説明

銀酸化物膜電解形成用組成物

【課題】大規模装置を必要とすることなく、簡単な製造方法によって、良好な銀酸化物を得ることができる、新規な銀酸化物の製造方法を提供する。
【解決手段】銀化合物、及び錯化剤を含有するpH5以上の水溶液からなる銀酸化物膜電解形成用組成物、並びに該組成物中において、銀酸化物形成用基材を陽極として電解を行うことを特徴とする銀酸化物膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀酸化物膜を電解法によって形成するために使用できる組成物及び銀酸化物膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化銀(AgO)、過酸化銀(AgO)等の銀酸化物は、禁制帯幅が結晶性Siと同程度の1.1〜1.5eVの酸化物半導体であり、吸収係数の大きい物質である。この様な特性を利用して、銀酸化物は、太陽電池の光吸収層としての利用が期待されており、更に、粉末状、粒子状などの銀酸化物は、酸化銀電池の正極活物質としても利用されている。
【0003】
酸化銀(AgO)の製造方法としては、例えば、加圧加熱下において、銀塩をアルカリ液で加水分解する方法(下記特許文献1参照)、陽極室と中間室の間の隔膜として陰イオン交換膜を設置し、陰極室と中間室の間の隔膜として陽イオン交換膜を設置した三室電解槽において中間室に塩水溶液をアノードに銀電極を用い、電解で得られる陽極室からの銀水溶液と陰極室からの苛性アルカリ溶液を反応させる方法(下記特許文献2)等が知られている。
【0004】
また、過酸化銀(AgO)については、酢酸銀などの水溶液銀塩を含む水溶液中で陽極電解反応を行うことによって、基板上に過酸化銀膜が形成されることが報告されている(下記非特許文献1)。
【0005】
更に、膜状の酸化銀については、反応性スパッタリング法によって形成できることが知られている。
【0006】
以上のように、銀酸化物の製造方法として各種の方法が知られているが、酸化銀(Ag2O)、過酸化銀(AgO)等の銀酸化物を幅広い用途に適用可能とするためには、真空排気装置や加熱装置などの大規模装置を必要とすることなく、比較的容易な方法によって各種用途に使用し得る銀酸化物を製造可能な方法が望まれている。
【特許文献1】特開平11−11944号公報
【特許文献2】特開2001−262206号公報
【非特許文献1】B. E. Breyfogle, et al., J. Electrochem. Soc., 1996, 143, 2741
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、大規模装置を必要とすることなく、簡単な製造方法によって、良好な銀酸化物を得ることができる、新規な銀酸化物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、銀化合物と錯化剤を含有するpH5以上の水溶液中での陽極電解という簡単な方法によって、大規模な装置を用いることなく、水溶液中における電解各種の基材上に膜厚、組成などの均一性に優れた良好な銀酸化物膜を形成できることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の銀酸化物膜電解形成用組成物及び銀酸化物膜の形成方法を提供するものである。
1. 銀化合物及び錯化剤を含有するpH5以上の水溶液からなる銀酸化物膜電解形成用組成物。
2. 錯化剤が、pH5以上の水溶液中において銀イオンを錯化して水溶性銀化合物を形成できる化合物である上記項1に記載の銀酸化物膜電解形成用組成物。
3. 上記項1又は2に記載の組成物中において、銀酸化物形成用基材を陽極として電解を行うことを特徴とする銀酸化物膜の形成方法。
【0010】
以下、本発明の銀酸化物膜電解形成用組成物について具体的に説明する。
【0011】
銀酸化物膜電解形成用組成物
本発明の銀酸化物膜電解形成用組成物は、銀化合物及び錯化剤を含有する水溶液からなるものである。以下、該組成物について具体的に説明する。
【0012】
(i)銀化合物:
本発明の組成物では、銀化合物としては、後述する錯化剤と同時に用いた場合に、水溶液中で安定に存在でき、水溶液中において銀イオンを遊離する化合物であればよい。例えば、硝酸銀、酢酸銀、炭酸銀などの水溶液銀塩の他、塩化銀、酸化銀(AgO)、過酸化銀(AgO)等のそれ自体では不溶性及び難溶性の銀化合物も使用できる。
【0013】
