説明

錠剤の崩壊試験装置及び崩壊試験方法

【課題】簡便にかつ再現性よく錠剤(口腔内崩壊錠)の崩壊性を評価できる崩壊試験装置及び崩壊試験方法を提供する。
【解決手段】崩壊試験装置は、錠剤4の上面の中央部に荷重を負荷するためのロッド(第1の負荷手段)1と、前記錠剤の周辺部に荷重を負荷するための中空筒体(第2の負荷手段)2と、前記錠剤に試験液を付与するための供給手段とを備えている。中空筒体2は、周方向に間隔をおいて下端から延出する4つの作用部3を備えており、作用部3の先端部は鋭角な先端部として形成されている。錠剤4は、吸水シート5を介して、収容体6の平坦な底面(載置部)に載置される。このような装置では、ヒトでの錠剤の崩壊時間を簡便にかつ再現性よく測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錠剤(口腔内崩壊錠など)の崩壊時間を定量的に測定するのに有用な錠剤の崩壊試験装置(又は崩壊時間測定装置)及び崩壊試験方法(又は崩壊時間測定方法)に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤の一般的な崩壊性測定方法には、日本薬局方の一般試験法として規定された崩壊試験法が知られている。この試験法では、容器に所定量の試験液を入れ、試験液に錠剤を浸して上下運動させ、錠剤が崩壊する時間を目視により測定する。そのため、本来口腔内では崩壊しにくい錠剤でさえ、速やかに崩壊する場合があり、口腔内での崩壊性が十分に反映されない。特に、近年考案され、口腔内の少量の唾液量で速やかに崩壊する口腔内崩壊錠の崩壊性を客観的に評価(又は崩壊時間を測定)することが困難である。
【0003】
口腔内崩壊時間を客観的に評価する方法及び装置に関し、特開2001−141718号公報(特許文献1)には、溶液を収容する容器と、錠剤に荷重を加える加重手段と、錠剤に荷重を加えることと錠剤を溶液中に浸すことの両方を満たした時から錠剤が崩壊するまでの時間を測定するための測定手段とを備えた崩壊性測定装置が開示されている。この文献には、前記装置が錠剤を容器中に保持する保持手段を有し、前記保持手段は、容器内に設置されて錠剤を載置する台であり、前記台の錠剤を載置する面は、錠剤の少なくとも一部が当接し且つ錠剤の下部に空間を生じさせる凹部が形成されていることも記載されている。しかし、この装置では、錠剤の崩壊時間が大きく変動し、口腔内で崩壊する錠剤の崩壊性を定量的に反映させることが困難である。
【0004】
特開2004−233332号公報(特許文献2)には、崩壊試験容器内に充填された崩壊試験液中に崩壊試験の対象物である試料錠を崩壊させる試料錠崩壊装置であって、崩壊試験容器内に充填された崩壊試験液の液面にわずかに接触する位置に試料錠を配置させる試料錠の受け具と、同受け具上に配置した試料錠を上方より押さえる押さえ具とを備えた試料錠崩壊装置が開示されている。この文献には、前記受け具と押さえ具とが試料錠を挟み合った状態で相対的に移動することにより試料錠に破壊応力を付与する摩擦機構を備えていること、この摩擦機構が、受け具又は押さえ具の一方又は双方が回転する機構、又は受け具又は押さえ具の一方又は双方が崩壊試験液の液面に水平な方向に往復運動する機構であることも記載されている。
【0005】
特開2008−32482号公報(特許文献3)には、錠剤が載置される第1メッシュと、錠剤上方から崩壊試験液を錠剤へ落下させる崩壊試験液落下手段と、崩壊試験液を一定温度に保つ恒温槽と、前記恒温槽から前記崩壊試験液落下手段へ崩壊試験液を供給する送液ポンプとを有する錠剤の崩壊試験装置が開示されている。この文献には、錠剤上に載せる第2メッシュと、該第2メッシュをそれが第1メッシュに対して平行状態のまま鉛直方向に移動し得るように支持するメッシュ支持手段とをさらに有し、錠剤の崩壊によって第2メッシュが移動して第1メッシュに接触した時点を崩壊の終点として判定すること、第2メッシュの上に載せる錘をさらに有し、該錘を第2メッシュの上に載せて、錠剤に荷重を与えながら、錠剤の上方から崩壊試験液を落下させて、錠剤を崩壊させることも記載されている。
