説明

銅合金板材および銅合金板材の製造方法

【課題】高い硬度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができる、銅合金板材および銅合金板材の製造方法を提供する。
【解決手段】1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなり、粒径が15nm以下の析出粒子の密度が10000個/μm以上、粒径が15〜100nmの析出粒子の密度が100〜200個/μm、粒径が100nm以上の析出粒子の密度が10個/μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金板材および銅合金板材の製造方法に関し、特に、リードフレームなどに使用するCu−Fe−P系銅合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リードフレームなどの電気電子部品に使用される材料は、高硬度で、導電性および耐熱性に優れていることが要求される。このような材料として、CDA194合金などのCu−Fe−P系銅合金が使用されている。
【0003】
近年、リードフレームなどを使用する半導体装置の大容量化、小型化および高機能化に伴い、リードフレームなどに使用される材料には、さらに高い硬度および導電率を有することが要求されている。加えて、リードフレームは、一般にスタンピング加工(プレス打ち抜き加工)によって多数のピンを有する形状に加工され、スタンピング加工時の歪を除去するために高温で加熱処理されるので、耐熱性に優れていることも要求される。
【0004】
そのため、例えば特許文献1には、Cu−Fe−P系銅合金からなるリード素材に、新たな添加元素としてMgなどを添加して、硬さおよび耐熱性を向上させることが提案されている。また、例えば特許文献2には、Cu−Fe−P系銅合金材に、時効処理前に溶体化熱処理および中間の冷間圧延を行って、硬さと耐熱性を向上させることが提案されている。さらに、例えば特許文献3には、Cu−Fe−P系銅合金材に、熱間加工後で冷間加工前に高温および低温の2段階時効処理を行って、高い硬度を損なうことなく、導電性を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭64−449号公報
【特許文献2】特許第3896793号公報
【特許文献3】特開平10−324935公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導電率、硬さ、耐熱性の間にはトレードオフ関係があり、三者を同時に向上させることは容易ではない。具体的に、導電率、硬さおよび耐熱性は、Fe析出物(少量のFe−P)の量とサイズに依存する。析出物のサイズ(直径)は均一ではなく、一般に数nmから数百nmの範囲内に分布する。時効の温度と時間により、各種粒子の割合が変わる。なお、本明細書では、数nmの析出物を小粒子、数十nmの析出物を中粒子、百nm以上の析出物を大粒子と呼ぶ。
【0007】
導電率は、析出物のサイズによらず、ほぼ析出物の量のみに依存する。析出物の量が多いほど、導電率は高い。一方、硬さと耐熱性は、小粒子の量が多いほど高くなり、中粒子と大粒子の影響は小さい。また、大粒子は再結晶の起点になりやすく、耐熱性が著しく低下する可能性がある。
【0008】
すなわち、導電率、硬さおよび耐熱性を同時に向上させるためには、小粒子を多量に生成させることが必要である。しかしながら、Cu−Fe−P系銅合金において、例えばビッカース硬さHVが160以上の高硬度を達成するためには、析出物(小粒子の量とサイズ)制御だけではなく、転位強化、すなわち時効処理後の仕上げ圧延による加工硬化が必要である。仕上げ圧延中に一部の小粒子が転位により切断され、再固溶することにより、導電率が著しく低下することが一般的に知られている。
【0009】
特許文献1のように、Mgなどの活性元素を添加する場合には、銅合金を製造する際のMgなどの酸化によって歩留りが低下したり、コストが増大することが多い。また、特許文献2のように、時効処理前に溶体化処理を行った場合、析出物をより微細に制御することができるが、時効後の仕上げ圧延による導電率低下の問題が解決できない。更に、一定の仕上げ圧延率を確保するため、溶体化処理時点の板が比較的厚いため、一般的な連続溶体化装置が対応できない。つまり、専用の厚板溶体化設備が必要となるため、現在Cu−Fe−P系銅合金の製造では、溶体化処理を行わないのが主流である。特許文献3のように、熱間加工、冷間加工後に高温および低温の2段階時効処理を行う場合には、析出が、粒界や変形帯などで優先的に発生し、一般的に不均一になるため、小粒子と中粒子の密度のバランスが得にくい。
【0010】
いずれにしても、導電率、硬さ、耐熱性の間のトレードオフ関係を十分に解消できないため、現存のCDA194合金などの銅合金は、一部の用途で対応できなくなる場合もある。
