説明

鋳型の製造方法

【課題】作業環境が良好で、塗り残し部分の有無を容易に確認できる明色性が高いアルコール系塗型剤を用いた鋳型の製造方法において、着火乾燥後もコゲが発生せず、明色性が維持され、かつ鋳物表面の耐白膜性がよく、塗布作業が容易な方法を提供する。
【解決手段】耐火骨材、粘結剤及び所定量のアルコール系溶媒を含有し、明度が38〜62であり、前記耐火骨材の真比重が2.0〜4.0であり、上澄み液中の残炭率が当該アルコール系塗型剤組成物中の固形分に対して0.01〜0.3重量%である、アルコール系塗型剤組成物を、鋳型に塗布した後、塗布後の鋳型のアルコール系溶媒に着火して鋳型を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造用塗型剤は、溶融金属が接する鋳型表面に、塗布することにより、鋳型の表面を保護し、溶融金属と鋳型表面との化学反応や、鋳物の焼着欠陥の発生を防止するために用いられるものである。また、塗型剤と溶融金属界面の反応で発生する鋳物表面の白膜を防止させる耐白膜性も鋳造用塗型剤に要求される最も重要な性能の一つである。このような塗型剤としては、水系、アルコール系のものが知られているが、このうちアルコール系塗型剤は、溶剤の揮発性が良く、また、着火することで乾燥するため、作業性に優れる。アルコール系塗型剤は、一般に、耐火骨材、焼結剤、粘結剤、アルコール系溶媒等で構成されている。耐火骨材は塗型基材であり、鋳物の焼着防止を主目的とし、ジルコン、シリカ、マグネシア、クロマイト、黒鉛等の粉末が用いられる。また、焼結剤は鋳込み時における塗膜の熱間強度の向上を主目的とし、有機ベントナイトが最も汎用的に用いられている。粘結剤は塗膜強度の向上を主目的とし、フェノール樹脂、松木抽出物誘導体、ロジン、石油樹脂等が用いられる。また、アルコール系溶媒は分散媒として用いられるものであり主としてアルコール類、分散補助溶剤として芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素等が使用される。
【0003】
このような塗型剤を塗布する方法としては、刷毛塗布、スプレー塗布、ぶっかけ塗布、どぶ漬け塗布などが用いられている。これらの塗布方法により塗型剤を鋳型表面に塗布する際、垂れが発生したり、刷毛伸びが不良となったり、鋳肌の荒れが生じたりすることがある。
【0004】
これを改善するために、各種増粘剤や分散剤の配合が検討されている。特許文献1には、有機ベントナイト及び有機ベントナイトと相溶性の良い溶剤を併用する塗型剤組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリプロピレングリコール等の特定の化合物を添加したアルコール系塗型剤が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−254948号公報
【特許文献2】特開昭57−175047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、鋳物工場では廃棄物削減の観点から、鋳物砂に再生砂を用いる場合が多いが、再生砂及び再生砂を用いた鋳型は黒色である場合が多く、明度が低い塗型剤では、塗り残しの有無を確認することが容易でないことがあった。また、近年、鋳物工場の作業環境向上が求められているが、再生砂を用いていると鋳物工場内が暗いイメージとなり、工場内の美観が悪い要因の一つとなっている。このような鋳物工場における作業性の改善、美観向上、作業環境改善を目的に、水性、アルコール性を問わず、より明るい色、即ち明色の塗型剤が求められている。
【0006】