【0006】
特開2008−64620号公報(特許文献4)には、回転自在に略水平に軸支され、少なくとも1つの試料錠が載置される回転部と、その回転部に載置された試料錠を回転部に対して押さえ付ける押さえ部を備えた崩壊試験装置が開示されている。この文献には、試験液が貯留される試験槽を備え、前記回転部は、その一部分が試験液に浸漬されると共に、他の部分には、少なくとも1つの試料錠が載置されること、前記回転部に擦動可能に接触するすりきり部を備えることも記載されている。
【0007】
特開2008−82877号公報(特許文献5)には、試験液に試料錠を接触さて試料錠を崩壊させる崩壊試験装置であって、複数の試料錠を載置する載置面を有する載置板と、試料錠を収容する貫通孔が複数形成されたプレートと、載置された試料錠を載置板に対して押圧する錘とを備え、載置板及びプレートの少なくとも一方は、他方に対して載置面に沿う方向に相対移動可能に構成された崩壊験装置が開示されている。この文献には、前記載置板は、貫通孔が設けられて成る孔板であること、載置板及びプレートの少なくとも一方は、少なくとも試料錠の大きさに対応する距離だけ、他方に対して相対移動可能に構成されていることも記載されている。
【0008】
しかし、これらの崩壊試験装置は、構造及び機構が複雑であるだけでなく、崩壊性の評価には、種々のパラメーターの設定を必要とする。さらに、錠剤の崩壊時間が変動する場合があり、口腔内での錠剤の崩壊性との相関性を向上させることが困難な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−141718号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2004−233332号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2008−32482号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2008−64620号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2008−82877号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、簡便にかつ再現性よく錠剤の崩壊性を評価(崩壊時間の測定など)できる崩壊試験装置及び崩壊試験方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、口腔内の少量の唾液により速やかに崩壊する口腔内崩壊錠(又は口腔内速崩錠)のヒトでの崩壊性を客観的かつ定量的に評価できる崩壊試験装置及び崩壊試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、試験液を与えた状態で、荷重負荷手段により錠剤(口腔内崩壊錠)上面の中央部と周辺部(特に複数の周辺部)とに荷重を作用させると、前記荷重負荷手段の変位(落下時間など)と、in vitroでの錠剤の口腔内崩壊時間とに高い相関関係があることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の崩壊試験装置は、錠剤を載置するための載置部と、この載置部に載置された錠剤の上面の中央部に荷重を負荷するための第1の負荷手段と、前記錠剤の周辺部に荷重を負荷するための第2の負荷手段と、前記載置部の錠剤に試験液を付与するための供給手段とを備えている。また、本発明の方法では、錠剤に試験液が与えられた状態で、錠剤の上面の中央部に荷重を負荷するとともに、前記錠剤の周辺部に荷重を負荷し、錠剤の崩壊性を評価する。このような装置及び方法では、試験液が与えられた錠剤の中央部だけでなく周辺部にも荷重を負荷するため、湿潤した錠剤に複数の荷重(2種類の荷重)が同時に作用し、錠剤の崩壊時間などを指標として錠剤の崩壊性を有効に評価できる。
