説明

銀付き調人工皮革

【課題】 環境に優しく、剥離強度の高い銀付き調人工皮革を提供する。
【解決手段】繊維絡合体(A)と、その内部に含有される高分子弾性体(B)からなる人工皮革基体の少なくとも一方の面に、被覆層(C)を形成してなる銀付き調人工皮革において、該繊維絡合体(A)を構成する繊維の表面に水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが繊維絡合体(A)に対して0.01〜5質量%の割合で付着しており、かつ、該被覆層(C)を構成するポリウレタン樹脂中のイソシアネート基の一部が該水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと架橋していることを特徴とする銀付き調人工皮革。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に優しく、剥離強力に優れた銀付き調人工皮革に関するものである。より詳細には、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが構成する繊維表面に一部残存している繊維絡合体とその内部に含有される高分子弾性体からなる基体層の少なくとも一方の面に被覆層を設けた銀付調人工皮革に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工皮革は、衣料、インテリア、靴、鞄、手袋等様々な用途に利用されてきた。天然皮革の風合を追求した高級素材から、使用用途に向け機能を追及した素材まで幅広く、いまや生活において欠かせない素材とも言えるほど浸透してきた感がある。このように汎用的な素材となったために、一方で環境に優しい素材であることも要求されるようになってきた。
人工皮革は通常、繊維絡合体とその内部に高分子弾性体が存在する構造をとっており、繊維絡合体を構成する繊維に関しては、原料ポリマーを直接ノズルから紡出して得られるいわゆるレギュラー繊維を用いたものがある。また、風合等の観点から、海成分を溶剤で溶解することによって極細繊維の得られる海島型繊維を好ましく用いたものもある。(例えば、特許文献1参照。)。これら技術の内前者では、抽出成分がないために溶剤等を用いた抽出工程が不要であり、環境には優しいと言える。一方、後者は、紡糸性と比較的容易に溶解除去できるという点でポリエチレンやポリスチレン等が海成分として用いられているが、溶剤としてトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等を用いるため、環境負荷が大きいものであった。また、分割型繊維から極細繊維を得る技術もある(例えば、特許文献2参照。)。分割型繊維は例えば水流により分割させる等、溶剤を用いずに極細化できる点で環境負荷は小さいが、分割であるために極細化には限度があり、一般に分割数を上げると分割後の繊維が偏平となり繊維強度が低下する傾向があった。
【0003】
一方、銀付き調人工皮革は銀面を付与するために、例えば、乾式造面、湿式造面や、溶融させた樹脂を直接基材に塗布する方法等、多くの方法が公知である。それら方法のほとんどは、剥離強力の発現を表面に付与する樹脂がどれだけ基材に染込んでいるか、すなわち物理的なアンカー効果に頼っているため剥離強力物性に限界があり、基材を構成する繊維表面の状態によっては剥離強力が低下する等の問題もあった。中でも乾式造面は、通常接着剤に2液型の架橋樹脂を用いるため(例えば、特許文献3参照。)、接着層の凝集力を上げることにより剥離強力を上げることができるが、架橋を伴う反応は接着樹脂内のみでおこなわれるため、基材を構成する繊維表面の影響は、その他の造面方法と同様に受けるという問題点があった。
【0004】
【特許文献1】特開平05−156579号(2頁)
【特許文献2】特許第2954782号(1〜2頁)
【特許文献3】特開平09−31861号(4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、環境に優しく、剥離強度の高い銀付調人工皮革に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、環境に優しい繊維構造や、銀付き調人工皮革を得るための被覆層について鋭意検討した結果、繊維の抽出成分に水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを用い、被覆層にはイソシアネート基による架橋反応を伴うポリウレタンを用いることにより、剥離強度の高い銀付き調人工皮革が得られることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本発明は、繊維絡合体(A)と、その内部に含有される高分子弾性体(B)からなる人工皮革基体の少なくとも一方の面に、被覆層(C)を形成してなる銀付き調人工皮革において、該繊維絡合体(A)を構成する繊維の表面に水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが繊維絡合体(A)に対して0.01〜5質量%の割合で付着しており、かつ、該被覆層(C)を構成するポリウレタン樹脂中のイソシアネート基の一部が該水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと架橋していることを特徴とする銀付き調人工皮革である。
