説明

鉛蓄電池極板用格子体の鋳造用離型剤

【課題】鉛蓄電池に使用する極板用格子体を鋳造するに際して、鋳型面からの脱落が極めて少ないばかりか、適切な断熱性を付与するコルク粉末含有離型剤を提供する。故に、その寿命が著しく長く、かつ鋳型全体の隅々まで鉛合金湯を均一に行き渡らしめることができる一方、短時間のうちに鉛合金湯を凝固せしめることができる。従って、これらの効果の相乗作用により、極めて均質な極板用格子体を著しく高い生産性を伴って製造することができる。
【解決手段】鉛蓄電池極板用格子体の鋳造に使用するコルク粉末含有離型剤において、コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値が1〜10質量%であることを特徴とする離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の極板に使用する格子体を鋳造する際に、その鋳型に塗布する離型剤に関し、更に詳細には、コルク粉末を含有する該離型剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池の極板として使用する格子体の製造方法としては、重力鋳造法及び連続鋳造法が広く使用されている。例えば、重力鋳造法においては、まず、鋳型面に離型剤を塗布し、次いで、鋳型に溶融した鉛合金湯を流し込み、該湯が冷却されて凝固した後、鋳型から取り出し、次いで、所望の寸法に切断して格子体とする。
【0003】
上記の離型剤としては、通常、ケイ酸ソーダを含むコルク粉末を水に分散した分散液が使用され、該分散液がスプレーガン等で鋳型表面に塗布される。このようにして鋳型表面に塗布されたコルク粉末の層が断熱層として作用して、流し込んだ鉛合金湯の保温性を高め、それにより、該湯を鋳型の隅々まで均等に分散させることができると共に、離型剤として作用して、凝固した鉛合金を鋳型から容易に取り出すことができる。しかし、該コルク粉末の層は、耐熱性に劣りかつ機械的衝撃に弱いため、繰り返し鋳造が行われると鋳型面から徐々に脱落する。よって、鋳造作業中に再度、コルク粉末の層を塗布する必要が生ずる。従って、生産性の低下を招くことはもちろんのこと、コルク粉末の層の脱落により、製造される格子体の重量及び厚みにバラツキが生じ易い。
【0004】
そこで、該コルク粉末の層の脱落を防止して、その寿命を高めるために種々の取り組みがなされている。例えば、粒径1〜100ミクロン程度のコルク粉末を所定濃度で分散した溶液中に、耐熱性を有する熱硬化性樹脂水溶性ワニスを所定量で加えた溶液を、格子鋳造用金型の内面に吹き付けた後、該金型を用いて鋳造を行う鉛蓄電池用格子鋳造方法が知られている(特許文献1)。また、コルク粉末と結合剤とから成る断熱層の上面に、無機物質粉末と無機物質結合剤とから成る保護層を形成した鉛格子体鋳造金型が知られている(特許文献2)。しかし、これらの発明では、所定の水溶性ワニス及び保護層が必要であり、作業が煩雑になると共に、コスト高を招くと言う問題があった。
【0005】
更に、鉛蓄電池用格子体の彫刻面を有する鉛蓄電池用鋳造金型において、前記彫刻面に表面の最大粗さが70μm以下である塗型層を有する鉛蓄電池用格子体鋳造金型が知られている(特許文献3)。しかし、該発明では、所定の表面粗さにするためにサンドペーパー等を使用して塗型層の表面を擦る等の作業が必要であり、著しく煩雑であり、生産性を悪くしていた。
【0006】
また、特許文献1の実施例では粒径1〜5ミクロン程度のコルク粉末を使用している。しかし、このように粒径が細か過ぎると、強固な断熱層を形成し得るが、コルク層中に適度な空気層が形成されず断熱効果が低下する。
【0007】
【特許文献1】特開昭58−20364号公報
【特許文献2】特開平8−229665号公報
【特許文献3】特開平8−197230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、鉛蓄電池の極板に使用する格子体を鋳造するに際して、鋳型面からの脱落が極めて少ないばかりか、適切な断熱性を付与するコルク粉末含有離型剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術のようにコルク粉末中に水溶性ワニス等のバインダーを混入せしめる方法、若しくはコルク粉末層を保護層でコーティングする方法、又はコルク層の表面粗さを機械的に調節する方法では、作業性が著しく低下し、またコスト高を招く。そこで、本発明者らは、従来、コルク粉末層が短期間のうちに脱落してしまうのは、その粒度分布に問題があるのではないかと考え、コルク粉末の粒度分布を調節すると言う基本に戻り、種々の検討を重ねた。その結果、離型剤に使用するコルク粉末の粒度を下記のように調整すれば、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)鉛蓄電池極板用格子体の鋳造に使用するコルク粉末含有離型剤において、コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値が1〜10質量%であることを特徴とする離型剤である。
