説明

銀付調人工皮革およびその製造方法

【課題】表面質感を維持しながらも優れた通気性を有する銀付調人工皮革及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維と多孔高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革であって、皮膜にはその皮膜を貫通する穴が存在し、その貫通する穴の内壁において基体内部に通じる多孔が存在し、かつ穴の内壁では繊維と高分子弾性体が融着している銀付調人工皮革。さらには皮膜を貫通する穴が、銀付調人工皮革を構成する基体を貫通していることや、その穴の開口部の直径が50〜500μmであることが好ましい。および繊維と高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革に、赤外線領域のレーザー加工によって皮膜を貫通する穴を開ける銀付調人工皮革の製造方法。さらには加工がCOレーザー加工であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通気性に優れた銀付調人工皮革に関し、さらに詳しくは表面質感を維持しながら優れた通気性を有する銀付調人工皮革及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工皮革は多岐に渡る用途に使用され、中でも表面に高分子弾性体層を有するいわゆる銀付調人工皮革はその外観表現の多様性および天然皮革類似の高い質感から幅広い分野に使用されている。しかし天然皮革が繊維質のみから形成されているために高い通気、透湿性を有するのに対し、人工皮革、特に銀付調人工皮革はその表面に高分子弾性体のみからなる表面層が存在するために、通気、透湿の面からは十分な物性を得られないという問題があった。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、銀付タイプの人工皮革の表面に機械的に針を用いて穴を開け、通気性や柔軟性を付与する方法が考えられている(例えば特許文献1など)。しかし穴が開いているにもかかわらず物理的作用のみによるものなので表面層の高分子弾性体の変形により穴が塞がることも多く、充分な通気性が得られないことも多かった。また油圧裁断機などによるパンチングによって人工皮革と垂直方向の穴をあける加工も行われているが、細かな微細加工は不可能であり、また裁断時の圧力によって人工皮革が部分的につぶされて変形してしまう問題があった。
【0004】
そこで表面外観を損なわない方法として、レーザーを照射して人工皮革表面に穴を開ける方法や開放孔を有しない多孔質ポリウレタン層の表面にそのポリウレタンの良溶剤を含む液を点状に塗布して開放孔を有する人工皮革の製造方法が開発されている(特許文献2)。しかしこれらの方法では、高い通気性が得られる場合には表面質感が低下し、表面質感を重視した場合には通気性が低下するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−192976号公報
【特許文献2】国際公開第94/20665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表面質感を維持しながらも優れた通気性を有する銀付調人工皮革及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の銀付調人工皮革は、繊維と多孔高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革であって、皮膜にはその皮膜を貫通する穴が存在し、その貫通する穴の内壁において基体内部に通じる多孔が存在し、かつ穴の内壁では繊維と高分子弾性体が融着していることを特徴とする。
【0008】
さらには皮膜を貫通する穴が、銀付調人工皮革を構成する基体を貫通していることや、その穴の開口部の直径が50〜500μmであること、穴の密度が1〜1000個/cmであることが好ましく、繊維の繊度が2〜0.0001dtexであることや、繊維の融点が180〜240℃であること、繊維が、ナイロン、ポリエステルのいずれかからなるものであることが好ましい。多孔高分子弾性体の融点が150〜220℃であることや、多孔高分子弾性体が、ウレタンからなるものであることも好ましい。
【0009】
もう一つの本発明である銀付調人工皮革の製造方法は、繊維と高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革に、赤外線領域のレーザー加工によって皮膜を貫通する穴を開けることを特徴とする。
【0010】
さらには、レーザー加工により基体を貫通する穴を穿孔することが好ましい。また、レーザー加工がCOレーザーであることや、皮膜の穿孔密度が、1〜1000個/cmであること、多孔高分子弾性体の融点が150〜220℃であることが好ましく、繊維の融点が180〜240℃であることや、繊維の繊度が2〜0.0001dtexであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い表面質感を維持しながらも優れた通気性を有する皮革様シート状物及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られた皮革様シート状物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】実施例1で得られた皮革様シート状物の表面にある開口部の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図1の拡大図にあたる。