そして、本発明においては水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが、炭素数4以下のα−オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールであることが好ましく、さらには繊維絡合体(A)が0.5デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、環境に優しく、剥離強度の高い銀付き調人工皮革を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本発明を構成する繊維絡合体(A)を構成する繊維は特に限定されるものではないが、0.5デシテックス以下の極細繊維が好んで用いられる。0.5デシテックス以上のいわゆるレギュラー繊維を用いる場合は、水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(以下、熱可塑性PVAと称する)を鞘成分とする芯鞘繊維から本発明の繊維を得ることができるが、0.5デシテックス以下の極細繊維を得るためには熱可塑性PVAを海成分とする海島型繊維が好んで用いられる。海島型繊維とは、相溶性の小さい少なくとも2種類のポリマーからなり、断面において少なくとも1種類のポリマーが島成分、そしてそれ以外の少なくとも1種類のポリマーが海成分となっている繊維であり、極細繊維は海島型繊維から海成分ポリマーを溶解又は分解除去することによって得られる。(以下、芯鞘繊維も1島の海島型繊維と見なして、「海島型繊維」と称する)
【0010】
海島型繊維の島成分、すなわち本発明の人工皮革を構成する繊維成分は、可紡性ポリマーであれば特に限定されないが、例えばナイロン−6、ナイロン−6,6、ナイロン−6,10、ナイロン−12で代表されるナイロン類、その他可紡性ポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート系重合体、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート系共重合体、脂肪族ポリエステルまたは脂肪族ポリエステル系共重合体等の可紡性ポリエステル類、アクリロニトリル系共重合体等が挙げられ、その中でもナイロン−6やポリエチレンテレフタレートが好んで用いられる。
【0011】
反対に、海島型繊維の海成分には、熱可塑性PVAを用いることが必須である。以下熱可塑性PVAについて詳述する。
【0012】
本発明で用いられる熱可塑性PVAは、例えば、共重合、末端変性、および後変性により官能基を導入した変性PVAを包括するものである。勿論、溶融紡糸可能なものであらねばならない。通常の一般市販PVAは溶融温度と熱分解温度が近接しているため溶融紡糸することはできない。
【0013】
熱可塑性PVAの粘度平均重合度(以下、単に重合度と略記する)は200〜800が好ましく、230〜600がより好ましい。通常の繊維用に使用されるPVAは重合度1500以上のものであり、そのことから考えると本発明で用いられる熱可塑性PVAの重合度は極めて低いと言える。重合度が200未満の場合には紡糸時に十分な曳糸性が得られず、一方、重合度が800を越えると溶融粘度が高すぎて紡糸性が低下するため好ましくない。
【0014】
熱可塑性PVAの重合度(P)は、JIS−K6726に準じて測定される。すなわち、熱可塑性PVAを完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](dl/g)から次式により求められるものである。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0015】
本発明に用いられる熱可塑性PVAのけん化度は90〜99.99モル%の範囲が好ましく、92〜99.9モル%がより好ましく、94〜99.8モル%が特に好ましい。けん化度が90モル%未満の場合には、熱可塑性PVAの熱安定性が悪く熱分解やゲル化によって安定な複合溶融紡糸を行うことができない場合がある。一方、けん化度が99.99モル%よりも大きい熱可塑性PVAは安定に製造することが困難である。
【0016】
熱可塑性PVAは、ビニルエステル系重合体のビニルエステル単位をけん化することにより得られる。ビニルエステル単位を形成するためのビニル化合物単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でもPVAを生産性よく得る点からは酢酸ビニルが好ましい。
【0017】
本発明を構成する熱可塑性PVAは、複合溶融紡糸性、親水性、繊維および不織布物性の観点から、共重合単位を導入した変性PVAを用いることが好ましい。共重合単量体の種類としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等のオキシアルキレン基を有する単量体、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル類、酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸等に由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等に由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N−アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N−アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミン等に由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。これらの単量体の含有量は、共重合PVAを構成する全単位のモル数を100%とした場合の通常その20モル%以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01モル%以上が上記共重合単位であることが好ましい。