しかしながら、アルコール系塗型剤は、着火により乾燥される場合が多く、着火乾燥時に塗膜が高温に曝されるため、コゲが発生してしまう。このコゲの発生により、明色のアルコール系塗型剤を用いても美観が損なわれるだけでなく、明度が低下するため塗り残し部分の確認など明色塗型剤の利点が失われてしまう課題があった。特に、鋳型に効率的に塗布する方法として、ポンプ等にて塗型剤を鋳型表面に流して塗布するいわゆる「ぶっかけ塗布」と呼ばれる方法や、スプレーにて塗型剤を鋳型表面い噴霧する「スプレー塗布」と呼ばれる方法や、塗型剤を希釈して鋳型を浸漬する「どぶ漬け」と呼ばれる方法で鋳型に塗布する場合、塗布ムラ等のない綺麗な塗型膜を得る観点から、固形分を低くする、即ちアルコール濃度を高める傾向にあり、着火乾燥時により多くのアルコールを燃焼させなければならないことから、高い温度に曝されやすい。明色塗型において、前記塗布方法を採用する場合、よりコゲの発生が多くなってしまう課題があった。
【0007】
更に、鋳物表面の耐白膜性向上、垂れの防止といった作業性を維持しつつ明度の高い塗型剤塗膜(塗型)を形成できる塗型剤を用いた鋳型の製造方法は見出されていない。
【0008】
本発明は、アルコール系塗型剤を用いた鋳型の製造方法において、着火乾燥後もコゲが発生せず、明色性が維持されかつ、鋳物表面の耐白膜性がよく、塗布作業が容易で塗り残し部分の有無を容易に視認できる鋳型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、耐火骨材、粘結剤及びアルコール系溶媒を含有するアルコール系塗型剤組成物であって、前記アルコール系溶媒の含有量が前記耐火骨材100重量部に対して45〜200重量部であり、明度が38〜62であり、前記耐火骨材の真比重が2.0〜4.0であり、上澄み液中の残炭率が当該アルコール系塗型剤組成物中の固形分に対して0.01〜0.3重量%である、アルコール系塗型剤組成物を、鋳型に塗布する工程、並びに、塗布後の鋳型のアルコール系溶媒に着火する工程、を有する鋳型の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルコール系塗型剤を用いた鋳型の製造方法において、着火乾燥後もコゲが発生せず、明色性が維持されかつ、鋳物表面の耐白膜性が良く、塗布作業が容易で塗り残し部分の有無を容易に視認できる方法が提供される。本発明の鋳型の製造方法は、作業効率、作業環境の向上に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<アルコール系塗型剤組成物>
本発明に係るアルコール系塗型剤組成物は、明度が38〜62である。明度は、作業環境の改善、及び塗り残し部分を容易に検出できる観点から、38以上である。明度は、L***表色系が示すL*の値で、例えばミノルタ製CR−300の測色計により測定されたものである。明度を上記範囲にするには、耐火骨材をはじめとする原料の明度が高いものを選定することが好ましい。アルコール系塗型剤組成物の明度は、40以上が好ましく、また実用上60以下が好ましい。尚、アルコール系塗型剤組成物の明度は、前記測色計に適用可能な適当な透明容器、例えば、チャック付ポリエチレン袋(セイニチ製;B−4 85×60×0.04mm)にアルコール系塗型剤組成物を入れて測定することができる。
【0012】
本発明に係るアルコール系塗型剤組成物に用いられる耐火骨材は塗型基材であり、鋳物の焼着防止を主目的としている。耐火骨材は、上記塗り残し部分の検出の容易さの観点から、明度は42以上が好ましく、45以上がより好ましい。明度を高くする観点から、黒鉛の配合比を少なくすることが好ましく、耐火骨材中、好ましくは10重量%以下、より好ましくは6重量%以下、更に好ましくは2重量%以下である。
【0013】
耐火骨材の真比重は、ぶっかけ作業時のタレの防止の観点から、低い方が好ましく、好ましくは2.0〜4.0、より好ましくは2.0〜3.6、更に好ましくは2.0〜3.3である。耐火骨材の真比重は、塗型剤組成物中の溶媒を100℃、1時間で除去後、窒素雰囲気下、900℃で1時間加熱の後、JIS R2205により測定する。