【図3】実施例1で得られた皮革様シート状物断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】実施例1で得られた皮革様シート状物の断面にある穴の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図3の拡大図にあたる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の銀付調人工皮革は、極細繊維と高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる表皮層が存在するものである。本発明で用いられる基体としては、繊維集合体に高分子弾性体を含浸させた複合繊維集合体が使用でき、従来から人工皮革用として用いられているものが好ましい。厚さとしては0.2〜5mm、さらには0.4〜2.5mmであることが好ましい。繊維集合体としては、不織布や織編物が挙げられ、これらを構成する繊維としては、例えばポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維、または綿、麻、羊毛などの天然繊維、またはレーヨンなどの半合成繊維が挙げられ、また、これらの2種以上の混合であってもよい。
【0014】
そしてその基体としては、繊維集合体として単繊維繊度が3デシテックス以下、さらには2〜0.0001デシテックスの繊維が交絡された長繊維または短繊維からなる不織布を用いたものを好ましく挙げることができる。単繊維繊度が細くなることにより、得られる基体表面が平滑となり、人工皮革としての品位が向上する。このような単繊維繊度の繊維は、従来から知られている方法によって製造することができ、例えば、合成繊維製造における海島紡糸法、混合紡糸法、分割型複合紡糸法などを挙げることができる。これらの繊維は例えば比較的太い極細化前の親繊維を短繊維となした後、従来から知られているカード機等による開繊、ニードル機等による交絡により不織布とし、後に極細化することによって極細繊維から成る不織布となる。極細化の方法としては、海島紡糸法および混合紡糸法で得られた親繊維から極細繊維とならない海成分を抽出または分解除去する方法や、分割型複合紡糸法により得られた親繊維を機械的、または化学的に分割する方法を採用することができる。抽出または分解除去されるポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、あるいはこれらの共重合体が代表例として挙げられ、極細繊維となるポリマー成分としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルや、ナイロン6、ナイロン6,6などのポリアミドなどを挙げることができる。また効率的に生産する場合には、分割型複合紡糸を紡糸し直接ウェブ化した後、ニードル機等で交絡し、機械的分割処理するなどして極細不織布とすることが好ましい。
【0015】
本発明で用いられる基体としては、上記の繊維集合体と高分子弾性体からなる基体である。このような基体は、上記の繊維集合体に高分子弾性体を含浸、凝固、乾燥させることにより得ることができる。ここで用いる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどを挙げることができる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンがもっとも好ましく用いられる。
【0016】
さらに基体中の高分子弾性体は多孔構造であることが好ましく、さらに風合いと物性のバランスに優れた人工皮革にすることができ、通気性の面からも好ましい。このような多孔構造を得るためにも、高分子弾性体はポリウレタンであることが好ましく、そのようなポリウレタンとしては、一般的に人工皮革用として使用されるものを挙げることができる。より具体的には、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンを挙げることができる。そこで用いる有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、P−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4'−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられ、高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールなどが挙げられる。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0017】
これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは分散液として含浸に供される。好ましくは、これらの高分子は地球環境保護、および作業環境保護のためにも水溶液、あるいは水分散液として含浸に供されることが好ましい。
【0018】
