鋳造方案支援エキスパートシステム
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば鋳造が行われる砂型中に埋められる湯道の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来の鋳造の概略を図22に示す。上型1と下型3とは、ともに砂型である。すなわち、上型1または下型3を作成する際の台となるプレート5、7の上で、製品となる模型9を砂に埋め固める(同図(A))。このとき、この製品となる模型9、11の部分に溶融金属である湯を導くための模型13も同時に埋められた状態で、上型1と下型3が合わされる(同図(B))。そして、上型1と下型3が分離され(同図(C))、各模型9、11、13が取り去られ(同図(D))、空間15を得る(同図(E))。この空間15に湯を導き凝固させ、砂型を崩して製品を取り出す。
【0003】なお、この図22の従来例では、模型は取り去られた後に湯が導かれるものであったが、他の従来例では模型を発泡スチロールで形成し、模型を取り去ることなく湯を導き、発泡スチロールは湯の熱で蒸発するようにする事もできる。
【0004】また、製品の内部に空間部分が設計されているものなどは、空間部分を形成するために中子が用いられるが、ここでは製品となる模型9である主型という概念には、この中子および中子を支える幅木が含まれるものとする。
【0005】次に、図23に示すように、湯を導くための模型13には、例えば湯の注ぎ口となる上下方向の湯口棒13Aの部分、湯口棒13Aに連続する水平方向の湯道13Bの部分、湯道13Bに連続し最終凝固部となる押湯13C、押湯13Cに連続し製品となる部分のどこへ湯を導入するのかという堰13Dの部分などがある。
【0006】これらの模型を何個、どのような形状で、どの位置に,どの方向で、天地をどちらにするかと言う事を考えて配置するレイアウトは、製品の品質やコストに大きく影響し、熟練技術者の知識(ノウハウ、さらには勘を含む)に依存する事が多かった。
【0007】一方、鋳造方案をコンピュータを用いて支援しようとする試みも行われているが、この従来の試みは、流体力学等の理論式(例えばベルヌーイの式など)をもとに、主型、堰、湯道などの形状や寸法を算定しようとするものであった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、鋳造方案を熟練技術者の知識(ノウハウ、さらには勘を含む)に依存するものとすれば、新たに熟練技術者を養成するためには非常に長い期間がかかることになり、多様化する鋳造方案へのニーズに対応し切れないものがあった。
【0009】また、流体力学等の理論式をもとに、主型、堰、湯道などの形状や寸法を算定するコンピュータの支援は部分的であり、熟練技術者の知識(ノウハウ、さらには勘を含む)のレベルに準じた全体的な支援にはなりにくいものであった。
【0010】以上の問題点は、砂型を用いる鋳造技術について説明したが、同様の問題は、樹脂成形用の金型であるモールドによる鋳造技術、アルミの精密鋳造を行うダイカストの鋳造技術についても存在する。
【0011】この発明は、以上の問題点を解決するためになされたもので、湯道の模型、堰の模型、および主型などのレイアウトを計画する鋳造方案を、熟練技術者の知識に準じた高度なレベルで、自動的に行う事が可能となる鋳造方案支援エキスパートシステムを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶融金属などの湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および主型の個数を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識が有する複数の知識内容のうち、どの知識内容を使用するかを、各知識について順に決定する手段と、始めに入力された主型形状、主型の個数、および複数の知識で決定された知識内容にしたがって、湯道、押湯、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションし、レイアウトが満足すべきものか否かをチェックする手段と、を備え、満足すべきものでない場合には、始めの主型の個数の入力に戻って手順を繰り返し、満足すべきものになって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステムである。
【0013】請求項2の発明は、溶融金属などの湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および生産方針や生産設備上の制約である生産制約を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰の形を選択する堰形選択知識、堰の位置や数を選択する堰位置選択知識、湯道の形を選択する湯道形選択知識、前記堰や湯道の寸法を決定する湯口系設計知識、および前記主型、堰、押湯、湯道のレイアウトするための座標を決定するレイアウト座標決定知識からなる5つの種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識を構成する複数枚の知識カードであって、どの知識カードを採用するかにより各知識が使用され、前記分類された知識の種類によって定まる属性、および属性を充足する値である属性値を有し、これら属性と属性値により、当該知識カードを採用できるか否かの条件である制約条件が表現され、制約条件が満たされたときに決定される決定項目が表現され、採用されたときに決定項目が登録される知識カードと、制約条件が満たされたか否かは、主型形状、生産制約、および既に登録された知識カードの決定項目が、当該知識カードの制約条件と一致しているか否かで判断することで、各知識カードについて順に判断をおこなう手段と、始めに入力された主型形状、生産制約、および5つの知識の各知識カードで決定された決定項目にしたがって、主型、堰、押湯、および湯道のレイアウトをシミュレーションし、砂型の平面積に対応するプレート上からはみ出さないか否かをチェックする手段と、を備え、プレート上からはみだす場合には、始めの生産制約の入力に戻って手順を繰り返し、プレート上からはみ出さなくなって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステムである。
【0014】
【作用】請求項1の発明では、システムは予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておく。そして始めに、主型形状、および主型の個数を入力し登録する。次に、前記入力された主型形状、および主型の個数に基づいて、前記分類された各知識が有する複数の知識内容のうち、どの知識内容を使用するかを決定する。この決定は、各知識について順になされる。
【0015】そして、始めに入力された主型形状、主型の個数、および複数の知識で決定された知識内容にしたがって、湯道、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションする。レイアウトが満足すべきものでない場合には、始めの主型の個数の入力に戻って手順を繰り返す。満足すべきものになった場合には、手順を終了する。
【0016】請求項2の発明は、システムは予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰の形を選択する堰形選択知識、堰の位置や数を選択する堰位置選択知識、湯道の形を選択する湯道形選択知識、前記堰や湯道の寸法を決定する湯口系設計知識、および前記主型、堰、湯道のレイアウトするための座標を決定するレイアウト座標決定知識からなる5つの種類の知識に分類して登録しておく。
【0017】そして始めに、主型形状、および生産方針や生産設備上の制約である生産制約を入力し登録する。
【0018】次に、この主型形状および生産制約に基づいて、各知識を構成する複数枚の知識カードのうちどの知識カードを採用するかにより、各知識が使用される。ある知識カードを採用できるかどうかは、当該知識カードの制約条件が満たされたか否かによる。制約条件が満たされたか否かは、主型形状、生産制約、および既に登録された知識カードの決定項目が、当該知識カードの制約条件と一致しているか否かで判断する。当該知識カードが採用されると、この知識カードの決定項目が登録される。各知識カードについて順に判断、採用、登録が行われる。
【0019】そして、始めに入力された主型形状、生産制約、および5つの知識の各知識カードで決定された決定項目にしたがって、湯道、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションし、砂型の平面積に対応するプレート上からはみ出さないか否かをチェックする。プレート上からはみだす場合には、始めの生産制約の入力に戻って手順を繰り返し、プレート上からはみ出さなくなって手順を終了する。
【0020】
【実施例】以下この発明の1実施例を図1乃至図21において説明する。
【0021】「システム概要」本実施例におけるシステムの全体概要を図1に示す。このシステムは、模型(湯道の模型、堰の模型、主型などのこと)のレイアウトデータを自動生成する推論モジュール(Inference Module)21およびそのレイアウトデータを受取り、プレート(図22の5参照)へのレイアウトを実行するレイアウトモジュール(Layout Module)23で構成する。
【0022】レイアウトデータを自動生成する推論モジュール21は、過去の鋳造方案に関する熟練技術者の技術知識、ノウハウ、勘、経験則などをもとに作成された知識ベースに基づき、品質・生産効率を考慮した生産方針や生産設備上の制約のもとで、最適な模型方案(各模型の形、寸法、数を定めるもの)と、模型レイアウト(各模型の配置を定めるもの)情報を推論し、グラフィック情報(表示画面などに表示するためのもの)およびレイアウト指示情報(レイアウトのための実際の数値など)として出力する。
【0023】レイアウトを実行するレイアウトモジュール23では、まず、生成された模型方案およびレイアウト情報を、制御装置25で模型の空間レイアウト情報へ変換する。次に、マシニングセンタ等のNC加工機からなるレイアウト自動機械27で空間レイアウト情報によって得られたレイアウト位置をマーキングするか、あるいはレイアウト専用機からなるレイアウト自動機械27でプレート上に模型を自動的にレイアウトする。その後、プレート上に鋳物砂を投入し砂型を完成させる。
【0024】次に、前記推論モジュール21の構成について、さらに詳しく述べる。
【0025】(1)データ入力部(CAD)29このデータ入力部29の機能は、主型の形状や寸法と生産制約(主型付数、品質等の内容からなり、生産方針や生産設備上の制約を意味する)を入力する機能である。ユーザ31は、表示画面上にグラフィカルに提示された要求項目に対し、必要な情報(前記主型の形状や寸法と生産制約など)を対話的に入力する。
【0026】(2)推論機構(Inference Engine)33この推論機構33の機能は、ユーザ31が入力した主型形状などの情報を基に、同様に入力された生産制約を考慮し、知識ベース部35の知識を駆使して最適な模型方案と模型のレイアウト情報を推論する機能である。
【0027】(3)知識ベース部(Knowledge Base)35熟練技術者が長年に渡って培ってきた鋳造方案に関する知識(技術知識、ノウハウ、勘、経験則などに関し、概念的なものおよび数値データを含む)を、コンピュータで扱える知識カード(後で詳しく述べる)に変換し、登録したものである。