銀化合物の濃度については特に限定的ではないが、銀化合物の濃度が低すぎると銀酸化物を析出させることが困難となり、一方、濃度が高くなりすぎると爆発性の窒化銀を生成する傾向にある。このための、通常、銀化合物中の銀金属量として、0.0001mol/L〜2mol/L程度とすることが好ましく、0.001mol/L〜1mol/L程度とすることがより好ましい。特に、銀化合物として硝酸銀を用いる場合には、通常、銀金属量として、0.02mol/L〜0.5mol/L程度とすることが好ましい。
【0014】
(ii)錯化剤:
錯化剤としては、pH5以上の水溶液中において銀イオンを錯化して水溶性銀化合物を形成できるものであれば特に限定なく使用できる。
【0015】
この様な錯化剤の具体例としては、アンモニア;硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの水溶性アンモニウム化合物等を使用できる。更に、アミノ基等の窒素系官能基、カルボキシル基等の酸素系官能基等の官能基を一種又は二種以上含む、銀イオンと水溶性錯体を形成し得る有機化合物も錯化剤として使用できる。この様な有機化合物の具体例としては、リシン等のアミノ酸を例示できる。
【0016】
錯化剤の使用量は、特に限定的ではなく、添加した銀化合物の少なくとも一部が水溶液中において錯体として存在できる量であればよく、添加した銀化合物の全てが錯体を形成する量より少ない量であっても良い。例えば、不溶性の銀化合物を用いる場合には、錯化剤が不足すると一部の銀化合物が沈殿することがあるが、この場合にも、溶液中に銀錯体が飽和して存在するので、陽極酸化によって銀酸化物を析出させることができる。
【0017】
通常、錯化剤の使用量は、銀化合物中の銀金属量に対して、錯化剤中の配位子が0.5倍当量程度以上となる量とすればよく、1倍当量以上となる量とすることが好ましい。尚、銀化合物を完全に錯体とするには、通常、銀化合物中の銀金属量に対して、錯化剤中の配位子が2.5倍当量程度以上となる量の錯化剤を添加すればよい。
【0018】
錯化剤の添加量の上限についても特に限定的ではないが、錯化剤の量が多くなりすぎると、析出した銀酸化物が再溶解し易くなる。このために、錯化剤の添加量は、銀化合物中の銀金属量に対して、錯化剤中の配位子が6倍当量程度以下となる量とすることが好ましく、5倍当量以下となる量とすることがより好ましい。
【0019】
尚、本願明細書において、錯化剤の配位子とは、銀イオンに配位子し得る錯化剤中に含まれる基又は原子団を意味し、例えば、水溶性アンモニウム化合物では、NH基一個が配位子一個に相当する。
【0020】
銀酸化物膜の形成方法
本発明の銀酸化物膜電解形成用組成物を用いて銀酸化物を形成するには、該組成物中において、銀酸化物形成用基材を陽極として電解を行えばよい。これにより、陽極において該基材上に銀酸化物膜を形成することができる。
【0021】
電解方法としては、定電位電解及び定電流電解のいずれの方法も採用できる。定電位電解によって電解酸化を行う場合には、陽極電位は電解液の濃度などに応じて適宜設定すればよいが、通常、Pt参照電極基準で0mV〜2500mV程度が適当であり、200mV〜2000mV程度が好ましく、300mV〜1600mV程度が特に望ましい。この電位範囲での陽極電流密度は、基材の種類によって異なるが、通常、0.05 mA/cm2 〜100 mA/cm2 程度となる。また、定電流電解では陽極電流密度は、電解液の濃度などに応じて適宜設定すればよいが、通常、0.05 mA/cm2 〜100 mA/cm2程度が適当であり、0.1 mA/cm2 〜50 mA/cm2程度が好ましく、0.5 mA/cm2 〜35 mA/cm2程度が特に望ましい。この電流密度範囲での陽極電位は、用いる基材の種類によって異なるが、通常、0 mV〜2500mV 程度となる。銀酸化物膜の析出速度は、陽極電位が貴になるほど、言い換えれば陽極電流密度が大きいほど速くなる。
【0022】
尚、陰極電解では金属銀が析出して、銀酸化物を形成することができない。
【0023】
陰極については特に限定的ではないが、通常、カーボン、白金、白金めっきチタン等の不溶性材料を用いることができる。
【0024】
本発明組成物の温度は広い範囲で設定できるが、通常は、5℃〜60℃程度とすればよく、10℃〜30℃程度が好ましい。
【0025】