特に多孔質高分子弾性体を得る方法としては、例えば、ポリウレタンの良溶剤でありかつ水と相溶性の有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を繊維集合体に含浸し、水浴中に浸漬して多孔凝固させるいわゆる湿式凝固法、またはポリウレタンを水と相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を繊維集合体に含浸し、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法などが挙げられる。中でも、本発明の多孔質高分子弾性体と極細繊維からなる基体を得るためには、湿式凝固法が孔の形状を制御し易く、風合いと物性に優れるために特に好ましい。
【0019】
また、この基体を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃であることが好ましい。融点が高すぎると、基材を構成する極細繊維と高分子弾性体が穴の内壁において融着することが困難になる傾向にある。逆に融点が低すぎると人工皮革としての物性が低下する傾向にある。
【0020】
本発明はこのような繊維と高分子からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜である表皮層が存在する銀付調人工皮革である。さらには風合いを向上させるために、皮膜は充実皮膜であることが好ましく、また皮膜と基体の間に多孔質高分子層を有していても良い。このような多孔質高分子層は、基材で用いる多孔質高分子を採用することができる。また開口部の形状を整ったものとするためには、皮膜を形成する高分子弾性体の融点は150〜220℃であることが好ましい。
【0021】
また、皮膜からなる層の厚みとしては0.05mm〜1.5mmの範囲であることが好ましい。厚みが0.05mm以下であると繊維質層の凹凸が隠蔽しきれず表面の平滑性が得られにくいばかりでなく耐摩耗性等の物性が低下する傾向にある。また、層の厚みが1.5mm以上となると人工皮革としての風合いがゴム状となり好ましくない。この層を形成する高分子弾性体としては先の基体に用いたものを挙げることができるが、特にはポリウレタンを主成分とするものであることが好ましい。
【0022】
そして高分子重合体からなるこのような皮膜は、前述の基体上に直接、コーティング法などにより形成することができる。さらに皮膜の最表面に透明、あるいは半透明の保護層となる層を追加して設けることも好ましい。
【0023】
この皮膜に用いられる高分子弾性体としては、例えばポリウレタン、ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、あるいはポリ塩化ビニリデンなどが挙げられる。
【0024】
このような皮膜は、離型紙上に高分子弾性体層をいったん形成させて、繊維と高分子弾性体からなる基体に接着させることが好ましい。接着剤としては、従来から知られている接着剤が使用でき、その中でもポリウレタン系接着剤(ポリイソシアネート系接着剤)が好ましく、有機溶剤系、あるいは水系のどちらも使用できる。また、基体上の表面に直接、高分子弾性体の有機溶剤溶液、有機溶剤分散液、水溶液、あるいは水分散液をコーティングし次いで乾燥させる方法を用いることができ、コーティングの方法としては、ナイフコーティング、ロールコーティング、スプレー、あるいはグラビアコーティング等も採用することができる。
【0025】
本発明の銀付調人工皮革は、このような皮膜からなる表皮層を有し、最表面の皮膜の表側には穴の開口部が存在しており、その穴が皮膜及び基体内に通じていることを必須としている。さらには、その穴が皮膜及び基体を共に貫通するものであることが好ましい。貫通した穴が表面及び裏面に開口している場合、通気性等が高いレベルで発揮されることはもちろん、人工皮革と垂直な方向からの光透過性が極めて高くなり独特な外観を得ることが可能となったのである。このような皮膜上に開口部を有する穴は、例えばレーザー加工により、その強度、回数を調整することにより任意の深さ、大きさの穴を得ることができる。また本発明の銀付調人工皮革は、その基体内に通じている穴の内壁において、繊維と高分子弾性体が融着していることを必須とする。穴の内壁において融着することにより、繊維がほぐれて阻害する事もなく、高い通気性もそのまま維持することができるのである。さらに穴内壁に露出する湿式凝固等にて発生した高分子弾性体の「孔」の表面部分が融着していることが好ましい。なお、ここで充実皮膜表面の開口部に続く空隙を「穴」と、基体内部に存在している高分子弾性体中の多数の小さい空隙を「孔」とした。
【0026】
人工皮革では、特にその使用中などに曲げなどの反復応力を受けることが多いが、穴の内壁において高分子弾性体が融着することにより、反復応力による品質低下を有効に阻止することができるのである。さらにその穴が基体を貫通しているものである場合には、穴内部の光透過性が極めて高い穴となり、より好ましい。ここで融着とは、穴内壁に観察される高分子弾性体形状は多少変化するのみでありながら、繊維と高分子弾性体が接合し穴の内部が滑らかに見える状態をさす。
【0027】
また、皮膜を貫通する穴が基体を貫通している場合には、開口部の面積、形状が同一であり、貫通する穴が一方向に揃っていることが好ましい。この場合には、通気性が極めて高いレベルとなることに加え、存在する穴の内壁において極細繊維と高分子弾性体が融着しているために、穴内部の光透過性が極めて高く、穴を通過した画像は極めてシャープなものとなる。したがって人工皮革と垂直な方向から裏面を見た場合には、シャープな画像が透けて観察され、一定の角度を付けて裏面を観察した場合に、全く画像が見えないことになる。特に穴がおおよそ円柱状である場合に、この現象は顕著に観察される。
