
更に、上記各構成において、鉄道用車両を、車体に空気ばねを介して台車を支持させてなる構成とし、且つ車体重量を検出するためのセンサとして、上記空気ばねの空気圧を検出する圧力計を用いるようにした構成とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鉄道用車両の制振装置によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)台車に所要のばねを介して車体を支持させてなる構成を有する鉄道用車両における上記車体の所要個所に、上下方向に変位可能な可動マスと、該可動マスと車体の所要個所との間に介装した上下方向のダンパ要素及びばね要素と、上記ばね要素により定まる上記可動マスの固有振動数を変化させるための固有振動数調整機構を備えてなる制振装置本体を設け、更に、車体重量を検出するためのセンサと、該センサより入力される車体重量の検出信号に基に、上記制振装置本体における固有振動数調整機構へ指令を与えて、上記可動マスの固有振動数を、上記センサにより検出された車体重量のときの車体の弾性振動の固有振動数に対応させる機能を有する制御器とを備えてなる構成としてあるので、鉄道用車両の走行時に車体に上下方向の弾性振動が生じると、制振装置本体におけるばね要素とダンパ要素を介して車体に支持されている可動マスが上下方向に振動し、この際、制御器から上記制振装置本体の固有振動数調整機構への指令により、上記可動マスの固有振動数が、上記センサより入力される車体重量の検出信号を基に制御器で求められる該車体重量のときの車体の弾性振動の固有振動数と対応するように調整されるため、上記可動マスが上記車体の弾性振動に対し90度の位相遅れで振動するようになり、該可動マスの慣性力が上記車体の弾性振動を打ち消すように作用することで、上記車体に生じた上下方向の弾性振動を、その振幅を抑制すると共に速やかに減衰させることができる。よって、上記鉄道用車両の走行時における乗り心地の向上化を図ることができる。
(2)しかも、上記車体への乗車人数が増減することに伴って車体重量が増減して、該車体の弾性振動の固有振動数が変化しても、その車体重量の変化に伴う車体の固有振動数の変化に追従して制振装置本体における可動マスの固有振動数を調整できるため、上記車体の乗車人数が変化しても車両走行時における該車体の弾性振動の良好な制振効果を得ることができる。
(3)固有振動数調整機構を備えてなる制振装置本体を、車体の所要個所に上下方向揺動可能に長手方向一端部を片持ち支持させた支持梁と、該支持梁の長手方向他端部寄りの所要個所と上記車体の所要個所との間に並列に介装した上下方向のばね要素及びダンパ要素を備え、更に、上記支持梁に、可動マスと、該可動マスの支持梁の長手方向における位置を変化させて、該支持梁の揺動中心から可動マスの重心位置までの距離を拡縮するための固有振動数調整機構を具備してなる構成とすることにより、可動マスの重心位置の上記支持梁の揺動中心からの距離を変化させることに伴って、上記支持梁の揺動に伴って上下方向に振動する可動マスの固有振動数を変化させることができる固有振動数調整機構を容易に実現できるため、該固有振動数調整機構を備えた制振装置本体を容易に実現することが可能となる。
(4)鉄道用車両を、車体に空気ばねを介して台車を支持させてなる構成とし、且つ車体重量を検出するためのセンサとして、上記空気ばねの空気圧を検出する圧力計を用いるようにした構成とすることにより、鉄道用車両において台車に車体を支持させるために広く一般的に作用されている空気ばねの空気圧を利用して、車体重量を検出するための構成を容易に実現できる。したがって、既存の鉄道用車両の設計を利用して本発明の鉄道用車両の制振装置を容易に実現するのに有利な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の鉄道用車両の制振装置の実施の一形態を示す概要図である。
【図2】図1の制振装置の制振装置本体の具体例を示す概略側面図である。
【図3】本発明の実施の他の形態を示す概要図である。
【図4】側方案内軌条方式の案内軌条式鉄道における車両の構造の一例を示すもので、台車の構造の概要を示す平面図である。
