説明

銅エッチング廃液の処理方法

【課題】高濃度に過酸化水素を含有する銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解処理する。
【解決手段】過酸化水素を含む銅エッチング廃液をpH4以上に調整する銅エッチング廃液の処理方法。通常pH3以下の強酸性液である銅エッチング廃液のpHを4以上に調整すると、銅を含有するSSが発生し、発生したSSが過酸化水素の分解触媒として機能するようになるため、銅エッチング廃液をpH4以上に調整するのみで、希釈や加熱を必要とすることなく、また、pH調整のためのアルカリ剤以外の薬品を必要とすることなく、銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶製造工程等から排出される過酸化水素を含有する銅エッチング廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶製造工程における銅エッチング処理には、高濃度の過酸化水素を含む薬剤が使用される。このため、銅エッチング工程から排出される銅エッチング廃液には高濃度の過酸化水素が含有されており、その過酸化水素濃度は通常1重量%以上で、6重量%程度である場合もある。
【0003】
従来、過酸化水素濃度が高い銅エッチング廃液は、水処理が困難であるため、希釈して産業廃棄物として処理が行われていたが、過酸化水素濃度が高いと、産廃処理時に爆発の危険性があり、廃液処理に供する場合であっても過酸化水素を処理しておく必要がある。
【0004】
過酸化水素の処理方法としては、一般的に、活性炭、カタラーゼ、マンガン触媒等が使用されているが、過酸化水素濃度1000mg/Lを超えるような場合には、触媒性能の低下又は触媒使用量増大等の課題がある。このため、過酸化水素濃度1重量%以上の銅エッチング廃液に対して、このような処理方法を適用することは実用上問題があった。
【0005】
従来、高濃度に過酸化水素を含有する銅エッチング廃液に含まれる過酸化水素の処理方法としては、銅エッチング廃液を60〜80℃に加熱し、同温度範囲に0.5〜10時間維持する方法が提案されている(特許文献1)。
しかしながら、この方法では、過酸化水素の分解に加熱のための熱エネルギーを要する上に、分解に要する時間が長いという欠点がある。実際、特許文献1の実施例では、銅エッチング廃液を80℃に加熱した後7時間保持して過酸化水素を分解している。
【0006】
また、高濃度過酸化水素含有液を処理するに先立ち、処理水等で希釈して過酸化水素濃度を低減して常法に従って処理する方法もあるが、この方法では希釈水を必要とし、また、希釈により徒に処理液量が増え、反応槽等が大型化するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−238683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高濃度に過酸化水素を含有する銅エッチング廃液であっても、銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解処理する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、通常pH3以下の強酸性液である銅エッチング廃液のpHを4以上に調整したところ、銅を含有するSSが発生し、発生したSSが過酸化水素の分解触媒として機能すること、従って、銅エッチング廃液をpH4以上に調整するのみで、希釈や加熱を必要とすることなく、また、pH調整のためのアルカリ剤以外の薬品を必要とすることなく、銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解することができることを見出した。
【0010】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] 過酸化水素を含む銅エッチング廃液をpH4以上に調整する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【0012】
[2] [1]において、前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液をpH4以上に調整することにより発生したSSを固液分離する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【0013】
[3] [2]において、固液分離された前記SSの一部又は全部を過酸化水素を含む銅エッチング廃液に添加する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【0014】
[4] [2]又は[3]において、固液分離された前記SSを回収する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【0015】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液の処理で得られた処理水を希釈水として前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液に添加する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【0016】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液の過酸化水素濃度が1重量%以上であり、pHが3以下であることを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、過酸化水素を含む銅エッチング廃液にアルカリ剤を添加してpH4以上に調整するのみで、加熱のためのエネルギーや希釈、アルカリ剤以外の薬品の添加等を必要とすることなく、銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解除去することができる(請求項1)。
【0018】
即ち、銅エッチング廃液をpH4以上に調整すると、銅を含むSSが発生する。しかして、このSS中に含まれる銅が、過酸化水素の分解触媒として機能する。このため、本発明によれば、過酸化水素を含む銅エッチング廃液にアルカリ剤を添加してpH4以上に調整するのみで、加熱のためのエネルギーや希釈、アルカリ剤以外の薬品の添加等を必要とすることなく、銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解除去することができる。
