説明

銀付き調人工皮革およびその製造方法

【課題】 環境に優しく、剥離強度も高く、通気性をも有する銀付き調人工皮革とその製造方法を提供する。
【解決手段】 繊維質基体(B)の少なくとも片面に銀面層(A)が積層された銀付き調人工皮革において、銀面層(A)は軟化温度(TA1)を有する樹脂からなる被覆層(A1)と、軟化温度(TA2)を有する樹脂からなる接着層(A2)とで構成され、接着層(A2)は繊維質基体(B)の内部に30μm以上深く浸透しており、かつ該銀面層(A)が連通孔を有し、さらに、被覆層(A1)および接着層(A2)を構成する樹脂の軟化温度が下記式(1)および(2)を満足する銀付き調人工皮革。
TA1≧TA2+10 (1)
TB≧TA2+50 (2)
(但し、TBは、繊維質基体(B)を構成する繊維のポリマーの軟化温度)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しく、剥離強力に優れ、かつ通気性にも優れた銀付き調人工皮革とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工皮革は、衣料、インテリア、靴、鞄、手袋等様々な用途に利用されてきた。天然皮革の風合を追求した高級素材から、使用用途に向け機能を追及した素材まで幅広く、いまや生活において欠かせない素材とも言えるほど浸透してきた感がある。このように汎用的な素材となったために、一方で環境に優しい素材であることも要求されるようになってきた。
それに伴い、環境に優しい銀付き調の合成皮革や人工皮革を得るための新しい造面方法が提案されるようになった。そして、全く溶剤を必要としない造面方法についても種々提案されている。例えば、ポリウレタン等の水系エマルジョンを用いた乾式造面法(例えば、特許文献1参照。)がある。この方法によれば、従来の溶剤系ウレタンベースの乾式造面と同じ感性の造面が可能であり、剥離等の物性も比較的容易に達成できるが、水を乾燥させるエネルギー必要量が大きいという点で、溶剤系と比較して生産性が低下する傾向がある。他には熱可塑性ポリウレタンを溶融してTダイ押出ししたフィルムを直接接着する方法(例えば、特許文献2参照。)がある。しかしながら、この方法では一般に熱可塑性ポリウレタンの溶融粘度が高いために基材シートへ該ポリウレタンが十分内部まで浸透し難いため、高い剥離強力が得られにくいという欠点がある。溶融粘度の高さという欠点を改良する位置付けの技術としては、反応性のホットメルトウレタン樹脂を基材シートに塗布した後硬化させる造面方法(例えば、特許文献3参照。)がある。この方法においては、溶融粘度が低い分、基材シートへの樹脂の浸透が稼げるため剥離強力も向上する傾向にはあり、比較的良好な造面方法であるが、上記した全ての造面方法に共通する問題点として樹脂の無孔皮膜が形成されるため、特に靴用途などに応用した場合には足の蒸れが避けづらく、用途はある範囲に限定されるものであった。
【0003】
【特許文献1】特開2003−336028号公報(3〜4頁)
【特許文献2】特開2004−91981号公報(3頁)
【特許文献3】特開2004−115705号公報(4〜5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、環境に優しく、剥離強度に優れ、かつ通気性を有する銀付調人工皮革に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、剥離強力を発現させる人工皮革の基体の構造や銀面層の構造、さらには銀面層の形成方法について鋭意検討した結果、繊維質基体、接着層、被覆層を全て繊維ウェブから形成し、かつ接着層は低軟化温度の樹脂を用いて繊維質基体と絡合一体化し、その後被覆層と共に加熱、銀面化を行なうことによって、繊維質基体に入り込んだ低軟化温度の樹脂層が楔の役割を果たし、高い剥離強力と通気性を兼ね備えた銀付き調人工皮革が得られることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は繊維質基体(B)の少なくとも片面に銀面層(A)が積層された銀付き調人工皮革において、銀面層(A)は軟化温度(TA1)を有する樹脂からなる被覆層(A1)と、軟化温度(TA2)を有する樹脂からなる接着層(A2)とで構成され、接着層(A2)は繊維質基体(B)の内部に30μm以上深く浸透しており、かつ該銀面層(A)が連通孔を有し、さらに、被覆層(A1)および接着層(A2)を構成する樹脂の軟化温度が下記式(1)および(2)を満足する銀付き調人工皮革である。
