説明

鉄道車両の車体傾斜制御装置

【課題】部品点数の増加を防止しつつ、アクチュエータの応答性を向上して制御安定性を確保することが可能な車体傾斜制御装置を提供する。
【解決手段】車体を曲線路の遠心方向逆側に傾斜可能な振り子式台車を備えた鉄道車両の車体傾斜制御装置において、アクチュエータのシリンダ31による伸縮動作の実変位量を検出し、変位目標値に基づき加速度目標値を求め、実変位量の検出結果に基づきシリンダ31による伸縮動作の実加速度を求め、加速度目標値と実加速度とに基づき加速度のフィードバック制御量を算出し、変位センサの検出結果と変位目標値とに基づき変位フィードバック制御量を算出し、さらに、加速度フィードバック制御量と変位フィードバック制御量とに基づきシリンダ31の伸縮動作を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両の車体傾斜制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両にあっては、カーブなどにおいて遠心方向と逆に車体を傾斜させる振り子はり式の台車を備えたものが知られている。この振り子はり式の台車を備えた車両としては、空気圧によるアクチュエータを用いて、車体の傾斜をアクティブ制御するいわゆる制御付き振り子車両がある(例えば、特許文献1参照)。
上述した制御付き振り子車両は、台車枠と振り子はりとの間にアクチュエータが設置され、このアクチュエータのシリンダロッドを外部からの制御指令に基づき伸縮させることで車体の傾斜角度を制御している(例えば、特許文献2参照)。アクチュエータは、例えば、シリンダロッドの伸縮を変位量として検知する変位センサを有しており、アクチュエータの傾斜制御としては、変位センサの検知結果と変位指令値(車体傾斜角度の目標値)との偏差に比例した制御量とされる変位フィードバック制御が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平2−062421号公報
【特許文献2】特許第4582897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した空気圧によるアクチュエータは、一般に車体傾斜角度の目標値に対しての応答性があまりよくなく発生力も十分とは言えない。この応答性や発生力を向上するためには、変位フィードバックゲインを増したり、サーボ弁からの供給流量を大きくするなどの方法が考えられる。しかしながら、上述した方法によりアクチュエータの応答性を向上しようとした場合、空気の圧縮性によって制御が不安定になりやすいという課題がある。
一般に、アクチュエータの制御性安定化には、アクチュエータの変位量によるフィードバック制御に加えて、速度、及び加速度のフィードバック制御を付加することが有効とされ、特に空気圧によるものでは、加速度フィードバック制御が有効とされる。しかしながら、鉄道車両の車体傾斜角の制御のように、比較的ゆっくりとした動作の場合、その加速度の情報を加速度センサから直接的に得ることは難しく、加速度とほぼ等価となるアクチュエータの空気圧力を用いた圧力フィードバック制御で代用することが多い。
しかしながら、空気圧力を用いる場合には、その圧力を測定する圧力センサが別途必要になり、センサ数の増加による信頼性やコスト面で不利となる。
【0005】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、部品点数の増加を防止しつつ、アクチュエータの応答性を向上し、さらに、制御安定性を確保することが可能な車体傾斜制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、車体を曲線路の遠心方向逆側に傾斜可能な振り子式台車を備えた鉄道車両の車体傾斜制御装置において、シリンダの伸縮動作によって前記車体の傾斜角度を制御するアクチュエータと、前記シリンダによる伸縮動作の変位量を検出する変位センサと、前記シリンダによる伸縮動作の変位目標値に基づき加速度目標値を求める加速度目標値算出手段と、前記変位センサの検出結果に基づき前記シリンダによる伸縮動作の実加速度を求める実加速度算出手段と、前記加速度目標値算出手段と前記実加速度算出手段との算出結果に基づき加速度のフィードバック制御量を算出する加速度フィードバック制御量算出手段と、前記変位センサの検出結果と前記変位目標値とに基づき変位フィードバック制御量を算出する変位フィードバック制御量算出手段とを備え、前記加速度フィードバック制御量算出手段と前記変位フィードバック制御量算出手段との各算出結果に基づき前記シリンダの伸縮動作を制御するサーボ弁を制御することを特徴としている。
【0007】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載の発明において、前記実加速度算出手段と前記加速度フィードバック制御量算出手段との間に、車体の傾斜制御に必要な周波数帯よりも高い周波数帯の信号を減衰させるローパスフィルタを備えることを特徴としている。