【0014】
前記第1の負荷手段は、錠剤に対して所定の荷重を負荷するロッドを備えており、第2の負荷手段が、第1の負荷手段の周囲に、周方向に間隔をおいて形成され、かつ錠剤の周辺部において周方向の複数箇所に所定の荷重を負荷するための複数の作用部(又は延出部)を有する中空筒体を備えていてもよい。錠剤上面の中央部へ荷重を作用させる第1の負荷手段は断面積0.1〜4mmのロッド状(錠剤に対する接触面積0.1〜4mmを有するロッド状)であってもよい。第2の負荷手段は、周方向に間隔をおいて形成され、かつ錠剤の周辺部の周方向の複数箇所に荷重を負荷するための複数の作用部を有し、これらの作用部が、内側から外側に向けて傾斜した先端部を有していてもよい。また、第2の負荷手段は、錠剤の周辺部の周方向の2〜6箇所に間隔をおいて荷重を負荷するための作用部を有し、これらの作用部の先端部が角度30〜60°及び周方向の長さ(又は幅)0.2〜2.5mmの鋭角な先端部として形成されていてもよい。第1の負荷手段による錠剤に対する荷重量は10〜50g程度、第2の負荷手段による錠剤に対する荷重量は50〜200g程度であってもよい。
【0015】
このような第1及び第2の負荷手段を利用すると、錠剤の中央部に荷重を作用させながら、錠剤の周辺部では、第2の負荷手段の先端部により、錠剤の軟化又は崩壊部分が外方向に排除できるため、口腔内での崩壊時間との相関性をさらに高めることができる。
【0016】
供給手段は、錠剤の種類(錠剤の吸水性など)に応じて、錠剤の高さの少なくとも50%以上を満たす液量(例えば、錠剤の高さの約1/2となる量又は錠剤の高さを超える量)の試験液を供給してもよい。さらに、載置部と錠剤との間には吸水シート(吸水紙など)を配設してもよい。さらには、前記装置は、錠剤に崩壊に伴って生じる第1の負荷手段及び/又は第2の負荷手段の変位を計測するための計測手段を備えていてもよい。
【0017】
なお、本明細書中、「崩壊試験」とは、錠剤の崩壊時間の測定のみならず、錠剤の崩壊性の評価をも意味する。また、「口腔内崩壊錠」とは、口腔内の唾液量で速やかに崩壊する固形製剤を意味する。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、湿潤した錠剤に対して中央部と周辺部との複数箇所で荷重を作用させるため、簡単な構造で簡便にかつ再現性よく錠剤の崩壊性を評価(又は崩壊時間を測定)できる。また、口腔内の少量の唾液又は水分で速やかに崩壊する口腔内崩壊錠(又は口腔内速崩錠)であっても、ヒトでの崩壊性を客観的かつ定量的に評価でき、錠剤の口腔内崩壊時間と高い相関性のあるデータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の崩壊試験装置の一例を示す概略図である。
【図2】図2は第2の負荷手段の作用部の先端部の形状を示す概略図である。
【図3】図3は実施例での崩壊試験結果とヒトによる口腔内崩壊時間との相関関係を示すグラフである。
【図4】図4は日本薬局方崩壊試験法による崩壊試験結果とヒトによる口腔内崩壊時間との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、必要により添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。図1は本発明の崩壊試験装置の一例を示す概略図であり、図2は第2の負荷手段の作用部の先端部の形状を示す概略図である。
【0021】
この例の崩壊試験装置は、錠剤4の上面の中央部に荷重を負荷するための円柱又は円筒状ロッド(第1の負荷手段)1と、このロッドを軸方向に摺動可能に収容し、かつ前記錠剤4の周辺部に荷重を負荷するための中空筒体(第2の負荷手段)2と、前記錠剤4に所定量の試験液を付与するための供給手段(図示せず)とを備えている。錠剤を試験液により湿潤状態に保つため、前記錠剤4は、吸水紙(濾紙など)などの吸水シート5を介して、有底筒状の収容体6の平坦な底面(載置部)に載置される。なお、ロッド1には所定の錘1aが取り付けられており、中空筒体2にも所定の錘2aが取り付けられている。
