説明

鋼の連続鋳造用鋳型及び鋼の連続鋳造方法

【課題】 鋳片の長辺長さと短辺長さとの比が1〜2である鋼鋳片を連続鋳造するための鋳型において、鋳造速度を2倍程度の範囲で変更した場合でも、鋳型と凝固シェルとの間に生成するエアーギャップ生成を効果的に抑制し、これにより、鋳片コーナー部の表層下の内部割れやそれに起因する縦割れを効果的に防止することのできる、鋳造速度依存性が小さく操業柔軟性に優れる連続鋳造用鋳型を提供する。
【解決手段】 鋳片の長辺長さと短辺長さとの比が1〜2である鋼鋳片用の鋳型であり、鋳型の内面に鋳片引き抜き方向に向かって対面間隔が狭まる傾斜面を有する鋳型において、鋳型の短辺3の内面は、上部側の第1傾斜面8と下部側の第2傾斜面9との2つの傾斜面で形成され、鋳型の長辺内面は1つの傾斜面で形成されていて、第1傾斜面のテーパ値が第2傾斜面のテーパ値よりも大きく、且つ、長辺内面のテーパ値が第1傾斜面のテーパ値よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2であるブルーム鋳片或いはビレット鋳片を連続鋳造するための鋳型及び該鋳型を使用した連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造における鋳型内での凝固シェルの二次元的な熱収縮の概念図を図1に示す。図1において、符号1は連続鋳造用の鋳型、2は鋳型長辺、3は鋳型短辺、4は長辺面凝固シェル、5は短辺面凝固シェル、6は溶鋼、7はエアーギャップ(空隙)である。凝固の進行に伴い、凝固シェル4、5の温度が低下して凝固シェル4、5が収縮し、鋳型1の内壁面と凝固シェル4、5との間にエアーギャップ7が形成される。エアーギャップ7が形成されると鋳型1による凝固シェル4、5の抜熱が阻害されるので、このエアーギャップ7を補償するべく、連続鋳造用鋳型は、その内壁面が、鋳片引き抜き方向に向かって対面間隔が徐々に狭くなった傾斜面で構成されている。この傾斜面は、従来、直線的な勾配(以下、「テーパ」と記す)を設けて凝固シェルの熱収縮量を補償する例が一般的であったが、最近では、例えば、特許文献1に示すように、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1.0〜2.0であるブルーム鋳片或いはビレット鋳片を連続鋳造する鋳型においては、鋳型の短辺面及び長辺面を多段勾配状に形成する鋳型、所謂、2段テーパを鋳型の長辺面及び短辺面に付与した連続鋳造用鋳型が提案されている。
【0003】
この2段テーパの鋳型は、凝固初期の大きな寸法収縮を補償し、これにより、鋳型と凝固シェルとの間に形成されるエアーギャップを小さくして、エアーギャップ生成による凝固シェルの復熱や不均一凝固を抑制し、特に、鋳片コーナー部の表層下に発生する内部割れやそれに起因する縦割れを防止することを目的とした鋳型である。ブルーム鋳片やビレット鋳片の場合には、鋳片の長辺長さが120〜600mmであり、スラブ鋳片のそれ(900〜3400mm)と比較して短く、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が小さいことから、鋳型内での凝固シェルのバルジング現象(溶鋼静圧により膨らむ現象)は無視できるので、特許文献1に提案されるように、鋳型の長辺面と短辺面のテーパを等しくし、且つ2段勾配状に設定することが行われていた。
【0004】
しかし、特許文献1のような鋳型テーパの場合、同一連続鋳造機で鋳造速度が大きく異なる操業形態を採る際には好適なテーパ値が変化することから、スラブ鋳片用の連続鋳造用鋳型のように幅変更できない構造であるブルーム鋳片用やビレット鋳片用の鋳型では、鋳造速度に対応したテーパの鋳型を複数台設ける必要がある。例えば、特許文献1において、鋳造速度が0.6m/min及び1.5m/minの場合を例としてテーパ値を算出すると、鋳造速度と好適テーパ値(%/m)は、下記の表1のようになる。
【0005】
【表1】

【0006】