【図5】図4の台車部分の概略を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0020】
図1及び図2は本発明の鉄道用車両の制振装置の実施の一形態として、図4及び図5に示したと同様の構成としてあるAPMの車両に適用する場合を示すもので、以下のようにしてある。
【0021】
すなわち、図1は本発明の鉄道用車両の制振装置の概要を示すもので、APMの車両の車体1における所要個所に、上下方向に変位可能な可動マス13と、該可動マス13と上記車体1の所要個所との間に並列に介装した上下方向のダンパ要素14及びばね要素15を備えて、上記可動マス13を上記ダンパ要素14及び上記ばね要素15を介して車体1に支持させ、且つ上記ばね要素15により設定される上記可動マス13の上下方向の往復移動の固有振動数を可変とするための固有振動数調整機構16を備えてなる構成の制振装置本体12を設ける。
【0022】
更に、上記車体1の車体重量、すなわち、車体1の空車重量と乗客重量の和を検出できるようにするための車体重量検出手段として、たとえば、上記APMの車両の各台車2において車体1を支持するために用いられている各空気ばね10の圧力(空気圧)を検出する個別の圧力計17と、該各圧力計17の検出信号が入力される制御器18とを備えてなる構成としてある。これにより、上記制御器18にて、上記各圧力計17より入力される各空気ばね10の圧力検出値を基に、該各空気ばね10に対し車体1より作用している荷重を求めて、この荷重の総和から、上記車体1の車体重量を逐次算出できるようにしてある。なお、APMの車両走行時や、駅での乗客の乗降時には、車体1が揺れることに伴って、該車体1を支持している上記各空気ばね10の圧力が変動するようになるため、上記各圧力計17により検出される圧力検出値が増減するが、この場合は、上記制御器18にて、上記各圧力計17より入力される圧力検出値が増減するときの平均の値を取る、あるいは、ローパスフィルタ処理によって直流成分のみを抽出する、ないしは前者と後者の手法を併用するようにしてから、上記車体1の車体重量を算出させるようにすればよい。
【0023】
更に、上記制御器18は、予め、車体1の車体重量の変化と、該車体1が弾性振動するときの固有振動数の変化との相関について、実験的、あるいは、数値計算等に基づいて求めた結果を、たとえば関数で作成して備えてなり、これにより、該制御器18では、或る時点で、上記したように各圧力計17の圧力検出値を基に車体1の車体重量が算出されると、該車体1の車体重量と、車体1が弾性振動するときの固有振動数との相関から、その時点で車体1が弾性振動するときの固有振動数を求め、該求められた固有振動数に応じて、上記制振装置本体12の固有振動数調整機構16へ可動マス13の固有振動数を一致させるようにするための指令を与える機能を有するものとしてある。
【0024】
図2は、上記固有振動数調整機構16を備えた制振装置本体12の具体例を示すもので、以下のようにしてある。
【0025】
すなわち、車体1の所要個所の床面にブラケット19を設け、該ブラケット19に略水平方向に延びる支持梁20の長手方向一端部を、ピン21を介し片持ちで支持するように取り付けて、該支持梁20が、上記ピン21を揺動中心として上下方向に揺動できるようにしてある。
【0026】
上記支持梁20の自由端寄りとなる長手方向他端部寄りの所要個所と、該個所の下方に位置する車体1の床面との間には、上下方向に配置したばね要素としてのコイルばね15と、ダンパ要素としてのオイルダンパ14が並列に介装させて取り付けてある。なお、上記コイルばね15は、上記支持梁20と、後述するように該支持梁20上に設ける上記可動マス13及び上記固有振動数調整機構16の荷重を支持した状態で、上下方向に伸縮可能な長さ寸法及び強度を有するものとする。
【0027】