【0022】
前記中空筒体(第2の負荷手段)2は、周方向に等間隔をおいて筒体本体の下端から延出する4つの作用部(錠剤4に対する接触部)3を備えており、これらの作用部3は、それぞれ半径方向に延びる羽根状部材で構成され、作用部3の先端部(羽根状部材の先端部)は内側から外側に向かって傾斜した鋭角な先端部(すなわち、先端から中空筒体の軸方向にいくにつれて外方に傾斜した傾斜面を有する先端部)として形成されている。
【0023】
このような装置では、供給手段からの試験液で湿潤した錠剤4の中央部にはロッド1による荷重が作用し、湿潤した錠剤4の周辺部の周方向の4箇所には中空筒体2の作用部3による荷重が作用し、錠剤の軟化又は崩壊につれてロッド1及び中空筒体2が下降し、軟化又は崩壊部は中空筒体2の先端の作用部3により側部方向に排除される。従って、ロッド1及び中空筒体2の下降が、錠剤4の断片などにより阻害されることなく、錠剤4の崩壊の程度に応じてロッド1及び中空筒体2が下降し、ついには下降が停止する。このロッド1及び中空筒体2の下降停止を錠剤4の崩壊時間として評価できる。なお、錠剤の崩壊性の試験は、所定温度に保たれた雰囲気(例えば、恒温槽内)などに前記有底筒状の収容体6を配置して行うことができる。
【0024】
なお、錠剤を載置するための載置部は有底筒状の収容体6に限らず、錠剤と接触可能な形態で試験液を収容可能であり、かつ錠剤が載置可能な部位を有する収容体であればよい。また、載置部は、試験液が透過又は通過可能なメッシュ状載置部であってもよく、試験液の透過を規制する平板状載置部であってもよい。前記収容体の材質は、特に制限されず、ガラス、プラスチック、金属などが挙げられる。好ましい収容体は、平坦な底面を有する有底筒状(円筒状など)であり、通常、透明性を有する材質(ガラス、プラスチックなど)で形成されている。恒温槽などの所定温度(例えば、30〜40℃、特に36〜38℃程度)の雰囲気下で収容体を立設して保持するため、保持手段を利用してもよい。このような保持手段としては、日本薬局方崩壊試験法で規定されている試験器又は試験管立てなどを利用してもよい。
【0025】
載置部と錠剤との間には必ずしも吸水シートを配置する必要はないが、供給手段からの試験液で錠剤を湿潤状態に保つためには、吸水シートの上に錠剤を配置するのが好ましい。吸水シートは、不織布、織布などであってもよく、ろ紙などが汎用される。
【0026】
前記供給手段は、載置部の錠剤に所定量の試験液を付与するための定量ポンプなどで構成してもよく、所定量の試験液はスポイトなどを利用して手動式に供給してもよい。崩壊試験液としては、水、緩衝液、生理食塩水、人口唾液などが例示できる。本発明では、精製水を使用しても口腔内での崩壊性と高い相関性が得られる。
【0027】
なお、錠剤の崩壊性試験、特に口腔内崩壊錠の崩壊性試験において、錠剤の種類によっては吸水性が大きく相違する場合がある。そのため、予備的に錠剤の吸水性を評価し、試験に供する錠剤を複数のグループに分類し、各グループに応じて試験液の量を調整するのが好ましい。例えば、平底試験管の底面に円形のろ紙を敷き、その上に錠剤を置き、錠剤の高さの1/3〜2/3(例えば、約1/2)となる試験液を添加し、錠剤の上面が試験液で湿潤するまでの時間を計測し、湿潤時間により錠剤を複数のグループに分け、湿潤時間の短い錠剤では試験液の量を少なくして(例えば、錠剤の高さの2/10〜7/10の量)崩壊性を評価し、湿潤時間の長い錠剤では試験液の量を多くして(例えば、錠剤の高さの6/10から錠剤の高さを超える量、特に錠剤の高さの8/10から錠剤の高さを超える量で)崩壊性を評価すると、口腔内での崩壊時間との相関性を向上できる。より具体的には、錠剤の高さの約1/2となる量の試験液を添加し、錠剤上面が浸潤するまでの時間を測定し、浸潤時間が60秒以下のグループと浸潤時間が60秒を越えるグループとに分類できる。浸潤時間が60秒以下の錠剤では、試験に供する錠剤の高さの約1/2となる量の試験液を添加し、湿潤時間が60秒を越える錠剤では錠剤の高さを超える量の試験液を添加して崩壊性を評価(又は崩壊時間を測定)すると、口腔内での崩壊時間との間に極めて高い相関関係が得られる。そのため、崩壊性試験において、供給手段は、錠剤の高さの少なくとも50%以上を満たす液量(例えば、錠剤の高さの約1/2となる液量又は錠剤の高さを超える液量)の試験液を供給する場合が多い。