【0014】
このような条件を満たす耐火性骨材として、シリカ、蝋石、カオリン、アルミナ、マグネシア、黒曜石、タルク、雲母、オリビン、ムライト、長石、黒鉛から選ばれる1種以上が好適に用いられる。本発明では、耐白膜性の観点から、耐火骨材として黒曜石を用いることが好ましく、耐火骨材の少なくとも一部が黒曜石であることが好ましく、更に耐焼着性の観点から黒曜石とムライトの併用が好ましい。黒曜石を用いる場合、耐焼着性の観点から、耐火骨材中の黒曜石の割合が5〜100重量%、より15〜100重量%、更に25〜100重量%であることが好ましい。また、耐火骨材は通常粉末状のものが使用され、鋳型への耐火骨材の浸透の観点から、平均粒子径は1〜100μm、より1〜50μm、更に1〜30μmが好ましい。耐火骨材は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上を使用する場合、当該耐火骨材の混合物を含む塗型剤組成物について前記の方法で得られる比重を耐火骨材の真比重とする。
【0015】
本発明に係るアルコール系塗型剤組成物は、着火乾燥後の鋳型明度を高くし、コゲを防止する観点から、上澄み液中の残炭率がアルコール系塗型剤組成物中の固形分(以下、塗型剤固形分という)に対して0.01〜0.3重量%であり、好ましくは0.01〜0.25重量%、より好ましくは0.01〜0.2重量%である。上澄み液中の残炭率は、溶媒中に溶解する粘結剤、界面活性剤、分散剤、増粘剤、粘度調整剤等の有機分の固定炭素量であり、本発明では塗型剤固形分に対する重量%を上記範囲とする。測定方法は以下の手順にて行う。
【0016】
*上澄み液中の残炭率の測定方法
塗型剤組成物に使用したものと同じアルコール系溶媒を塗型剤組成物に加え、攪拌混合により5〜20ボーメ(ぶっかけ塗布法やどぶ漬け塗布法に適した濃度)に調整したサンプルAを作成する。サンプルAを遠心分離機にて、6000rpmにて5分処理し、上澄み液を採取する。その上澄み液の溶剤を蒸発させた後、105℃にて3時間乾燥させ、上澄み液中の固形分(固形分Bとする)の重量%〔(1)〕と揮発分の重量%〔(2)〕を測定する。
耐熱坩堝に固形分Bを計り取り、JIS M8812「石炭類及びコークス類−工業分析方法」に準拠して固形分B中の固定炭素重量%〔(3)〕を測定する。
同時に、また、前述のサンプルAについて、溶剤を蒸発させた後、105℃にて3時間乾燥させ、サンプルAにおける固形分の重量%〔(4)〕と揮発分の重量%〔(5)〕を測定する。
上記の測定値を元に、塗型剤組成物の上澄み液中の残炭率を、以下の計算で算出する。
【0017】
【数1】

【0018】
塗型剤組成物の上澄み液中の残炭率を上記範囲とし、塗型剤組成物の明色性及び着火乾燥後の明度を維持し、コゲの発生を抑える観点から、本発明に係るアルコール系塗型剤組成物に用いられる粘結剤としては、残炭率が低い粘結剤が好ましい。コゲの発生を抑える観点から、粘結剤の残炭率は好ましくは0.01〜30重量%、より好ましくは0.01〜20重量%、更に好ましくは0.01〜10重量%である。粘結剤の残炭率は、JIS M8812の固定炭素重量を測定し、残炭率とする。
【0019】
粘結剤は、上澄み液中の残炭率を低くできる観点から、マレイン酸変性ロジン樹脂、天然ロジン(ビンゾール)、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンアルカリ石鹸、石油樹脂、クマロン樹脂が好ましく、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂がより好ましい。耐白膜性の観点からは、石油樹脂、クマロン樹脂が更に好ましく、また、アルコール系塗型剤組成物の分散性を向上させる観点からは、マレイン酸変性ロジン樹脂が更に好ましい。これらの樹脂は、単独又は2種以上を用いることができる。