更に、上記固有振動数調整機構16を、上記支持梁20の上側に、リニアガイド22を該支持梁20の長手方向に沿わせて取り付け、駆動モータ24と、その出力軸に連結したねじ軸25と、該ねじ軸25に螺合させたナット部材26とを具備して、上記駆動モータ24による上記ねじ軸25の正逆転駆動により上記ナット部材26を上記ねじ軸25の軸心方向に沿って移動させることができるようにしてあるボールねじ機構23を、上記支持梁20の上側に該支持梁20の長手方向に沿わせて上記リニアガイド22と平行に設置し、更に、上記リニアガイド22上に図示しないスライダーを介して可動マス13をスライド可能に取り付けると共に、該可動マス13に、上記ボールねじ機構23のナット部材26を取り付けた構成としてある。これにより、上記ボールねじ機構23の駆動モータ24による上記ねじ軸25の正逆転駆動によって上記ナット部材26と一体に上記可動マス13を該ねじ軸25の軸心方向、すなわち、上記支持梁20の長手方向に沿って移動させることができるようにしてある。したがって、上記ボールねじ機構23により可動マス13を上記支持梁20の長手方向一端部側へ移動させると、上記ピン21の位置にある該支持梁20の揺動中心から、上記可動マス13の重心位置までの距離(間隔)が小さくなることで、上記コイルばね15により支持された支持梁20の揺動と一体に可動マス13が上下方向に振動するときの固有振動数を大きく(固有周期を小さく)することができるようにしてある。一方、上記ボールねじ機構23により可動マス13を上記支持梁20の自由端側となる長手方向他端部側へ移動させると、上記ピン21の位置にある該支持梁20の揺動中心から、上記可動マス13の重心位置までの距離(間隔)が大きくなることで、上記コイルばね15により支持された支持梁20の揺動と一体に可動マス13が上下方向に振動するときの固有振動数を小さく(固有周期を大きく)することができるようにしてある。
【0028】
よって、上記制御器18は、上記したように各圧力計17の圧力検出値を基に車体1の車体重量が算出されて、その時点で車体1が弾性振動するときの固有振動数が求められると、該求められた固有振動数に応じて、上記制振装置本体12の固有振動数調整機構16におけるボールねじ機構23の駆動モータ24へ指令を与えて、支持梁20上における上記可動マス13の位置を、適宜上記支持梁20の揺動中心に近接、あるいは、離反させるように移動させることで、該制振装置本体12における上記可動マス13の固有振動数を、上記車体1が弾性振動するときの固有振動数に一致させることができるようにしてある。
【0029】
なお、上記車体重量は、車体1に乗車する乗客の人数や体重に応じてほぼ連続的に変化する値を取り得るため、上記制御器18は、上記車体重量の連続的な変化に伴って車体1が弾性振動するときの固有振動数が連続的に変化することに応じて、上記制振装置本体12の可動マス13の支持梁20上における揺動中心からの距離(間隔)を連続的に変化させるように上記ボールねじ機構23の駆動モータ24へ指令を与える機能を備えるようにしてもよいが、上記車体1に生じるわずかな荷重の変化に起因して各圧力計17より上記制御器18へ入力される空気ばね10の圧力検出値がわずかに変化するごとに、該制御器18より上記制振装置本体12の固有振動数調整機構16におけるボールねじ機構23の駆動モータ24へ指令を与えるようにすると、指令の頻度が非常に多くなり、制御が煩雑になる虞が懸念される。
【0030】
更に、一般に、パッシブ方式のマス・ダンパ形式の制振装置でも、該制振装置における可動マスの固有振動数と、制振対象の固有振動数との同調誤差が数%であれば、制振性能の劣化は小さいことが知られている。
【0031】
したがって、以上の点に鑑みて、上記制御器18は、車体1の弾性振動の固有振動数に、いくつかの範囲、たとえば、4つの数値範囲を予め設定しておき、車体1の弾性振動の固有振動数が上記設定されたそれぞれの数値範囲内にあるときは、該各数値範囲ごとに制振装置本体12の可動マス13の固有振動数を或る1つの固有振動数に設定するための指令を上記固有振動数調整機構16へ与える機能を有するようにして、上記制振装置本体12の可動マス13の固有振動数を、全体で数種類準備しておくようにすれば、実用的且つ十分であると考えられる。
【0032】
