説明

鋳造装置の溶湯保持炉用の受湯坩堝

【課題】溶湯への介在物の混入による鋳造不良を防止できる、鋳造装置の溶湯保持炉用の受湯坩堝を提供する。
【解決手段】略円筒状の側部2と、前記側部の上方部分に形成され、外部から溶湯保持炉12内に供給される溶湯10をいったん受け入れるための溶湯受入部4と、前記側部の下端部を塞ぐように形成され、前記受湯受入部により受け入れられた溶湯が前記溶湯保持炉の底部の方向に移動することを防止するための底部12bと、前記側部の下方部分に形成された開口部から成り、前記受湯受入部によりいったん受け入れられた溶湯を前記溶湯保持炉の側方内壁面2bに向けて放出するための溶湯放出部5と、を備えており、前記溶湯放出部は、受湯坩堝1の略中心部から前記溶湯放出部の略中央へ延びる方向が、前記溶湯放出部の略中央に対向する前記溶湯保持炉の側方内壁面の部分の接線の方向に対して傾斜するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧鋳造装置や吸引鋳造装置などの鋳造装置に使用される溶湯保持炉の内部に配置され、溶湯の補充時に溶湯保持炉の溶湯表面に存在する酸化物などの介在物が溶湯の中に巻き込まれて溶湯と一緒に鋳型に流し込まれてしまうことを防止すると共に、溶湯の補充時に溶湯保持炉の底部に存在する介在物が巻き上げられて溶湯と一緒に鋳型に流し込まれてしまうことを防止することができる、鋳造装置の溶湯保持炉用の受湯坩堝に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の低圧鋳造装置の一例を示す側断面図である。図7において、11は炉体、12は炉体11の内部に配置された溶湯保持炉、12aは溶湯保持炉12の上方側部に形成された湯注入口、12bは溶湯保持炉12の底部(底側の内壁面)、13は前記炉体11の上方に配置された金型、14は溶湯保持炉12内に重力方向に延びるように配置され溶湯保持炉12内の溶湯10を前記金型13方向に上昇させるための管状の下ストーク、15は前記下ストーク14の上端部と接合され前記下ストーク14からの溶湯10を前記金型13内に供給するための管状の上ストークである。この図7の低圧鋳造装置においては、前記下ストーク14及び上ストーク15の組が、複数組、例えば2組、前記溶湯保持炉12内に配置されている。また、図7の装置には、前記溶湯保持炉12内の溶湯10の湯面に低圧力を加えるための大気供給用ポンプ(図示せず)が備えられている。図7の装置においては、前記大気供給用ポンプにより前記湯面に低圧力が加えられると、前記溶湯保持炉12内の溶湯10は、前記ストーク14,15の中を上昇して前記金型13内に充填され、前記金型13により所定形状のアルミニウム製品などの金属製品が成形される。
【0003】
ところで、図7に示すような従来の低圧鋳造装置においては、前記溶湯保持炉12内に溶湯を補充のために供給するとき、前記供給された高速の溶湯が前記溶湯表面を勢い良く通過するため前記溶湯表面に存在する酸化物などの介在物P’が溶湯の中に巻き込まれると共に、前記供給された高速の溶湯が前記溶湯保持炉12の底部12bに勢い良く下降・到達するため、前記溶湯保持炉12の底部12bに沈殿していた介在物Pがこれにより巻き上げられ、さらに溶湯10全体に乱流が生じるので、前記溶湯10の全体に前記巻き上げられた介在物P,P’が散乱してしまう。そして、このように前記介在物P,P’が散乱・混入した溶湯10が前記ストーク14,15を介して前記金型13に供給されてしまうため鋳造不良が発生してしまう、という問題があった。そこで、このような問題を回避するため、従来より様々な工夫が提案されていた。
【0004】
例えば、特許文献1は、溶湯保持炉の底部中央に凹状の最深部を設けて、この最深部の中に介在物を沈降させることにより、溶湯保持炉内の溶湯に多少の乱流が生じた場合でも前記最深部内の介在物が容易に巻き上がらないようにするという工夫を提案している。また、特許文献2は、溶湯保持炉内に配置した管状のストークの下方側面に開口部を形成し、この側面の開口部から、溶湯保持炉内の溶湯を取り込んで上方の鋳型に送るようにし、これにより溶湯保持炉の底面から巻き上げられた介在物がストークの中に入り難くするという工夫を提案している。また、特許文献3は、溶湯保持炉内のストークの周囲に籠状のフィルタを設けて溶湯保持炉の内部をストークの周囲とその他の部分とに仕切るようにし、これにより、前記その他の部分に介在物が存在していてもフィルタにより介在物がストークの中に入らないようにするという工夫を提案している。さらに、特許文献4は、ストークの下端開口部にフィルタを配置することにより、溶湯保持炉内に介在物が存在していてもフィルタにより介在物がストークの中に入らないようにするという工夫を提案している。