【0028】
第1の負荷手段は、錠剤の上面の中央部に荷重を負荷又は作用できればよく、通常、ロッド(棒)状に形成できる。ロッド状負荷手段の断面形状は、円形状、楕円形状、多角形状(三角形状〜六角形状など)なでであってもよく、錠剤と接触するロッド状の第1の負荷手段の先端部は、例えば、平坦面、アール状に窪んだ凹面又はアール状に突出した凸面状に形成されていてもよく、円錐部又は角錐部などの形態で突出していてもよく、前記先端部は、点状、線状又は格子状の凸部を有していてもよい。換言すれば、ロッド状の第1の負荷手段の先端部は、錠剤に対して面接触してもよく点又は線接触してもよい。第1の負荷手段の先端部は、通常、平面又は平坦面状に形成できる。また、ロッド状第1の負荷手段の断面積(例えば、先端部の面積又は錠剤に対する接触面積)は、錠剤のサイズに応じて選択でき、例えば、0.1〜4mm程度(好ましくは0.15〜3mm、さらに好ましくは0.2〜2mm(例えば、0.2〜1mm))であってもよい。第1の負荷手段は、錠剤上面の中央部に荷重を作用させればよいが、錠剤の上面の中心部に作用させる場合が多い。
【0029】
ロッド状の第1の負荷手段の材質は、特に制限されず、金属、プラスチック、ガラスなどが挙げられる。通常、強度にすぐれた金属ロッドが使用される。第1の負荷手段は、第2の負荷手段と一体化して荷重を錠剤に作用させてもよいが、第2の負荷手段とは独立又は遊離して自由に錠剤に荷重を作用させる場合が多い。すなわち、第1の負荷手段は、第2の負荷手段に対して、必要によりガイド部材を介して、縦方向に摺動又は移動可能である場合が多い。
【0030】
第1の負荷手段による錠剤に対する荷重量は、錠剤の種類に応じて選択でき、通常、10〜50g、好ましくは15〜45g、さらに好ましくは20〜40g、特に25〜35g(例えば、30g)程度である。また、第1の負荷手段による錠剤に対する荷重(錠剤に対する接触面積当たりの荷重)は、50〜300g/mm(例えば、75〜250g/mm)、好ましくは100〜200g/mm、さら好ましくは125〜175g/mm程度であってもよい。
【0031】
第2の負荷手段は、錠剤の周辺部の少なくとも一箇所に荷重を負荷又は作用できればよく、錠剤の周辺部の複数箇所に荷重を作用させてもよい。第2の負荷手段は、1つのロッド状の形態で第1の負荷手段の周囲(錠剤の周辺部)に配置してもよく、所定間隔をおいて複数のロッドをリング状に連接して第1の負荷手段の周囲(錠剤の周辺部)に配置してもよい。第2の負荷手段は、通常、前記ロッド状の第1の負荷手段を収容する中空筒体(円筒状又は多角形状の中空筒体など)を備えており、この中空筒体は、錠剤の周辺部において周方向の複数箇所に所定の荷重を負荷するため、周方向に間隔をおいて形成された複数の作用部(又は延出部)を有していてもよい。作用部の数は特に制限されず、例えば、1〜10程度の範囲から選択でき、通常、2〜6(例えば、2〜4)、好ましくは3〜4程度である。また、複数の作用部は所定間隔をおいて形成でき、等間隔に形成してもよい。このような中空筒体を利用すると、第1の負荷手段を中心として、複数の作用部(又は延出部)によりほぼ同心円状の形態で錠剤の周辺部の複数箇所に荷重を作用させることができる。
【0032】