【0028】(4)データベース部(Date Base)37このデータベース部37は模型方案の対象となる物(以下オブジェクトと言う:例えば、湯道・押湯・湯口棒など)の寸法、形状、数の情報やレイアウトするプレートの寸法、形状に関する情報などを登録したデータベースである。
【0029】(5)知識入力修正機構(Knowlegdge Editor)39知識ベース部35やデータベース部37では、最新の知識のデータ獲得、追加、あるいは使用実績の少ないデータの変更・削除を行う必要がある。この知識入力修正機構39の機能は、メンテナンス技術者41によるこれらデータの獲得、追加、変更、削除を支援する。
【0030】なお、この推論モジュール21は、エンジニアリングワークステーション(NEWS5000)43上に構築され、データ入力部29、推論機構33、知識ベース部35、データベース部37は記号処理言語であるProlog言語、出力結果等のグラフィカル情報はX−WindowをベースにしたMotifで作成されている。
【0031】「主型形状の入力」本実施例に係るシステムで取扱う製品は、主に、青銅鋳物の給水栓、金具、継ぎ手、およびバルブのような概略円筒状のものとする(もっとも、より複雑な形状の製品も取り扱う事はもちろん可能である)。特に、この実施例で鋳造される製品は図14の形状をしている。厳密には、主型形状というときは、製品となる部分の模型のみならず、中子および中子を支える幅木を含む。この実施例における具体的な主型形状を、図15に示す。
【0032】主型形状は、図16に示すような6種類の基本要素の組合わせで表現する。この組み合わせの具体例を図15について、図17に示す。中実部のみの主型の場合は、外形状の定義をする。中空部を含む主型の場合は、外形と内形との組合わせで1つの基本要素を定義し、複数の基本要素の組合わせで1つの主型を定義する。また幾何学的な寸法指定以外に、耐圧性等の品質や鋳込み後の機械仕上げ部分の指定(Machining)を各基本要素ごとに付加するデータ表現(後述する)となっている。
【0033】鋳造方案において、この様に主型形状を表現することで、機械加工が必要な部分、最大肉厚、堰を取り付けるべき要素等の情報が具体的に容易に表現できる。一般のCADでは、線や曲線の情報(幾何学情報)が入力できるのみで、それらが何を意味しているのかはシステム側では判断できない。このシステムでは、形状を定義する時に、こうした情報を具体的に容易に表現でき、システム側で自動的に、入力された情報の意味を判断し、必要な情報を得ることができるため効率的な推論が可能になる。
【0034】「生産制約の入力」図19に示すように、生産制約は、生産方針あるいは保有設備上の一般属性と形状属性を含む。この生産制約の内容は、所定の手順を経て鋳造方案の生成が不可能な場合に変更し、鋳造方案の生成が可能なものにする。この変更を行うことでコスト等を評価値とした鋳造のシミュレーションも可能となる。
【0035】一般属性の具体的な例として、主型付数、中子の数、幅木の数、品質(耐圧性)、肉厚仕上げ加工などの機械加工の有無、中子吹込みの有無、加工基準面などがある。
【0036】ここで主型付数とは、プレート上に配置する主型の数で、数を増やせば生産性は良くなるが、湯回り不良やひけ巣、割れ、その他様々な不良要因のために不良率が上昇する。数を減らせば不良率は低減できるが、生産性は低下する。よって、最適な数がある。
【0037】また、幅木とは、中子をささえる部分を言う。中子は、製品の中空となる部分を形成するためのものであり、製品とは予め別途に作り、それを砂型内で製品に挿入することによって、鋳造後その部分が中空となる。この中子は、やはり砂でできており、最後に壊せば中空部分が得られる。
【0038】形状属性には、例えば図18のように、製品や中子の大まかな形(図(a))や円筒状の主型の形をさらに細かく分類したもの(図(b))等がある。
【0039】「知識の分類」熟練技術者の知識を次の5つに分類した。
【0040】(1)堰形選択知識主型形状、主型付数、肉厚、幅木形状等を制約条件として堰形を決定するための知識。
【0041】取扱う堰形は、本実施例では図7に示す3つの形に分類した。これら3つの堰を、本堰・バリ堰・リング堰とよぶものとする。
【0042】本堰(同図(A))は、非常に引け巣が発生しやすい製品形状の場合や、幅木部に堰を付けることが不可能な場合に使用する。製品の外径部に直接付ける。製品の断面は、多角形、半円であることが条件である。
【0043】バリ堰(同図(B))は、製品が薄板状であることが条件であり、堰位置の製品肉厚Tとバリ堰厚みtの関係はt=Tであること、バリ堰の厚みは本堰(同図(A))の厚みより薄いことが必要になる。
【0044】リング堰(同図(C))は、幅木長さが幅木径の1、5倍以上ある場合に使用する。
【0045】(2)堰位置選択知識主型形状、幅木形状、中子形状(吹込み口マンドレルの有無)等を制約条件として堰の個数および堰の主型への取付け位置を決定するための知識。
【0046】(3)湯道形選択知識堰形、主型付数等を制約条件として湯道形を決定するための知識。
【0047】取扱う湯道形は、I形とH形である。
【0048】(4)湯口系設計知識堰形、湯道形、主型形状等を制約条件として湯口棒・堰・湯道・押湯・湯口受底寸法を決定するための知識。
【0049】(5)レイアウト座標決定知識主型付数、主型形状、堰形、押湯、湯道形等を制約条件として各オブジェクトのプレート上へのレイアウト座標を決定するための知識。
【0050】なお、これら5つの知識は、図3のように、ある知識の使用を決定するときに、他の知識を参照する(矢印の向き)という関係でネットワークを形成し、最終的に各種制約条件全体を考慮したレイアウトの最適化を行う。
【0051】また、前記(1)から(3)では、堰や湯道等の形や数、主型への取付け位置等が決定されているだけであり、(4)ではじめて寸法が決定される。(1)から(3)で寸法を決定しない理由は、主型、堰、湯道のオブジェクトでは寸法決定時に、他のオブジェクトの寸法を参照して自身の寸法が決定されるためである。つまり、そのオブジェクトの寸法を決定するときに他のオブジェクトの寸法が決定されていないため、参照すべきデータがなく決定できない場合が有り得るためである。また、最後に(4)の湯口系設計知識で一括して寸法を決定した方が、効率的(推論時間の短縮)になるためである。
【0052】「知識の獲得」本システムでは、熟練技術者から知識を引き出す知識獲得は、インタビューを通して行った。一般に、生産技術上の知識には、具体的な数値によって表現できる定量的知識と経験や勘による定性的知識がある。鋳造方案作業における知識も、定性的知識と定量的知識の組合わせであり、複雑である。また、定性的知識に関しては無意識であいまいさや各技術者の主観が含まれ、熟練者でも明確に表現できない場合もある。こうした要因により知識の整理は非常に困難であり、これは、「知識獲得ボトルネック」として知られ、エキスパートシステムが成功するかどうかはこの整理作業にかかっている。
【0053】熟練技術者の作業を詳細に分析すると、新規事例を解くために、過去の実績例を参考にしている場合が多い。そこで、本発明では、知識の獲得にあたり過去の鋳造方案の実績のあるレイアウトデータに注目した。この実績のあるデータは、試行錯誤の結果であり、形状・寸法は具体的に数値で表現されている。加えてこの数値は品質・コスト・作業性・歩留まりなどを十分考慮したものである。そのため、このデータには熟練者の経験やノウハウなど鋳造方案に必要な全ての知識が含まれていると考えられる。
【0054】「知識の構成」エキスパートシステムを構築する場合、獲得した知識をどのように構成するかは大変重要である。つまり、知識をいかに効率よく蓄積、検索、変更できるかがこの種のシステムでは信頼性、操作性を大きく左右する。
【0055】本システムでは、まず、熟練技術者の持つ鋳造方案上の知識は、知識カードと呼ぶフォーマットシートで表現し、知識ベース部(図1)に登録する。ここで、堰形選択知識・堰位置選択知識・湯道形選択知識・湯口系設計知識・レイアウト座標法定知識のフォーマットシートの1例をそれぞれ図8から図13に示す。
【0056】この知識カードは、例えば図8に示す様に大きく3つの内容をもつ。第1部は、カードのヘッダー部分で、知識カードの名前(Name)、知識カードの優先度(後述する)、推論の実行を制御する項目名である。推論の実行を制御する項目名には、Attribute:属性、Value:属性値、Procedure:付加手続き、Note:品質上の特記事項がある。
【0057】第2部は、知識カードが採用されるか否かを決定する制約条件(Constraint condition)であり、前記した属性、属性値、付加手続き、品質上の特記事項に関する具体的な内容により表現される。
【0058】第3部は、知識カードが採用されたときに決定される項目(Decision)である。
【0059】これらはフレーム型構造で整理される。また、属性とその値をどのオブジェクトデータベースから得るか、どのオブジェクトデータベースへ登録するか(Create)と言う付加手続き(Procedure)が記述してある。
【0060】このフレーム型構造は、人間の記憶および認知の過程をモデル化するための枠組みとして、ミンスキーによって提案されたものである。データベースを検索するためには、情報をある基準によってまとめて整理したほうが効率的である。このような情報のまとまり(例えると属性と属性値のまとまり)をフレームと呼ぶ。
【0061】さらに工夫した点がある。つまり、属性と属性値のまとまった知識カードの表現になっているのみならず、属性と属性値とによって制約条件と、決定項目が表現され、さらに付加手続きが付いて、拡張されている点がそれである。
【0062】そして、複数の知識カードを検索し、そこに記述してある当該知識カードを採用できるか否かをチェックするためには、制約条件と、既知データ(既に入力された主型形状や生産制約、さらには既に採用された知識カードの属性値)との整合性をチェックし、問題が無ければ知識カードを採用する。このチェックは、パターンマッチングにより行う。
【0063】このチェックにより、第2部の各属性値の制約条件を満足することが判断されると、結果として第3部の決定項目の各属性値を決定し、該当するオブジェクトデータベース(図1の37参照)に登録する。
【0064】また、例えば図8に示すように、品質上の特記事項に生産性(Productivity)・耐圧性(pressure proof)等の制約条件を組込むことが可能である。
【0065】このようにフレーム型構造で知識を表現するために、知識の追加・削除等のメンテナンス性が向上する。
【0066】図13のレイアウト座標決定の知識カードにおける座標決定方法としては、まず、熟練技術者の経験などから得られたオブジェクトの各属性値に基づくプレート寸法と各オブジェクトのレイアウト間隔と座標をあらかじめレイアウトデータベースに登録しておく。次に、推論で得られたオブジェクト属性値と適合するレイアウトデータベースを総数検索し、そこに記述してある各オブジェクトのレイアウト座標を採用する。そして、図13に示すようにこの知識カードが採用された場合は、6−20(図13)のレイアウトパターンに基づく座標値が決定される事を意味する。
【0067】なお、今回の知識獲得にあたり作成した知識カード数は110例である。
【0068】「オブジェクトデータ」本システムのオブジェクトデータベース内のオブジェクトデータは以下の6つで構成される。