【0011】
好ましい態様として、
(2)コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値が2〜7質量%であるところの上記(1)記載の離型剤、
(3)コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値が2〜5質量%であるところの上記(1)記載の離型剤、
(4)コルク粉末の平均粒径が30〜70μmであるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の離型剤、
(5)コルク粉末の平均粒径が30〜60μmであるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の離型剤、
(6)コルク粉末の平均粒径が30〜50μmであるところの上記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の離型剤、
(7)コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値が1〜12質量%であるところの上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の離型剤、
(8)コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値が1〜10質量%であるところの上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の離型剤、
(9)コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値が5〜10質量%であるところの上記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の離型剤、
(10)コルク粉末の粒度分布において、0.1〜200μmの粒径の粒子が90質量%以上であるところの上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の離型剤、
(11)コルク粉末の粒度分布において、0.1〜200μmの粒径の粒子が95質量%以上であるところの上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の離型剤、
(12)コルク粉末の粒度分布において、0.1〜200μmの粒径の粒子が98質量%以上であるところの上記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の離型剤
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコルク粉末含有離型剤は、鉛蓄電池の極板に使用する格子体を鋳造するに際して、鋳型面からの脱落が極めて少ない。故に、その寿命が著しく長い。加えて、離型剤層に適切な断熱性を付与し得る故に、鋳型全体の隅々まで鉛合金湯を均一に行き渡らしめることができる一方、短時間のうちに鉛合金湯を凝固せしめることができる。従って、これらの効果の相乗作用により、極めて均質な極板用格子体を著しく高い生産性を伴って製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のコルク粉末含有離型剤において、コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値の上限は、10質量%、好ましくは7質量%、より好ましくは5質量%であり、下限は、1質量%、好ましくは2質量%である。上記上限を超えては、鋳型表面に塗布した際に、離型剤層の凹凸が激しくなる。故に、極板用格子体の製造時における鉛合金湯の流動により離型剤層が脱落し易くなる。上記下限未満では、強固な離型剤層が形成され、その脱落が低減される一方、適度な量の空気を含有する離型剤層が得られず、必要以上に断熱性が向上して、鉛合金湯の凝固時間が増加する。故に、鋳造1サイクルに要する時間が長くなり、生産性が低下する。