さらに、前記作用部の先端部は、錠剤の上面に応じて平坦面又は湾曲面として形成することにより錠剤に対して面接触可能であってもよいが、錠剤に対して点接触又は線接触可能であるのが好ましい。特に、前記作用部が、内側から外側に向けて傾斜した先端部(先端から軸方向にいくにつれて側方に傾斜した傾斜面を有する先端部、特に鋭角な先端部)を有すると、錠剤に対して線接触(又は線状に接触)させつつ、湿潤又は吸水により軟化又は崩壊した錠剤の軟化又は崩壊部を外側方向に排除できるため、第2の負荷手段の落下が阻害されることがなく、錠剤の崩壊性を再現性よく評価できる。このような先端部は、先端に向かって外壁が狭まる傾斜面を有していればよく、必要であれば先端に向かって内壁も狭まっていてもよい。なお、内壁は、軸線に対して0〜15°(好ましくは0〜10°)、特に0〜5°程度の角度で先端に向かって狭まっていてもよい。好ましい先端部の態様は、内壁は先端に向かって実質的に狭まることなく、外壁が先端に向かって狭まる傾斜面を有している。作用部の先端部の角度は、例えば、30〜60°、好ましくは35〜55°、さらに好ましくは40〜50°(例えば、約45°)程度であってもよい。
【0033】
作用部の周方向の長さ(又は幅)は、錠剤のサイズに応じて、0.1〜3mm(例えば、0.2〜2.5mm)程度の範囲から選択でき、通常、0.3〜2mm、好ましくは0.4〜1.7mm、さらに好ましくは0.5〜1.5mm(例えば、0.7〜1.3mm)程度であってもよい。
【0034】
また、複数の作用部の先端部は、直径2〜10mm、好ましくは2.5〜7mm、さらに好ましくは3〜5mm(例えば、4mm)の円周上に間隔をおいて形成してもよい。このような形態でも、錠剤に対して円周上(特に、第1の負荷手段を中心とする同心円上)に複数の作用部を配置可能である。
【0035】
第2の負荷手段による錠剤に対する荷重量は、錠剤の種類に応じて選択でき、通常、50〜200g、好ましくは60〜180g(例えば、75〜175g)、さらに好ましくは80〜120g(例えば、100g)程度であってもよい。作用部の先端部が鋭角である場合、第2の負荷手段による錠剤に対する荷重(錠剤に対する接触長さ当たりの荷重)は、10〜100g/mm(例えば、10〜75g/mm)、好ましくは12.5〜50g/mm(例えば、15〜45g/mm)、さらに好ましくは20〜30g/mm程度であってもよい。
【0036】
なお、前記複数の作用部は、放射状に延びる複数の羽根部材(これらの羽根部材は連結部材により周方向に連結してもよく、中空筒体の装着部に装着してもよい)の下端部に形成してもよく、中空筒体の下端部を周方向に間隔をおいて軸方向に切り欠いて形成してもよい。また、中空筒体の下端部に、複数の作用部が周方向に連接された作用部材を装着することにより形成してもよい。
【0037】
第2の負荷手段の先端部の材質は特に制限されず、金属、プラスチック、セラミックス(ガラスなど)であってもよく、通常、強度にすぐれたプラスチックや金属などが使用される。第2の負荷手段は、収容体と独立又は遊離して自由に錠剤に荷重を作用させればよく、第2の負荷手段は、収容体に対して、必要によりガイド部材を介して、縦方向に摺動又は移動可能であってもよい。
【0038】
なお、前記の例では、ロッド状の第1の負荷手段と円筒状の第2の負荷手段とにそれぞれ錘を取り付け、ロッド及び円筒状負荷手段の自重及び錘により荷重を錠剤に作用させているが、錘は交換可能であってもよく、ロッド状の第1の負荷手段と円筒状の第2の負荷手段は、トルクを作用させるロッドや筒体、進退動可能なシリンダロッドや筒体などで構成し、錠剤に対してトルクや荷重(負荷)を作用させてもよい。
【0039】
本発明の装置は、錠剤に崩壊に伴って生じる第1の負荷手段及び/又は第2の負荷手段の変位を計測するための計測手段を備えていてもよい。この計測手段は、錠剤の溶解及び/又は崩壊に伴う第1及び/又は第2の負荷手段の変位(換言すれば、錠剤の崩壊性)を測定可能であればよく、例えば、前記変位は、第1及び/又は第2の負荷手段の落下時間(試験液の注入から落下停止までの時間など)を計測するタイマーにより測定してもよく、種々のセンサ(例えば、負荷手段の変位を検知する変位センサ、負荷手段の落下停止を見地する接触センサや光センサなど)を利用して計測してもよい。また、錠剤の崩壊性は、崩壊時間だけでなく、前記変位センサや加速度センサなどを利用して、変位速度に基づいて評価してもよい。また、前記変位(崩壊時間など)は、目視で評価又は測定してもよく、自動的に測定してもよい。