【0069】(1)主型オブジェクト形状、寸法、主型付数、加工の有無等のデータからなる。
【0070】(2)堰オブジェクト堰形、個数、主型への取付け位置等のデータからなる。
【0071】(3)湯道オブジェクト湯道形、寸法等のデータからなる。
【0072】(4)湯口棒オブジェクト寸法等のデータからなる。
【0073】(5)湯口底オブジェクト寸法等のデータからなる。
【0074】(6)押湯オブジェクト形状、寸法等のデータからなる。
【0075】なお、これらはフレーム型構造で整理される((2)〜(6)は図6に示される)。
【0076】「推論手順」本システムにおける推論手順を、図2に示す。推論は、「オブジェクト(堰や湯道等の方案対象物)の生成」と「オブジェクトのレイアウト」の2つで構成される。まず、「オブジェクトの生成」では、プレート上へレイアウトされる主型の主型形状および全オブジェクトの属性値を決定する。なお、各オブジェクトの属性は図6に示すとおり(図中の中央上二つの欄)であり、形、寸法形状、数などからなる。これらの各属性に対し、所定の値からなる具体的な属性値(図中の右上二つの欄)が充足される。
【0077】次に、「オブジェクトのレイアウト」において、全オブジェクトの属性値を制約条件として、これを満たす過去の実績あるレイアウト事例データベースを検索し、オブジェクトのレイアウトの座標値(図中の右下の欄)を算定する。この時、有限空間(例えばプレート(図22の5参照)上)における全オブジェクトの物理的なレイアウト可能性のチェックを行い、もし、不可能な場合、即ちはみ出す場合は主型付数等の生産制約を変更し、再度必要なオブジェクトを生成する。このレイアウトの可能性のチェックは、有限空間からはみだすか否かのチェックだけではなく、他の様々なチェックを含むものとすることができる。例えば、鋳型の総重量または総体積に対する製品重量または製品体積の比であるS/M比(SandMetal Ratio)のチェック、品質のチェック、生産効率のチェックを行うことができる。これにより、品質的に安定したものを鋳造する工夫を施せる。このような品質や生産効率のチェックは、各オブジェクトの制約条件の内容で行われることになる。
【0078】「競合の解消」本システムは、1つの主型につき、レイアウト可能な案を複数生成することができる。これは、推論中に適用可能な知識カードを総数検索後、妥当な知識を全て採用し、これらのオブジェクトからツリー構造で次のオブジェクトが生成される仕組みとなっているからである。しかし、推論の効率を考えた場合、案の生成中に何らかの制限を加えないと組合わせ爆発が発生し、システムの実用性が低下する。
【0079】そこで、本システムでは、図9に示すように、知識適用における競合の解消として、同一制約条件から複数の属性を決定する可能性がある複数の知識カードについては、過去の使用実績回数に応じて知識カードに優先度(Priority)を記述した。
【0080】「推論手順の具体例」具体的な推論手順を図4および図5の番号(S1からS50)にしたがって示す。
【0081】S1 ユーザが主型形状と制約条件を(データ入力部でキー入力、マウス操作により)定義する。また、システム実行時に使用する知識シートの優先度を定義する。
【0082】S2 システムは、S1の情報をデータベース部の主型オブジェクトデータベース(ハードディスク)に登録(保存)する。
【0083】S3 堰形選択を以下S4からS7の手順で行う。
【0084】S4 知識ベース部の知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から堰形選択に関する知識カードをシステムが検索する。
【0085】S5 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図8に示すように、製品形状、中子形状、主型付数、最大肉厚)が、ユーザがS2で登録した主型形状や生産制約と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0086】S6 否(S5で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するるまでS4とS5を繰り返す。
【0087】S7 可(S5で制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値をデータベース部の堰オブジェクトデータベースに登録する。
【0088】S8 堰位置選択を以下S9からS12の手順で行う。
【0089】S9 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から堰位置選択に関する知識カードをシステムが検索する。
【0090】S10 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図10に示すように、堰形、主型形状、中子の長さ、機械加工の有無)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約、S7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0091】このシステムでは、S10の様に、あるオブジェクトの属性と属性値を決する時に、既に推論済み(すなわち知識カードの決定事項が登録された)のオブジェクト属性と属性値が使用される。これは、鋳造方案作業の経験上、ある知識が適用できるかどうかを決定する時に、他の知識を有効に使う必要があると言う知識のネットワークを形成するためである。この様に、ダイナミックに(時事刻々登録された決定項目のデータが変わる)かつ連鎖的(自己の知識カードの登録された決定項目が次の知識カードの採用の可否を決める)に各オブシェクトの推論を最後まで繰り返すのがこのシステムの特徴となっている。
【0092】S11 不(S10制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS9とS10を繰り返す。
【0093】S12 可(S10で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を堰オブジェクトデータベースに登録する。
【0094】S13 湯道形選択を以下S14からS17の手順で行う。
【0095】S14 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から湯道形選択に関する知識カードをシステムが検索する。
【0096】S15 そのカードに記述してある制約条件(ここでは、図11に示すように堰形、製品形状、主型付数、主型の最大直径、湯道に対する主型の方向)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S12で登録した堰位置選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0097】S16 不(S15で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS14とS15を繰り返す。
【0098】S17 可(S15で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値をデータベース部37(図1)の湯道オブジェクトデータベースに登録する。
【0099】S18 湯口棒の設計を以下S19からS22の手順で行う。
【0100】S19 知識カードデータベース(ハートディスクに登録してある)から湯口棒の設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0101】S20 そのカードに記述してある制約条件が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S12で登録した堰位置選択の知識カードの決定項目、およびS17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。しかし、湯口棒の場合には、制約条件が緩く、同一の制約条件から複数の知識カードが採用され得る可能性がある。よって、実質上は、優先度の順に前記チェックを行う。
【0102】S21 不(S20で制約条件を満足しなかった)の場合は、優先度番号に1をプラスした優先度を持つ知識カードをチェックする。
【0103】S22 可(S20で制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を、湯口棒オブジェクトデータベースに登録する。
【0104】S23 湯口底(湯口棒の下端部が接続され、さらに湯道へ接続する部分)の設計を以下S24からS27の手順で行う。
【0105】S24 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から湯口底設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0106】S25 そのカードに記述してある制約条件が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S12で登録した堰位置選択の知識カードの決定項目、S17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目、およびS22で登録した湯口棒選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。しかし、湯口底の場合には、制約条件が緩く、同一の制約条件から複数の知識カードが採用され得る可能性がある。よって、実質上は、優先度の順に前記チェックを行う。
【0107】S26 不(S25で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS24とS25を繰り返す。
【0108】S27 可(S25で制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を湯口底オブジェクトデータベースに登録する。
【0109】S28 湯道の設計を以下S29からS32の手順で行う。
【0110】S29 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から湯道設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0111】S30 そのカードに記述してある制約条件(ここでは、耐圧性、主型直径、堰形、湯道形)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0112】S31 不(S30制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS29とS30を繰り返す。
【0113】S32 可(S30で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を湯道オジェクトデータベースに登録する。
【0114】S33 堰の設計を以下S34からS37の手順で行う。
【0115】S34 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から堰設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0116】S35 そのカードに記述してある制約条件(ここでは、耐圧性、製品重量、肉厚、堰形)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0117】S36 不(S35で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS34とS35を繰り返す。
