鉛を超低量含む快削銅合金
本発明による快削性銅合金は、鉛の含有量を従来の快削性銅合金と比較して大幅に減少させたものであるが、工業的に満足し得る被削性を有するものである。本発明の快削性銅合金は、71.5〜78.5重量%の銅と、2.0〜4.5重量%のシリコンと、0.005重量%以上0.02重量%未満の鉛と、残部の亜鉛とからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全ての産業分野に使用される快削銅合金に関するものであるが、人が消費するための飲用水を提供する分野において使用される合金に、特に関連している。
【背景技術】
【0002】
良好な被削性を有する銅合金にはJIS H5111 BC6指定を持つ青銅系合金や、H3250 C3604及びC3771指定を持つ黄銅系合金がある。これらの合金は、快削性銅合金として工業的に満足し得る結果を提供するために、1.0重量%から6.0重量%の鉛を添加することによって被削性を向上させている。その優秀な被削性により、これらの鉛含有銅合金は、都市の水道栓や水道水の供給・排水用金具やバルブといった、さまざまな部品用素材として重要な役割を果たしてきた。
【0003】
これら従来の快削銅合金においては、鉛はマトリックス内に固溶せず、粒状をなして分散することによって、当該合金の被削性を向上させるものである。望ましい結果を生ずるには、鉛はこれまで2.0重量%かそれ以上添加される必要があった。当該合金において鉛添加量が1.0重量%未満の場合、切屑の形状は図1Gに見られるような螺旋形となる。螺旋形の切屑は、工具に絡みつく等、さまざまなトラブルを引き起こす原因となる。一方、鉛添加量が1.0重量%以上2.0重量%以下の場合、切削抵抗が低下するという結果を生み出すものの、切削表面が粗くなる。したがって、鉛は通常2.0重量%以上の範囲で添加される。高度な切削特性が要求される銅合金展伸材においては3.0重量%かそれ以上の鉛が添加される。さらに、いくつかの青銅鋳物においては、鉛添加量が5.0重量%のものもある。例えば、JIS H5111 BC6指定の合金は鉛を5.0重量%含有している。
【0004】
鉛を数%含有する合金においては、細かな鉛粒子が金属組織内に分散している。切削加工時、応力はこれらの細かく軟らかい鉛粒子に集中する。結果として、切削時に生ずる切屑はより小さくなり、切削抵抗はより低くなる。このような状況において、鉛粒子はチップブレーカーの役割を果たす。
【0005】
一方、指定の組成範囲と製造条件のもとで、2.0%から4.5%のシリコンが銅亜鉛合金に添加された場合、α相の他にシリコンに富むκ相、γ相、μ相またはβ相が一つまたは複数、その金属組織中に現われる。これらの相のうち、κ相、γ相及びμ相は硬い相であり、鉛とは全く違った特性を有している。しかし、切削時にはこれら3種類の相が存在する場所に応力が集中し、これらの相がチップブレーカーの役割を果たし、それによって必要とされる切削力が低くなる。つまり、鉛と、銅亜鉛シリコン系合金に生ずるκ相、γ相及びμ相は、その特性において共通するものはほとんど、あるいは全くないものの、どちらも切屑を分断し、その結果、必要な切削力を削減する。
【0006】
しかしながら、κ相、γ相及びμ相を含む銅亜鉛シリコン系合金の被削性は、C83600(鉛入りレッドブラス・鉛含有5%)、C36000(快削黄銅・鉛含有3%)、C37700(鍛造用・鉛含有2%)と比較すると、向上したとは言え、十分とは言えない部分もある。
【0007】
鉛の混ざった合金の用途は近年、含有されている鉛が環境汚染物質として人体に有害であるため、大幅に制限されてきている。例えば、溶解、あるいは鋳造といった、高温での当該合金製造段階で発生する金属蒸気に鉛が含まれるため、鉛含有合金は人体の健康や環境衛生に脅威をもたらす。また、これらの合金から製造された水道栓金具やバルブに含ま
れる鉛が飲料水に溶出する危険性もある。
【0008】
これらの理由により、米国などの先進国は近年、銅合金における鉛の許容レベルを大幅に制限するべく、規制を厳しくする傾向にある。日本においても、鉛を含む合金の使用は大幅に制限されてきており、鉛含有量の低い快削銅合金の開発が強く要請されている。言うまでも無く、鉛の含有量はできる限り減らすことが望ましい。
【0009】
米国特許公開2002−0159912号公報及び特開2000−119774号(特願平10−287921号)公報に記載されているように、快削銅合金に含まれる鉛の量は、近年の技術進歩により0.02%まで引き下げられている。しかし、鉛含有量に関する強い世論を考慮すると、含有量をさらに減らすことが望まれる。米国特許第6413330号公報に記載されているように、鉛フリー合金は先行技術で知られているが、少量の鉛を有する合金には一定の有利性が存在することを本件発明者は見出した。
【0010】
【特許文献1】米国特許公開2002−0159912号公報
【特許文献2】特開2000−119774号公報
【特許文献3】米国特許第6413330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、被削性向上元素としてごく少量の鉛(0.005重量%以上0.02重量%未満)を含む快削銅合金を提供することにある。鉛を多く含有する従来の快削性銅合金の安全な代替となることができ、なお被削性に優れた合金を提供することが目的であり、また、切屑のリサイクルが可能であると同時に、環境衛生上の問題を生じることのない快削銅合金を提供し、よって鉛含有製品の制限に関して増大する要望への、時宜にかなった回答を提供することである。本発明は、κ相、γ相びμ相と微量の鉛添加との相乗効果を利用することにより、このような結果を達成するに至る。
【0012】
優れた被削性とともに、高い耐食性を有する快削銅合金を提供し、切削加工、鍛造、鋳造その他に適した素材として、高い有用性を持つ銅合金を提供することが、本発明のさらなる目的である。本合金を適用可能な切削加工、鍛造、鋳造等には、水道栓、水道水供給・排水用金具、水道メーター、スプリンクラー、ジョイント、止水栓、バルブ、ステム、温水供給用パイプ金具、シャフト、熱交換器用部品などが含まれる。
【0013】
本発明はまた、高強度と高い耐磨耗性を必要とするベアリング、ボルト、ナット、ブッシュ、ギア、ミシン用部品、シリンダー部品、バルブシート、シンクロナイザーリング、摺動部材、油圧装置部品等の切削加工、鍛造、鋳造等に適した素材として、高い有用性を持ち、被削性とともに高強度と高い耐磨耗性を有する銅合金を提供することを目的とするものである。
【0014】
さらに本発明は、高い耐高温酸化性が必要とされる灯油及びガスヒーター用ノズル、バーナーのヘッド、温水分配器用ノズル等の切削加工、鍛造、鋳造等に適した素材として、高い有用性を持ち、被削性とともに高い耐高温酸化性を有する銅合金を提供することを目的とするものである。
【0015】
またさらに本発明は、ニップルと呼ばれるチューブコネクタや、ケーブルコネクタ、金具、クランプ、家具用の金属蝶番、自動車用センサー部品等、切削加工後にコーキング加工を行うため、耐衝撃性のある素材から製造されることが必要な製品に適した素材として、優れた被削性とともに高い耐衝撃性を有する快削銅合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の一つまたは複数の発明目的は、次のような銅合金を提供することにより達成される。
【0017】
(第1発明合金)
第1発明合金は、優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、当該合金における銅とシリコンの割合が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%)の関係を満たす快削銅合金である。簡略化するため、本銅合金を以降「第1発明合金」という。
【0018】
鉛はマトリックスに固溶せず、鉛粒子として粒状をなして分散し、被削性を向上させる。銅合金に少量存在する鉛粒子であっても被削性は改善される。一方、シリコンは金属組織中にγ相及び/又はκ相(場合によってはμ相)が生じることにより被削性を向上させる。シリコンと鉛は被削性の向上に有効であるという点では共通しているが、合金の他の特性に対する貢献には大きな相違がある。この点を鑑み、合金に含まれる鉛量を大幅に削減し、それによって鉛害が人体に与えるリスクを削減することを可能にすると同時に、工業的な要求を満足し得る高い被削性がもたらされるよう、シリコンが第1発明合金に添加されている。すなわち、第1発明合金はシリコンの添加によるγ相及びκ相の形成を通じ、被削性を改善したものである。したがって、第1発明合金は工業的に満足し得る被削性を有し、それはつまり、当該発明合金を乾式で高速にて切削した場合に、従来の快削銅合金と同等の被削性を有するということである。つまり、第1発明合金は、超低量の鉛添加(0.005重量%以上0.02重量%未満)による被削性の改善とともに、シリコン添加によるγ相、κ相、μ相の形成を通じて向上した被削性を有している。
【0019】
シリコンの添加が2.0重量%に満たない場合、工業的に満足し得る被削性を確保するに十分なγ相/又はκ相は形成されない。シリコンの添加量を増加するに従って被削性は改善される。しかしシリコンの添加量が4.5重量%を超えると、それに見合う被削性の向上は見られない。しかし問題は、シリコンは融点が高く比重が低い上、酸化し易いということである。溶解の段階で混じり気のないシリコンを炉に投入すると、シリコンは溶湯の表面に浮かび、酸化してシリコン酸化物(酸化ケイ素)となり、よってシリコン含有銅合金の製造を阻害する。したがって、シリコン含有銅合金のインゴットを生産するためには、シリコンは通常Cu−Si合金として添加され、製造コストが上がることになる。シリコンの量が過剰になると、金属構造の全面積において、形成されるγ相/κ相が多くなり過ぎる。これらの相が過剰な量で存在することにより、応力集中源としての働きが阻害され、また当該合金を必要以上に硬くする。従って、被削性向上の効果が飽和状態となる点、つまり4.5重量%を超えてシリコンを添加することは望ましくない。シリコンを2.0重量%〜4.5重量%添加する場合、銅亜鉛合金に本来備わっている特性を維持するために、亜鉛量との関係を考慮に入れて銅を71.5重量%〜78.5重量%とすることが望ましいことが実験から判明した。そのため、第1発明合金は71.5重量%〜78.5重量%の銅及び2.0重量%〜4.5重量%のシリコンからなるとした。シリコン添加により被削性だけでなく、(a)鋳造における溶湯の湯流れ性、(b)強度、(c)耐磨耗性、(d)耐応力腐食割れ性、(e)耐高温酸化性も向上する。しかし、第1発明合金における銅とシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでXは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Pbは鉛の重量%である)を満たさない限り、これらの特性は見られない。また、延性と耐脱亜鉛腐食性もある程度まで向上する。
【0020】
このため、第1発明合金への鉛添加量は0.005重量%以上0.02重量%未満に設
定される。第1発明合金において、仮に鉛の添加量を削減しても、γ相及び/又はκ相を生じる前述の効果を有するシリコンを添加することによって、十分なレベルの被削性が得られる。しかし当該合金が、被削性において従来合金より優位となるには、0.005重量%を上回る量で銅亜鉛合金に鉛を添加することが必要である。一方、鉛量を比較的多く添加した場合、当該合金の特性にとって逆効果となり、表面状態が粗くなるとともに、熱間鍛造等の熱間加工性が低下し、冷間での延性も低下する。また、日本を含む先進国において将来的に鉛に関する国の規制がいくら厳しくなろうとも、0.02重量%以下という少量の鉛含有であれば、その規制をクリアできるであろう。そのため、本合金に添加される鉛量は、第1発明合金、及び後述する第2発明合金、第3発明合金において、0.005重量%以上0.02重量%未満とした。本発明に基づき、第1・第2・第3発明合金の改良は全て、この低鉛量の範囲を含むものとする。
【0021】
(第2発明合金)
本発明の別の実施例は、優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.2重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含み、当該合金における銅、シリコン、及び他の選択元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された元素の重量%であり、係数aはリンが選択元素の場合−3、アンチモン及びヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2である)の関係を満たす快削銅合金である。この第2銅合金を以降「第2発明合金」という。第2発明合金は、被削性がさらに向上しているとともに、脱亜鉛腐食やエロージョン等の腐食に優れた耐性を有する快削銅合金である。
【0022】
アルミニウムはγ相の形成促進に有効であり、シリコンと同様の働きをする。つまり、アルミニウムが添加された場合、γ相が形成され、このγ相が銅亜鉛シリコン系合金の被削性を改善する。アルミニウムは銅亜鉛シリコン系合金の被削性だけでなく、強度、耐磨耗性、耐高温酸化性の改善にも有効である。アルミニウムは比重を低く抑える助けもする。仮にアルミニウムの添加により被削性を改善するとなると、少なくとも0.1重量%の添加量が必要となる。しかし、2.0重量%を超える添加はそれに見合った結果を生み出さない。2.0重量%を超えてさらにアルミニウムを添加することにより、被削性へのさらなる貢献は見られず、このような添加によりγ相が過剰に形成されるため、当該合金の延性は低下する。
【0023】
リンにはアルミニウムのようなγ相を形成する特性はない。しかし、リンはシリコンの単独添加、あるいはアルミニウムとシリコンの共添により形成されたγ相を均一に分散・分配する働きを有する。このようにして、合金中にγ相を分散・分配させるリンの能力によって、γ相の形成によって得られた被削性がさらに向上する。γ相の分散に加え、リンはマトリックスのα相内の結晶粒微細化を助ける働きがある。それにより、熱間加工性、強度、耐応力腐食割れ性が向上する。さらに、リンは耐食性の向上とともに、鋳造時の湯流れ性を著しく改善する。このような結果を得るためには、リンは0.01重量%を超えて添加される必要がある。しかしリンの添加が0.2重量%を超えると、それに見合った効果が得られなくなる。むしろ、当該合金の熱間鍛造性、押出し性が低下する結果となる。
【0024】
第2発明合金は、第1発明合金に加え、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.2重量%、スズ0.1重量
%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含む。上述のように、リンはγ相を均一に分散させ、同時にマトリックスのα相内の結晶粒を微細化し、当該合金の被削性と耐食性(耐脱亜鉛腐食性、等)、鍛造性、耐応力腐食割れ性、強度を改善する。従って、第2発明合金はリンの働きによって耐食性その他の特性が改善され、主にシリコンの添加によって被削性が改善されたものである。リンの添加は0.01重量%かそれ以上という、大変少量において有益な結果をもたらすものである。しかし、0.2重量%を超えると、添加量から期待されるほどの効果は現われない。反対に、0.2重量%を超えると、リンは熱間鍛造性や押出し性を低下させる。一方、ヒ素/又はンチモンはわずか0.02重量%かそれ以上の添加により耐脱亜鉛腐食性を改善し、有益な結果を生み出す。
【0025】
スズはγ相の形成を促進すると同時に、αマトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相をさらに均一に分散・分配する働きを有する。従って、スズは銅亜鉛シリコン系合金の被削性をさらに改善する。スズはまた、耐食性、特にエロージョン・コロージョン及び脱亜鉛腐食に対する耐食性を向上させる。腐食に対するこのようなプラス効果を達成するためには、0.1重量%以上のスズが添加されなければならない。一方、スズの添加が1.2重量%を超えると、過剰なスズにより当該発明合金の延性及び衝撃値が低下し、鋳造時にクラックが生じやすくなる。従って、延性と衝撃値の低下を避けつつ、スズ添加のプラス効果を確実にするためには、本発明に従い、0.2重量%から0.8重量%のスズ添加が好ましい。
【0026】
第2発明合金においては、リン、アンチモン、ヒ素(耐食性を改善する)、スズ、アルミニウムから選択された少なくとも一つの元素を、上述の範囲内で第1発明合金と同量の銅及びシリコンに添加することにより、被削性だけでなく耐食性その他の特性も改善されていることが、これらの観察結果によって示されている。第2発明合金において銅とシリコンはそれぞれ、第1発明合金と同量の71.5重量%から78.5重量%、及び2.0重量%から4.5重量%と設定する。リンはアンチモンやヒ素と同様、主として耐食性向上元素として働く為、ここではシリコンと少量の鉛以外の被削性向上元素は添加されていない。
【0027】
(第3発明合金)
優れた被削性と強度、及び高い耐食性を有する、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.15重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含み、マンガン0.3重量%〜4重量%及びニッケル0.2重量%〜3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をその合計が0.3重量%〜4.0重量%となるように含む、当該合金における銅、シリコン、及び選択元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン及びニッケル)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン及びニッケルから選択された少なくとも一つの重量%であり、係数aがリンが選択元素の場合−3、アンチモンとヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2、マンガンの場合2.5、ニッケルの場合2.5)の関係を満たす快削銅合金である。この第3銅合金を以降「第3発明合金」という。第3発明合金は、被削性の向上とともに、高強度、優れた耐磨耗性と耐食性を有する快削銅合金である。
【0028】
マンガンとニッケルはシリコンと結び付き、マトリックス内に均一に析出するMnxSiy/又はNixSiyで表される金属間化合物を形成し、それによって耐磨耗性と強度
が向上する。従って、マンガン及びニッケル、/又はどちらか一方の添加により、第3発明合金の強度及び耐磨耗性が向上する。このような効果は、マンガン及びニッケルがそれぞれ0.2重量%以上の場合に現われる。しかし、ニッケルの場合3.0重量%、マンガンの場合4.0重量%で飽和状態に達し、それ以上マンガン/又はニッケルを添加しても、それに見合った効果は得られない。シリコンの添加量は、シリコンがマンガンやニッケルと結び付いて金属間化合物を形成するのに消費されることを考慮に入れ、マンガン及び/又はニッケルの添加量に見合うよう、2.0重量%〜4.5重量%と設定される。
【0029】
アルミニウムとリンはマトリックスのα相を強化し、被削性を向上させる。リンはα相とγ相を分散させ、それによって強度、耐磨耗性、被削性が改善される。アルミニウムは耐磨耗性の向上にも寄与し、0.1重量%かそれ以上添加されると、マトリックスを強化する効果を示す。しかしアルミニウムの添加が2.0重量%を超えると、過量のγ相あるいはβ相の形成により延性の低下がむしろ簡単に生じてしまう。従って、アルミニウムの添加量は、望ましい被削性改善を考慮に入れ0.1重量%から2.0重量%と設定される。また、リンの添加によりγ相が分散され、同時にマトリックスのα相内の結晶粒が細かく砕かれることによって、熱間加工性が向上し、当該合金の強度と耐磨耗性が向上する。さらに、リンは鋳造時の湯流れ性の改善に大きな効果を発揮する。このような結果は、リンを0.01重量%〜0.2重量%添加した場合に得られる。銅の量はシリコンの添加量、及びマンガン、ニッケルがシリコンと結合する特性を鑑み、71.5重量%〜78.5重量%とした。
【0030】
アルミニウムは強度、被削性、耐磨耗性、及び耐高温酸化性を改善する元素である。シリコンも、被削性、強度、耐磨耗性、耐応力腐食割れ性、耐高温酸化性を向上させる特性を持つ。アルミニウムは、シリコンと共に0.1重量%以上添加されると、耐高温酸化性を向上する働きがある。しかし、アルミニウムの添加が2.0重量%を超えると、それに見合った結果は期待できない。従って、アルミニウムの添加量は0.1重量%〜2.0重量%と設定した。
【0031】
リンは鋳造時の湯流れ性を向上させるために添加される。リンはまた、湯流れ性の向上とともに、上述の被削性、耐脱亜鉛腐食性、耐高温酸化性を改善する働きを有する。これらの効果は、リンが0.01重量%以上添加された場合に発揮される。しかし、リンの添加量が0.20重量%を超えると、それに見合う効果が得られないばかりか合金の脆弱化を招く。これらを考慮し、リンは0.01重量%〜0.2重量%の範囲で添加することとする。
【0032】
上述した通り、被削性の向上のためシリコンが添加される一方、シリコンはリンと同様、湯流れ性を向上することができる。シリコンの湯流れ性改善効果は、2.0重量%以上添加された場合に見られる。湯流れ性を改善させる添加範囲は、被削性を改善させる範囲と重なっている。これらを考慮に入れ、シリコンの添加量は2.0重量%〜4.5重量%と設定される。
【0033】
(第4発明合金)
本発明の別の実施例は、優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された元素を一つ含み、当該合金における銅及びシリコンの割合が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である)の関係を満たす快削銅合金である。この第4銅合金を以降「第4発明合金」という。
【0034】
第4発明合金は、第1発明合金の組成に加え、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された一つの元素を含むものである。
【0035】
ビスマス、テルル、セレンは、鉛同様マトリックスに固溶せず、粒状で分散し、被削性を改善する。被削性の向上となると、ビスマス、テルル、セレンの添加は、快削銅合金の鉛量の減少を埋め合わせることができる。これらの元素のうちどれかをシリコン・鉛とともに添加することにより、シリコンと鉛のみの添加で得られるレベルを超えて被削性が改善される。この発見から、ビスマス、テルル、セレンから選択された一つが添加される、第4発明合金が開発された。シリコンと鉛に加え、ビスマス、テルル、セレンを添加することによって、当該合金の被削性が向上し、複雑な形状を高速にて切削することが可能となる。しかし、ビスマス、テルル、セレンの添加が0.01重量%未満の場合、被削性の向上は達成されない。つまり、これらの元素が著しい被削性向上効果を発揮するには、少なくとも0.01重量%以上のビスマス、/又は少なくとも0.03重量%以上のテルル/又はセレンが添加される必要がある。しかし、これら3つの元素は銅と比べて大変高価なため、商業的価値のある合金を作成するには賢明に添加する必要がある。従って、ビスマス、テルル、セレンは0.2重量%を超えて添加しても、それに見合う被削性の改善は小さく、このレベルでの添加は経済的に割が合わない。さらに、これらの元素を0.4重量%超えて添加すると、鍛造性などの熱間加工性、及び延性などの冷間加工性が低下する。ビスマスのような重金属は、鉛の場合と同様の問題を生じるのではという危惧がある一方、0.2重量%以下の少量添加であれば無視できる範囲であり、特に健康被害を生ずることもない。これらを考慮し、第4発明合金はビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル/又はセレンを0.03重量%〜0.2重量%に設定した。この点において、鉛とビスマス、テルル/又はセレンの合計は0.4重量%を超えないことが望まれる。このように制限した理由は、これら4種の元素の合計量が0.4重量%を僅かでも超えると、当該合金の熱間加工性及び冷間での延性が低下し始め、また、切屑の形状が図1Bに描かれている形状から図1Aの形状へと変化する恐れがあるからである。しかし、上述したように、シリコンとは違ったメカニズムで合金の被削性を改善するビスマス、テルル、セレンの添加は、当該合金中の銅及びシリコンの適正含有量に影響を与えない。従って、第4発明合金の銅及びシリコンの量は、第1発明合金と同じレベルに設定される。
【0036】
これらの観察結果を鑑み、第4発明合金は、第1発明合金の銅亜鉛シリコン鉛合金に、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された元素から選択された少なくとも一つの元素を添加することによって、被削性を向上させたものである。
【0037】
(第5発明合金)
優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.2重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素と、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された少なくとも一つの元素を含み、当該合金における銅、シリコン、及び他の選択された元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された元素の重量%であり、aは選択された元素の係数であり、係数aはリンが選択元素の場合−3、アンチモンとヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2である。)の関係を満たす快削銅合金である。この第5銅合金を以降「第5発明合金
」という。
【0038】
第5発明合金は、第2発明合金の組成に加え、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された何れか一つの元素を含む合金である。これら添加される選択元素の混合とその添加量の設定についての根拠は、第4発明で述べられたものと同様である。
【0039】
(第6発明合金)
優れた被削性とともに良好な耐高温酸化性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.15重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜0.2重量%から選択された少なくとも一つの元素と、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された少なくとも一つの元素と、マンガン0.3重量%〜4重量%及びニッケル0.2重量%〜3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をその合計が0.3重量%〜4.0重量%となるように含み、当該合金における銅、シリコン、及び他の選択された元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケル)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケルから選択された元素の重量%である。aは選択された元素の係数であり、その係数はリンが選択元素の場合−3、アンチモンとヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2、マンガンとニッケルの場合2.5である。)の関係を満たす快削銅合金である。この第6銅合金を以降「第6発明合金」という。
【0040】
第6発明合金は、第3発明合金の組成に加え、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された元素を一つ含む合金である。第3発明合金と同等の耐高温酸化性が得られる一方、被削性の向上に鉛と同様に効果的なビスマス及びその他の元素から選択された一つの元素を添加することにより、なお一層その被削性を改善するものである。
【0041】
(第7発明合金)