【0014】
コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値の上限は、好ましくは12質量%、より好ましくは10質量%である。一方、下限は、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%である。上記上限を超えては、形成された離型剤層に必要な空気層を10μm以下のコルク粒子が埋める故に、必要以上に高い断熱性を有する離型剤層が形成される。従って、鉛合金湯の凝固速度が著しく低下し、鋳造サイクルが増大することがある。上記下限未満では、離型剤層と鋳型表面との結合及び離型剤層を形成するコルク粒子間の結合が弱くなり、機械的衝撃による離型剤層の脱落が生じ易い。コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値を上記の範囲に調整することにより、離型剤層中に、適度な空気層が形成され、かつ粒径10μm以下のコルク粒子がより大きなコルク粒子の粒子間に適量侵入して、離型剤層と鋳型表面との結合及び離型剤層を形成するコルク粒子相互間の結合をより強固にすることにより、より脱落の少ない、より適切な断熱性を有する離型剤層を形成することができる。
【0015】
コルク粉末の平均粒径の上限は、好ましくは70μm、より好ましくは60μm、更に好ましくは50μmである。一方、下限は、好ましくは30μmである。上記上限を超えては、鋳型表面に塗布した際に、離型剤層の凹凸が激しくなる。故に、極板用格子体の製造時における鉛合金湯の流動により離型剤層が脱落し易くなる。また、コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値を上記の所定値にコントロールすることが容易ではなくなる。一方、上記下限未満では、離型剤層中に適度な空気層が形成されず断熱効果が低下する。また、コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値を上記の所定値にコントロールすることが容易ではなくなる。
【0016】
本発明のコルク粉末の粒度分布において、0.1〜200μmの粒径の粒子が、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上で存在する。好ましくは10〜100μmの粒径の粒子が、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上で存在する。該粒度分布は、所定の粒径を中心に連続的な単一ピークをしめす。該粒径範囲のコルク粉末であり、粒径100μm以上の粒子の累積値が上記本発明の範囲内であり、かつ好ましくは、粒径10μm以下の粒子の累積値及び平均粒径が上記本発明の範囲内であれば、コルク粉末全体の粒度分布の変化は、本発明の効果に大きな影響を及ぼさない。
【0017】
コルク粉末の粒度に関する上記の全ての値は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定を使用して得られた値に基づく。但し、粒径100μm以上の粒子の累積値及び粒径10μm以下の粒子の累積値に関しては、夫々、目開き100μm角の篩及び目開き10μm角の篩を使用して、コルク粉末を篩うことにより、上記の所定値に調整することもできる。
【0018】
本発明で使用されるコルク粉末は、天然コルク、即ち、コルクガシの樹皮を粉砕、精製して得られた粒状コルクを粉砕したものである。該粒状コルクとしては、市販品を使用することができ、例えば、永柳工業株式会社製200A(商標)等を挙げることができる。
【0019】
粒状コルクを粉砕して、上記本発明の粒度分布を有するコルク粉末を製造する方法に特に制限はない。粉砕装置としては公知のものを使用することができ、例えば、ジェット粉砕機、ボールミル、振動ミル、ディスクミル、ハンマーミル等を使用することができる。
【0020】
本発明のコルク粉末は、上記の各粉砕装置の粉砕条件を適宜変更することにより容易に製造することができる。例えば、乾式ジェット粉砕機を使用する際には、粉砕機への粒状コルクの仕込み量、供給圧及び粉砕圧力を適宜調節することにより、所望の粒度分布及び平均粒径を有するコルク粉末を製造することができる。また、このようにして得られたコルク粉末を目開き100μm角及び10μm角の篩を使用して、粒径100μm以上の粒子及び粒径10μm以下の粒子の累積値を適宜調節することもできる。