【0011】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、高い硬度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができる、銅合金板材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなり、粒径が15nm以下の析出粒子の密度が10000個/μm以上、粒径が15〜100nmの析出粒子の密度が100〜200個/μm、粒径が100nm以上の析出粒子の密度が10個/μm以下であることを特徴とする銅合金板材を提供する。加えて、Snの含有量が0.2質量%以下、Mgの含有量が0.15質量%以下、Znの含有量が0.3質量%以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の銅合金板材は、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、475℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上である。
【0014】
さらに、本発明の銅合金板材は、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbのうちいずれか1種以上が、合計0.4質量%以下の範囲で含まれてもよい。
【0015】
また、本発明は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる原料を溶融して鋳造した鋳塊を900〜1000℃まで加熱し、その加熱温度中に2時間以上保持した後、1000℃〜750℃の温度域で加工度が60%以上、600℃〜450℃の温度域で加工度が30%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、0〜80%の圧延率で冷間圧延を行い、520〜620℃で30分〜6時間の高温時効および400〜500℃で3〜20時間の低温時効の2段階時効処理を行うことを特徴とする、銅合金板材の製造方法を提供する。
【0016】
前記2段階時効処理後の銅合金板材に、圧延率が80%以上の仕上げ冷間圧延を行ってもよい。前記仕上げ冷間圧延を行った後に、250〜500℃で低温焼鈍を行ってもよい。
【0017】
さらに、前記原料に、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbのうちいずれか1種以上が、合計0.4質量%以下の範囲で含まれてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い硬度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を安価に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
先ず、原料の化学組成について説明する。
【0021】
Feは、銅合金板材の硬度を向上させる作用を有するが、その含有量が1.5質量%未満では硬度の向上が不十分であり、3.0質量%を超えると導電率が低下するので、Fe含有量は1.5〜3.0質量%であるのが好ましく、2.0〜2.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0022】
Pは、溶湯の脱酸作用を有するとともに、Feと化合物を形成して析出することによって導電率および硬度を向上させる作用を有するが、その含有量が0.01質量%未満ではこれらの作用が不十分であり、0.2質量%を超えるとこれらの作用が飽和して逆に析出物が粗大化しやすいので、P含有量は0.01〜0.2質量%であるのが好ましく、0.015〜0.15質量%であるのがさらに好ましい。
【0023】
Snは、銅合金板材の耐熱性を向上させる作用を有するが、その含有量が0.2質量%を超えると導電率が低下するので、Snを含む場合、その含有量は0.2質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
Mgは、銅合金板材の耐熱性を向上させる作用を有し、しかも導電率の低下が比較小さいが、その含有量が0.15質量%を超えると製造性が低下するので、Mgを含む場合、その含有量は0.15質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
Znは、Pと同様に溶湯の脱酸作用を有するが、その含有量が0.3質量%を超えると脱酸作用が飽和して導電率が低下するので、Zn含有量は0.3質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0026】
なお、銅合金板材の原料として、電子材料のスクラップなどを使用する場合には、スクラップ中に混入した元素が原料中に不可避的に混入する可能性がある。また、多数の種類の銅合金を製造する場合、それぞれの銅合金の原料を同一の溶解炉で溶解すると、僅かではあるが、前の銅合金の成分が原料中に混入する場合がある。これらの不純物が固溶または一部が化合物を析出して、若干の硬度の向上に寄与することもあるが、一般的には導電率を低下させ、また製造条件の最適範囲がずれることもあり、多量に含むのは望ましくない。このような不可避不純物として、例えば、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbなどは、1種類につき0.2質量%以下、合計0.4質量%以下の範囲であれば含んでもよい。好ましくは、1種類につき0.15質量%以下、合計0.30質量%以下であり、さらに好ましくは、1種類につき0.15質量%以下、合計0.15質量%以下である。