又、上記制御器18による上記制振装置本体12の固有振動数調整機構16への指令は、たとえば、駅で乗客の乗降が終了して車体1の図示しないドアを閉めることで乗車している乗客重量が定まることで、車体1の走行に際した車体重量が確定してから実際に走行を開始するまでの間のタイミングで行うようにすればよい。このようにすれば、上記APMの車両が走行するときには、常に、上記制振装置本体12における可動マス13の固有振動数を、上記車体1の車体重量に応じて定まる該車体1の弾性振動の固有振動数に対応して設定することができるようになる。
【0033】
その他、図1に示したものにおいて、図5に示したものと同一のものには同一符号が付してある。
【0034】
上記制振装置本体12は、車体1における他の装備や機器と干渉しない個所、たとえば、図2に一点鎖線で示すように、車体1に装備するロングシート27の座面の下に収納するようにして設置するようにすればよい。
【0035】
以上の構成としてある本発明の鉄道用車両の制振装置によれば、APMの車両の走行時に、車体1に上下方向の弾性振動が生じると、上記制御器18から制振装置本体12の固有振動数調整機構16への指令により該車体1の弾性振動の固有振動数に対応した固有振動数に調整された状態の上記可動マス13が、適切に減衰調整されたオイルダンパ14を介して、上記支持梁20の上下方向の揺動に伴って上記車体1の弾性振動に対して90度の位相遅れで上下方向に振動するようになり、可動マス13の慣性力が上記車体1の弾性振動を打ち消すように作用することで、上記車体1に生じた上下方向の弾性振動は、その振幅が抑制されると共に、速やかに減衰させられるようになる。よって、上記APMの車両の走行時における乗り心地の向上化が図られるようになる。
【0036】
しかも、上記車体1への乗車人数が増減し、それに伴い車体重量が増減して該車体1の弾性振動の固有振動数が変化しても、その車体重量の変化に応じて本発明の鉄道車両用制振装置の制振装置本体12における可動マス13の固有振動数を調整できるようにしてあることから、上記車体1の乗車人数が変化しても車両走行時における上記車体1の弾性振動の良好な制振効果を得ることができる。
【0037】
図3は本発明の実施の他の形態として、上記実施の形態の応用例を示すもので、制御器18にて、車体1の乗車人数の変化に伴って変化する車体重量の検出を、車体1を支持するために台車2に装備されている各空気ばね10の空気圧を検出する圧力計17の圧力検出値に基づいて行うようにしてある構成に代えて、上記台車2に車体1を支持するために装備されている各空気ばね10に、個別のロードセル28を直列に配置して設け、該各ロードセル28による圧力検出値を上記制御器18に入力して、該制御器18にて、車体1の乗車人数の変化に伴って変化する車体重量の検出を、上記各ロードセル28より入力される圧力検出値に基づいて行う構成としたものである。
【0038】
その他の構成は図1及び図2に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0039】
本実施の形態によっても、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
なお、本発明は上記実施の形態のみに限定されるものではなく、制振装置本体12を、ブラケット19と、ばね要素であるコイルばね15の下端側と、ダンパ要素であるオイルダンパ14の下端側を、図示しない共通のベースプレートに取り付けてなる構成として、該ベースプレートごと車体1の所要個所の床面上に設置できるようにしたものとしてもよい。
【0041】
ばね要素15は、可動マス13の荷重を支持した状態で該可動マス13を上下方向に振動させることができるようにしてあれば、コイルばね15以外のいかなる形式のばね要素15を用いるようにしてもよい。
【0042】
ダンパ要素14は、車体1の単弦振動に伴って可動マス13が上記車体1の単弦振動に対し90度の位相遅れで支持梁20の上下方向の揺動と一緒に上下方向に振動する際に、該振動する可動マス13の運動エネルギーを効率よく減衰させることができるようにしてあれば、オイルダンパ以外のいかなる形式のダンパ要素14を用いるようにしてもよい。