【0018】
これらの単量体の中でも、入手のしやすさなどから、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有のビニルエーテル類、アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル類、 N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニルアミド類、オキシアルキレン基を有する単量体、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有のα−オレフィン類に由来する単量体が好ましい。
【0019】
特に、共重合性、混合溶融紡糸性および繊維物性等の観点からエチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテンの炭素数4以下のα−オレフィン類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類がより好ましい。炭素数4以下のα−オレフィン類およびビニルエーテル類に由来する単位は、PVA中に0.1〜20モル%存在していることが好ましく、0.5〜18モル%がより好ましい。
さらに、α−オレフィンがエチレンである場合には、特に繊維物性が高くなることからもっとも好ましく、特にエチレン単位が3〜20モル%存在する場合が好適であり、より好ましくは5〜18モル%導入された変性PVAを使用する場合である。
【0020】
本発明で使用するPVAは、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法が通常採用される。溶液重合時に溶媒として使用されるアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコールなどの低級アルコールが挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、α,α'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、nープロピルパーオキシカーボネートなどのアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤などの公知の開始剤が挙げられる。重合温度については特に制限はないが、0℃〜200℃の範囲が適当である。
【0021】
本発明で使用するPVAにおけるアルカリ金属イオンの含有割合は、PVA100質量部に対してナトリウムイオン換算で0.00001〜0.05質量部が好ましく、0.0001〜0.03質量部がより好ましく、0.0005〜0.01質量部が特に好ましい。アルカリ金属イオンの含有割合が0.00001質量部未満のものは工業的に製造困難である。またアルカリ金属イオンの含有量が0.05質量部より多い場合には複合溶融紡糸時の分解、ゲル化および断糸が著しく、安定に繊維化することができない場合がある。なお、アルカリ金属イオンとしては、カリウムイオン、ナトリウムイオン等が挙げられる。
【0022】
本発明において、特定量のアルカリ金属イオンをPVA中に含有させる方法は特に制限されず、PVAを重合した後にアルカリ金属イオン含有の化合物を添加する方法、ビニルエステルの重合体を溶媒中においてけん化するに際し、けん化触媒としてアルカリイオンを含有するアルカリ性物質を使用することによりPVA中にアルカリ金属イオンを配合し、けん化して得られたPVAを洗浄液で洗浄することにより、PVA中に含まれるアルカリ金属イオン含有量を制御する方法などが挙げられるが、後者のほうが好ましい。
なお、アルカリ金属イオンの含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0023】
けん化触媒として使用するアルカリ性物質としては、水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムが挙げられる。けん化触媒に使用するアルカリ性物質のモル比は、酢酸ビニル単位に対して0.004〜0.5が好ましく、0.005〜0.05が特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括添加しても良いし、けん化反応の途中で追加添加しても良い。
けん化反応の溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましく、含水率を0.001〜1質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.003〜0.9質量%に制御したメタノールがより好ましく、含水率を0.005〜0.8質量%に制御したメタノールが特に好ましい。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられ、これらの中でもメタノール、酢酸メチル、水の単独もしくは混合液がより好ましい。