【0019】
本発明においては、発生したSSを固液分離して銅エッチング廃液に添加してもよい(請求項2,3)。また、このSSは銅を主成分とするものであることから、固液分離したSSを銅原料として回収し、SSから分離回収した銅を再利用してもよい(請求項4)。
【0020】
本発明で処理する銅エッチング廃液は通常1重量%以上の高濃度の過酸化水素を含有し、pH3以下の強酸性廃液である(請求項5)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の銅エッチング廃液の処理方法の実施の形態の一例を示す系統図である。
【図2】本発明の銅エッチング廃液の処理方法の実施の形態の他の例を示す系統図である。
【図3】本発明の銅エッチング廃液の処理方法の実施の形態の別の例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
本発明で処理対象とする過酸化水素を含む銅エッチング廃液とは、過酸化水素を含む薬剤を用いた銅エッチング工程から排出される過酸化水素を含む銅エッチング廃液であり、通常、その過酸化水素濃度は0.1〜10重量%程度であるが、本発明は特に常法による過酸化水素の分解が困難な過酸化水素濃度1重量%以上、例えば1〜10重量%程度の銅エッチング廃液に有効である。
【0024】
また、このような銅エッチング廃液のpHは、通常3以下、例えば1〜3程度であり、過酸化水素以外の成分の含有量としては、通常、以下の通りである。
銅含有量:0.1〜1.0重量%
全窒素:0.3〜2.0重量%
TOC:0.5〜3.0重量%
【0025】
本発明においては、このような過酸化水素含有銅エッチング廃液にアルカリ剤を添加してpH4以上、好ましくは6以上、より好ましくは7〜9に調整する。調整pH値が4以上であることにより、過酸化水素を効率的に分解除去することができる。過酸化水素の分解効率の面からは、調整pH値は高い方が好ましいが、アルカリ剤使用量の低減、作業環境の安全性の面から、調整pH値は上記上限以下であることが好ましい。
【0026】
銅エッチング廃液のpH調整に用いるアルカリ剤としては特に制限はなく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等汎用のアルカリ剤の1種又は2種以上を用いることができる。
【0027】
銅エッチング廃液をpH調整した後の反応時間としては、銅エッチング廃液中の過酸化水素が十分に分解除去される時間であればよく、特に制限はないが、本発明の方法によれば、pH調整で発生するSS中の銅を触媒として液中の過酸化水素は短時間で効率的に分解除去されるため、その反応時間(後掲の図1に示すバッチ式では、反応槽保持時間、図2,3に示す連続式では反応槽滞留時間)は、0.25〜2.0時間、特に0.5〜2.0時間の短時間でよい。
【0028】
本発明においては、銅エッチング廃液のpHを4以上に調整するのみで銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解除去することができ、加熱、希釈や、アルカリ剤以外の他の薬品は不要であるが、過酸化水素の分解反応は発熱反応であるため、反応設備の耐熱性材料等の設計の面から、被処理水である銅エッチング廃液を、その処理で得られる処理水等で希釈して処理するようにしてもよい。
【0029】
即ち、過酸化水素の分解反応式は
→HO+1/2O
で表され、分解の反応熱は23.45kcal/molである。従って、例えば6重量%過酸化水素溶液中の過酸化水素をすべて分解する場合には、Δt=41℃の液温の上昇があり、3重量%の過酸化水素溶液中の過酸化水素をすべて分解する場合には、Δt=21℃の液温の上昇がある。従って、実用上は、処理水等でpH調整に供する銅エッチング廃液を希釈し、反応液の温度を40〜70℃の範囲に維持するようにすることが好ましい。
【0030】
また、銅エッチング廃液のpH調整で発生するSSは、通常銅含有量40〜80重量%程度の銅を主体とするSSであるため、これを固液分離して回収し、銅原料として銅の回収処理に供してもよい。また、このSS中の銅は、過酸化水素の分解触媒として機能するため、固液分離したSSをpH調整に供する銅エッチング廃液に添加してもよく、このようにすることにより、銅エッチング廃液中の銅触媒量を増加させて過酸化水素の分解効率を高めることができる。固液分離したSSの銅エッチング廃液への添加は、銅濃度の低い銅エッチング廃液の処理に特に有効である。
【0031】
以下に図面を参照して本発明の銅エッチング廃液の処理方法の実施の形態をより具体的に説明する。
【0032】
図1は、バッチ式での処理方法を示し、反応槽1内に投入した銅エッチング廃液2にアルカリ剤を添加して撹拌槽3で撹拌する。このとき、pH計4により反応槽1内の液pHを測定し、pH値が所定のpH値となったらアルカリ剤の添加を停止し、更に所定時間撹拌して反応を終了する。反応後、反応槽1内にはSSが発生しているため、これを固液分離して処理水を得ると共に分離したSSを銅エッチング廃液の処理に利用するか或いは銅原料として回収する。
【0033】
図2は、連続式での処理方法を示し、反応槽1に銅エッチング廃液を所定の流量で連続的に通液すると共に、撹拌下、アルカリ剤を所定の流量で添加する。アルカリ剤は、pH計4と連動する薬注ポンプ5により、反応槽1内の液pHが所定のpH値となるように添加される。銅エッチング廃液はアルカリ剤が添加されて反応槽1内で所定の滞留時間保持される。反応により過酸化水素が分解除去された処理水は、反応槽1から取り出されて次工程へ送給され、SSの固液分離、分離したSSの回収等が行われる。
【0034】
図3は、工業的な連続処理の一例を示し、銅エッチング廃液はまずpH調整槽11に導入され、アルカリ剤が添加されてpH調整される。アルカリ剤は、図2におけると同様に図示しないpH計に連動する薬注ポンプで添加量が制御される。pH調整槽11の流出液は次いで反応槽12に送給され、反応槽12内で所定の時間反応が行われ、反応液は次いで沈殿槽13に送給されて固液分離される。沈殿槽13で固液分離された分離水は処理水として取り出され、更なる排水処理又は産廃処理に供される。一方、分離汚泥は一部が返送汚泥としてpH調整槽1に返送され、残部は脱水機14で脱水処理された後回収される。なお、沈殿槽13で分離された処理水は、その一部をpH調整槽11に返送して銅エッチング廃液を希釈するようにしてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に実験例及び実施例を挙げる。