【特許文献1】特開2002−301561号公報
【特許文献2】特開2001−293549号公報
【特許文献3】特開2000−225456号公報
【特許文献4】特開平8−1303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法によるときは、溶湯保持炉の底部の形状が複雑になるため溶湯保持炉の製造コストの増大や溶湯保持炉の底部の強度不足などの問題が生じる可能性がある。また、上記特許文献2の方法によるときは、介在物が巻き上げられて溶湯保持炉の溶湯の全体に分散したときは、ストークの下方側方の開口部からストークの中に介在物が溶湯と一緒に入り込んでしまうという問題がある。また、上記特許文献3や上記特許文献4の方法によるときは、フィルタが頻繁に目詰まりするためフィルタのメンテナンスの手間やコストなどが掛かってしまう(またフィルタの存在により溶湯保持炉内の溶湯をストークへ移動させることがスムーズにできなくなってしまう)などの問題がある。
【0006】
以上のように、上記の特許文献1から特許文献4は、いずれも、「溶湯の補充時に、溶湯保持炉の溶湯表面の酸化物などの介在物が溶湯中に巻き込まれ、溶湯保持炉の底部の介在物が巻き上げられ、さらに溶湯保持炉内に乱流が生じて、前記介在物が溶湯全体に散乱してしまうこと」を放置したまま、溶湯保持炉内の溶湯中に巻き込み・巻き上げられ分散した介在物をストークの中に入れないようにすることだけを目的としていたため、溶湯保持炉から鋳型に送られる溶湯の中に介在物が混入してしまうことによる鋳造不良を防ぐという目的を十分に達成することができず、仮にある程度達成できたとしても装置の製造やメンテナンスに高コストを掛けなくてはならなくなってしまう、という問題があった。
【0007】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、「溶湯の補充時に、前記溶湯表面の酸化物などの介在物が溶湯の中に巻き込まれ、溶湯保持炉の底部の介在物が巻き上げられ、さらに溶湯保持炉内に乱流が生じて、前記の巻き込まれ及び/又は巻き上げられた介在物が溶湯全体に散乱してしまうこと」それ自体を防止することにより、装置の製造やメンテナンスに高コストを掛けることなく、溶湯保持炉から鋳型に送られる溶湯の中に介在物が混入してしまうことによる鋳造不良を有効に防止することができる、溶湯保持炉用の受湯坩堝を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような課題を解決するための本発明による鋳造装置の溶湯保持炉用の受湯坩堝は、溶湯保持炉の内部に配置される受湯坩堝であって、略円筒状の側部と、前記側部の上方部分に形成され、外部から溶湯保持炉内に勢い良く高速で供給される溶湯をいったん受け止め受け入れるための溶湯受入部と、前記側部の下端部を塞ぐように形成され、前記受湯受入部により受け入れられた溶湯が前記溶湯保持炉の底部の方向に移動することを防止するための底部と、前記側部の下方部分に形成された開口部から成り、前記受湯受入部によりいったん受け入れられた溶湯を前記溶湯保持炉の側方内壁面に向けて放出するための溶湯放出部と、を備えており、前記溶湯放出部は、前記受湯坩堝の略中心部から前記溶湯放出部の略中央へ延びる方向が、前記溶湯放出部の略中央に対向する前記溶湯保持炉の側方内壁面の延びる方向又はその側方内壁面部分の接線の方向に対して傾斜するように配置されている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明においては、外部から溶湯保持炉内に勢い良く高速で供給された溶湯は、前記受湯坩堝の溶湯受入部に受け止められ受け入れられて減速した後ゆっくりと下降して行くので、溶湯表面を通過するときでも、溶湯表面の酸化物などの介在物を溶湯内に巻き込むことはない。