【0027】
次に、析出粒子について説明する。
【0028】
粒径が15nm以下の析出粒子(小粒子)は、転位と粒界の移動のピンニング効果があり、その密度が高いほど、硬度と耐熱性が優れる。ビッカース硬さHVが150以上、および475℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上の耐熱性を確保するために、小粒子の密度は10000個/μm以上であるのが好ましく、15000個/μm以上であるのがさらに好ましい。なお、ビッカース硬さHVが155以上、および475℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが145以上であることが、より好ましい。
【0029】
15〜100nmの析出粒子(中粒子)は、小粒子よりは少ないが、硬度と耐熱性の向上効果がある。特に、前述のように、時効処理後に生じる小粒子は、その後に硬度を向上させるための仕上げ圧延中に、転位により切断されて再固溶することで、導電率が低下しやすい。そのため、一定量の転位により切断されにくい中粒子が必要である。中粒子の密度が低すぎると、導電率低下を抑制する効果が不十分であり、中粒子の密度が高すぎると、必然的に小粒子の密度が低下してしまう。そのため、中粒子の密度は100〜200個/μmであるのが好ましく、120〜150個/μmであるのがさらに好ましい。
【0030】
100nm以上の析出粒子(大粒子)は、硬度と耐熱性の向上効果がほとんどなく、その密度が低いほど、相対的に小粒子や中粒子の密度が増大する。したがって、大粒子の密度は10個/μm以下であるのが好ましく、5個/μm以下であるのがさらに好ましい。
【0031】
次に、本発明にかかる銅合金板材の製造条件について説明する。
【0032】
本発明によって前述の化学組成の銅合金の原料を溶解して鋳造する鋳塊は、通常の銅合金の連続鋳造法または半連続鋳造法により製造することができる。
【0033】
この鋳塊の熱間圧延は、加熱炉によって900〜1000℃程度までに加熱し、その状態を2時間以上保持した後に行う。これは、鋳造中に生じる偏析の減軽や晶出物の固溶に効果がある。これに続いて、熱間圧延を行う。Cu−Fe−P系銅合金は、熱間圧延中に、比較的、動的再結晶が発生しにくい。再結晶は原子の再配列過程であり、この段階で再結晶しないと、粗大な析出物は最終製品まで残って、硬度と耐熱性がともに低下する。そのため、この熱間圧延時には、1000℃〜750℃の温度域での強圧延により、動的再結晶を発生させ、粗大な析出物を固溶できる。従って、1000℃〜750℃の温度域で圧延率が60%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがさらに好ましい。
【0034】
その後、600℃〜450℃の温度域で圧延率30%以上の熱間圧延を行う。この熱間圧延によって、銅マトリックス中に微細なFeまたはFe−P系化合物が析出すると考えられる。なお、600℃〜450℃の低温域の熱間圧延では、金属間化合物が動的に析出することにより、析出物の生成と微細化が起こるという効果があり、その後の時効焼鈍処理で小粒子と中粒子の密度のバランスを制御できる。
【0035】
また、最終熱間圧延後の導電率が、35〜50%IACSであるのが好ましい。導電率が35%IACS未満であると、FeまたはFe−P系化合物の析出の進行が不十分であり、その後の時効焼鈍処理で得られる小粒子と中粒子の密度のバランスの制御が困難になると考えられる。一方、熱間圧延後の導電率が50%IACSを越えると、析出物が粗大化する可能性がある。そのため、熱間圧延後の導電率が35〜50%IACSであるのが好ましく、40〜45%IACSであるのがさらに好ましい。上記の熱間圧延を行うことによって、熱間圧延後の導電率をこの範囲にすることができる。
【0036】
なお、それぞれの温度域での圧延率ε(%)は、(1)式によって算出される。
ε=(t−t)/t×100 (1)
:圧延前の板厚
:圧延後の板厚。
【0037】
例えば1000〜900℃の間で行う最初の圧延パスに供する鋳片の板厚が180mmであり、750℃以上の温度で実施された最後の圧延パス終了時に板厚が70mmになり、引き続いて圧延を継続して、熱間圧延の最終パスを600℃〜450℃の範囲で行い、板厚30mmから最終的に板厚15mmの熱間圧延材を得たとする。この場合、1000℃〜750℃の温度域で行われた圧延の圧延率は(1)式により、(180−70)/180×100=61(%)である。また、600℃〜450℃の温度域での圧延率は同じく(1)式により、(30−15)/30×100=50(%)である。
【0038】
次いで、0〜80%の圧延率で、冷間圧延を行う。圧延率が0%とは、この冷間圧延を行わず、直接時効処理に供することを意味する。本発明の銅合金板材は、生産性を向上させるために、この段階での冷間圧延工程を省略してもよい。また、この段階の圧延率が80%を超えると、最終の仕上げ圧延率を確保できない可能性がある。
【0039】
