説明

鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液及びその作製方法

【課題】本発明は、従来の化成皮膜に比べ、塗膜の密着性および塗装後の耐食性に優れたりん酸アルミニウム系皮膜を形成しえることを課題とする。
【解決手段】アルミニウムイオンを0.1〜0.5モル/L及びりん酸イオンを1.2〜2.3モル/Lを含有し、酸度比が2.5〜6.0の範囲に調整された水溶液であることを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材に対して塗膜の密着性及び塗装後の耐食性に優れたりん酸アルミニウム系皮膜を形成するための鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腐食環境下で使用される鋼材は、腐食減肉あるいは腐食ピット形成による静的強度特性や疲労強度特性の低下、及びさび発生による外観の悪化を防止するため、材料組成を調整するか、表面処理等により皮膜を付与することが多い。しかし、組成の調整としてCrやNi,Moなどの耐食性元素を添加または増量することは、原料コストや製造コストが高くなるという間題があった。
【0003】
一方、表面処理皮膜として、鋼材に対して腐食犠牲層を設けて母材の腐食を遅らせる、いわゆる犠牲防食を目的として亜鉛膜を付与する方法がある。しかし、例えば亜船の電気めっき法では、ピンホールやめっきむらを防止するための施工条件の管理や、陰極の被処理鋼材表面で発生する水素が鋼中に侵入することに起因する水索脆化を防止するための処理が別途必要になる。その結果、製造工程の複雑化やコスト高が問題となっていた。
【0004】
また、亜鉛(Zn)の犠牲防食作用とアルミニウム(Al)の自己修復作用を合わせ持つとされる表面処理鋼材として、Zn−Al−Si系溶融合金めっき(商品名:ガルバニウム鋼)が知られている。しかし、めっき浴の温度が400℃以上であるため、浴浸漬時に鋼材が加熱されることによる機械的強度の低下やコスト高が問題となっていた。
【0005】
更に、鋼材に対して塗膜を付与する方法もある。鋼材への塗装は、塗膜の密着性や塗膜後の耐食性を高めるため、一般に塗装前に鋼材に対してりん酸亜鉛系化成処理を行っていた。本化成処理により得られるりん酸亜鉛系皮膜は、粒状または針状のりん酸亜鉛系結晶の凝集体を呈しており、その凹凸が塗膜に対してくさびとして作用するため、塗膜との密着性が優れると考えられている。
【0006】
また、上述のように、同皮膜内の亜鉛成分の犠牲防食作用により、耐食性に優れると考えられている。しかし、近年鋼材の軽量化による作用応力の増大に伴い、塗膜に対するひずみも大きくなっている。そのため、従来のりん酸亜鉛系化成皮膜では塗膜の剥離が生じ、それによる塗装後の耐食性の低下が問題となっていた。
【0007】
このため、塗膜の密着性や塗装後の耐食性を向上するりん酸塩化成処理方法が検討されており、以下に示す特許文献1及び特許文献2が知られている。
【0008】
特許文軟1には、金属表面を活性化してりん酸塩皮膜結晶析出のための核を作る目的で、りん酸塩化成処理工程の前に行う表面調整工程に用いる液に関して、粒径5μm以下の金属系りん酸塩を合有する表面調整液(段落番号[0018],[0020]等)が開示されている。しかし、特許文献1では、りん酸塩皮膜結晶が微細になるが、塗膜密着性と塗装後耐食性の向上効果がいずれも小さいことが課題となっていた。また、粒径5μm以下の金属系りん酸塩は比較的高価であり、表面調整液のコスト高が問題であった。さらに、表面調整液の経時安定性は、従来の表面調整液よりは改善してはいるものの、未だ寿命が短く実用上課題が残っていた。
【0009】
特許文献2には、化成処理液に含まれる構成成分(亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウムの各イオン)濃度を規定したりん酸化成処理液(請求項1等)について開示されている。しかし、特許文献2では、処理液の構成成分の濃度管理が困難であり、且つニッケルイオン等を高濃度に含有するため、処理液のコストが高い問題があった。
また、形成される化成処理膜は、ニッケルを含有し耐食性は向上するものの、塗膜の密着性の改善が不十分であるという課題が残っていた。さらに、昨今環境保全意識の高まりの中、特にヨーロッパにおいては、ニッケルの排水規制が厳しくなってきている。従って、将来的に日本においてもニッケルの排水規制が厳しくなることが懸念されており、処理液の無ニッケル化が課題となっている。
【特許文献1】特開平10−245685号公報
【特許文献1】特公平7−23542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した課題を解決するためなされたもので、従来の化成皮膜に比べ、塗膜の密着性及び塗装後の耐食性に優れたりん酸アルミニウム系皮膜を形成しえる鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液及びその作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下に記載する通りである。
1) アルミニウムイオンを0.1〜0.5モル/L及びりん酸イオンを1.2〜2.3モル/Lを含有し、酸度比が2.5〜6.0の範囲に調整された水溶液であることを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。
【0012】
