説明

鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法

【課題】 窒化又は軟窒化処理後にピストン各部を均一な冷却速度で冷却できるようにする。
【解決手段】 窒化又は軟窒化処理後にスカート部4に金属製ダミーウエイト20を取付けて冷却することで、スカート部4と他の箇所の冷却速度を均一とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機械の鋳鉄製ピストン、鉄製ピストンを窒化又は軟窒化処理加工する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】内燃機械の鋳鉄製のピストン、鉄製のピストンとしては例えば図1に示すものが知られている。具体的には、燃焼室を構成する凹陥部1を有する頭部2と、コネクティングロッドを連結するピン挿通孔3を有する筒状のスカート部4を備えたピストン。
【0003】前述のピストンにおいては耐摩耗性及び又は耐酸化性及び又は高温強度向上のために表面に窒化又は軟窒化処理加工を施している。
【0004】窒化又は軟窒化処理加工としては、所定の雰囲気中でピストン全体を加熱して窒化又は軟窒化処理し、その後に冷却ガスによりピストン全体を冷却するものが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】鋳鉄製ピストン又は鉄製ピストンを前述のように窒化又は軟窒化処理加工すると、窒化又は軟窒化後冷却時に発生するピストン各部の変形量が一様でなく種々の不具合が発生する。これは、ピストンの形状が均一でないことになる。
【0006】例えば、軟窒化処理時に発生する変形に関し、最も影響を受ける箇所は図1に示すスカート部4である。理由は、スカート部4の肉厚が他の箇所に比較して薄い為、軟窒化後の冷却速度が速くなることによる。この為、形状剛性が最も小さい当該部において、大きな材料力学的変形が発生する。
【0007】鉄製ピストンを軟窒化処理加工した時のスカート部の変形状況を図2に示す。図2において、軟窒化処理加工前の寸法(形状)がAで示され、軟窒化処理加工後の寸法(形状)がBで示されており、軟窒化処理加工後のスカート部4の変形量はD2 −D1 となる。
【0008】本発明は前述の課題を解決できるようにした鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段及び作用・効果】第1の発明は、鋳鉄製又は鉄製ピストンを耐摩耗性及び又は耐酸化性及び又は高温強度向上のため表面に窒化又は軟窒化処理加工する方法において、前記窒化又は軟窒化処理後に、ピストン各部の冷却速度が均一となるように冷却することを特徴とする鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法である。
【0010】第1の発明によれば、ピストン各部の冷却速度が均一となることによって、ピストン各部の変形量が均一となって大きな材料力学的変形が発生することがない。
【0011】第2の発明は、窒化又は軟窒化処理後にスカート部に金属製ダミーウエイト20を着脱自在に取付けた状態で冷却してピストン各部の冷却速度を均一とする鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法。
【0012】第2の発明によれば、スカート部4に金属製ダミーウエイト20を着脱自在に取付ければ良いから、特別な処理装置が不要であり、従来の処理装置を利用できる。
【0013】第3の発明は、窒化又は軟窒化処理後に、スカート部には少量の冷却ガスを吹き付け、スカート部以外の箇所には多量の冷却ガスを吹き付けてピストン各部の冷却速度を均一とする鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法である。
【0014】第3の発明によれば、冷却ガスの吹き付け量をコントロールすれば良いから、その制御が簡単となる。
【0015】
【発明の実施の形態】図3と図4に示すように、基盤10上に鋳鉄製ピストンを頭部2を下向きとして載置し、スカート部4の下端部に金属製ダミーウエイト20を嵌合して着脱自在に取付け、この状態で軟窒化処理及び冷却処理を行なった。なお、軟窒化処理及び冷却処理は従来と同様である。
【0016】前記金属製ダミーウエイト20はスカート部4の内面に沿った円孤状面21を有する一対の両側部材22を幅狭い中間連結部材23で一体的に連結したもので、その両側部材22がスカート部4の突部5に載置してある。
【0017】比較例として前述と同様な鋳鉄製ピストンを金属製ダミーウエイト20を取付けずに前述と同様にして軟窒化処理加工した。
【0018】その結果、金属製ダミーウエイト20を取付けて軟窒化処理加工した鋳鉄製ピストンのスカート部4の変形量が17μmで、金属製ダミーウエイト20を取付けないで軟窒化処理加工した鋳鉄製ピストンのスカート部4の変形量が27μmであり、スカート部の変形量が約37%低減したことが判明した。
【0019】前述の理由は、肉厚が薄いスカート部の冷却速度が金属製ダミーウエイト20によって遅くなり、スカート部の冷却速度と他の箇所の冷却速度との差が小さくなったためである。
【0020】このように、スカート部4と他の箇所との冷却速度の差が小さくなることによって、その冷却速度の差異により発生する材料力学的変形が低減する。
【0021】次に本発明の第2実施例を説明する。図5は処理装置を示し、処理槽30内を仕切板31により第1室32と第2室33とに区画し、第1室32に複数の吹出口34を有する第1通路35を設け、第2室33に複数の吹出口36を有する第2通路37を設ける。
【0022】冷却ガス、例えば不活性ガスのタンク38内の不活性ガスをコンプレッサ39で第1路40と第2路41に吐出し、第1路40に第1流量調整手段、例えば第1可変絞り42を設けると共に、前記第1通路35に連通する。第2路41に第2流量調整手段、例えば第2可変絞り43を設けると共に、前記第2通路37に連通する。
【0023】前記第1可変絞り42の開口面積が大きく、第2可変絞り43の開口面積が小さくなり、第1室32には多量の不活性ガスが流入し、第2室33には少量の不活性ガスが流入するようにしてある。
【0024】鋳鉄製ピストンを従来と同様にして軟窒化処理し、その鋳鉄製ピストンを処理槽30内に、頭部2が第1室32に突出し、スカート部4が第2室33に突出するように設け、コンプレッサ39を駆動して不活性ガスを頭部2とスカート部4にそれぞれ吹きつけて冷却する。
【0025】これにより、頭部2には多量の不活性ガスが吹きつけられ、肉厚の薄いスカート部4にはより少量の不活性ガスが吹きつけられるので、ピストン各部の冷却速度がほぼ均一に保たれ、冷却速度の差異により発生する材料力学的変形が低減される。
【図面の簡単な説明】
【図1】ピストンの断面図である。
【図2】鉄製ピストンの軟窒化処理加工によるスカート部の変形状況を示す図表である。
【図3】本発明の第1実施例を示すピストンの断面図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】本発明の第2実施例を示す処理装置の説明図である。
【符号の説明】
2…頭部
4…スカート部
20…金属製ダミーウエイト
30…処理槽
31…仕切板
32…第1室
33…第2室
38…不活性ガスのタンク
39…コンプレッサ
42…第1可変絞り弁
43…第2可変絞り弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋳鉄製又は鉄製ピストンを耐摩耗性及び又は耐酸化性及び又は高温強度向上のため表面に窒化又は軟窒化処理加工する方法において、前記窒化又は軟窒化処理後に、ピストン各部の冷却速度が均一となるように冷却することを特徴とする鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法。
【請求項2】 窒化又は軟窒化処理後にスカート部に金属製ダミーウエイト20を着脱自在に取付けた状態で冷却してピストン各部の冷却速度を均一とする請求項1記載の鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法。
【請求項3】 窒化又は軟窒化処理後に、スカート部には少量の冷却ガスを吹き付け、スカート部以外の箇所には多量の冷却ガスを吹き付けてピストン各部の冷却速度を均一とする請求項1記載の鋳鉄製又は鉄製ピストンの窒化又は軟窒化処理加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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