説明

鋼材の腐食状態測定方法

【課題】 本発明は、コンクリート中に埋設された照合電極を長期間安定して使用することができる鋼材の腐食状態測定方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の鋼材の腐食状態測定方法は、解質溶液が内部に充填された照合電極を、鋼材が内部に埋設されているコンクリートに設置し、前記鋼材の腐食状態を前記照合電極で測定する鋼材の腐食状態測定方法において、前記コンクリートの表面に液体を供給し、前記液体を前記照合電極周りのコンクリートに浸透させることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中に埋設された鋼材の腐食状態を照合電極で測定する鋼材の腐食状態測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート中に鉄筋などの鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物においては、前記鋼材が腐食などで劣化すると、構造物全体の耐久性が低下する。
このような鋼材の腐食を防止するために、コンクリート構造物に陽極を設置し、この陽極と鋼材間に防食電流を流して、鋼材の電位を腐食反応が停止する電位に維持する電気防食が行なわれている。
【0003】
電気防食を効果的に行なうためには、鋼材の腐食状態をモニタリングしてどの程度の防食電流を流すかを決定する必要がある。
そこで、コンクリート構造物に照合電極を設置して、この照合電極で鋼材の電位を測定して鋼材の腐食状態をモニタリングする方法が知られている。
照合電極としては、従来から、前記鋼材付近のコンクリート中に埋め込んで設置する埋め込み式の照合電極が多く用いられている(特許文献1)。
【0004】
埋め込み式の照合電極は、通常、ケーシング内に電極本体と電解質溶液とが収納されており、前記ケーシングの先端部に、内部の電解質溶液と接触しているスポンジや多孔質材が取り付けられ、前記先端部を介してケーシング内の電解質溶液がコンクリートと接触するように形成されている。
【0005】
前記のような埋め込み照合電極は、長期間使用していくと、前記先端部から少しずつ内部の電解質溶液がコンクリート中に滲出していき、電極内の電解質溶液の容量が低下していく。
そのため、照合電極としての安定性も低下していき、基準電極として使用できなくなるという問題がある。
【0006】
照合電極内の電解質の容量低下を抑制するための手段としては、例えば、特許文献1に記載されているような手段がある。
特許文献1には、土壌あるいは水中に埋設した照合電極のケーシングに電解質溶液を供給する供給管を接続し、この供給管を通して外部から電解質溶液を補給しながら使用することが記載されている。
【0007】
しかし、コンクリート構造物においては、構造物の下面側のコンクリート表面付近に前記照合電極を埋設することが多く、このような下面側に前記のような供給管を設けた場合には供給管の開口が下向きになり液体を供給することが困難である。
また、コンクリート構造物では、複数の照合電極を設置することが多く、複数の照合電極に対して供給管もそれぞれ設置しなければならず、設置作業が煩雑であり実用的ではない。
よって、コンクリート中に埋設されている照合電極において、前記のような電解質溶液の供給管を設置することは現実的には困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−174727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、コンクリート中に埋設された照合電極を長期間安定して使用することができる鋼材の腐食状態測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、電解質溶液が内部に充填された照合電極を、鋼材が内部に埋設されているコンクリートに設置し、前記鋼材の腐食状態を前記照合電極で測定する鋼材の腐食状態測定方法において、前記コンクリートの表面に液体を供給し、前記液体を前記照合電極周りのコンクリートに浸透させることを特徴としている。
【0011】
前記のようにコンクリート表面から液体を供給して、コンクリート内部にまで前記液体を浸透させながら照合電極を使用することで、照合電極内部の内部から電解質溶液がコンクリートへ滲出する速度を低下させることができる。
【0012】
また、前記照合電極周りとは、少なくとも照合電極と接している周囲のコンクリート部分をいう。
【0013】
本発明では、前記液体が内部に充填され且つ前記液体を排出する排出口を備えた液体供給器具を、前記コンクリートの表面に取り付け、前記液体供給器具内の前記液体を、加圧しながら前記排出口から排出させて、前記コンクリートの内部に供給することが好ましい。
【0014】
前記のような液体供給器具をコンクリートの表面に取り付け、液体を加圧しながらコンクリート内部へ供給することで、コンクリート内部へ液体が浸透しやすくなる。
特に、高温時あるいは乾燥時などコンクリート表面から液体が蒸発しやすい場合や、コンクリート表面が構造物の下面や側面に位置してコンクリート表面に供給した液体が流れ落ちやすい場合でも、確実に照合電極の埋め込まれているコンクリート内部にまで液体を浸透させることができる。
【0015】
本発明では、前記液体が、電解質溶液であることが好ましい。
【0016】
電解質溶液を供給することで、特に照合電極内部の電解質溶液が周囲に溶出しにくくなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンクリート中に埋設された照合電極を長期間安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の腐食状態測定方法の構成を示す概略一部断面図