【0028】
このような本発明の人工皮革に存在する穴の開口部の直径は50〜500μmであることが好ましく、さらには100〜300μmであることが好ましい。また充実皮膜に存在する開口部が1〜1000個/cmであることが好ましく、さらには5〜500個/cmであることが好ましい。開口部の直径が小さすぎたり、開口部の密度が低すぎる場合には充分な通気性を得られず、人工皮革と垂直な方向からの光透過性が低下してしまう傾向にある。逆に開口部の直径が大きすぎたり、開口部の密度が高すぎる場合には充実皮膜の強度が低下し、物性や風合いが低下する傾向にある。さらに表面の投影面積に対する開口部の合計面積は0.1〜30%の範囲であることが好ましい。
【0029】
もう一つの本発明である銀付調人工皮革の製造方法は、繊維と高分子弾性体からなる繊維質基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革に、その充実皮膜側の表面から赤外線領域のレーザー加工によって皮膜を貫通する穴を開ける製造方法である。ここで繊維と高分子弾性体からなる基体や、高分子弾性体からなる充実皮膜としては先に述べた本発明の銀付調人工皮革に用いるものを使用することができる。さらには、赤外線領域のレーザー加工としては、レーザー加工により基体を貫通する穴を穿孔する態様とすることが好ましい。なお、ここで「穴」とは、レーザー加工により形成された表面に開口部を有する空隙である。
【0030】
本発明の製造方法では、赤外線領域のレーザー加工により高分子弾性体からなる表面の皮膜中に穴を穿孔するが、人工皮革においては繊維と高分子弾性体とからなる基体には多数の空隙が存在しているために、このレーザー加工によって生じる穴の内壁には多数の孔が存在している。そして赤外線領域のレーザー加工による熱によりその穴の内壁部においては繊維と高分子弾性体が融着し、滑らかな、穴内部の光透過性が極めて高い穴となる。レーザーにて穴を穿孔する場合には通常レーザー強度とレーザー発振の繰り返しのショット数により穴の深さを決定するが、本発明のレーザー加工を行うためには、レーザー加工の焦点を基材内部、あるいは裏面に設定し、レーザービームの強度を弱くショット数は多い設定にすることが好ましい。このように設定することにより孔は表面の開口部からおおよそ円柱状の穴が穿孔される。
【0031】
このとき、レーザー加工によって繊維と高分子弾性体からなる基体を貫通する穴を発生させることが好ましい。先に述べたようにこの貫通した穴を通して反対側を観察した場合、角度によってその外観は極端に変化をもたらし、独特の製品外観を形成するためである。
【0032】
また赤外線領域のレーザー加工としては、COレーザーやYAGレーザーを挙げることができるが、より高い熱を対象物に与えることが可能なCOレーザー(炭酸ガスレーザー)であることが好ましい。本発明ではレーザー加工時に有効な熱を与えることにより、貫通した穴をあける事ができると同時に、繊維と高分子からなる基体中の穴の内壁において、繊維と高分子弾性体を融着させることが可能となるのである。特に人工皮革はその使用中に曲げなどの反復応力を受けることが多いが、各穴の内壁部分が融着することにより、高い通気性をそのまま維持することができる。
【0033】
さらには穴の開口部の直径は50〜500μmであることが好ましく、さらには100〜300μmであることが好ましい。また皮膜に存在する開口部が1〜1000個/cmであることが好ましく、さらには5〜500個/cmであることが好ましい。開口部の直径が小さすぎたり、開口部の密度が低すぎる場合には充分な通気性を得られず、また、穴が基材を貫通した場合であっても人工皮革と垂直な方向からの光透過性が低下してしまう傾向にある。逆に開口部の直径が大きすぎたり、開口部の密度が高すぎる場合には充実皮膜の強度が低下し、物性や風合いが低下する傾向にある。本発明の表面の投影面積に対する開口部の合計面積は0.1〜30%の範囲であることが好ましい。
【0034】
またこのような穴により有効な開口部を形成するためには、表皮層を構成する高分子弾性体の融点が150〜220℃であることや、繊維の融点が180〜240℃であることが好ましい。そして繊維の繊度が2〜0.0001dtexの範囲であることが好ましい。このような範囲にすることにより、よりレーザー加工による穴の形状をより整ったものとすることができる。
【実施例】
【0035】
以下、具体的に実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例中「部」および「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、特性測定値は下記の方法で得られたものである。
【0036】
(1)引張強度
JIS K6505に準じて測定し、単位はN/cmで表した。
【0037】
(2)引裂強力
JIS K6505に準じて測定し、単位はNで表した。
【0038】
(3)通気度
JIS P8117の方法に準じて、ガーレのデンソメータを使用して測定した50cmの空気が通過するのに要した時間から計算により「リットル/cm・hr」の単位に換算した値である。
【0039】
(4)透湿度
JIS K6549の方法に準じて測定を行った値で「mg/cm・hr」で表した数値である。
【0040】
(5)光透過性