【0040】
本発明の方法では、錠剤に試験液が与えられた状態(錠剤が試験液に浸漬された状態又は錠剤が試験液で湿潤した状態)で、錠剤の上面の中央部に荷重を負荷するとともに、前記錠剤の周辺部に荷重を負荷し、錠剤の崩壊性を評価する。この方法では、崩壊試験液で湿潤した状態で、錠剤に対して2種類の荷重(第1の負荷手段により中央部の荷重と第2の負荷手段による周辺部の荷重)を同時に作用させながら錠剤の崩壊性(崩壊時間など)を評価測定する。そのため、本発明では、口腔内での錠剤の崩壊時間に対応した結果を得ることができる。
【0041】
錠剤に対する荷重の負荷と崩壊試験液への錠剤の浸漬とは同時に行ってもよいが、錠剤に対して荷重を作用又は負荷させた後、崩壊試験液へ錠剤を浸漬(又は試験液を注入)するのが好ましい。通常、試験液の注入開始を崩壊性のスタート時間とすることができる。また、錠剤を崩壊試験液中に浸してから、前記負荷手段の落下が停止するまでの時間を崩壊時間とすることができる。このような試験方法では、通常、一定温度に保温するため、汎用の恒温槽を用いることができる。
【0042】
なお、本発明では、錠剤(裸錠)、剤皮を施したコーティング錠の他、種々の形態の錠剤が利用でき、錠剤は、医薬活性成分を含む固形製剤に限らず、生理活性成分を含む固形製剤(栄養補助食品、サプリメントなどとして提供される固形製剤)であってもよい。本発明は、特に、口腔内崩壊錠の崩壊性を正確に評価するのに有用である。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0044】
実施例1
図1及び図2に示す崩壊試験装置を用いて、崩壊時間の測定を行った。この装置は、内径約20mmの平底試験管6と、この平底試験管の底面に敷いた円形のろ紙5と、丸棒状金属ロッド(第1の負荷手段)1(荷重30g、断面積0.2mm、直径0.5mm)と、下端部に4つの羽根状作用部を有する中空筒体(第2の負荷手段)2(荷重100g、鋭角な先端部の角度45°、先端部の周方向の長さ(又は幅)1mm、4つの先端部が直径4mmの円周上に配置)とを備えている。錠剤4はろ紙5の中央部に配置した。崩壊性の試験では、崩壊試験液として精製水0.5mL又は5mL(37℃)を錠剤に直接当たらないように添加してから、金属ロッド1及び中空筒体2の作用部の落下が停止するまでの時間(金属ロッド1及び中空筒体2の作用部がろ紙に接するまでの時間)を崩壊時間とした。
【0045】
このような上記条件で口腔内崩壊錠として市販されている18種類の試料錠をランダムに選択した。なお、崩壊時間の測定温度は37±2℃とし、崩壊試験液量は錠剤の吸水性の試験結果により選択した。すなわち、37℃の恒温槽で温度コントロールされた内径約20mmの平底試験管6の底面に円形のろ紙5を敷き、このろ紙の中央部に錠剤4を配置し、37℃の水0.5mLを錠剤4に直接当たらないように前記試験管6内に入れた。水の注入を終えた時点を測定開始とし、水が錠剤内に湿潤して錠剤の上面にまで完全に湿潤するまでの時間を湿潤時間として、吸水性の指標とした。錠剤の崩壊試験では、湿潤時間が60秒以下の錠剤については水(37℃)0.5mLを注入し、湿潤時間が60秒を越える錠剤については水(37℃)5mLを注入した。
【0046】
また、20代〜50代の健常者男性5名により、対照として口腔内での崩壊時間を測定した。測定方法は、緒方らの方法を参考にし、少量の水でうがいをした後、錠剤を舌の上に置き、口を閉じた時点から崩壊試験を開始し、上あごに錠剤を押し付けながら舌を前後に大きく動かし続け、錠剤の形状を舌で感じなくなった時点を崩壊終了とした。口腔内崩壊時間は平均値として算出した。