洗浄液の量としてはアルカリ金属イオンの含有割合を満足するように設定されるが、通常、PVA100質量部に対して、300〜10000質量部が好ましく、500〜5000質量部がより好ましい。洗浄温度としては、5〜80℃が好ましく、20〜70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間〜100時間が好ましく、1時間〜50時間がより好ましい。
【0024】
また本発明の目的や効果を損なわない範囲で、PVAには融点や溶融粘度を調整する等の目的で可塑剤を添加することが可能である。可塑剤としては、従来公知のもの全てが使用できるが、ジグリセリン、ポリグリセリンアルキルモノカルボン酸エステル類、グリコール類にエチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイドを付加したものが好適に使用される。そのなかでも、ソルビトール1モルに対してエチレンオキサイドを1〜30モル%付加した化合物が好ましい。
【0025】
本発明においては、熱可塑性PVAを海成分とする海島型繊維を用いるが、海成分と島成分の質量比は、海成分/島成分=9/95〜70/30であることが好ましく、10/90〜40/60であることが紡糸性と得られる人工皮革の風合の点で、より好ましい。
【0026】
本発明の繊維には、紡糸の際に予め着色しておくことが可能である。繊維の着色は、製品にそのまま活かすこともできるし、着色を施す際に着色剤使用量の低減が可能で、摩擦堅牢度、耐候性の向上にも繋がる。通常、着色にはカーボンブラックや、有機・無機の顔料が用いられる。このような着色剤は、紡糸原料である樹脂ペレットにドライブレンドしても良いし、原料樹脂あるいは紡糸性を損なわない範囲の他樹脂をベースとするマスターバッチを作製し、それをブレンドする方法により用いられる。
【0027】
本発明に用いる海島型の複合繊維は、島成分の熱可塑性ポリマーと海成分の熱可塑性PVAをそれぞれ別の押出し機で溶融混練し、引き続きこれら溶融したポリマー流をそれぞれ紡糸頭に導き、合流する際に海島型の繊維形態となるようなノズルを用いて紡糸する。熱可塑性PVAは、通常250℃を超えると分解し発泡する傾向があるため、流動開始温度が250℃を超えるようなポリマーと複合紡糸を行なう場合には、例えば熱可塑性PVAを220℃で紡糸頭に導き、一方のポリマーを250℃以上で導き、両者が合流しノズルから吐出されるまでの間に熱可塑性PVAが250℃を大きく超えないようにするのが好ましい。そのために、ノズルパックを構成する分流板をエッチングプレートにして滞留時間を減少させる方式が好ましい。
【0028】
次に紡糸した繊維は、延伸、捲縮、カットしてステープルとした後、カーディング、ウェブ化してニードルパンチを施して絡合不織布を製造する場合と、溶融紡糸と不織布形成を直結し、紡糸ノズル孔から吐出させた吐出糸条を冷却装置により冷却せしめた後、エアジェット・ノズルのような吸引装置を用いて牽引細化させた後、開繊させながら移動式の捕集面の上に堆積させて不織布ウェブを形成し、その後ニードルパンチを施して長繊維の絡合不織布を得る場合がある。延伸する場合には、通常80〜100℃の乾熱延伸を行ない、延伸倍率は、延伸条件下での最大延伸倍率に対して0.5〜0.9倍、より好ましくは0.6〜0.8倍で行なう場合が多い。
【0029】
該海島型繊維の繊度は、繊度0.8〜10.0デシテックスであることが好ましい。この中でもステープルを経由する場合、カード通過性の観点で3〜8デシテックスがより好ましく、スパンボンド法で長繊維絡合不織布を得る場合には、緻密な不織布が得られるという点で1〜5デシテックスがより好ましい。0.8デシテックス以下の場合は、紡糸性や工程中の糸切れの観点で好ましくなく、逆に10デシテックス以上では、得られる銀付き調人工皮革の裏面のタッチが粗くなり、品位が低下する傾向がある。
【0030】
絡合不織布は、得られる人工皮革基体または人工皮革とした際の厚さ等を考慮して目的に応じた形態にすることが好ましいが、目付としては200〜1500g/m、厚みとしては1〜10mmの範囲が工程中での取り扱いの容易さの観点から好ましい。
【0031】
また製造された絡合不織布は、必要に応じて加熱して、縦、横方向に収縮させる、すなわち面積が収縮するような熱処理を行ってもよい。特に、熱可塑性PVAが海成分である本発明においては、乾熱によって面積収縮を起こす傾向があり、絡合不織布の緻密化がなされ、風合や充実感の向上につながる。通常、熱処理はネットの上に無張力の状態で置き、乾熱炉に入れて収縮させるが、厚み方向に均一に熱を掛けるために熱風を貫通させるような方式が好ましい。熱風の温度は構成するポリマー物性を低下させない範囲で、求める収縮率によって適宜設定が可能であるが、通常150〜210℃の範囲で選ばれることが多い。
【0032】
さらに、上記絡合不織布は100℃以上200℃以下で厚み方向に加圧することが好ましい。加熱の方法は限定されないが、乾熱でプレスする場合や、スチームを当てながら熱プレスをする場合が多い。厚み方向に加圧する方法としては、プレスロールや平板プレス等があり、連続処理可能な点からもプレスロールが好んで用いられる。このように100℃以上200℃以下で行なわれる加圧により非常に平滑な面が得られる。また絡合不織布の比重をあげることもできるため、含有される高分子弾性体の量が少なくても充分な機械物性が得られ、結果として反発感の少ない良好な風合および充実感のある人工皮革基体を得ることが可能となる。加圧する温度が100℃より低い場合、絡合不織布表面の平滑化や比重向上の効果は少なくなり、200℃より高いと、ポリマーの着色や劣化が起こる傾向がある。
【0033】
次に繊維絡合体内部に含有される高分子弾性体について詳述する。