人工皮革の裏面に光源であるライトを置いて表側から観察し、垂直方向から観察したときの光源の見え方を評価した。
【0041】
[実施例1]
<繊維集合体の作成>
ナイロン6(融点220℃)と低密度ポリエチレンを50/50で混合、エクストルダーで溶融、混合し290℃で混合紡糸し、延伸、油剤を処理しカットし5.5dtex、51mmの繊維を得た。これをカード、クロスラッパー、ニードルロッカー、カレンダーの工程を通し、単位面積あたりの重さ(目付け)400g/m、厚さ1.6mm、見掛け密度0.25g/cmの繊維集合体を得た。
【0042】
<極細繊維と高分子弾性体からなる基体の作成>
上記の繊維集合体を10重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P、融点180℃)−DMF溶液を浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、5%のDMFを含んだ水中に浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを水で十分に洗浄除去した後120℃で4分間乾燥して、ポリウレタン多孔質と繊維からなるシートを得た。得られたシートの表面は繊維とポリウレタンが混在するものであった。
【0043】
得られたシートを90℃の熱トルエン中で圧縮、緩和を繰り返し、繊維中のポリエチレン成分を抽出除去し、繊維集合体中の繊維を0.003dtexの極細繊維とした。最終的に0.003dtexの極細繊維を繊維質基材とするポリウレタン多孔質と極細繊維からなる基体(複合構造物)を作成したことになる。このときの単位面積あたりの重さ(目付け)450g/m、厚さ1.3mm、見掛け密度0.35g/cm、高分子弾性体と繊維の比率(R/F)は48%であった。また断面を電子顕微鏡にて観察したところ、極細繊維の周辺に多孔質の高分子弾性体が分散しており、表面に高分子弾性体からなる連続した皮膜は存在せず、基体内部の空隙と表面、裏面とは連続していた。
【0044】
<人工皮革−1(開孔前)の作成>
離型紙(リンテック社製R53)上に、レザミンLU−2109HV(ポリウレタン濃度25%、大日精化社製、融点150℃)100部、DMF15部、およびイソプロピルアルコール15部を混合した溶液を目付け120g/mでコートして温度70℃で2分間、110℃で2分間乾燥して厚さ0.01mmの高分子弾性体からなる最表皮膜(充実層)を形成した。さらにその表面に、ポリウレタン系接着剤100部にレザミンNE架橋剤10部、DMF10部、MEK10部の調合液を目付け180g/mでコートし接着層(充実層)とした。次いで、温度90℃で2分間乾燥後、その離型紙上の2種の高分子弾性体(充実層)の上に、極細繊維と高分子弾性体からなる基体とを重ね合わせ、温度110℃の加熱シリンダー表面上で0.6mmの間隙のロールに通過させ圧着した。その後、温度60℃の雰囲気下で2日間放置した後、離型紙を剥ぎ取り人工皮革−1を得た。このときに充実皮膜を構成する最表皮膜の厚さは0.01mm、接着層の厚さは0.07mmであった。
【0045】
<人工皮革−2(開孔有り)の作成>
上記人工皮革−1の表面にCOレーザー加工機(三菱電機株式会社製、MITSUBISHI MEL LASER 605GTXII)を使用し、レーザーを縦横500μm間隔おきに照射し、その表面に微細孔を開孔させた。得られた人工皮革の表面は肉眼では変化は見えないが、表面を電子顕微鏡で観察すると直径100μmの穴の中心が正確に500μm間隔で開孔していた。断面を電子顕微鏡で観察するとその穴の内壁において繊維と高分子弾性体が融着し穴の先端は基体層に存在した。また、最表皮層と接着層からなる充実皮膜を貫通する穴は円錐状の形状で存在し、基材の裏面には届いていなかった。
このものの表面形態は肉眼では開孔前と差異がないにもかかわらず、通気性の高いものであった。表1に物性を示す。
【0046】
[実施例2]
<人工皮革−3(開孔あり)の作成>
上記の開孔前の人工皮革−1の表面にCOレーザー加工機(三菱電機株式会社製、MITSUBISHI MEL LASER 605GTXII)を使用し、皮膜厚さ方向にレーザーを縦横500μm間隔おきに照射を繰り返し、繊維と高分子弾性体からなる基体を貫通する微細孔を開孔させた。その表面を電子顕微鏡で観察すると直径250μmの孔が正確に500μm間隔で開孔していた。断面を電子顕微鏡で観察すると高分子充実皮膜層、高分子と繊維からなる基体層を、円柱状に貫通する穴が規則正しく存在していた。
このものの表面は、肉眼でも明らかに穴の存在が観察され、その開口部の形状ははっきりしたもので、裏側から光を透過させて観察しても、穴の内部には繊維や高分子弾性体からなる毛羽状のものは一切観察されなかった。またこの人工皮革の裏面に光源であるライトを置いて観察したところ、人工皮革の垂直方向から観察すると裏面の光源がはっきりと観察されたが、徐々に観察方向を斜め方向にしたところ、垂直方向から20度の角度において急に裏面の光源を観察することができなくなった。表1に物性を併せて示す。
【0047】
[比較例1]
実施例1で得られた開孔前の<人工皮革−1>をそのまま、つまり人工皮革の表面にCOレーザー加工機での開孔処理を実施しない人工皮革を用いて測定した。表1に物性を示す。
【0048】
[比較例2]
<人工皮革−4(機械的開孔処理品)の作成>
実施例1で得られた開孔前の人工皮革−1の表面に、太さ0.7mmのニードル針(バーブ無し)にて、25パンチ/cmの密度でパンチングを行った。これは縦横2mm間隔でパンチしたものと同等の穿孔密度であるが、ふさがっている孔も多数観察された。