TA1≧TA2+10 (1)
TB≧TA2+50 (2)
(但し、TBは、繊維質基体(B)を構成する繊維のポリマーの軟化温度)
また、本発明は、繊維質基体(B)の少なくとも片面に銀面層(A)が積層された銀付き調人工皮革を製造するにあたり、少なくとも次の工程を行うことを特徴とする銀付き調人工皮革の製造方法である。
1)繊維質基体(B)を構成する繊維ウェブ(WB)と接着層(A2)を構成する繊維ウェブ(WA2)を積層し、絡合一体化する工程、
2)絡合一体化した不織布の実質的に繊維ウェブ(WA2)が存在する面に被覆層(A1)を構成する繊維ウェブ(WA1)を積層する工程、
3)繊維ウェブ(WA1)が存在する面を加熱溶融して、繊維ウェブ(WA1)を銀面化して被覆層(A1)すると同時に繊維ウェブ(WA2)を溶融して接着層(A2)へ変化させる工程、
そして、繊維ウェブ(WA1)を構成する樹脂の軟化温度(TA1)と繊維ウェブ(WA2)を構成する樹脂の軟化温度(TA2)および繊維質基体(B)の繊維を構成する樹脂の軟化温度(TB)が下記式(1)および(2)を満足することが好ましい。
TA1≧TA2+10 (1)
TB≧TA2+50 (2)
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳述する。
本発明の銀面層(A)は、銀面の上部層を形成する被覆層(A1)と、被覆層と繊維質基体(B)との接着に寄与する接着層(A2)からなる。
【0007】
被覆層(A1)は、不織布または織布当で代表される繊維状物からなるウェブあるいはフィルムを熱により溶融皮膜化したものである。皮膜化の際に繊維状物の隙間が適度に残ることによって、通気性をもたらす点で繊維状物からなるウェブであることが好ましい。皮膜化は通常、加熱ロールによるプレスが行なわれるが、温度が高いほど、またプレス圧が高いほど皮膜は形成されやすい傾向があるが、逆に残存する繊維状物の隙間すなわち微細孔が少なくなり、通気性は低下する傾向がある。また、加熱温度を低く設定する、プレス温度を低く設定するあるいはプレス圧を低く設定することによって、逆に通気性は高くなり、銀面の平滑性は低下する傾向がある。上記設定は用途や優先する機能によって適宜変更することができるが、残存させる微細孔の目安は直径300μm以下のものが100個/cm2以上であり、通気性は0.1〜1cc/cm/秒に調整するのが外観の点で好ましい。
【0008】
被覆層(A1)を構成する樹脂としては、紡糸可能なポリマーであれば特に限定されるものではなく、2種以上のポリマーが複合した繊維形態、たとえば芯鞘型や海島型の断面を有する複合繊維を用いても一種類のポリマーからなるレギュラー繊維であってもよい。そして、銀付き人工皮革の表面物性、特に磨耗性の観点では、ポリウレタンが好ましく用いられる。ポリウレタン成分としては、低分子ジオール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチルペンタン−1,5−ジオール等から選ばれた少なくとも1種類とジカルボン酸、例えばアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、イソフタル酸、テレフタル酸等から選ばれた少なくとも1種類との縮合重合によって得たポリエステルジオール、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリバレロラクトングリコール等のポリラクトングリコールから選ばれた少なくとも1種類のポリマージオールであって、平均分子量が500〜3000のポリマージオールをソフトセグメントとするポリウレタンである。とりわけ3−メチルペンタン−1,5−ジオールを主体としたジオールとジカルボン酸との縮合重合によって得た平均分子量700〜3000のポリエステルジオールを用いたポリウレタンが、溶融成形性、溶剤安定性、耐加水分解性、耐候性、耐熱性、柔軟性、耐屈曲性などの点で好適である。
【0009】
またポリマージオールと反応させる有機ジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4.4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシレンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式ジイソシアネート等から選ばれた少なくとも1種類、又は溶融紡糸性或いは溶融成形性を阻害しない範囲内で有機トリイソシアネート等のイソシアネート基を3個以上有する有機ポリイソシアネートを併用してもよい。