【図2】他の実施形態の取り付け治具を示す一部断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る実施形態について説明する。
まず、本実施形態の鋼材の腐食状態測定方法で用いる設備について図1に基づいて説明する。
本実施形態で用いる照合電極1は、図1に示すように、コンクリート2内に埋設されている。
前記照合電極1は、内部に電解質溶液としての水酸化カルシウム溶液と鉛電極本体とが収納されたケーシングと、前記ケーシングの一方の先端部に露出しており且つケーシング内部の電解質溶液と接液しているスポンジ状の検知部1aと、一端側が前記鉛電極本体と接続され他端側がケーシングの後端部から外部へ延出しているリード線1bとを備えている。
【0020】
前記リード線1bはコンクリート構造物外部に設置された電圧計(図示せず)のマイナス端子と接続されている。
【0021】
前記コンクリート2の内部には、鉄筋などの鋼材3が埋設されている。
前記鋼材3にはリード線が接続されており、前記リード線はコンクリート2の外部に突出されて前記電圧計のプラス端子と接続する(図示せず)。
【0022】
前記照合電極1の直上のコンクリート表面2には、液体供給器具4が取り付けられている。
【0023】
前記液体供給器具4は、円板形の底面部5と前記底面部5上面に取り付けられたゴム製の上面部6とに囲まれた液体収納部4aと、前記液体収納部4a内に液体を充填する管状の充填口4bとを備えている。
前記液体収納部4aに液体が充填されると、前記上面部6のゴムが伸長してドーム状に膨らむことで、前記底面部5と上面部6の間に液体が収納される。
前記底面部5には液体をコンクリート2表面へ供給するスリット状の排出口(図示せず)が設けられている。
【0024】
前記液体供給器具4は、前記底面部5が前記コンクリート表面上に液密になるように密着して、コンクリート表面にエポキシ樹脂製の接着剤などを用いて取り付けられている。
前記液体供給器具4は、前記底面部5が液密にコンクリート表面に取り付けられていることから、前記液体収納部4a内の液体に圧が加わると前記排出口から液体が側方へ漏出することなく、液体はコンクリート内部へ供給される。
【0025】
次ぎに、前記液体供給器具4を用いてコンクリート2表面に液体を供給する方法について説明する。
まず、前記液体供給器具4の液体収納部4aに充填口4bから液体を充填する。
この際、前記液体収納部4a内に圧がかかるように、上面部6を十分に膨らませるように液体を充填する。
【0026】
前記液体としては、水酸化カルシウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウムなどの電解質溶液または水などを用いることができる。
電解質溶液を用いる場合には、飽和溶液など高濃度の溶液を用いることが好ましい。
前記照合電極内の電解質溶液としても、飽和溶液を使用していることが多く、飽和電解質溶液を液体として用いることにより照合電極からの電解質溶液の滲出を効果的に抑制できるためである。
【0027】
前記電解質溶液を用いると、より照合電極内の電解質溶液がコンクリート中に滲出する速度を抑制できるため好ましい。
前記電解質溶液の中でも、照合電極内の電解質溶液と同種のものを用いることが、液体の滲出を特に効果的に抑制できるため好ましい。
【0028】
前記底面5にはスリット状の排出口が設けられているため、液体に対するゴムの圧力が一定以上になると、スリット状の切れ目が開口し、該開口した排出口から液体がコンクリート内部に供給される。
【0029】
前記液体供給器具4内部の液体にかかるゴム圧は、排出口から排出される前記液体が、例えば、最大で0.1MPa〜20MPa、好ましくは1MPa以下程度の圧力で排出される程度になるように調整されることが好ましい。
【0030】
前記排出口から排出される圧力が前記範囲であれば、液体を、ある程度の期間にわたって徐々にコンクリート内部に供給することができ、且つ供給された液体がコンクリートの内部まで確実に染込み、照合電極1の周囲を湿潤状態に保つことができる。
また、例えば、コンクリート表面が、コンクリート構造物の下面、側面などのように表面に液体を供給しても流れおちやすい面であっても、前記範囲の圧力で液体を供給することで確実にコンクリート内部まで液体を浸透させることができる。
【0031】
さらに、コンクリート構造物が高温や低湿度環境にある場合には、コンクリート表面から液体が蒸発しやすくなるが、このような条件でも、前記のような圧をかけて液体をコンクリート内部に供給することで、確実にコンクリート内部へ液体を浸透させることができる。
【0032】
また、前記排出口から排出される液体の圧力は、前記液体収納部4a内の液量が減っていくと低下するので、少なくとも前記液体収納部4aに所定の最大液量を充填した時に前記圧力で液体が排出されるように、排出口の大きさ、およびゴム圧などの液体収納部4aにかける圧力の大きさを適宜調整することが好ましい。
【0033】
前記液体供給器具4の液体収納部4a内の液体が消費されたときには、適宜、前記充填口4bから液体を充填することで、常にコンクリート内部へ液体を供給することができる。
【0034】
前記のようにコンクリートの内部に液体を供給すると、液体は浸透していき、前記照合電極1の周りにまで液体が到達する。
ある程度の量の液体がコンクリート内に浸透することで、前記照合電極1周りのコンクリートは湿潤状態になる。
【0035】
前記検知部1aは前記のようにスポンジなどから形成されていることから、前記照合電極1内の電解質溶液と、コンクリート中に含まれる電解質とが、前記検知部1aを介して接触する。