またこのものの表面には、貫通孔は存在したものの、その形状は不定形で表面の平滑性にも劣るものであった。また裏側から光源であるライトを置いて表面側から肉眼観察したところ、表面がふさがっている孔や、孔の内部に繊維や高分子弾性体からなる毛羽が発生している事により、どの角度でも光源を観察することはできなかった。
表1に物性を示す。
【0049】
[比較例3]
<人工皮革−5(機械的開孔処理品)の作成>
実施例1で得られた開孔前の人工皮革−1の表面に、打ち抜きパンチング加工によって直径1mmの穴を、12.5パンチ/cmの密度でパンチングを行った。これは縦横4mm間隔の穿孔密度である。
このものの表面は、正確な間隔で貫通孔は存在しており、その形状もほぼ正確な円形であるが、拡大して観察してみると円周部分はいびつになっており、また穴の周囲はパンチング時の圧力によって部分的に厚さ方向につぶされて変形してしまっていた。また裏側から光源であるライトを置いて表面側から肉眼観察したところ、光源は観察できるものの、人工皮革の角度を変化させても光源が見えなくなることは無く、角度による変化は確認できなかった。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
このようにして得られた本発明の銀付調人工皮革は、表面に基体裏面から連続した微細孔が通じているために通気、透湿に優れたものとなる。また表面に開口した穴はその内壁側面が融着しており、物性的にも優れたものとなっている。このため従来から人工皮革として使用されているスポーツシューズ、一般靴、各種競技用ボール、装丁用途、衣料、および家具・車両用途において適したものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と多孔高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革であって、皮膜にはその皮膜を貫通する穴が存在し、その貫通する穴の内壁において基体内部に通じる多孔が存在し、かつ穴の内壁では繊維と高分子弾性体が融着していることを特徴とする銀付調人工皮革。
【請求項2】
皮膜を貫通する穴が、銀付調人工皮革を構成する基体を貫通している請求項1記載の銀付調人工皮革。
【請求項3】
穴の開口部の直径が50〜500μmである請求項1または2記載の銀付調人工皮革。
【請求項4】
穴の密度が1〜1000個/cmである請求項1〜3のいずれか1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項5】
繊維の繊度が2〜0.0001dtexである請求項1〜4のいずれか1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項6】
繊維の融点が180〜240℃である請求項1〜5のいずれか1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項7】
極細繊維が、ナイロン、ポリエステルのいずれかからなるものである請求項1〜6のいずれか1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項8】
多孔高分子弾性体の融点が150〜220℃である請求項1〜7のいずれか1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項9】
多孔高分子弾性体が、ウレタンからなるものである請求項1〜8のいずれか1項記載の銀付調人工皮革。
【請求項10】
繊維と高分子弾性体からなる基体上に、高分子弾性体からなる皮膜が存在する銀付調人工皮革に、赤外線領域のレーザー加工によって皮膜を貫通する穴を開けることを特徴とする銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項11】
レーザー加工により基体を貫通する穴を穿孔する請求項10記載の銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項12】
レーザー加工がCOレーザーである請求項10または11記載の銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項13】
皮膜の穿孔密度が、1〜1000個/cmである請求項10〜12のいずれか1項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項14】
多孔高分子弾性体の融点が150〜220℃である請求項10〜13のいずれか1項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項15】
繊維の融点が180〜240℃である請求項10〜14のいずれか1項記載の銀付調人工皮革の製造方法。
【請求項16】
繊維の繊度が2〜0.0001dtexである請求項10〜15のいずれか1項記載の銀付調人工皮革の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−248644(P2010−248644A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97128(P2009−97128)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】