【0034】
高分子弾性体としては、従来から人工皮革の製造に使用されている樹脂であり、ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリアミノ酸系樹脂、シリコーン系樹脂およびこれらの樹脂の混合物が挙げられ、これらの樹脂はもちろん共重合体であってもよい。そして、得られる皮革様シート基体の風合いや物性のバランスの点で優れることからポリウレタン樹脂を主体とする高分子弾性体が最も好ましく使用される。次にこれらの高分子弾性体を樹脂エマルジョンまたは有機溶剤溶液として前記絡合不織布に含浸した後、凝固して絡合不織布と高分子弾性体とからなる皮革様シート基体を構成するが、近年の環境に対する関心の高まりから、より好ましくは樹脂エマルジョンを用いる。また、樹脂エマルジョンを用いることの利点は、溶剤溶液を含浸して湿式凝固する場合と異なり、含有する量によっては反発性が少なく、ドレープ性に優れるものを得ることもできる点である。
【0035】
ポリウレタンからなる樹脂エマルジョンは公知の方法により得ることができる。例えば、ポリウレタンの溶剤溶液と水を乳化剤の存在下で機械的に強制攪拌した後に溶剤を除去して得る方法、いわゆる強制乳化方法や、ポリウレタンの共重合成分の一部に親水基を導入し、乳化剤なしで乳化させる自己乳化方法により得ることができる。
【0036】
絡合不織布に含有されるポリウレタンとしては、従来公知のものはすべて適用することができる。例えば、平均分子量500〜3000のポリエステルジオ―ル、ポリエ―テルジオ―ル、ポリカ―ボネ―トジオ―ルなどから選ばれた少なくとも1種類のポリマ―ジオ―ルと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネ―ト、イソホロンジイソシアネ―ト、ヘキサメチレンジイソシアネ―トなどの、芳香族系、脂環族系、脂肪族系のジイソシアネ―トなどから選ばれた少なくとも1種のジイソシアネ―トと、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のジオール類、エチレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、フェニレンジアミン等のジアミン類、アジピン酸ヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のヒドラジド類から選ばれた少なくとも1種類の2個以上の活性水素原子を有する分子量300以下の低分子化合物とを所定のモル比で反応させて得たポリウレタンである。ポリウレタンは必要に応じて、合成ゴム、ポリエステルエラストマ―などの他の重合体を添加した重合体組成物としてもよい。
【0037】
このように本発明においては、高分子弾性体として、通常はポリウレタン単独のエマルジョンが用いられるが、コスト、物性の観点でエマルジョン粒子の最外層がポリウレタンであって、内部が比較的安価な例えば(メタ)アクリル樹脂である、コアシェルタイプのエマルジョンを用いることも有効である。
【0038】
繊維絡合不織布に高分子弾性体を付与するには、あるいは高分子弾性体エマルジョンに該絡合不織布を浸漬して絞る方法や、リップコーター等で高分子弾性体エマルジョンを片面から押し込む方法がある。
【0039】
含浸後の乾燥においては、樹脂エマルジョンを用いた場合にはマイグレーションが起こることも一般に言われている。これに対しては、アクリル系やシリコーン系の公知の感熱ゲル化剤を樹脂エマルジョンに配合する方法、湿熱凝固や赤外線放射により凝固する方法、また両者を組み合わせる方法、ポリビニルアルコール等の高濃度水溶液を配合して樹脂エマルジョン粘度を上げてマイグレーションを抑制する方法があり、本発明においてもそれら方法を採用することが可能である。
【0040】
その他にも、樹脂エマルジョンにはその要求性能によって、柔軟剤、難燃剤、染料や顔料などの着色剤等が添加されていてもよい。
【0041】
そして、繊維絡合不織布から海成分である熱可塑性PVAを除去したあとの繊維絡合体と高分子弾性体の質量比率は、繊維絡合体/高分子弾性体=98/2〜40/60であることが好ましい。繊維絡合体の緻密性によって、より好ましい高分子弾性体比率は異なるが、ステープルを用いる場合には30/70〜50/50の範囲がより好ましく、長繊維絡合不織布を用いる場合には10/90〜30/70がより好ましい範囲として用いられる場合が多い。
【0042】
本発明の繊維絡合体は、構成する繊維表面に熱可塑性PVAが付着していることが、得られる銀付き調人工皮革の剥離強度を高めるために必須である。繊維絡合体中に存在する熱可塑性PVAの割合は、繊維絡合体質量に対して0.01〜5質量%であることが必要であり、0.05〜4質量%であることがより好ましい。熱可塑性PVAの割合が0.01質量%より少ない場合には、銀付き調人工皮革に加工した際の剥離強度を高める効果が十分でなく、一方熱可塑性PVAの割合が5質量%より多い場合には、特に乾燥時に硬くなり風合を損ねる傾向があり、また剥離強度も低下する傾向があるため好ましくない。
【0043】
本発明においては、繊維絡合体の繊維表面に付着した熱可塑性PVAの水酸基と被覆層を構成するポリウレタン中のイソシアネート基との反応により剥離強力が向上すると考えており、このような観点から、繊維表面と熱可塑性PVAの付着状態は強固である必要がある。繊維絡合体の繊維表面に熱可塑性PVAを付与する方法としては、熱可塑性PVAの水溶液を繊維絡合体に付与して乾燥する方法によっても可能であるが、この方法では容易にPVAが溶解除去され、また本発明に規定する範囲のPVAを付着させても、剥離強力を向上させる効果は少ないことがわかっている。本発明においては、繊維を構成するポリマーと熱可塑性PVAは紡糸の際にノズルパックの中で200℃を超える温度で接触しているため、繊維を構成するポリマーとの間に高温雰囲気下にて何らかの化学的結合が形成されている可能性があると考えている。