2) アルミニウムイオンを0.25〜0.35モル/L及びりん酸イオンを1.4〜2.0モル/Lを含有し、酸度比が3.5〜5.0の範囲に調整された水溶液であることを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。
3) 処理液の温度が25〜60℃であることを特徴とする1)又は2)に記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。
4) アルミニウム塩とりん酸を用いて1)乃至3)いずれか記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液を製作することを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液の製作方法。
【0013】
5). アルミニウム塩としてりん酸アルミニウムを用いることを特徴とする4)記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液の製作方法。
6) 水酸化ナトリウムを用いて酸度比の調整を行うことを特徴とする4)又は5)に記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液の製作方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来の化成皮膜に比べ、塗膜の密着性および塗装後の耐食性に優れたりん酸アルミニウム系皮膜を形成しえる鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液及びその作製方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明者らは、化成処理液成分や化成皮膜組成、塗膜の密着機構について鋭意検討した結果、りん酸アルミニウム系化成処理液を用いて処理することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。以下に、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明の化成処理液の構成成分であるアルミニウム(Al)イオンは、りん酸アルミニウム系化成皮膜の主成分であり、その濃度は0.1〜0.5モル/L(リットル)である。より好ましくは0.25〜0.35モル/Lである。Alイオンの濃度が0.1モル/L未満では、りん酸アルミニウム系皮膜の形成が難しく、塗膜の密着性及び塗装後の耐食性が劣る。また、Alイオンの濃度が0.5モル/Lを超えてもそれに見合う効果が得られず、経済的でない。
【0017】
りん酸イオンは、りん酸アルミニウム系化成皮膜の主成分となる物質であり、同時に鉄鋼表面のエッチング剤としても作用する。その濃度は1.2〜2.3モル/Lである。より好ましくは1.4〜2.0モル/Lである。りん酸イオンの濃度が1.2モル/L未満では、りん酸アルミニウム系皮膜の形成が難しく、塗膜の密着性及び塗装後の耐食性が劣る。また、2.3モル/Lを超えてもそれに見合う効果が得られない。
【0018】
りん酸アルミニウム系化成皮膜の形成メカニズムは十分解明されていないが、次のように考えられる。
【0019】
本化成処理液中では、アルミニウムの第一りん酸塩(Al(HPO)とHPO、AlPOは下記式(1)のような平衡状態にある。鋼材を処理液に接触させると、下記式(2)に示すようにHPOはFeに作用して、その表面付近の溶液((1)式)ではHPO濃度が減少する。このため、平衡式(1)は右へ反応が進み、難溶性のAlPOが鋼材表面に沈着し、Al−P−O系皮膜を形成すると考えられる。
【0020】
Al(HPO(可溶)⇔2HPO(液体)+AlPO(難溶) …(1)
Fe+2HPO →Fe(HPO+H↑ …(2)
即ち、Al−P−O系皮膜の形成は、HPOの鋼材腐食作用が契機となり、Al(HPOの分解による難溶AlPOの生成沈着作用に基づくと考えられる。
従って、本処理液におけるHPOとAl(HPOのモル濃度比率が本処理条件において重要であり、具体的には酸度比の調整が重要と考えられる。
【0021】
ここで、酸度比とは、本処理液中の遊離りん酸(HPO)度のポイントに対する全りん酸(HPO及びAl(HPO)度のポイントの比率である。ポイントとはそれぞれ次に述べるものである。常温の処理液10ccに指示薬としてメチルオレンジ2〜3滴加えて、0.1規定水酸化ナトリウム(NaOH)で中和して、澄色に変色したときのNaOHの体積をcc単位で表した数が遊離りん酸度のポイントである。同一の液にフエノールフタレインを2〜3滴加えて、同様に中和して薄桃色に変色したときのNaOHの体積をcc単位で表した数が全酸度のポイントである。
【0022】
例えば、酸度比を増加すると、つまり、HPOを減少させると、式(1)の平衡を保つため、皮膜が形成しやすい状態の処理液が得られると考えられる。
具体的な条件としては、酸度比の範囲は2.5〜6.0が望ましく、特に3.5〜5.0が良い。酸度比が2.5未満(HPOが多すぎる)では、鋼材の腐食が激しすぎて皮膜形成が抑制される。また、酸度比が6.0を超える(HPOが少なすぎる)場合では、鋼材の腐食作用が弱くて皮膜形成に長時間を要し、実用上適当な処理時間である3分間程度を大きく超え生産性が悪い。従って、いずれの場合もともに好ましくなく、酸度比は上記範囲にすることが好ましい。
【0023】
また、加熱した処理液を用いると、式(2)の反応速度が上昇し、皮膜形成が促進される。そのため、本発明の化成処理液は、液温が25〜60℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜50℃の範囲である。ここで、処理液の温度が25℃未満では、化成性が低下し、皮膜完成までの時間が長くなり実用上適用できない。また、処理液温度が60℃を超えると、反応は促進されるものの皮膜の厚さのコントロールが難しく、被処理材表面の場所による皮膜の厚さが不均一となる。そのため、また蒸気ミストを吸ったり、火傷を負ったりするという作業環境上問題が生じ、さらに加熱コストがかかり過ぎメリットがない。
【0024】
りん酸アルミニウム系化成処理により塗膜の密着性及び塗装後の耐食性が向上する機構は、十分解明されていないが、次のように考えられる。
塗膜の接着機構は、上述のくさび効果の他にも諸説が提唱されており、その中でも分子間相互力の作用の寄与が大きいと考えられている。具体的には、化成処理皮膜の最表面の水酸(OH)基濃度が多いほど、塗膜最表面のOH基とのファンデルワールス力が、極性が大きい官能基同士であるため大きくなり、その結果塗膜密着性が向上すると考えられている(植木憲二、「塗料のおはなし」、(財)日本規格協会(1986))。これに対し、本発明液で鋼材表面に形成されたりん酸アルミニウム系皮膜は、GDS分析(グロー放電発光分光分析法)により、りん酸亜鉛系皮膜より最表面のOH基が多いことが示唆される結果を得ており、これが塗膜密着性の向上に寄与しているものと推定される。
【0025】
また、化成処理皮膜が腐食した際に生じるさびの性質如何によってその後の耐食性が大きく左右されると考えられる。りん酸アルミニウム系皮膜は、腐食に伴い腐食環境に対して保護性を有するα−FeOOHを多量に合有するさびを形成することがわかっており、これがより一層の耐食性向上に寄与するものと考えられる。
【0026】
次に、本発明のりん酸アルミニウム系化成処理液の作製方法について説明する。
本処理液中のアルミニウムイオンの生成には、溶解性および経時安定性からアルミニウム塩を水系溶媒に供給する形で添加することが望ましい。また、そのアルミニウム塩としては、例えばりん酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムを用いることができる。しかし、液中の酸度比の調整が容易で、且つ本処理液の構成成分の1つであるりん酸イオンを同時に供給でき、経済的観点からりん酸アルミニウムが好ましい。
【0027】
本処理液中のりん酸イオンの生成には、水溶性及びアルミニウム塩の溶解性から、りん酸又はりん酸塩を水系溶媒に供給する形で添加することが望ましい。特に、アルミニウム塩に対する溶解性が高いことと、含有りん酸濃度の高いことから、りん酸が好ましい。
【0028】
酸度比の調整は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等の水系溶媒中でアルカリ性を示す物質を添加することで行うことができる。特に、調整の容易性や取り扱い性、さらに刺激臭を持たない等の作業性に優れている点から、水酸化ナトリウムが好ましい。
【0029】
溶媒に用いる水は、例えば工業用水、水道水、蒸留水を用いることができる。但し、水中に腐食を促進する恐れがあるClイオンが含まれる場合は、極力これを除くことが好ましい。
【0030】
また、鋼材を本発明の処理液で化成処理するときは、前処理(脱脂、脱スケール)等は従来通り行って構わない。ここで、処理方法については特定しないが、一般には浸漬方法がスプレー方法より適している。スプレー法は、鉄鋼材料表面での処理液の移動が激しく、表面付近で膜の成長に必要なりん酸アルミニウム系物質の過飽和状態が常に鋼材全面に渡り維持できない。その結果、りん酸アルミニウム系皮膜の成長が困難になるので、スプレー法は前処理にはふさわしくない。
【0031】
更に、前述のように、従来の鋼材用化成処理として代表的なりん酸亜鉛系化成処理工程では、通常結晶核を作るために前処理として表面調整を行う。これに対し、本開発のりん酸アルミニウム化成処理工程では、得られる皮膜がアモルファス構造である。従って、必ずしも表面調整を必要とせず、処理工程の簡略化や処理コストの低減ができるメリットがある。
【0032】
(実施例)
以下に実施例を比較例とともに示すが、本発明は特に下記実施例に限定されるものではない。
本発明の液によるりん酸アルミニウム系化成処理と、従来の化成処理として代表的なりん酸亜鉛系化成処理液及びその液に適した一般的化成処理法で、各々鋼材に適用後塗装した試料に対し、塗膜の密着性及び耐食性を比較した。
【0033】
鋼材は、直径φ12mm、長さ60mmのばね用鋼材(0.4C−1.4Si−0.8Mn−0.7Cr−Fe)を用い、図1及び図2に示す処理工程で化成処理(りん酸アルミニウム系処理液条件は表1参照)及び塗装を行ったものを供試材とした。なお、図1及び図2の静電塗装工程では、大日本塗料社製のエポキシ粉体塗料(商品名:V−PET#1340QD)を、170℃×37分間の条件で焼付け、膜厚は約100μmとした。
【0034】
塗膜の密着性は、1次密着性評価試験及び2次密着性評価試験の2つの試験により評価した。
1次密着性試験では、鋭利なカッターで1mm間隔の碁盤目を計100個形成し、碁盤目上に粘着テープを粘着した後に、そのテープを強制的且つ瞬時に剥離し、剥離した碁盤目塗膜の数(以下、「はく離目数」と呼ぶ)を調査した。
評価は、りん酸亜鉛系化成処理を用いた供試材のはく離目数Aを基準とし、はく離目数がA以下を「良」(塗膜の密着性が優れる水準)、Aを超える場合を「不良」(塗膜の密着性が劣る水準)とした。