続いて、固溶元素を析出させるための時効処理を行う。従来の時効処理であれば、時効温度が、例えば450℃程度と比較的低い場合、析出速度が遅く、導電率を確保するための析出量を達成する時効時間が数十時間程度必要である。また、析出物の粒径が小さく、その後の仕上げ圧延中に転位により切断して再固溶しやすく、最終的な板材の導電率が低下してしまう。逆に、時効温度が、例えば600℃程度と比較的高い温度の場合は、析出速度が速く、析出物が粗大化しやすい。そのため、小粒子と中粒子の密度制御は困難である。また、例えば550℃程度の中間温度で時効処理を行っても、析出が、粒界や変形帯などで優先的に発生し、一般的に不均一になるため、小粒子と中粒子の密度のバランスが得にくい。
【0040】
本発明では、520〜620℃で30分〜6時間の高温時効、および400〜500℃で3〜20時間の低温時効の、2段階時効処理を行う。前述の熱間圧延後の板材には、動的析出により、微細かつ均一な析出粒子がある。520〜620℃で30分〜6時間の高温時効を行うことにより、動的析出した微細析出物が、比較的短時間で中粒子に成長する。温度が低すぎるか、または時間が短すぎると、中粒子の密度が不十分であり、温度が高すぎるか、または時間が長すぎると、大粒子の密度が増加してしまう。400〜500℃で3〜20時間の低温時効では、小粒子の密度を増加させると同時に、高温時間で生じる中粒子の過度な成長を抑制する。この温度が低すぎるか、または時間が短すぎると、小粒子の密度が不十分であり、温度が高すぎるか、または時間が長すぎると、中粒子が粗大化してしまう。520〜610℃で30分〜6時間の高温時効、420〜500℃で3〜20時間の低温時効を行うことが、より好ましい。
【0041】
この熱間圧延後の高温および低温の2段階時効処理は、焼鈍炉の温度調整により、連続的に行うことができる。なお、設備的に温度制御が難しい場合には、それぞれの温度に分けて1回ずつ処理してもよい。
【0042】
以上の工程により、最終時効処理後の導電率が60〜70%IACSの銅合金板材が得られる。
【0043】
時効焼鈍後の仕上げ圧延は、所望の板厚になるように行う。一般に、加工度が高くなるにつれて硬度が高くなるが、導電率および耐熱性が低下すると考えられる。しかし、本発明によって製造される銅合金板材は、最終冷間圧延の加工度が80%以上、好ましくは90%以上であっても、優れた耐熱性を有する。また、要求される硬さおよび板厚によっては、仕上げ圧延後に、250℃〜500℃で60分以下、好ましくは5分以下の低温焼鈍を行ってもよい。この低温焼鈍は、歪取り焼鈍であり、また、仕上げ圧延によって低下した導電率を部分的に回復することができる。なお、表面の酸化物を除去するために、面削や酸洗を適宜行っても良い。
【実施例】
【0044】
以下、本発明による銅合金板材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0045】
表1に示すように、本発明の化学成分および製造条件による実施例1〜10と、化学成分または製造条件のいずれかが本発明の範囲外である比較例1〜7の銅合金板材を作製した。先ず、それぞれの化学成分を有する銅合金を高周波溶解炉で溶解し、それぞれ厚さ30mm×幅50mm×長さ150mmの鋳塊を作製した。なお、表1において、本発明の範囲外である項目には下線を付した。
【0046】
【表1】

【0047】
実施例1〜10については、これらの鋳塊を、加熱炉によって950℃まで加熱後に3時間保持した後、950〜750℃で6パスの熱間圧延を行って板厚10mmの圧延材を得た。すなわち、この温度域950〜750℃で行う圧延率を66%とした。圧延パス間において、温度低下を防止するため、850℃の加熱炉に2分保持した。続いて、600℃の加熱炉に2分保持した後、温度域600〜450℃で2パスの圧延を行い、板厚6mmの圧延材を得た。すなわち、この温度域600〜450℃で行う圧延率を40%とした。
【0048】
次に、得られた熱間圧延材に、実施例1〜3、7〜10については0%、実施例4〜6については75%の圧延率で冷間圧延を行った。その後、焼鈍炉によって、600℃または575℃の高温で1〜5時間、450℃の低温で4〜10時間の、2段階時効処理を行った。
【0049】
最後に、2段階時効処理後の圧延材の表面および裏面を研磨し、板厚0.127mmまで仕上げ冷間圧延を行った後、425℃の焼鈍炉内で1分間保持する低温焼鈍を行って、板厚0.127mmの銅合金板材を作製した。
【0050】
一方、比較例1〜3は、実施例1と同一の化学成分を有し、製造条件のうち、時効処理のみ従来の等温時効を行い、比較例1は600℃で10時間、比較例2は450℃で24時間、比較例3は550℃で14時間とした。それ以外は実施例1〜3と同様の方法により、銅合金板材を作製した。比較例4、5は、化学成分が本発明の範囲外であり、製造条件は実施例1と同様とした。比較例6、7は、熱間圧延条件が本発明の範囲外であり、その後の製造工程は、実施例1と同様とした。
【0051】
以上のようにして得られた各銅合金板材について、析出物の密度、導電率、硬さ、耐熱試験後の硬さを測定した。析出物の密度は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、加速電圧200KVにて各種試料中の100個以上の析出粒子を観察し、粒子の直径を測定した。また、消衰縞法より薄膜試料の厚さを測定し、析出物の密度(単位体積あたりの個数)を求めた。導電率は、JIS H0505の導電率測定方法に従って測定した。硬さは、ビッカース硬さHVをJIS Z2244に準拠して測定した。耐熱性の評価は、475℃で30分間保持した後、ビッカース硬さHVを測定して行った。結果を表2に示す。なお、表2において、本発明の範囲外となった項目には下線を付した。