【0020】
また、本発明に係るアルコール系塗型剤組成物に用いられるアルコール系溶媒としては、炭素数1〜3のアルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、回収(再利用)メタノール、エタノール、変性エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等が用いられ、単独またはこれら2種以上の組み合わされた混合溶媒として使用できる。着火乾燥後のコゲを低下させる観点から、燃焼エネルギーの小さいアルコールが好ましく、そのようなアルコールとして、好ましくはメタノール、エタノールである。
【0021】
本発明に係るアルコール系塗型剤組成物は、最初にアルコール系溶媒濃度が低く、固形分濃度の高い組成物(高固形分組成物)としておき、使用時に適正なスラリー粘度に希釈して使用されることが好ましい。上記高固形分組成物では、耐火骨材100重量部に対しアルコール系溶媒が5〜200重量部、更に10〜100重量部、より更に15〜50重量部であることが好ましい。塗布時の適正なスラリー粘度は、ぶっかけ塗布の場合は、20〜5ボーメである。また、浸漬塗布の場合は、25〜10ボーメである。希釈用の溶剤もアルコール系溶媒、特には組成物に最初から添加されているものと同じ種類のものが好ましい。塗布時のアルコール系塗型剤組成物中のアルコール系溶媒量は、コゲ発生防止の観点から、耐火骨材100重量部に対し45〜200重量部であり、好ましくは70〜150重量部、より好ましくは80〜130重量部である。
【0022】
その他に、本発明に係るアルコール系塗型剤組成物に配合できる成分として、有機ベントナイト等の焼結剤、顔料または染料などの着色剤、塗布作業性を付与するレオロジー調整剤、沈降防止剤や界面活性剤を使用できる。また、ヒドロキシアルキル化セルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダなどの増粘剤など他の添加剤も併用できる。
【0023】
これら成分においても、塗型剤組成物の上澄み液中の残炭率を上記範囲とし、塗型剤組成物の明色性及び着火乾燥後の明度を維持し、コゲの発生を抑える観点から、粘結剤等のそれぞれの成分の残炭率が低い方が好ましい。
【0024】
<鋳型の製造方法>
本発明の鋳型の製造方法は、耐火骨材、粘結剤及びアルコール系溶媒を含有するアルコール系塗型剤組成物であって、前記アルコール系溶媒の含有量が前記耐火骨材100重量部に対して45〜200重量部であり、明度が38〜62であり、前記耐火骨材の真比重が2.0〜4.0であり、上澄み液中の残炭率が当該アルコール系塗型剤組成物中の固形分に対して0.01〜0.3重量%である、アルコール系塗型剤組成物を、鋳型に塗布する工程、並びに、塗布後の鋳型のアルコール系溶媒に着火する工程、を有する。
【0025】
アルコール系塗型剤組成物を塗布する鋳型は、鋳鉄用鋳型、黒鉛類を低減した鋳鋼用鋳型、アルミニウム・マグネシウム等の軽合金用鋳型等が挙げられる。アルコール系塗型剤組成物の鋳型への塗布は、噴霧塗布、ぶっかけ塗布及び浸漬塗布の少なくとも何れかにより行うことが好ましく、ぶっかけ塗布、浸漬塗布がより好ましい。例えば、ぶっかけ塗布する場合は、鋳型表面に、前記所定粘度を有するアルコール系塗型剤組成物をポンプで吸い上げ、ノズル等から放出して、過剰に垂れ流すようにしてぶっかけ塗布する。たれがでないよう鋳型の下から上にぶっかけ、溶融金属が接する鋳型表面に塗り残しがないよう2〜3回繰り返し行う。但し、アルコールが過剰に浸透するため、短時間(例えば1分以内)に行うことが好ましい。また、どぶ漬けのように浸漬塗布する場合は、例えば前記所定粘度を有するアルコール系塗型剤組成物を収容した塗型剤漕に鋳型を浸漬する。この場合も浸漬する時間が短い方(例えば10秒以内)が、アルコールが過剰に浸透するのを防止する観点から好ましい。
