説明

銅亜鉛硫化スズの調製

本発明は、銅亜鉛硫化スズ、Cu2ZnSnS4の合成に関する。銅亜鉛硫化スズは、薄膜太陽電池の適用における吸収体材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスレファレンス
本出願は、合衆国法典第35条119項(e)の下、2009年11月25日出願第61/264409号明細書からの優先権およびその利益を主張する。これは、全ての目的に関し、本明細書の一部として、その全体がこの参照により援用されている。
【0002】
本発明は、銅亜鉛硫化スズ、Cu2ZnSnS4の合成に関するものである。銅亜鉛硫化スズは、薄膜太陽電池の適用における吸収体材料として有用である。
【背景技術】
【0003】
光起電力電池またはPV電池、そして太陽モジュールとも称される太陽電池は、太陽光を電気に変換する。これらの電子装置は従来、比較的高価な生産方法で、光吸収性の半導体材料としてシリコン(Si)を用いて製造されてきた。太陽電池をより経済的に実現可能にするべく、CIGSとも称される銅―インジウム−ガリウム−スルホ−ジセレン、Cu(In、Ga)(S、Se)2などの薄膜の光吸収性半導体材料を安価に利用できる太陽電池装置の構築法が開発されている。このクラスの太陽電池は一般に、背面の電極層とn型接合パートナー層との間に挟まれたp型吸収層を有する。背面の電極層はMoであることが多く、接合パートナーはCdSであることが多い。アルミニウムにドープされた酸化亜鉛などの透明導電酸化物(TCO)が接合パートナー層上に形成され、透明電極として一般に用いられる。
【0004】
薄膜太陽電池におけるCIGSの可能性は実証されているものの、商業用装置におけるCIGSの広範な使用と受容にとって、インジウムとセレンの毒性および存在量の低さが大きな障害となっている。薄膜太陽電池の吸収層の魅力的な代替物は、四元カルコゲナイド、特に銅亜鉛硫化スズ、Cu2ZnSnS4(CZTS)である。これは、約1.5eVの直接禁止帯ならびに104cm-1超の吸収係数を有する。さらに、CZTSは毒性元素または非豊富元素を含まない。
【0005】
CZTSの薄膜は、Cu、SnSおよびZnS前駆体のスパッタリング、ハイブリッドスパッタリング、パルスレーザー蒸着、ハロゲン化物およびチオ尿素複合体の噴霧熱分解法、電着/熱硫酸化、電子ビームCu/Zn/Sn熱硫酸化、およびゾル−ゲル蒸着後の熱硫酸化によって調製されてきた。
【0006】
CZTSのバルク量は、400℃から1150℃の間の温度における減圧クオーツアンプルにおいて調製されてきた。バルク量はまた、H2Sなどのイオウ源と共に火炉でも調製されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非減圧ベースの薄膜光起電物のために、バルク量でCZTSを製造する安全でロバストな方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示されているのは、
a)
i)硫化銅、硫化亜鉛、および硫化スズ;
ii)銅硫化スズおよび硫化亜鉛;
iii)銅硫化亜鉛および硫化スズ;または
iv)亜鉛硫化スズおよび硫化銅;
を含んでなる前駆体混合物であって、Cu:Zn:Sn:Sの全モル比が約2:1:1:4である前駆体混合物を提供するステップと;
b)前駆体混合物を、不活性雰囲気下、約300℃から約1000℃の温度に加熱するステップと、
を含んでなる方法である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本法によりCZTSを調製することができる。本明細書において、用語「CZTS」とは、Cu2ZnSnS4のことであり、限定はしないが、Cu1.94Zn0.63Sn1.34などの化学量論比の範囲を有する銅亜鉛硫化スズ組成物をさらに包含する。すなわち、元素のモル比を、厳密な2Cu:1Zn:1Sn:4Sから変えることができ、また、ナトリウムまたは鉄などの他の少量の元素をドープすることもできる。
【0010】
一実施形態において、加熱は開放容器内で実施される。「開放容器」とは、大気に開放されている容器を意味し、すなわち、前駆体混合物と周囲圧力との間の自由蒸気の連絡を可能にする少なくとも1つの開口を含有し、したがって、前駆体混合物と周囲圧力とをほとんど平衡に維持する容器を意味する。開放容器は、アルミナ、窒化アルミニウム、マグネシア、マグネシアとアルミナ、ジルコニア、ジルコニアと酸化イットリウム、カーボングラファイト、白金ならびに白金の合金、金およびロジウムなど、前駆体混合物に対して不活性である任意の材料から作製することができる。開放容器は、コンバスチョンボート、るつぼ、焼却トレイ、焼却皿、およびオーブンまたは火炉の底盤など、任意の形状とサイズであり得る。
【0011】