つまり、好適な鋳型テーパ値は鋳造速度の依存性が大きく、同一組成の連続鋳造用モールドパウダーを使用しても、鋳造速度が2倍以上異なる操業を行う場合には、テーパの異なる鋳型を少なくとも2セット設ける必要があり、鋳型準備やメンテナンスの費用を考えると大きな負担となる。特許文献1では、これを解決するために、テーパの小さい鋳型を優先使用して操業するとしている。従って、特許文献1においては、好適なテーパ値が使用する鋳型のテーパ値よりも大きい鋳造条件では、前述した鋳片欠陥の効率的防止に限界が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−175769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2であるブルーム鋳片或いはビレット鋳片を連続鋳造するための鋳型において、鋳造速度を2倍程度の範囲で変更した場合でも、鋳型と凝固シェルとの間に生成するエアーギャップ生成を抑制し、これにより、鋳片コーナー部の表層下の内部割れやそれに起因する縦割れを効果的に防止することのできる、鋳造速度依存性が小さく操業柔軟性に優れた連続鋳造用鋳型を提供することであり、また、この連続鋳造用鋳型を使用した鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) 鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2である鋼鋳片を連続鋳造する鋳型であり、該鋳型の内面に鋳片引き抜き方向に向かって対面間隔が狭まる傾斜面を有する連続鋳造用鋳型において、鋳型の短辺内面は、上部側の第1傾斜面と下部側の第2傾斜面との2つの傾斜面で形成され、鋳型の長辺内面は1つの傾斜面で形成されていて、前記第1傾斜面のテーパ値が前記第2傾斜面のテーパ値よりも大きく、且つ、前記長辺内面のテーパ値が前記第1傾斜面のテーパ値よりも小さいことを特徴とする、鋼の連続鋳造用鋳型。
(2) 前記短辺内面の第1傾斜面のテーパ値θnuと前記長辺内面の傾斜面のテーパ値θwとの比(θnu/θw)が2.0〜3.5であり、前記短辺内面の第1傾斜面のテーパ値θnuが1.5〜4.0%/m、前記短辺内面の第2傾斜面のテーパ値θndが0.7〜1.0%/mであることを特徴とする、上記(1)に記載の鋼の連続鋳造用鋳型。
(3) 上記(1)または上記(2)に記載の鋼の連続鋳造用鋳型を用いて、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2である鋼鋳片を連続鋳造することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鋳型長辺のテーパ値が鋳型短辺のテーパ値に比較して小さいことから、鋳造速度依存性が小さく、鋳造速度を2倍程度の範囲で変更した場合でも、鋳型と凝固シェルとの間に生成するエアーギャップ生成を効果的に抑制し、これにより、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2であるブルーム鋳片或いはビレット鋳片のコーナー部の表層下の内部割れやそれに起因する縦割れを効果的に防止することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】連続鋳造用鋳型横断面内における凝固シェルの二次元的な熱収縮の概念図である。
【図2】本発明に係る連続鋳造用鋳型の長辺縦断面及び短辺縦断面の模式図である。
【図3】本発明に係る鋳型を鋳片長辺面に平行な面で切断したときの断面図である。
【図4】鋳造速度が0.6〜2.0m/minで鋳型内凝固不均一度が10%以下となる領域を、テーパ値θnd別に示す図である。
【図5】鋳造速度が0.6〜2.0m/minで鋳型内抜熱量偏差が15%以下となる領域を、テーパ値θnd別に示す図である。
【図6】テーパの異なる鋳型を用い、鋳造速度0.6〜2.0m/minで縦割れ或いは内部割れの発生有無を調査した結果を示す図である。
【図7】テーパの異なる鋳型を用い、鋳造速度1.0〜2.0m/minでブレークアウト或いは鋳型と凝固シェルとの焼き付きの発生有無を調査した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。凝固初期における凝固シェルの体積収縮に起因する凝固シェルと鋳型内面との間でのエアーギャップ(空隙)の生成は、凝固シェルの冷却速度つまり鋳型抜熱量に大きく影響するのは公知の事実であり、従って、鋼の連続鋳造においては、凝固シェルの温度低下に伴う体積収縮に応じたテーパを鋳型内壁面に設け、凝固シェルと鋳型内壁との間にエアーギャップが形成されることを防止している。特に、ブルーム鋳片及びビレット鋳片は、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2であり、スラブ鋳片のように鋳型内における長辺側凝固シェルのバルジングが発生しずらいため、鋳型の長辺内面及び短辺内面にテーパを設けることが一般的である。
