説明

鋼管の肉厚測定方法

【課題】鋼管製品の放射線肉厚測定方法を提供する。
【解決手段】
被測定物の外径にあわせて、放射線源から放射される無効放射線を遮蔽する遮蔽板を、前記放射線源の前面に設けて、放射線検出器で検出される無効放射線量を微少化することを特徴とする鋼管の肉厚測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の肉厚測定精度の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼における厚板、熱延鋼材や鋼管等の熱間圧延鋼材の厚さ測定には、通常、放射線厚さ計が用いられる。放射線厚さ計は放射線源(放射性同位元素)と放射線検出器(電離箱等)を対向配置して、鋼板等を通過した放射線の強度を測定して厚さを求める。
【0003】
測定する厚さ範囲、応答性の要求に従って使用する放射線源が定まるが、ガンマ線厚さ計では、137Csを線源としたガンマ線厚さ計と、241Amを線源としたガンマ線厚さ計があり、厚鋼板の板厚制御では、鋼板の板厚が一般的に厚いので放射線エネルギーが高い
137Csが用いられ、241Amは通常、板厚8mm以下に使用される。
【0004】
放射線が物体を透過する際の放射線量に関する関係式は、(1)式で示される。

I=I0 exp(-μt) ・・・・・ (1)
t:測定対象物の厚さ、μは測定対象物の材質で決まる質量吸収係数
0:放射線源の強度 I:放射線の検出量

これによれば、I0、μが一定であれば、Iを計測することにより、厚さtを求めることができる。
【0005】
しかし、鋼板のように幅、長さが放射線源の幅より非常に大きな対象物では、照射した放射線の大部分は、鋼板を透過して放射線検出器にて検出されるので、放射線検出器で検出される放射線の検出量は板厚が同一の製品においては、大きくばらつくことは少ない。
一方、鋼管のように幅、高さ方向に製品寸法が種々に変化する対象物の肉厚測定においては、鋼管寸法に合わせて放射線源の幅を変えるには、製品寸法が変わるたびに、生産ラインを停止して放射線源の取り替えを行う必要があり、現実的でない。従って、鋼管製品の肉厚計測においては、放射線源の幅は、生産ラインで生産される製品の最大製品寸法に合わせて設定することとなる。
【0006】
この場合、最大製品寸法よりも、小さい製品径の肉厚を測定すると、放射線検出器で検出される放射線には、鋼管本体を透過して放射線検出器で検出される放射線(以下、有効放射線と呼ぶ)と、鋼管本体を透過せずに直接放射線検出器で検出される放射線(以下、無効放射線と呼ぶ)とが混在することとなる。よって、無効放射線は、肉厚測定の観点からは、ノイズであり、その量によっては、肉厚測定の精度に重大な影響がでることになる。
【0007】
従って、無効放射線量の比率が、あまりにも大きくなると、統計ノイズの発生も大きくなり(統計ノイズは無効放射線量の比率に比例する)正常な肉厚測定ができなくなるという問題が生じることとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、鋼管製品の放射線肉厚測定の測定精度をどのようにして向上させるかという点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。
【0010】
第一の発明は、被測定物の外径に対応して、放射線源から放射される無効放射線を遮蔽する遮蔽板を、前記放射線源の前面に設けて、放射線検出器で検出される無効放射線量を最小化することを特徴とする鋼管の肉厚測定方法である。
【0011】
第二の発明は、遮蔽板を被測定物の外径にあわせて、可変としたことを特徴とする第一の発明に記載の鋼管の肉厚測定方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記のような、放射線を使った肉厚測定方法であるので、鋼管の肉厚測定において、精度の高い測定値が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施するための最良の形態を図を参照して説明する。
図1は、本発明方法の鋼管の肉厚測定方法を示す図である。放射線源としては、ガンマ線源(1)をもちいた。ガンマ線源(1)から照射された放射線は、鋼管(6)を透過して、有効放射線(4)として放射線検出器(2)で検出される。
【0014】
一方、鋼管(6)を透過せずに放射線検出器(2)に検出される無効放射線(5)は、鉛で製作された、遮蔽板(3)によって吸収され、放射線検出器(2)には届かないように遮蔽されている。遮蔽板(3)は鋼管(6)の外径寸法に合わせて図の矢印方向に可動となっており、大径管から小径管まで種々の外径寸法の鋼管に対応できるようになっている。
【0015】
上記したように、遮蔽板(3)によって無効放射線(5)を遮蔽するようにしたので、放射線検出器(2)に到達する無効放射線(5)は微量に抑えられるのでノイズが減って、鋼管の肉厚測定精度があがる。
【0016】
図2.1本発明方法による遮蔽板(3)により無効放射線量を微量に抑えた場合の、肉厚測定精度を表す図であり、測定偏差はσ=0.108と遮蔽板(3)を使用しない場合のσ=0.638に比較して非常に小さい値となっている。具体的肉厚測定値を図2.2に示すが測定時間による肉厚測定値のバラツキは非常に小さく、安定した測定値が得られている。
【0017】
比較例として遮蔽板(3)を使用しない場合の放射された放射線の検出状況を図3に示す。
図3.1は鋼管(6)の外径が放射線源(1)の幅に近い場合で、放射された放射線のかなりの部分は鋼管(6)を透過して有効放射線4として放射線検出器(2)に到達する。
一方、鋼管(6)を透過しないで放射線検出器(2)に到達する無効放射線(5)は小径鋼管に比較して少なくなっているが、遮蔽板(3)を取り付けていないので、肉厚のバラツキは大きい。
【0018】
図3.2は、放射線源(1)の幅に対して、鋼管(6)の外径が非常に小さい場合で、有効放射線4よりも、無効放射線(5)の量が多くなっている。
また、図4に示すように、同一肉厚で比較した場合、たとえば、10mmの肉厚で比較すると、理論透過係数は、管外径50mmでは10、管外径100mmでは23、管外径150mmでは35と管外径が大きくなるほど理論透過係数は大きくなっている。
【0019】
図5.1は、遮蔽板(3)を設置しない場合の、肉厚測定精度を表す図であり、測定偏差はσ=0.638と、遮蔽板(3)を使用使用した場合のσ=0.108に比較して非常に大きな値となっている。具体的肉厚測定値を図5.2に示すが、測定時間による肉厚測定値のバラツキは非常に大きく、安定した測定値が得られていないことがわかる。
【0020】
図6は有効線量比率(放射線源幅に対する鋼管外径の比率)と統計ノイズの関係を示す図である。有効線量比率が大きくなるほど統計ノイズは小さくなることを示している。遮蔽板(3)を使用することは、図6で有効線量比率を大きくすることと同じ効果が得られことを意味しており、遮蔽板(3)を使用することにより、統計ノイズが減少することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
放射線源の幅を変えずに、遮蔽板により放射線の照射範囲を制御する用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明方法の鋼管の肉厚測定方法を示す図である。
【図2.1】遮蔽板を使用した場合の肉厚測定精度を示す図である。
【図2.2】遮蔽板を使用した場合の肉厚測定値の時間変動を示す図である。
【図3.1】鋼管外径が大きい場合の有効放射線量を示す図である。
【図3.2】鋼管外径が小さい場合の有効放射線量を示す図である。
【図4】肉厚と理論透過係数の関係を示す図である。
【図5.1】遮蔽板を使用しない場合の肉厚測定精度を示す図である。
【図5.2】遮蔽板を使用しない場合の肉厚測定値の時間変動を示す図である。
【図6】有効線量比率と統計ノイズの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ガンマ線源
2 放射線検出器
3 遮蔽板
4 有効放射線
5 無効放射線
6 鋼管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の外径に対応して、放射線源から放射される無効放射線を遮蔽する遮蔽板を、前記放射線源の前面に設けて、放射線検出器で検出される無効放射線量を最小化することを特徴とする鋼管の肉厚測定方法。
【請求項2】
遮蔽板を被測定物の外径にあわせて、可変としたことを特徴とする請求項1記載の鋼管の肉厚測定方法。

【図1】
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【図2.1】
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【図2.2】
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【図3.1】
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【図3.2】
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【図4】
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【図5.1】
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【図5.2】
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【図6】
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