【0021】
上記のようにして製造されたコルク粉末は、常法に従って、鉛蓄電池の極板として使用する格子体の鋳造において離型剤として使用される。また、該離型剤には、本発明のコルク粉末のほか、本発明の効果を損なわない範囲で、ケイ酸ソーダ(水ガラス)、ワニス等のバインダー、及びシリカ、珪藻土微粉末等の無機物質等を含めることができる。
【0022】
以下、実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
[コルク粉末の製造]
使用した機器及び原料は下記の通りである。
<粉砕機>
乾式ジェット粉砕機:株式会社セイシン企業製、STJ−200(商標)
<粒度測定装置>
レーザー回折・散乱式粒度分布測定器:株式会社セイシン企業製、LMS−30(商標)
<原料>
天然コルク粉末:永柳工業株式会社製、200A(商標)、平均粒径:60μm、粒度範囲:約10〜200μm
【0024】
(平均粒径50μm、40μm及び30μmの各コルク粉末の製造)
原料の天然コルク粉末を上記乾式ジェット粉砕機において粉砕することにより各平均粒径を有するコルク粉末を製造した。粉砕機への原料仕込み量をいずれも10kgとし、かつ原料供給圧をいずれも0.7MPaとした。また、粉砕圧力を夫々、1.0MPa、0.7MPa及び0.35MPaとして、平均粒径が50μm、40μm及び30μmの各コルク粉末を製造した。平均粒径50μm、40μm及び30μmの各コルク粉末並びに原料の天然コルク粉末の粒度範囲、粒径100μm以上の粒子の累積値及び粒径10μm以下の粒子の累積値を表1に示す。平均粒径及び粒度範囲は、上記のレーザー回折・散乱式粒度分布測定器により測定したものである。また、各累積値は、目開き100μm角及び0μm角の篩を使用して測定したものである。
【0025】
【表1】

【0026】
(粒径100μm以上の累積値の調整)
上記のようにして製造した各平均粒径を有するコルク粉末を目開き100μm角の篩を使用して、粒径100μm以下と粒径100μm以上とに分別した。ここで、篩上を粒径100μm以上とし、篩下を粒径100μm以下とした。次いで、粒径100μm以上の累積値が所定の質量%となるように両者を採取して混合し、各試料を調製した。ここで、平均粒径40μmのコルク粉末に関しては粒径100μm以上のコルク粒子の不足分のために、また、平均粒径30μmのコルク粉末に関しては粒径100μm以上のコルク粒子の全量のために、原料の天然コルク粉末を篩分けして得られた粒径100μm以上のコルク粒子を使用して試料を調製した。各粒子を採取する際には、いずれも平均的な粒子を採取し得るように、分別した各粒子を夫々良く混合した後、JIS Z8816に準拠して円錐四分法を使用した。
【0027】
(粒径10μm以下の累積値の調整)
上記と同様にして目開き10μm角の篩を使用して、粒径10μm以下と粒径10μm以上とに分別した。ここで、篩下を粒径10μm以下とし、篩上を粒径10μm以上とした。次いで、粒径10μm以下の累積値が所定の質量%となるように両者を採取して混合し、各試料を調製した。各粒子を採取する際には、上記と同様にしていずれも平均的な粒子を採取した。
【0028】
[離型剤の製造]
上記のようにして得たコルク粉末45グラムと水500ミリリットルとを混合し、次いで、室温で約10時間攪拌してコルクを水中によく分散させて液Aを製造した。別途、親水性フュームドシリカ(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL200(商標))15グラムと水500ミリリットルとを混合してフュームドシリカの塊が残らないように良く分散させ、次いで、そのまま室温で約10時間放置して液Bを製造した。次いで、得た液Aの全量と液Bの全量とを混合し、室温で約10時間攪拌した。次いで、該混合液にケイ酸ソーダ40グラムを混合し、更に、室温で約10時間攪拌して離型剤を製造した。
【0029】
[鋳型への離型剤塗布]
上記のようにして得た離型剤を、スプレーガンを使用して、予め200℃に保持した鋳型全面に約0.1mmのコルク層が形成されるように均一にスプレー塗布した。次いで、鉛合金湯が鋳型の格子体形成箇所に流れ易いようにするために、格子体形成箇所の外枠部分のみに、更に離型剤を均一にスプレー塗布して、外枠部分のコルク層の厚さが合計で約0.3mmとなるようにした。
【0030】
[格子体の鋳造]