【0010】
そして鎖伸長剤としては、活性水素原子2個有する分子量300以下の化合物、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール−1,5、1,4−シクロヘキサンジオール、キシレングリコール等のジオール類、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン等のジアミン類、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン或いはヒドラジド類等から選ばれた少なくとも1種類が挙げられる。特に好ましくは、1,4−ブタンジオールまたは3−メチルペンタンジオール−1,5を主体とした鎖伸長剤をもちいたポリウレタンである。
なお、該ポリマージオールと鎖伸長剤とのモル比は不織布の物性によって自由に変えることができるが、好ましくは1:2〜7程度である。
【0011】
被覆層(A1)の形態は、層状であれば特に限定されないが、多孔質フィルムや前述の繊維状物からなるウェブを加熱してシート状物にしたものが好ましく用いられる。そして、ウェブの形態は、前述の通り不織布、織布、編布等特に限定されない。コスト面では特に紡糸した繊維を受け網に吹付ける、いわゆるスパンボンド方式で得られたウェブを好ましく用いるが、銀面に微妙な模様を残したい場合には織布や編布を用いてその柄を活かす場合もある。フィルムあるいは繊維ウェブの目付は、10〜120g/mであることが好ましい。目付が10g/m未満である場合には、熱融着後に表面が銀面を形成し難く、平滑性に劣る等あるいは銀面の外観が低下する傾向がある。し、120g/m以上である場合には、熱融着後に、微細孔の径が小さくなる、あるいは微細孔がふさがり、通気性が低下し、さらには十分に熱融着していない部分が発生することで剥離低下する傾向がある。このようにして用いられる被覆層(A1)を構成するポリマーの軟化温度の好適範囲は90〜160℃であり、より好ましくは100〜140℃である。軟化温度が90℃より低いと銀付き調人工皮革の表皮強度が低下する傾向があり、160℃より高いと熱成形性が低下し銀面を形成しにくくなる傾向がある。ここで本発明でいう軟化温度は、ビカット軟化点を意味しており、荷重1kgでの測定条件での値とする。
【0012】
次に接着層(A2)について、説明する。
接着層(A2)は、繊維状物からなるウェブを熱により溶融させたものであることが必須である。繊維状物からなるウェブを用いることによって、溶融時に被覆層(A1)と繊維質基体(B)との接着に寄与するほか、繊維状物の隙間が適度に残り、通気性をもたらす。
【0013】
接着層(A2)を構成する成分としては、紡糸可能なポリマーであれば特に限定されるものではないが、接着層性の観点で被覆層(A1)と同種のポリマーが好ましく、ポリウレタンを選択する場合、接着層(A2)もポリウレタンが好ましい。ポリウレタン成分としては、被覆層(A1)と同種のものを用いることができる。ただし、ポリウレタンの軟化温度については被覆層(A1)の軟化温度(TA1)と接着層(A2)の軟化温度(TA2)が、TA1≧TA2+10を満たすことが必須である。このように、軟化温度を調整する手法としては、ポリウレタンの分子量、窒素含有量および各構成成分のモノマーの選択など公知の方法で調整可能である。接着層(A2)を構成するポリマーの軟化温度の好適範囲は50〜120℃であり、より好ましくは60〜100℃である。軟化温度が50℃より低いと銀付き調人工皮革の剥離強力が低下する傾向があり、120℃より高いと熱接着性が低下し被覆層の界面剥離が起こりやすくなる傾向がある。
【0014】
繊維ウェブ(WA2)の目付は30〜200g/mであることが好ましい。30g/m以下の場合は、絡合処理によって繊維質基体(B)の内部30μm以下の深さまで浸透しにくく、接着強力が低下する傾向がある。逆に200g/mを越えると通気性が低下したり、得られる銀付き調人工皮革の風合が硬くなる傾向がある。
【0015】
次に繊維質基体(B)について説明する。
繊維質基体(B)は、繊維状物が3次元的に絡合された絡合不織布であり、繊維を構成するポリマー、繊度、繊維形状、繊維長については特に限定されるものではないが、それぞれの項目について、例を上げて説明する。
【0016】
繊維を構成するポリマーについては、可紡性ポリマーであれば特に限定されないが、例えばナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−12で代表されるナイロン類、その他可紡性ポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート系重合体、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート系共重合体、脂肪族ポリエスエルまたは脂肪族ポリエスエテル系共重合体等の可紡性ポリエステル類、アクリロニトリル系共重合体等が挙げられ、その中でもナイロン−6やポリエチレンテレフタレートが好んで用いられる。
【0017】
繊度については、0.5デシテックス以下の極細繊維を用いても良いし、50デシテックス程度の繊維を用いても良いが、最終製品の外観への影響もあるため、平滑な銀付表面を求める場合には、0.5デシテックス以下の極細繊維を用いる方が好ましい。繊度が高くなるにつれて、特に5デシテックスを超えると、本発明の銀付き調人工皮革を釣りこんだ場合に繊維質基体の凹凸が目立つ傾向がある。紡糸方法は、直接ポリマーをノズルから紡出するいわゆる直接紡糸といわれる方法や、極細繊維の場合には、2種類のポリマーを予めブレンドして一緒に紡出する混合紡糸や、2種類のポリマーを別々に溶融させて紡出直前にブレンドするような構造を有するノズルを用いて紡出する複合紡糸により、海島型繊維や分割型繊維を紡糸する方法もある。海島型繊維とは、相溶性の小さい少なくとも2種類のポリマーからなり、断面において少なくとも1種類のポリマーが島成分、そしてそれ以外の少なくとも1種類のポリマーが海成分となっている繊維であり、海島型繊維から海成分ポリマーを溶解又は分解除去することによって極細繊維を得ることができる。(以下、「海島型繊維」と表現する)また、分割型繊維とは繊維断面が花弁型や縞型になっており、揉み等の外力によって割繊し、同様に極細繊維を呈する繊維である。
【0018】
本発明において、海島型繊維を用いる場合、海成分と島成分の質量比は、海成分/島成分=10/90〜70/30であることが好ましく、20/80〜40/60であることがより好ましい。
【0019】
海島型繊維を用いる場合の海成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンやポリスチレン等も用いることができるが、これらは抽出の際に有機溶剤を用いる必要があるため、環境の観点では熱可塑性のポリビニルアルコールを用いるのが好ましい。
【0020】
また、本発明の繊維質基体(B)を構成する繊維には、紡糸の際に予め着色しておくことが可能である。繊維の着色は、製品にそのまま活かすこともできるし、着色を施す際に着色剤使用量の低減が可能である。通常、着色にはカーボンブラックや、有機・無機の顔料が用いられる。このような着色剤は、紡糸原料である樹脂ペレットにドライブレンドしても良いし、原料樹脂あるいは紡糸性を損なわない範囲の他樹脂をベースとするマスターバッチを作製し、それをブレンドする方法により用いられる
【0021】
繊維質基体(B)を構成する繊維の繊維長は30mm程度にカットされた短繊維から、スパンボンドのような長繊維を用いる場合まで、幅広く用いることができる。短繊維を用いる場合には、絡合性を向上させる目的で捲縮をかける場合が多く、通常この場合には紡糸後捲縮をかけてから所望の長さにカットし、綿を得る方法が一般的である。
【0022】
短繊維を用いる場合には、カーディング、ウェブ化してニードルパンチを施して絡合不織布を製造し、長繊維を用いる場合には、紡糸ノズル孔から吐出させた吐出糸条を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に堆積させて不織布ウェブを製造する。いずれの場合にも、その後ニードルパンチ等を施して3次元絡合させた絡合不織布を得る。目付としては200〜1500g/m、厚みとしては1〜10mmの範囲が工程中での取り扱いの容易さの観点から好ましい。
【0023】