優れた被削性と、第1発明合金から第6発明合金の望ましい特徴を兼ね備えた快削銅合金であり、当該合金の鉄含有量が0.5重量%以下となるように、第1発明合金から第6発明合金の組成を更に限定した合金である。銅合金を製造する際、鉄は不可避不純物である。しかし、この不純物の範囲を、0.5重量%を超えないように制限することにより、さらなる恩恵が得られる。具体的には、鉄は第1発明合金から第6発明合金の被削性を低下させ、バフ研磨性やめっき性を低下させる。従って、本発明に基づいて、第7合金は第1発明合金から第6発明合金の何れかの組成に、0.5重量%以上の鉄を含有しないよう、さらなる制限が加わったものである。これ以降、第7合金を「第7発明合金」とする。
【0042】
(第8発明合金)
前述した各発明合金のいずれかに、30分から5時間、400℃から600℃で熱処理を施すことにより、さらなる被削性を有する快削銅合金が得られる。これ以降、第8合金を「第8発明合金」という。
【0043】
(第9発明合金及び第10発明合金)
(a)α相からなるマトリックス、及び(b)γ相及びκ相からなる群から選択された一つまたはそれ以上の相を含むよう、前述の各発明合金のいずれかを構成することにより
、さらなる被削性を有する快削銅合金が得られる。これ以降、第9合金を「第9発明合金」という。また、「第10発明合金」に従って、γ相及びκ相からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の相がα相のマトリックス内に均一に分散されるよう、第9発明合金はさらに改良される。
【0044】
(第11発明合金)
前述の各発明合金のいずれかに、当該合金の金属組織が次の関係を満たすよう更なる限定を施すことによって、より良い被削性を有する快削銅合金が得られる:
(i)当該合金の総相面積において、0%≦β相≦5%
(ii)当該合金の総相面積において、0%≦μ相≦20%
(iii)当該合金の総相面積において、18−500(Pb)%≦κ相+γ相+0.3μ相−β相≦56+500(Pb)%
これ以降、第11合金を「第11発明合金」という。
【0045】
(第12発明合金及び第13発明合金)
本発明に基づき、当該合金の押出し棒、/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、チップブレーカー無しで、タングステン・カーバイド工具を用い、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60m/min〜200m/min、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削したとき、アーチ状型、針状型、及び板状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずるよう、前述の第1発明合金から第11発明合金の何れかを構成することにより、被削性の改善を実証する快削銅合金が得られる。これ以降、この第12合金を「第12発明合金」という。同様に、当該合金の押出し棒、/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、直径10mm、長さ53mmのスチールグレードのドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、送り速度0.20mm/revにてその円周上をドリルしたとき、アーチ状型及び針状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずるよう、前述の第1発明合金から第11発明合金の何れかを構成することにより、被削性の改善を実証する、また別の快削銅合金が得られる。これ以降、この第13合金を「第13発明合金」という。
【0046】
第1発明合金から第13発明合金は、シリコンのような被削性向上元素を含有し、このような元素の添加によって優れた被削性を有する合金である。これらの被削性向上元素の効果は、熱処理によってさらに向上する。例えば、上述の第1発明合金から第13発明合金において、銅含有量が高く、γ相が少量で且つκ相が多量の場合、熱処理によってκ相からγ相への相変化が起こる。結果として、γ相は均一に分散して析出し、被削性が改善される。鋳物、展伸材及び熱間鍛造の製造工程において、鍛造条件、熱間加工(熱間押出し、熱間鍛造等)後の生産性、作業環境、その他の要因により、それらの材料が強制空冷、/又は水冷されることがよくある。このような場合、第1発明合金から第13発明合金において、特に銅の含有量が低いものでは、γ相及び/又はκ相の量はむしろ少なく、β相が含まれている。熱処理によってこのβ相がγ相及び/又はκ相へと変化し、γ相及び/又はκ相は均一に分散・析出して被削性が改善される。
【0047】
しかし、何れの場合においても、400℃未満の温度での熱処理は、上述した相変化の速度が遅くなり、多くの時間が必要となるため、経済的でも実用的でもない。一方、熱処理温度が600℃を超えると、κ相が成長し、/又はβ相が出現して、被削性の改善が見られなくなる。従って、実用の点から、金属組織の相を変化させることによって、当該合金の被削性を改善するために熱処理を利用する場合、30分から5時間、400℃から600℃で実施することが望ましい。
【0048】
各発明合金は、銅、シリコン、亜鉛及び鉛を含有する。特定の発明合金はさらに、リン
、スズ、アンチモン、ヒ素、アルミニウム、ビスマス、テルル、セレン、マンガン及びニッケルといった他の構成元素を含んでいる。これらの元素はそれぞれ、発明合金に特定の利益を与えるものである。例えば、銅は本発明合金の主要な構成元素である。本発明者らによって実施された研究に基づき、機械的特性、耐食性、流動性といった、銅亜鉛合金に生来備わっている特性を維持するためには、銅の含有量を71.5重量%〜78.5重量%とすることが望ましいことが判明した。さらに、このような銅含有量の範囲により、シリコンが添加された際の金属組織におけるγ相及び/又はκ相(場合によってはμ相)の形成が効果的に行われ、その結果、工業的に満足し得る被削性を得ることができる。しかし、銅の含有量が78.5重量%を超えると、γ相及び/又はκ相の形成の程度に関わらず、工業的に満足し得る被削性が得られないため、銅含有量の上限が設定されている。また銅量が78.5重量%を超えると、当該合金の鋳造性も低下する。一方、銅の含有量が71.5重量%を下回る場合、β相が金属組織中に形成されやすくなる。β相の形成により、金属組織中にγ相及び/又はκ相が存在する場合でも、被削性が低下する傾向にある。β相の形成により、耐脱亜鉛腐食性の低下、応力腐食割れの増加、延性の低下等、他にもマイナスの効果を生じる結果となる。
【0049】
シリコンは本発明合金のもう一つの主要な構成元素である。特に、シリコンには銅合金の被削性を改善する働きがある。シリコンは被削性向上効果を伴って、α相からなるマトリックス内にγ相、κ相、及び/又はμ相を形成するため使用される。銅合金において2重量%以下のシリコン添加では、工業的に満足し得る被削性を得るためのγ相、κ相、及び/又はμ相が十分形成されない。添加されるシリコンの量が増加するにつれ合金の被削性は向上するが、4.5重量%を超えると添加量に見合った効果が得られなくなる。実際、金属組織内のγ相及び/又はκ相の割合が大きくなり過ぎるため、4.5重量%を超えるシリコンが添加された場合、被削性は低下し始める。また、シリコンが4.5重量%以上になると、当該合金の熱伝導性も低下する。従って、被削性とともに、流動性、強度、耐磨耗性、耐応力腐食割れ性、耐高温酸化性、耐脱亜鉛腐食性等の特性を改善するためには、適切な量のシリコンを添加することが必要である。
【0050】
亜鉛もまた本発明合金において主要な構成元素である。銅及びシリコンに添加されると、亜鉛はγ相、κ相、及び場合によりμ相の形成に影響を与える。亜鉛は本発明合金の機械的強度、被削性及び流動性の改善にも働く。本発明に基づき、亜鉛は他の2つの主要元素(銅及びシリコン)、低量の鉛及び他の元素を除く残りの部分を占めるため、その含有量の範囲は間接的に決定される。
【0051】
鉛はマトリックスに固溶せず、粒状をなしてマトリックス内に分散し、それにより被削性を改善するため、本発明合金中に存在する。シリコン添加を通じて金属組織中にγ相及び/又はκ相が形成されることにより、合金の被削性はある程度まで改善されるが、発明合金の被削性をさらに向上させるため、0.005重量%以上の鉛も添加されている。事実、現在工業上強く望まれている乾式下(潤滑油不使用)での高速切削において、本発明合金の被削性は、従来の快削銅合金と同等、/又はそれをしばしば凌ぐほどに優れている。本発明の範囲に入る組成範囲を有する銅亜鉛シリコン系合金にとって、固溶状態での鉛含有量の上限は0.003%であり、これを超える量の鉛は組織内で鉛粒子として存在している。金属組織中に適量のγ相及び/又はκ相が存在している場合、鉛は0.005重量%にて被削性を改善し始め、それは固溶限界の上限より僅かに高いだけである。結果として、例えば飲用水中に合金から溶出するほどの鉛量は存在しない。さらに、鉛量が0.005重量%以上に増加すると、(a)マトリックス内に均一に析出し分散する鉛粒子、及び(b)異なるメカニズムにより被削性を改善する硬質のγ相及びκ相、の予期せぬ相乗効果により、当該合金の被削性は著しく向上する。しかし、合金の鉛量が0.02%を超えると、鋳物製品、特に大型の鋳物製品に含まれる鉛が環境(飲用水)へと溶出し始め、それにより人体に害を及ぼす結果となる可能性がある。従って、本発明合金の鉛含有量
は、0.005重量%〜0.02重量%と設定されている。
【0052】
リンは、金属組織のα相マトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相を均一に分散し、分配する働きを有する。従って、本発明に基づき、ある特定の実施例におけるリンの添加は、発明合金の被削性をさらに改善し安定化させる。またリンは、特に脱亜鉛腐食に対する耐食性、及び流動性を改善する。これらの効果を得るためには、0.01重量%以上のリンを発明合金に添加する必要がある。しかし、リンが0.2重量%を超えて添加されると、それ以上のプラス効果が得られないだけでなく、延性が添加する。リン添加によるこれらの効果を考慮し、本発明に従って、リンは0.02重量%〜0.12重量% の範囲で添加することが望ましい。
【0053】
先に述べたとおり、スズはγ相の形成を促すと同時に、α相マトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相をさらに均一に分散させ、分配させる働きを有する。従って、スズは銅亜鉛シリコン系合金の被削性をさらに改善する。スズはまた、特にエロージョン・コロージョンや脱亜鉛腐食に対する耐性を向上させる。このような腐食に対するプラス効果を得るためには、0.1重量%以上のスズを添加する必要がある。一方、スズの添加が1.2重量%を超えると、過剰なγ相の形成とβ相の出現により、余剰なスズが延性と衝撃値を低下させ、鋳造時の割れが起こりやすくなる。従って、延性と衝撃値の低下を回避しながら、スズ添加によるプラス効果を確実にするために、スズは0.2重量%〜0.8重量%の範囲で添加することが望ましい。
【0054】
アンチモンとヒ素は、本発明に基づき、合金の耐脱亜鉛腐食性を改善するために添加される元素である。このためには、0.02重量%以上のアンチモン及び/又はヒ素を発明合金に添加する必要がある。これらの元素の添加量が0.2重量%を超えると、さらなるプラス効果が得られない上に、延性が低下する。これらの添加元素による効果を考慮に入れ、本発明に従って、アンチモン及び/又はヒ素は0.03重量%〜0.1重量%の範囲で添加することが望ましい。
【0055】
アルミニウムはγ相の形成を促すと同時に、α相マトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相をさらに均一に分散させ、分配させる働きを有する。従って、アルミニウムは銅亜鉛シリコン系合金の被削性をさらに改善する。また、アルミニウムは機械的強度、耐磨耗性、耐高温酸化性、耐エロージョン・コロージョン性を改善する。これらのプラス効果を得るためには、0.1重量%以上のアルミニウムを添加する必要がある。しかし、アルミニウムの添加量が2%を超えると、過剰なγ相の形成とβ相の出現により、余剰なアルミニウムが延性を低下させ、鋳造割れが起こりやすくなる。従って、本発明に従い、アルミニウムは0.1重量%〜2.0重量%の範囲で添加することが望ましい。
【0056】
鉛と同様に、添加されたビスマス、テルル、セレンはα相マトリックス内に分散し、γ相、κ相、及びμ相といった硬質の相との相乗効果により、著しく被削性を向上させる。0.01重量%以上のビスマス、0.03重量%以上のテルル、及び0.03重量%以上のセレンの添加により、このような相乗効果が得られる。しかし、これらの元素は環境にとって安全なものであるかどうか確認されておらず、また、量的にも乏しい。従って、本発明に従って、これら各添加元素の上限は0.2重量%と設定されている。本発明に従い、より望ましい範囲は、ビスマス0.01重量%〜0.05重量%、テルル0.03重量%〜0.10重量%、セレン0.03重量%〜0.1重量%である。
【0057】
マンガンとニッケルは、シリコンと結合して金属間化合物を形成することにより、本発明による銅亜鉛シリコン系合金の耐磨耗性と強度を向上させる。これらの効果が発揮されるのに必要な添加量は、マンガン0.3重量%以上、ニッケル0.2重量%以上である。マンガンとニッケルの添加量がそれぞれ4重量%、3重量%を超えると、耐磨耗性にさら
なる改善は見られず、代わって延性と流動性が低下する。したがって、これ以上高い含有量では耐磨耗性がさらに向上することはなく、逆に被削性と流動性にマイナスの影響が出るため、マンガンとニッケルの合計添加量は0.3重量%以上、4.0重量%を超えないとするべきである。必然的に、マンガン及び/又はニッケルが本発明合金に添加される場合、この2つの元素はシリコンと結び付いて金属間化合物を形成するため、シリコンの消費量が加速し、従って被削性を改善するγ及び/又はκ相の形成に使用されるシリコン量が少なくなる。
【0058】
従って、本発明にもとづき、マンガン及び/又はニッケルを含有する銅亜鉛シリコン系合金で、工業的に満足し得る被削性を得るためには、
2+0.6(U+V)≦Y≦4+0.6(U+V)
の関係を満たす必要がある。ここで、Yはシリコンの重量%、Uはマンガンの重量%、Vはニッケルの重量%を表している。
【0059】
この方法により、金属間化合物の形成、ならびにγ相、κ相、及び/又はμ相の形成の両方に十分な量のシリコンが存在する。
【0060】
鉄は、本発明による銅亜鉛シリコン系合金に含まれるシリコンと結び付いて金属間化合物を形成する。しかし、このように鉄を含んだ金属間化合物は、発明合金の被削性を低下させ、従来、機械加工ではなく鋳造で生産されているフォーセットやバルブ等の生産時に施されるバフ研磨やメッキ加工にマイナス効果を与える。鉄の含有量0.3重量%でもこのようなマイナス効果は確認されるが、0.5重量%を超えると明瞭に観察される。鉄は銅亜鉛シリコン系合金における不可避不純物である一方で、本発明に基づき、その含有量は0.5重量%を超えるべきでなく、0.25重量%以下であることが望ましい。
【0061】
第1発明合金、ならびに第4発明合金、及び第7発明合金から第11発明合金に従って製造された合金が表1に記載されている。また、本発明の範囲に含まれない比較合金もいくつか表1に記載されている。第2発明合金及び第3発明合金、ならびに第5発明合金から第11発明合金に従って製造された合金が表2に記載されている。また、本発明の範囲に含まれない比較合金もいくつか表2に記載されている。本発明合金と、本発明合金の範囲に含まれない類似した合金との特性を比較するために実施された種々の試験に関する本明細書に従い、表1及び表2に編集されている結果が説明されている。
【実施例】
【0062】
本発明合金と比較合金の実施例として、表1及び表2に記載の組成を有する、外径100mm長さ150mmの円筒状のインゴットを、750℃で熱間押出しし、外径20mmの丸棒試験材を製作した。一部の試料については押出し温度650℃と800℃でもサンプルを得た。押出した各インゴットについて、元素と相の構成を、本発明において適用されている計算式で表したものと合わせて記載した。また、その試験結果は下記の通り提供されている。これらの表のデータから見て取れるように、所定の元素構成を持つ合金にとって、押出し温度が相構成と機械的特性に著しい影響を与えており、これについては後程解説する。さらに、円筒状インゴットと同じ組成を有する溶湯を直径30mm、深さ200mmの金型に鋳込み、試料を作成した。この鋳造試料は、押出し試料と同じサイズになるよう旋盤で切削し、外径20mmの丸棒とした。表1及び表2に編集されている通り、熱間押出しの代わりに、鋳造された合金が、製造条件がいかに合金の金属組織や他の特性に影響を与えているかを示している。これについては後程解説する。
【0063】
(切削試験)
さまざまな合金の被削性を調査するため、ある合金が工業的に満足し得る被削性を有するかどうかを判断するため、旋盤による切削試験、及びドリルによる切削試験を実施した
。この判断を行うに当たり、工業上、一般に利用されている切削条件のもとで被削性を評価する必要がある。例えば、旋盤切削、/又はドリル切削が行われる場合、銅合金にとって業界で一般的な切削速度は60m/minから200m/minである。従って、表に記載されている実施例において、旋盤切削は60m/min、120m/min、及び200m/minの速度で行われた。ドリル切削は80m/minの速度で行われた。試験においては、切削抵抗及び切屑の状態にもとづき評価を行った。切削用潤滑油は環境に対してマイナスの影響を与える可能性があるため、使用済み潤滑油を廃棄する必要のないよう、潤滑油無しで切削を行うことが望ましい。従って、本発明に基づき、切削加工を容易にするという点から見れば好ましくない条件ではあるが、乾式下で切削試験を行った。
【0064】
旋盤切削試験は次の方法で行われた。すなわち、上述の方法で得られた直径20mmの押出し試料/又は鋳造試料を乾式下にて、ポイントノーズ・ストレート工具、特にチップブレーカーの付いていないタングステン・カーバイド工具の付いた旋盤を用い、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60メートル/分(60m/min), 120メートル/分(m/min), 200メートル/分(m/min)、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削した。工具に取り付けられた3部分から成る動力計から発せられるシグナルが、電圧信号(electric voltage signals)に変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗に変換された。従って、当該合金の被削性は切削抵抗、特に切削の際に最も高い値を示す主分力を測定することにより評価された。さらに、旋盤切削された材料の被削性評価の一部として、旋盤切削中に生じた切屑を観察し、分類した。切削抵抗は、完全を期すためには3部分からなる力、つまり主分力、送り分力、背分力、によって判断されるべきであるが、主分力(N)のみにもとづいて切削抵抗を評価することを決定した。旋盤切削試験の結果は表1及び表2にまとめられている。これら表1及び表2のデータから、本発明による合金は、過剰な主分力を必要としないことが見て取れる。
【0065】
ドリル切削試験は、次の方法で行われた。すなわち、上述の方法で得られた直径20mmの押出し試料及び鋳造試料を乾式下において、直径10mm長さ95mmのスチールグレード M7のドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、送り速度0.20mm/revにてドリル切削した。ドリル切削された材料の被削性評価の一部として、ドリル切削中に生じた切屑を観察し、分類した。
【0066】
切削の際に生じた切屑は、図1Aから図1G、及び以下に記述されている幾何形状にもとづき、(A)から(G)の7つのカテゴリーに分類された。図1Aは微細に分断され、針状の形をした「針状型切屑」を図解したものであり、表中では●で表されている。針状型切屑は、工業的に満足し得る被削性を有する合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。図1Bはアーチ型/又は1巻き以下の円弧状のアーチ型をした「アーチ状型切屑」を図解したものであり、表中では◎で表されている。アーチ状型切屑は、最も望ましい被削性を有する合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。図1Cは、長さ25mm以下で長方形をした「短い長方形状切屑」を図解したものであり、表中では○で表されている。短い長方形状切屑は、針状型切屑を生じる合金より優れた被削性を有するが、アーチ状型切屑を生じる合金ほど良くはない合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。短い長方形状切屑は、「板状型切屑」とも表現される。図1Dは、長さ25mm以上75mm以下で長方形をした「中程度の長さの長方形状切屑」を図解したものであり、表中では▲で表されている。図1Eは長さ75mm以上の「長い切屑」を図解したものであり、表中では×で表されている。図1Fは、1巻き以上3巻き以下の螺旋状切屑である「短い螺旋形状切屑」を図解しており、表中では△にて示されている。「短い螺旋形状切屑」もまた、工業的に満足し得る被削性を有している合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。最後に、図1Gは、3巻き以上の螺旋状切屑である「長い螺旋形状切屑」を図解しており、表中では××にて示されている。切削試験中に生じた切屑の結果は、表1及び表2に報告されている。
【0067】
切削中に生ずる切屑が、合金材のクオリティに関する兆候を提供している。長い切屑(×)、及び長い螺旋形状切屑(××)を生ずる合金材は、工業的に満足し得る切屑を生じない。一方、アーチ型(◎)の切屑を生ずる合金材は、最も望ましい切屑を生じ、短い長方形状の切屑(○)を生ずる切屑は、2番目に望ましい切屑を生じる。針状の切屑(●)を生ずる素材は3番目に望ましい切屑を生じ、短い螺旋状の切屑(△)を生じる素材は、工業的に望ましい切屑を生じる。この点につき、図1Gに示されたような3巻き以上の螺旋を有する形状の切屑は、回収やリサイクルといった処理が難しく、また例えば、切削工具に絡みつく、切断面にキズを付ける等によって、切削加工中のトラブルを引き起こす可能性がある。図1Fに示されたような半巻きから2巻き/又は3巻きまでの螺旋を有する形状の切屑は、3巻き以上の螺旋を有する切屑ほどの深刻なトラブルは生じないが、それでもこのような短い螺旋形状の切屑は取り除くことが難しく、また、切削工具に絡みついたり切断面にキズを付けたりする可能性がある。
【0068】
対照的に、図1Aに見られるような細かい針状の切屑や図1Bに見られるようなアーチ型の切屑は、上述のような問題を生じない上に、図1F及び図1Gの切屑のように嵩張りもせず、回収やリサイクルにとっても処理が簡単である。しかしながら、図1Aのような細かい針状の切屑は、旋盤などの工作機械のスライドテーブル上に入り込んで機械に不具合を生じさせ、作業者の指、目、その他の身体の部分に突き刺さることによって危険をもたらす可能性もある。これらの要因を考慮すると、被削性及び工業生産全般を評価する際、図1Bに記されているような切屑を生じる本発明合金は、工業的ニーズを最も満たすものであり、図1Cのような切屑が2番目に工業的ニーズを満たすものであり、図1Aに見られる切屑がその次に工業的ニーズを満たすものである。上述の通り、図1E及び図1Gに示されている切屑を生ずる合金は、回収やリサイクルが困難であり、またこれらの切屑は切削工具や切削中の部品をキズつける可能性があり、工業的観点から見ると望ましくない。表1及び表2において、図1A, 図1B, 図1C, 図1D, 図1E, 図1F及び図1Gで示されている切屑がさまざまな合金によって製造され、それぞれ●、◎、○、▲、×、△、××で表されている。本発明合金が、概して最も望ましい形状の切屑を生ずることが見て取れる。
【0069】
望まれる工業的被削性に関して切屑の定性的分類(上から順に)をまとめると、アーチ型切屑(◎)、短い長方形状の切屑(○)及び細かい針状の切屑(●)は、優れた被削性(つまりアーチ型切屑)から良好な被削性(つまり短い長方形状の切屑)、満足し得る被削性(つまり細かい針状の切屑)を有するとして評価される。一方、工業的に許容できるとはいえ、中程度の長さの長方形状切屑(▲)及び短い螺旋状の切屑(△)は、切削中に工具に絡みつく可能性がある。従って、これらの切屑は、満足し得る被削性や優れた被削性を有するとして評価された合金によって生成される切屑ほどには望ましくない。
【0070】
今日の産業において、製造にはオートメーションが伴い(特に夜間操業中)、従って一人の作業者がいくつかの切削機械によるオペレーションを同時に監視するのが一般的である。切削中に、生成された切屑の嵩が大きくなりすぎて一人の作業者では処理できなくなると、切削工具に切屑が絡みつく、さらには切削機械の停止といった、切削作業上の問題が生じる可能性がある。実際問題として、長い切屑(×)や長い螺旋形状切屑(××)は大型の切屑であり、アーチ型切屑、短い長方形状の切屑及び針状の切屑よりも大幅に大きな体積を有する。結果として、切削中に、長い切屑や長い螺旋形状の切屑の体積は、より小さな切屑(アーチ型切屑、短い長方形状切屑及び細かい針状の切屑)の体積の100倍もの速さで蓄積する。従って、夜間の切削オペレーションは実用的でなく、あるいはボリ
ュームの大きな長い切屑や長い螺旋形状切屑を生じる合金を切削する際には、切削機械を監視する人員がより多く必要となる。それに比較して、中程度の長さの長方形状切屑(▲)や短い螺旋形状の切屑(△)は、長い切屑や長い螺旋形状切屑よりも遥かに体積が小さく、アーチ型切屑、短い長方形状切屑及び細かい針状切屑とくらべて僅かに数倍の体積である。
【0071】
判明したとおり、切削中に中程度の長さの長方形状切屑や短い螺旋形状の切屑を生成する合金は、切屑のボリュームが長い切屑や長い螺旋形状の切屑の場合に起こるような、許容できないほどの速い速度で蓄積されるのではないため、なお「工業的に許容できる」ものである。一方、中程度の長さの長方形状切屑や短い螺旋形状の切屑は切削工具に絡まる可能性があるため、これらの切屑を生じる合金は切削中に注意深く監視される必要がある。従って、これらの合金の被削性は、アーチ型切屑、短い長方形状切屑/又は細かな針状切屑といった、コンパクトでボリュームが小さく、切削工具に絡みつく傾向のない切屑を生成する合金に比べ望ましくない。中程度の長さの長方形状切屑や短い螺旋形状切屑に関して、切削中に中程度の長さの長方形状切屑を生じる合金は、短い螺旋形状の切屑を生じる合金よりも、僅かに良好な被削性を有すると考えられる。なぜなら、どちらのタイプの切屑も切削工具に絡まる可能性はあるものの、中程度の長さの長方形状切屑は、切削工具に絡まった時点で取り除くのがより簡単であるからである。さらに、中程度の長さの長方形状切屑は短い螺旋形状切屑よりも体積が小さいため、切削中に短い螺旋形状の切屑よりも遅い速度で蓄積されると思われる。
【0072】
(脱亜鉛腐食試験)
さらに、耐食性を調べるため、ISO6509に定められた試験方法に従い、さまざまな合金の耐脱亜鉛腐食性試験を行った。ISO6509による脱亜鉛腐食試験では、各押出し試験片から得た試料を、その曝露面が当該押出し材の押出し方向に対して直角となるようにしてフェノール樹脂材に埋めこみ、試料の表面を1200番のエメリー紙にて研磨した後、純水中で超音波洗浄して乾燥した。このように準備された試料を1.0%の塩化第2銅2水和塩CuCl2・2H2Oの水溶液12.7g/L中に浸漬し、75℃で24時間保持した後、水溶液中から取出し、その脱亜鉛腐食の最大深さを次のように測定した。試料は暴露表面が押出し方向に対して直角を保つように、フェノール樹脂材に再び埋め込まれ、次に最も長い切断部が得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨し、100倍から500倍の金属顕微鏡を用い、顕微鏡の視野10ヶ所にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。最大脱亜鉛腐食深さの測定値は表1及び表2に記載されている。
【0073】
表1及び表2の耐脱亜鉛腐食試験の結果から明らかなように、第1発明合金から第3発明合金は優れた耐食性を示している。また、表1及び表2に見られるように、第4発明合金から第11発明合金までは特に高い耐食性を有することが確認された。
(エロージョンコロージョン試験)