上記のようにして製造された、離型剤が塗布された鋳型を使用して、幅285mm、高さ130mm及び厚さ1.45mmのカルシウム鉛合金格子体を鋳造した。鋳造時の鋳型温度は200℃であり、かつ溶湯温度は600℃であった。製造された格子体の質量は約90グラムであった。次いで、同一の鋳型を使用し、かつ同一条件でカルシウム鉛合金格子体を鋳造し、製造された格子体の質量を測定した。この操作を、製造された格子体の質量が100グラム以上になるまで繰り返した。格子体を繰り返し製造する操作は、溶湯を鋳型に流し込み、湯口に溜まった溶湯が凝固したのを目視で確認して、出来上がった格子体を鋳型から取り出し、その後、再び溶湯を鋳型に流し込む作業を繰り返すことにより実施した。従って、溶湯の凝固に要する時間が変動すれば、格子体製造の1サイクルに要する時間も変動する。下記の表2〜5において、鋳造面数とは、上記のようにして製造された格子体の合計数(面)を言い、鋳造時間とは、全格子体を製造するのに要した時間[時間(hour)]を言う。また、総合評価は、鋳造面数と鋳造時間とから判断したものであり、表中の各記号は、○:非常に良好、Δ:良好、×:不良を意味する。
【0031】
[実施例1〜4及び比較例1〜3]
上記の平均粒径60μmの天然コルク粉末200A(商標)を使用し、上記のようにして粒径100μm以上の累積値が、夫々、20質量%、15質量%、10質量%、5質量%、2質量%、1質量%及び0質量%となるように調整して、7種類のコルク粉末を製造した。また、該コルク粉末において、粒径10μm以下の累積値は0質量%であった。該コルク粉末を使用して、上記のようにして離型剤を製造し、鋳型へ塗布した。その鋳型を使用して格子体を製造した。その結果を表2に示した。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例1〜4は、平均粒径60μmのコルク粉末を使用して、粒径100μm以上の累積値を本発明の範囲内で変化させたものである。いずれも良好な鋳造時間及び鋳造面数を示した。実施例1〜3では、粒径100μm以上の累積値の増加に伴って、鋳造時間及び鋳造面数が増加する傾向にあった。実施例4では、実施例3に対して鋳造時間及び鋳造面数が若干減少したが、本発明の効果を十分に発揮し得るものであった。
【0034】
一方、比較例1〜3は、平均粒径60μmのコルク粉末を使用して、粒径100μm以上の累積値を本発明の範囲外にしたものである。比較例1は、粒径100μm以上の粒子を含まないものである。実施例1に比べて、より強固なコルク層を形成し鋳造時間は増加したが、それによりコルク層の断熱性が必要以上に増加して、溶湯の凝固時間が長くなった。その結果、格子体製造の1サイクルに要する時間が長くなり、鋳造面数が低下した。比較例2及び3は、粒径100μm以上の累積値が本発明の範囲を超えたものである。格子体を繰り返し製造する操作において、コルク層の脱落が目立ち、結果として、鋳造時間及び鋳造面数が著しく低下した。
【0035】
[実施例5〜8]
上記のようにして製造した平均粒径50μmのコルク粉末を使用した。まず、実施例3と同一にして、粒径100μm以上の累積値が5質量%となるように調整した。次いで、粒径10μm以下の累積値が、夫々、0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%となるように調整した。該コルク粉末を使用して、上記のようにして離型剤を製造し、鋳型へ塗布した。その鋳型を使用して格子体を製造した。その結果を表3に示した。
【0036】
[実施例9〜12]
上記のようにして製造した平均粒径40μmのコルク粉末を使用し、粒径10μm以下の累積値が、夫々、0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%となるように調整した以外は、実施例5と同一に実施した。但し、粒径100μm以上の累積値が5質量%となるように調整した際、不足分の粒径100μm以上の粒子を、原料の天然コルク粉末を篩分けして得られた粒径100μm以上のコルク粒子から補充した。その結果を表4に示した。
【0037】
[実施例13〜16]
上記のようにして製造した平均粒径30μmのコルク粉末を使用し、粒径10μm以下の累積値が、夫々、0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%となるように調整した以外は、実施例5と同一に実施した。但し、粒径100μm以上の累積値が5質量%となるように調整した際、粒径100μm以上の粒子として、原料の天然コルク粉末を篩分けして得られた粒径100μm以上のコルク粒子を使用した。その結果を表5に示した。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