【0044】
次に、海島型繊維からなる絡合不織布の場合には、海成分である熱可塑性PVAを溶解除去して繊維絡合体とする。熱可塑性PVAを溶解し、かつ繊維表面に0.01〜5質量%付着させておく製法としては、好ましくは70℃以上の熱水を溶媒として、サーキュラー、ウインスター、ダッシュライン等の染色機の中で、20分以上、溶解除去することが好ましい。溶解除去の時間は、液温にも影響されるが一般に20分以上であることが必要であり、30分程度がより好ましい。水温については70℃未満の場合、熱可塑性PVAの溶解速度が極端に遅くなる傾向があるため、80℃以上で溶解除去を行なうのがより好ましい。染色機については、液流とそれによる揉み効果が溶解除去に効果的であり、特にサーキュラー染色機の様な比較的強い揉みを与えることのできる装置では、溶解除去が効率的であるだけでなく、得られる人工皮革基体が柔軟化するためより好ましい。人工皮革基体:水の浴比は通常、1:30〜1:100となるように水量を調整することが好ましい。水の比率が30より低いと溶解不足が起こる傾向があり、100を超えると一度に処理できる人工皮革基体の量が減るために製造効率が低下する傾向がある。
得られた極細繊維の繊度は、0.5デシテックス以下であることが、風合と被覆層を形成するイソシアネー基を有するポリウレタンとの接着面積が増加する点で好ましく、好ましくは0.1デシテックスが好ましく、下限は0.00001以上が好ましく、0.0001以上がより好ましい。
【0045】
本発明の人工皮革基体は、通常、(1)繊維絡合体を構成する熱可塑性ポリマーと水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールからなる複合紡糸繊維を製造する工程、(2)工程(1)で得られた複合繊維を不織布とする工程、(3)不織布の内部に高分子弾性体(B)を含有する工程、(4)液流染色機中、熱水で水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを抽出し、抽出後の繊維絡合体(A)に対して該水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールを0.01〜5質量%の割合で付着させる工程、により得られるが、工程の順序に関しては、通常(1)、(2)、(3)、(4)の順であっても、(1)、(2)、(4)、(3)の順でも構わない。特徴として、前者は高分子弾性体(B)を含有させた後に熱可塑性PVAを除去するため、繊維絡合体(A)を構成する繊維と高分子弾性体(B)の間には隙間が形成され、比較的風合が柔軟なものが得られる。また、繊維の自由度が制限されにくいため引裂き物性が高くなる傾向がある。したがって、比較的高分子弾性体(B)の含有量が多く、充実感を要する用途に向いている。一方後者は、繊維と高分子弾性体(B)が直接接着するため、繊維が捕捉されて抜けにくくなるため、高密度の繊維絡合体(A)に低含有量の高分子弾性体(B)の組合せにより反発感が低く、ドレープ性に似た触感を要する用途に向いている。したがって、目的とする銀付き調人工皮革の感性に合わせて、その製法や、繊維絡合体(A)と高分子弾性体(B)の比率まで、自由に選択することができる。
【0046】
この様にして得られる本発明の人工皮革基体は、その少なくとも一方の面に被覆層を形成して銀付調人工皮革とするが、その前処理としてサンドペーパーによるバフィングを行うことが好ましい。バフィングをして基体表面を平滑に、また表面の毛羽長を一定にすることにより、得られる銀付き調人工皮革の表面平滑性が向上する傾向がある。
【0047】
被覆層の形成(以下、「造面」と表現する)方法としては、公知の湿式法、乾式法の他に、熱可塑性ポリウレタンからなるフィルムをホットメルト圧着する方法や、ポリウレタンオリゴマーを塗布した後架橋硬化させる方法、反応性ホットメルト樹脂を塗布した後架橋硬化させる方法など種々の方法を用いることができるが、いずれの方法を用いる場合においても、被覆層を形成する成分がポリウレタンを主成分とし、該ポリウレタンはイソシアネート基をその構造中に含有または、ポリウレタンとイソシアネート化合物との配合物という形態で含有していることが必須であり、結果として造面後にはイソシアネート基の一部が該水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと架橋していることが必須である。イソシアネート基の含有の形態については、ポリウレタン自体が構造中にイソシアネート基を含有する場合や、乾式造面のように水酸基を有するポリウレタンと架橋剤としてのイソシアネート化合物との組合せ、すなわち2液型の配合物である場合のいずれでもよい。イソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート単独、あるいはこれらのイソシアヌレート型、アロファネート型あるいはビューレット型の少なくとも2官能以上のポリイソシアネート化合物などが好んで用いられる。
【0048】
この様にして得られる銀付き調人工皮革は、環境に優しく、とくに剥離強度に優れており、スポーツ靴など、剥離強力が重視される用途に好適な素材である。