また、前記外部から溶湯保持炉内に勢い良く高速で供給された溶湯は、前記受湯坩堝の溶湯受入部に受け止められ受け入れられて減速した後、自重により受湯坩堝内をゆっくり下降するが、前記受湯坩堝には底部が存在しているため、前記溶湯は前記溶湯保持炉の底部に向かって放出されることはない。よって、本発明においては、従来のように、「外部から補充・供給された溶湯が、そのまま溶湯表面を勢い良く通過して前記溶湯表面の酸化物などの介在物を溶湯の中に巻き込んでしまうと共に、そのまま溶湯保持炉内の底部に下降・到達して溶湯保持炉の底部に沈殿している介在物を巻き上げてしまい、さらに溶湯全体に乱流を発生させてしまうこと」が防止される。
【0010】
また、本発明においては、外部から溶湯保持炉内に勢い良く高速で供給された溶湯は、前記受湯坩堝の溶湯受入部に受け止められ受け入れられて減速した後、自重により受湯坩堝内を下降した後、前記受湯坩堝の側部下方の溶湯放出部(及びその上方の開口部(図4の符号4及び矢印α3参照))を介して、受湯坩堝内から溶湯保持炉内に移動する。その際、前記溶湯放出部は、前記受湯坩堝の略中心から前記溶湯放出部の略中央へ延びる方向(図5及び図6の符号S参照)が、前記溶湯保持炉の前記側部の前記溶湯放出部の略中央に対向する側方内壁面の方向(図6の符号U’参照)又はその側方内壁面部分(曲面部分)の接線の方向(図5の符号U参照)に対して傾斜するように配置されているので、前記溶湯放出部から放出された溶湯は、前記溶湯放出部と前記溶湯保持炉の側方内壁面との間の間隔がより広い方向(より広い側)に向かって流れ出ることになる(図4の矢印α2参照)。したがって、前記溶湯放出部から放出された溶湯は、略水平方向に若しくは徐々に上昇しながら、前記溶湯保持炉の側方内壁面に沿って、移動する。よって、本発明においては、従来のように、「外部から補充・供給された溶湯が、溶湯保持炉内の溶湯表面の酸化物を内部に巻き込むと共に溶湯保持炉内の底部の介在物を巻き上げて、溶湯保持炉内の溶湯全体に乱流を発生させ、溶湯保持炉内の溶湯全体に前記巻き込み及び/又は巻き上げられた介在物を散乱させてしまうこと」が防止される。
【0011】
よって、本発明によれば、「溶湯の補充時に、補充された溶湯が溶湯保持炉内の溶湯表面を勢い良く通過することにより溶湯表面の酸化物を溶湯内部に巻き込むと共に、補充された溶湯が溶湯保持炉の底部に下降・到達することにより溶湯保持炉の底部の介在物が巻き上げられ、さらに乱流により前記巻き込み巻き上げられた介在物が溶湯全体に散乱してしまうこと」を防止することができるので、従来より問題となっていた溶湯保持炉から鋳型に送られる溶湯の中へ介在物が混入してしまうことにより生じる鋳造不良を、低コストで防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例1について述べるような形態である。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例1による溶湯保持炉用の受湯坩堝を示す斜視図、図2(a)はこの受湯坩堝の平面図、同(b)はこの受湯坩堝の溶湯受入部を中央に配置して見たときの側断面図、同(c)はこの受湯坩堝の溶湯放出部を中央に配置して見たときの側面図、である。なお、図1では、図2(b)(c)と同様に、受湯坩堝の上方の一部を省略して図示している。
【0014】
図1,2において、1は例えば黒鉛質セラミック、ファインセラミック、その他のセラミックなどの耐熱性素材により形成された受湯坩堝、2は前記受湯坩堝1の一部を構成する略円筒状の側部、2aは前記側部2の上方の外周部に設けられ前記受湯坩堝1を持ち上げるときなどに使用される突部、2b(図2(a)参照)は前記側部2の内壁面、3は前記受湯坩堝1の一部を構成する略円板状の底部、4は前記側部の約半分の部分であって前記側部2の下端部近傍部分を除く部分が切り欠かれるように形成された溶湯受入部、5は前記側部2の下方部分(下端部近傍部分)の一部に開口部として形成された溶湯放出部、である。ここで、前記底部3は前記溶湯受入部4にいったん受け入れられた溶湯がそのまま自重により溶湯保持炉の底部に下降・到達することを防ぐためのものである。また、前記溶湯放出部5は、前記溶湯受入部4にいったん受け入れられて前記受湯坩堝1内を自重により下降した溶湯を、ガイドしながら溶湯保持炉の側方内壁面の方向に流れ出させるためのものでもある。