実施例5〜8は、いずれも平均粒径50μmのコルク粉末を使用して、粒径100μm以上の累積値を5質量%に調節し、かつ粒径10μm以下の累積値を、夫々、0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%にしたものである。実施例5は、平均粒径60μmのコルク粉末を使用し、粒径100μm以上の累積値を5質量%とした実施例3の結果と同一であり、鋳造時間及び鋳造面数は良好であった。実施例6においては、鋳造時間は実施例5とあまり変わらないものの、鋳造面数は著しく増加した。粒径10μm以下の累積値を0質量%から5質量%にすると、鋳造面数を著しく増加させ得ることが分かった。粒径10μm以下の累積値を実施例6より更に多くした実施例7においては、鋳造面数が更に著しく増加した。実施例8においては、鋳造時間は実施例5及び6とほぼ同じてあった。鋳造面数は多少の低下が見られたが、本発明の効果を損なうものではなかった。
【0042】
実施例9〜12は、いずれも平均粒径40μmのコルク粉末を使用して、粒径100μm以上の累積値を5質量%に調節し、かつ粒径10μm以下の累積値を、夫々、0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%にしたものである。実施例9は、平均粒径50μmのコルク粉末を使用した実施例5と比べて鋳造時間及び鋳造面数が多少増加した。実施例10及び11においては、鋳造時間及び鋳造面数は著しく増加した。一方、粒径10μm以下の累積値を実施例10及び11より更に多くした実施例12においては、却って、鋳造時間及び鋳造面数は減少した。しかし、本発明の効果を十分発揮し得るものであった。
【0043】
実施例13〜16は、いずれも平均粒径30μmのコルク粉末を使用して、粒径100μm以上の累積値が5質量%に調節し、かつ粒径10μm以下の累積値を、夫々、0質量%、5質量%、10質量%及び15質量%にしたものである。実施例13は、平均粒径40μmのコルク粉末を使用した実施例9と同一の鋳造時間及び鋳造面数であった。実施例14及び15においては、平均粒径40μmのときと同様に、鋳造時間及び鋳造面数は著しく増加した。一方、粒径10μm以下の累積値を実施例14及び15より更に大きくした実施例16においては、却って、鋳造時間及び鋳造面数は減少した。しかし、本発明の効果を十分発揮し得るものであった。
【0044】
以上の実施例及び比較例の結果から、離型剤として使用するコルク粉末の粒径100μm以上の累積値を1〜10質量%とすることにより、格子体の鋳造時間及び鋳造面数を著しく増加させ得ることが分かった。また、粒径10μm以下の累積値を5質量%及び10質量%とすることにより、格子体の鋳造時間及び鋳造面数を更に著しく増加させ得ることが分かった。加えて、コルク粉末の平均粒径が30μm〜50μmの範囲で格子体の鋳造時間及び鋳造面数が著しく良好であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のコルク粉末含有離型剤は、鉛蓄電池に使用する極板用格子体を鋳造するに際して、極めて均質な極板用格子体を著しく高い生産性を伴って製造することができる。従って、高品質、高性能の鉛蓄電池を安価かつ効率的に製造するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池極板用格子体の鋳造に使用するコルク粉末含有離型剤において、コルク粉末中の粒径100μm以上の粒子の累積値が1〜10質量%であることを特徴とする離型剤。
【請求項2】
コルク粉末の平均粒径が30〜50μmであり、かつコルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値が1〜10質量%であるところの請求項1記載の離型剤。
【請求項3】
コルク粉末中の粒径10μm以下の粒子の累積値が5〜10質量%であるところの請求項1又は2記載の離型剤。

【公開番号】特開2010−110770(P2010−110770A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283569(P2008−283569)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)