説明

銅鉄合金の製造方法

【課題】鉄の添加方法を工夫して銅鉄合金溶湯中の未固溶鉄の残存による鋳塊組織中の鉄の異常晶出を防止し、健全な鋳塊を製造することができる銅鉄合金の製造方法を提供する。
【解決手段】炭素を含有する被覆材20で湯面を被覆した銅合金溶湯中に鉄を添加する銅鉄合金の製造方法において、銅合金溶湯中に鉄材投入用パイプ16を挿入し、鉄材投入用パイプ16の内圧を高めて鉄材投入用パイプ16内の湯面位置を下げ、鉄材投入用パイプ16の内圧を維持しつつ銅合金溶湯中に鉄材投入用パイプ16を通じて鉄材15を挿入するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅(Cu)中に鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、燐(P)、珪素(Si)等の元素を配合した銅鉄合金の製造方法に係り、特に、銅合金中に鉄を均一に固溶させる銅鉄合金の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅合金の溶解・鋳造で最も一般的な設備構成として知られているのは、コアレス誘導加熱炉と縦型半連続鋳造機とを組み合わせた形態の設備である。
【0003】
ここでのコアレス誘導加熱炉は、ルツボ型溶解炉と呼ばれるものであり、炉体上部が大気に開放された形状の炉でその炉体上部より溶解する材料を投入し、且つ合金成分の添加材も併せて投入し、銅合金を製造する設備である。
【0004】
また、ルツボ型溶解炉での銅合金の溶解では、大気に開放された湯面(溶湯表面)の酸化防止と保温とを目的に被覆材を使用し、その代表的な被覆材として黒鉛粉末若しくは粒体又は木炭を使用するのが一般的である。
【0005】
その銅合金への鉄の添加は、銅合金溶湯中に目的の成分濃度に必要な量の銅鉄母合金、純鉄ワイヤ、純鉄帯材、純鉄板材、鉄粉等を直接投入することにより行っている。いずれの添加材においても溶落後の銅合金溶湯中に添加する場合は、湯面に被覆した黒鉛又は木炭の層を通過させて銅合金溶湯中に投入しなければならず、銅合金溶湯中で添加した鉄が溶解・拡散し固溶するまでは銅との密度差により湯面上に浮遊した状態が続く。
【0006】
溶解初期の段階で溶解材料と添加鉄とを固体のまま炉内に充填し溶解を開始すれば、早期に鉄を溶解することは可能であるが、通常は溶解の最終段階での成分調整時に追加で鉄を添加することが殆どの場合に必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−293350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術において、鉄の融点は銅のそれよりも高いことから短時間では容易に溶解せず、未固溶鉄が残存し易い。
【0009】
更に、特許文献1で既知の技術として開示されている銅と鉄の特徴は、炭素(C)が関与することにより溶湯中で溶銅相と溶鉄相に容易に分離回収可能な状態にできるというものであり、銅鉄合金においては未固溶鉄の発生を促進する原因になることを意味する。
【0010】
つまり、銅の融点近傍では溶解しにくい鉄が高濃度のまま炭素と反応することにより溶銅相への固溶が阻害され、溶鉄相として銅鉄合金溶湯中に分離浮遊することで未固溶鉄として残存することになる。
【0011】
そのため、健全な鋳塊が得られず、リードフレーム等の製品においてスタンピング不良・エッチング不良・めっき不良等の原因になることがある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、鉄の添加方法を工夫して銅鉄合金溶湯中の未固溶鉄の残存による鋳塊組織中の鉄の異常晶出を防止し、健全な鋳塊を製造することができる銅鉄合金の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために創案された本発明は、炭素を含有する被覆材で湯面を被覆した銅合金溶湯中に鉄を添加する銅鉄合金の製造方法において、前記銅合金溶湯中に鉄材投入用パイプを挿入し、前記鉄材投入用パイプの内圧を高めて前記鉄材投入用パイプ内の湯面位置を下げ、前記鉄材投入用パイプの内圧を維持しつつ前記銅合金溶湯中に前記鉄材投入用パイプを通じて鉄材を投入することを特徴とする。
【0014】
前記銅合金溶湯中に下降流を発生させる攪拌用回転羽を挿入し、前記鉄材投入用パイプの先端を前記攪拌用回転羽の直下に位置させると良い。
【0015】
前記鉄材投入用パイプは、アルミナ製パイプからなると良い。
【0016】
前記鉄材は、銅パイプ内に平均粒径45μmの鉄粉を詰めた銅被覆鉄粉ワイヤからなると良い。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鉄の添加方法を工夫して銅鉄合金溶湯中の未固溶鉄の残存による鋳塊組織中の鉄の異常晶出を防止し、健全な鋳塊を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アルミナルツボにて溶解・鋳造した鋳塊のミクロ組織を示す図である。
【図2】黒鉛ルツボにて溶解・鋳造した鋳塊のミクロ組織を示す図である。
【図3】本発明に係る銅鉄合金の製造方法に用いる装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に至った経緯と共に好適な実施の形態について詳述する。
【0020】
本発明に係る銅鉄合金の製造方法は、銅合金溶湯中に鉄を添加する際にその添加方法を工夫して鉄が高濃度の状態で炭素と接触するのを避けるものである。
【0021】
銅鉄合金をルツボ型溶解炉で溶製するプロセスの概略は、回収した銅鉄合金の故銅とその他製品品質に影響しない他品種の故銅を炉内に充填し、誘導加熱により昇温溶解し、所定の重量に達するまで追加装入して、順次溶解していく方法である。
【0022】
このとき、装入した材料からできる銅鉄合金溶湯の合金成分は銅鉄合金以外の品種の銅分と溶解中にロスする分とで目標の濃度を下回るのが普通である。
【0023】
そのため、あるタイミングで成分調整のために必要な合金元素を添加することになる。
【0024】
各合金元素は、溶解する材料の総量から不足分を計算し、ロス分を見込んで添加する。そして、完全に溶落した後に炉中分析を実施し、不足している成分があれば更に追加で添加することになる。
【0025】
生産効率の面からは、溶解初期の段階で必要な合金元素は溶解材料と共に炉中に装入し、順次溶解材料を追加することで所定量の溶湯を溶製できるが、ここで鉄に関しては溶湯量が少ない溶解初期の段階では相対的に高濃度の状態となり、被覆材の炭素と接触することで分離しやすい溶鉄相を作り出してしまうことになる。
【0026】
そのため、鉄を添加するタイミングは、所定の溶湯量まで溶解が完了した後とすることが望ましい。
【0027】
しかし、この段階においても鉄は銅より密度が低いために湯面に浮上してしまう。そのため、湯面の被覆材である炭素と接触しながら溶解が進行し、分離し易い溶鉄相が生成され易い環境となってしまう。
【0028】
このような経緯から、本発明者は鋭意実験を繰り返すことで、未固溶鉄の少ない健全な鋳塊を製造するための条件として最適な鉄の添加方法を見出し、本発明に至った。
【0029】
具体的には、実験により不活性雰囲気下で黒鉛ルツボとアルミナルツボを使用し、同成分の銅鉄合金を溶製し、炉中で冷却凝固させることで結晶組織内の晶出鉄を観察した。
【0030】
その結果、図1に示すように、アルミナルツボで溶製した鋳塊に晶出する鉄粒子の直径が1μm以下であるのに対し、図2に示すように、黒鉛ルツボで溶製した鋳塊の晶出鉄の中には50μm〜100μmにまで巨大化しているものが存在した。
【0031】
このことから、鉄と炭素とが反応することにより溶銅相から分離し溶鉄相が凝集し巨大化することが証明された。
【0032】
従って、銅合金溶湯への鉄の添加においては、炭素との接触を避ける必要があることが分かる。
【0033】
そこで、本発明では、溶解完了し黒鉛粉末若しくは粒体又は木炭で被覆した湯面から炭素に接触することなく、銅合金溶湯中に鉄を添加・溶解し湯面に浮上するまでに拡散させ、少なくとも特許文献1で規定されている9:1の銅:鉄比とならないような、即ち銅合金溶湯中で局部的にも鉄濃度が10%以上とならないような添加方法を提案する。
【0034】
また、溶解温度は高い方が鉄の溶解には有利であるが、最適な鋳造条件は溶湯温度が1140℃〜1160℃であり、これ以上高くなると鋳塊表面に割れが発生し鋳塊品質の低下を招くことから、溶解炉からの出湯温度は1200℃としている。そのため、溶解中に溶湯温度を高めると、出湯前に温度調節が必要となり生産性を損ねることから、本発明では、溶湯温度を変えない鉄の添加方法を提案する。
【0035】
湯面上に被覆した黒鉛粉末若しくは粒体又は木炭と添加した鉄とを接触させずに銅合金溶湯中で鉄を均一に拡散させるためには、銅合金溶湯の深部に直接鉄を添加し銅合金溶湯を攪拌することで鉄を拡散させることが必要となる。そこで、本発明では、銅合金溶湯の深部への鉄の添加方法と攪拌方法を提案する。
【0036】
即ち、本発明者が提案する銅鉄合金の製造方法は、炭素を含有する被覆材で湯面を被覆した銅合金溶湯中に鉄を添加する方法であり、銅合金溶湯中に鉄材投入用パイプを挿入し、鉄材投入用パイプの内圧を高めて鉄材投入用パイプ内の湯面位置を下げ、鉄材投入用パイプの内圧を維持しつつ銅合金溶湯中に鉄材投入用パイプを通じて鉄材を投入することを特徴とするものである。
【0037】
図3は、本発明の好適な実施の形態に係る銅鉄合金の製造方法に用いる装置を示す概略図である。
【0038】
図3に示すように、本実施の形態に係る装置10は、溶湯11を溶製するためのルツボ型溶解炉12と、溶湯11中に挿入され、溶湯11を攪拌すると共に溶湯11中に下降流13を発生させる攪拌用回転羽14と、溶湯11中に挿入され、溶湯11中に鉄材15を投入するための鉄材投入用パイプ16と、鉄材投入用パイプ16内にアルゴンガスを吹き込むアルゴンガス吹込装置17と、溶湯11中に投入される鉄材15の投入経路を矯正する矯正ロール18と、鉄材15が巻き付けられたコイル19と、を備える。
【0039】
鉄材投入用パイプ16は、アルミナ製パイプからなり、鉄材15は、銅パイプ内に平均粒径45μmの鉄粉を詰めた銅被覆鉄粉ワイヤからなる。
【0040】
この装置10を用いて銅鉄合金を製造するには、ルツボ型溶解炉12にて鉄以外の合金元素を適量配合した溶湯11(銅合金溶湯)を溶製すると共に湯面を黒鉛粉末若しくは粒体又は木炭等の炭素を含有する被覆材20で被覆した後、攪拌用回転羽14を溶湯11中に挿入し、所定の回転数で回転させることにより、溶湯11に下降流13を発生させる。
【0041】
そして、攪拌用回転羽14の直下に鉄材投入用パイプ16の先端が位置するようにセットし、アルゴンガス吹込装置17にて鉄材投入用パイプ16の内圧を高めることにより、鉄材投入用パイプ16内の湯面位置を下げる。任意の位置に湯面を下げることにより、鉄材15の溶解開始位置を調整可能とし、攪拌用回転羽14の直下で鉄材15を溶解することができる。
【0042】
次いで、鉄材15をコイル19から引き出し、矯正ロール18を通して鉄材投入用パイプ16に通す。このとき、アルゴンガス吹込装置17にて鉄材15の導入口部21は完全にシールされ、鉄材投入用パイプ16内のアルゴンガスの圧力は一定に保持される。
【0043】
これにより、湯面の被覆材20と溶湯11との界面は鉄材投入用パイプ16にて分断されるため、鉄材投入用パイプ16内の銅鉄合金の鉄濃度が10%以上に上昇しても、炭素との反応を防止することができる。
【0044】
定常状態では、鉄材15は、その銅パイプが溶解する前に先端から溶湯11内に送り出されるので、攪拌用回転羽14により発生した下降流13の中で溶解することになる。
【0045】
下降流13内で溶解した鉄粉は、下降流13により更に溶湯11の深部へと押し込まれ、且つ攪拌効果により溶湯11中での拡散を促進され、未溶解の鉄粉も湯面まで浮上する間に溶解・拡散が完了するので、高濃度の溶鉄相が湯面上の被覆材20と接触することが避けられる。
【0046】
以上のプロセスにより、高濃度で被覆材20と接触する鉄が無くなることで、溶銅相と溶鉄相との分離が防止でき、銅鉄合金溶湯中の未固溶鉄の残存による鋳塊組織中の鉄の異常晶出を防止し、健全な鋳塊を製造することができる。この得られた鋳塊には残存する未固溶鉄が極めて少ないため、リードフレーム等の製品でのスタンピング不良・エッチング不良・めっき不良等を低減できる効果がある。
【0047】
これまで本発明をその実施の形態と共に詳述してきたが、本発明は前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0048】
つまり、本発明の基本的な狙いは、添加した鉄が溶湯中で拡散する前の高濃度の状態で黒鉛や木炭等の炭素と接触することを防止するものであるので、攪拌用回転羽14や鉄材投入用パイプ16の材質にカーボンを使用することができない。そのため、カーボン以外で耐熱性に優れた材質、例えばN4Si3,BN,CaO等でも代用が可能である。但し、これらの材質は費用の面で不利である。
【符号の説明】
【0049】
10 装置
11 溶湯
12 ルツボ型溶解炉
13 下降流
14 攪拌用回転羽
15 鉄材
16 鉄材投入用パイプ
17 アルゴンガス吹込装置
18 矯正ロール
19 コイル
20 被覆材
21 導入口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含有する被覆材で湯面を被覆した銅合金溶湯中に鉄を添加する銅鉄合金の製造方法において、
前記銅合金溶湯中に鉄材投入用パイプを挿入し、前記鉄材投入用パイプの内圧を高めて前記鉄材投入用パイプ内の湯面位置を下げ、前記鉄材投入用パイプの内圧を維持しつつ前記銅合金溶湯中に前記鉄材投入用パイプを通じて鉄材を投入することを特徴とする銅鉄合金の製造方法。
【請求項2】
前記銅合金溶湯中に下降流を発生させる攪拌用回転羽を挿入し、前記鉄材投入用パイプの先端を前記攪拌用回転羽の直下に位置させる請求項1に記載の銅鉄合金の製造方法。
【請求項3】
前記鉄材投入用パイプは、アルミナ製パイプからなる請求項1又は2に記載の銅鉄合金の製造方法。
【請求項4】
前記鉄材は、銅パイプ内に平均粒径45μmの鉄粉を詰めた銅被覆鉄粉ワイヤからなる請求項1〜3のいずれかに記載の銅鉄合金の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23726(P2013−23726A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158892(P2011−158892)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)