【0047】
さらに、日本薬局方崩壊試験法に規定されている方法(JP崩壊試験法 即放性製剤の項)で崩壊時間を測定した(但し、補助盤は使用しなかった)。試験結果を表1、図3及び図4に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
図4から日本薬局方崩壊試験法による崩壊試験結果はバラツキが大きく、ヒトによる口腔内崩壊時間との相関性が低い。これに対して、図3から明らかなように、本発明による崩壊試験結果はヒトによる口腔内崩壊時間と極めて高い相関関係を示す。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、錠剤(特に、少量の水分で崩壊する口腔内崩壊錠)の崩壊性を客観的かつ高い信頼性で評価できる。そのため、本発明は崩壊性錠剤の開発及び品質管理に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…円筒状ロッド(第1の負荷手段)
2…中空筒体(第2の負荷手段)
3…作用部
4…錠剤
5…吸水シート
6…収容体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錠剤を載置するための載置部と、この載置部に載置された錠剤の上面の中央部に荷重を負荷するための第1の負荷手段と、前記錠剤の周辺部に荷重を負荷するための第2の負荷手段と、前記載置部の錠剤に試験液を付与するための供給手段とを備えている錠剤の崩壊試験装置。
【請求項2】
第1の負荷手段が、錠剤に対して所定の荷重を負荷するロッドを備えており、第2の負荷手段が、第1の負荷手段の周囲に、周方向に間隔をおいて形成され、かつ錠剤の周辺部において周方向の複数箇所に所定の荷重を負荷するための複数の作用部を有する中空筒体を備えている請求項1記載の崩壊試験装置。
【請求項3】
第1の負荷手段が錠剤との接触面積0.1〜4mmを有するロッド状である請求項1又は2記載の崩壊試験装置。
【請求項4】
第2の負荷手段が、周方向に間隔をおいて形成され、かつ錠剤の周辺部の周方向の複数箇所に荷重を負荷するための複数の作用部を有し、これらの作用部が、内側から外側に向けて傾斜した先端部を有する請求項1〜3のいずれかに記載の崩壊試験装置。
【請求項5】
第2の負荷手段が、錠剤の周辺部の周方向の2〜6箇所に間隔をおいて荷重を負荷するための作用部を有し、これらの作用部の先端部が角度30〜60°及び周方向の長さ(又は幅)0.2〜2.5mmの鋭角な先端部として形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の崩壊試験装置。
【請求項6】
第1の負荷手段による錠剤に対する荷重量が10〜50gであり、第2の負荷手段による錠剤に対する荷重量が50〜200gである請求項1〜5のいずれかに記載の崩壊試験装置。
【請求項7】
供給手段が、錠剤の高さの少なくとも50%以上を満たす液量の試験液を供給する請求項1〜6のいずれかに記載の崩壊試験装置。
【請求項8】
載置部と錠剤との間に配設された吸水シートを備えている請求項1〜7のいずれかに記載の崩壊試験装置。
【請求項9】
錠剤の崩壊に伴って生じる第1の負荷手段及び/又は第2の負荷手段の変位を計測するための計測手段を備えている請求項1〜8のいずれかに記載の崩壊試験装置。
【請求項10】
錠剤に試験液が与えられた状態で、錠剤の上面の中央部に荷重を負荷するとともに、前記錠剤の周辺部に荷重を負荷し、錠剤の崩壊性を評価する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−164415(P2010−164415A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6701(P2009−6701)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000161965)京都薬品工業株式会社 (13)