【0026】
本発明に係るアルコール系塗型剤組成物を塗布した後の鋳型には、明度が38〜62、好ましくは40〜62、より好ましくは42〜62、更に好ましくは45〜60の塗型剤湿潤塗膜が形成される。この明度は、対象物表面が湿っているので、塗布した後の鋳型の表面に無色透明のフィルムをかぶせて、前記同様に測定できる。通常、アルコール系塗型剤組成物の明度が塗型剤湿潤塗膜の明度に反映されるため、アルコール系塗型剤組成物の明度に基づいて塗型剤湿潤塗膜の明度を推測することができる。
【0027】
なお、鋳型は、フラン樹脂等の有機粘結剤や水ガラス等の無機粘結剤を鋳物砂に混合し、鋳物製品と同一形状の木型のまわりに充填後、硬化、抜型して得られる鋳物製品形状を反転させた型であり、その空隙(キャビティ)に溶湯を流し込んで鋳物製品とするものである。すなわち、鋳型は、鋳物砂と粘結剤とを含んで構成されるものであり、鋳物砂としては、天然硅砂、ジルコンサンド、クロマイトサンド、オリビンサンドの他、ムライト系、アルミナ系、シリカ系の人工砂等が挙げられる。また、これらの再生砂についても使用可能である。
【0028】
本発明の鋳型の製造方法は、塗型剤組成物を塗布後の鋳型のアルコール系溶媒に着火して、前記鋳型表面に塗型剤乾燥塗膜を形成する工程を有する。具体的には、ぶっかけ又は浸漬等による塗布後の鋳型は、生産性を上げるため、直ちにアルコール系溶媒に着火して炎が消えるまで放置する。着火後塗型剤塗膜が形成された鋳型の明度は、対象表面が乾燥しているためフィルムをかぶせることなく測定ができ、35〜62であることが好ましく、38〜62であることがより好ましい。その後、上型、下型、中子等を組み付ける工程に進むことができる。
【0029】
以上説明した本発明の製造方法は、鋳物砂から砂型を製造する工程(I)と、工程(I)により得られた砂型に前記特定のアルコール系塗型剤組成物を塗布(好ましくは噴霧塗布、ぶっかけ塗布、浸漬塗布、より好ましくはぶっかけ塗布、浸漬塗布、更に好ましくはぶっかけ塗布)する工程(II)と、工程(II)により得られた砂型の前記アルコール系塗型剤組成物が塗布された部分に着火し塗型剤乾燥塗膜を形成する工程(III)と、を有する鋳型の製造方法として実施できる。
【実施例】
【0030】
表1に示す組成にて、耐火骨材、粘結剤、アルコール系溶媒を混合しアルコール系塗型剤組成物を得た。得られたアルコール系塗型剤組成物を用いて以下の方法でぶっかけ作業性、コゲの発生、及び耐白膜性を評価した。結果を表1に示す。
【0031】
〔塗型剤組成物の明度L*
塗型剤組成物の明度については、チャック付きポリエチレン製袋(セイニチ製;B−4 85×60×0.04mm)に塗型剤組成物を入れ(厚さは約5mm)、ミノルタ製CR−300を用いて、L*を測定した。ぶっかけ塗布後の鋳型表面には、この塗型剤組成物の明度とほぼ同等の明度の塗型剤塗膜が形成されると考えることができる。
【0032】
〔ぶっかけ作業性〕
フリーマントル珪砂(5号)100重量部に、フラン樹脂0.8重量部(花王クエーカー(株)製EF−5302)と有機スルホン酸硬化剤(花王クエーカー(株)製TK−3)をフラン樹脂100重量部に対して40重量部混合して造型した200mm×400mm×20mmの板状試験片に、ダイアフラムポンプに接続した内径15mmのホースを用いて、板状試験片の下側から上側に向けてアルコール系塗型剤組成物をぶっかけした。その後、アルコール系塗型剤組成物の過剰分が流れ落ち流動性がなくなるまで放置した後、たれの状態を目視判定し、以下の基準でぶっかけ作業性を評価した。
*ぶっかけ作業性の評価基準