【0013】
発明者らは、特許文献1の効果を検証するために、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2であるブルーム鋳片及びビレット鋳片の連続鋳造において、特許文献1に開示された好適テーパ値による鋳造実験を実施した。しかしながら、期待に反して、鋳片コーナー部の表層下の内部割れやそれに起因する縦割れが軽減するどころか、逆に増える場合が発生することを経験した。また、このような場合、鋳片の断面形状が平行四辺形(ブルーム鋳片の場合)や菱形(ビレット鋳片の場合)に変形することもあった。この場合には、鋳型の4つの面での抜熱量がアンバランスになっていることを確認した。
【0014】
この現象の原因を調査した結果、生成するエアーギャップの厚みを鋳型の長辺面及び短辺面ともにテーパで補償し過ぎると、凝固シェルから鋳型への熱移動が促進されて凝固初期の凝固シェルの冷却速度がより一層大きくなり、これによって不均一凝固を招くことが主たる原因であることを突き止めた。
【0015】
この問題を解決するためには、鋳型短辺の内壁面は、鋳片短辺面の冷却を促進させるために上部側のテーパ値が下部側のテーパ値よりも大きい2段の傾斜面とした上で、鋳型長辺側のテーパ値をエアーギャップの生成量よりも少なく補償して鋳型長辺面での抜熱量の増加を緩和させ、鋳片長辺面の凝固シェルの幅方向熱収縮を抑制することが必要であり、その結果として、鋳片短辺凝固シェルと鋳型短辺との間に生成するエアーギャップが抑制できることに思い至り、本発明に繋がった。即ち、鋳型長辺面のテーパ値を鋳型短辺面のテーパ値よりも相対的に小さくして鋳片長辺面の冷却速度を鋳片短辺面の冷却速度に比較して遅くする必要があり、また、このためには鋳型長辺面のテーパは1段とすべきであることを知見した。
【0016】
本発明は、上記知見に基づくものであり、本発明に係る連続鋳造用鋳型は、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2である鋼鋳片を連続鋳造する鋳型であって、鋳型の短辺内面は、上部側の第1傾斜面と下部側の第2傾斜面との2つの傾斜面で形成され、鋳型の長辺内面は1つの傾斜面で形成されていて、前記第1傾斜面のテーパ値が前記第2傾斜面のテーパ値よりも大きく、且つ、前記長辺内面のテーパ値が前記第1傾斜面のテーパ値よりも小さいことを特徴とする。
【0017】
図2に、本発明に係る連続鋳造用鋳型の長辺断面及び短辺断面の模式図を示す。図2(A)が鋳型長辺断面であり、図2(B)が鋳型短辺断面の模式図であり、図2は片側の鋳型長辺及び鋳型短辺のみを表示し、相対する鋳型長辺及び鋳型短辺は省略している。尚、図2において、符号2は鋳型長辺、3は鋳型短辺、4は長辺面凝固シェル、5は短辺面凝固シェル、6は溶鋼、7はエアーギャップ、8は第1傾斜面、9は第2傾斜面である。
【0018】
鋳型長辺2の内壁面は、図2(A)に示すように、テーパ値がθwの1つの面で形成され、鋳型短辺3の内壁面は、図2(B)に示すように、テーパ値がθnuの第1傾斜面8とテーパ値がθndの第2傾斜面9とで形成されている。
【0019】
ここでテーパ値の定義を説明する。図3は、本発明に係る連続鋳造用鋳型を鋳片長辺面に平行な面で切断したときの断面図である。鋳型短辺3の第1傾斜面8のテーパ値θnuは下記の(1)式で求められ、鋳型短辺3の第2傾斜面9のテーパ値θndは下記の(2)式で求められる。
θnu=[(Wu-Wm)/Wm]×100/H1 …(1)
θnd=[(Wm-Wd)/Wd]×100/H2 …(2)
但し、(1)式及び(2)式において、Wuは鋳型上端での鋳型幅(mm)、Wmは第1傾斜面と第2傾斜面との境界での鋳型幅(mm)、Wdは鋳型下端での鋳型幅(mm)、H1は鋳型上端から第1傾斜面と第2傾斜面との境界までの鉛直方向距離(m)、H2は第1傾斜面と第2傾斜面との境界から鋳型下端までの鉛直方向距離(m)である。(1)式、(2)式から明らかなようにテーパ値の単位は「%/m」となる。
【0020】