本発明組成物のpHは5程度以上とすればよく、上限は特に限定されない。この範囲においてpHが高くなると酸化銀(AgO)が形成され易くなり、pHが低くなると過酸化銀(AgO)が形成され易くなる傾向がある。形成される銀酸化物の具体的な種類は、電解液の濃度や陽極電位等にも影響されるので一概に規定できないが、通常、pHが11程度以下では過酸化銀(AgO)が形成され易い。また、pH12.8程度以上、例えば、12.8〜14程度では、酸化銀(AgO)が形成され易くなるが、この場合には陽極電位又は電流密度を高くすることによって、過酸化銀(AgO)を形成することができる。上記したpH範囲の中間、即ち、pH11〜12.8程度の範囲では、酸化銀(AgO)と過酸化銀(AgO)が同時に形成され易くなる。
【0026】
前述した組成及び電解条件の範囲内において、上記した傾向に基づいて条件を適宜調節することによって、目的とする銀酸化物膜を形成することができる。
【0027】
電解は、無攪拌または攪拌下で行なうことができ、攪拌法としては公知の方法をいずれも使用できる。
【0028】
本発明では、上記した条件で陽極電解を行うことによって、基材上に銀酸化物膜を形成することができる。
【0029】
基材の種類については特に限定されず、銀酸化物膜の使用目的に応じて適宜決めればよい。例えば、通常の電気めっきの対象となる全ての材料を基材とすることができ、銅、鉄等の金属材料、NESAガラス、ITOガラス等のガラス材料、セラミックス材料、プラスチックス材料等を基材とすることができる。セラミックス材料、プラスチックス材料等の非導電性材料に対しては、常法に従って、無電解めっき法等の湿式処理、PVD法等の乾式処理等によって、導電化処理を施せばよい。基材には、上記電解を行う前に、常法に従って、前処理を施してもよい。また、電解後には、水洗、乾燥など通常行われている操作を行ってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の銀酸化物膜電解形成用組成物によれば、水溶液からの陽極電解によって酸化銀膜、過酸化銀膜等の銀酸化物膜を形成することができる。この様な水溶液からの電解法によれば、真空排気装置や加熱炉などの大規模設備を必要とせず、工業的に用いられている電気めっき装置を使用でき、しかも、膜厚および組成の均一な銀酸化物膜を形成可能であって、膜厚および組成を電解条件により容易に制御できる等の各種の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に実施例および比較例を示し、本発明の特徴を一層明らかにする
実施例1
下記表1に記載の各成分を含有する水溶液からなる銀酸化物電解形成用組成物を調製した。
【0032】
得られた各組成物について、陽極としてNESAガラス、陰極として白金板を使用して下記表1に示す電解条件で電解を行うことによって、NESAガラス上に電析膜を析出させた。形成された電析膜について、X線回折法によって電析膜の種類を調べた結果も表1示す。尚、実施例1と実施例8で得られた電析膜のX線回折パターンをそれぞれ図1と図2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
以上の結果から明らかなように、銀化合物及び錯化剤を含む溶液中で陽極酸化を行うことによって、酸化銀(AgO)又は過酸化銀(AgO)の電析膜を形成できることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】実施例1で得られた銀酸化物膜のX線回折図。
【図2】実施例8で得られた銀酸化物膜のX線回折図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀化合物及び錯化剤を含有するpH5以上の水溶液からなる銀酸化物膜電解形成用組成物。
【請求項2】
錯化剤が、pH5以上の水溶液中において銀イオンを錯化して水溶性銀化合物を形成できる化合物である請求項1に記載の銀酸化物膜電解形成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物中において、銀酸化物形成用基材を陽極として電解を行うことを特徴とする銀酸化物膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−238990(P2007−238990A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60989(P2006−60989)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電技術研究開発 革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発 酸化物系薄膜太陽電池の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)