【0008】
請求項3に記載した発明は、請求項2に記載の発明において、前記ローパスフィルタは、1Hz以上の信号を減衰させることを特徴としている。
【0009】
請求項4に記載した発明は、請求項1乃至3の何れか一項に記載の発明において、前記実加速度算出手段、および、前記加速度目標値算出手段は、それぞれ2つの微分器より構成されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載した発明によれば、変位センサの検出結果に基づき実加速度を求めることができるとともに、変位目標値に基づき加速度目標値を求めることができるため、アクチュエータの変位量によるフィードバック制御に加えて、シリンダ伸縮の加速度によるフィードバック制御を行い、この加速度によるフィードバック制御量と変位量によるフィードバック制御量とにより、サーボ弁の駆動制御を行うことができる。したがって、圧力センサを別途設ける場合と比較して部品点数を低減しつつ、アクチュエータの応答性を向上し、さらに、制御安定性を確保することができる効果がある。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、請求項1の効果に加え、実測による変位センサの検出信号に含まれる車体の傾斜制御に不必要な成分をローパスフィルタによって減衰させることができるため、更なる制御安定性の向上を図ることができる効果がある。
【0012】
請求項3に記載した発明によれば、請求項2の効果に加え、とりわけ線路の平行度のばらつきにより生じる車体の横揺れに起因する動揺(1Hz超)が変位センサの検出信号に重畳されたとしても、この動揺をローパスフィルタにより確実に減衰させて、車体の傾斜制御に必要な周波数(例えば0.3Hz程度)の信号のみをフィードバック制御に用いることができるため、更なる制御安定性の向上を図ることができる効果がある。
【0013】
請求項4に記載した発明によれば、請求項1乃至3の何れか一項の効果に加え、変位センサの検出信号を簡単な構成で加速度信号に変換することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態における車体傾斜制御装置が搭載される鉄道車両の概略構成図である。
【図2】上記車体傾斜制御装置におけるフィードバック制御系を示すブロック図である。
【図3】上記車体傾斜制御装置におけるアクチュエータの変位量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態における車体傾斜制御装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、この実施形態の車体傾斜制御装置が搭載される車両10の振り子構造を示している。この車両10の台車11は、レールRの幅方向に延びる車軸12に略円盤状の2枚の車輪13,13が圧入された一対の輪軸14(図1中、一方のみを示す)が互いの車軸12を前後平行に配置して備える。
車軸12の左右端部は、図示しない軸受けにより回動自在に支持され、これら軸受けを備える支持部(図示せず)に、軸バネ15を介して台車枠16が支持されている。台車枠16の上面の左右縁部近傍には、レール長手方向に回転軸が向く一対のころ装置17が回転自在に軸支されている。
【0016】
ころ装置17上には、正面からみて略弧状の下面18を有した振り子はり19が載置される。振り子はり19は、その下面18が一対のころ装置17の各ころ部材17aにそれぞれ当接するように載置され、ころ部材17aの回動により、ころ装置17上でレール幅方向に沿って揺動可能とされる。
振り子はり19は略平滑な上面20を備えており、この上面20に、左右一対の空気ばね21,21を介して車体22が支持されている。なお、車体22の進行方向前後部それぞれが台車11により支持される。つまり、振り子はり19が揺動することで、振り子はり19に支持される車体22が左右に傾斜される。なお、図1においては、カーブ路の遠心方向を白抜き矢印で示しており、カーブ内側すなわちカント角がつけられたカーブ路の内側に車体22が傾斜された一例を示している。
【0017】
振り子はり19には、車体22の傾動を制御する車体傾斜制御用アクチュエータ30が取り付けられている。この車体傾斜制御用アクチュエータ30は、車載されたコンプレッサ等から圧送される空気圧により作動するシリンダ31を有している。車体傾斜制御用アクチュエータ30は、作動流体である空気の流量を制御するサーボ弁45(図2参照)を有しており、このサーボ弁45による空気量(空気圧)の制御によりシリンダ31によるロッド32の突き出し量が変化される。
【0018】
シリンダ31の本体部31aは台車枠16に取付られる一方、ロッド32の端部は振り子はり19に取付られている。これにより、ロッド32の突き出し量の変化(以下、変位量という)に応じて、振り子はり19の揺動角度が変化するとともに車体22の傾斜向き、ならびに車体22の傾斜角度が変化するようになっている。