【0043】
車体1の弾性振動に影響する車体重量を検出できるようにしてあれば、検出用のセンサとしては、図1及び図2の実施の形態における空気ばね10の圧力計17や、図3の実施の形態におけるロードセル28以外のいかなる形式のセンサを用いるようにしてもよい。
【0044】
固有振動数調整機構16を備えた制振装置本体12は、車体1に装備される各種機器の配置と干渉しないようにすれば、車体1に装備されるクロスシートの座面の下側や、車体1の床下等、その設置個所は適宜変更してもよい。更には、可動マス13と固有振動数調整機構16とを支持する支持梁20の長手方向一端部を、車体1の所要個所に固定された固定部の下面側に設けたブラケットにピンを介して上下方向揺動可能に取り付けると共に、上記支持梁20における上記可動マス13の移動範囲や固有振動数調整機構16の配置と干渉しない所要個所と、その上方に位置する車体1側の固定部との間に、上下方向のばね要素15とダンパ要素14を介装させるように取り付ける構成としてもよい。
【0045】
固有振動数調整機構16は、支持梁20上にて、可動マス13を該支持梁20の長手方向に移動させて、支持梁20の揺動中心から可動マス13の重心位置までの距離(間隔)を拡大、縮小自在とすることができ、更に、揺動する支持梁20上で可動マスの位置を保持できるようにしてあれば、上記可動マス13を上記支持梁の長手方向に沿って変位させるための機構としては、ピニオンラック式や各種シリンダ等、ボールねじ機構23以外のいかなる変位機構やアクチュエータを採用してもよい。
【0046】
本発明の鉄道用車両の制振装置は、台車にばねを介して支持された車体を備え、且つ該車体に生じる弾性振動の制振が望まれる鉄道用車両であれば、APMの車両以外のいかなる鉄道用車両に適用してもよい。
【0047】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 車体
2 台車
10 空気ばね(ばね)
12 制振装置本体
13 可動マス
14 オイルダンパ(ダンパ要素)
15 コイルばね(ばね要素)
16 固有振動数調整機構
17 圧力計(センサ)
18 制御器
20 支持梁
21 ピン(揺動中心)
28 ロードセル(センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車に所要のばねを介して車体を支持させてなる構成を有する鉄道用車両における上記車体の所要個所に、上下方向に変位可能な可動マスと、該可動マスと車体の所要個所との間に介装した上下方向のダンパ要素及びばね要素と、上記ばね要素により定まる上記可動マスの固有振動数を変化させるための固有振動数調整機構を備えてなる制振装置本体を設け、更に、車体重量を検出するためのセンサと、該センサより入力される車体重量の検出信号に基に、上記制振装置本体における固有振動数調整機構へ指令を与えて、上記可動マスの固有振動数を、上記センサにより検出された車体重量のときの車体の弾性振動の固有振動数に対応させる機能を有する制御器とを備えてなる構成を有することを特徴とする鉄道用車両の制振装置。
【請求項2】
固有振動数調整機構を備えてなる制振装置本体を、車体の所要個所に上下方向揺動可能に長手方向一端部を片持ち支持させた支持梁と、該支持梁の長手方向他端部寄りの所要個所と上記車体の所要個所との間に並列に介装した上下方向のばね要素及びダンパ要素を備え、更に、上記支持梁に、可動マスと、該可動マスの支持梁の長手方向における位置を変化させて、該支持梁の揺動中心から可動マスの重心位置までの距離を拡縮するための固有振動数調整機構を具備してなる構成とした請求項1記載の鉄道用車両の制振装置。
【請求項3】
鉄道用車両を、車体に空気ばねを介して台車を支持させてなる構成とし、且つ車体重量を検出するためのセンサとして、上記空気ばねの空気圧を検出する圧力計を用いるようにした請求項1又は2記載の鉄道用車両の制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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