【0118】S37 可(S35で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を堰オブジェクトデータベースに登録する。
【0119】S38 押湯の設計を以下S39からS42の手順で行う。
【0120】S39 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から押湯設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0121】S40 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図12に示すように、堰形、主型の最大直径)が、ユーザがS2で登録したで登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0122】S41 不(S40で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS39とS40を繰り返す。
【0123】S42 可(S40で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を、押湯オブジェクトデータベースに登録する。
【0124】S43 レイアウト座標の決定を以下S44からS47の手順で行う。
【0125】S44 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)からレイアウト座標決定に関する知識カードをシステムが検索する。
【0126】S45 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図13に示すように、主型付数、湯道形、主型形状、堰形)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0127】S46 不(S45で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS44とS45を繰り返す。
【0128】S47 可(S45で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある全オブジェクトのレイアウト座標に基づきプレート上へ配置し、プレートからはみ出していないかチェックを行う。
【0129】S48 不(はみ出す)の場合は、S1に戻り再度今までの手順を繰り返す。
【0130】S49 可(プレートに納まった)の場合は、このレイアウトは満足すべきものとして、レイアウト座標オブジェクトデータベースに登録する。
【0131】S50 全オブジェクトデータベースの属性と属性値が決定され終了する。
【0132】「実行結果」システムの実行結果を図20に示す。使用した知識カードは76枚であり今回生成した案は1例のみであった。図21は熟練技術者による鋳造方案例である。双方の結果は大変良く一致している。
【0133】また、熟練技術者による鋳造方案作成時間は、様々な文献チェック、各種計算、過去の事例検索および作図等の所要時間合計で約12時間であった。本システムでは、データ入力からグラフィック出力までの合計で約30分(推論のみ:15秒)で、時間にして1/12の効率化を図ることができた。
【0134】以上の実施例は、砂型を用いる鋳造技術について説明したが、他の実施例では、樹脂成形用の金型であるモールドによる鋳造技術、アルミの精密鋳造を行うダイカストの鋳造技術について、この発明を実施することが可能である。
【0135】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1または2の発明によれば、システムは予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得しておき、この知識を使用することができるので、熟練技術者の知識に準じた高度なレベルで、鋳造方案を自動的に行える。このため鋳造方案を、個々の熟練技術者の知識やノウハウ、さらには勘に依存せずに済み、新たに熟練技術者を養成する必要がなくなる。よって、多様化する鋳造方案へのニーズに迅速に対応できることとなる。
【0136】このような熟練技術者の知識の使用は、この知識を堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておき、各知識が有する複数の知識内容のうちどの知識内容を使用するかの決定を、各知識について順におこなうことで、はじめて可能となった。
【0137】請求項2の発明によれば、さらに、熟練技術者の知識を堰形選択知識、堰位置選択知識、湯道型選択知識、湯口系設計知識、およびレイアウト座標決定知識の5つの知識に分類することで、エキスパートシステムを鋳造方案に実用的に適用する事が可能となった。
【0138】また、堰形選択知識、堰位置選択知識、湯道型選択知識とは別に、湯口系設計知識を分類することで、堰や湯道の形や数が決定された後に、始めて堰や湯口の寸法が決定されることになり、本発明のシステムによる推論時間の短縮が図られシステムの運用が効率的になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の1実施例に係るシステムの全体概略図である。
【図2】図1の推論機構の働きを示す概略フロー図である。
【図3】図1の推論機構が推論を行う際に用いる5つに分類された知識が形成するネットワークを示す図である。
【図4】本実施例の具体的な推論手順を示す図のうちの前半図である。
【図5】本実施例の具体的な推論手順を示す図のうちの後半図である。
【図6】図6のデータベース部内に登録されるオブジェクトデータを示す図である。
【図7】図6のオブジェクトデータのうち堰の形を示す図である。
【図8】図5の5つの知識のうちの堰形選択知識の知識カードを示す図である。
【図9】図8における堰形選択知識の知識カードにおける優先度の意味を説明する図である。
【図10】図5の5つの知識のうちの堰位置選択知識の知識カードを示す図である。
【図11】図5の5つの知識のうちの湯道形選択知識の知識カードを示す図である。
【図12】図5の5つの知識のうちの湯口系設計知識のひとつである押湯設計知識の知識カードを示す図である。
【図13】図5の5つの知識のうちのレイアウト座標決定知識の知識カードを示す図である。
【図14】本実施例に係る製品を示す図で(A)は側面図であり(B)は正面図である。
【図15】図14の製品となる部分の模型である主型の側面図である。
【図16】主型の形状を表現するための6つの基本要素を示す図である。
【図17】図15の主型を表現するための図16に示す基本要素の組み合わせを表す図である。
【図18】本実施例において入力される生産制約を構成する形状属性の例を示す図である。
【図19】本実施例において入力される生産制約の例を示す図である。
【図20】本実施例の実行結果を示す図である。
【図21】図20との比較のため熟練技術者が作成した鋳造方案の例を示す図である。
【図22】従来の鋳造の概略工程の一例を示す図である。
【図23】従来の鋳造における主型、堰、湯道、湯口棒などの配置を表す一例を示した図である。
【符号の説明】
1 上型 3 下型
5、7 プレート 9、11 製品となる部分の模型
13 湯を導くための模型 13 湯口棒
13B 湯道 13C 押湯
13D 堰
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、例えば鋳造が行われる砂型中に埋められる湯道の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来の鋳造の概略を図22に示す。上型1と下型3とは、ともに砂型である。すなわち、上型1または下型3を作成する際の台となるプレート5、7の上で、製品となる模型9を砂に埋め固める(同図(A))。このとき、この製品となる模型9、11の部分に溶融金属である湯を導くための模型13も同時に埋められた状態で、上型1と下型3が合わされる(同図(B))。そして、上型1と下型3が分離され(同図(C))、各模型9、11、13が取り去られ(同図(D))、空間15を得る(同図(E))。この空間15に湯を導き凝固させ、砂型を崩して製品を取り出す。
【0003】なお、この図22の従来例では、模型は取り去られた後に湯が導かれるものであったが、他の従来例では模型を発泡スチロールで形成し、模型を取り去ることなく湯を導き、発泡スチロールは湯の熱で蒸発するようにする事もできる。
【0004】また、製品の内部に空間部分が設計されているものなどは、空間部分を形成するために中子が用いられるが、ここでは製品となる模型9である主型という概念には、この中子および中子を支える幅木が含まれるものとする。
【0005】次に、図23に示すように、湯を導くための模型13には、例えば湯の注ぎ口となる上下方向の湯口棒13Aの部分、湯口棒13Aに連続する水平方向の湯道13Bの部分、湯道13Bに連続し最終凝固部となる押湯13C、押湯13Cに連続し製品となる部分のどこへ湯を導入するのかという堰13Dの部分などがある。
【0006】これらの模型を何個、どのような形状で、どの位置に,どの方向で、天地をどちらにするかと言う事を考えて配置するレイアウトは、製品の品質やコストに大きく影響し、熟練技術者の知識(ノウハウ、さらには勘を含む)に依存する事が多かった。
【0007】一方、鋳造方案をコンピュータを用いて支援しようとする試みも行われているが、この従来の試みは、流体力学等の理論式(例えばベルヌーイの式など)をもとに、主型、堰、湯道などの形状や寸法を算定しようとするものであった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、鋳造方案を熟練技術者の知識(ノウハウ、さらには勘を含む)に依存するものとすれば、新たに熟練技術者を養成するためには非常に長い期間がかかることになり、多様化する鋳造方案へのニーズに対応し切れないものがあった。
【0009】また、流体力学等の理論式をもとに、主型、堰、湯道などの形状や寸法を算定するコンピュータの支援は部分的であり、熟練技術者の知識(ノウハウ、さらには勘を含む)のレベルに準じた全体的な支援にはなりにくいものであった。
【0010】以上の問題点は、砂型を用いる鋳造技術について説明したが、同様の問題は、樹脂成形用の金型であるモールドによる鋳造技術、アルミの精密鋳造を行うダイカストの鋳造技術についても存在する。
【0011】この発明は、以上の問題点を解決するためになされたもので、湯道の模型、堰の模型、および主型などのレイアウトを計画する鋳造方案を、熟練技術者の知識に準じた高度なレベルで、自動的に行う事が可能となる鋳造方案支援エキスパートシステムを提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】以上の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶融金属などの湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および主型の個数を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識が有する複数の知識内容のうち、どの知識内容を使用するかを、各知識について順に決定する手段と、始めに入力された主型形状、主型の個数、および複数の知識で決定された知識内容にしたがって、湯道、押湯、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションし、レイアウトが満足すべきものか否かをチェックする手段と、を備え、満足すべきものでない場合には、始めの主型の個数の入力に戻って手順を繰り返し、満足すべきものになって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステムである。