図示はしないが、同様に、鋳型長辺のテーパ値θwは下記の(3)式で求められる。
θw=[(Nu-Nd)/Nd]×100/L …(3)
但し、(3)式において、Nuは鋳型上端での鋳型厚み(mm)、Ndは鋳型下端での鋳型厚み(mm)、Lは鋳型の鉛直方向長さ(m)である。
【0021】
本発明者らは、鋳型短辺の第1傾斜面のテーパ値θnu、鋳型短辺の第2傾斜面のテーパ値θnd、及び、鋳型長辺のテーパ値θwの好適条件を検討した。その結果、鋳型短辺内面の第1傾斜面のテーパ値θnuと鋳型長辺内面の傾斜面のテーパ値θwとの比(θnu/θw)が下記の(4)式を満たし、鋳型短辺内面の第1傾斜面のテーパ値θnuが下記の(5)式を満たし、且つ鋳型短辺内面の第2傾斜面のテーパ値θndが下記の(6)式を満たす鋳型を用いることで、鋳造速度を0.5〜2.0m/minの範囲で変更しても、鋳片コーナー部の表層下の内部割れやそれに起因する縦割れを効果的に防止することができ、表面品質及び内部品質に優れた鋳片を安定して製造できることを確認した。
【0022】
2.0≦θnu/θw≦3.5 …(4)
1.5≦θnu≦4.0 …(5)
0.7≦θnd≦1.0 …(6)
以下、比(θnu/θw)、第1傾斜面のテーパ値θnu(以下、単に「θnu」とも記す)及び第2傾斜面のテーパ値θnd(以下、単に「θnd」とも記す)が上記の(4)式〜(6)式の範囲に限定される理由を説明する。尚、鋳型長辺のテーパ値θw(以下、単に「θw」とも記す)の範囲は(4)式及び(5)式から自ずと求められ、θwは0.43〜2.0%/mとなる。
【0023】
本発明者らは、θnu=0.9〜5.0%/m、θnd=0.5〜1.3%/m、θw=0.23〜5.0%/m、比(θnu/θw)=1.0〜4.0の範囲の鋳型を準備し、鋳造速度を0.6m/min(鋳片サイズ:長辺長さ560mm、短辺長さ400mm)、1.0m/min(鋳片サイズ:長辺長さ400mm、短辺長さ300mm)、2.0m/min(鋳片サイズ:長辺長さ230mm、短辺長さ190mm)の3水準として鋳造試験を実施した。
【0024】
鋳造中、鉄板に包んだFe−S合金粉末を鋳型内に浸漬・投入し、鋳片断面から採取したサルファープリントによって鋳型内における凝固シェル厚(測定箇所:鋳型内溶鋼湯面から100mm下方の位置)を測定し、下記の(7)式で定義する凝固不均一度を求め、鋳型テーパと凝固不均一度との関係を調査した。また鋳造中、鋳型長辺及び鋳型短辺での鋳型抜熱量を鋳型冷却水の入出温度差と冷却水流量とから計算し、下記の(8)式で定義する抜熱量偏差を求め、鋳型テーパと抜熱量偏差との関係を調査した。
【0025】
凝固不均一度=(dmax-dmin)×100/dmax …(7)
但し、(7)式において、dmax:鋳片長辺面または短辺面の凝固シェル厚の最大値(mm)、dmin:鋳片長辺面または短辺面の凝固シェル厚の最小値(mm)である。
【0026】
抜熱量偏差=|Hw-Hn|×100/max(Hw,Hn) …(8)
但し、(8)式において、Hw:鋳型長辺の平均抜熱量、Hn:鋳型短辺の平均抜熱量、max(Hw,Hn):HwまたはHnのいずれかの最大値である。
【0027】
その結果、鋳造速度が0.6〜2.0m/minと広範囲においても、比(θnu/θw)を2.0〜3.5とし、θnuを1.5〜4.0%/m、且つ、θndを0.7〜1.0%/mとすることで、凝固不均一度は、鋳片表面の縦割れ限界の凝固不均一度とされる10%を下回り、且つ、抜熱量偏差も鋳片断面形状劣化を防止する15%未満にできることを突き止めた。
【0028】
比(θnu/θw)に範囲が存在する理由:
比(θnu/θw)が小さ過ぎると相対的に鋳片短辺面の凝固シェルの成長が抑制され、同様に、比(θnu/θw)が大き過ぎると相対的に鋳片長辺面の凝固シェルの成長が抑制される。いずれのケースにおいても、鋳片短辺面と長辺面との凝固シェル厚に差が生じて凝固不均一度が大きくなることから、凝固不均一度を10%以下とするためには比(θnu/θw)に或る範囲を設ける必要があり、2.0〜3.5が好適である。
【0029】
θnuに好適な範囲が存在する理由:
比(θnu/θw)が好適な2.0〜3.5の範囲において、θnuが小さ過ぎると抜熱量偏差が大きくなり、且つ鋳型短辺の抜熱量が低下して凝固シェル成長低下によるブレークアウトの危険があることから、これを回避するためにθnuに下限を設けている。一方、θnuが大き過ぎると、抜熱量偏差は小さくなるが、鋳型抜熱量絶対値の増加による縦割れや鋳型/凝固シェル間の摩擦力増大による拘束性ブレークアウトの危険があり、これを回避するためにθnuに上限を設けている。つまり、θnuにも好適な範囲が存在し、その値は上記理由から1.5〜4.0%/mとなる。
【0030】
θndに好適な範囲が存在する理由:
初期凝固シェルの成長や鋳型抜熱量は鋳型上部で大略決定される。換言すれば、鋳型下部のテーパθndは、上部のテーパθnuに比べると、初期凝固シェルの成長や鋳型抜熱挙動に及ぼす影響が小さくなる。しかし、その影響が小さいながらも初期凝固シェル成長や鋳型抜熱に影響し、θndの変化は、θnuと比(θnu/θw)との関係において、凝固不均一度10%以下、抜熱量偏差15%以下の領域を変化させる。
【0031】
定性的にはθndが小さすぎると凝固シェル成長が遅れるので、その遅れを補うために、比(θnu/θw)を大きく設定する必要がある。従って、θndが小さい場合には、θnuと比(θnu/θw)との関係における凝固不均一度10%以下、抜熱量偏差15%以下の好適領域は、比(θnu/θw)の大きい側にシフトする。θndが大きい場合には、その逆に、好適領域は比(θnu/θw)の小さい側にシフトする。これらの結果から、θndの好適領域に或る範囲が存在することが分る。
【0032】
θndの好適範囲0.7〜1.0%/mは、鋳造速度が大きく変化しても、θnuと比(θnu/θw)の関係において、凝固不均一度が10%以下、抜熱量偏差が15%以下である領域が広く、且つその領域の変化が少ない範囲として定められる。
【0033】
尚、鋳型短辺における第1傾斜面と第2傾斜面との境界の位置は、一般的に鋳型銅板温度変動の大きい鋳型内溶鋼湯面から100〜300mm下方の位置(鋳型上端から約150〜350mm下方の位置)とすればよい。
【0034】
このような構成の本発明に係る連続鋳造用鋳型を用いて、鋼鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2であるブルーム鋳片或いはビレット鋳片を連続鋳造することで、鋳型長辺のテーパ値は鋳型短辺のテーパ値に比較して小さいことから、鋳造速度依存性が小さく、鋳造速度を2倍程度の範囲で変更した場合でも、鋳型と凝固シェルとの間に生成するエアーギャップ生成を効果的に抑制し、これにより、鋳片コーナー部の表層下の内部割れやそれに起因する縦割れを効果的に防止することが実現される。
【実施例1】
【0035】
C:0.10〜0.13質量%、Si:0.15〜0.30質量%、Mn:0.10〜0.25質量%、P:0.015〜0.025質量%、S:0.010〜0.020質量%、Al:0.010〜0.035質量%の溶鋼を、鋳型短辺の第1傾斜面のテーパ値θnuが0.9〜5.0%/m、鋳型短辺の第2傾斜面のテーパ値θndが0.5〜1.3%/m、鋳型長辺のテーパ値θwが0.23〜5.0%/m、比(θnu/θw)が1.0〜4.0%/mである鋳型を準備し、鋳造速度を0.6m/min(鋳片サイズ:長辺長さ(W)=560mm、短辺長さ(N)=400mm、比(W/N)=1.40)、1.0m/min(鋳片サイズ:長辺長さ400mm、短辺長さ300mm、比(W/N)=1.33)、2.0m/min(鋳片サイズ:長辺長さ230mm、短辺長さ190mm、比(W/N)=1.21)の3水準で連続鋳造する試験を実施した。鋳型短辺の第1傾斜面と第2傾斜面との境界は、鋳型内湯面から150mm下方の位置(鋳型上端から約200mm下方の位置)とした。
【0036】
尚、使用したモールドパウダーは、一般的に使用されている緩冷却(低抜熱)を志向した市販品(塩基度0.67、ガラス化温度1135℃)を使用し、鋳造速度に依らず同一のモールドパウダーを使用した。
【0037】
鋳造中、鉄板に包んだFe−S合金粉末を鋳型内に浸漬・投入し、鋳片断面から採取したサルファープリントによって鋳型内における凝固シェル厚(測定箇所:鋳型内溶鋼湯面から100mm下方の位置)を測定し、(7)式を用いて凝固不均一度を算出した。また鋳造中、鋳型長辺と鋳型短辺の鋳型抜熱量を鋳型冷却水の入出温度差と冷却水流量とから計算し、(8)式を用いて抜熱量偏差を求め、鋳型テーパとこれら凝固不均一度、抜熱量偏差との関係を調査した。鋳造した鋳片表面の縦割れ発生の有無も調査した。