【0019】
ここで、ロッド32の変位量目標値は、例えば、予め記憶された走行区間の曲線データおよび車両が受信したATS信号の情報に基づく自車位置情報の検知結果などを用いて最適な車体傾斜角度に対応したシリンダ31のロッド変位量をテーブル検索又はマップ検索することで求められる。なお、図1中、符号「b」は車体重心、符号「c」は振り子中心を示している。
【0020】
図2は、上述した車体傾斜制御用アクチュエータ30のフィードバック制御系40を示している。
図2に示すように、フィードバック制御系40は、変位フィードバック系41と加速度フィードバック系42とを備えており、上述した変位量目標値は、変位フィードバック系41と加速度フィードバック系42とにそれぞれ入力される。
【0021】
変位フィードバック系41は、入力された変位目標値と、シリンダ31の変位センサSにより検出される検出結果(実変位)との偏差を求める第1減算器43を備えている。この第1減算器43により求められた偏差は、変位フィードバック制御量算出手段44に入力される。
【0022】
変位フィードバック制御量算出手段44は、第1減算器43により求められた偏差に比例したサーボ弁45の駆動制御量(電流量)を求めて、変位フィードバック制御量として加算器46へ向けて出力する。
【0023】
一方、加速度フィードバック系42は、シリンダ31の応答性を向上するために、ロッド32が変位する際の加速度に基づきサーボ弁45のフィードバック制御量を求める。
加速度フィードバック系42は、変位目標値を2回微分する第1微分器51と第2微分器52とを備え、この第1微分器51と第2微分器52との2回微分によって変位目標値が加速度(換言すれば加速度目標値)に変換される。これら第1微分器51と第2部分器52とにより加速度目標値算出手段が構成される。
【0024】
また、加速度フィードバック系42は、シリンダ31の変位センサSによる検出結果(実変位)を2回微分する第3微分器53と第4微分器54とを備えており、これら第3微分器53と第4微分器53との2回微分によって変位センサSによる実変位が加速度(換言すれば実加速度)に変換される。これら第3微分器53と第4微分器とにより実加速度算出手段が構成される。
【0025】
加速度フィードバック系42は、さらに、加速度目標値と実加速度との偏差を求める第2減算器55を備え、この第2減算器55により求められた偏差が、加速度フィードバック制御量算出手段56に入力される。
加速度フィードバック制御量算出手段56は、加速度目標値と実加速度との偏差に比例したサーボ弁45の駆動制御量を求めて加速度フィードバック制御量として加算器46へ出力する。この加速度フィードバック制御量算出手段56より出力される加速度フィードバック制御量は、比例制御による応答性を改善するべく変位フィードバック制御量による制御量(換言すれば、サーボ弁の駆動制御量)を増減する補正値である。
【0026】
加算器46は、上述した変位フィードバック制御量と、加速度フィードバック制御量とを加算して、この加算されたフィードバック制御量をサーボ弁45に出力する。
サーボ弁45は、加算器46より出力されたフィードバック制御量に従ってシリンダ31内の空気量を制御してロッド32を伸縮させる。
【0027】
ところで、第4微分器54と第2減算器55との間には、所定の遮断周波数よりも高い周波数成分が通らないように減衰させるローパスフィルタ57が設けられている。より具体的には、ローパスフィルタ57は、車体の傾斜制御に必要な周波数成分(例えば0.3Hz程度)のみを通過させ、とりわけ、線路の平行度のばらつきにより生じる車体の横揺れに起因する動揺(1Hz超)を減衰させる。所定の遮断周波数としては、車体の傾斜制御に必要な周波数成分を確実に通過させるとともに、線路の平行度のばらつきにより生じる車体の横揺れに起因する動揺を除去するために1Hzとするのが好ましい。
つまり、第4微分器54から出力された実加速度の信号は、ローパスフィルタ57によって遮断周波数よりも高い周波数帯の信号が減衰された後に、上述した第2減算器55に入力されることとなる。
【0028】
図3は、縦軸をアクチュエータの変位量、横軸を時間とし、それぞれ変位量の目標値(図3中、破線で示す)と、加速度による補正を行う本実施形態の車体傾斜制御装置による実際の変位量(図3中、太実線で示す)を示している。なお、図3中、細線で示すのは、応答性を上げるために単に変位フィードバックゲインを増加させ、加速度による補正を行わない場合の変位量を示している。
図3に示すように、加速度による補正を行わない場合の変位量は、変位目標値の波形と比較して波打った波形となっており、不安定になっている。
これに対して、本実施形態の車体制御装置による変位量は、変位目標値に対して若干の遅れは生じているものの、略追従しており、出力ならびに応答性が改善されている。
【0029】