【0013】請求項2の発明は、溶融金属などの湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および生産方針や生産設備上の制約である生産制約を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰の形を選択する堰形選択知識、堰の位置や数を選択する堰位置選択知識、湯道の形を選択する湯道形選択知識、前記堰や湯道の寸法を決定する湯口系設計知識、および前記主型、堰、押湯、湯道のレイアウトするための座標を決定するレイアウト座標決定知識からなる5つの種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識を構成する複数枚の知識カードであって、どの知識カードを採用するかにより各知識が使用され、前記分類された知識の種類によって定まる属性、および属性を充足する値である属性値を有し、これら属性と属性値により、当該知識カードを採用できるか否かの条件である制約条件が表現され、制約条件が満たされたときに決定される決定項目が表現され、採用されたときに決定項目が登録される知識カードと、制約条件が満たされたか否かは、主型形状、生産制約、および既に登録された知識カードの決定項目が、当該知識カードの制約条件と一致しているか否かで判断することで、各知識カードについて順に判断をおこなう手段と、始めに入力された主型形状、生産制約、および5つの知識の各知識カードで決定された決定項目にしたがって、主型、堰、押湯、および湯道のレイアウトをシミュレーションし、砂型の平面積に対応するプレート上からはみ出さないか否かをチェックする手段と、を備え、プレート上からはみだす場合には、始めの生産制約の入力に戻って手順を繰り返し、プレート上からはみ出さなくなって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステムである。
【0014】
【作用】請求項1の発明では、システムは予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておく。そして始めに、主型形状、および主型の個数を入力し登録する。次に、前記入力された主型形状、および主型の個数に基づいて、前記分類された各知識が有する複数の知識内容のうち、どの知識内容を使用するかを決定する。この決定は、各知識について順になされる。
【0015】そして、始めに入力された主型形状、主型の個数、および複数の知識で決定された知識内容にしたがって、湯道、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションする。レイアウトが満足すべきものでない場合には、始めの主型の個数の入力に戻って手順を繰り返す。満足すべきものになった場合には、手順を終了する。
【0016】請求項2の発明は、システムは予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰の形を選択する堰形選択知識、堰の位置や数を選択する堰位置選択知識、湯道の形を選択する湯道形選択知識、前記堰や湯道の寸法を決定する湯口系設計知識、および前記主型、堰、湯道のレイアウトするための座標を決定するレイアウト座標決定知識からなる5つの種類の知識に分類して登録しておく。
【0017】そして始めに、主型形状、および生産方針や生産設備上の制約である生産制約を入力し登録する。
【0018】次に、この主型形状および生産制約に基づいて、各知識を構成する複数枚の知識カードのうちどの知識カードを採用するかにより、各知識が使用される。ある知識カードを採用できるかどうかは、当該知識カードの制約条件が満たされたか否かによる。制約条件が満たされたか否かは、主型形状、生産制約、および既に登録された知識カードの決定項目が、当該知識カードの制約条件と一致しているか否かで判断する。当該知識カードが採用されると、この知識カードの決定項目が登録される。各知識カードについて順に判断、採用、登録が行われる。
【0019】そして、始めに入力された主型形状、生産制約、および5つの知識の各知識カードで決定された決定項目にしたがって、湯道、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションし、砂型の平面積に対応するプレート上からはみ出さないか否かをチェックする。プレート上からはみだす場合には、始めの生産制約の入力に戻って手順を繰り返し、プレート上からはみ出さなくなって手順を終了する。
【0020】
【実施例】以下この発明の1実施例を図1乃至図21において説明する。
【0021】「システム概要」本実施例におけるシステムの全体概要を図1に示す。このシステムは、模型(湯道の模型、堰の模型、主型などのこと)のレイアウトデータを自動生成する推論モジュール(Inference Module)21およびそのレイアウトデータを受取り、プレート(図22の5参照)へのレイアウトを実行するレイアウトモジュール(Layout Module)23で構成する。
【0022】レイアウトデータを自動生成する推論モジュール21は、過去の鋳造方案に関する熟練技術者の技術知識、ノウハウ、勘、経験則などをもとに作成された知識ベースに基づき、品質・生産効率を考慮した生産方針や生産設備上の制約のもとで、最適な模型方案(各模型の形、寸法、数を定めるもの)と、模型レイアウト(各模型の配置を定めるもの)情報を推論し、グラフィック情報(表示画面などに表示するためのもの)およびレイアウト指示情報(レイアウトのための実際の数値など)として出力する。
【0023】レイアウトを実行するレイアウトモジュール23では、まず、生成された模型方案およびレイアウト情報を、制御装置25で模型の空間レイアウト情報へ変換する。次に、マシニングセンタ等のNC加工機からなるレイアウト自動機械27で空間レイアウト情報によって得られたレイアウト位置をマーキングするか、あるいはレイアウト専用機からなるレイアウト自動機械27でプレート上に模型を自動的にレイアウトする。その後、プレート上に鋳物砂を投入し砂型を完成させる。
【0024】次に、前記推論モジュール21の構成について、さらに詳しく述べる。
【0025】(1)データ入力部(CAD)29このデータ入力部29の機能は、主型の形状や寸法と生産制約(主型付数、品質等の内容からなり、生産方針や生産設備上の制約を意味する)を入力する機能である。ユーザ31は、表示画面上にグラフィカルに提示された要求項目に対し、必要な情報(前記主型の形状や寸法と生産制約など)を対話的に入力する。
【0026】(2)推論機構(Inference Engine)33この推論機構33の機能は、ユーザ31が入力した主型形状などの情報を基に、同様に入力された生産制約を考慮し、知識ベース部35の知識を駆使して最適な模型方案と模型のレイアウト情報を推論する機能である。
【0027】(3)知識ベース部(Knowledge Base)35熟練技術者が長年に渡って培ってきた鋳造方案に関する知識(技術知識、ノウハウ、勘、経験則などに関し、概念的なものおよび数値データを含む)を、コンピュータで扱える知識カード(後で詳しく述べる)に変換し、登録したものである。
【0028】(4)データベース部(Date Base)37このデータベース部37は模型方案の対象となる物(以下オブジェクトと言う:例えば、湯道・押湯・湯口棒など)の寸法、形状、数の情報やレイアウトするプレートの寸法、形状に関する情報などを登録したデータベースである。
【0029】(5)知識入力修正機構(Knowlegdge Editor)39知識ベース部35やデータベース部37では、最新の知識のデータ獲得、追加、あるいは使用実績の少ないデータの変更・削除を行う必要がある。この知識入力修正機構39の機能は、メンテナンス技術者41によるこれらデータの獲得、追加、変更、削除を支援する。
【0030】なお、この推論モジュール21は、エンジニアリングワークステーション(NEWS5000)43上に構築され、データ入力部29、推論機構33、知識ベース部35、データベース部37は記号処理言語であるProlog言語、出力結果等のグラフィカル情報はX−WindowをベースにしたMotifで作成されている。
【0031】「主型形状の入力」本実施例に係るシステムで取扱う製品は、主に、青銅鋳物の給水栓、金具、継ぎ手、およびバルブのような概略円筒状のものとする(もっとも、より複雑な形状の製品も取り扱う事はもちろん可能である)。特に、この実施例で鋳造される製品は図14の形状をしている。厳密には、主型形状というときは、製品となる部分の模型のみならず、中子および中子を支える幅木を含む。この実施例における具体的な主型形状を、図15に示す。
【0032】主型形状は、図16に示すような6種類の基本要素の組合わせで表現する。この組み合わせの具体例を図15について、図17に示す。中実部のみの主型の場合は、外形状の定義をする。中空部を含む主型の場合は、外形と内形との組合わせで1つの基本要素を定義し、複数の基本要素の組合わせで1つの主型を定義する。また幾何学的な寸法指定以外に、耐圧性等の品質や鋳込み後の機械仕上げ部分の指定(Machining)を各基本要素ごとに付加するデータ表現(後述する)となっている。
【0033】鋳造方案において、この様に主型形状を表現することで、機械加工が必要な部分、最大肉厚、堰を取り付けるべき要素等の情報が具体的に容易に表現できる。一般のCADでは、線や曲線の情報(幾何学情報)が入力できるのみで、それらが何を意味しているのかはシステム側では判断できない。このシステムでは、形状を定義する時に、こうした情報を具体的に容易に表現でき、システム側で自動的に、入力された情報の意味を判断し、必要な情報を得ることができるため効率的な推論が可能になる。
【0034】「生産制約の入力」図19に示すように、生産制約は、生産方針あるいは保有設備上の一般属性と形状属性を含む。この生産制約の内容は、所定の手順を経て鋳造方案の生成が不可能な場合に変更し、鋳造方案の生成が可能なものにする。この変更を行うことでコスト等を評価値とした鋳造のシミュレーションも可能となる。
【0035】一般属性の具体的な例として、主型付数、中子の数、幅木の数、品質(耐圧性)、肉厚仕上げ加工などの機械加工の有無、中子吹込みの有無、加工基準面などがある。
【0036】ここで主型付数とは、プレート上に配置する主型の数で、数を増やせば生産性は良くなるが、湯回り不良やひけ巣、割れ、その他様々な不良要因のために不良率が上昇する。数を減らせば不良率は低減できるが、生産性は低下する。よって、最適な数がある。
【0037】また、幅木とは、中子をささえる部分を言う。中子は、製品の中空となる部分を形成するためのものであり、製品とは予め別途に作り、それを砂型内で製品に挿入することによって、鋳造後その部分が中空となる。この中子は、やはり砂でできており、最後に壊せば中空部分が得られる。