【0049】
次に本発明を具体的に実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものである。
【0050】
[不織布中のPVAの割合]
30cm×30cmの不織布試料をオートクレーブ中で2000ccの水に浸漬し、120℃で1時間加熱処理した。処理後、熱水中から不織布を取り出して軽く搾り、抽出液を取り換えて同様の操作を実施。計3回の繰り返し処理により、不織布中のPVAを抽出除去。処理前後の質量変化より、不織布中のPVAの割合を求めた。
【0051】
[強伸度物性]:JIS L−1079の5.12法により定められた方法にて測定した。
【0052】
[剥離物性]:巾2.5cm×長さ25cmのテストピースの銀面側を、厚さ約4mmのゴム板にウレタン系接着剤で貼りあわせる。このテストピースに2cm間隔で5区間の印をつけた後、水中に10分間浸漬して取り出し、引張り試験機で50mm/分の速度で剥離試験を行なう。得られたチャートから、各区間の最低値を読み取り、その平均値を1cm巾に換算して示した。
【0053】
紡糸例1
ナイロン6(1011:宇部興産株式会社製)を島成分、熱可塑性PVA(エクセバールCP−4104B2:株式会社クラレ製)を海成分とし、島数が64の海島型繊維(海成分/島成分=30/70)を得た。これを80℃の乾熱で3.2倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして4.9デシテックスのステープルとした。また、島成分の平均単糸繊度は0.05デシテックスであった。
【0054】
紡糸例2
紡糸例1と同じポリマーの組合せで16島の海島型繊維を放出する際に、紡出フィラメント群を20℃の冷却風で冷却しながら、ノズルから80cmの距離にあるエジェクターにより高速エアーで3000m/分の引取り速度で牽引細化させ、開繊したフィラメント群をエンドレスに回転している捕集コンベア装置上に捕集堆積させ長繊維ウエブを形成させた。ウェブの目付は50g/m2であり、ウェブを形成するフィラメントの繊度は2.0デシテックスであり、島成分の平均単糸繊度は0.09デシテックスであった。
【0055】
紡糸例3
ナイロン6(1011:宇部興産株式会社製)を島成分、ポリエチレン(FL60:三井化学株式会社製)を海成分とし、島数が64の海島型繊維(海成分/島成分=60/40)を得た。これを80℃の熱水中で3.2倍に延伸し、繊維油剤を付与し、機械捲縮をかけて乾燥後、51mmにカットして5.1デシテックスのステープルとした。また、島成分の平均単糸繊度は0.05デシテックスであった。
【0056】
実施例1、2
紡糸例1で得られたステープルを、クロスラップ法で500g/mのウェッブを形成し、ついで両面から交互に合わせて約2000P/cmニードルパンチングした。この段階での絡合不織布の厚みは3.2mmであった。その後、190℃の乾熱で面積収縮を行い、連続で120℃のカレンダーロールで加圧し圧縮した、得られた絡合不織布の目付は510g/m、厚みは2.6mm、見かけ比重は0.20g/cmであった。この絡合不織布に、ポリウレタンエマルジョン(ハイドランWLI−602:大日本インキ化学工業株式会社製)を含浸・乾燥凝固させたのち、サーキュラー染色機中へ投入し、浴比1:50となるように水を注いで90℃まで昇温した。40分間熱可塑性PVA成分を抽出除去したのち水洗を行なった結果、樹脂/繊維の質量比が40/60、目付590g/m、見かけ比重0.37g/cm、厚さ1.6mmの人工皮革基体が得られた。得られた基体中の熱可塑性PVA残存率は0.5%であった。
【0057】
その後、実施例1では、得られた基体をそのままバフィングして表面の平滑性と毛羽長を整えた後、以下に示す配合により、トップ層と接着層の調整液を作成し、調整液をトップ層100g/m2、接着層200g/m2塗布してドライラミネートによる乾式造面を施して銀付き調人工皮革を得た。また、実施例2では、得られた基体を柔軟剤としてニッカシリコンAM−204(吉村油化学製)を見かけ3%に水で希釈した液に漬けた後ピックアップが60%となるように絞り乾燥させた後に、バフィング以降同様にして銀付き調人工皮革を得た。
【0058】
[配合例]配合物はいずれも大日本インキ化学工業製
トップ層 ハイドランWLS−201 100質量部(主剤)
ハイドランアシスターT1 0.5質量部(増粘剤)
ハイドランアシスターCS−7 2質量部(架橋剤)
ダイラックHS−7230 10質量部(顔料)
接着層 ハイドランWLA−303 100質量部(主剤)
ハイドランアシスターT1 0.5質量部(増粘剤)
ハイドランアシスターC5 10質量部(イソシアネート架橋剤)
【0059】
得られた銀付き調人工皮革は、実施例1では良好な感性と風合を有しており、剥離強力は3.8kg/cmであった。実施例2では、さらに柔軟な風合を有しており、剥離強力は3.7kg/cmであった。
【0060】
実施例3
紡糸例2で得られたウェブを10枚重ねたあと両面から交互に合わせて約2000P/cmニードルパンチングした。この段階での絡合不織布の厚みは2.4mmであった。その後、190℃の乾熱で面積収縮を行い、連続で120℃のカレンダーロールで加圧し圧縮した、得られた絡合不織布の目付は550g/m、厚みは2.0mm、見かけ比重は0.27g/cmであった。この絡合不織布に、ポリウレタンエマルジョン(ハイドランWLI−602:大日本インキ化学工業株式会社製)を含浸・乾燥凝固させたのち、サーキュラー染色機中へ投入し、浴比1:50となるように水を注いで90℃まで昇温した。60分間熱可塑性PVA成分を抽出除去したのち水洗を行なった結果、樹脂/繊維の質量比が30/70、目付630g/m、見かけ比重0.45g/cm、厚さ1.4mmの人工皮革基体を得た。得られた人工皮革基体中の熱可塑性PVA残存率は0.8%であった。
【0061】
その後、基体表面をバフィングして表面の平滑性と毛羽長を整えた後、実施例1と全く同じ方法により乾式造面を施した。得られた銀付き調人工皮革は、良好な感性と風合を有しており、剥離強力は4.1kg/cmであった。
【0062】
比較例1
実施例1において、熱可塑性PVAの抽出条件を60℃の温水中で10分間とし、抽出後の熱可塑性PVA残存率を7%とした以外は実施例1と同様にして銀付き調人工皮革を得た。
【0063】
得られた銀付き調人工皮革はペーパーライクで風合が硬かった。また剥離強力は2.6kg/cmであった。
【0064】
比較例2、3
紡糸例3で得られたステープルを、クロスラップ法で500g/mのウェッブを形成し、ついで両面から交互に合わせて約2000P/cmニードルパンチングした。この段階での絡合不織布の厚みは3.5mmであった。その後、150℃の乾熱で面積収縮を行い、連続で90℃のカレンダーロールで加圧し圧縮し、実施例1とほぼ同じ目付は520g/m、厚みは2.6mm、見かけ比重は0.20g/cmの絡合不織布を得た。この絡合不織布に、ポリウレタンエマルジョン(ボンディック1310NSC:大日本インキ化学工業株式会社製)を含浸・乾燥凝固させたのち、90℃の熱トルエン中で繊維海成分であるポリエチレンの溶解除去を行い、樹脂/繊維の質量比が40/60、目付605g/m、見かけ比重0.40g/cm、厚さ1.5mmの人工皮革基体を得た。得られた人工皮革基体を製造する過程で熱可塑性PVAは使用しなかった。
【0065】
その後、比較例2では、基体表面をそのままバフィングして表面の平滑性と毛羽長を整えた後、実施例1と同様の方法にて乾式造面を行い、銀付き調人工皮革を得た。比較例3では、実施例2と同様にニッカシリコンAM−204で処理をした後乾式造面を行い、銀付き調人工皮革を得た。比較例2で得られた銀付き調人工皮革は、剥離強力は3.2kg/cmであったが、感性および柔軟な風合に劣るものであった。また、比較例3で得られた銀付き調人工皮革は、風合いこそ柔軟で良好であったが、剥離強力は2.3kg/cmであった。
【0066】
実施例4
実施例1で得られた人工皮革基体をバフィングして表面の平滑性と毛羽長を整えた後、イソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーを100℃に加熱して溶融させたものを離型紙上に塗布し、その直後に人工皮革基体を貼りあわせる方法にて造面を行なった。得られた銀付き調人工皮革は、良好な感性と風合を有しており、剥離強力は3.2kg/cmであった。
【0067】
比較例4
実施例1で得られた人工皮革基体をバフィングして表面の平滑性と毛羽長を整えた後、過剰のジオール成分によりイソシアネート基を消去したウレタンプレポリマーを100℃に加熱して溶融させたものを離型紙上に塗布し、その直後に人工皮革基体を貼りあわせる方法にて造面を行なった。得られた銀付き調人工皮革は、良好な感性と風合を有していたが、剥離強力は2.3kg/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
このようにして得られた銀付き調人工皮革は、環境に優しい素材であり、イソシアネート架橋を伴う造面法においては、直接紡糸繊維や、ポリエチレンあるいはポリスチレンを海成分としていた海島型繊維から得られる極細繊維をベースとする繊維絡合体と高分子弾性体で構成される人工皮革基体と比較して、高い剥離強度が得られることを特徴としており、特にスポーツ靴のように剥離強度が求められる用途に好適に用いられる素材である。ただし用途については、もちろん上記用途のみに限定されるものではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維絡合体(A)と、その内部に含有される高分子弾性体(B)からなる人工皮革基体の少なくとも一方の面に、被覆層(C)を形成してなる銀付き調人工皮革において、該繊維絡合体(A)を構成する繊維の表面に水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが繊維絡合体(A)に対して0.01〜5質量%の割合で付着しており、かつ、該被覆層(C)を構成するポリウレタン樹脂中のイソシアネート基の一部が該水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールと架橋していることを特徴とする銀付き調人工皮革。
【請求項2】
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコールが、炭素数4以下のα−オレフィン単位および/またはビニルエーテル単位を0.1〜20モル%含有する変性ポリビニルアルコールである請求項1に記載の銀付き調人工皮革。
【請求項3】
繊維絡合体(A)が0.5デシテックス以下の極細繊維からなる絡合不織布である請求項1または2に記載の銀付き調人工皮革。


【公開番号】特開2006−152460(P2006−152460A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−341419(P2004−341419)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】