繊維質基体(B)を構成する繊維の軟化温度TBは、本発明の接着層を構成する樹脂の軟化温度TA2と、TB≧TA2+50の関係を満たしていることが必須である。軟化温度の差が50℃未満になると、加熱銀面化の際に繊維質基体(B)も潰されて風合が硬くなる傾向があるため好ましくない。より好ましくは70℃以上の差がある場合であり、100℃以上の差がある場合が最も好ましい。
【0024】
繊維質基体(B)は、内部に高分子弾性体を含有してもよく、高分子弾性体について詳述する。
【0025】
高分子弾性体としては、従来から人工皮革の製造に使用されている樹脂であり、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの樹脂の混合物が挙げられ、これらの樹脂はもちろん共重合体であってもよい。そして、得られる人工皮革基体の風合いや物性のバランスの点で優れることからポリウレタン樹脂を主体とする高分子弾性体が最も好ましく使用される。次にこれらの高分子弾性体を樹脂エマルジョンまたは有機溶剤溶液として前記絡合不織布に含浸した後、凝固して繊維質基体を構成するが、近年の環境に対する関心の高まりから、より好ましくは樹脂エマルジョンを用いる。また、樹脂エマルジョンを用いることの利点は、溶剤溶液を含浸して湿式凝固する場合と異なり、含有する量によっては反発性が少なく、ドレープ性に優れるものを得ることもできる点である。
【0026】
ポリウレタンからなる樹脂エマルジョンは公知の方法により得ることができる。例えば、ポリウレタンの溶剤溶液と水を乳化剤の存在下で機械的に強制攪拌した後に溶剤を除去して得る方法、いわゆる強制乳化方法や、ポリウレタンの共重合成分の一部に親水基を導入し、乳化剤なしで乳化させる自己乳化方法により得ることができる。
【0027】
絡合不織布に含有されるポリウレタンとしては、従来公知のものはすべて適用することができる。例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオ―ル、ポリエ―テルジオ―ル、ポリカ―ボネ―トジオ―ルなどから選ばれた少なくとも1種類のポリマ―ジオ―ルと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ―ト、イソホロンジイソシアネ―ト、ヘキサメチレンジイソシアネ―トなどの、芳香族系、脂環式系、脂肪族系のジイソシアネ―トなどから選ばれた少なくとも1種のジイソシアネ―トと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のジオール類、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン等のジアミン類、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド類から選ばれた少なくとも1種類の2個以上の活性水素原子を有する分子量300以下の低分子化合物とを所定のモル比で反応させて得たポリウレタンである。ポリウレタンは必要に応じて、合成ゴム、ポリエステルエラストマ―などの他の重合体を添加した重合体組成物としてもよい。
【0028】
このように本発明において高分子弾性体を用いる場合には、コスト、物性の観点でエマルジョン粒子の最外層がポリウレタンであって、内部が比較的安価な例えば(メタ)アクリル樹脂である、コアシェルタイプのエマルジョンを用いることも有効である。
【0029】
繊維質基体に高分子弾性体を付与するには、高分子弾性体エマルジョンに該繊維質基体を浸漬して絞る方法や、リップコーター等で高分子弾性体エマルジョンを片面から押し込む方法がある。
【0030】
含浸後の乾燥においては、樹脂エマルジョンを用いた場合にはマイグレーションが起こることも一般に言われている。これに対しては、アクリル系やシリコーン系の公知の感熱ゲル化剤を樹脂エマルジョンに配合する方法、湿熱凝固や赤外線放射により凝固する方法、また両者を組み合わせる方法、ポリビニルアルコール等の高濃度水溶液を配合して樹脂エマルジョン粘度を上げてマイグレーションを抑制する方法があり、本発明においてもそれら方法を採用することが可能である。
【0031】
その他にも、樹脂エマルジョンにはその要求性能によって、柔軟剤、難燃剤、染料や顔料などの着色剤等が添加されていてもよい。
【0032】
繊維質基体(B)に高分子弾性体を含有させる場合、繊維絡合体と高分子弾性体の質量比率は、繊維質基体/高分子弾性体=100/0〜40/60であることが好ましい。高分子弾性体の比率が60%を超えると、得られる銀付き調人工皮革の風合が硬くなる傾向がある。