【0015】
次に、図3は本実施例1の受湯坩堝を溶湯保持炉内に設置・固定した状態を示す概略側断面図である。図3において、11は炉体、12は炉体11の内部に配置された溶湯保持炉、12aは溶湯保持炉12の上方側部に形成された湯注入口、12bは溶湯保持炉12の底部(底側の内壁面)、13は前記炉体11の上方に配置された金型、14は溶湯保持炉12内に重力方向に延びるように配置され溶湯保持炉12内の溶湯を前記金型13方向に上昇させるための管状の下ストーク、15は前記下ストーク14の上端部と接合され前記下ストーク14からの溶湯を前記金型13内に供給するための管状の上ストークである。この図3の低圧鋳造装置においては、前記下ストーク14及び上ストーク15の組が、複数組、例えば2組、配置されている(図4参照)。また、図3の装置には、前記溶湯保持炉12内の溶湯10の湯面に低圧力を加えるための大気供給用ポンプ(図示せず)が備えられている。図3の装置においては、前記大気供給用ポンプにより前記湯面に低圧力が加えられると、前記溶湯保持炉12内の溶湯10は、前記ストーク14,15の中を上昇して前記金型13内に充填され、前記金型13により所定形状のアルミニウム製品などの金属製品が成形される。
【0016】
また、図3に示す低圧鋳造装置においては、本実施例1に係る受湯坩堝1が、前記溶湯保持炉12内の所定位置に所定方向で配置・固定されている。図4は図3の装置を上方向から一部透視して示す図、図5は図3の装置における前記受湯坩堝1と前記溶湯保持炉12との位置関係を模式的に示す図である。
【0017】
本実施例1においては、前記受湯坩堝1は、図4及び図5に示すように、前記受湯坩堝1の略中心部Qから前記溶湯放出部5の略中央Rへ延びる方向(図5の直線S参照)が、前記溶湯保持炉12の前記溶湯放出部5の略中央Rに対向する側方内壁面の部分(図5の直線Sが前記溶湯保持炉12の側方内壁面に当たる部分。図5の符号Tで示す部分)の接線(図5の接線Uを参照)の方向に対して直交することなく所定角度に(本実施例1では例えば約80〜40度程度が望ましい)傾斜するように配置されている。
【0018】
次に本実施例1の受湯坩堝1の動作を図3,4に基づいて説明する。前記溶湯保持炉12内の溶湯10が少なくなったときは、図示しない配湯ジョーゴ(特開平7−77283号公報参照)などを使用して、溶湯を前記溶湯保持炉12の湯注入口12aから注入する(図3の矢印α1参照)。この場合、図3に示す前記湯注入口12aの図示下端の開口部は、予め、前記受湯坩堝1の溶湯受入部4に対向かつ近接させておく。よって、前記湯注入口12aから高速で注入された高速流の溶湯は、前記受湯坩堝1の溶湯受入部4を介して、前記受湯坩堝1の側部2の内壁面でいったん受け止められ、前記受湯坩堝1内に受け入れられる。このようにして前記受湯受入部4からいったん受け入れられた溶湯は、その後、自重により受湯坩堝1内を下降するが、前記受湯坩堝1の底部3により、それ以上の下降が阻止される(これにより、前記溶湯が前記溶湯保持炉12の底部12bに下降・到達することが防止される)。
【0019】
このように、本実施例1による受湯坩堝1を使用するときは、前記湯注入口12aから注入される高速流の溶湯がそのまま前記溶湯保持炉12の底部12bに下降・到達してしまうことがなくなる。よって、本実施例1による受湯坩堝1を使用するときは、従来のように、湯注入口12aから溶湯保持炉12内に高速で注入された溶湯が、そのまま勢い良く溶湯表面を通過して溶湯表面の酸化物などの介在物を溶湯内に巻き込んでしまうこと、さらにそのまま勢いよく保持炉12の底部12bに下降・到達してそれまで底部12bに沈殿していた介在物Pを巻き上げてしまうこと、及び、前記溶湯が溶湯保持炉12内の溶湯10の全体に乱流を生じさせて前記溶湯10全体に前記巻き込み及び/又は巻き上げられた介在物P,P’を散乱させてしまうこと、が防止される。
【0020】