前駆体混合物は、加熱用に用いられる容器に入れる前または後に、個々の成分と混合することによって調製することができる。前駆体成分は、個別に、または混合後に予備粉砕できる。混合は、個々の成分が均一化される限り、任意の手段で実施できる。好適な混合方法としては、摩砕、振とう、およびボールミル粉砕が挙げられる。一般的に、前駆体の粒径は、350メッシュサイズと5メッシュサイズとの間、または200メッシュと325メッシュとの間である。混合後、前駆体混合物は粉末形体であってもよいし、圧縮ペレットなどの任意の形状に形体化してもよい。
【0012】
前駆体混合物は、i)硫化銅、硫化亜鉛、および硫化スズ;ii)銅硫化スズおよび硫化亜鉛;iii)銅硫化亜鉛および硫化スズ;またはiv)亜鉛硫化スズおよび硫化銅を含んでなる。
【0013】
「硫化銅」とは、硫化銅(I)または硫化銅(II)、またはそれらの混合物など、銅とイオウからなる組成物を意味する。
【0014】
「硫化亜鉛」とは、硫化亜鉛(II)、またはその混合物など、亜鉛とイオウからなる組成物を意味する。
【0015】
「硫化スズ」とは、硫化スズ(II)または硫化スズ(IV)、またはそれらの混合物など、スズとイオウからなる組成物を意味する。
【0016】
「銅硫化スズ」とは、Cu2SnS3など、スズ、銅およびイオウからなる組成物を意味する。
【0017】
「銅硫化亜鉛」とは、亜鉛、銅およびイオウからなる組成物を意味する。
【0018】
「亜鉛硫化スズ」とは、亜鉛、スズおよびイオウからなる組成物を意味する。
【0019】
一実施形態において、前駆体混合物は、硫化銅、硫化亜鉛および硫化スズを含んでなる。別の実施形態において、前駆体混合物は、銅硫化スズおよび硫化亜鉛を含んでなる。
【0020】
前駆体混合物は、Cu:Zn:Sn:Sが約2:1:1:4の全モル比を有し、Cu、Zn、およびSnの比は約20モル%逸脱してもよい。これは、組成物が中性を保つ程度に、Cu、SnまたはZnの金属イオンのいくつかが、異なるCu、SnまたはZnイオンと置き換わる場合に生じ得る。例えば、Cu含有量を減らすことによってZn含有量を高め、Cu:Zn:Sn:Sを1.8:1.2:1.4にすることができる。
【0021】
混合後、前駆体混合物を不活性雰囲気下で加熱する。「不活性雰囲気」とは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、窒素およびそれらの混合物など、前駆体混合物に対して不活性である雰囲気を意味する。特に、不活性雰囲気は、水、酸素、またはH2Sを含有してはならない。加熱ステップ時、不活性雰囲気は開放容器の上方をストリームまたはフローさせることができる。
【0022】
加熱は一般的に、大気圧下で実施される。
【0023】
総加熱時間は重要ではなく、温度および所望の変換率に依るが、一般的には、約0.25時間から数日である。好適な加熱時間としては、0.25時間、1時間、2時間、6時間、12時間、24時間、2日、3日、5日およびそれらの間の任意の時間が挙げられる。
【0024】
前駆体混合物は、約300℃から約1000℃、約400℃から約800℃、または約600℃から約800℃の温度に加熱される。加熱は、一段階で、またはより高い温度へのランピングもしくはステッピング、または低温と高温との間でのサイクリングなどの任意の様式で実施することができる。加熱は、管状炉など、任意の手段を用いて実施することができる。前駆体混合物は、周囲温度で出発させて、または直接低温もしくは高温に置いて加熱することができる。
【0025】
生成物のCu2ZnSnS4は、酸化または加水分解を防ぐために、一般的に不活性雰囲気下で周囲温度に冷却する。本法は、Cu2ZnSnS4を単離するステップをさらに含んでなる。これは、一般的には10%HClなどの酸である溶媒によるエッティング後、濾過して不溶の不純物、例えばSnSの除去など、任意の公知の手段によって実施することができる。
【0026】
上記の方法によって調製されたCZTSは、光起電力品などの電子装置の製造に有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】一実施形態において調製されたCZTSの粉末X線回折図を示している。
【図1B】一実施形態において調製されたCZTSの粉末X線回折図を示している。
【実施例】
【0028】
200メッシュ粉末の硫化銅(II)、200メッシュ粉末の硫化銅(I)、325メッシュ粉末の硫化亜鉛(II)、8メッシュ粉末の硫化スズ(II)は、Alfa Aesar(26 Parkridge Rd、Ward Hill、マサチューセッツ州)から購入した。硫化スズ(IV)は、Pfaltz&Bauer Inc.(172 E.Aurora St.、Waterbury、コネチカット州)から購入した。銅硫化スズは、Fiechter,S.;Martinez、M.;Schmidt、G.;Henrion、W.;Tomm,Y.(Hahn−Meitner−Institute、ベルリン、独国)によりJournal of Physics and Chemistry of Solids(2003)、64(9−10)、1859−1862頁に記載された方法に従って、硫化Cu(II)と硫化Sn(IV)とから調製した。