【0033】
つづいて、本発明の製造方法について詳述する。
本発明においては、繊維質基体(B)の少なくとも片面に銀面層(A)が積層された銀付き調人工皮革を製造するにあたり、少なくとも次の工程を行うことを特徴とする。
1)繊維質基体(B)を構成する繊維ウェブ(WB)と接着層(A2)を構成する繊維ウェブ(WA2)を積層し、絡合一体化する工程、
2)絡合一体化した不織布の実質的に繊維ウェブ(WA2)が存在する面に被覆層(A1)を構成する繊維ウェブ(WA1)を積層する工程、
3)繊維ウェブ(WA1)が存在する面を加熱溶融して、繊維ウェブ(WA1)を銀面化して被覆層(A1)すると同時に繊維ウェブ(WA2)を溶融して接着層(A2)へ変化させる工程、以下、それぞれの工程について説明する。
【0034】
本発明においては、繊維質基体(B)を構成する繊維ウェブ(WB)と接着層(A2)を構成する繊維ウェブ(WA2)をウェブ同士で積層した後、絡合一体化することが必須である。繊維質基体(B)の繊維と接着層(A2)の繊維が実質上相互に絡合することによって、繊維質基体(B)と接着層(A2)の一部が絡合一体化し高い剥離強力を発現するのに寄与する。絡合一体化した繊維質基体(B)と接着層(A2)は接着層(A2)を構成するウェブ(WA2)が繊維質基体(B)中に埋め込まれた様子を呈するが、最終的に加熱処理を施して銀付き調人工皮革を得た場合には、接着層(A2)は溶融して繊維質基体(B)に浸透した状態となる。浸透した状態は銀付き調人工皮革の断面を電子顕微鏡で100倍に拡大した写真から確認することができ、浸透深さは溶融した接着樹脂の深さの平均値で表現する。浸透深さは30μmであることが必須であり、好ましくは35μm以上である。30μmより少ない場合には剥離強力が低下する傾向がある。
【0035】
絡合方法は公知の方法が採用されるが、ニードルパンチを用いるのが好ましい。予め繊維ウェブ(WB)にプレパンチをしておくことも可能であるが、プレパンチ数が多くなるにつれて両者の絡合が少なくなる傾向がある。ニードルパンチは繊維太さとニードルの形状によって絡合状態が異なるが、プレパンチを行なう場合の一般的なパンチ数は0〜800パンチ/cmが好ましく、ウェブ同士の積層後に行う場合のパンチ数は300〜2000パンチ/cmが好ましい。
【0036】
次に、本発明においては、絡合一体化した不織布において、実質的に繊維ウェブ(WA2)が存在する面に被覆層(A1)を構成する繊維ウェブ(WA1)を積層した後、加熱あるいは、積層する前に加熱し接着層(A2)とする、しかしながら、繊維ウェブ(WA1)を銀面化して被覆層(A1)すると同時に繊維ウェブ(WA2)を溶融して接着層(A2)へ変化させることが可能な点で繊維ウェブ(WA1)を積層した後に加熱することが好ましい。先に説明した方法によって繊維質基体(B)を構成する繊維ウェブ(WB)と接着層(A2)を構成する繊維ウェブ(WA2)を絡合一体化したものを得、その接着層側に被覆層を構成する繊維ウェブ(WA1)を重ねる際には、そのままの状態でも銀面層化が可能であるが、積層前に、繊維ウェブ(WA2)の面をバフィング、整毛等の方法により、表面をより平滑にしておくことが、銀面の平滑性を向上し、高級感を向上させる観点で、より好ましい。銀面層化処理は加熱、加熱プレスを行なうことが多く、通常はプレスロールを用いて行なう。加熱温度(T)は、プレス圧力によっても若干異なるが通常TA1≦T≦TA1+50を満たす範囲で選ばれることが望ましい。この範囲を満たすことによって、被覆層(A1)は微細孔を残して銀面化し、接着層(A2)も繊維同士が連通孔を残して融着し、被覆層(A1)と繊維質基体(B)の接着に寄与する。加熱温度が上記範囲よりも低い場合、銀面の形成が不充分となる。逆に高い場合は、被覆層や接着層の流動性が過多となり、通気性がなくなるばかりか面荒れを起こしたり、繊維質基体(B)層が潰れ、風合が硬くなる傾向がある。
【0037】
以上のようにして得られる本発明の銀付き調人工皮革は、銀面形成後、染色したり、各種機能を付与するために機能性材料を塗布、含浸してもよい。
【0038】
この様にして得られる銀付き調人工皮革は、環境に優しく、とくに剥離強度に優れており、通気性もあって、靴用途など、剥離強力が重視され、更に着用感を要求される用途に好適な素材である。
【0039】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0040】