したがって、上述した実施形態の車体傾斜制御装置によれば、車体傾斜制御用アクチュエータ30のロッド32の変位量によるフィードバック制御に加えて、車体傾斜制御用アクチュエータ30のロッド32が変位する加速度によるフィードバック制御を行い、その加速度フィードバック制御量を用いて、ロッド32の変位量による変位フィードバック制御量を補正してサーボ弁45の制御を行うことができるため、車体傾斜制御用アクチュエータ30の応答性を向上することができ、この結果、圧力センサを別途設ける場合と比較して部品点数を低減しつつ、制御安定性を確保することができる。
【0030】
さらに、実測による変位センサSの検出信号に含まれる車体22の傾斜制御に不必要な周波数成分をローパスフィルタ57によって減衰させることができるため、更なる制御安定性の向上を図ることができる。とりわけ、レールRの平行度のばらつきにより生じる車体22の横揺れに起因する動揺(1Hz超)が変位センサSにより検出されたとしても、この動揺をローパスフィルタ57により確実に減衰させて、車体22の傾斜制御に必要な周波数(例えば0.3Hz程度)の信号のみをフィードバック制御に用いることができる。
また、第1微分器51および第2微分器52による2回微分、ならびに第3微分器53および第4微分器54による2回微分により変位量を加速度に変換することができるため、簡単な構成で、目標変位量から目標加速度を求め、変位センサSの検出信号から実加速度を求めることができる。
【0031】
なお、この発明は上述した実施形態の構成に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で設計変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、第4微分器54と第2減算器55との間にローパスフィルタ57を設ける場合を一例に説明したが、シリンダ31の変位センサと第3微分器53との間に、レールRの平行度のばらつきに起因する動揺を除去するためのローパスフィルタを設けるようにしても良い。
また同様に、シリンダ31の変位センサSと第1減算器43との間にローパスフィルタを設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
30 車体傾斜制御用アクチュエータ(アクチュエータ)
44 変位フィードバック制御量算出手段
45 サーボ弁
51 第1微分器(実加速度算出手段)
52 第2微分器(実加速度算出手段)
53 第3微分器(加速度目標値算出手段)
54 第4微分器(加速度目標値算出手段)
56 加速度フィードバック制御量算出手段
57 ローパスフィルタ
S 変位センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を曲線路の遠心方向逆側に傾斜可能な振り子式台車を備えた鉄道車両の車体傾斜制御装置において、
シリンダの伸縮動作によって前記車体の傾斜角度を制御するアクチュエータと、
前記シリンダによる伸縮動作の変位量を検出する変位センサと、
前記シリンダによる伸縮動作の変位目標値に基づき加速度目標値を求める加速度目標値算出手段と、
前記変位センサの検出結果に基づき前記シリンダによる伸縮動作の実加速度を求める実加速度算出手段と、
前記加速度目標値算出手段と前記実加速度算出手段との算出結果に基づき加速度のフィードバック制御量を算出する加速度フィードバック制御量算出手段と、
前記変位センサの検出結果と前記変位目標値とに基づき変位フィードバック制御量を算出する変位フィードバック制御量算出手段とを備え、
前記加速度フィードバック制御量算出手段と前記変位フィードバック制御量算出手段との各算出結果に基づき前記シリンダの伸縮動作を制御するサーボ弁を制御することを特徴とする鉄道車両の車体傾斜制御装置。
【請求項2】
前記実加速度算出手段と前記加速度フィードバック制御量算出手段との間に、車体の傾斜制御に必要な周波数帯よりも高い周波数帯の信号を減衰させるローパスフィルタを備えることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。
【請求項3】
前記ローパスフィルタは、1Hz以上の信号を減衰させることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。
【請求項4】
前記実加速度算出手段、および、前記加速度目標値算出手段は、それぞれ2つの微分器より構成されることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の鉄道車両の車体傾斜制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−28317(P2013−28317A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167603(P2011−167603)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)