説明

銀イオン導電性固体電解質の合成法

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は、全固体二次電池、全固体電気二重層キャパシタをはじめとする全固体電気化学素子に用いられる、銀イオン導電性固体電解質の合成法に関する。
従来の技術 現在電池をはじめとする電気化学素子においては、電解質に液体を使用しているため、電解質の漏液等の問題を皆無とすることができない。こうした問題を解決し信頼性を高めるため、また素子を小型、薄膜化するためにも、液体電解質に代えて固体電解質を用い、素子を全固体化する試みが各方面でなされている。
ここで用いられる主なる固体電解質としては、胴イオン導電性、銀イオン導電性、リチウムイオン導電性のものなどがあるが、特にヨウ化銀、酸素酸銀よりなる銀イオン導電性固体電解質は、大気中の湿度や酸素に対しても安定であり、高信頼性を有する電気化学素子を構成する上で極めて有用な材料となっている。
このようなヨウ化銀と酸素酸銀よりなる銀イオン導電性固体電解質のなかでもAg6I4WO4で表わされるヨウ化銀とタングステン酸銀よりなる銀イオン固体電解質は、そのガラス転移温度が他のものに比べて高く、熱的にも安定した特性を示すことから各方面で研究が進められている。
このAg6I4WO4で表わされるヨウ化銀とタングステン酸銀よりなる銀イオン固体電解質の合成法としては、高橋らの論文(J.Electrochem.Soc.,vol.120,No.5,647(1973))等に書かれているように、ヨウ化銀、タングステン酸銀を出発物質として混合し、その混合物を減圧に封管したパイレックス管中で溶融反応させる方法が取られている。
また、Y.C.Chanらによると酸素雰囲気下で溶融反応させる方法が取られており(Proceeding of NCKU/ASS International Symposium On Enginnering Science and Mechanics p.1381−1388)、Wang Shungによると窒素雰囲気下で溶融反応させる方法が取られている(Materials for Solid State Batteries,p.467−473,(1986))。
発明が解決しようとする課題 しかしながら、溶融反応を減圧封管されたパイレックス管中で行なうと、固体電解質を大量に合成する際に合成するための出発物質を少量づつ封入しなければならず、固体電解質を一時に大量に合成することが困難であるといった問題を有していた。また、溶融反応を酸素雰囲気下または窒素雰囲気下で行なうためには、酸素ガスまたは窒素ガスおよびその供給装置を設けなければならず、やはり材料の合成コストが高くなるといった問題を有している。
本発明は、溶融反応時の減圧封管、雰囲気等の合成条件の複雑さを解決し、銀イオン導電性固体電解質を容易な方法で合成することを可能とし、またそれに伴い合成コストの低減を可能とさせるものである。
課題を解決するための手段 本発明は、上記目的を達成するため、ヨウ化銀と酸化銀と酸化タングステンとの混合物、あるいはヨウ化銀とタングステン酸銀との混合物を、大気中で加熱溶融反応させることにより銀イオン導電性固体電解質の合成を行なう。
作用 本発明によれば、出発物質の混合物を大気中で加熱することにより、出発物質の混合物をパイレックス管中に封入する必要がなくなり、容易に大量に合成することができ、酸素ガスや窒素ガスを用いることなく合成することになるため、これらのガスおよびその供給装置が不要となりコストを下げることができる。
実施例(第1実施例)
最初に、出発物質として特級試薬のヨウ化銀(AgI)、酸化銀(Ag2O)、酸化タングステン(WO3)をモル比で4:1:1の比となるように秤量し、アルミナ乳鉢で混合した。この混合物を加圧成形しペレット状とした後、パイレックス坩堝中にいれ、大気中で400℃で18時間溶融、反応させた。その反応物を乳鉢で200メッシュ以下に粉砕し、Ag6I4WO4で表わされる銀イオン導電性の固体電解質Aを得た。
このようにして得られた固体電解質の特性は、イオン伝導性と電子絶縁性の測定を行うことにより評価した。
先ずイオン伝導性については、以下のようにして得られた固体電解質A、Bの粉末を200mg秤量し、両側に10mmφの白金板を配し、4ton/cm2で10mmφに加圧成形し電気伝導度の測定セルを構成し、この測定セルを用い、電気伝導度の温度変化を交流インピーダンス測定法により評価した。その結果を第1図に示す。但し、第1図は縦軸に電気伝導度を対数表示し、横軸に絶対温度の逆数を表示したものである。
次に電子絶縁性については、以下のようにして得られた固体電解質Aの粉末を200mg秤量し、一方に10mmφのイオンブロッキング電極として白金板を、もう一方に10mmφの銀板を配し、4ton/cm2で10mmφに加圧成形し電気伝導度の測定セルを構成し、この測定セルを用い、20℃において定電圧印加時に流れる定常電流を測定することにより評価した。その結果を横軸に銀板に対する白金板の電圧,縦軸に定常電流値をとり第2図に示す。