【0038】形状属性には、例えば図18のように、製品や中子の大まかな形(図(a))や円筒状の主型の形をさらに細かく分類したもの(図(b))等がある。
【0039】「知識の分類」熟練技術者の知識を次の5つに分類した。
【0040】(1)堰形選択知識主型形状、主型付数、肉厚、幅木形状等を制約条件として堰形を決定するための知識。
【0041】取扱う堰形は、本実施例では図7に示す3つの形に分類した。これら3つの堰を、本堰・バリ堰・リング堰とよぶものとする。
【0042】本堰(同図(A))は、非常に引け巣が発生しやすい製品形状の場合や、幅木部に堰を付けることが不可能な場合に使用する。製品の外径部に直接付ける。製品の断面は、多角形、半円であることが条件である。
【0043】バリ堰(同図(B))は、製品が薄板状であることが条件であり、堰位置の製品肉厚Tとバリ堰厚みtの関係はt=Tであること、バリ堰の厚みは本堰(同図(A))の厚みより薄いことが必要になる。
【0044】リング堰(同図(C))は、幅木長さが幅木径の1、5倍以上ある場合に使用する。
【0045】(2)堰位置選択知識主型形状、幅木形状、中子形状(吹込み口マンドレルの有無)等を制約条件として堰の個数および堰の主型への取付け位置を決定するための知識。
【0046】(3)湯道形選択知識堰形、主型付数等を制約条件として湯道形を決定するための知識。
【0047】取扱う湯道形は、I形とH形である。
【0048】(4)湯口系設計知識堰形、湯道形、主型形状等を制約条件として湯口棒・堰・湯道・押湯・湯口受底寸法を決定するための知識。
【0049】(5)レイアウト座標決定知識主型付数、主型形状、堰形、押湯、湯道形等を制約条件として各オブジェクトのプレート上へのレイアウト座標を決定するための知識。
【0050】なお、これら5つの知識は、図3のように、ある知識の使用を決定するときに、他の知識を参照する(矢印の向き)という関係でネットワークを形成し、最終的に各種制約条件全体を考慮したレイアウトの最適化を行う。
【0051】また、前記(1)から(3)では、堰や湯道等の形や数、主型への取付け位置等が決定されているだけであり、(4)ではじめて寸法が決定される。(1)から(3)で寸法を決定しない理由は、主型、堰、湯道のオブジェクトでは寸法決定時に、他のオブジェクトの寸法を参照して自身の寸法が決定されるためである。つまり、そのオブジェクトの寸法を決定するときに他のオブジェクトの寸法が決定されていないため、参照すべきデータがなく決定できない場合が有り得るためである。また、最後に(4)の湯口系設計知識で一括して寸法を決定した方が、効率的(推論時間の短縮)になるためである。
【0052】「知識の獲得」本システムでは、熟練技術者から知識を引き出す知識獲得は、インタビューを通して行った。一般に、生産技術上の知識には、具体的な数値によって表現できる定量的知識と経験や勘による定性的知識がある。鋳造方案作業における知識も、定性的知識と定量的知識の組合わせであり、複雑である。また、定性的知識に関しては無意識であいまいさや各技術者の主観が含まれ、熟練者でも明確に表現できない場合もある。こうした要因により知識の整理は非常に困難であり、これは、「知識獲得ボトルネック」として知られ、エキスパートシステムが成功するかどうかはこの整理作業にかかっている。
【0053】熟練技術者の作業を詳細に分析すると、新規事例を解くために、過去の実績例を参考にしている場合が多い。そこで、本発明では、知識の獲得にあたり過去の鋳造方案の実績のあるレイアウトデータに注目した。この実績のあるデータは、試行錯誤の結果であり、形状・寸法は具体的に数値で表現されている。加えてこの数値は品質・コスト・作業性・歩留まりなどを十分考慮したものである。そのため、このデータには熟練者の経験やノウハウなど鋳造方案に必要な全ての知識が含まれていると考えられる。
【0054】「知識の構成」エキスパートシステムを構築する場合、獲得した知識をどのように構成するかは大変重要である。つまり、知識をいかに効率よく蓄積、検索、変更できるかがこの種のシステムでは信頼性、操作性を大きく左右する。
【0055】本システムでは、まず、熟練技術者の持つ鋳造方案上の知識は、知識カードと呼ぶフォーマットシートで表現し、知識ベース部(図1)に登録する。ここで、堰形選択知識・堰位置選択知識・湯道形選択知識・湯口系設計知識・レイアウト座標法定知識のフォーマットシートの1例をそれぞれ図8から図13に示す。
【0056】この知識カードは、例えば図8に示す様に大きく3つの内容をもつ。第1部は、カードのヘッダー部分で、知識カードの名前(Name)、知識カードの優先度(後述する)、推論の実行を制御する項目名である。推論の実行を制御する項目名には、Attribute:属性、Value:属性値、Procedure:付加手続き、Note:品質上の特記事項がある。
【0057】第2部は、知識カードが採用されるか否かを決定する制約条件(Constraint condition)であり、前記した属性、属性値、付加手続き、品質上の特記事項に関する具体的な内容により表現される。
【0058】第3部は、知識カードが採用されたときに決定される項目(Decision)である。
【0059】これらはフレーム型構造で整理される。また、属性とその値をどのオブジェクトデータベースから得るか、どのオブジェクトデータベースへ登録するか(Create)と言う付加手続き(Procedure)が記述してある。
【0060】このフレーム型構造は、人間の記憶および認知の過程をモデル化するための枠組みとして、ミンスキーによって提案されたものである。データベースを検索するためには、情報をある基準によってまとめて整理したほうが効率的である。このような情報のまとまり(例えると属性と属性値のまとまり)をフレームと呼ぶ。
【0061】さらに工夫した点がある。つまり、属性と属性値のまとまった知識カードの表現になっているのみならず、属性と属性値とによって制約条件と、決定項目が表現され、さらに付加手続きが付いて、拡張されている点がそれである。
【0062】そして、複数の知識カードを検索し、そこに記述してある当該知識カードを採用できるか否かをチェックするためには、制約条件と、既知データ(既に入力された主型形状や生産制約、さらには既に採用された知識カードの属性値)との整合性をチェックし、問題が無ければ知識カードを採用する。このチェックは、パターンマッチングにより行う。
【0063】このチェックにより、第2部の各属性値の制約条件を満足することが判断されると、結果として第3部の決定項目の各属性値を決定し、該当するオブジェクトデータベース(図1の37参照)に登録する。
【0064】また、例えば図8に示すように、品質上の特記事項に生産性(Productivity)・耐圧性(pressure proof)等の制約条件を組込むことが可能である。
【0065】このようにフレーム型構造で知識を表現するために、知識の追加・削除等のメンテナンス性が向上する。
【0066】図13のレイアウト座標決定の知識カードにおける座標決定方法としては、まず、熟練技術者の経験などから得られたオブジェクトの各属性値に基づくプレート寸法と各オブジェクトのレイアウト間隔と座標をあらかじめレイアウトデータベースに登録しておく。次に、推論で得られたオブジェクト属性値と適合するレイアウトデータベースを総数検索し、そこに記述してある各オブジェクトのレイアウト座標を採用する。そして、図13に示すようにこの知識カードが採用された場合は、6−20(図13)のレイアウトパターンに基づく座標値が決定される事を意味する。
【0067】なお、今回の知識獲得にあたり作成した知識カード数は110例である。
【0068】「オブジェクトデータ」本システムのオブジェクトデータベース内のオブジェクトデータは以下の6つで構成される。
【0069】(1)主型オブジェクト形状、寸法、主型付数、加工の有無等のデータからなる。
【0070】(2)堰オブジェクト堰形、個数、主型への取付け位置等のデータからなる。
【0071】(3)湯道オブジェクト湯道形、寸法等のデータからなる。
【0072】(4)湯口棒オブジェクト寸法等のデータからなる。
【0073】(5)湯口底オブジェクト寸法等のデータからなる。
【0074】(6)押湯オブジェクト形状、寸法等のデータからなる。
【0075】なお、これらはフレーム型構造で整理される((2)〜(6)は図6に示される)。
【0076】「推論手順」本システムにおける推論手順を、図2に示す。推論は、「オブジェクト(堰や湯道等の方案対象物)の生成」と「オブジェクトのレイアウト」の2つで構成される。まず、「オブジェクトの生成」では、プレート上へレイアウトされる主型の主型形状および全オブジェクトの属性値を決定する。なお、各オブジェクトの属性は図6に示すとおり(図中の中央上二つの欄)であり、形、寸法形状、数などからなる。これらの各属性に対し、所定の値からなる具体的な属性値(図中の右上二つの欄)が充足される。
【0077】次に、「オブジェクトのレイアウト」において、全オブジェクトの属性値を制約条件として、これを満たす過去の実績あるレイアウト事例データベースを検索し、オブジェクトのレイアウトの座標値(図中の右下の欄)を算定する。この時、有限空間(例えばプレート(図22の5参照)上)における全オブジェクトの物理的なレイアウト可能性のチェックを行い、もし、不可能な場合、即ちはみ出す場合は主型付数等の生産制約を変更し、再度必要なオブジェクトを生成する。このレイアウトの可能性のチェックは、有限空間からはみだすか否かのチェックだけではなく、他の様々なチェックを含むものとすることができる。例えば、鋳型の総重量または総体積に対する製品重量または製品体積の比であるS/M比(SandMetal Ratio)のチェック、品質のチェック、生産効率のチェックを行うことができる。これにより、品質的に安定したものを鋳造する工夫を施せる。このような品質や生産効率のチェックは、各オブジェクトの制約条件の内容で行われることになる。
【0078】「競合の解消」本システムは、1つの主型につき、レイアウト可能な案を複数生成することができる。これは、推論中に適用可能な知識カードを総数検索後、妥当な知識を全て採用し、これらのオブジェクトからツリー構造で次のオブジェクトが生成される仕組みとなっているからである。しかし、推論の効率を考えた場合、案の生成中に何らかの制限を加えないと組合わせ爆発が発生し、システムの実用性が低下する。
【0079】そこで、本システムでは、図9に示すように、知識適用における競合の解消として、同一制約条件から複数の属性を決定する可能性がある複数の知識カードについては、過去の使用実績回数に応じて知識カードに優先度(Priority)を記述した。
【0080】「推論手順の具体例」具体的な推論手順を図4および図5の番号(S1からS50)にしたがって示す。
【0081】S1 ユーザが主型形状と制約条件を(データ入力部でキー入力、マウス操作により)定義する。また、システム実行時に使用する知識シートの優先度を定義する。
【0082】S2 システムは、S1の情報をデータベース部の主型オブジェクトデータベース(ハードディスク)に登録(保存)する。
【0083】S3 堰形選択を以下S4からS7の手順で行う。
【0084】S4 知識ベース部の知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から堰形選択に関する知識カードをシステムが検索する。
【0085】S5 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図8に示すように、製品形状、中子形状、主型付数、最大肉厚)が、ユーザがS2で登録した主型形状や生産制約と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0086】S6 否(S5で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するるまでS4とS5を繰り返す。
【0087】S7 可(S5で制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値をデータベース部の堰オブジェクトデータベースに登録する。
【0088】S8 堰位置選択を以下S9からS12の手順で行う。
【0089】S9 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から堰位置選択に関する知識カードをシステムが検索する。
【0090】S10 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図10に示すように、堰形、主型形状、中子の長さ、機械加工の有無)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約、S7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0091】このシステムでは、S10の様に、あるオブジェクトの属性と属性値を決する時に、既に推論済み(すなわち知識カードの決定事項が登録された)のオブジェクト属性と属性値が使用される。これは、鋳造方案作業の経験上、ある知識が適用できるかどうかを決定する時に、他の知識を有効に使う必要があると言う知識のネットワークを形成するためである。この様に、ダイナミックに(時事刻々登録された決定項目のデータが変わる)かつ連鎖的(自己の知識カードの登録された決定項目が次の知識カードの採用の可否を決める)に各オブシェクトの推論を最後まで繰り返すのがこのシステムの特徴となっている。
【0092】S11 不(S10制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS9とS10を繰り返す。
【0093】S12 可(S10で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を堰オブジェクトデータベースに登録する。
【0094】S13 湯道形選択を以下S14からS17の手順で行う。
【0095】S14 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から湯道形選択に関する知識カードをシステムが検索する。
【0096】S15 そのカードに記述してある制約条件(ここでは、図11に示すように堰形、製品形状、主型付数、主型の最大直径、湯道に対する主型の方向)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S12で登録した堰位置選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0097】S16 不(S15で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS14とS15を繰り返す。
【0098】S17 可(S15で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値をデータベース部37(図1)の湯道オブジェクトデータベースに登録する。
【0099】S18 湯口棒の設計を以下S19からS22の手順で行う。
【0100】S19 知識カードデータベース(ハートディスクに登録してある)から湯口棒の設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0101】S20 そのカードに記述してある制約条件が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S12で登録した堰位置選択の知識カードの決定項目、およびS17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。しかし、湯口棒の場合には、制約条件が緩く、同一の制約条件から複数の知識カードが採用され得る可能性がある。よって、実質上は、優先度の順に前記チェックを行う。
【0102】S21 不(S20で制約条件を満足しなかった)の場合は、優先度番号に1をプラスした優先度を持つ知識カードをチェックする。
【0103】S22 可(S20で制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を、湯口棒オブジェクトデータベースに登録する。
【0104】S23 湯口底(湯口棒の下端部が接続され、さらに湯道へ接続する部分)の設計を以下S24からS27の手順で行う。
【0105】S24 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から湯口底設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0106】S25 そのカードに記述してある制約条件が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S12で登録した堰位置選択の知識カードの決定項目、S17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目、およびS22で登録した湯口棒選択の知識カードの決定項目と一致するかどうかをチェック(パターンマッチング)する。しかし、湯口底の場合には、制約条件が緩く、同一の制約条件から複数の知識カードが採用され得る可能性がある。よって、実質上は、優先度の順に前記チェックを行う。
【0107】S26 不(S25で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS24とS25を繰り返す。
【0108】S27 可(S25で制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を湯口底オブジェクトデータベースに登録する。
【0109】S28 湯道の設計を以下S29からS32の手順で行う。
【0110】S29 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から湯道設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0111】S30 そのカードに記述してある制約条件(ここでは、耐圧性、主型直径、堰形、湯道形)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0112】S31 不(S30制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS29とS30を繰り返す。
【0113】S32 可(S30で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を湯道オジェクトデータベースに登録する。
【0114】S33 堰の設計を以下S34からS37の手順で行う。
【0115】S34 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から堰設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0116】S35 そのカードに記述してある制約条件(ここでは、耐圧性、製品重量、肉厚、堰形)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0117】S36 不(S35で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS34とS35を繰り返す。
【0118】S37 可(S35で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を堰オブジェクトデータベースに登録する。
【0119】S38 押湯の設計を以下S39からS42の手順で行う。
【0120】S39 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)から押湯設計に関する知識カードをシステムが検索する。
【0121】S40 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図12に示すように、堰形、主型の最大直径)が、ユーザがS2で登録したで登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0122】S41 不(S40で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS39とS40を繰り返す。
【0123】S42 可(S40で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある属性と属性値を、押湯オブジェクトデータベースに登録する。
【0124】S43 レイアウト座標の決定を以下S44からS47の手順で行う。
【0125】S44 知識カードデータベース(ハードディスクに登録してある)からレイアウト座標決定に関する知識カードをシステムが検索する。
【0126】S45 そのカードに記述してある制約条件(ここでは図13に示すように、主型付数、湯道形、主型形状、堰形)が、ユーザがS2で登録した主型形状、生産制約とS7で登録した堰形選択の知識カードの決定項目、S17で登録した湯道形選択の知識カードの決定項目と一致するか否かをチェック(パターンマッチング)する。これを制約条件の数だけ繰り返す。
【0127】S46 不(S45で制約条件を満足しなかった)の場合は、一致するまでS44とS45を繰り返す。
【0128】S47 可(S45で全制約条件を満足した)の場合は、該当知識カードの決定項目に記述してある全オブジェクトのレイアウト座標に基づきプレート上へ配置し、プレートからはみ出していないかチェックを行う。
【0129】S48 不(はみ出す)の場合は、S1に戻り再度今までの手順を繰り返す。
【0130】S49 可(プレートに納まった)の場合は、このレイアウトは満足すべきものとして、レイアウト座標オブジェクトデータベースに登録する。
【0131】S50 全オブジェクトデータベースの属性と属性値が決定され終了する。
【0132】「実行結果」システムの実行結果を図20に示す。使用した知識カードは76枚であり今回生成した案は1例のみであった。図21は熟練技術者による鋳造方案例である。双方の結果は大変良く一致している。
【0133】また、熟練技術者による鋳造方案作成時間は、様々な文献チェック、各種計算、過去の事例検索および作図等の所要時間合計で約12時間であった。本システムでは、データ入力からグラフィック出力までの合計で約30分(推論のみ:15秒)で、時間にして1/12の効率化を図ることができた。
【0134】以上の実施例は、砂型を用いる鋳造技術について説明したが、他の実施例では、樹脂成形用の金型であるモールドによる鋳造技術、アルミの精密鋳造を行うダイカストの鋳造技術について、この発明を実施することが可能である。