押出し試験材から切り出された試料は、発明合金の耐エロージョンコロージョン性評価にも使用された。塩水への96時間暴露の前に、各試料の重量が電子スケールを用いて計測された。0.01%の塩化第2銅二水和塩CuCl2・2H2Oを加えた30℃の3%食塩水を、口径2mmのスプレーノズルを用い流速11m/sにて96時間、連続的に試料に向けて噴射した。ブライン溶液への暴露96時間後に、次のように重量ロスを評価した。各試料をブロワー乾燥し、電子スケールで再度重さを量った。塩水への暴露前・暴露後の試料の重量差は、合金のブライン溶液によるエロージョンコロージョンの程度を反映するものであり、これを重量ロスとして記録した。
【0074】
ある種の製品にとっては、良好な耐エロージョンコロージョン性を有する合金を用いて
製造されることが重要である。例えば、水道水供給用の蛇口やバルブは、逆流や、これらを通じて流れる流量の、その開閉によって生じる水流速度の突然の変化にさらされるため、通常の耐食性だけでなく、エロージョンコロージョンに対する耐性も必要である。例えば表2に記載の比較合金No.28(C83600)は、5重量%のスズと5重量%の鉛を含有し、急速な流れにおいても優れた耐エロージョンコロージョン性を実証している。表2で示されるように、比較合金No.28(以降CA No.28)はエロージョンコロージョンによる重量ロスが最も低い。CA No.28の耐エロージョンコロージョン性は、急な流れのもとでの腐食から当該合金を保護する、スズの豊富な皮膜の形成によるものである。残念ながら、CA No.28は鉛の含有量が許容できないほど高く、飲料水提供用システムで使用されるには適さない。
【0075】
それと比較して、表1の第1発明合金No.2によって実証されるように、第1発明合金もまた良好な耐エロージョンコロージョン性を有している。しかしながら、第2発明合金No.11で示されるように、0.3重量%のスズの添加により、耐エロージョンコロージョン性が向上する。事実、同じくスズの豊富な、スズ−シリコンベースの皮膜の形成が適用される一方で、第1発明合金への0.3重量%のスズの添加により、向上した耐エロージョンコロージョン性を有する第2発明合金が提供されているが、しかしこれはCA No.28で用いられたスズの何分の1かの量である。言い換えれば、例えば、本発明合金は僅かに0.3重量%程度のスズを含むが、遥かに高い割合のスズ(5重量%)を含む、CA No.28と同程度の耐エロージョンコロージョン性に到達している。
【0076】
(鉛浸出試験)
鉛の浸出性を評価するため、「給水装置−浸出性試験」方法に従い、JIS S3200〜7:2004に準じて試験を行った。JIS S3200〜7:2004に従って、(a)有効塩素濃度0.3mg/mlの次亜塩素酸ナトリウム溶液1ml (b)0.04mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液22.5ml、及び(c)0.04mol/Lの塩化カルシウム11.3ml、以上(a)から(c)を水に加えることによって、試験溶液の総量が1リットルとなるようにし、試験に使用される溶出用溶液が準備された。次にこの溶液は、1.0%及び0.1%の塩酸、あるいは0.1mol/L/又は0.01mol/Lの水酸化ナトリウムを加えることによって調整され、試験に使用される溶液が以下のパラメータを満たすようにした:pH7.0±0.1、硬度45mg/L±5mg/L、アルカリ性35mg/L±5mg/L、残留塩素0.3mg/L±0.1mg/L。鋳造によって得られた試験用インゴットにドリルで穴を開け、内径25mm、深さ180mmのカップ型の試料が得られた。このカップ型試料を洗浄し、状態を整えた後、23℃の浸出試験溶液で満たした。次に試料を密封し、23℃で保持された場所に保管した。16時間経過後、試験溶液を回収し、鉛の浸出を分析するため測定した。試料の大きさ、表面積、形状による、鉛浸出の分析結果への補正は行われなかった。
【0077】
(合金組成の制限式)
本発明による銅合金のもう一つの特徴は、各合金の組成が、
(1) 61−50Pb≦X−4Y+aoZo≦66+50Pb
の関係式によって制限されていることである。ここで、Pbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、aoZoは銅、シリコン、亜鉛以外の元素の関係への寄与度を表している。
【0078】
つまり、合金組成の制限式(1)で表される関係は、上述の利点を有する合金を作成するのに必要なものである。式(1)が満たされない場合、その合金は表1及び表2で示されているような被削性レベルやその他の特性を有しない結果となることが、実験によって判明している。しかし、式(1)で与えられた銅、亜鉛、シリコンの含有量範囲を単に制限するだけでは、合金組織内に形成されたκ相、γ相、μ相の量を決定することは出来な
い。既に議論した通り、相の構成とκ相、γ相及びμ相の量は被削性の改善に働く。さらに、式(1)で与えられた元素の関係だけでは、被削性を低下させるβ相の量を決定することが出来ない。従って、式(1)は、各構成相が適正な量で得られるような合金組成(つまり、被削性を改善するためにγ相、κ相及びμ相の組合せを最適化し、被削性を低下させるβ相の形成を最小限に抑えること)を決定するための、実験による指標を提供するものである。
【0079】
銅、シリコン、亜鉛以外の元素による、制限式(1)の関係への寄与度を、次の式(2)に記載する。
【0080】
(2)aoZo=a1Z1+a2Z2+a3Z3+…
ここでa1,a2,a3等は実験によって決定された係数であり、Z1,Z2,Z3等は銅、シリコン、亜鉛以外の構成元素の重量%である。つまり、式(1)に関して、Zは選択された元素の量であり、aはその選択された元素の係数である。
【0081】
具体的に、本発明の銅合金を実施するために係数aは次のように決定された:鉛・ビスマス・テルル・セレン・アンチモン・ヒ素の場合、係数aは0;アルミニウムの場合、係数aは−2;リンの場合、係数aは−3;マンガン及びニッケルの場合、係数aは+2.5。式(1)が直接的に本発明合金の鉛・ビスマス・テルル・セレン・アンチモン・ヒ素の量を制限するものではないことは、これらの元素に対する係数aが0であるため、当業者によって認識されるであろう。しかしながら、銅、シリコン、及び係数が0以外の元素の重量%が、制限式(1)を満たす必要があるという事実によって、これらの元素は間接的に制限されるのである。
【0082】
また鉛は、たとえ微量であっても、被削性を改善する要素として本発明合金において重量な役割を果たしている。従って、式(1)を導くに当たり、鉛の効果が考慮された。X−4Y+aZの値が61−50Pbより小さい場合、鉛による効果があるとしても、全体として工業的に満足し得る被削性を得るために必要な相構成は得られない。その一方で、X−4Y+aZの値が66+50Pbより大きい場合、鉛による被削性改善効果にもかかわらず、γ相、κ相及び/又はμ相が過剰に形成されるため、工業的に満足し得る被削性を得ることが出来なくなる。62−50Pb≦X−4Y+aZ≦65+50Pbが満たされることがさらに望ましい。
【0083】
第1発明合金及び第4発明合金をさらに詳しく見ると、制限式(1)は次のように書くことが出来る。
【0084】
(3)61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb
ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である。第1発明合金及び第4発明合金の快削銅合金は、工業的に満足し得る被削性とともに、高い強度を有している。従って、これらの合金は高い実用的価値を有し、従来の快削銅合金から現在製造されている切削加工品、鍛造品、鋳造品に利用することが可能である。例えば、第1及び第4発明合金は、ボルト、ナット、ネジ、スピンドル、ステム、バルブシートリング、バルブ、給水・排水用金具、ギア、一般的機械部品、フランジ、測量器用部品、建築用部品、クランプに適している。
【0085】
第2発明合金及び第5発明合金について、制限式(1)は次のように書くことが出来る。
【0086】
(4)61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb
ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチ
モン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された一つ/又はそれ以上の元素の重量%であり、aはリンの場合−3、アンチモン及びヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2である。第2及び第5発明合金の快削銅合金は、工業的に満足し得る被削性とともに高い耐食性を有している。従って、これらの合金は高い実用的価値を有し、高い耐食性が必要とされる切削加工品、鍛造品、鋳造品に利用することが可能である。例えば、第2及び第5発明合金は、水道栓、温水供給用パイプ金具、シャフト、連結用金具、熱効果器用部品、スプリンクラー、水道栓(ターンコック)、バルブシート、水道メーター、センサー用部品、圧力バルブ、工業用バルブ、ボックスナット、パイプ金具、海洋構造物、ジョイント、止水栓、バルブ、チューブコネクタ、ケーブルコネクタ、接続金具に適している。
【0087】
第3発明合金及び第6発明合金について、制限式(1)は次のように書くことが出来る。
【0088】
(5)61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb
ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Z1はリン、アンチモン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された一つ/又はそれ以上の元素の重量%であり、a1はリンの場合−3、アンチモン及びヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2であり、Z2はマンガン及びニッケルから選択された一つ/又はそれ以上の元素の重量%であり、a2はマンガン及びニッケルの場合2.5である。第3及び第6発明合金の快削銅合金は工業的に満足し得る被削性とともに、高い耐磨耗性と強度を有している。従って、これらの合金は高い実用的価値を有し、高い耐磨耗性及び強度が必要とされる切削加工品、鍛造品、鋳造品に利用することが可能である。例えば、第3及び第6発明合金は、ベアリング、ブッシュ、ギア、ミシン用部品、油圧装置用部品、灯油ヒーター・ガスヒーター用ノズル、リム、スリーブ、釣具用リール、航空機用金具、摺動部材、シリンダー部品、バルブシート,シンクロナイザーリング、高圧力バルブに適している。
【0089】
マンガン及び/又はニッケルがシリコンと結び付いて金属間化合物を形成するような発明合金では、その合金組成は次の式(6)に示されている関係によって、さらに制限される。
【0090】
(6)2+0.6(U+V)≦Y≦4+0.6(U+V)
ここでYはシリコンの重量%、Uはマンガンの重量%、及びVはニッケルの重量%である。
【0091】
まとめると、本発明の第1発明合金から第13発明合金はすべて、式1による合金組成の制限を満足せねばならず、表1及び表2に記載の本発明による実施例はすべて、この制限を満たしている。一方、第3発明合金及び第6発明合金は、式8による合金組成の2次的制限によってさらに制限されている。本発明の銅合金と同じ元素を含有するが、式1及び適切な場合は式8による要求を満たす組成を有しない銅合金は、下記に説明されているように、表1及び表2に記載の本発明による銅合金の特性を有していない。
【0092】
図3A、図3B、図4A及び図4Bは、銅シリコン亜鉛合金の被削性に対する、組成限定式5の一般的効果を図解したものである。図3A及び図3Bは、限定式X−4Y+aZ+50Pb(%)が下限の61に近づくにつれて、あるいは限定式X−4Y+aZ−50Pb(%)が上限の66に近づくにつれて、合金の切削に必要な切削抵抗がどのように上昇するかを実証している。同時に、限定式の下限及び上限を超えると、切削速度120m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑及び短い長方形状切屑(それぞれ◎及び○)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑(▲)へと、その特徴が変化
する。同様に、図4A及び図4Bは、限定式X−4Y+aZ+50Pb(%)が下限の61に近づくにつれて、あるいは限定式X−4Y+aZ−50Pb(%)が上限の66に近づくにつれて、合金の切削に必要な切削抵抗がどのように上昇するかを実証している。しかしながら、この切削抵抗の上昇は、より高速の200m/minでより劇的である。同時に、限定式の下限及び上限を超えると、切削速度200m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑及び短い長方形状切屑(それぞれ◎及び○)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑及び長い切屑(それぞれ▲及び×)へと、その特徴が変化する。従って、切削速度の増加もまた、切削中に生じる切屑の特性に影響を及ぼす。
【0093】
(金属構成)
本発明による銅合金の別の重要な特性として、金属のマトリックスであり、複数相の統合によって形成され、当該銅合金の構成相を生み出す金属の構成が挙げられる。具体的には、当業者であれば認識するように、ある合金はそれが製造されたときの環境によって異なる特性を持つことがある。例えば、スチールを焼戻す際に熱を利用することは良く知られている。ある合金が、鍛造時の条件によって異なる反応をするという事実は、その金属の構成素が統合し、/又は変換して別の相状態となることに因る。表1及び表2に示されているように、本発明による銅合金はすべてα相を含んでおり、本発明を実施するためには総相面積のおよそ30%かそれ以上となる。これは、α相が唯一、合金にある程度の冷間加工性を与えるためである。金属構成における相の関係を示すために、本発明合金に従い、186倍及び364倍で拡大した顕微鏡写真が図2に示されている。ここに写されている合金は第1発明合金であり、表1のNo.2合金に当たる。顕微鏡写真から分かるように、金属構成にはα相のマトリックスと、その中で分散されているγ相及び/又はκ相のどちらか、/又は両方が含まれている。これらの写真には見られないが、この金属構成にはμ相のような別の相が含まれる可能性もある。当業者であれば理解するであろうが、α相が金属の総相面積の30%以下であるとき、そのような銅合金は冷間加工性に欠き、いかなる実践的方法によっても、それ以上切削による加工は不可能である。従って、本発明合金はすべて、α相マトリックスに他の相が供された相構成である金属構成を有している。
【0094】
上述のように、本発明銅合金におけるシリコンの存在により被削性が改善されるが、これは一つにはシリコンがγ相を生じさせるためである。銅合金のγ相、κ相及びμ相のいずれかにおけるシリコン濃度は、α相におけるシリコン濃度の1.5倍から3.5倍の高さとなっている。さまざまな相におけるシリコン濃度は高い方から順にμ≧γ≧κ≧β≧αである。γ相、κ相及びμ相には、α相よりも硬くて脆いという共通する特徴もあり、当該合金が被削性を有するように、また図1に関して記述されていたとおり、切削によって生成される切屑が切削工具を傷めることのないように、当該合金に適度な硬さを与えている。従って、本発明を実施するには、当該合金に適度な硬さを与えるため、γ相、κ相及びμ相のうち少なくとも一つ、/又はこれら3つの相による任意の組合せを、α相の中に有する必要がある。
【0095】
β相は一般的に、従来の銅亜鉛合金の被削性を改善し、C36000やC37700といった従来合金に5%から20%の割合で含まれている。β相を含まないC2700(銅65%及び亜鉛35%)と、β相の割合が10%であるC28000(銅60%及び亜鉛40%)を比較すると、C28000はC2700よりも優れた被削性を有している(”Metals Handbook 第2巻、第10版、ASM ページ217,218を参照のこと)。一方、本発明合金における実験から、β相は被削性に寄与せず、むしろ予測に反して被削性を低下させることが判明している。β相は、被削性改善におけるγ相及びκ相の効果を約1:1の割合で相殺することが判明した。従って、被削性を低下させるため、本発明合金にとって金属構成中にβ相が存在することは望ましくない。また、β相は当該合金の耐食性を低下させるため、さらに望ましくない相となっている。
【0096】
従って、本発明合金の更なる目標は、金属構成中のα相マトリックスにおけるβ相の量を制限することである。β相は、当該合金の被削性にも冷間加工性にも寄与しないため、総相面積の5%かそれ以下に制限することが望まれる。本発明の金属構成においては、β相がゼロであることが好ましいが、相全体の5%以下であれば許容範囲である。
【0097】
被削性の改善において、μ相の効果は小さく、κ相及びγ相による効果の30%程度である。従って、μ相は20%以下、より好ましくは10%以下とすることが望ましい。
【0098】
図7はアーチ型切屑(◎)、短い長方形状の切屑(○)、及び短い螺旋形状切屑(△)の生成を示しており、被削性は鉛量の増加とともに向上することが示されている。本発明では、均一に分散している軟らかい鉛の粒子と、κ相、γ相及びμ相といった硬い相との相乗効果によって、鉛量が増加するにつれて被削性が急速に向上することが示されている。上述の相制限が満たされている場合、図7に示されているように、工業的に満足し得る被削性を得るために必要な鉛量は僅かに0.005%である。しかしながら図7に示されている効果は、金属構成との相乗効果によって生じるものであり、下記式7で示されている関係に従って制限されるときに、76(Cu)−3.1(Si)−Pb(%)合金に工業的に満足し得る被削性を提供する。図7は、鉛量が0.005重量%を下回る場合、一般的に必要とされる切削抵抗は、特にv=120m/min及びv=200m/minといった切削速度がより高い場合に、大幅に増加する。さらに、切屑の特性も変わりやすい。
【0099】
表1及び表2に示されているように、本発明の第11発明合金による合金は、さらに次の金属構成に限定される。
【0100】
(1)およそ30%かそれ以上のα相マトリックス、
(2)5%かそれ以下のβ相、
(3)20%かそれ以下のμ相、及び結果的に
(4)式(7)に示されている関係。
【0101】
(7)18−500Pb≦k+g+0.3m−b≦56+500Pb(0.005%≦Pb≦0.02%)
式(7)において、Pbは鉛の重量%であり、κ、γ、β及びμはそれぞれ金属構成の総相面積におけるκ相、γ相、β相、及びμ相の割合を表している。式(7)は、鉛の重量%が0.005%≦Pb≦0.02%の場合にのみ適用される。この限定のもと、本発明合金に従い、γ相及びκ相は被削性改善への寄与に最も重要な役割を果たしている。しかしながら、単にγ相及び/又はκ相が存在するだけでは、工業的に満足し得る被削性を得るには不充分である。工業的に満足し得る被削性を得るためには、組織におけるγ相及びκ相の全体の割合を決定する必要がある。さらに、金属構成における他の相の影響、例えばμ相やβ相なども考慮に入れる必要がある。本発明の発明者らは実験から、μ相も被削性の向上に効果があるものの、その効果はκ相やγ相に比べると小さいことを発見した。さらに詳しく述べると、μ相による被削性改善の寄与度は、γ相やκ相によってもたらされる寄与度の約30%に過ぎないことが分かった。被削性に関するβ相の存在に関し、β相のマイナス効果により、γ相及び/又はκ相によるプラス効果が1:1の割合で相殺されることを、発明者らは実験により発見した。つまり、一定レベルの被削性の改善を得るために必要なγ相及びκ相を合わせた量は、このような被削性の改善を打ち消すのに必要なβ相の量と同量である。
【0102】
しかし、γ相及びκ相とは異なるメカニズムにより被削性を改善する鉛は、ごく僅かの添加であっても、本発明合金の被削性改善に寄与するものと考えるべきである。被削性に対する効果の要因として鉛を考えると、κ+γ+0.3μ−βによって算出される相の組
合せの許容範囲を広げることができる。被削性の改善効果において、0.01重量%の鉛添加が5%のγ相/又はκ相に匹敵することを、本発明の発明者らは実験から見出した。しかしこれは、鉛が0.005%≦Pb≦0.02%の範囲にある場合のみである。従って、κ+γ+0.3μ−βによって算出される相の組合せの許容範囲は、この割合にもとづき拡大される。従って、各相、つまり被削性を改善するγ相及びκ相、κ相やγ相ほどではないが被削性改善に効果のあるμ相、及び被削性を低下させるβ相の各量は、これらの相を加減することによって、限定式(7)の境界内で補正できる。つまり、式(7)は被削性を評価するための重要な指標であると考えるべきである。κ+γ+0.3μ−βの値が18−500Pbより小さい場合、工業的に満足し得る被削性は得られない。また、22−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦50+500Pbの関係が満たされることがさらに望ましい。
【0103】
図5A、図5B、図6A及び図6Bは、銅シリコン亜鉛合金の被削性に対する、相限定式7の一般的効果を図解したものである。図5A及び図5Bは、限定式κ+γ+0.3μ−β+500Pb(%)が下限の18に近づくにつれて、あるいは限定式κ+γ+0.3μ−β−500Pb(%)が上限の56に近づくにつれて、当該合金の切削に必要とされる切削抵抗が、どのように上昇するかを実証している。同時に、制限式の下限及び上限を超えると、切削速度120m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑、短い長方形状切屑、及び短い螺旋型切屑(◎、○及び△)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑(▲)へと、その特徴が変化する。同様に、図6A及び図6Bは、限定式κ+γ+0.3μ−β+500Pb(%)が下限の18に近づくにつれて、あるいは限定式κ+γ+0.3μ−β−500Pb(%)が上限の56に近づくにつれて、合金の切削に必要な切削抵抗がどのように上昇するかを実証している。しかしながら、この切削抵抗の上昇は、より高速の200m/minでより劇的である。同時に、限定式の下限及び上限を超えると、切削速度200m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑及び短い長方形状切屑(◎及び○)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑及び長い切屑(▲及び×)へと、その特徴が変化する。従って、切削速度の増加もまた、切削中に生じる切屑の特性に影響を及ぼす。
【0104】
γ相、κ相及びμ相の合計が、総相面積の70%以上を占めるような金属構成も可能であるが、その結果は被削性に問題はないものの、結果的にα相マトリックスが30%以下ということになり、当該合金の実用的価値を低下させるほどに、冷間加工性に乏しくなる。この最大70%という値には、γ相、κ相、μ相とともに、鉛及びβ相の割合も含まれることがある。もしくはα相が確実に全体の相の少なくとも30%になるようにする。その一方、γ相、κ相及びμ相からなる相の合計が、全体の相の5%未満になる場合、当該合金の被削性は満足できないものとなる。β相は当該合金の被削性にも冷間加工性にも寄与しないため、相全体の5%未満に抑えられている。さらに、α相は軟らかい相であり、従って延性を有するため、極端に少量の鉛を添加した場合でも、当該合金の被削性は大きく改善される。結果として、本発明の金属構成は、γ相、κ相及びμ相がα相内で分散しており、そのようなα相をマトリックスとして利用するものである。
【0105】
(熱処理)
当業者であれば、合金の構成元素の組合せだけでは金属組織を決定づけることはできないということを理解するだろう。それよりも、金属組織は合金が製造される際のさまざまな条件、例えば温度や圧力などにも依存している。例えば、鋳造や押出し、硬ろう付けの後に急冷して得られた金属組織は、ゆっくりとした冷却で得られた金属組織とは大きく異なり、たいていの場合β相を多く含有している。従って、本発明の第8発明合金に従い、β相をγ相及び/又はκ相に変換させるため、あるいは、製造に急冷が必要な場合や、金属組織にγ相及び/又はκ相が存在するものの望ましい分散がなされていない場合に、γ相及び/又はκ相の分散を促進するため、460℃から600℃で20分間から6時間、
熱処理を行う必要がある。上述の熱処理を行うことにより、β相を減らしてγ相及び/又はκ相を分散させることによって、工業的に一層満足し得る被削性を有する合金が得られる。
【0106】
(本発明合金と本発明合金でないものとの比較)
まず、表1にまとめられた結果について記載する。表1記載の合金は、比較合金であるNo.1,No.4,No.5,No.6,No.9,No.13,No.14,No.18,No.19,No.20,No.21,No.22及びNo.23を除き、すべて第1発明合金の範囲に含まれる。合金No.1A,No.1B,No.2,No.3,No.11,No.24,No.25及びNo.26はすべて、第1発明合金の範囲だけでなく、第4発明合金から第11発明合金の、より限定された範囲にも、一つかそれ以上含まれるものである。表1の残りの合金は、相の関係式(7)が満たされない場合や、第4発明合金から第11発明合金の他の制限が満たされていない場合における、さまざまな結果を実証するために提供されている。被削性の結果を解釈する目的で、本発明合金に従い、4種類の切削試験(切削速度60m/min,120m/min,200m/minでの旋盤による切削と、切削速度80m/minでのドリル切削)すべてにおいて、生じる切屑が図1Aのような針状、図1Bのようなアーチ型/又は図1Cのような短い長方形型(長さ25mm未満)のいずれかの場合、優れた被削性が達成される。しかしながら、工業的に満足し得る被削性は、4種類の切削試験(切削速度60m/min,120m/min,200m/minでの旋盤による切削と、切削速度80m/minでのドリル切削)すべてにおいて、生じる切屑が図1Aのような針状、図1Bのようなアーチ型、図1Cのような短い長方形型(長さ25mm未満)/又は図1Fのような1巻きから3巻き以下の短い螺旋状のいずれかの場合に得られる。一方、4種類の切削試験(切削速度60m/min,120m/min,200m/minでの旋盤による切削と、切削速度80m/minでのドリル切削)のいずれにおいても、生ずる切屑が図1Dに見られるような中程度の長さの長方形型(25mm以上75mm未満)、図1Eのような長い切屑(75mm以上)または図1Gのような3巻き以上の螺旋状である場合、被削性は工業的に満足し得るものとならない。
【0107】
例えば、第1発明合金(FIA)No.1AとNo.1Bは同じ合金組成をもち、α相マトリックス、及びγ相とκ相から成り、β相が存在しない金属組織を含んでいる。この2つの合金の違いは、FIA No.1Aは押出し材であり、FIA No.1Bは鋳造であることである。ともに良好な引張り強さを示しており、FIA No.1Aは517N/mm2、FIA No.1Bは416N/mm2である。また、旋盤切削及びドリル切削中に、望ましいアーチ型、あるいは短い長方形状の切屑が生じていることにより、優れた被削性も示されている。さらに、FIA No.1A及びFIA No.1Bの切削に必要な切削抵抗は、約105Nから119Nの妥当な値となっている。一方、比較合金(CA)のNo.1は0.002重量%の鉛を含んでおり、FIA No.1A及びFIA No.1Bとは僅かに組成が異なる。その結果、より速い切削速度(80m/min、120m/min及び200m/min)では、生ずる切屑の形状が短い螺旋形状へと変化する。従って、FIA No.1AからCA No.1へと鉛の含有量を僅かに減らすことにより、当該合金の被削性は、「優れた」被削性から単に「工業的に満足し得る被削性」へと低下する。
【0108】
第1発明合金(FIA) No.2とFIA No.3は押出し及び鋳造で製造されたものである。押出し材において引張り強さが相当高いことを除けば、この2つの形態は似通った特性を表している。切削抵抗が妥当な値である時、工業的な旋盤切削、ドリル切削のどちらにおいても、FIA No.2、FIA No.3は共に、アーチ型あるいは短い長方形状の切屑を生じた。従って、FIA No.2とFIA No.3は優れた被削性を示している。FIA No.1A, FIA No.1B, FIA No.2及び
FIA No.3は良好な耐食性(最大腐食深さ140μm〜160μm)も示している。FIA No.2についてのみエロージョン・コロージョン試験が行なわれ、重量ロス60mgの良好な結果となった。鉛の浸出についても、FIA No.1A,FIA No.2及びFIA No.3について、それぞれの浸出量が0.001mg/Lから0.006mg/Lの範囲と、望ましい低さとなった。FIA No.11は優れた被削性(つまり、アーチ型、針状または板状の切屑を生ずる)を有する、第1発明合金の別例である。