[軟化温度]:1kg荷重でのビカット軟化点を測定し、軟化温度とした。
【0041】
[強伸度物性]:JIS L−1079の5.12法により定められた方法にて測定した。
【0042】
[剥離物性]:巾2.5cm×長さ25cmのテストピースの銀面側を、厚さ約4mmのゴム板にウレタン系接着剤で貼りあわせる。このテストピースに2cm間隔で5区間の印をつけた後、水中に10分間浸漬して取り出し、引張り試験機で50mm/分の速度で剥離試験を行なう。得られたチャートから、各区間の最低値を読み取り、その平均値を1cm巾に換算して示した。
【0043】
[通気度]:JIS L−1096の6.27.2のB法により定められた方法にて測定した。
【0044】
[外観・風合]:外観は銀面感を、風合は主に柔軟性を本発明者らが評価を行い、良好であれば○、悪ければ×とし、その中間を△とする3段階で示した。
【実施例1】
【0045】
被覆層ウェブの製造
ポリエステル系ポリウレタン(クラミロン3195:(株)クラレ製、ビカット軟化点=113℃)をノズル温度240℃で紡出し、吸引装置を用いて牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に堆積させて目付50g/mの不織布ウェブを製造した。
繊維質基体を構成するウェブの製造
【0046】
ナイロン6(1011:宇部興産株式会社製、ビカット軟化点=213℃)を島成分、熱可塑性PVA(エクセバールCP−4104B2:株式会社クラレ製)を海成分とし、島数が64の海島型繊維(海成分/島成分=30/70)を得た。これを80℃の乾熱で3.2倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして4.9デシテックスのステープルとした。また、島成分の平均単糸繊度は0.05デシテックスであった。
【0047】
得られたステープルを、クロスラップ法で500g/mのウェッブを形成し、ついで両面から交互に合わせて約500P/cmのプレパンチングをした。
【0048】
繊維質基体を構成するウェブ上に、接着層を構成するポリウレタンからなる不織布(エスパンシオーネ:カネボウ製、構成ポリマーのビカット軟化点=80℃)を重ね、700P/cmのニードルパンチを行なった。その後、ポリウレタンエマルジョン(ハイドランWLI−602:大日本インキ化学工業株式会社製)を含浸・乾燥凝固させたのち、サーキュラー染色機中で90℃熱水により熱可塑性PVA成分を抽出除去した結果、樹脂/繊維の質量比が40/60、目付590g/m、見かけ比重0.37g/cm、厚さ1.6mmのシート状物を得た。
【0049】
その後、シート状物のポリウレタン不織布を重ねた側に、被覆層ウェブ(構成ポリマーのビカット軟化点=113℃)を重ね、140℃に加温したフラットなエンボスロールで加熱圧縮することで銀面層化し、銀付き調人工皮革を得た。得られた銀付き調人工皮革は、断面を電顕観察したところ、溶融した接着層が繊維質基体に約50μm浸透していて高い剥離強力を示し、通気性も0.7cc/cm/秒であった。
【0050】
比較例1
繊維質基体を構成するウェブ上に、被覆層ウェブとして製造した不織布を重ね、700P/cmのニードルパンチを行った。その後は実施例1と同様にして樹脂/繊維の質量比が40/60、目付590g/m、見かけ比重0.37g/cm、厚さ1.6mmのシート状物を得た。
【0051】
その後、シート状物のポリウレタン不織布側に、実施例1で接着層に用いたポリウレタンからなる不織布(エスパンシオーネ)を重ねた。140℃以上のエンボスロールでは、ロールへの接着が激しいため、135℃での加熱圧縮を行い、銀付き調人工皮革を得た。得られた銀付き調人工皮革は、断面を電顕観察したところ銀付表面のみが溶融して内層は繊維ウェブの形態を保っていた。剥離強力は表皮層に剥がれが見られ、低いものとなった。また、折り曲げた際に銀面が浮いたような折れしわとなった。さらに、通気性もほぼ0cc/cm/秒であった。
【0052】
比較例2
繊維質基体に、ポリウレタンエマルジョン(ハイドランWLI−602)を含浸・乾燥凝固させたのち、サーキュラー染色機中で90℃熱水により熱可塑性PVA成分を抽出除去した結果、樹脂/繊維の質量比が40/60、目付550g/m、見かけ比重0.35g/cm、厚さ1.6mmのシート状物を得た。
【0053】