この時、前記検知部1aの周囲のコンクリートが乾燥している状態であると、前記検知部1aからは照合電極1内の電解質溶液が急速に滲出していく。
本発明では、前記のように照合電極1周りのコンクリートを湿潤状態にすることで、前記検知部1aから電極内の電解質溶液が溶出する速度を低下させることができ、照合電極1内の電解質溶液の量を長期間一定に保つことができる。
よって、照合電極を長期間使用することができる。
【0036】
尚、前記実施形態では、前記液体供給器具4として、ゴムの圧力によって内部の液体に圧力をかけて排出口から液体を排出するものを使用したが、液体供給器具4としてはこれに限定されるものではない。
例えば、図2に示すような、筒体11の内部に液体が充填され、この液体をピストン12で押し出す注射器状の注入器具であってもよい。
この場合、充填された液体をゆっくり押出すような力をピストン12にかけるために、ゴムひも13をピストン12に取り付け、ゴムひも13の収縮性でピストン12を移動させ、ピストン圧で内部の液体を排出口14から排出しつつ、コンクリート内部に供給してもよい。
【0037】
本発明で用いられる液体供給器具としては、ある程度の時間に亘って継続して、ある程度の圧力を内部の液体にかけることで、液体をコンクリート表面に供給できる手段であれば特に限定されるものではない。
例えば、コンクリート構造物のひび割れ補修に用いるひび割れ注入材用の注入器具などを用いてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0039】
(コンクリート供試体)
長さ400mm、幅100mm、厚さ100mmのコンクリート供試体を4つ準備した。各供試体には、コンクリートの略中央にあたる位置に、照合電極(商品名PbM−5型、日本防蝕工業株式会社製、使用電解質溶液:水酸化カルシウム)を埋設した。
この時の照合電極の検知部の表面からの深さは約50mmであった。
【0040】
(液体供給器具)
液体供給器具として、図1に示すドーム形状のひび割れ材注入用の器具(商品名:スクイズプレートD−52S、アサヒボンド工業株式会社製)を使用した。
前記液体供給器具の液体収納部に充填する液体として、飽和水酸化カルシウム水溶液(実施例1)、飽和塩化カリウム水溶液(実施例2)、水道水(実施例3)を準備した。
尚、各液体は一回の充填時当り30g充填するが、この量の液体を充填した時の、前記液体供給器具のスリットから排出される液体の圧力は0.2〜0.9MPaである。
【0041】
前記コンクリート供試体のうちの、3つのコンクリート供試体を実施例用として、表面に前記液体供給器具をエポキシ樹脂製接着剤(商品名:クイックメンダー、コニシボンド株式会社製)を用いて設置した。
前記液体供給器具を設置しないコンクリート供試体を比較例とした。
【0042】
(照合電極の電位の測定)
まず、各コンクリート供試体の表面に、測定用の照合電極を設置し、内部に埋め込んだ照合電極との電位差を電圧計(商品名:734−01、横河メータ&インスツルメンツ株式会社製)を用いて測定した。
次ぎに、各コンクリート供試体の表面の照合電極を取り外し、各コンクリート供試体を40℃の乾燥炉に入れて保管した。
【0043】
各実施例の液体供給器具には、乾燥炉に入れる直前にそれぞれ3種類の液体を、30gずつ充填し、その後、目視にて完全に前記液体供給器具内の液体が消費されたと判断されたタイミングで同量の液体を充填した。
各コンクリート供試体は、1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後に、前記乾燥炉から取り出し、再び各コンクリート供試体の表面に測定用の照合電極を設置し、埋め込んだ照合電極との電位差を測定した。
尚、測定した環境は、温度20℃、湿度80%の室内であり、測定終了後は40℃に保たれた前記乾燥炉に戻した。
結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すように、各実施例では、比較例に比べて、乾燥した状態で長期間放置してもコンクリート表面に設置した照合電極(内部の電解質溶液が減少していない電極)と、コンクリート内部に埋設した照合電極との電位差が少ないことが明かである。
すなわち、コンクリート内部に埋設した照合電極の性能は低下していないことがわかる。
【符号の説明】
【0046】
1:照合電極、
2:コンクリート、
3:鋼材、
4:液体供給器具。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液が内部に充填された照合電極を、鋼材が内部に埋設されているコンクリートに設置し、前記鋼材の腐食状態を前記照合電極で測定する鋼材の腐食状態測定方法において、
前記コンクリートの表面に液体を供給し、前記液体を前記照合電極周りのコンクリートに浸透させることを特徴とする鋼材の腐食状態測定方法。
【請求項2】
前記液体が内部に充填され且つ前記液体を排出する排出口を備えた液体供給器具を、前記コンクリートの表面に取り付け、前記液体供給器具内の前記液体を、加圧しながら前記排出口から排出させて、前記コンクリートの内部に供給する請求項1に記載の鋼材の腐食状態測定方法。
【請求項3】
前記液体が、電解質溶液である請求項1または2に記載の鋼材の腐食状態測定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−137414(P2012−137414A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290740(P2010−290740)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】