【0029】
X線回折図は、ペンシルバニア州ニュートンスクェア所在のInternational Centre for Diffraction Data(ICDD)から入手できるCZTSの標準図と比較した。
【0030】
実施例1
硫化銅(II)(4.35g、0.0455モル)、硫化亜鉛(II)(2.22g、0.0228モル)および硫化スズ(IV)(4.16g、0.0228モル)を一緒に、15分間振とうすることにより混合してから、20mlのアルミナボートに入れた。次にアルミナボートを、窒素流下、周囲温度で管状炉に入れた。ボートを、周囲温度から800℃に15分間かけて加熱し、この温度で1日維持した。サンプルを周囲温度に冷却し、粉砕した。粉砕サンプルを、窒素流下、ボートと管状炉に戻した。次いで加熱サイクルを繰り返した。この方法を4回繰り返し、全部で5日間の加熱時間であった。
【0031】
各加熱サイクル後のサンプルを、XRD(粉末x線回折)により分析した。図1Aと1Bに結果が示してある。得られた粉末回折図形は、良好な純度でCZTSが存在していることを示した。
【0032】
実施例2
硫化銅(II)(3.26g、0.0341モル)、硫化亜鉛(II)(1.65g、0.0169モル)および硫化スズ(II)(3.21g、0.0213モル)を一緒に混合し、20mlのアルミナボートに入れた。次にボートを、窒素流下、周囲温度で管状炉に入れた。ボートを、周囲温度から600℃に15分間かけて加熱し、この温度で1日維持した。サンプルを周囲温度に冷却し、XRDにより分析した。得られた粉末回折図は、良好な純度でCZTSが存在していることを示した。
【0033】
実施例3
硫化銅(II)(8.7g、0.091モル)、硫化亜鉛(II)(4.44g、0.0456モル)および硫化スズ(IV)(8.32g、0.0456モル)を一緒に混合し、8個のペレットに圧縮してから、20mlのアルミナボートに入れ、窒素流下、管状炉に入れた。ボートを、周囲温度から600℃に15分間かけて加熱し、600℃で3日間維持した。サンプルを冷却し、XRDにより分析すると、良好な純度でCZTSが存在していることを示した。
【0034】
実施例4
硫化亜鉛(II)(2.29g、0.0235モル)および銅硫化スズ(Cu2SnS3、8.037g、0.0235モル)を用いて実施例3を繰り返した。得られたサンプルをXRDにより分析すると、良好な純度でCZTSが存在していることを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)i)硫化銅、硫化亜鉛および硫化スズ;
ii)銅硫化スズおよび硫化亜鉛;
iii)銅硫化亜鉛および硫化スズ、または
iv)亜鉛硫化スズおよび硫化銅、
を含んでなる前駆体混合物あって、前記前駆体混合物のCu:Zn:Sn:Sの全モル比が、約2:1:1:4である前駆体混合物を提供するステップと、
b)前記前駆体混合物を、不活性雰囲気下、約300℃から約1000℃の温度に加熱するステップと、を含んでなる方法。
【請求項2】
Cu2ZnSnS4を単離することをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記前駆体混合物を、約600℃から約800℃の温度に加熱する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体混合物を、約6時間から約5日間加熱する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体混合物が、硫化銅、硫化亜鉛および硫化スズを含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記前駆体混合物が、銅硫化スズおよび硫化亜鉛を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップb)における前記不活性雰囲気が、前記前駆体混合物上に流動される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱が、周囲大気圧で実施される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記加熱が、開放容器中で実施される請求項1に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【公表番号】特表2013−512173(P2013−512173A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541132(P2012−541132)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【国際出願番号】PCT/US2010/057562
【国際公開番号】WO2011/066203
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY