説明

鋳造欠陥予測装置、方法、及びプログラム

【課題】離型剤の残留を検出し、その影響を予測結果に反映させることにより、鋳造体に発生する欠陥の予測の正確性を向上させる。
【解決手段】鋳造体に発生する鋳巣の大きさ及び発生位置を凝固解析により予測する鋳造欠陥予測装置1であって、鋳型の表面における温度低下を含む所定の温度変化を検出することにより、鋳型に離型剤が残留しているか否か及び残留が発生している部分を判定する判定部3と、凝固解析により発生が予測された鋳巣のうち、判定部3により離型剤が残留していると判定された部分に対応する鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正部4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造体に発生する欠陥を予測する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト等の鋳造法により製造される鋳造体の内部には鋳巣等の欠陥が発生する場合がある。このような欠陥の発生をコンピュータ・シミュレーションにより予測する技術が開発されている。
【0003】
特許文献1において、鋳型の温度が低い部分にマーカーを設定し、当該マーカーが溶融体の鋳型への充填完了時にどこに運ばれるかを流動解析により推定することにより、鋳巣の発生位置等を推定する技術が開示されている。
【0004】
その他、当該技術分野に関連する文献として特許文献2〜4が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−69506号公報
【特許文献2】特開2007−125589号公報
【特許文献3】特開平8−257741号公報
【特許文献4】特開2003−170269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
凝固解析による鋳巣の発生の予測は、鋳造体(溶融体)の凝固収縮の過程をシミュレーションすることにより行われる。ここで、鋳型温度の低い箇所に離型剤が残留すると、鋳巣を形成する要因の1つであるガスが発生しやすくなるため、鋳巣の大きさの予測精度が低下する。具体的には、離型材の影響を考慮せずに予測を行うと、鋳巣の大きさを示す予測値が実際の値より小さく算出されることとなる。従って、鋳巣の予測精度を向上させるためには、離型剤の残留による影響を鋳巣の大きさの予測値に反映させる必要がある。
【0007】
そこで、本発明は、離型剤の残留を検出し、その影響を予測結果に反映させることにより、鋳造体に発生する欠陥の予測精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、鋳造体に発生する鋳巣の大きさ及び発生位置を凝固解析により予測する鋳造欠陥予測装置であって、鋳型の表面における温度低下を含む所定の温度変化を検出することにより、前記鋳型に離型剤が残留しているか否か及び当該残留が発生している部分を判定する判定手段と、前記凝固解析により発生が予測された前記鋳巣のうち、前記判定手段により前記離型剤が残留していると判定された部分に対応する前記鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正手段とを備えるものである。
【0009】
また、前記判定手段は、前記離型剤が残留していると判定された場合に、当該残留が発生している部分における前記離型剤の初期塗布量及び当該部分における前記鋳型の温度に基づいて、前記離型剤の残留量を推定し、前記補正手段は、前記推定された残留量が大きい程前記予測値が大きくなるように補正するものであってもよい。
【0010】
また、本発明の他の形態は、上記装置と同様の特徴を有する鋳造欠陥予測方法及びプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、離型剤の残留による影響が鋳巣の大きさの予測値に反映され、通常の凝固解析により得られた予測値より大きくなるように補正される。これにより、予測精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1に係る鋳造欠陥予測装置の機能的な構成を示す図である。
【図2】実施の形態1に係る鋳造欠陥予測装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】鋳巣の発生を検知するための鋳巣表面の温度変化を例示するグラフである。
【図4】鋳巣の大きさを補正する様子を概念的に示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係る鋳造欠陥予測装置の機能的な構成を示す図である。
【図6】実施の形態2に係る鋳造欠陥予測装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態1に係る鋳造欠陥予測装置1の機能的な構成を示している。鋳造欠陥予測装置1は、中央処理装置、記憶装置、入出力装置等からなるコンピュータ、当該コンピュータを制御するプログラム等の協働により構成されるものであって、鋳型により製造される鋳造体に発生する鋳巣等の欠陥を、凝固解析を用いたコンピュータ・シミュレーションにより予測するものである。本実施の形態に係る鋳造欠陥予測装置1は、予測値生成部2、判定部3、及び補正部4を有する。
【0014】
予測値生成部2は、適宜のセンサにより取得される鋳型の温度、データベースに記憶された鋳造体、離型剤等に関する物性値等の各種情報に基づいて、周知の凝固解析を行うことにより、鋳巣の発生位置、大きさ等を示す予測値を生成する。
【0015】
判定部3は、鋳型の表面における温度低下を含む所定の温度変化を検出することにより、鋳型に離型剤が残留しているか否か及び当該残留が発生している部分を判定する。離型剤塗布開始時の鋳型表面温度が低温で、塗布完了後の温度復帰も十分でない場合、離型剤が蒸発しきらずに残留してしまう。塗布時の温度低下と塗布後の温度復帰という温度パターンを監視し、蒸発に必要な温度に達しなかった鋳型部位を検出することにより、離型剤の残留の発生及び発生位置の判定を行うことができる。例えば、鋳型の表面を複数の区画に分け、各区画に温度センサを設置し、各温度センサにより検出される温度変化を監視し、当該温度変化が所定のパターンに適合する区画を特定することにより、当該残留の発生及び発生位置を検出することができる。
【0016】
補正部4は、上記凝固解析により発生が予測された鋳巣のうち、判定部3により離型剤が残留していると判定された部分に対応する鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正を行う。
【0017】
上記構成により、離型剤の残留による影響が鋳巣の大きさの予測値に反映され、通常の凝固解析により得られた予測値より大きくなるように補正される。これにより、予測精度を向上させることができる。
【0018】
図2は、上記鋳造欠陥予測装置1の動作を示している。このルーチンは、凝固解析により鋳巣の発生を予測するものである。このルーチンが開始すると、経過時間tのカウントが開始され(S1,S2)、伝熱解析が行われる(S3)。その後、伝熱解析の結果に基づいて、鋳巣が発生する条件が存在するか否かが判定される(S4)。
【0019】
ステップS4において、鋳巣が発生する条件が存在すると判定された場合(YES)には、鋳巣の発生位置及び大きさが算出(S5)された後、鋳造体の凝固が完了したか否かが判定される(S6)。上記ステップ4及びステップS5における処理は、凝固解析によるシミュレーションを利用した周知の手法により行われる。一方、ステップS4において、鋳巣が発生する条件が存在しないと判定された場合(NO)には、そのままステップS6へ移行する。
【0020】
ステップS6において、凝固が完了していないと判定された場合(NO)には、ステップS2に戻り、tのカウント以降の処理が実行される。一方、ステップS6において、凝固が完了したと判定された場合(YES)には、鋳型表面の温度変化に関する判定が行われる(S7)。
【0021】
ステップS7においては、鋳型表面への離型剤塗布工程において、温度が一度100℃未満に落ち込んだ後、所定時間以内に100℃以上に復帰しない温度変化(以降、所定の温度変化と略記する)をしたか否かが判定される。
【0022】
ステップS7において、上記所定の温度変化をしていないと判定された場合(NO)には、ステップS5において算出された予測値がそのまま出力される(S8)。一方、ステップS7において、上記所定の温度変化をしたと判定された場合(YES)には、当該温度変化が検出された鋳型の部分を離型剤の残留が生じた部分であると特定し、当該残留が生じた部分と、前記ステップS5により算出された鋳巣のうち当該残留が生じた部分に対応する鋳巣とを関連付けて記憶する(S9)。当該関連付けは、例えば上記残留が生じた部分に最も近い鋳巣、又は所定の距離内にある鋳巣を、当該残留が生じた部分と関連付けることにより行うことができる。その後、当該関連付けられた鋳巣についてステップS5で算出された鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正が行われ(S10)、当該補正後の予測値が出力される(S8)。当該補正後の予測値は、例えば補正前の予測値を10倍以下の一定の倍率で増加させた値であることが好ましい。
【0023】
図3は、鋳巣の発生を検知するための鋳巣表面の温度変化(上記ステップ7における所定の温度変化)を例示している。同図において、鋳型表面の温度を示す曲線Aは、離型剤塗布後、一度100℃未満に落ち込んだ後、所定時間が経過しても100℃以上に復帰しない様子を示している。このような温度変化が検知された場合に、上述のように離型剤の残留が生じたと判定することができる。
【0024】
図4は、鋳巣の大きさを補正する様子を概念的に示している。同図中、鋳造体5及び鋳型6が例示されている。鋳造体5は、第1の鋳造部5A及び第2の鋳造部5Bを有している。第1の鋳造部5Aは鋳型6の第1のキャビティ部6Aにより形成され、第2の鋳造部5Bは鋳型6の第2のキャビティ部6Bにより形成される。第1の鋳造部5Aには、上記ステップS5(通常の凝固解析による処理)により、第1の鋳巣7Aが存在すると予測されている。同様に、第2の鋳造部5Bには、第2の鋳巣7Bが存在すると予測されている。第1のキャビティ部6Aには、上記ステップS7により、離型剤の残留が生じていると判定されており、上記ステップS9により、第1のキャビティ部6Aと第1の鋳巣7Aとが関連付けられている。第2のキャビティ部6Bには、離型剤の残留は生じていないと判定されている。このような状況が生じた場合、第1の鋳巣7Aは、図4中下図に示すように、大きい値に補正される。
【0025】
以上のように、本実施の形態に係る鋳造欠陥予測装置1によれば、離型剤の残留による影響が鋳巣の大きさの予測値に反映され、通常の凝固解析により得られた予測値より大きくなるように補正される。これにより、予測精度を向上させることができる。
【0026】
実施の形態2
図5は、本発明の実施の形態2に係る鋳造欠陥予測装置11の構成を示している。鋳造欠陥予測装置11は、予測値生成部2、判定部13、及び補正部14を有する。
【0027】
本実施の形態に係る判定部13は、上述のように離型剤が残留していると判定された場合に、当該残留が生じている部分における離型剤の初期塗布量を含む初期条件及び当該部分における鋳型の温度に基づいて、当該離型剤の残留量を推定する。
【0028】
また、本実施の形態に係る補正部14は、上述のように推定された離型剤の残留量が大きい程、上記鋳巣の大きさの予測値が大きくなるように補正する。
【0029】
即ち、本実施の形態においては、離型剤の残留が検知された場合に、更に離型剤の残留量を推定し、当該推定された残留量に応じて、上記鋳巣の大きさの補正量が調整される。
【0030】
図6は、上記鋳造欠陥予測装置11の動作を示している。上記実施の形態1との相違点は、上記ステップS7においてYESと判定された場合(上記所定の温度変化の検知により離型剤の残留が発生したと判定された場合)の処理:ステップS21〜S25にある。
【0031】
ステップS7においてYESと判定された後、離型剤の残留が発生したと判定された部分に最初に塗布されていた離型剤の量(初期塗布量)、当該部分の鋳型の温度、離型剤の物性値(温度と蒸発量との関係を示す値)等を取得する処理が行われる(S21)。当該情報の取得処理は、オペレータによる手入力であっても、所定のデータベースからの読み出しであってもよい。
【0032】
その後、ステップS21により取得された情報に基づいて、当該部分における現在の離型剤の残留量が算出され(S22)、当該残留量が0であるか否かが判定される(S23)。即ち、ステップ21により所得された情報に基づいて実際の残留量を推定した結果、残留量が0であるとの結果が得られた場合(S23:YES)には、当該残留に伴う補正を行わずに上記ステップS8に移行する。
【0033】
一方、ステップS23において、残留量が0でないと判定された場合(NO)には、当該残留が生じた部分を特定し、当該部分とこれに対応する鋳巣とを上記実施の形態1と同様に対応付けて記憶する(S24)。その後、当該関連付けられた鋳巣についてステップS5で算出された予測値を、上記ステップS22で算出された残留量に応じた倍率で増加させる補正が行われ(S25)、当該補正後の予測値が出力される(S8)。
【0034】
上記本実施の形態に係る鋳造欠点予測装置11によれば、上記実施の形態1よりも予測精度を向上させることができる。尚、上記実施の形態1においては、離型剤の残留量を算出する処理が省かれているため、処理速度が速いという利点が存在する。
【0035】
尚、本発明は上記実施の形態に限られるものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能なものである。
【符号の説明】
【0036】
1,11 鋳造決定予測装置
2 予測値生成部
3,13 判定部
4,14 補正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造体に発生する鋳巣の大きさ及び発生位置を凝固解析により予測する鋳造欠陥予測装置であって、
鋳型の表面における温度低下を含む所定の温度変化を検出することにより、前記鋳型に離型剤が残留しているか否か及び当該残留が発生している部分を判定する判定手段と、
前記凝固解析により発生が予測された前記鋳巣のうち、前記判定手段により前記離型剤が残留していると判定された部分に対応する前記鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正手段と、
を備える鋳造欠陥予測手段。
【請求項2】
前記判定手段は、前記離型剤が残留していると判定された場合に、当該残留が発生している部分における前記離型剤の初期塗布量及び当該部分における前記鋳型の温度に基づいて、前記離型剤の残留量を推定し、
前記補正手段は、前記推定された残留量が大きい程前記予測値が大きくなるように補正する、
請求項1に記載の鋳造欠陥予測装置。
【請求項3】
鋳造体に発生する鋳巣の大きさ及び発生位置を凝固解析により予測する鋳造欠陥予測方法であって、
鋳型の表面における温度低下を含む所定の温度変化を検出することにより、前記鋳型に離型剤が残留しているか否か及び当該残留が発生している部分を判定する判定ステップと、
前記凝固解析により発生が予測された前記鋳巣のうち、前記判定ステップにより前記離型剤が残留していると判定された部分に対応する前記鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正ステップと、
を備える鋳造欠陥予測方法。
【請求項4】
前記判定ステップは、前記離型剤が残留していると判定された場合に、当該残留が発生している部分における前記離型剤の初期塗布量及び当該部分における前記鋳型の温度に基づいて、前記離型剤の残留量を推定するステップを含み、
前記補正ステップは、前記推定された残留量が大きい程前記予測値が大きくなるように補正するステップを含む、
請求項3に記載の鋳造欠陥予測方法。
【請求項5】
コンピュータに、鋳造体に発生する鋳巣の大きさ及び発生位置を凝固解析により予測する鋳造欠陥予測処理を実行させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
鋳型の表面における温度低下を含む所定の温度変化を検出することにより、前記鋳型に離型剤が残留しているか否か及び当該残留が発生している部分を判定する判定処理と、
前記凝固解析により発生が予測された前記鋳巣のうち、前記判定処理により前記離型剤が残留していると判定された部分に対応する前記鋳巣の大きさを示す予測値を増加させる補正処理と、
を実行させる鋳造欠陥予測プログラム。
【請求項6】
前記判定処理は、前記離型剤が残留していると判定された場合に、当該残留が発生している部分における前記離型剤の初期塗布量及び当該部分における前記鋳型の温度に基づいて、前記離型剤の残留量を推定する処理を含み、
前記補正処理は、前記推定された残留量が大きい程前記予測値が大きくなるように補正する処理を含む、
請求項5に記載の鋳造欠陥予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35041(P2013−35041A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173913(P2011−173913)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)