比較例として出発物質としてヨウ化銀とタングステン酸銀を用い、以下の方法により銀イオン導電性固体電解質Bを得た。
先ず、硝酸銀(AgNO3)、タングステン酸ナトリウム(Na2WO4・2H2O)をモル比で1:1に秤量し、これらを純水中で溶解混合した。この溶液より沈澱物をろ過し、その沈澱物を純水により7回洗浄後、窒素雰囲気下で120℃で3時間乾燥しAg2WO4で表わされるタングステン酸銀を得た。このようにして得たAgWO4と上記で用いたAgIをモル比で4:1に混合したものを用いた以外は、上記と同様の方法でAg6I4WO4で表わされる銀イオン導電性固体電解質Bを得た。
つぎに、比較例として、AgI、Ag2O、WO3をモル比で4:1:1に混合した混合物を加圧成形しペレット状とした後、パイレックス管中に減圧封入し、400℃で18時間溶融反応させた以外は上記と同様の方法により、Ag6I4WO4で表わされる銀イオン導電性固体電解質Cを得た。
この固体電解質B、Cを用い、上記と同様の方法でイオン伝導性、電子絶縁性の評価を行なった。その結果を第3図(イオン伝導性)および第4図(電子絶縁性)に示す。
固体電解質Aの特性は、イオン伝導性、電子絶縁性とも、比較のために合成した固体電解質B、Cと大きな差異は認められず、本実施例によると、イオン伝導性、電子絶縁性といった固体電解質の特性を損なうことなく、容易な方法で銀イオン導電性固体電解質を得ることができることがわかる。
(第2実施例)
AgI、Ag2WO4モル比で4:1に混合したものを出発物質として用いた以外は第1実施例と同様の方法により、Ag6I4WO4で表わされる銀イオン導電性の固体電解質Dを得た。
この固体電解質Dを用い、第1実施例と同様の方法でイオン伝導性、電子絶縁性の評価を行なった。その結果を第5図(イオン伝導性)および第6図(電子絶縁性)に示す。
固体電解質Dの特性は、イオン伝導性、電子絶縁性とも、第1実施例における固体電解質B、Cと大きな差異は認められず、本実施例によると、イオン伝導性、電子絶縁性といった固体電解質の特性を損なうことなく、容易な方法で銀イオン導電性固体電解質を得ることができることがわかる。
なお、上記実施例においては、固体電解質の組成としてAg6I4WO4で表わされる銀イオン導電性の固体電解質の合成法のみについて述べたが、他の組成、即ちpAgI−qAg2O−rWO3またはxAgI−yAg2WO4の一般式で表わされる銀イオン導電性固体電解質についても、その組成に固有のイオン伝導性や電子絶縁性を示すという違いが生じるのみであり、同様の効果が得られることはいうまでもない。
発明の効果 以上のように本発明によると、タングステン酸銀を予め合成する必要がなく、固体電解質の構成成分のみの混合物から容易な方法で銀イオン導電性固体電解質を得ることができ、またそれに伴い合成コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の第1実施例における固体電解質のイオン伝導性を示した特性図、第2図は同固体電解質の電子絶縁性を示した特性図、第3図は第1実施例中に記載された比較例における固体電解質のイオン伝導性を示した特性図、第4図は同固体電解質の電子絶縁性を示した特性図、第5図は本発明の第2実施例における固体電解質のイオン伝導性を示した特性図、第6図は同固体電解質の電子絶縁性を示した特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ヨウ化銀と酸化銀と酸化タングステンとの混合物の加熱溶融反応を大気中で行なうことを特徴とする銀イオン導電性固体電解質の合成法。
【請求項2】ヨウ化銀とタングステン酸銀との混合物を、大気中で加熱溶解させることを特徴とする銀イオン導電性固体電解質の合成法。

【第1図】
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【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第5図】
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【第6図】
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【特許番号】第2653176号
【登録日】平成9年(1997)5月23日
【発行日】平成9年(1997)9月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−153362
【出願日】平成1年(1989)6月15日
【公開番号】特開平3−16921
【公開日】平成3年(1991)1月24日
【出願人】(999999999)松下電器産業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 平1−131034(JP,A)
【文献】特開 昭64−75957(JP,A)