【0052】
【表2】

【0053】
表2に示すように、実施例1〜10の銅合金板材はいずれも、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが160以上、475℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であった。
【0054】
比較例1は時効温度が高いため、小粒子の密度が低く、中・大粒子の密度が高くなった。そのため、最終的に得られた銅合金板材の導電率は高いが、硬度は低く、特に耐熱性が低かった。比較例2は時効温度が低いため、時効後に生じる小粒子の密度は高いものの、仕上げ圧延後に再固溶し、導電率が低下した。比較例3は比較例1および2の中間的な時効温度としたが、小、中、大粒子の密度のバランスが適正でなく、耐熱性が低かった。
【0055】
比較例4、5は、導電率、硬さ、耐熱性のバランスが良くなかった。比較例4はFe量が多すぎるため、固溶量が高いとともに一部のFeが熱間圧延中に固溶できず、粗大粒子のままで最後まで残っているため、導電率と耐熱性ともに低かった。一方、比較例5はFe量が少なすぎるため、最終的に得られた銅合金板材の硬度が低かった。
【0056】
比較例6、7は、導電率、硬さ、耐熱性のバランスが良くなかった。比較例6は750℃以上の温度域での圧延率が40%と低く、十分に再結晶することなく粗大粒子が残るため、硬度、耐熱性ともに低かった。比較例7は600〜450℃の温度域で圧延しなかったため、高温時効中に中粒子の生成量が少なく、最終的に得られた銅合金板材の硬度と耐熱性はよいものの、導電率が低くなった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、高硬度で、導電性および耐熱性に優れている銅合金板材および銅合金板材の製造方法として適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなり、粒径が15nm以下の析出粒子の密度が10000個/μm以上、粒径が15〜100nmの析出粒子の密度が100〜200個/μm、粒径が100nm以上の析出粒子の密度が10個/μm以下であることを特徴とする銅合金板材。
【請求項2】
Snの含有量が0.2質量%以下、Mgの含有量が0.15質量%以下、Znの含有量が0.3質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の銅合金板材。
【請求項3】
導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、475℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の銅合金板材。
【請求項4】
Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbのうちいずれか1種以上が、合計0.4質量%以下の範囲で含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金板材。
【請求項5】
1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる原料を溶融して鋳造した鋳塊を900〜1000℃まで加熱し、その加熱温度中に2時間以上保持した後、1000℃〜750℃の温度域で加工度が60%以上、600℃〜450℃の温度域で加工度が30%以上になるように1000℃〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、0〜80%の圧延率で冷間圧延を行い、520〜620℃で30分〜6時間の高温時効および400〜500℃で3〜20時間の低温時効の2段階時効処理を行うことを特徴とする、銅合金板材の製造方法。
【請求項6】
前記2段階時効処理後の銅合金板材に、圧延率が80%以上の仕上げ冷間圧延を行うことを特徴とする、請求項5に記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項7】
前記仕上げ冷間圧延を行った後に、250〜500℃で低温焼鈍を行うことを特徴とする、請求項6に記載の銅合金板材の製造方法。
【請求項8】
前記原料に、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbのうちいずれか1種以上が、合計0.4質量%以下の範囲で含まれることを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の銅合金板材の製造方法。

【公開番号】特開2011−174142(P2011−174142A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39870(P2010−39870)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(506365131)DOWAメタルテック株式会社 (109)