【0109】
比較合金(CA) No.4及びNo.5は、鋳造合金の鉛浸出に対して、鉛添加量の増加が与える影響を示している。CA No.4及びNo.5はそれぞれ0.28重量%及び0.55重量%の鉛を含んでおり、これらの合金の鉛浸出量はそれぞれ0.015mg/L、0.026mg/Lであった。これは第1発明合金に準じて製造された低鉛合金と比べると2.5倍から26倍も高くなっている。一方、750℃で押し出されたCA No.6は、銅亜鉛シリコン系合金において、鉛含有量の減少が被削性に与える影響を示している。鉛量が0.005重量%を下回ると、しばしば切削抵抗の増加が要求され、生じる切屑は長さ25mm〜75mmの長い長方形型、もしくは3巻き以上の螺旋型の望ましくない形状となる。つまり、CA No.6の被削性は工業的に満足し得ないものである。
【0110】
第1発明合金(FIA) No.7は、すべての第1発明合金が工業的に満足し得る被削性を有するわけではないことを示している。上述の通り、被削性は合金の元素量と相構成に依存している。従って、第11発明合金に基づき、工業的に満足し得る被削性を有する合金を選択的に特定するため、更なる限定式18−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦56+500Pbが適用された。表1から明らかなように、FIA No.7は第11発明合金の範囲に含まれていない。
【0111】
第1発明合金(FIA) No.8は、用いられた製造方法が本発明合金の被削性に与える影響を表している。具体的には、FIA No.8は750℃での押出し材、650℃での押出し材、鋳造、及び鋳造後550℃で50分間熱処理したものが提供されている。これら4種類のFIA No.8から分かるように、増加するβ相の存在が被削性に不利な効果をもたらしている。特に、鋳造の試料は最も望ましくない被削性を有しており、β相の割合は4%である。一方、押出し材はβ相の量が最も少なく、優れた被削性を有している。第8発明合金において、FIA No.8の鋳造試料が熱処理(本実施例では550℃で50分間)される場合、β相が変換されγ相+κ相の割合が増加する。このようにγ相+κ相の割合が増加することによって、被削性が改善される(つまり、必要な切削抵抗が低下し、切削で生ずる切屑の形状が、表1で示されているように、中程度の長さの長方形状及び長い長方形状から、アーチ型/又は短い長方形状へと変化する)。従って、FIA No.8の熱処理された鋳造試料は優れた被削性を有する。
【0112】
比較合金(CA) No.9と第1発明合金(FIA) No.10は、α相マトリックス及びγ相、κ相、μ相を有する押出し材における、鉛の影響を表している。特にFIA No.10は、750℃での押出し材、750℃で押出した後490℃で100分間熱処理を行ったもの、650℃での押出し材、及び鋳造の4種類となっている。表1からわかるように、CA No.9とFIA No.10の750℃での押出し材は似通った切削特性を有している。一方、FIA No.10の650℃押出し材と鋳造のどちらも、切削試験の範囲を通じ、アーチ型/又は短い長方形状の切屑を生じ、工業的に満足し得る被削性を有している。また、本発明において、FIA No.10の750℃押出し材に熱処理を施すことにより、第8発明合金は工業的に満足し得る被削性を有する結果となる。
【0113】
比較合金(CA) No.13及びNo.14は、第1発明合金にとって鉛、銅及びシリコンの割合における関係式61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pbの重要性を実証したものである。CA No.13及びCA No.14はこの限定式を満足しておらず、本発明の範囲に含まれる合金ではない。CA No.13及びCA No.14の被削性は工業的に満足し得るものではない。
【0114】
第1発明合金(FIA) No.15は、鋳造される場合に優れた被削性を有し、本発明合金に準ずる合金である。しかしながら本実施例においては、750℃及び650℃で押し出された試料の場合、切削速度が上がるにつれ(つまり80m/min, 120m/min及び200 m/min.)、被削性が大きく異なることが示されている。表1に見られるように、本合金の押出し材は、18−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦56+500Pbの関係を満足しない金属構成を有する。結果的に、FIA No.15の3種の試料はすべて第1発明合金であるのに、鋳造試料のみが工業的に満足し得る被削性を有している。FIA No.15の鋳造試料は第11発明合金でもある。
【0115】
第1発明合金(FIA) No.16及びNo. 17は優れた被削性を有する、第1発明合金の押出し材である。FIA No.17AはFIA No.17と同様の組成を有するが、より低い温度で押し出されたものである。FIA No.17Aの実施例では、μ相の量が過剰であり(μ相20%以上)、工業的に満足し得ない。従って、FIA No.17とFIA No.17Aは、同じ組成を有する合金であっても、大きく異なる金属組織や切削特性を有する結果となる可能性もあることを、再び強調するものである。
【0116】
比較合金(CA) NO.18からNo.23はすべて750℃で押し出された試料であるが、極めて被削性に乏しく、切削には高い切削抵抗(130N〜195N)が必要である。CA No.18は61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pbの関係を満たしておらず、α相単相を有している。CA No.19は第1発明合金の組成と比較するとシリコンが少なすぎ、CA No.21は銅が多過ぎるにもかかわらず、CA No.19とCA No.21のどちらもα相からなる単相を有している。既に述べたとおり、α相単相からなる合金は、工業的に許容出来ない被削性となることが予測される。CA No.20とCA No. 23は、被削性を低下させるβ相が比較的大きい(β相5%以上)例である。CA No.22は銅の量が過剰であり、またα相は20%にしかすぎない。おそらくこれが、当該合金の被削性が工業的に満足できない理由である。
【0117】
第1発明合金(FIA) No.24からNo.26は、本発明の第1発明合金に従い、優れた被削性を有している。FIA No.27は、不純物である鉄の量が0.5重量%を超えると、それ以外の組成が許容範囲であっても、工業的に満足し得ない被削性となることを示すために提供されている。
【0118】
(表2における結果)
表2は第2発明合金と第3発明合金、及び関連の比較合金を編集したものである。さらに具体的には、合金No.2,No.3,No.7,No.8,No.10,No.11,No.14及びNo.14Bはすべて第2発明合金の範囲に含まれる。合金No.15,No.16,No.17,No.18,No.19,No.21,No.22,No.23及びNo.24は、第3発明合金の範囲内である。合金No.1,No.4,No.5,No.6,No.9,No.12,No.13,No.20,No.25,No.26,No.27,No.28,No.29及びNo.30はさらなる比較材であり、本発明の範囲には含まれない。合金No.25は従来合金JIS C3604, CDA C36000; No.26は従来合金JIS C3771, CDA C37700; No.27は従来合金JIS CAC802, CDA C87500; NO.28は従来合金JIS CAC203, CDA C85700; No.29は従来合金JI
S CAC406, CDA C83600; No.30は従来合金JIS C2800, CDA C2800にそれぞれ対応している。
【0119】
表2に示されているように、第2発明合金(SIA)No.2及びNo.3はリンを含有しており、押出し及び鋳造にて提供されている。SIA No.3はさらにアンチモンを含んでいる。SIA No.2及びSIA No.3はα相マトリックスにγ相及びκ相からなる金属構成であり、β相は含んでいない。SIA No.2とSIA No.3は、それぞれに良好な引張り強さを示しており、押出し材のNo.2で525N/mm2、鋳造試料のNo.3で426N/mm2となっている。また、旋盤切削及びドリル切削中に望ましいアーチ型、あるいは短い長方形状の切屑を生じることにより、優れた被削性も実証されている。さらに、SIA No.2及びSIA No.3の加工に必要な切削抵抗も妥当である(およそ98Nから112N)。一方で比較合金(CA) No.1は鉛を0.002重量%含有しており、SIA No.2とは僅かに組成が異なる。その結果、高速の旋盤切削(120m/min及び200m/min)で生ずる切屑の形状が短い螺旋型へと変化する。従って、SIA No.2における鉛量をCA No.1の含有量にまで僅かに減らすことにより、合金の被削性は優れた被削性から単に工業的に満足し得る被削性へと低下する。
【0120】
第2発明合金(SIA) No.2とSIA No.3は押出し及び鋳造で製作された。押出し材では引張り強さが大幅に高いことを除き、この2つは似通った特性を表している。妥当な切削抵抗での旋盤切削及びドリル切削中、SIA No.2とSIA No.3のどちらもアーチ型/又は短い長方形状の切屑を生じた。従ってSIA No.2及びSIA No.3は優れた被削性を表している。また、リンの添加によって、SIA No.2及びSIA No.3はどちらも良好な耐食性(最大腐食深さ10μm未満)を示している。エロージョン・コロージョン試験はSIA No.2だけに行い、重量ロスは50mgから55mgと良好であった。鉛の浸出はSIA No.2で0.001mg/L未満、SIA No.3で0.005mg/Lの範囲であり、望ましい低さであった。SIA No.11, SIA No.14, SIA No.14Bはリンを含む別の第2発明合金であり、優れた被削性(つまりアーチ型、針状、板状のいずれかの切屑を生ずる)、良好な引張り強さ、及び良好な耐食性を示している。
【0121】
比較合金(CA) No.4及びNo.5は、鋳造合金の鉛浸出に対する、鉛量の増加が与える影響を表している。CA No.4及びCA No.5はそれぞれ、0.29重量%、0.048重量%の鉛を含んでおり、その鉛浸出量はそれぞれ0.015mg/L、0.023mg/Lであった。これは、第2発明合金に従って製造された低鉛合金よりも大幅に高い値である。JIS CAC203, CDA:C8570に相当するCA No.28は、リンと鉛を含み、優れた被削性と良好な耐食性を有する、従来からの鋳造合金である。しかし、表2に示されているように、この合金の引張り強さは本発明による第2発明合金の引張り強さの約半分であり、その鉛浸出量は第2発明合金の約78倍である。一方750℃で押し出されたCA No.6は、銅亜鉛シリコン系合金において、減少する鉛の重量%が被削性に与える影響を実証している。鉛が0.005重量%未満の場合、切削抵抗の増加がしばしば要求され、生ずる切屑は長さ25mmから75mmの長い長方形状、あるいは3巻き以上の螺旋形状の望ましくないものとなる。つまり、CA No.6の被削性は工業的に満足できないものである。
【0122】
第2発明合金(SIA) No.7は、第2発明合金がすべて工業的に満足し得る被削性を有するのではないことを実証している。上述のように、被削性は合金の組成とその相構成に依存している。従って、第11発明合金に従い、工業的に満足し得る被削性を有する合金を選択的に特定するために、さらなる限定式18−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦56−500Pbが用いられている。表2から明らかなように、SIA No.7
は第11発明合金の範囲に含まれない。
【0123】
第2発明合金(SIA) No.8は、用いられた製造工程が本発明合金の被削性に与える影響について表している。具体的には、SIA No.8は750℃での押出し材、650℃での押出し材、及び鋳造にて提供されている。SIA No.8のこれら3種類の形態からわかるように、増加するβ相の存在が被削性にマイナス効果を与えている。特に、鋳造試料は最も望ましくない被削性を示し、5%のβ相を有している。一方、押出し材のβ相の量は最も低く、優れた被削性を有している。従って、押出しであるか鋳造であるかが、当該合金が優れた被削性を有するのか、あるいは工業的に満足し得る被削性という要求を満たさないのかに、影響を与えることがある。
【0124】
比較合金(CA) No.9及び第2発明合金(SIA) No.10は、α相マトリックスとγ相、κ相及びμ相を有する押出し合金における、鉛の効果を表している。具体的には、SIA No.10は750℃での押出し材、750で押出し後580℃で20分間熱処理を施したもの、650℃での押出し材、及び鋳造の4種類が提供されている。表2からわかるように、CA No.9及びSIA No.10の750℃押出し材は似通った切削特性を有している。一方、SIA No.10の650℃での押出し材、/又は鋳造は、切削試験の範囲を通じてアーチ型/又は短い長方形状の切屑を生じ、工業的に満足し得る被削性を有している。本発明に従い、SIA No.10の750℃押出し材に熱処理を行うことにより、工業的に満足し得る被削性を有する第8発明合金が生ずる。
【0125】
比較合金(CA) No.12及びNo.13は、鉛、銅、シリコン及び第2発明合金で選択された他元素の割合における、関係式61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pbの重要性を実証するものである。CA No.13及びCA No.14はこの限定を満たしておらず、本発明の範囲に含まれる合金ではない。CA No.13及びCA No.14の被削性は工業的に満足できるものではない。
【0126】
表2に示されているように、第3発明合金(TIA)No.15,No.16,No.17,No.18及びNo.19は、マンガン/又はニッケルを含有し、押出し材にて提供されている。これらの実施例には、第3発明合金に従い、α相マトリックス及びγ相とκ相の両相を有し、β相の無い金属組織が含まれている。これらの合金は第2発明合金より高い引張り強さを持つ傾向にある。TIA No.15,No.16,No.17,No.18及びNo.19は、旋盤切削及びドリル切削中に生ずる、望ましいアーチ型あるいは短い長方形状の切屑によって実証されるとおり、優れた被削性を表している。さらに、TIA No.15,No.16,No.17,No.18及びNo.19を加工するために必要な切削抵抗は妥当な値である(約112Nから129N)。一方で、CA No.20は関係式(1)を満足しない合金である。結果として、この合金の被削性は工業的に満足し得るものではなく、3巻きかそれ以上の螺旋型という望ましくない切屑を生ずる。
【0127】
第3発明合金(TIA) No.21,No.22,No.23及びNo.24は、第3発明合金がすべて工業的に満足し得る被削性を有するわけではないことを示している。例えば、TIA No.21とNo.23は過剰な量のβ相の量を有する(β相は10%であり、5%を超えている)。切削中、TIA No.21は望ましくない3巻き以上の螺旋型の切屑を生ずる。TIA No.23はドリル切削の際、望ましくない3巻き以上の螺旋型切屑を生じ、高速での旋盤切削では望ましくない長い長方形状の切屑を生ずる。しかしながら、TIA No.24はTIA No.23を熱処理したものに相当し、TIA No.24は、熱処理中にβ相がγ相及び/又はκ相へと変換することにより、β相は僅か3%に過ぎない。TIA No.24は工業的に満足し得る優れた被削性を有している。TIA No.22は少量の鉄(0.35重量%)を含み、旋盤切削中は望まし
い板状の切屑を生ずるが、ドリル切削では望ましくない中程度の長さの長方形状切屑を生じる。従って、TIA No.22は工業的に満足し得ない被削性を示している。
【0128】
比較合金(CA) No.25からNo.30は、従来合金である銅亜鉛合金のさまざまな欠点を実証している。CA No.25, CA No.26及びCA No.28はシリコンもγ相及び/又はκ相も含有せず、鉛量が比較的高いものである。これらの合金は工業的に満足し得る被削性を有するが、それは高い鉛量によって達成されたものである。その結果、それぞれの鉛浸出量は0.35mg/L、0.29mg/L、0.39mg/Lと高く、例えば飲料水提供システムに適用するには許容できない高さとなっている。一方、CA No.27は銅の量が過剰であり、相組成は85%のκ相からなっている。つまり、α相は15%にしか過ぎず、従ってCA No.27はα相マトリックスを有しない。表2からわかるように、CA No.27は工業的に満足し得る被削性を有しない。CA No.29は銅量が少なく、亜鉛と鉛の含有が高い合金である。CA No.29は旋盤切削速度が増加するにつれ(60m/minから120m/min、さらに200m/minまで)、被削性が低下していくことを示す一方、生ずる切屑はアーチ型から板状、さらに中程度の長さの長方形型へと変化する。CA No.29は工業的に満足し得る被削性を有していない上に、鉛の浸出量が0.21mg/Lと、鉛浸出性が高い。最後に、CA No.30はシリコンを含まず、低量の鉛(0.01重量%)のみを含有する銅亜鉛系合金である。しかし、この合金はα相マトリックスに、10%のβ相が分散している相組織であり、γ相もκ相も存在しない。CA No.30は高い鉛量を含まず、γ相及び/又はγ相も無いため、極端に工業的被削性に乏しい合金となっている。
【0129】
比較合金(CA) No.25からNo.30は、合金組成、鉛量、相組織といった複雑で多因子的な効果が、銅亜鉛系合金の被削性に与える影響を表している。高い鉛量は被削性を改善するものの、鉛の浸出量が高くなるという代償がある。一方、低量の鉛を含む銅亜鉛系合金は、工業的に満足し得る被削性を提供しない相組織を有する傾向がある。また、本発明の第1発明合金、第2発明合金、及び第3発明合金は、感知できるほどの鉛が浸出しないために環境に安全であり、工業的に満足し得る銅亜鉛合金を得るために、比較的少量の鉛(つまり、0.005重量%以上0.02重量%未満)と、α相マトリックスにおける、被削性を強化するγ相及び/又はκ相の存在との間の相乗効果を利用したものである。
【0130】
本発明は特定の望ましい実施例に関連して記述されているが、添付のクレームによって定義される本発明の精神と範囲に留まりながら、追加、削除、代替、修正及び改良が可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0131】
(関連出願についての相互参照)
本出願は1999年10月27日出願の米国特許出願No.09/983,029に関連するものである。米国特許出願No.09/983,029の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれており、また米国特許出願No.09/983,029は1999年10月27日出願の米国特許出願No.09/403,834の一部継続出願である。米国特許出願No.09/403,834の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれており、そのクレームは1998年10月9日出願の特願平10−287921号の優先権を主張している。日本出願特願平10−287921号の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれている。本出願はさらに、2001年11月13日に出願された米国特許出願No.09/987,173である、現在は米国特許6,413,330と関連があり、その全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれている。米国特許出願No.09/987,173は、2000年6月8日出願の米国特許出願No.09/555,881の一部継続出願であり、その全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれ、そのクレームは1998年10月12日出願の特願平10−288590号の優先権を主張している。特願平10−288590号の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれている。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1A】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1B】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1C】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1D】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1E】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1F】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1G】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1発明合金の金属組織拡大図(写真)である。
【図3A】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図3B】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図4A】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図4B】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図5A】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図5B】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図6A】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図6B】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図7】式76(Cu)−3.1(Si)−Pb(%)合金における、切削抵抗と鉛量(重量%)との関係を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、全ての産業分野に使用される快削銅合金に関するものであるが、人が消費するための飲用水を提供する分野において使用される合金に、特に関連している。
【背景技術】
【0002】
良好な被削性を有する銅合金にはJIS H5111 BC6指定を持つ青銅系合金や、H3250 C3604及びC3771指定を持つ黄銅系合金がある。これらの合金は、快削性銅合金として工業的に満足し得る結果を提供するために、1.0重量%から6.0重量%の鉛を添加することによって被削性を向上させている。その優秀な被削性により、これらの鉛含有銅合金は、都市の水道栓や水道水の供給・排水用金具やバルブといった、さまざまな部品用素材として重要な役割を果たしてきた。
【0003】
これら従来の快削銅合金においては、鉛はマトリックス内に固溶せず、粒状をなして分散することによって、当該合金の被削性を向上させるものである。望ましい結果を生ずるには、鉛はこれまで2.0重量%かそれ以上添加される必要があった。当該合金において鉛添加量が1.0重量%未満の場合、切屑の形状は図1Gに見られるような螺旋形となる。螺旋形の切屑は、工具に絡みつく等、さまざまなトラブルを引き起こす原因となる。一方、鉛添加量が1.0重量%以上2.0重量%以下の場合、切削抵抗が低下するという結果を生み出すものの、切削表面が粗くなる。したがって、鉛は通常2.0重量%以上の範囲で添加される。高度な切削特性が要求される銅合金展伸材においては3.0重量%かそれ以上の鉛が添加される。さらに、いくつかの青銅鋳物においては、鉛添加量が5.0重量%のものもある。例えば、JIS H5111 BC6指定の合金は鉛を5.0重量%含有している。
【0004】
鉛を数%含有する合金においては、細かな鉛粒子が金属組織内に分散している。切削加工時、応力はこれらの細かく軟らかい鉛粒子に集中する。結果として、切削時に生ずる切屑はより小さくなり、切削抵抗はより低くなる。このような状況において、鉛粒子はチップブレーカーの役割を果たす。
【0005】
一方、指定の組成範囲と製造条件のもとで、2.0%から4.5%のシリコンが銅亜鉛合金に添加された場合、α相の他にシリコンに富むκ相、γ相、μ相またはβ相が一つまたは複数、その金属組織中に現われる。これらの相のうち、κ相、γ相及びμ相は硬い相であり、鉛とは全く違った特性を有している。しかし、切削時にはこれら3種類の相が存在する場所に応力が集中し、これらの相がチップブレーカーの役割を果たし、それによって必要とされる切削力が低くなる。つまり、鉛と、銅亜鉛シリコン系合金に生ずるκ相、γ相及びμ相は、その特性において共通するものはほとんど、あるいは全くないものの、どちらも切屑を分断し、その結果、必要な切削力を削減する。
【0006】
しかしながら、κ相、γ相及びμ相を含む銅亜鉛シリコン系合金の被削性は、C83600(鉛入りレッドブラス・鉛含有5%)、C36000(快削黄銅・鉛含有3%)、C37700(鍛造用・鉛含有2%)と比較すると、向上したとは言え、十分とは言えない部分もある。
【0007】
鉛の混ざった合金の用途は近年、含有されている鉛が環境汚染物質として人体に有害であるため、大幅に制限されてきている。例えば、溶解、あるいは鋳造といった、高温での当該合金製造段階で発生する金属蒸気に鉛が含まれるため、鉛含有合金は人体の健康や環境衛生に脅威をもたらす。また、これらの合金から製造された水道栓金具やバルブに含ま
れる鉛が飲料水に溶出する危険性もある。
【0008】
これらの理由により、米国などの先進国は近年、銅合金における鉛の許容レベルを大幅に制限するべく、規制を厳しくする傾向にある。日本においても、鉛を含む合金の使用は大幅に制限されてきており、鉛含有量の低い快削銅合金の開発が強く要請されている。言うまでも無く、鉛の含有量はできる限り減らすことが望ましい。
【0009】
米国特許公開2002−0159912号公報及び特開2000−119774号(特願平10−287921号)公報に記載されているように、快削銅合金に含まれる鉛の量は、近年の技術進歩により0.02%まで引き下げられている。しかし、鉛含有量に関する強い世論を考慮すると、含有量をさらに減らすことが望まれる。米国特許第6413330号公報に記載されているように、鉛フリー合金は先行技術で知られているが、少量の鉛を有する合金には一定の有利性が存在することを本件発明者は見出した。
【0010】
【特許文献1】米国特許公開2002−0159912号公報
【特許文献2】特開2000−119774号公報
【特許文献3】米国特許第6413330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、被削性向上元素としてごく少量の鉛(0.005重量%以上0.02重量%未満)を含む快削銅合金を提供することにある。鉛を多く含有する従来の快削性銅合金の安全な代替となることができ、なお被削性に優れた合金を提供することが目的であり、また、切屑のリサイクルが可能であると同時に、環境衛生上の問題を生じることのない快削銅合金を提供し、よって鉛含有製品の制限に関して増大する要望への、時宜にかなった回答を提供することである。本発明は、κ相、γ相びμ相と微量の鉛添加との相乗効果を利用することにより、このような結果を達成するに至る。
【0012】
優れた被削性とともに、高い耐食性を有する快削銅合金を提供し、切削加工、鍛造、鋳造その他に適した素材として、高い有用性を持つ銅合金を提供することが、本発明のさらなる目的である。本合金を適用可能な切削加工、鍛造、鋳造等には、水道栓、水道水供給・排水用金具、水道メーター、スプリンクラー、ジョイント、止水栓、バルブ、ステム、温水供給用パイプ金具、シャフト、熱交換器用部品などが含まれる。
【0013】
本発明はまた、高強度と高い耐磨耗性を必要とするベアリング、ボルト、ナット、ブッシュ、ギア、ミシン用部品、シリンダー部品、バルブシート、シンクロナイザーリング、摺動部材、油圧装置部品等の切削加工、鍛造、鋳造等に適した素材として、高い有用性を持ち、被削性とともに高強度と高い耐磨耗性を有する銅合金を提供することを目的とするものである。
【0014】
さらに本発明は、高い耐高温酸化性が必要とされる灯油及びガスヒーター用ノズル、バーナーのヘッド、温水分配器用ノズル等の切削加工、鍛造、鋳造等に適した素材として、高い有用性を持ち、被削性とともに高い耐高温酸化性を有する銅合金を提供することを目的とするものである。
【0015】
またさらに本発明は、ニップルと呼ばれるチューブコネクタや、ケーブルコネクタ、金具、クランプ、家具用の金属蝶番、自動車用センサー部品等、切削加工後にコーキング加工を行うため、耐衝撃性のある素材から製造されることが必要な製品に適した素材として、優れた被削性とともに高い耐衝撃性を有する快削銅合金を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の一つまたは複数の発明目的は、次のような銅合金を提供することにより達成される。
【0017】
(第1発明合金)
第1発明合金は、優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、当該合金における銅とシリコンの割合が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%)の関係を満たす快削銅合金である。簡略化するため、本銅合金を以降「第1発明合金」という。
【0018】
鉛はマトリックスに固溶せず、鉛粒子として粒状をなして分散し、被削性を向上させる。銅合金に少量存在する鉛粒子であっても被削性は改善される。一方、シリコンは金属組織中にγ相及び/又はκ相(場合によってはμ相)が生じることにより被削性を向上させる。シリコンと鉛は被削性の向上に有効であるという点では共通しているが、合金の他の特性に対する貢献には大きな相違がある。この点を鑑み、合金に含まれる鉛量を大幅に削減し、それによって鉛害が人体に与えるリスクを削減することを可能にすると同時に、工業的な要求を満足し得る高い被削性がもたらされるよう、シリコンが第1発明合金に添加されている。すなわち、第1発明合金はシリコンの添加によるγ相及びκ相の形成を通じ、被削性を改善したものである。したがって、第1発明合金は工業的に満足し得る被削性を有し、それはつまり、当該発明合金を乾式で高速にて切削した場合に、従来の快削銅合金と同等の被削性を有するということである。つまり、第1発明合金は、超低量の鉛添加(0.005重量%以上0.02重量%未満)による被削性の改善とともに、シリコン添加によるγ相、κ相、μ相の形成を通じて向上した被削性を有している。
【0019】
シリコンの添加が2.0重量%に満たない場合、工業的に満足し得る被削性を確保するに十分なγ相/又はκ相は形成されない。シリコンの添加量を増加するに従って被削性は改善される。しかしシリコンの添加量が4.5重量%を超えると、それに見合う被削性の向上は見られない。しかし問題は、シリコンは融点が高く比重が低い上、酸化し易いということである。溶解の段階で混じり気のないシリコンを炉に投入すると、シリコンは溶湯の表面に浮かび、酸化してシリコン酸化物(酸化ケイ素)となり、よってシリコン含有銅合金の製造を阻害する。したがって、シリコン含有銅合金のインゴットを生産するためには、シリコンは通常Cu−Si合金として添加され、製造コストが上がることになる。シリコンの量が過剰になると、金属構造の全面積において、形成されるγ相/κ相が多くなり過ぎる。これらの相が過剰な量で存在することにより、応力集中源としての働きが阻害され、また当該合金を必要以上に硬くする。従って、被削性向上の効果が飽和状態となる点、つまり4.5重量%を超えてシリコンを添加することは望ましくない。シリコンを2.0重量%〜4.5重量%添加する場合、銅亜鉛合金に本来備わっている特性を維持するために、亜鉛量との関係を考慮に入れて銅を71.5重量%〜78.5重量%とすることが望ましいことが実験から判明した。そのため、第1発明合金は71.5重量%〜78.5重量%の銅及び2.0重量%〜4.5重量%のシリコンからなるとした。シリコン添加により被削性だけでなく、(a)鋳造における溶湯の湯流れ性、(b)強度、(c)耐磨耗性、(d)耐応力腐食割れ性、(e)耐高温酸化性も向上する。しかし、第1発明合金における銅とシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでXは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Pbは鉛の重量%である)を満たさない限り、これらの特性は見られない。また、延性と耐脱亜鉛腐食性もある程度まで向上する。
【0020】
このため、第1発明合金への鉛添加量は0.005重量%以上0.02重量%未満に設
定される。第1発明合金において、仮に鉛の添加量を削減しても、γ相及び/又はκ相を生じる前述の効果を有するシリコンを添加することによって、十分なレベルの被削性が得られる。しかし当該合金が、被削性において従来合金より優位となるには、0.005重量%を上回る量で銅亜鉛合金に鉛を添加することが必要である。一方、鉛量を比較的多く添加した場合、当該合金の特性にとって逆効果となり、表面状態が粗くなるとともに、熱間鍛造等の熱間加工性が低下し、冷間での延性も低下する。また、日本を含む先進国において将来的に鉛に関する国の規制がいくら厳しくなろうとも、0.02重量%以下という少量の鉛含有であれば、その規制をクリアできるであろう。そのため、本合金に添加される鉛量は、第1発明合金、及び後述する第2発明合金、第3発明合金において、0.005重量%以上0.02重量%未満とした。本発明に基づき、第1・第2・第3発明合金の改良は全て、この低鉛量の範囲を含むものとする。
【0021】
(第2発明合金)
本発明の別の実施例は、優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.2重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含み、当該合金における銅、シリコン、及び他の選択元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された元素の重量%であり、係数aはリンが選択元素の場合−3、アンチモン及びヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2である)の関係を満たす快削銅合金である。この第2銅合金を以降「第2発明合金」という。第2発明合金は、被削性がさらに向上しているとともに、脱亜鉛腐食やエロージョン等の腐食に優れた耐性を有する快削銅合金である。
【0022】
アルミニウムはγ相の形成促進に有効であり、シリコンと同様の働きをする。つまり、アルミニウムが添加された場合、γ相が形成され、このγ相が銅亜鉛シリコン系合金の被削性を改善する。アルミニウムは銅亜鉛シリコン系合金の被削性だけでなく、強度、耐磨耗性、耐高温酸化性の改善にも有効である。アルミニウムは比重を低く抑える助けもする。仮にアルミニウムの添加により被削性を改善するとなると、少なくとも0.1重量%の添加量が必要となる。しかし、2.0重量%を超える添加はそれに見合った結果を生み出さない。2.0重量%を超えてさらにアルミニウムを添加することにより、被削性へのさらなる貢献は見られず、このような添加によりγ相が過剰に形成されるため、当該合金の延性は低下する。
【0023】
リンにはアルミニウムのようなγ相を形成する特性はない。しかし、リンはシリコンの単独添加、あるいはアルミニウムとシリコンの共添により形成されたγ相を均一に分散・分配する働きを有する。このようにして、合金中にγ相を分散・分配させるリンの能力によって、γ相の形成によって得られた被削性がさらに向上する。γ相の分散に加え、リンはマトリックスのα相内の結晶粒微細化を助ける働きがある。それにより、熱間加工性、強度、耐応力腐食割れ性が向上する。さらに、リンは耐食性の向上とともに、鋳造時の湯流れ性を著しく改善する。このような結果を得るためには、リンは0.01重量%を超えて添加される必要がある。しかしリンの添加が0.2重量%を超えると、それに見合った効果が得られなくなる。むしろ、当該合金の熱間鍛造性、押出し性が低下する結果となる。
【0024】
第2発明合金は、第1発明合金に加え、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.2重量%、スズ0.1重量
%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含む。上述のように、リンはγ相を均一に分散させ、同時にマトリックスのα相内の結晶粒を微細化し、当該合金の被削性と耐食性(耐脱亜鉛腐食性、等)、鍛造性、耐応力腐食割れ性、強度を改善する。従って、第2発明合金はリンの働きによって耐食性その他の特性が改善され、主にシリコンの添加によって被削性が改善されたものである。リンの添加は0.01重量%かそれ以上という、大変少量において有益な結果をもたらすものである。しかし、0.2重量%を超えると、添加量から期待されるほどの効果は現われない。反対に、0.2重量%を超えると、リンは熱間鍛造性や押出し性を低下させる。一方、ヒ素/又はンチモンはわずか0.02重量%かそれ以上の添加により耐脱亜鉛腐食性を改善し、有益な結果を生み出す。
【0025】
スズはγ相の形成を促進すると同時に、αマトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相をさらに均一に分散・分配する働きを有する。従って、スズは銅亜鉛シリコン系合金の被削性をさらに改善する。スズはまた、耐食性、特にエロージョン・コロージョン及び脱亜鉛腐食に対する耐食性を向上させる。腐食に対するこのようなプラス効果を達成するためには、0.1重量%以上のスズが添加されなければならない。一方、スズの添加が1.2重量%を超えると、過剰なスズにより当該発明合金の延性及び衝撃値が低下し、鋳造時にクラックが生じやすくなる。従って、延性と衝撃値の低下を避けつつ、スズ添加のプラス効果を確実にするためには、本発明に従い、0.2重量%から0.8重量%のスズ添加が好ましい。
【0026】
第2発明合金においては、リン、アンチモン、ヒ素(耐食性を改善する)、スズ、アルミニウムから選択された少なくとも一つの元素を、上述の範囲内で第1発明合金と同量の銅及びシリコンに添加することにより、被削性だけでなく耐食性その他の特性も改善されていることが、これらの観察結果によって示されている。第2発明合金において銅とシリコンはそれぞれ、第1発明合金と同量の71.5重量%から78.5重量%、及び2.0重量%から4.5重量%と設定する。リンはアンチモンやヒ素と同様、主として耐食性向上元素として働く為、ここではシリコンと少量の鉛以外の被削性向上元素は添加されていない。
【0027】
(第3発明合金)
優れた被削性と強度、及び高い耐食性を有する、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.15重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含み、マンガン0.3重量%〜4重量%及びニッケル0.2重量%〜3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をその合計が0.3重量%〜4.0重量%となるように含む、当該合金における銅、シリコン、及び選択元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン及びニッケル)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン及びニッケルから選択された少なくとも一つの重量%であり、係数aがリンが選択元素の場合−3、アンチモンとヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2、マンガンの場合2.5、ニッケルの場合2.5)の関係を満たす快削銅合金である。この第3銅合金を以降「第3発明合金」という。第3発明合金は、被削性の向上とともに、高強度、優れた耐磨耗性と耐食性を有する快削銅合金である。
【0028】
マンガンとニッケルはシリコンと結び付き、マトリックス内に均一に析出するMnxSiy/又はNixSiyで表される金属間化合物を形成し、それによって耐磨耗性と強度
が向上する。従って、マンガン及びニッケル、/又はどちらか一方の添加により、第3発明合金の強度及び耐磨耗性が向上する。このような効果は、マンガン及びニッケルがそれぞれ0.2重量%以上の場合に現われる。しかし、ニッケルの場合3.0重量%、マンガンの場合4.0重量%で飽和状態に達し、それ以上マンガン/又はニッケルを添加しても、それに見合った効果は得られない。シリコンの添加量は、シリコンがマンガンやニッケルと結び付いて金属間化合物を形成するのに消費されることを考慮に入れ、マンガン及び/又はニッケルの添加量に見合うよう、2.0重量%〜4.5重量%と設定される。
【0029】
アルミニウムとリンはマトリックスのα相を強化し、被削性を向上させる。リンはα相とγ相を分散させ、それによって強度、耐磨耗性、被削性が改善される。アルミニウムは耐磨耗性の向上にも寄与し、0.1重量%かそれ以上添加されると、マトリックスを強化する効果を示す。しかしアルミニウムの添加が2.0重量%を超えると、過量のγ相あるいはβ相の形成により延性の低下がむしろ簡単に生じてしまう。従って、アルミニウムの添加量は、望ましい被削性改善を考慮に入れ0.1重量%から2.0重量%と設定される。また、リンの添加によりγ相が分散され、同時にマトリックスのα相内の結晶粒が細かく砕かれることによって、熱間加工性が向上し、当該合金の強度と耐磨耗性が向上する。さらに、リンは鋳造時の湯流れ性の改善に大きな効果を発揮する。このような結果は、リンを0.01重量%〜0.2重量%添加した場合に得られる。銅の量はシリコンの添加量、及びマンガン、ニッケルがシリコンと結合する特性を鑑み、71.5重量%〜78.5重量%とした。
【0030】
アルミニウムは強度、被削性、耐磨耗性、及び耐高温酸化性を改善する元素である。シリコンも、被削性、強度、耐磨耗性、耐応力腐食割れ性、耐高温酸化性を向上させる特性を持つ。アルミニウムは、シリコンと共に0.1重量%以上添加されると、耐高温酸化性を向上する働きがある。しかし、アルミニウムの添加が2.0重量%を超えると、それに見合った結果は期待できない。従って、アルミニウムの添加量は0.1重量%〜2.0重量%と設定した。
【0031】
リンは鋳造時の湯流れ性を向上させるために添加される。リンはまた、湯流れ性の向上とともに、上述の被削性、耐脱亜鉛腐食性、耐高温酸化性を改善する働きを有する。これらの効果は、リンが0.01重量%以上添加された場合に発揮される。しかし、リンの添加量が0.20重量%を超えると、それに見合う効果が得られないばかりか合金の脆弱化を招く。これらを考慮し、リンは0.01重量%〜0.2重量%の範囲で添加することとする。
【0032】
上述した通り、被削性の向上のためシリコンが添加される一方、シリコンはリンと同様、湯流れ性を向上することができる。シリコンの湯流れ性改善効果は、2.0重量%以上添加された場合に見られる。湯流れ性を改善させる添加範囲は、被削性を改善させる範囲と重なっている。これらを考慮に入れ、シリコンの添加量は2.0重量%〜4.5重量%と設定される。
【0033】
(第4発明合金)
本発明の別の実施例は、優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された元素を一つ含み、当該合金における銅及びシリコンの割合が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である)の関係を満たす快削銅合金である。この第4銅合金を以降「第4発明合金」という。
【0034】
第4発明合金は、第1発明合金の組成に加え、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された一つの元素を含むものである。
【0035】
ビスマス、テルル、セレンは、鉛同様マトリックスに固溶せず、粒状で分散し、被削性を改善する。被削性の向上となると、ビスマス、テルル、セレンの添加は、快削銅合金の鉛量の減少を埋め合わせることができる。これらの元素のうちどれかをシリコン・鉛とともに添加することにより、シリコンと鉛のみの添加で得られるレベルを超えて被削性が改善される。この発見から、ビスマス、テルル、セレンから選択された一つが添加される、第4発明合金が開発された。シリコンと鉛に加え、ビスマス、テルル、セレンを添加することによって、当該合金の被削性が向上し、複雑な形状を高速にて切削することが可能となる。しかし、ビスマス、テルル、セレンの添加が0.01重量%未満の場合、被削性の向上は達成されない。つまり、これらの元素が著しい被削性向上効果を発揮するには、少なくとも0.01重量%以上のビスマス、/又は少なくとも0.03重量%以上のテルル/又はセレンが添加される必要がある。しかし、これら3つの元素は銅と比べて大変高価なため、商業的価値のある合金を作成するには賢明に添加する必要がある。従って、ビスマス、テルル、セレンは0.2重量%を超えて添加しても、それに見合う被削性の改善は小さく、このレベルでの添加は経済的に割が合わない。さらに、これらの元素を0.4重量%超えて添加すると、鍛造性などの熱間加工性、及び延性などの冷間加工性が低下する。ビスマスのような重金属は、鉛の場合と同様の問題を生じるのではという危惧がある一方、0.2重量%以下の少量添加であれば無視できる範囲であり、特に健康被害を生ずることもない。これらを考慮し、第4発明合金はビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル/又はセレンを0.03重量%〜0.2重量%に設定した。この点において、鉛とビスマス、テルル/又はセレンの合計は0.4重量%を超えないことが望まれる。このように制限した理由は、これら4種の元素の合計量が0.4重量%を僅かでも超えると、当該合金の熱間加工性及び冷間での延性が低下し始め、また、切屑の形状が図1Bに描かれている形状から図1Aの形状へと変化する恐れがあるからである。しかし、上述したように、シリコンとは違ったメカニズムで合金の被削性を改善するビスマス、テルル、セレンの添加は、当該合金中の銅及びシリコンの適正含有量に影響を与えない。従って、第4発明合金の銅及びシリコンの量は、第1発明合金と同じレベルに設定される。
【0036】
これらの観察結果を鑑み、第4発明合金は、第1発明合金の銅亜鉛シリコン鉛合金に、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された元素から選択された少なくとも一つの元素を添加することによって、被削性を向上させたものである。
【0037】
(第5発明合金)
優れた被削性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.2重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素と、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された少なくとも一つの元素を含み、当該合金における銅、シリコン、及び他の選択された元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された元素の重量%であり、aは選択された元素の係数であり、係数aはリンが選択元素の場合−3、アンチモンとヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2である。)の関係を満たす快削銅合金である。この第5銅合金を以降「第5発明合金
」という。
【0038】
第5発明合金は、第2発明合金の組成に加え、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された何れか一つの元素を含む合金である。これら添加される選択元素の混合とその添加量の設定についての根拠は、第4発明で述べられたものと同様である。
【0039】
(第6発明合金)
優れた被削性とともに良好な耐高温酸化性を有する快削銅合金として、銅71.5重量%〜78.5重量%、シリコン2.0重量%〜4.5重量%、鉛0.005重量%〜0.02重量%、及び残部が亜鉛からなり、リン0.01重量%〜0.2重量%、アンチモン0.02重量%〜0.2重量%、ヒ素0.02重量%〜0.15重量%、スズ0.1重量%〜1.2重量%、アルミニウム0.1重量%〜0.2重量%から選択された少なくとも一つの元素と、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された少なくとも一つの元素と、マンガン0.3重量%〜4重量%及びニッケル0.2重量%〜3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をその合計が0.3重量%〜4.0重量%となるように含み、当該合金における銅、シリコン、及び他の選択された元素(リン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケル)の割合が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケルから選択された元素の重量%である。aは選択された元素の係数であり、その係数はリンが選択元素の場合−3、アンチモンとヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2、マンガンとニッケルの場合2.5である。)の関係を満たす快削銅合金である。この第6銅合金を以降「第6発明合金」という。
【0040】
第6発明合金は、第3発明合金の組成に加え、ビスマス0.01重量%〜0.2重量%、テルル0.03重量%〜0.2重量%、セレン0.03重量%〜0.2重量%から選択された元素を一つ含む合金である。第3発明合金と同等の耐高温酸化性が得られる一方、被削性の向上に鉛と同様に効果的なビスマス及びその他の元素から選択された一つの元素を添加することにより、なお一層その被削性を改善するものである。
【0041】
(第7発明合金)
優れた被削性と、第1発明合金から第6発明合金の望ましい特徴を兼ね備えた快削銅合金であり、当該合金の鉄含有量が0.5重量%以下となるように、第1発明合金から第6発明合金の組成を更に限定した合金である。銅合金を製造する際、鉄は不可避不純物である。しかし、この不純物の範囲を、0.5重量%を超えないように制限することにより、さらなる恩恵が得られる。具体的には、鉄は第1発明合金から第6発明合金の被削性を低下させ、バフ研磨性やめっき性を低下させる。従って、本発明に基づいて、第7合金は第1発明合金から第6発明合金の何れかの組成に、0.5重量%以上の鉄を含有しないよう、さらなる制限が加わったものである。これ以降、第7合金を「第7発明合金」とする。
【0042】
(第8発明合金)
前述した各発明合金のいずれかに、30分から5時間、400℃から600℃で熱処理を施すことにより、さらなる被削性を有する快削銅合金が得られる。これ以降、第8合金を「第8発明合金」という。
【0043】
(第9発明合金及び第10発明合金)
(a)α相からなるマトリックス、及び(b)γ相及びκ相からなる群から選択された一つまたはそれ以上の相を含むよう、前述の各発明合金のいずれかを構成することにより
、さらなる被削性を有する快削銅合金が得られる。これ以降、第9合金を「第9発明合金」という。また、「第10発明合金」に従って、γ相及びκ相からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の相がα相のマトリックス内に均一に分散されるよう、第9発明合金はさらに改良される。
【0044】
(第11発明合金)
前述の各発明合金のいずれかに、当該合金の金属組織が次の関係を満たすよう更なる限定を施すことによって、より良い被削性を有する快削銅合金が得られる:
(i)当該合金の総相面積において、0%≦β相≦5%
(ii)当該合金の総相面積において、0%≦μ相≦20%
(iii)当該合金の総相面積において、18−500(Pb)%≦κ相+γ相+0.3μ相−β相≦56+500(Pb)%
これ以降、第11合金を「第11発明合金」という。
【0045】
(第12発明合金及び第13発明合金)
本発明に基づき、当該合金の押出し棒、/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、チップブレーカー無しで、タングステン・カーバイド工具を用い、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60m/min〜200m/min、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削したとき、アーチ状型、針状型、及び板状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずるよう、前述の第1発明合金から第11発明合金の何れかを構成することにより、被削性の改善を実証する快削銅合金が得られる。これ以降、この第12合金を「第12発明合金」という。同様に、当該合金の押出し棒、/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、直径10mm、長さ53mmのスチールグレードのドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、送り速度0.20mm/revにてその円周上をドリルしたとき、アーチ状型及び針状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずるよう、前述の第1発明合金から第11発明合金の何れかを構成することにより、被削性の改善を実証する、また別の快削銅合金が得られる。これ以降、この第13合金を「第13発明合金」という。
【0046】
第1発明合金から第13発明合金は、シリコンのような被削性向上元素を含有し、このような元素の添加によって優れた被削性を有する合金である。これらの被削性向上元素の効果は、熱処理によってさらに向上する。例えば、上述の第1発明合金から第13発明合金において、銅含有量が高く、γ相が少量で且つκ相が多量の場合、熱処理によってκ相からγ相への相変化が起こる。結果として、γ相は均一に分散して析出し、被削性が改善される。鋳物、展伸材及び熱間鍛造の製造工程において、鍛造条件、熱間加工(熱間押出し、熱間鍛造等)後の生産性、作業環境、その他の要因により、それらの材料が強制空冷、/又は水冷されることがよくある。このような場合、第1発明合金から第13発明合金において、特に銅の含有量が低いものでは、γ相及び/又はκ相の量はむしろ少なく、β相が含まれている。熱処理によってこのβ相がγ相及び/又はκ相へと変化し、γ相及び/又はκ相は均一に分散・析出して被削性が改善される。
【0047】
しかし、何れの場合においても、400℃未満の温度での熱処理は、上述した相変化の速度が遅くなり、多くの時間が必要となるため、経済的でも実用的でもない。一方、熱処理温度が600℃を超えると、κ相が成長し、/又はβ相が出現して、被削性の改善が見られなくなる。従って、実用の点から、金属組織の相を変化させることによって、当該合金の被削性を改善するために熱処理を利用する場合、30分から5時間、400℃から600℃で実施することが望ましい。
【0048】
各発明合金は、銅、シリコン、亜鉛及び鉛を含有する。特定の発明合金はさらに、リン
、スズ、アンチモン、ヒ素、アルミニウム、ビスマス、テルル、セレン、マンガン及びニッケルといった他の構成元素を含んでいる。これらの元素はそれぞれ、発明合金に特定の利益を与えるものである。例えば、銅は本発明合金の主要な構成元素である。本発明者らによって実施された研究に基づき、機械的特性、耐食性、流動性といった、銅亜鉛合金に生来備わっている特性を維持するためには、銅の含有量を71.5重量%〜78.5重量%とすることが望ましいことが判明した。さらに、このような銅含有量の範囲により、シリコンが添加された際の金属組織におけるγ相及び/又はκ相(場合によってはμ相)の形成が効果的に行われ、その結果、工業的に満足し得る被削性を得ることができる。しかし、銅の含有量が78.5重量%を超えると、γ相及び/又はκ相の形成の程度に関わらず、工業的に満足し得る被削性が得られないため、銅含有量の上限が設定されている。また銅量が78.5重量%を超えると、当該合金の鋳造性も低下する。一方、銅の含有量が71.5重量%を下回る場合、β相が金属組織中に形成されやすくなる。β相の形成により、金属組織中にγ相及び/又はκ相が存在する場合でも、被削性が低下する傾向にある。β相の形成により、耐脱亜鉛腐食性の低下、応力腐食割れの増加、延性の低下等、他にもマイナスの効果を生じる結果となる。
【0049】
シリコンは本発明合金のもう一つの主要な構成元素である。特に、シリコンには銅合金の被削性を改善する働きがある。シリコンは被削性向上効果を伴って、α相からなるマトリックス内にγ相、κ相、及び/又はμ相を形成するため使用される。銅合金において2重量%以下のシリコン添加では、工業的に満足し得る被削性を得るためのγ相、κ相、及び/又はμ相が十分形成されない。添加されるシリコンの量が増加するにつれ合金の被削性は向上するが、4.5重量%を超えると添加量に見合った効果が得られなくなる。実際、金属組織内のγ相及び/又はκ相の割合が大きくなり過ぎるため、4.5重量%を超えるシリコンが添加された場合、被削性は低下し始める。また、シリコンが4.5重量%以上になると、当該合金の熱伝導性も低下する。従って、被削性とともに、流動性、強度、耐磨耗性、耐応力腐食割れ性、耐高温酸化性、耐脱亜鉛腐食性等の特性を改善するためには、適切な量のシリコンを添加することが必要である。
【0050】
亜鉛もまた本発明合金において主要な構成元素である。銅及びシリコンに添加されると、亜鉛はγ相、κ相、及び場合によりμ相の形成に影響を与える。亜鉛は本発明合金の機械的強度、被削性及び流動性の改善にも働く。本発明に基づき、亜鉛は他の2つの主要元素(銅及びシリコン)、低量の鉛及び他の元素を除く残りの部分を占めるため、その含有量の範囲は間接的に決定される。
【0051】
鉛はマトリックスに固溶せず、粒状をなしてマトリックス内に分散し、それにより被削性を改善するため、本発明合金中に存在する。シリコン添加を通じて金属組織中にγ相及び/又はκ相が形成されることにより、合金の被削性はある程度まで改善されるが、発明合金の被削性をさらに向上させるため、0.005重量%以上の鉛も添加されている。事実、現在工業上強く望まれている乾式下(潤滑油不使用)での高速切削において、本発明合金の被削性は、従来の快削銅合金と同等、/又はそれをしばしば凌ぐほどに優れている。本発明の範囲に入る組成範囲を有する銅亜鉛シリコン系合金にとって、固溶状態での鉛含有量の上限は0.003%であり、これを超える量の鉛は組織内で鉛粒子として存在している。金属組織中に適量のγ相及び/又はκ相が存在している場合、鉛は0.005重量%にて被削性を改善し始め、それは固溶限界の上限より僅かに高いだけである。結果として、例えば飲用水中に合金から溶出するほどの鉛量は存在しない。さらに、鉛量が0.005重量%以上に増加すると、(a)マトリックス内に均一に析出し分散する鉛粒子、及び(b)異なるメカニズムにより被削性を改善する硬質のγ相及びκ相、の予期せぬ相乗効果により、当該合金の被削性は著しく向上する。しかし、合金の鉛量が0.02%を超えると、鋳物製品、特に大型の鋳物製品に含まれる鉛が環境(飲用水)へと溶出し始め、それにより人体に害を及ぼす結果となる可能性がある。従って、本発明合金の鉛含有量
は、0.005重量%〜0.02重量%と設定されている。
【0052】
リンは、金属組織のα相マトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相を均一に分散し、分配する働きを有する。従って、本発明に基づき、ある特定の実施例におけるリンの添加は、発明合金の被削性をさらに改善し安定化させる。またリンは、特に脱亜鉛腐食に対する耐食性、及び流動性を改善する。これらの効果を得るためには、0.01重量%以上のリンを発明合金に添加する必要がある。しかし、リンが0.2重量%を超えて添加されると、それ以上のプラス効果が得られないだけでなく、延性が添加する。リン添加によるこれらの効果を考慮し、本発明に従って、リンは0.02重量%〜0.12重量% の範囲で添加することが望ましい。
【0053】
先に述べたとおり、スズはγ相の形成を促すと同時に、α相マトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相をさらに均一に分散させ、分配させる働きを有する。従って、スズは銅亜鉛シリコン系合金の被削性をさらに改善する。スズはまた、特にエロージョン・コロージョンや脱亜鉛腐食に対する耐性を向上させる。このような腐食に対するプラス効果を得るためには、0.1重量%以上のスズを添加する必要がある。一方、スズの添加が1.2重量%を超えると、過剰なγ相の形成とβ相の出現により、余剰なスズが延性と衝撃値を低下させ、鋳造時の割れが起こりやすくなる。従って、延性と衝撃値の低下を回避しながら、スズ添加によるプラス効果を確実にするために、スズは0.2重量%〜0.8重量%の範囲で添加することが望ましい。
【0054】
アンチモンとヒ素は、本発明に基づき、合金の耐脱亜鉛腐食性を改善するために添加される元素である。このためには、0.02重量%以上のアンチモン及び/又はヒ素を発明合金に添加する必要がある。これらの元素の添加量が0.2重量%を超えると、さらなるプラス効果が得られない上に、延性が低下する。これらの添加元素による効果を考慮に入れ、本発明に従って、アンチモン及び/又はヒ素は0.03重量%〜0.1重量%の範囲で添加することが望ましい。
【0055】
アルミニウムはγ相の形成を促すと同時に、α相マトリックス内に形成されたγ相及び/又はκ相をさらに均一に分散させ、分配させる働きを有する。従って、アルミニウムは銅亜鉛シリコン系合金の被削性をさらに改善する。また、アルミニウムは機械的強度、耐磨耗性、耐高温酸化性、耐エロージョン・コロージョン性を改善する。これらのプラス効果を得るためには、0.1重量%以上のアルミニウムを添加する必要がある。しかし、アルミニウムの添加量が2%を超えると、過剰なγ相の形成とβ相の出現により、余剰なアルミニウムが延性を低下させ、鋳造割れが起こりやすくなる。従って、本発明に従い、アルミニウムは0.1重量%〜2.0重量%の範囲で添加することが望ましい。
【0056】
鉛と同様に、添加されたビスマス、テルル、セレンはα相マトリックス内に分散し、γ相、κ相、及びμ相といった硬質の相との相乗効果により、著しく被削性を向上させる。0.01重量%以上のビスマス、0.03重量%以上のテルル、及び0.03重量%以上のセレンの添加により、このような相乗効果が得られる。しかし、これらの元素は環境にとって安全なものであるかどうか確認されておらず、また、量的にも乏しい。従って、本発明に従って、これら各添加元素の上限は0.2重量%と設定されている。本発明に従い、より望ましい範囲は、ビスマス0.01重量%〜0.05重量%、テルル0.03重量%〜0.10重量%、セレン0.03重量%〜0.1重量%である。
【0057】
マンガンとニッケルは、シリコンと結合して金属間化合物を形成することにより、本発明による銅亜鉛シリコン系合金の耐磨耗性と強度を向上させる。これらの効果が発揮されるのに必要な添加量は、マンガン0.3重量%以上、ニッケル0.2重量%以上である。マンガンとニッケルの添加量がそれぞれ4重量%、3重量%を超えると、耐磨耗性にさら
なる改善は見られず、代わって延性と流動性が低下する。したがって、これ以上高い含有量では耐磨耗性がさらに向上することはなく、逆に被削性と流動性にマイナスの影響が出るため、マンガンとニッケルの合計添加量は0.3重量%以上、4.0重量%を超えないとするべきである。必然的に、マンガン及び/又はニッケルが本発明合金に添加される場合、この2つの元素はシリコンと結び付いて金属間化合物を形成するため、シリコンの消費量が加速し、従って被削性を改善するγ及び/又はκ相の形成に使用されるシリコン量が少なくなる。
【0058】
従って、本発明にもとづき、マンガン及び/又はニッケルを含有する銅亜鉛シリコン系合金で、工業的に満足し得る被削性を得るためには、
2+0.6(U+V)≦Y≦4+0.6(U+V)
の関係を満たす必要がある。ここで、Yはシリコンの重量%、Uはマンガンの重量%、Vはニッケルの重量%を表している。
【0059】
この方法により、金属間化合物の形成、ならびにγ相、κ相、及び/又はμ相の形成の両方に十分な量のシリコンが存在する。
【0060】
鉄は、本発明による銅亜鉛シリコン系合金に含まれるシリコンと結び付いて金属間化合物を形成する。しかし、このように鉄を含んだ金属間化合物は、発明合金の被削性を低下させ、従来、機械加工ではなく鋳造で生産されているフォーセットやバルブ等の生産時に施されるバフ研磨やメッキ加工にマイナス効果を与える。鉄の含有量0.3重量%でもこのようなマイナス効果は確認されるが、0.5重量%を超えると明瞭に観察される。鉄は銅亜鉛シリコン系合金における不可避不純物である一方で、本発明に基づき、その含有量は0.5重量%を超えるべきでなく、0.25重量%以下であることが望ましい。
【0061】
第1発明合金、ならびに第4発明合金、及び第7発明合金から第11発明合金に従って製造された合金が表1に記載されている。また、本発明の範囲に含まれない比較合金もいくつか表1に記載されている。第2発明合金及び第3発明合金、ならびに第5発明合金から第11発明合金に従って製造された合金が表2に記載されている。また、本発明の範囲に含まれない比較合金もいくつか表2に記載されている。本発明合金と、本発明合金の範囲に含まれない類似した合金との特性を比較するために実施された種々の試験に関する本明細書に従い、表1及び表2に編集されている結果が説明されている。
【実施例】
【0062】
本発明合金と比較合金の実施例として、表1及び表2に記載の組成を有する、外径100mm長さ150mmの円筒状のインゴットを、750℃で熱間押出しし、外径20mmの丸棒試験材を製作した。一部の試料については押出し温度650℃と800℃でもサンプルを得た。押出した各インゴットについて、元素と相の構成を、本発明において適用されている計算式で表したものと合わせて記載した。また、その試験結果は下記の通り提供されている。これらの表のデータから見て取れるように、所定の元素構成を持つ合金にとって、押出し温度が相構成と機械的特性に著しい影響を与えており、これについては後程解説する。さらに、円筒状インゴットと同じ組成を有する溶湯を直径30mm、深さ200mmの金型に鋳込み、試料を作成した。この鋳造試料は、押出し試料と同じサイズになるよう旋盤で切削し、外径20mmの丸棒とした。表1及び表2に編集されている通り、熱間押出しの代わりに、鋳造された合金が、製造条件がいかに合金の金属組織や他の特性に影響を与えているかを示している。これについては後程解説する。
【0063】
(切削試験)
さまざまな合金の被削性を調査するため、ある合金が工業的に満足し得る被削性を有するかどうかを判断するため、旋盤による切削試験、及びドリルによる切削試験を実施した
。この判断を行うに当たり、工業上、一般に利用されている切削条件のもとで被削性を評価する必要がある。例えば、旋盤切削、/又はドリル切削が行われる場合、銅合金にとって業界で一般的な切削速度は60m/minから200m/minである。従って、表に記載されている実施例において、旋盤切削は60m/min、120m/min、及び200m/minの速度で行われた。ドリル切削は80m/minの速度で行われた。試験においては、切削抵抗及び切屑の状態にもとづき評価を行った。切削用潤滑油は環境に対してマイナスの影響を与える可能性があるため、使用済み潤滑油を廃棄する必要のないよう、潤滑油無しで切削を行うことが望ましい。従って、本発明に基づき、切削加工を容易にするという点から見れば好ましくない条件ではあるが、乾式下で切削試験を行った。
【0064】
旋盤切削試験は次の方法で行われた。すなわち、上述の方法で得られた直径20mmの押出し試料/又は鋳造試料を乾式下にて、ポイントノーズ・ストレート工具、特にチップブレーカーの付いていないタングステン・カーバイド工具の付いた旋盤を用い、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60メートル/分(60m/min), 120メートル/分(m/min), 200メートル/分(m/min)、切削深さ1.0mm、送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削した。工具に取り付けられた3部分から成る動力計から発せられるシグナルが、電圧信号(electric voltage signals)に変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗に変換された。従って、当該合金の被削性は切削抵抗、特に切削の際に最も高い値を示す主分力を測定することにより評価された。さらに、旋盤切削された材料の被削性評価の一部として、旋盤切削中に生じた切屑を観察し、分類した。切削抵抗は、完全を期すためには3部分からなる力、つまり主分力、送り分力、背分力、によって判断されるべきであるが、主分力(N)のみにもとづいて切削抵抗を評価することを決定した。旋盤切削試験の結果は表1及び表2にまとめられている。これら表1及び表2のデータから、本発明による合金は、過剰な主分力を必要としないことが見て取れる。
【0065】
ドリル切削試験は、次の方法で行われた。すなわち、上述の方法で得られた直径20mmの押出し試料及び鋳造試料を乾式下において、直径10mm長さ95mmのスチールグレード M7のドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、送り速度0.20mm/revにてドリル切削した。ドリル切削された材料の被削性評価の一部として、ドリル切削中に生じた切屑を観察し、分類した。
【0066】
切削の際に生じた切屑は、図1Aから図1G、及び以下に記述されている幾何形状にもとづき、(A)から(G)の7つのカテゴリーに分類された。図1Aは微細に分断され、針状の形をした「針状型切屑」を図解したものであり、表中では●で表されている。針状型切屑は、工業的に満足し得る被削性を有する合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。図1Bはアーチ型/又は1巻き以下の円弧状のアーチ型をした「アーチ状型切屑」を図解したものであり、表中では◎で表されている。アーチ状型切屑は、最も望ましい被削性を有する合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。図1Cは、長さ25mm以下で長方形をした「短い長方形状切屑」を図解したものであり、表中では○で表されている。短い長方形状切屑は、針状型切屑を生じる合金より優れた被削性を有するが、アーチ状型切屑を生じる合金ほど良くはない合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。短い長方形状切屑は、「板状型切屑」とも表現される。図1Dは、長さ25mm以上75mm以下で長方形をした「中程度の長さの長方形状切屑」を図解したものであり、表中では▲で表されている。図1Eは長さ75mm以上の「長い切屑」を図解したものであり、表中では×で表されている。図1Fは、1巻き以上3巻き以下の螺旋状切屑である「短い螺旋形状切屑」を図解しており、表中では△にて示されている。「短い螺旋形状切屑」もまた、工業的に満足し得る被削性を有している合金を切削するときに生成された、工業的に満足し得る切屑である。最後に、図1Gは、3巻き以上の螺旋状切屑である「長い螺旋形状切屑」を図解しており、表中では××にて示されている。切削試験中に生じた切屑の結果は、表1及び表2に報告されている。
【0067】
切削中に生ずる切屑が、合金材のクオリティに関する兆候を提供している。長い切屑(×)、及び長い螺旋形状切屑(××)を生ずる合金材は、工業的に満足し得る切屑を生じない。一方、アーチ型(◎)の切屑を生ずる合金材は、最も望ましい切屑を生じ、短い長方形状の切屑(○)を生ずる切屑は、2番目に望ましい切屑を生じる。針状の切屑(●)を生ずる素材は3番目に望ましい切屑を生じ、短い螺旋状の切屑(△)を生じる素材は、工業的に望ましい切屑を生じる。この点につき、図1Gに示されたような3巻き以上の螺旋を有する形状の切屑は、回収やリサイクルといった処理が難しく、また例えば、切削工具に絡みつく、切断面にキズを付ける等によって、切削加工中のトラブルを引き起こす可能性がある。図1Fに示されたような半巻きから2巻き/又は3巻きまでの螺旋を有する形状の切屑は、3巻き以上の螺旋を有する切屑ほどの深刻なトラブルは生じないが、それでもこのような短い螺旋形状の切屑は取り除くことが難しく、また、切削工具に絡みついたり切断面にキズを付けたりする可能性がある。
【0068】
対照的に、図1Aに見られるような細かい針状の切屑や図1Bに見られるようなアーチ型の切屑は、上述のような問題を生じない上に、図1F及び図1Gの切屑のように嵩張りもせず、回収やリサイクルにとっても処理が簡単である。しかしながら、図1Aのような細かい針状の切屑は、旋盤などの工作機械のスライドテーブル上に入り込んで機械に不具合を生じさせ、作業者の指、目、その他の身体の部分に突き刺さることによって危険をもたらす可能性もある。これらの要因を考慮すると、被削性及び工業生産全般を評価する際、図1Bに記されているような切屑を生じる本発明合金は、工業的ニーズを最も満たすものであり、図1Cのような切屑が2番目に工業的ニーズを満たすものであり、図1Aに見られる切屑がその次に工業的ニーズを満たすものである。上述の通り、図1E及び図1Gに示されている切屑を生ずる合金は、回収やリサイクルが困難であり、またこれらの切屑は切削工具や切削中の部品をキズつける可能性があり、工業的観点から見ると望ましくない。表1及び表2において、図1A, 図1B, 図1C, 図1D, 図1E, 図1F及び図1Gで示されている切屑がさまざまな合金によって製造され、それぞれ●、◎、○、▲、×、△、××で表されている。本発明合金が、概して最も望ましい形状の切屑を生ずることが見て取れる。
【0069】
望まれる工業的被削性に関して切屑の定性的分類(上から順に)をまとめると、アーチ型切屑(◎)、短い長方形状の切屑(○)及び細かい針状の切屑(●)は、優れた被削性(つまりアーチ型切屑)から良好な被削性(つまり短い長方形状の切屑)、満足し得る被削性(つまり細かい針状の切屑)を有するとして評価される。一方、工業的に許容できるとはいえ、中程度の長さの長方形状切屑(▲)及び短い螺旋状の切屑(△)は、切削中に工具に絡みつく可能性がある。従って、これらの切屑は、満足し得る被削性や優れた被削性を有するとして評価された合金によって生成される切屑ほどには望ましくない。
【0070】
今日の産業において、製造にはオートメーションが伴い(特に夜間操業中)、従って一人の作業者がいくつかの切削機械によるオペレーションを同時に監視するのが一般的である。切削中に、生成された切屑の嵩が大きくなりすぎて一人の作業者では処理できなくなると、切削工具に切屑が絡みつく、さらには切削機械の停止といった、切削作業上の問題が生じる可能性がある。実際問題として、長い切屑(×)や長い螺旋形状切屑(××)は大型の切屑であり、アーチ型切屑、短い長方形状の切屑及び針状の切屑よりも大幅に大きな体積を有する。結果として、切削中に、長い切屑や長い螺旋形状の切屑の体積は、より小さな切屑(アーチ型切屑、短い長方形状切屑及び細かい針状の切屑)の体積の100倍もの速さで蓄積する。従って、夜間の切削オペレーションは実用的でなく、あるいはボリ
ュームの大きな長い切屑や長い螺旋形状切屑を生じる合金を切削する際には、切削機械を監視する人員がより多く必要となる。それに比較して、中程度の長さの長方形状切屑(▲)や短い螺旋形状の切屑(△)は、長い切屑や長い螺旋形状切屑よりも遥かに体積が小さく、アーチ型切屑、短い長方形状切屑及び細かい針状切屑とくらべて僅かに数倍の体積である。
【0071】
判明したとおり、切削中に中程度の長さの長方形状切屑や短い螺旋形状の切屑を生成する合金は、切屑のボリュームが長い切屑や長い螺旋形状の切屑の場合に起こるような、許容できないほどの速い速度で蓄積されるのではないため、なお「工業的に許容できる」ものである。一方、中程度の長さの長方形状切屑や短い螺旋形状の切屑は切削工具に絡まる可能性があるため、これらの切屑を生じる合金は切削中に注意深く監視される必要がある。従って、これらの合金の被削性は、アーチ型切屑、短い長方形状切屑/又は細かな針状切屑といった、コンパクトでボリュームが小さく、切削工具に絡みつく傾向のない切屑を生成する合金に比べ望ましくない。中程度の長さの長方形状切屑や短い螺旋形状切屑に関して、切削中に中程度の長さの長方形状切屑を生じる合金は、短い螺旋形状の切屑を生じる合金よりも、僅かに良好な被削性を有すると考えられる。なぜなら、どちらのタイプの切屑も切削工具に絡まる可能性はあるものの、中程度の長さの長方形状切屑は、切削工具に絡まった時点で取り除くのがより簡単であるからである。さらに、中程度の長さの長方形状切屑は短い螺旋形状切屑よりも体積が小さいため、切削中に短い螺旋形状の切屑よりも遅い速度で蓄積されると思われる。
【0072】
(脱亜鉛腐食試験)
さらに、耐食性を調べるため、ISO6509に定められた試験方法に従い、さまざまな合金の耐脱亜鉛腐食性試験を行った。ISO6509による脱亜鉛腐食試験では、各押出し試験片から得た試料を、その曝露面が当該押出し材の押出し方向に対して直角となるようにしてフェノール樹脂材に埋めこみ、試料の表面を1200番のエメリー紙にて研磨した後、純水中で超音波洗浄して乾燥した。このように準備された試料を1.0%の塩化第2銅2水和塩CuCl2・2H2Oの水溶液12.7g/L中に浸漬し、75℃で24時間保持した後、水溶液中から取出し、その脱亜鉛腐食の最大深さを次のように測定した。試料は暴露表面が押出し方向に対して直角を保つように、フェノール樹脂材に再び埋め込まれ、次に最も長い切断部が得られるように試料を切断した。続いて試料を研磨し、100倍から500倍の金属顕微鏡を用い、顕微鏡の視野10ヶ所にて、腐食深さを観察した。最も深い腐食ポイントが最大脱亜鉛腐食深さとして記録された。最大脱亜鉛腐食深さの測定値は表1及び表2に記載されている。
【0073】
表1及び表2の耐脱亜鉛腐食試験の結果から明らかなように、第1発明合金から第3発明合金は優れた耐食性を示している。また、表1及び表2に見られるように、第4発明合金から第11発明合金までは特に高い耐食性を有することが確認された。
(エロージョンコロージョン試験)
押出し試験材から切り出された試料は、発明合金の耐エロージョンコロージョン性評価にも使用された。塩水への96時間暴露の前に、各試料の重量が電子スケールを用いて計測された。0.01%の塩化第2銅二水和塩CuCl2・2H2Oを加えた30℃の3%食塩水を、口径2mmのスプレーノズルを用い流速11m/sにて96時間、連続的に試料に向けて噴射した。ブライン溶液への暴露96時間後に、次のように重量ロスを評価した。各試料をブロワー乾燥し、電子スケールで再度重さを量った。塩水への暴露前・暴露後の試料の重量差は、合金のブライン溶液によるエロージョンコロージョンの程度を反映するものであり、これを重量ロスとして記録した。
【0074】
ある種の製品にとっては、良好な耐エロージョンコロージョン性を有する合金を用いて
製造されることが重要である。例えば、水道水供給用の蛇口やバルブは、逆流や、これらを通じて流れる流量の、その開閉によって生じる水流速度の突然の変化にさらされるため、通常の耐食性だけでなく、エロージョンコロージョンに対する耐性も必要である。例えば表2に記載の比較合金No.28(C83600)は、5重量%のスズと5重量%の鉛を含有し、急速な流れにおいても優れた耐エロージョンコロージョン性を実証している。表2で示されるように、比較合金No.28(以降CA No.28)はエロージョンコロージョンによる重量ロスが最も低い。CA No.28の耐エロージョンコロージョン性は、急な流れのもとでの腐食から当該合金を保護する、スズの豊富な皮膜の形成によるものである。残念ながら、CA No.28は鉛の含有量が許容できないほど高く、飲料水提供用システムで使用されるには適さない。
【0075】
それと比較して、表1の第1発明合金No.2によって実証されるように、第1発明合金もまた良好な耐エロージョンコロージョン性を有している。しかしながら、第2発明合金No.11で示されるように、0.3重量%のスズの添加により、耐エロージョンコロージョン性が向上する。事実、同じくスズの豊富な、スズ−シリコンベースの皮膜の形成が適用される一方で、第1発明合金への0.3重量%のスズの添加により、向上した耐エロージョンコロージョン性を有する第2発明合金が提供されているが、しかしこれはCA No.28で用いられたスズの何分の1かの量である。言い換えれば、例えば、本発明合金は僅かに0.3重量%程度のスズを含むが、遥かに高い割合のスズ(5重量%)を含む、CA No.28と同程度の耐エロージョンコロージョン性に到達している。
【0076】
(鉛浸出試験)
鉛の浸出性を評価するため、「給水装置−浸出性試験」方法に従い、JIS S3200〜7:2004に準じて試験を行った。JIS S3200〜7:2004に従って、(a)有効塩素濃度0.3mg/mlの次亜塩素酸ナトリウム溶液1ml (b)0.04mol/Lの炭酸水素ナトリウム溶液22.5ml、及び(c)0.04mol/Lの塩化カルシウム11.3ml、以上(a)から(c)を水に加えることによって、試験溶液の総量が1リットルとなるようにし、試験に使用される溶出用溶液が準備された。次にこの溶液は、1.0%及び0.1%の塩酸、あるいは0.1mol/L/又は0.01mol/Lの水酸化ナトリウムを加えることによって調整され、試験に使用される溶液が以下のパラメータを満たすようにした:pH7.0±0.1、硬度45mg/L±5mg/L、アルカリ性35mg/L±5mg/L、残留塩素0.3mg/L±0.1mg/L。鋳造によって得られた試験用インゴットにドリルで穴を開け、内径25mm、深さ180mmのカップ型の試料が得られた。このカップ型試料を洗浄し、状態を整えた後、23℃の浸出試験溶液で満たした。次に試料を密封し、23℃で保持された場所に保管した。16時間経過後、試験溶液を回収し、鉛の浸出を分析するため測定した。試料の大きさ、表面積、形状による、鉛浸出の分析結果への補正は行われなかった。
【0077】
(合金組成の制限式)
本発明による銅合金のもう一つの特徴は、各合金の組成が、
(1) 61−50Pb≦X−4Y+aoZo≦66+50Pb
の関係式によって制限されていることである。ここで、Pbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、aoZoは銅、シリコン、亜鉛以外の元素の関係への寄与度を表している。
【0078】
つまり、合金組成の制限式(1)で表される関係は、上述の利点を有する合金を作成するのに必要なものである。式(1)が満たされない場合、その合金は表1及び表2で示されているような被削性レベルやその他の特性を有しない結果となることが、実験によって判明している。しかし、式(1)で与えられた銅、亜鉛、シリコンの含有量範囲を単に制限するだけでは、合金組織内に形成されたκ相、γ相、μ相の量を決定することは出来な
い。既に議論した通り、相の構成とκ相、γ相及びμ相の量は被削性の改善に働く。さらに、式(1)で与えられた元素の関係だけでは、被削性を低下させるβ相の量を決定することが出来ない。従って、式(1)は、各構成相が適正な量で得られるような合金組成(つまり、被削性を改善するためにγ相、κ相及びμ相の組合せを最適化し、被削性を低下させるβ相の形成を最小限に抑えること)を決定するための、実験による指標を提供するものである。
【0079】
銅、シリコン、亜鉛以外の元素による、制限式(1)の関係への寄与度を、次の式(2)に記載する。
【0080】
(2)aoZo=a1Z1+a2Z2+a3Z3+…
ここでa1,a2,a3等は実験によって決定された係数であり、Z1,Z2,Z3等は銅、シリコン、亜鉛以外の構成元素の重量%である。つまり、式(1)に関して、Zは選択された元素の量であり、aはその選択された元素の係数である。
【0081】
具体的に、本発明の銅合金を実施するために係数aは次のように決定された:鉛・ビスマス・テルル・セレン・アンチモン・ヒ素の場合、係数aは0;アルミニウムの場合、係数aは−2;リンの場合、係数aは−3;マンガン及びニッケルの場合、係数aは+2.5。式(1)が直接的に本発明合金の鉛・ビスマス・テルル・セレン・アンチモン・ヒ素の量を制限するものではないことは、これらの元素に対する係数aが0であるため、当業者によって認識されるであろう。しかしながら、銅、シリコン、及び係数が0以外の元素の重量%が、制限式(1)を満たす必要があるという事実によって、これらの元素は間接的に制限されるのである。
【0082】
また鉛は、たとえ微量であっても、被削性を改善する要素として本発明合金において重量な役割を果たしている。従って、式(1)を導くに当たり、鉛の効果が考慮された。X−4Y+aZの値が61−50Pbより小さい場合、鉛による効果があるとしても、全体として工業的に満足し得る被削性を得るために必要な相構成は得られない。その一方で、X−4Y+aZの値が66+50Pbより大きい場合、鉛による被削性改善効果にもかかわらず、γ相、κ相及び/又はμ相が過剰に形成されるため、工業的に満足し得る被削性を得ることが出来なくなる。62−50Pb≦X−4Y+aZ≦65+50Pbが満たされることがさらに望ましい。
【0083】
第1発明合金及び第4発明合金をさらに詳しく見ると、制限式(1)は次のように書くことが出来る。
【0084】
(3)61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb
ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である。第1発明合金及び第4発明合金の快削銅合金は、工業的に満足し得る被削性とともに、高い強度を有している。従って、これらの合金は高い実用的価値を有し、従来の快削銅合金から現在製造されている切削加工品、鍛造品、鋳造品に利用することが可能である。例えば、第1及び第4発明合金は、ボルト、ナット、ネジ、スピンドル、ステム、バルブシートリング、バルブ、給水・排水用金具、ギア、一般的機械部品、フランジ、測量器用部品、建築用部品、クランプに適している。
【0085】
第2発明合金及び第5発明合金について、制限式(1)は次のように書くことが出来る。
【0086】
(4)61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb
ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチ
モン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された一つ/又はそれ以上の元素の重量%であり、aはリンの場合−3、アンチモン及びヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2である。第2及び第5発明合金の快削銅合金は、工業的に満足し得る被削性とともに高い耐食性を有している。従って、これらの合金は高い実用的価値を有し、高い耐食性が必要とされる切削加工品、鍛造品、鋳造品に利用することが可能である。例えば、第2及び第5発明合金は、水道栓、温水供給用パイプ金具、シャフト、連結用金具、熱効果器用部品、スプリンクラー、水道栓(ターンコック)、バルブシート、水道メーター、センサー用部品、圧力バルブ、工業用バルブ、ボックスナット、パイプ金具、海洋構造物、ジョイント、止水栓、バルブ、チューブコネクタ、ケーブルコネクタ、接続金具に適している。
【0087】
第3発明合金及び第6発明合金について、制限式(1)は次のように書くことが出来る。
【0088】
(5)61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb
ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Z1はリン、アンチモン、ヒ素、スズ及びアルミニウムから選択された一つ/又はそれ以上の元素の重量%であり、a1はリンの場合−3、アンチモン及びヒ素の場合0、スズの場合−1、アルミニウムの場合−2であり、Z2はマンガン及びニッケルから選択された一つ/又はそれ以上の元素の重量%であり、a2はマンガン及びニッケルの場合2.5である。第3及び第6発明合金の快削銅合金は工業的に満足し得る被削性とともに、高い耐磨耗性と強度を有している。従って、これらの合金は高い実用的価値を有し、高い耐磨耗性及び強度が必要とされる切削加工品、鍛造品、鋳造品に利用することが可能である。例えば、第3及び第6発明合金は、ベアリング、ブッシュ、ギア、ミシン用部品、油圧装置用部品、灯油ヒーター・ガスヒーター用ノズル、リム、スリーブ、釣具用リール、航空機用金具、摺動部材、シリンダー部品、バルブシート,シンクロナイザーリング、高圧力バルブに適している。
【0089】
マンガン及び/又はニッケルがシリコンと結び付いて金属間化合物を形成するような発明合金では、その合金組成は次の式(6)に示されている関係によって、さらに制限される。
【0090】
(6)2+0.6(U+V)≦Y≦4+0.6(U+V)
ここでYはシリコンの重量%、Uはマンガンの重量%、及びVはニッケルの重量%である。
【0091】
まとめると、本発明の第1発明合金から第13発明合金はすべて、式1による合金組成の制限を満足せねばならず、表1及び表2に記載の本発明による実施例はすべて、この制限を満たしている。一方、第3発明合金及び第6発明合金は、式8による合金組成の2次的制限によってさらに制限されている。本発明の銅合金と同じ元素を含有するが、式1及び適切な場合は式8による要求を満たす組成を有しない銅合金は、下記に説明されているように、表1及び表2に記載の本発明による銅合金の特性を有していない。
【0092】
図3A、図3B、図4A及び図4Bは、銅シリコン亜鉛合金の被削性に対する、組成限定式5の一般的効果を図解したものである。図3A及び図3Bは、限定式X−4Y+aZ+50Pb(%)が下限の61に近づくにつれて、あるいは限定式X−4Y+aZ−50Pb(%)が上限の66に近づくにつれて、合金の切削に必要な切削抵抗がどのように上昇するかを実証している。同時に、限定式の下限及び上限を超えると、切削速度120m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑及び短い長方形状切屑(それぞれ◎及び○)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑(▲)へと、その特徴が変化
する。同様に、図4A及び図4Bは、限定式X−4Y+aZ+50Pb(%)が下限の61に近づくにつれて、あるいは限定式X−4Y+aZ−50Pb(%)が上限の66に近づくにつれて、合金の切削に必要な切削抵抗がどのように上昇するかを実証している。しかしながら、この切削抵抗の上昇は、より高速の200m/minでより劇的である。同時に、限定式の下限及び上限を超えると、切削速度200m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑及び短い長方形状切屑(それぞれ◎及び○)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑及び長い切屑(それぞれ▲及び×)へと、その特徴が変化する。従って、切削速度の増加もまた、切削中に生じる切屑の特性に影響を及ぼす。
【0093】
(金属構成)
本発明による銅合金の別の重要な特性として、金属のマトリックスであり、複数相の統合によって形成され、当該銅合金の構成相を生み出す金属の構成が挙げられる。具体的には、当業者であれば認識するように、ある合金はそれが製造されたときの環境によって異なる特性を持つことがある。例えば、スチールを焼戻す際に熱を利用することは良く知られている。ある合金が、鍛造時の条件によって異なる反応をするという事実は、その金属の構成素が統合し、/又は変換して別の相状態となることに因る。表1及び表2に示されているように、本発明による銅合金はすべてα相を含んでおり、本発明を実施するためには総相面積のおよそ30%かそれ以上となる。これは、α相が唯一、合金にある程度の冷間加工性を与えるためである。金属構成における相の関係を示すために、本発明合金に従い、186倍及び364倍で拡大した顕微鏡写真が図2に示されている。ここに写されている合金は第1発明合金であり、表1のNo.2合金に当たる。顕微鏡写真から分かるように、金属構成にはα相のマトリックスと、その中で分散されているγ相及び/又はκ相のどちらか、/又は両方が含まれている。これらの写真には見られないが、この金属構成にはμ相のような別の相が含まれる可能性もある。当業者であれば理解するであろうが、α相が金属の総相面積の30%以下であるとき、そのような銅合金は冷間加工性に欠き、いかなる実践的方法によっても、それ以上切削による加工は不可能である。従って、本発明合金はすべて、α相マトリックスに他の相が供された相構成である金属構成を有している。
【0094】
上述のように、本発明銅合金におけるシリコンの存在により被削性が改善されるが、これは一つにはシリコンがγ相を生じさせるためである。銅合金のγ相、κ相及びμ相のいずれかにおけるシリコン濃度は、α相におけるシリコン濃度の1.5倍から3.5倍の高さとなっている。さまざまな相におけるシリコン濃度は高い方から順にμ≧γ≧κ≧β≧αである。γ相、κ相及びμ相には、α相よりも硬くて脆いという共通する特徴もあり、当該合金が被削性を有するように、また図1に関して記述されていたとおり、切削によって生成される切屑が切削工具を傷めることのないように、当該合金に適度な硬さを与えている。従って、本発明を実施するには、当該合金に適度な硬さを与えるため、γ相、κ相及びμ相のうち少なくとも一つ、/又はこれら3つの相による任意の組合せを、α相の中に有する必要がある。
【0095】
β相は一般的に、従来の銅亜鉛合金の被削性を改善し、C36000やC37700といった従来合金に5%から20%の割合で含まれている。β相を含まないC2700(銅65%及び亜鉛35%)と、β相の割合が10%であるC28000(銅60%及び亜鉛40%)を比較すると、C28000はC2700よりも優れた被削性を有している(”Metals Handbook 第2巻、第10版、ASM ページ217,218を参照のこと)。一方、本発明合金における実験から、β相は被削性に寄与せず、むしろ予測に反して被削性を低下させることが判明している。β相は、被削性改善におけるγ相及びκ相の効果を約1:1の割合で相殺することが判明した。従って、被削性を低下させるため、本発明合金にとって金属構成中にβ相が存在することは望ましくない。また、β相は当該合金の耐食性を低下させるため、さらに望ましくない相となっている。
【0096】
従って、本発明合金の更なる目標は、金属構成中のα相マトリックスにおけるβ相の量を制限することである。β相は、当該合金の被削性にも冷間加工性にも寄与しないため、総相面積の5%かそれ以下に制限することが望まれる。本発明の金属構成においては、β相がゼロであることが好ましいが、相全体の5%以下であれば許容範囲である。
【0097】
被削性の改善において、μ相の効果は小さく、κ相及びγ相による効果の30%程度である。従って、μ相は20%以下、より好ましくは10%以下とすることが望ましい。
【0098】
図7はアーチ型切屑(◎)、短い長方形状の切屑(○)、及び短い螺旋形状切屑(△)の生成を示しており、被削性は鉛量の増加とともに向上することが示されている。本発明では、均一に分散している軟らかい鉛の粒子と、κ相、γ相及びμ相といった硬い相との相乗効果によって、鉛量が増加するにつれて被削性が急速に向上することが示されている。上述の相制限が満たされている場合、図7に示されているように、工業的に満足し得る被削性を得るために必要な鉛量は僅かに0.005%である。しかしながら図7に示されている効果は、金属構成との相乗効果によって生じるものであり、下記式7で示されている関係に従って制限されるときに、76(Cu)−3.1(Si)−Pb(%)合金に工業的に満足し得る被削性を提供する。図7は、鉛量が0.005重量%を下回る場合、一般的に必要とされる切削抵抗は、特にv=120m/min及びv=200m/minといった切削速度がより高い場合に、大幅に増加する。さらに、切屑の特性も変わりやすい。
【0099】
表1及び表2に示されているように、本発明の第11発明合金による合金は、さらに次の金属構成に限定される。
【0100】
(1)およそ30%かそれ以上のα相マトリックス、
(2)5%かそれ以下のβ相、
(3)20%かそれ以下のμ相、及び結果的に
(4)式(7)に示されている関係。
【0101】
(7)18−500Pb≦k+g+0.3m−b≦56+500Pb(0.005%≦Pb≦0.02%)
式(7)において、Pbは鉛の重量%であり、κ、γ、β及びμはそれぞれ金属構成の総相面積におけるκ相、γ相、β相、及びμ相の割合を表している。式(7)は、鉛の重量%が0.005%≦Pb≦0.02%の場合にのみ適用される。この限定のもと、本発明合金に従い、γ相及びκ相は被削性改善への寄与に最も重要な役割を果たしている。しかしながら、単にγ相及び/又はκ相が存在するだけでは、工業的に満足し得る被削性を得るには不充分である。工業的に満足し得る被削性を得るためには、組織におけるγ相及びκ相の全体の割合を決定する必要がある。さらに、金属構成における他の相の影響、例えばμ相やβ相なども考慮に入れる必要がある。本発明の発明者らは実験から、μ相も被削性の向上に効果があるものの、その効果はκ相やγ相に比べると小さいことを発見した。さらに詳しく述べると、μ相による被削性改善の寄与度は、γ相やκ相によってもたらされる寄与度の約30%に過ぎないことが分かった。被削性に関するβ相の存在に関し、β相のマイナス効果により、γ相及び/又はκ相によるプラス効果が1:1の割合で相殺されることを、発明者らは実験により発見した。つまり、一定レベルの被削性の改善を得るために必要なγ相及びκ相を合わせた量は、このような被削性の改善を打ち消すのに必要なβ相の量と同量である。
【0102】
しかし、γ相及びκ相とは異なるメカニズムにより被削性を改善する鉛は、ごく僅かの添加であっても、本発明合金の被削性改善に寄与するものと考えるべきである。被削性に対する効果の要因として鉛を考えると、κ+γ+0.3μ−βによって算出される相の組
合せの許容範囲を広げることができる。被削性の改善効果において、0.01重量%の鉛添加が5%のγ相/又はκ相に匹敵することを、本発明の発明者らは実験から見出した。しかしこれは、鉛が0.005%≦Pb≦0.02%の範囲にある場合のみである。従って、κ+γ+0.3μ−βによって算出される相の組合せの許容範囲は、この割合にもとづき拡大される。従って、各相、つまり被削性を改善するγ相及びκ相、κ相やγ相ほどではないが被削性改善に効果のあるμ相、及び被削性を低下させるβ相の各量は、これらの相を加減することによって、限定式(7)の境界内で補正できる。つまり、式(7)は被削性を評価するための重要な指標であると考えるべきである。κ+γ+0.3μ−βの値が18−500Pbより小さい場合、工業的に満足し得る被削性は得られない。また、22−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦50+500Pbの関係が満たされることがさらに望ましい。
【0103】
図5A、図5B、図6A及び図6Bは、銅シリコン亜鉛合金の被削性に対する、相限定式7の一般的効果を図解したものである。図5A及び図5Bは、限定式κ+γ+0.3μ−β+500Pb(%)が下限の18に近づくにつれて、あるいは限定式κ+γ+0.3μ−β−500Pb(%)が上限の56に近づくにつれて、当該合金の切削に必要とされる切削抵抗が、どのように上昇するかを実証している。同時に、制限式の下限及び上限を超えると、切削速度120m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑、短い長方形状切屑、及び短い螺旋型切屑(◎、○及び△)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑(▲)へと、その特徴が変化する。同様に、図6A及び図6Bは、限定式κ+γ+0.3μ−β+500Pb(%)が下限の18に近づくにつれて、あるいは限定式κ+γ+0.3μ−β−500Pb(%)が上限の56に近づくにつれて、合金の切削に必要な切削抵抗がどのように上昇するかを実証している。しかしながら、この切削抵抗の上昇は、より高速の200m/minでより劇的である。同時に、限定式の下限及び上限を超えると、切削速度200m/minにて、生成される切屑は望ましいアーチ型切屑及び短い長方形状切屑(◎及び○)から、望ましくない中程度の長さの長方形状切屑及び長い切屑(▲及び×)へと、その特徴が変化する。従って、切削速度の増加もまた、切削中に生じる切屑の特性に影響を及ぼす。
【0104】
γ相、κ相及びμ相の合計が、総相面積の70%以上を占めるような金属構成も可能であるが、その結果は被削性に問題はないものの、結果的にα相マトリックスが30%以下ということになり、当該合金の実用的価値を低下させるほどに、冷間加工性に乏しくなる。この最大70%という値には、γ相、κ相、μ相とともに、鉛及びβ相の割合も含まれることがある。もしくはα相が確実に全体の相の少なくとも30%になるようにする。その一方、γ相、κ相及びμ相からなる相の合計が、全体の相の5%未満になる場合、当該合金の被削性は満足できないものとなる。β相は当該合金の被削性にも冷間加工性にも寄与しないため、相全体の5%未満に抑えられている。さらに、α相は軟らかい相であり、従って延性を有するため、極端に少量の鉛を添加した場合でも、当該合金の被削性は大きく改善される。結果として、本発明の金属構成は、γ相、κ相及びμ相がα相内で分散しており、そのようなα相をマトリックスとして利用するものである。
【0105】
(熱処理)
当業者であれば、合金の構成元素の組合せだけでは金属組織を決定づけることはできないということを理解するだろう。それよりも、金属組織は合金が製造される際のさまざまな条件、例えば温度や圧力などにも依存している。例えば、鋳造や押出し、硬ろう付けの後に急冷して得られた金属組織は、ゆっくりとした冷却で得られた金属組織とは大きく異なり、たいていの場合β相を多く含有している。従って、本発明の第8発明合金に従い、β相をγ相及び/又はκ相に変換させるため、あるいは、製造に急冷が必要な場合や、金属組織にγ相及び/又はκ相が存在するものの望ましい分散がなされていない場合に、γ相及び/又はκ相の分散を促進するため、460℃から600℃で20分間から6時間、
熱処理を行う必要がある。上述の熱処理を行うことにより、β相を減らしてγ相及び/又はκ相を分散させることによって、工業的に一層満足し得る被削性を有する合金が得られる。
【0106】
(本発明合金と本発明合金でないものとの比較)
まず、表1にまとめられた結果について記載する。表1記載の合金は、比較合金であるNo.1,No.4,No.5,No.6,No.9,No.13,No.14,No.18,No.19,No.20,No.21,No.22及びNo.23を除き、すべて第1発明合金の範囲に含まれる。合金No.1A,No.1B,No.2,No.3,No.11,No.24,No.25及びNo.26はすべて、第1発明合金の範囲だけでなく、第4発明合金から第11発明合金の、より限定された範囲にも、一つかそれ以上含まれるものである。表1の残りの合金は、相の関係式(7)が満たされない場合や、第4発明合金から第11発明合金の他の制限が満たされていない場合における、さまざまな結果を実証するために提供されている。被削性の結果を解釈する目的で、本発明合金に従い、4種類の切削試験(切削速度60m/min,120m/min,200m/minでの旋盤による切削と、切削速度80m/minでのドリル切削)すべてにおいて、生じる切屑が図1Aのような針状、図1Bのようなアーチ型/又は図1Cのような短い長方形型(長さ25mm未満)のいずれかの場合、優れた被削性が達成される。しかしながら、工業的に満足し得る被削性は、4種類の切削試験(切削速度60m/min,120m/min,200m/minでの旋盤による切削と、切削速度80m/minでのドリル切削)すべてにおいて、生じる切屑が図1Aのような針状、図1Bのようなアーチ型、図1Cのような短い長方形型(長さ25mm未満)/又は図1Fのような1巻きから3巻き以下の短い螺旋状のいずれかの場合に得られる。一方、4種類の切削試験(切削速度60m/min,120m/min,200m/minでの旋盤による切削と、切削速度80m/minでのドリル切削)のいずれにおいても、生ずる切屑が図1Dに見られるような中程度の長さの長方形型(25mm以上75mm未満)、図1Eのような長い切屑(75mm以上)または図1Gのような3巻き以上の螺旋状である場合、被削性は工業的に満足し得るものとならない。
【0107】
例えば、第1発明合金(FIA)No.1AとNo.1Bは同じ合金組成をもち、α相マトリックス、及びγ相とκ相から成り、β相が存在しない金属組織を含んでいる。この2つの合金の違いは、FIA No.1Aは押出し材であり、FIA No.1Bは鋳造であることである。ともに良好な引張り強さを示しており、FIA No.1Aは517N/mm2、FIA No.1Bは416N/mm2である。また、旋盤切削及びドリル切削中に、望ましいアーチ型、あるいは短い長方形状の切屑が生じていることにより、優れた被削性も示されている。さらに、FIA No.1A及びFIA No.1Bの切削に必要な切削抵抗は、約105Nから119Nの妥当な値となっている。一方、比較合金(CA)のNo.1は0.002重量%の鉛を含んでおり、FIA No.1A及びFIA No.1Bとは僅かに組成が異なる。その結果、より速い切削速度(80m/min、120m/min及び200m/min)では、生ずる切屑の形状が短い螺旋形状へと変化する。従って、FIA No.1AからCA No.1へと鉛の含有量を僅かに減らすことにより、当該合金の被削性は、「優れた」被削性から単に「工業的に満足し得る被削性」へと低下する。
【0108】
第1発明合金(FIA) No.2とFIA No.3は押出し及び鋳造で製造されたものである。押出し材において引張り強さが相当高いことを除けば、この2つの形態は似通った特性を表している。切削抵抗が妥当な値である時、工業的な旋盤切削、ドリル切削のどちらにおいても、FIA No.2、FIA No.3は共に、アーチ型あるいは短い長方形状の切屑を生じた。従って、FIA No.2とFIA No.3は優れた被削性を示している。FIA No.1A, FIA No.1B, FIA No.2及び
FIA No.3は良好な耐食性(最大腐食深さ140μm〜160μm)も示している。FIA No.2についてのみエロージョン・コロージョン試験が行なわれ、重量ロス60mgの良好な結果となった。鉛の浸出についても、FIA No.1A,FIA No.2及びFIA No.3について、それぞれの浸出量が0.001mg/Lから0.006mg/Lの範囲と、望ましい低さとなった。FIA No.11は優れた被削性(つまり、アーチ型、針状または板状の切屑を生ずる)を有する、第1発明合金の別例である。
【0109】
比較合金(CA) No.4及びNo.5は、鋳造合金の鉛浸出に対して、鉛添加量の増加が与える影響を示している。CA No.4及びNo.5はそれぞれ0.28重量%及び0.55重量%の鉛を含んでおり、これらの合金の鉛浸出量はそれぞれ0.015mg/L、0.026mg/Lであった。これは第1発明合金に準じて製造された低鉛合金と比べると2.5倍から26倍も高くなっている。一方、750℃で押し出されたCA No.6は、銅亜鉛シリコン系合金において、鉛含有量の減少が被削性に与える影響を示している。鉛量が0.005重量%を下回ると、しばしば切削抵抗の増加が要求され、生じる切屑は長さ25mm〜75mmの長い長方形型、もしくは3巻き以上の螺旋型の望ましくない形状となる。つまり、CA No.6の被削性は工業的に満足し得ないものである。
【0110】
第1発明合金(FIA) No.7は、すべての第1発明合金が工業的に満足し得る被削性を有するわけではないことを示している。上述の通り、被削性は合金の元素量と相構成に依存している。従って、第11発明合金に基づき、工業的に満足し得る被削性を有する合金を選択的に特定するため、更なる限定式18−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦56+500Pbが適用された。表1から明らかなように、FIA No.7は第11発明合金の範囲に含まれていない。
【0111】
第1発明合金(FIA) No.8は、用いられた製造方法が本発明合金の被削性に与える影響を表している。具体的には、FIA No.8は750℃での押出し材、650℃での押出し材、鋳造、及び鋳造後550℃で50分間熱処理したものが提供されている。これら4種類のFIA No.8から分かるように、増加するβ相の存在が被削性に不利な効果をもたらしている。特に、鋳造の試料は最も望ましくない被削性を有しており、β相の割合は4%である。一方、押出し材はβ相の量が最も少なく、優れた被削性を有している。第8発明合金において、FIA No.8の鋳造試料が熱処理(本実施例では550℃で50分間)される場合、β相が変換されγ相+κ相の割合が増加する。このようにγ相+κ相の割合が増加することによって、被削性が改善される(つまり、必要な切削抵抗が低下し、切削で生ずる切屑の形状が、表1で示されているように、中程度の長さの長方形状及び長い長方形状から、アーチ型/又は短い長方形状へと変化する)。従って、FIA No.8の熱処理された鋳造試料は優れた被削性を有する。
【0112】
比較合金(CA) No.9と第1発明合金(FIA) No.10は、α相マトリックス及びγ相、κ相、μ相を有する押出し材における、鉛の影響を表している。特にFIA No.10は、750℃での押出し材、750℃で押出した後490℃で100分間熱処理を行ったもの、650℃での押出し材、及び鋳造の4種類となっている。表1からわかるように、CA No.9とFIA No.10の750℃での押出し材は似通った切削特性を有している。一方、FIA No.10の650℃押出し材と鋳造のどちらも、切削試験の範囲を通じ、アーチ型/又は短い長方形状の切屑を生じ、工業的に満足し得る被削性を有している。また、本発明において、FIA No.10の750℃押出し材に熱処理を施すことにより、第8発明合金は工業的に満足し得る被削性を有する結果となる。
【0113】
比較合金(CA) No.13及びNo.14は、第1発明合金にとって鉛、銅及びシリコンの割合における関係式61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pbの重要性を実証したものである。CA No.13及びCA No.14はこの限定式を満足しておらず、本発明の範囲に含まれる合金ではない。CA No.13及びCA No.14の被削性は工業的に満足し得るものではない。
【0114】
第1発明合金(FIA) No.15は、鋳造される場合に優れた被削性を有し、本発明合金に準ずる合金である。しかしながら本実施例においては、750℃及び650℃で押し出された試料の場合、切削速度が上がるにつれ(つまり80m/min, 120m/min及び200 m/min.)、被削性が大きく異なることが示されている。表1に見られるように、本合金の押出し材は、18−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦56+500Pbの関係を満足しない金属構成を有する。結果的に、FIA No.15の3種の試料はすべて第1発明合金であるのに、鋳造試料のみが工業的に満足し得る被削性を有している。FIA No.15の鋳造試料は第11発明合金でもある。
【0115】
第1発明合金(FIA) No.16及びNo. 17は優れた被削性を有する、第1発明合金の押出し材である。FIA No.17AはFIA No.17と同様の組成を有するが、より低い温度で押し出されたものである。FIA No.17Aの実施例では、μ相の量が過剰であり(μ相20%以上)、工業的に満足し得ない。従って、FIA No.17とFIA No.17Aは、同じ組成を有する合金であっても、大きく異なる金属組織や切削特性を有する結果となる可能性もあることを、再び強調するものである。
【0116】
比較合金(CA) NO.18からNo.23はすべて750℃で押し出された試料であるが、極めて被削性に乏しく、切削には高い切削抵抗(130N〜195N)が必要である。CA No.18は61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pbの関係を満たしておらず、α相単相を有している。CA No.19は第1発明合金の組成と比較するとシリコンが少なすぎ、CA No.21は銅が多過ぎるにもかかわらず、CA No.19とCA No.21のどちらもα相からなる単相を有している。既に述べたとおり、α相単相からなる合金は、工業的に許容出来ない被削性となることが予測される。CA No.20とCA No. 23は、被削性を低下させるβ相が比較的大きい(β相5%以上)例である。CA No.22は銅の量が過剰であり、またα相は20%にしかすぎない。おそらくこれが、当該合金の被削性が工業的に満足できない理由である。
【0117】
第1発明合金(FIA) No.24からNo.26は、本発明の第1発明合金に従い、優れた被削性を有している。FIA No.27は、不純物である鉄の量が0.5重量%を超えると、それ以外の組成が許容範囲であっても、工業的に満足し得ない被削性となることを示すために提供されている。
【0118】
(表2における結果)