【0038】
図4に、比(θnu/θw)とθnuとの関係において、鋳造速度が0.6〜2.0m/minで鋳型内凝固不均一度が10%以下となる領域を、θnd別に示す。図中には、凝固不均一度が10%超えるθnuの上限と下限とをθnd別に線引きした。θnd別に上限及び下限として示した線で挟まれ、その内部に存在する領域が凝固不均一度10%以下となる。
【0039】
同様のことを鋳型内抜熱量偏差についても整理し、図5にその結果を示す。図中、鋳型内抜熱量偏差が15%超えるθnuの上限と下限とを線引きした。θnd別に上限及び下限として示した線で挟まれ、その内部に存在する領域が鋳型内抜熱量偏差15%以下となる。
【0040】
図4及び図5から、比(θnu/θw)が2.0〜3.5で、θnuが1.5〜4.0%/m、且つ、θndが0.7〜1.0%/mである場合に、凝固不均一度が10%以下で且つ鋳型内抜熱量偏差が15%以下を同時に満足することが分る。
【0041】
また、図6には、比(θnu/θw)とθnuとの関係において、鋳造速度0.6〜2.0m/minで縦割れ或いは内部割れの発生有無を調査した結果を示す。この時、θndは0.7〜1.0%/mとした。図6において、○印は、縦割れ或いは内部割れが発生しないことを表し、●印は、縦割れ或いは内部割れが発生したことを表している。
【0042】
図7には、比(θnu/θw)とθnuとの関係において、鋳造速度1.0〜2.0m/minでブレークアウト或いは鋳型と凝固シェルとの焼き付きの発生有無を調査した結果を示す。この時、θndは0.7〜1.0%/mとした。図7において、○印は、ブレークアウト或いは焼き付きが発生しないことを表し、●印は、ブレークアウト或いは焼き付きが発生したことを表している。
【0043】
図6及び図7から明らかなように、本発明の範囲の鋳型(2.0≦比(θnu/θw)≦3.5、1.5≦θnu≦4.0、0.7≦θnd≦1.0)においては、鋳片欠陥(縦割れ或いは内部割れ)や操業トラブル(ブレークアウト或いは焼き付き)を抑止できることが確認できた。
【0044】
図6及び図7では、比較のために、特許文献1の実施例における比(θnu/θw)(=0.3〜1.5)とθnu(=0.3〜5%/m)との範囲を破線で示す。図6及び図7に示すように、特許文献1の実施例に示す鋳型は、本発明の鋳型に比べて鋳片品質及び操業ともに不安定であることが確認できた。
【符号の説明】
【0045】
1 鋳型
2 鋳型長辺
3 鋳型短辺
4 長辺面凝固シェル
5 短辺面凝固シェル
6 溶鋼
7 エアーギャップ
8 第1傾斜面
9 第2傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2である鋼鋳片を連続鋳造する鋳型であり、該鋳型の内面に鋳片引き抜き方向に向かって対面間隔が狭まる傾斜面を有する連続鋳造用鋳型において、鋳型の短辺内面は、上部側の第1傾斜面と下部側の第2傾斜面との2つの傾斜面で形成され、鋳型の長辺内面は1つの傾斜面で形成されていて、前記第1傾斜面のテーパ値が前記第2傾斜面のテーパ値よりも大きく、且つ、前記長辺内面のテーパ値が前記第1傾斜面のテーパ値よりも小さいことを特徴とする、鋼の連続鋳造用鋳型。
【請求項2】
前記短辺内面の第1傾斜面のテーパ値θnuと前記長辺内面の傾斜面のテーパ値θwとの比(θnu/θw)が2.0〜3.5であり、前記短辺内面の第1傾斜面のテーパ値θnuが1.5〜4.0%/m、前記短辺内面の第2傾斜面のテーパ値θndが0.7〜1.0%/mであることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造用鋳型。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の鋼の連続鋳造用鋳型を用いて、鋳片の長辺長さ(W)と短辺長さ(N)との比(W/N)が1〜2である鋼鋳片を連続鋳造することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−157872(P2012−157872A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17556(P2011−17556)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】