また、本実施例1における受湯坩堝1は、前記溶湯保持炉12内において、その溶湯放出部5が前記溶湯保持炉12の側方内壁面(の接線)に対して傾斜するように配置されている(図5参照)。そのため、前記受湯坩堝1に受け入れられた溶湯10は、前記受湯坩堝1内を下降して溶湯放出部5から放出されるとき、その一部は前記側部2の前記溶湯放出部5の近傍部2c(図2(b)(c)参照)の上方から図3の上方向(図3,図4の矢印α3参照)にオーバーフローして流れるが、残りは、前記溶湯放出部5と前記溶湯保持炉12の側方内壁面との間の距離が大きく開いている側に向かって、流れることになる(図3,図4に示す例では、前記溶湯放出部5から放出された溶湯は、前記溶湯保持炉12内を、矢印α2で示すような時計回り方向に流れる)。このように、前記溶湯放出部5からの溶湯10は、本実施例1の受湯坩堝1により、必ず、前記溶湯保持炉12の側方内壁面に沿っていずれか一方向(前記溶湯放出部5と前記溶湯保持炉12の側方内壁面との間の間隔が大きく開いている側)に向かって、略水平方向に放出される。そして、このように放出された溶湯(補充されたばかりの溶湯10)は、前記溶湯保持炉12内に在る既存の溶湯10よりも高温であるので、前記溶湯保持炉12内を略スパイラル状に旋回しながら徐々に上昇していく。
【0021】
以上のように、本実施例1による受湯坩堝1を使用するときは、前記受湯坩堝1の溶湯受入部4から受け入れられた溶湯は、自重により前記受湯坩堝1内を下降する(その際、その一部は、前述のように、前記側部2の前記溶湯放出部5の近傍部2c(図2(b)(c)参照)の上方から図3の上方向にオーバーフローして流れる(図3,図4の矢印α3参照))が、前記受湯坩堝1には底部3が存在しているため、前記溶湯は前記溶湯保持炉12の底部12bに移動・到達することはない。よって、本実施例1による受湯坩堝1を使用するときは、従来のように、「外部から補充・供給された溶湯が、溶湯保持炉12の底部12bに下降・到達し、溶湯保持炉12の底部12bに沈殿している介在物Pを巻き上げてしまうこと」が防止されるようになる。
【0022】
また、本実施例1による受湯坩堝1を使用するときは、前記受湯坩堝1の溶湯受入部4に受け入れられた溶湯は、自重により下降した後、その一部は前記側部2の前記溶湯放出部5の近傍部2c(図2(b)(c)参照)の上方から図3の上方向にオーバーフローして流れる(図3,図4の矢印α3参照)が、残りは、前記受湯坩堝1の下方側部に形成された溶湯放出部5から前記溶湯保持炉12内に放出される。その際、前記溶湯放出部5は、前記受湯坩堝1の略中心部(図5のQ参照)から前記溶湯放出部5の略中央(図5のR参照)へ延びる方向(図5の直線S参照)が、前記溶湯放出部5の略中央Rに対向する前記溶湯保持炉12の側方内壁面の部分(図5のT参照)の接線(図5のU参照)の方向に対して傾斜するように配置されている。よって、本実施例1においては、前記溶湯放出部5から放出された溶湯10は、前記溶湯放出部5と前記溶湯保持炉12の側方内壁面との間の間隔がより広い側(この場合は時計回り方向)に向かって放出される。したがって、前記溶湯放出部5から放出された溶湯10は、前記溶湯保持炉12の側方内壁面に沿って(図4の例では時計回り方向に)、略円周状もしくはスパイラル状に、徐々に上昇しながら旋回・移動する。よって、本実施例1の受湯坩堝1を使用するときは、従来のように、「外部から補充・供給された溶湯が、溶湯保持炉12内の溶湯全体に乱流を発生させて、溶湯保持炉12内の溶湯12全体に前記巻き上げられた介在物Pを散乱させてしまうこと」が防止されるようになる。
【0023】
以上より、本実施例1においては、前述のように、「溶湯の補充時に、溶湯保持炉12の底部12bの介在物Pが巻き上げられること、及び、溶湯保持炉12内の溶湯10全体に乱流が生じて前記巻き上げられた介在物Pが前記溶湯10全体に散乱してしまうこと」を防止することができる。また、本実施例1においては、「溶湯の補充時に、溶湯保持炉12の溶湯表面の介在物P’が溶湯10の中に巻き込まれてしまうこと」を防止することもできる。よって、本実施例1によれば、従来より問題となっていた溶湯保持炉12から金型13に送られる溶湯10の中に介在物Pが混入してしまうことによる鋳造不良を、防ぐことができるようになる。
【0024】
なお、本発明者の実験によれば、本実施例1の受湯坩堝1を使用した場合は、本実施例1の受湯坩堝1を使用しない場合と比較して、介在物の混入による不良率が60%以上低減した。
【0025】