【0035】
2次密着性試験では、鋭利なカッターで下地の鋼材に到達するクロスカットを導入した後、720時間塩水噴霧試験を行った。その後乾燥させ、クロスカット上に粘着テープを粘着した後に、そのテープを強制的且つ瞬時に剥離し、塗膜のクロスカット位置からの片側最大剥離幅(以下、「剥離幅」と呼ぶ)を調査した。
評価は、りん酸亜鉛系化成処理を用いた供試材の剥離幅Bを基準とし、剥離幅がBの80%未満を「最良」(塗膜の密着性が非常に優れる水準)、80%以上95%未満を「良」(塗膜の密着性が優れる水準)、95%以上を「不良」(塗膜の密着性が劣る水準)とした。
【0036】
塗装後の耐食性試験は、塗膜の2次密着性試験での720時間塩水噴霧後に見られる、クロスカット位置からの片側最大さび幅(以下、「さび幅」と呼ぶ)を調査した。評価は、りん酸亜鉛系化成処理を用いた供試材のさび幅Cを基準とし、さび幅がCの70%未満を「最良」(塗装後の耐食性が非常に優れる水準)、70%以上90%未満を「良」(塗装後の耐食性が優れる水準)、90%以上を「不良」(塗装後の耐食性が劣る水準)とした。
【0037】
下記表1に上記の性能評価結果を示す。
比較例1は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が6.2で浴温が50℃での処理液を用いて化成処理したものである。この場合、酸度比が高く鋼材に対する腐食作用が弱いため、実用的な処理時間の3分では皮膜がほとんど形成せず、塗膜の1次密着性、2次密着性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。
【0038】
実施例1は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が5.4で浴温が50℃の処理液を用いて化成処理したものである。塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「良」(優れる水準)、塗装後の耐食性は「最良」(非常に優れる水準)である。
【0039】
実施例2は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が4.7で浴温が50℃の処理液を用いて化成処理したものである。塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「最良」(非常に優れる水準)、塗装後の耐食性は「最良」(非常に優れる水準)である。
【0040】
実施例3は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が2.5で浴温が50℃の処理液を用いて化成処理したものである。塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「最良」(非常に優れる水準)、塗装後の耐食性は「良」(優れる水準)である。
【0041】
比較例2は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が2.0で浴温が50℃の処理液を用いて化成処理したものである。この場合、酸度比が低く鋼材の腐食が激しいため、皮膜がほとんど形成されず、塗膜の1次密着性、2次密着性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。更に、たとえ3分以下の短時間の化成処理でも同様であった。
【0042】
実施例4は、Alイオンを0.19モル/L及びりん酸イオンを1.26モル/L含有し、酸度比が5.7で浴温が50℃での処理液を用いて化成処理したものである。塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「最良」(優れる水準)、塗装後の耐食性は「良」(優れる水準)である。
【0043】
比較例3は、Alイオンを0.19モル/L及びりん酸イオンを1.26モルル/L含有し、酸度比が1.8で浴温が50℃での処理液を用いて化成処理したものである。この場合、酸度比が低く鋼材の腐食が激しいため、皮膜がほとんど形成されず、塗膜の1次密着性、2次密着性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。更に、たとえ3分以下の短時間の化成処理でも同様であった。
【0044】
実施例5は、Alイオンを0.42モル/L及びりん酸イオンを2.09モル/L合有し、酸度比が3.3で浴温が50℃での処理技を用いて化成処理したものである。塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「良」(優れる水準)、塗装後の耐食性は「最良」(非常に優れる水準)である。
【0045】
比較例4は、Alイオンを0.42モル/L及びりん酸イオンを2.09モル/L含有し、酸度比が2.2で浴温が50℃での処理液を用いて化成処理したものである。この場合、酸度比が低く鋼材の腐食が激しいため、皮膜がほとんど形成されず、塗膜の1次密着性、2伏密督性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。更に、たとえ3分以下の短時間の化成処理でも同様であった。
【0046】
比較例5は、Alイオンを0.35モル/L及びりん酸イオンを1.11モル/L含有し、酸度比が5.5で浴温が50℃の処理液を用いて化成処理したものである。この場合、りん酸イオンの濃度が低いため、実用的な処理時間の3分では皮膜がほとんど形成されず、塗膜の1次密着性、2次密着性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。