その後、シート状物の上に実施例1で用いた接着層に用いたポリウレタン不織布、被覆層ウェブをこの順で重ね、140℃に加温したフラットなエンボスロールで加熱圧縮し、銀付き調人工皮革を得た。得られた銀付き調人工皮革は、断面を電顕観察したところ、溶融した接着層が繊維質基体に15μm程度しか浸透しておらず、剥離強力は低かった。通気性は0.6cc/cm2/秒であった。
【0054】
比較例3
比較例2で得たシート状物を用い、以下に示す造面例にしたがって乾式造面を行い、銀付き調人工皮革を製造した。得られた銀付き調人工皮革は、断面を電顕観察したところ、溶融した接着層が繊維質基体に50μm浸透しており剥離強力は高かったが、通気性は0cc/cm/秒であった。
【0055】
造面例
離型紙上に、トップ層樹脂配合物をウェットで100g/m塗布し、100℃の熱風乾燥機で3分間乾燥させた後、接着層樹脂配合物をウェットで250g/m塗布し、同様に100℃の熱風乾燥機中で5分間の乾燥を行い、ドライラミネートを行う。ラミネート後は70℃で24時間の熟成を行い、離型紙を剥がし銀付き調人工皮革を得る。
【0056】
トップ層樹脂配合(配合物はすべて大日本インキ化学工業(株)製)
ハイドランWLS−201 100部
ハイドランアシスターT1 1部
ハイドランアシスターCS−7 2部
ダイラックHS−7230 10部
【0057】
接着層樹脂配合(配合物はすべて大日本インキ化学工業(株)製)
ハイドランWLA−303 100部
ハイドランアシスターT1 1部
ハイドランアシスターC5 15部
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
このようにして得られた銀付き調人工皮革は、環境に優しい素材であり、繊維質基体の表面と接着層が繊維絡合し一体化しているために高い剥離強力を示し、さらにすべての構成要素が繊維からなるために銀面形成後にも適度な空隙を残し、結果として通気性をも兼ね備えた銀付き調人工皮革であることを特徴としており、特にスポーツ靴のように剥離強度が求められる用途や、蒸れを防いで快適な履き心地を求められる一般靴用途に好適に用いられる素材である。ただし用途については、もちろん上記用途のみに限定されるものではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維質基体(B)の少なくとも片面に銀面層(A)が積層された銀付き調人工皮革において、銀面層(A)は軟化温度(TA1)を有する樹脂からなる被覆層(A1)と、軟化温度(TA2)を有する樹脂からなる接着層(A2)とで構成され、接着層(A2)は繊維質基体(B)の内部に30μm以上深く浸透しており、かつ該銀面層(A)が連通孔を有し、さらに、被覆層(A1)および接着層(A2)を構成する樹脂の軟化温度が下記式(1)および(2)を満足する銀付き調人工皮革。
TA1≧TA2+10 (1)
TB≧TA2+50 (2)
(但し、TBは、繊維質基体(B)を構成する繊維のポリマーの軟化温度)
【請求項2】
繊維質基体(B)の少なくとも片面に銀面層(A)が積層された銀付き調人工皮革を製造するにあたり、少なくとも次の工程を行うことを特徴とする銀付き調人工皮革の製造方法。
1)繊維質基体(B)を構成する繊維ウェブ(WB)と接着層(A2)を構成する繊維ウェブ(WA2)を積層し、絡合一体化する工程、
2)絡合一体化した不織布の実質的に繊維ウェブ(WA2)が存在する面に被覆層(A1)を構成する繊維ウェブ(WA1)を積層する工程、
3)繊維ウェブ(WA1)が存在する面を加熱溶融して、繊維ウェブ(WA1)を銀面化して被覆層(A1)すると同時に繊維ウェブ(WA2)を溶融して接着層(A2)へ変化させる工程、
【請求項3】
繊維ウェブ(WA1)を構成する樹脂の軟化温度(TA1)と繊維ウェブ(WA2)を構成する樹脂の軟化温度(TA2)および繊維質基体(B)の繊維を構成する樹脂の軟化温度(TB)が下記式(1)および(2)を満足する請求項2に記載の銀付き調人工皮革の製造方法。
TA1≧TA2+10 (1)
TB≧TA2+50 (2)


【公開番号】特開2006−233392(P2006−233392A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53203(P2005−53203)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】