表2は第2発明合金と第3発明合金、及び関連の比較合金を編集したものである。さらに具体的には、合金No.2,No.3,No.7,No.8,No.10,No.11,No.14及びNo.14Bはすべて第2発明合金の範囲に含まれる。合金No.15,No.16,No.17,No.18,No.19,No.21,No.22,No.23及びNo.24は、第3発明合金の範囲内である。合金No.1,No.4,No.5,No.6,No.9,No.12,No.13,No.20,No.25,No.26,No.27,No.28,No.29及びNo.30はさらなる比較材であり、本発明の範囲には含まれない。合金No.25は従来合金JIS C3604, CDA C36000; No.26は従来合金JIS C3771, CDA C37700; No.27は従来合金JIS CAC802, CDA C87500; NO.28は従来合金JIS CAC203, CDA C85700; No.29は従来合金JI
S CAC406, CDA C83600; No.30は従来合金JIS C2800, CDA C2800にそれぞれ対応している。
【0119】
表2に示されているように、第2発明合金(SIA)No.2及びNo.3はリンを含有しており、押出し及び鋳造にて提供されている。SIA No.3はさらにアンチモンを含んでいる。SIA No.2及びSIA No.3はα相マトリックスにγ相及びκ相からなる金属構成であり、β相は含んでいない。SIA No.2とSIA No.3は、それぞれに良好な引張り強さを示しており、押出し材のNo.2で525N/mm2、鋳造試料のNo.3で426N/mm2となっている。また、旋盤切削及びドリル切削中に望ましいアーチ型、あるいは短い長方形状の切屑を生じることにより、優れた被削性も実証されている。さらに、SIA No.2及びSIA No.3の加工に必要な切削抵抗も妥当である(およそ98Nから112N)。一方で比較合金(CA) No.1は鉛を0.002重量%含有しており、SIA No.2とは僅かに組成が異なる。その結果、高速の旋盤切削(120m/min及び200m/min)で生ずる切屑の形状が短い螺旋型へと変化する。従って、SIA No.2における鉛量をCA No.1の含有量にまで僅かに減らすことにより、合金の被削性は優れた被削性から単に工業的に満足し得る被削性へと低下する。
【0120】
第2発明合金(SIA) No.2とSIA No.3は押出し及び鋳造で製作された。押出し材では引張り強さが大幅に高いことを除き、この2つは似通った特性を表している。妥当な切削抵抗での旋盤切削及びドリル切削中、SIA No.2とSIA No.3のどちらもアーチ型/又は短い長方形状の切屑を生じた。従ってSIA No.2及びSIA No.3は優れた被削性を表している。また、リンの添加によって、SIA No.2及びSIA No.3はどちらも良好な耐食性(最大腐食深さ10μm未満)を示している。エロージョン・コロージョン試験はSIA No.2だけに行い、重量ロスは50mgから55mgと良好であった。鉛の浸出はSIA No.2で0.001mg/L未満、SIA No.3で0.005mg/Lの範囲であり、望ましい低さであった。SIA No.11, SIA No.14, SIA No.14Bはリンを含む別の第2発明合金であり、優れた被削性(つまりアーチ型、針状、板状のいずれかの切屑を生ずる)、良好な引張り強さ、及び良好な耐食性を示している。
【0121】
比較合金(CA) No.4及びNo.5は、鋳造合金の鉛浸出に対する、鉛量の増加が与える影響を表している。CA No.4及びCA No.5はそれぞれ、0.29重量%、0.048重量%の鉛を含んでおり、その鉛浸出量はそれぞれ0.015mg/L、0.023mg/Lであった。これは、第2発明合金に従って製造された低鉛合金よりも大幅に高い値である。JIS CAC203, CDA:C8570に相当するCA No.28は、リンと鉛を含み、優れた被削性と良好な耐食性を有する、従来からの鋳造合金である。しかし、表2に示されているように、この合金の引張り強さは本発明による第2発明合金の引張り強さの約半分であり、その鉛浸出量は第2発明合金の約78倍である。一方750℃で押し出されたCA No.6は、銅亜鉛シリコン系合金において、減少する鉛の重量%が被削性に与える影響を実証している。鉛が0.005重量%未満の場合、切削抵抗の増加がしばしば要求され、生ずる切屑は長さ25mmから75mmの長い長方形状、あるいは3巻き以上の螺旋形状の望ましくないものとなる。つまり、CA No.6の被削性は工業的に満足できないものである。
【0122】
第2発明合金(SIA) No.7は、第2発明合金がすべて工業的に満足し得る被削性を有するのではないことを実証している。上述のように、被削性は合金の組成とその相構成に依存している。従って、第11発明合金に従い、工業的に満足し得る被削性を有する合金を選択的に特定するために、さらなる限定式18−500Pb≦κ+γ+0.3μ−β≦56−500Pbが用いられている。表2から明らかなように、SIA No.7
は第11発明合金の範囲に含まれない。
【0123】
第2発明合金(SIA) No.8は、用いられた製造工程が本発明合金の被削性に与える影響について表している。具体的には、SIA No.8は750℃での押出し材、650℃での押出し材、及び鋳造にて提供されている。SIA No.8のこれら3種類の形態からわかるように、増加するβ相の存在が被削性にマイナス効果を与えている。特に、鋳造試料は最も望ましくない被削性を示し、5%のβ相を有している。一方、押出し材のβ相の量は最も低く、優れた被削性を有している。従って、押出しであるか鋳造であるかが、当該合金が優れた被削性を有するのか、あるいは工業的に満足し得る被削性という要求を満たさないのかに、影響を与えることがある。
【0124】
比較合金(CA) No.9及び第2発明合金(SIA) No.10は、α相マトリックスとγ相、κ相及びμ相を有する押出し合金における、鉛の効果を表している。具体的には、SIA No.10は750℃での押出し材、750で押出し後580℃で20分間熱処理を施したもの、650℃での押出し材、及び鋳造の4種類が提供されている。表2からわかるように、CA No.9及びSIA No.10の750℃押出し材は似通った切削特性を有している。一方、SIA No.10の650℃での押出し材、/又は鋳造は、切削試験の範囲を通じてアーチ型/又は短い長方形状の切屑を生じ、工業的に満足し得る被削性を有している。本発明に従い、SIA No.10の750℃押出し材に熱処理を行うことにより、工業的に満足し得る被削性を有する第8発明合金が生ずる。
【0125】
比較合金(CA) No.12及びNo.13は、鉛、銅、シリコン及び第2発明合金で選択された他元素の割合における、関係式61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pbの重要性を実証するものである。CA No.13及びCA No.14はこの限定を満たしておらず、本発明の範囲に含まれる合金ではない。CA No.13及びCA No.14の被削性は工業的に満足できるものではない。
【0126】
表2に示されているように、第3発明合金(TIA)No.15,No.16,No.17,No.18及びNo.19は、マンガン/又はニッケルを含有し、押出し材にて提供されている。これらの実施例には、第3発明合金に従い、α相マトリックス及びγ相とκ相の両相を有し、β相の無い金属組織が含まれている。これらの合金は第2発明合金より高い引張り強さを持つ傾向にある。TIA No.15,No.16,No.17,No.18及びNo.19は、旋盤切削及びドリル切削中に生ずる、望ましいアーチ型あるいは短い長方形状の切屑によって実証されるとおり、優れた被削性を表している。さらに、TIA No.15,No.16,No.17,No.18及びNo.19を加工するために必要な切削抵抗は妥当な値である(約112Nから129N)。一方で、CA No.20は関係式(1)を満足しない合金である。結果として、この合金の被削性は工業的に満足し得るものではなく、3巻きかそれ以上の螺旋型という望ましくない切屑を生ずる。
【0127】
第3発明合金(TIA) No.21,No.22,No.23及びNo.24は、第3発明合金がすべて工業的に満足し得る被削性を有するわけではないことを示している。例えば、TIA No.21とNo.23は過剰な量のβ相の量を有する(β相は10%であり、5%を超えている)。切削中、TIA No.21は望ましくない3巻き以上の螺旋型の切屑を生ずる。TIA No.23はドリル切削の際、望ましくない3巻き以上の螺旋型切屑を生じ、高速での旋盤切削では望ましくない長い長方形状の切屑を生ずる。しかしながら、TIA No.24はTIA No.23を熱処理したものに相当し、TIA No.24は、熱処理中にβ相がγ相及び/又はκ相へと変換することにより、β相は僅か3%に過ぎない。TIA No.24は工業的に満足し得る優れた被削性を有している。TIA No.22は少量の鉄(0.35重量%)を含み、旋盤切削中は望まし
い板状の切屑を生ずるが、ドリル切削では望ましくない中程度の長さの長方形状切屑を生じる。従って、TIA No.22は工業的に満足し得ない被削性を示している。
【0128】
比較合金(CA) No.25からNo.30は、従来合金である銅亜鉛合金のさまざまな欠点を実証している。CA No.25, CA No.26及びCA No.28はシリコンもγ相及び/又はκ相も含有せず、鉛量が比較的高いものである。これらの合金は工業的に満足し得る被削性を有するが、それは高い鉛量によって達成されたものである。その結果、それぞれの鉛浸出量は0.35mg/L、0.29mg/L、0.39mg/Lと高く、例えば飲料水提供システムに適用するには許容できない高さとなっている。一方、CA No.27は銅の量が過剰であり、相組成は85%のκ相からなっている。つまり、α相は15%にしか過ぎず、従ってCA No.27はα相マトリックスを有しない。表2からわかるように、CA No.27は工業的に満足し得る被削性を有しない。CA No.29は銅量が少なく、亜鉛と鉛の含有が高い合金である。CA No.29は旋盤切削速度が増加するにつれ(60m/minから120m/min、さらに200m/minまで)、被削性が低下していくことを示す一方、生ずる切屑はアーチ型から板状、さらに中程度の長さの長方形型へと変化する。CA No.29は工業的に満足し得る被削性を有していない上に、鉛の浸出量が0.21mg/Lと、鉛浸出性が高い。最後に、CA No.30はシリコンを含まず、低量の鉛(0.01重量%)のみを含有する銅亜鉛系合金である。しかし、この合金はα相マトリックスに、10%のβ相が分散している相組織であり、γ相もκ相も存在しない。CA No.30は高い鉛量を含まず、γ相及び/又はγ相も無いため、極端に工業的被削性に乏しい合金となっている。
【0129】
比較合金(CA) No.25からNo.30は、合金組成、鉛量、相組織といった複雑で多因子的な効果が、銅亜鉛系合金の被削性に与える影響を表している。高い鉛量は被削性を改善するものの、鉛の浸出量が高くなるという代償がある。一方、低量の鉛を含む銅亜鉛系合金は、工業的に満足し得る被削性を提供しない相組織を有する傾向がある。また、本発明の第1発明合金、第2発明合金、及び第3発明合金は、感知できるほどの鉛が浸出しないために環境に安全であり、工業的に満足し得る銅亜鉛合金を得るために、比較的少量の鉛(つまり、0.005重量%以上0.02重量%未満)と、α相マトリックスにおける、被削性を強化するγ相及び/又はκ相の存在との間の相乗効果を利用したものである。
【0130】
本発明は特定の望ましい実施例に関連して記述されているが、添付のクレームによって定義される本発明の精神と範囲に留まりながら、追加、削除、代替、修正及び改良が可能であることを、当業者は理解するであろう。
【0131】
(関連出願についての相互参照)
本出願は1999年10月27日出願の米国特許出願No.09/983,029に関連するものである。米国特許出願No.09/983,029の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれており、また米国特許出願No.09/983,029は1999年10月27日出願の米国特許出願No.09/403,834の一部継続出願である。米国特許出願No.09/403,834の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれており、そのクレームは1998年10月9日出願の特願平10−287921号の優先権を主張している。日本出願特願平10−287921号の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれている。本出願はさらに、2001年11月13日に出願された米国特許出願No.09/987,173である、現在は米国特許6,413,330と関連があり、その全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれている。米国特許出願No.09/987,173は、2000年6月8日出願の米国特許出願No.09/555,881の一部継続出願であり、その全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれ、そのクレームは1998年10月12日出願の特願平10−288590号の優先権を主張している。特願平10−288590号の全ての開示内容は参照として本明細書に組み込まれている。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1A】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1B】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1C】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1D】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1E】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1F】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図1G】旋盤にて銅合金の丸棒を切削する際に形成される、さまざまなタイプの切屑の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1発明合金の金属組織拡大図(写真)である。
【図3A】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図3B】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図4A】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図4B】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式Cu−4Si+X+50Pb(%)との関係を示すグラフである。
【図5A】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図5B】切削速度v=120m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図6A】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図6B】切削速度v=200m/minでの、本発明合金の切削抵抗と計算式κ+γ+0.3μ−β+500Pbとの関係を示すグラフである。
【図7】式76(Cu)−3.1(Si)−Pb(%)合金における、切削抵抗と鉛量(重量%)との関係を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅71.5〜78.5重量%と、シリコン2.0〜4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満を含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であって、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項2】
銅71.5〜78.5重量%と、シリコン2.0〜4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満と、更にリン0.01〜0.2重量%、アンチモン0.02〜0.2重量%、ヒ素0.02〜0.2重量%、スズ0.1〜1.2重量%及びアルミニウム0.1〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であり、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウムから選択された元素の量であり、aは選択された元素の係数であって、当該選択元素がリンの場合は−3、アンチモンの場合は0、ヒ素の場合は0、スズの場合は−1、アルミニウムの場合は−2である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項3】
銅71.5〜78.5重量%と、シリコン2.0〜4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満と、更にリン0.01〜0.2重量%、アンチモン0.02〜0.2重量%、ヒ素0.02〜0.15重量%、スズ0.1〜1.2重量%及びアルミニウム0.1〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素と、更にマンガン0.3〜4重量%及びニッケル0.2〜3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をマンガンとニッケルの総重量%が0.3〜4.0重量%の間になるように含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であり、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケルから選択された元素の量であり、aは選択された元素の係数であって、当該選択元素がリンの場合は−3、アンチモンの場合は0、ヒ素の場合は0、スズの場合は−1、アルミニウムの場合は−2、マンガンの場合は2.5、ニッケルの場合は2.5である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項4】
当該合金がビスマス0.01〜0.2重量%、テルル0.03〜0.2重量%、及びセレン0.03〜0.2重量%からなる群から選択された少なくとも一つの元素を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項5】
当該合金が0.5重量%を超えない鉄を不純物として含むことを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項6】
当該合金に460℃から600℃で20分から6時間熱処理を施す方法を含むプロセスによって製造されることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項7】
当該合金が(a)α相からなるマトリックス、及び(b)γ相及びκ相からなる群から選択された一つまたはそれ以上の相を含むことを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項8】
γ相及びκ相から選択された一つ/又はそれ以上の相がマトリックス内に均一に分散されることを特徴とする、請求項1〜7の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項9】
次の各関係:
当該合金の総相面積において0%≦β相≦5%であり、
当該合金の総相面積において0%≦μ相≦20%であり、かつ、
当該合金の総相面積において18−500(Pb)%≦κ相+γ相+0.3μ相−β相≦
56+500(Pb)%
をさらに満たすことを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項10】
当該合金の押出し棒または鋳造から形成された丸棒試験片を、乾式下にて、チップブレーカーの無いタングステン・カーバイド工具を用い、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60m/minから200m/min、切削深さ1.0mm、及び送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削したとき、アーチ状型、針状型、及び板状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずることを特徴とする、請求項1〜9の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項11】
当該合金の押出し棒/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、乾式下にて、直径10mm長さ53mmのスチールグレードのドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、及び送り速度0.20mm/revにてドリル切削したとき、アーチ状型及び針状型からなる群から選択された一つ、/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずることを特徴とする、請求項1〜9の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項1】
銅71.5〜78.5重量%と、シリコン2.0〜4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満を含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であって、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項2】
銅71.5〜78.5重量%と、シリコン2.0〜4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満と、更にリン0.01〜0.2重量%、アンチモン0.02〜0.2重量%、ヒ素0.02〜0.2重量%、スズ0.1〜1.2重量%及びアルミニウム0.1〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素を含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であり、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウムから選択された元素の量であり、aは選択された元素の係数であって、当該選択元素がリンの場合は−3、アンチモンの場合は0、ヒ素の場合は0、スズの場合は−1、アルミニウムの場合は−2である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項3】
銅71.5〜78.5重量%と、シリコン2.0〜4.5重量%と、鉛0.005重量%以上0.02重量%未満と、更にリン0.01〜0.2重量%、アンチモン0.02〜0.2重量%、ヒ素0.02〜0.15重量%、スズ0.1〜1.2重量%及びアルミニウム0.1〜2.0重量%から選択された少なくとも一つの元素と、更にマンガン0.3〜4重量%及びニッケル0.2〜3.0重量%から選択された少なくとも一つの元素をマンガンとニッケルの総重量%が0.3〜4.0重量%の間になるように含有し、かつ残部が亜鉛からなる合金組成をなす快削性銅合金であり、当該銅合金における銅及びシリコンの重量%が61−50Pb≦X−4Y+aZ≦66+50Pb(ここでPbは鉛の重量%、Xは銅の重量%、Yはシリコンの重量%、Zはリン、アンチモン、ヒ素、スズ、アルミニウム、マンガン、ニッケルから選択された元素の量であり、aは選択された元素の係数であって、当該選択元素がリンの場合は−3、アンチモンの場合は0、ヒ素の場合は0、スズの場合は−1、アルミニウムの場合は−2、マンガンの場合は2.5、ニッケルの場合は2.5である)を満足することを特徴とする鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項4】
当該合金がビスマス0.01〜0.2重量%、テルル0.03〜0.2重量%、及びセレン0.03〜0.2重量%からなる群から選択された少なくとも一つの元素を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項5】
当該合金が0.5重量%を超えない鉄を不純物として含むことを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項6】
当該合金に460℃から600℃で20分から6時間熱処理を施す方法を含むプロセスによって製造されることを特徴とする、請求項1〜5の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項7】
当該合金が(a)α相からなるマトリックス、及び(b)γ相及びκ相からなる群から選択された一つまたはそれ以上の相を含むことを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項8】
γ相及びκ相から選択された一つ/又はそれ以上の相がマトリックス内に均一に分散されることを特徴とする、請求項1〜7の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項9】
次の各関係:
当該合金の総相面積において0%≦β相≦5%であり、
当該合金の総相面積において0%≦μ相≦20%であり、かつ、
当該合金の総相面積において18−500(Pb)%≦κ相+γ相+0.3μ相−β相≦
56+500(Pb)%
をさらに満たすことを特徴とする、請求項1〜8の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項10】
当該合金の押出し棒または鋳造から形成された丸棒試験片を、乾式下にて、チップブレーカーの無いタングステン・カーバイド工具を用い、すくい角−6度、ノーズ半径0.4mm、切削速度60m/minから200m/min、切削深さ1.0mm、及び送り速度0.11mm/revにてその円周上を切削したとき、アーチ状型、針状型、及び板状型からなる群から選択された一つ/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずることを特徴とする、請求項1〜9の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【請求項11】
当該合金の押出し棒/又は鋳造から形成された丸棒試験片を、乾式下にて、直径10mm長さ53mmのスチールグレードのドリルを用い、ねじれ角32度、ポイントアングル118度、切削速度80m/min、ドリル深さ40mm、及び送り速度0.20mm/revにてドリル切削したとき、アーチ状型及び針状型からなる群から選択された一つ、/又はそれ以上の形状を有する切屑を生ずることを特徴とする、請求項1〜9の何れかに記載する鉛を超低量含む快削銅合金。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【公表番号】特表2009−509031(P2009−509031A)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515778(P2008−515778)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/JP2005/018206
【国際公開番号】WO2007/034571
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【公表日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【国際出願番号】PCT/JP2005/018206
【国際公開番号】WO2007/034571
【国際公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
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