【0135】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1または2の発明によれば、システムは予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得しておき、この知識を使用することができるので、熟練技術者の知識に準じた高度なレベルで、鋳造方案を自動的に行える。このため鋳造方案を、個々の熟練技術者の知識やノウハウ、さらには勘に依存せずに済み、新たに熟練技術者を養成する必要がなくなる。よって、多様化する鋳造方案へのニーズに迅速に対応できることとなる。
【0136】このような熟練技術者の知識の使用は、この知識を堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておき、各知識が有する複数の知識内容のうちどの知識内容を使用するかの決定を、各知識について順におこなうことで、はじめて可能となった。
【0137】請求項2の発明によれば、さらに、熟練技術者の知識を堰形選択知識、堰位置選択知識、湯道型選択知識、湯口系設計知識、およびレイアウト座標決定知識の5つの知識に分類することで、エキスパートシステムを鋳造方案に実用的に適用する事が可能となった。
【0138】また、堰形選択知識、堰位置選択知識、湯道型選択知識とは別に、湯口系設計知識を分類することで、堰や湯道の形や数が決定された後に、始めて堰や湯口の寸法が決定されることになり、本発明のシステムによる推論時間の短縮が図られシステムの運用が効率的になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の1実施例に係るシステムの全体概略図である。
【図2】図1の推論機構の働きを示す概略フロー図である。
【図3】図1の推論機構が推論を行う際に用いる5つに分類された知識が形成するネットワークを示す図である。
【図4】本実施例の具体的な推論手順を示す図のうちの前半図である。
【図5】本実施例の具体的な推論手順を示す図のうちの後半図である。
【図6】図6のデータベース部内に登録されるオブジェクトデータを示す図である。
【図7】図6のオブジェクトデータのうち堰の形を示す図である。
【図8】図5の5つの知識のうちの堰形選択知識の知識カードを示す図である。
【図9】図8における堰形選択知識の知識カードにおける優先度の意味を説明する図である。
【図10】図5の5つの知識のうちの堰位置選択知識の知識カードを示す図である。
【図11】図5の5つの知識のうちの湯道形選択知識の知識カードを示す図である。
【図12】図5の5つの知識のうちの湯口系設計知識のひとつである押湯設計知識の知識カードを示す図である。
【図13】図5の5つの知識のうちのレイアウト座標決定知識の知識カードを示す図である。
【図14】本実施例に係る製品を示す図で(A)は側面図であり(B)は正面図である。
【図15】図14の製品となる部分の模型である主型の側面図である。
【図16】主型の形状を表現するための6つの基本要素を示す図である。
【図17】図15の主型を表現するための図16に示す基本要素の組み合わせを表す図である。
【図18】本実施例において入力される生産制約を構成する形状属性の例を示す図である。
【図19】本実施例において入力される生産制約の例を示す図である。
【図20】本実施例の実行結果を示す図である。
【図21】図20との比較のため熟練技術者が作成した鋳造方案の例を示す図である。
【図22】従来の鋳造の概略工程の一例を示す図である。
【図23】従来の鋳造における主型、堰、湯道、湯口棒などの配置を表す一例を示した図である。
【符号の説明】
1 上型 3 下型
5、7 プレート 9、11 製品となる部分の模型
13 湯を導くための模型 13 湯口棒
13B 湯道 13C 押湯
13D 堰
【特許請求の範囲】
【請求項1】湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および主型の個数を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識が有する複数の知識内容のうち、どの知識内容を使用するかを、各知識について順に決定する手段と、始めに入力された主型形状、主型の個数、および複数の知識で決定された知識内容にしたがって、湯道、押湯、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションし、レイアウトが満足すべきものか否かをチェックする手段と、を備え、満足すべきものでない場合には、始めの主型の個数の入力に戻って手順を繰り返し、満足すべきものになって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステム。
【請求項2】湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および生産方針や生産設備上の制約である生産制約を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰の形を選択する堰形選択知識、堰の位置や数を選択する堰位置選択知識、湯道の形を選択する湯道形選択知識、前記堰や湯道の寸法を決定する湯口系設計知識、および前記主型、堰、押湯、湯道のレイアウトするための座標を決定するレイアウト座標決定知識からなる5つの種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識を構成する複数枚の知識カードであって、どの知識カードを採用するかにより各知識が使用され、前記分類された知識の種類によって定まる属性、および属性を充足する値である属性値を有し、これら属性と属性値により、当該知識カードを採用できるか否かの条件である制約条件が表現され、制約条件が満たされたときに決定される決定項目が表現され、採用されたときに決定項目が登録される知識カードと、制約条件が満たされたか否かは、主型形状、生産制約、および既に登録された知識カードの決定項目が、当該知識カードの制約条件と一致しているか否かで判断することで、各知識カードについて順に判断をおこなう手段と、始めに入力された主型形状、生産制約、および5つの知識の各知識カードで決定された決定項目にしたがって、主型、堰、湯道、および押湯、のレイアウトをシミュレーションし、砂型の平面積に対応するプレート上からはみ出さないか否かをチェックする手段と、を備え、プレート上からはみだす場合には、始めの生産制約の入力に戻って手順を繰り返し、プレート上からはみ出さなくなって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステム。
【請求項1】湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および主型の個数を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰と湯道について形、位置、および寸法に関する複数の種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識が有する複数の知識内容のうち、どの知識内容を使用するかを、各知識について順に決定する手段と、始めに入力された主型形状、主型の個数、および複数の知識で決定された知識内容にしたがって、湯道、押湯、堰、および主型のレイアウトをシミュレーションし、レイアウトが満足すべきものか否かをチェックする手段と、を備え、満足すべきものでない場合には、始めの主型の個数の入力に戻って手順を繰り返し、満足すべきものになって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステム。
【請求項2】湯が、鋳型中で湯道の部分、押湯の部分、堰の部分、および製品となる部分の順に導かれて鋳造が行われる前に、鋳型中に配置される湯道の模型、押湯の模型、堰の模型、および製品となる部分の模型すなわち主型のレイアウトを計画する鋳造方案を、自動的に行う鋳造方案支援エキスパートシステムであって、主型形状、および生産方針や生産設備上の制約である生産制約を入力し登録する手段と、予め、過去に実績がある鋳造方案から熟練技術者の知識を獲得して、堰の形を選択する堰形選択知識、堰の位置や数を選択する堰位置選択知識、湯道の形を選択する湯道形選択知識、前記堰や湯道の寸法を決定する湯口系設計知識、および前記主型、堰、押湯、湯道のレイアウトするための座標を決定するレイアウト座標決定知識からなる5つの種類の知識に分類して登録しておく手段と、前記分類された各知識を構成する複数枚の知識カードであって、どの知識カードを採用するかにより各知識が使用され、前記分類された知識の種類によって定まる属性、および属性を充足する値である属性値を有し、これら属性と属性値により、当該知識カードを採用できるか否かの条件である制約条件が表現され、制約条件が満たされたときに決定される決定項目が表現され、採用されたときに決定項目が登録される知識カードと、制約条件が満たされたか否かは、主型形状、生産制約、および既に登録された知識カードの決定項目が、当該知識カードの制約条件と一致しているか否かで判断することで、各知識カードについて順に判断をおこなう手段と、始めに入力された主型形状、生産制約、および5つの知識の各知識カードで決定された決定項目にしたがって、主型、堰、湯道、および押湯、のレイアウトをシミュレーションし、砂型の平面積に対応するプレート上からはみ出さないか否かをチェックする手段と、を備え、プレート上からはみだす場合には、始めの生産制約の入力に戻って手順を繰り返し、プレート上からはみ出さなくなって手順を終了する事を特徴とする鋳造方案支援エキスパートシステム。
【図1】
【図3】
【図14】
【図18】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図4】
【図9】
【図10】
【図5】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図21】
【図22】
【図16】
【図17】
【図19】
【図23】
【図20】
【図3】
【図14】
【図18】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図4】
【図9】
【図10】
【図5】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図21】
【図22】
【図16】
【図17】
【図19】
【図23】
【図20】
【特許番号】第2952464号
【登録日】平成11年(1999)7月16日
【発行日】平成11年(1999)9月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−133086
【出願日】平成7年(1995)5月31日
【公開番号】特開平8−323446
【公開日】平成8年(1996)12月10日
【審査請求日】平成9年(1997)6月13日
【出願人】(395010255)株式会社鹿児島頭脳センター (1)
【参考文献】
【文献】特開 平7−152821(JP,A)
【登録日】平成11年(1999)7月16日
【発行日】平成11年(1999)9月27日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)5月31日
【公開番号】特開平8−323446
【公開日】平成8年(1996)12月10日
【審査請求日】平成9年(1997)6月13日
【出願人】(395010255)株式会社鹿児島頭脳センター (1)
【参考文献】
【文献】特開 平7−152821(JP,A)
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