以上、本発明の実施例1に関して説明したが、本発明ではこれに限られることなく様々な変更が可能である。例えば、前記実施例1では、受湯坩堝1を低圧鋳造装置の溶湯保持炉12内に配置する例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば吸引鋳造装置など、種々の鋳造装置の溶湯保持炉に適用することができる。
【0026】
また、前記実施例1では、平面略円筒状の溶湯保持炉12の中に受湯坩堝1を配置する例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えばバス炉(特開2006−346718号公報など参照)の中などに受湯坩堝を配置することもできる。すなわち、図6は平面略長方形状のバス炉21の内に本発明による受湯坩堝1を配置したときの配置関係を示す模式図である。この場合は、図6に示すように、受湯坩堝1の溶湯放出部5は、受湯坩堝1の略中心部(図6のQ参照)から溶湯放出部5の略中央(図6のR参照)へ延びる方向(図6の直線S参照)が、前記バス炉21の、前記溶湯放出部5の略中央Rに対向する部分(図6の直線Sがバス炉21の側方内壁面に当たる部分。図6のT’で示す部分を参照)における側方内壁面の延びる方向(図5の直線U’参照)に対して傾斜する(例えば、約80〜40度程度の角度で傾斜する)ように配置されている。よって、このような平面略長方形状のバス炉21内に受湯坩堝1を配置した場合においても、前記実施例1におけるとほぼ同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1による溶湯保持炉用の受湯坩堝を説明するための斜視図。
【図2】(a)は本実施例1の受湯坩堝の平面図、(b)はこの受湯坩堝の溶湯受入部を中央に配置して見たときの側断面図、(c)はこの受湯坩堝の溶湯放出部を中央に配置して見たときの側面図。
【図3】本実施例1の受湯坩堝を溶湯保持炉内に設置・固定した状態を示す概略側断面図。
【図4】図3の装置を上方向から一部透視して見たときの状態を示す図。
【図5】図3の装置における受湯坩堝と溶湯保持炉との位置関係を模式的に示す図。
【図6】平面略長方形状のバス炉内に受湯坩堝1を配置したときの受湯坩堝とバス炉との位置関係を模式的に示す図。
【図7】従来の低温鋳造装置を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0028】
1 受湯坩堝
2 側部
2a 突部
2b 内壁面
3 底部
4 溶湯受入部
5 溶湯放出部
10 溶湯
11 炉体
12 溶湯保持炉
12 溶湯
12a 湯注入口
12b 底部
13 金型
14 下ストーク
15 上ストーク
21 バス炉
P 介在物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造装置の溶湯保持炉の内部に配置される受湯坩堝であって、
略円筒状の側部と、
前記側部の上方部分に形成され、外部から溶湯保持炉内に供給される溶湯を受け入れるための溶湯受入部と、
前記側部の下端部を塞ぐように形成され、前記受湯受入部により受け入れられた溶湯が前記溶湯保持炉の底部の方向に移動することを防止するための底部と、
前記側部の下方部分に形成された開口部から成り、前記受湯受入部によりいったん受け入れられた溶湯を前記溶湯保持炉の側方内壁面に向けて放出するための溶湯放出部と、
を備えており、前記溶湯放出部は、前記受湯坩堝の略中心から前記溶湯放出部の略中央へ延びる方向が、前記溶湯放出部の略中央に対向する前記溶湯保持炉の側方内壁面の延びる方向又はその側方内壁面部分の接線の方向に対して傾斜するように配置されている、ことを特徴とする鋳造装置の溶湯保持炉用の受湯坩堝。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−82972(P2009−82972A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258596(P2007−258596)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【特許番号】特許第4057641号(P4057641)
【特許公報発行日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(590001991)日新リフラテック株式会社 (3)