A:たれは認められなかった
B:軽微なたれが認められた(修正は不要)
C:酷いたれが認められた(修正が必要)
【0033】
〔コゲの発生及び耐白膜性〕
フラン再生砂(AFS45)を使用し、フラン樹脂0.8重量部(花王クエーカー(株)製EF−5302)と有機スルホン酸硬化剤(花王クエーカー(株)製TK−3)をフラン樹脂100重量部に対して40重量部混合して造型した直径350mm×高さ370mmの円筒状の空間部を持つ鋳型を作製した。溶湯と接する鋳型表面に、ダイアフラムポンプに接続した内径15mmのホースを用いて、鋳型表面の下側から上側に向けてアルコール系塗型剤組成物をぶっかけ塗布し、着火乾燥(炎が消えるまで放置)した。コゲの判定は以下の基準で行った。
*コゲの判定基準
A:コゲが全く発生しなかった
B:コーナー部のみにコゲが発生した
C:コーナー部及び側面にコゲが発生した
【0034】
上記で得られた鋳型に、材質FC−250、鋳込み温度1380℃の条件にて注湯した。試験片が雰囲気温度(30℃以下)になるまで自然冷却して鋳物を取り出しターンテーブル式ショットブラスト機にて、φ=1mmの球状鉄粒子を用いて、10分間ショットブラストを行った。その後、鋳物表面の様子を目視観察し、以下の基準で耐白膜性の判定を行った。
*耐白膜性の評価基準
A:白膜が全く認められなかった
B:白膜が僅かに認められた(使用上問題ない)
C:白膜が発生し、Bの水準にするためには追加のショットが必要であった
【0035】
【表1】

【0036】
表中の成分は以下のものである。
・マレイン酸変性ロジン樹脂:酸価140mgKOH/g、軟化点130℃、重量平均分子量1460、残炭率4重量%
・ロジン変性フェノール樹脂:酸価20mgKOH/g、軟化点120℃、重量平均分子量2150、残炭率14重量%
・石油樹脂:脂肪族炭化水素系、軟化点96℃、重量平均分子量1550、残炭率1重量%
・クマロン樹脂:酸価0.3mgKOH/g、軟化点120℃、重量平均分子量730、残炭率3重量%
・フェノール樹脂:ノボラック型、軟化点83℃、重量平均分子量555、残炭率29重量%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火骨材、粘結剤及びアルコール系溶媒を含有するアルコール系塗型剤組成物であって、前記アルコール系溶媒の含有量が前記耐火骨材100重量部に対して45〜200重量部であり、明度が38〜62であり、前記耐火骨材の真比重が2.0〜4.0であり、上澄み液中の残炭率が当該アルコール系塗型剤組成物中の固形分に対して0.01〜0.3重量%である、アルコール系塗型剤組成物を、鋳型に塗布する工程、並びに、塗布後の鋳型のアルコール系溶媒に着火する工程、を有する鋳型の製造方法。
【請求項2】
前記粘結剤が、マレイン酸変性ロジン樹脂、天然ロジン(ビンゾール)、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂及びクマロン樹脂から選ばれる1種以上の粘結剤である、請求項1記載の鋳型の製造方法。
【請求項3】
前記アルコール系塗型剤組成物の鋳型への塗布を、噴霧塗布、ぶっかけ塗布及び浸漬塗布の少なくとも何れかにより行う、請求項1又は2記載の鋳型の製造方法。
【請求項4】
前記耐火骨材の少なくとも一部が黒曜石である、請求項1〜3の何れか1項記載の鋳型の製造方法。
【請求項5】
前記耐火骨材中の黒曜石の割合が5〜100重量%である、請求項4記載の鋳型の製造方法。

【公開番号】特開2010−94714(P2010−94714A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268465(P2008−268465)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】