【0036】
<実験例1>
下記組成の銅エッチング廃液(pH2.2)をpH調整することなく、そのまま放置し、銅エッチング廃液中の過酸化水素濃度の経時変化を調べたところ、一日経過後の銅エッチング廃液の過酸化水素濃度は2.9重量%であり、過酸化水素濃度は殆ど低下しなかった。即ち、そのままでは銅エッチング廃液中の過酸化水素は分解されないことが分かる。
【0037】
(銅エッチング廃液組成)
過酸化水素:3重量%
銅:0.4重量%
全窒素:0.8重量%
TOC:1.1重量%
【0038】
<実施例1>
比較例1におけると同組成の銅エッチング廃液に水酸化ナトリウムを添加して、pH4〜10に調整し、1時間経過後の銅エッチング廃液の過酸化水素濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、銅エッチング廃液のpHを4以上、特に6以上に調整することにより、1時間という短時間で銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解除去することができることが分かる。
【0041】
<実施例2>
過酸化水素濃度6重量%、銅濃度0.7重量%の銅エッチング廃液(pH2.2,その他の成分は実験例1における銅エッチング廃液と同様)について、実施例1と同様にpH調整し、調整pH値と1時間経過後の銅エッチング廃液の過酸化水素濃度との関係を調べた。結果を表2に示す。表2には1時間後の銅エッチング廃液の液温の上昇温度(Δt)を併記した。
【0042】
【表2】

【0043】
表2より、銅エッチング廃液のpHを4以上、特に6以上に調整することにより、1時間という短時間で銅エッチング廃液中の過酸化水素を効率的に分解除去することができること、また、過酸化水素の分解は発熱反応であるため、分解した過酸化水素量に応じて液温が上昇することが分かる。
【0044】
<実施例3,4>
実施例2で処理した銅エッチング廃液と同組成の銅エッチング廃液を原液として、図2に示す反応槽を用いて、連続式で処理を行った。反応槽1には予め処理水を張り込み、原液を所定の流量で流した。反応槽1にはアルカリ剤として水酸化ナトリウムを添加して、槽内液のpHを7(実施例3)又は8(実施例4)に調整した。反応槽1の容積は1時間当たりの原液通液量の2倍とし、反応槽1での原液の滞留時間は2時間とした。このときの通液時間と得られた処理水の過酸化水素濃度との関係を表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
表3より、本発明によれば、連続処理においても、滞留時間2時間という短時間で過酸化水素を効率的に分解除去することができることが分かる。なお、pH7に調整した実施例3において、通液時間1〜4時間で次第に処理水の過酸化水素濃度が低減したのは、反応槽の温度が上昇したため、反応速度が大きくなり分解効率が向上したことによる。
【0047】
<実験例2>
実施例4(pH8)の処理で発生したSSを固液分離して、105℃で2時間乾燥後、酸に溶解させて分析した結果、このSSの銅(CuO)含有量は45重量%以上であることが確認された。
このSSを用いて以下の過酸化水素分解処理を行った。
試薬過酸化水素を用いて過酸化水素濃度3重量%の水溶液(pH2.2)を調製し、この過酸化水素水溶液を試験液としてSSを1重量%添加したものと、SS未添加のものとについて、それぞれ水酸化ナトリウムを添加してpH8に調整し、1時間経過後の液中の過酸化水素濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
表4より、銅エッチング廃液の処理で発生したSS中の銅が過酸化水素の分解触媒として機能し、これにより過酸化水素が効率的に分解除去されることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1 反応槽
2 銅エッチング廃液
3 撹拌機
4 pH計
5 薬注ポンプ
11 pH調整槽
12 反応槽
13 沈殿槽
14 脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含む銅エッチング廃液をpH4以上に調整する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液をpH4以上に調整することにより発生したSSを固液分離する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【請求項3】
請求項2において、固液分離された前記SSの一部又は全部を過酸化水素を含む銅エッチング廃液に添加する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【請求項4】
請求項2又は3において、固液分離された前記SSを回収する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液の処理で得られた処理水を希釈水として前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液に添加する工程を含むことを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記過酸化水素を含む銅エッチング廃液の過酸化水素濃度が1重量%以上であり、pHが3以下であることを特徴とする銅エッチング廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−55825(P2012−55825A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201158(P2010−201158)
【出願日】平成22年9月8日(2010.9.8)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】