【0047】
比較例6は、Alイオンを0.07モル/L及びりん酸イオンを1.98モル/L含有し、酸度比が3.8で浴温が50℃の処理液を用いて化成処理したものである。この場合、Alイオンの濃度が低いため、実用的な処理時間の3分では皮膜がほとんど形成されず、塗膜の1次密着性、2次密着性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。
【0048】
比較例7は、Alイオンを0.30及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が4.7で浴温が70℃の処理液を用いて化成処理したものである。この場合、浴温が高く反応は促進されるものの皮膜の厚さのコントロールが難しいため、被処理材表面の揚所による皮膜の厚さが不均一となり、塗膜の1次密着性、2次密着性は「不良」(劣る水準)、塗装後の耐食性は「良」(優れる水準)である。
【0049】
実施例6〜9は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L含有し、酸度比が4.7で浴温が25℃〜60℃の処理液を用いて化成処理したものである。浴温が60℃の実施例6は、塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「最良」(非常に優れる水準)、塗装後の耐食性は「良」(優れる水準)である。
浴温が30℃〜40℃の実施例7及び8は、塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「最良」(非常に優れる水準)、塗装後の耐食性は「最良」(非常に優れる水準)である。浴温が25℃の実施例9は、塗膜の1次密着性は「良」(優れる水準)、2次密着性は「最良」(非常に優れる水準)、塗装後の耐食性は「良」(優れる水準)である。
【0050】
比較例8は、Alイオンを0.30モル/L及びりん酸イオンを1.48モル/L合有し、酸度比が4.7で浴温が20℃での処理液を用いて化成処理したものである。この場合、浴温が低く反応が進まないため、実用的な処理時間の3分では皮膜がほとんど形成せず、塗膜の1次密着性、2次密着性、塗装後の耐食性はいずれも「不良」(劣る水準)である。
【表1】

【0051】
以上に述べたように、本発明のりん酸アルミニウム系化成処理液及びその作製方法を用いて鋼材を処理することにより、塗膜の密着性及び塗装後の耐食性に優れたりん酸アルミニウム系皮膜を形成することが可能となった。
【0052】
なお、この発明は、上記実施例そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、鋼材は上記実施例で述べた直径、長さ及び種類に限定されず、またAlイオン濃度、りん酸イオン濃度、酸度比及び浴温も上記実施例で述べた値に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は本発明に係るりん酸アルミニウム系化成処理液を用いた処理工程の説明図である。
【図2】図2は従来に係るりん酸亜鉛系化成処理液を用いた処理工程の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムイオンを0.1〜0.5モル/L及びりん酸イオンを1.2〜2.3モル/Lを含有し、酸度比が2.5〜6.0の範囲に調整された水溶液であることを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。
【請求項2】
アルミニウムイオンを0.25〜0.35モル/L及びりん酸イオンを1.4〜2.0モル/Lを含有し、酸度比が3.5〜5.0の範囲に調整された水溶液であることを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。
【請求項3】
処理液の温度が25〜60℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液。
【請求項4】
アルミニウム塩とりん酸を用いて請求項1乃至3いずれか記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液を製作することを特徴とする鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液の製作方法。
【請求項5】
アルミニウム塩としてりん酸アルミニウムを用いることを特徴とする請求項4記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液の製作方法。
【請求項6】
水酸化ナトリウムを用いて酸度比の調整を行うことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の鉄鋼用りん酸アルミニウム系化成処理液の製作方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−106340(P2008−106340A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292791(P2006−292791)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】