説明

鏡面塗装体の製造方法と鏡面塗装体

【課題】鏡面塗装体に部品を取り付けるなどのために加工を行い、塗膜に微細な割れが発生しても、割れが一定域を超えて成長するのを防止する。
【解決手段】鏡面塗装体1における表面加工部2に対応する基材3面にシート4を配設した後、シート表面を含めて基材面を鏡面塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡面塗装体において加工により生じる塗膜割れが経年変化により成長するのを防止する鏡面塗装体の製造方法とこの鏡面塗装体の製造方法により製造される鏡面塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
鏡面塗装体では、基材の表面または表裏面の凹凸に影響されず、表面が十分平滑になるように、膜厚を100〜200μm以上に比較的厚くして塗膜を基材の表面または表裏面に形成している。このため、鏡面塗装体に部品を取り付けるなどのために、ドリルやルーターなどによる穴形成やビス、釘などの固着具の打ち込みなどの加工を行うと、比較的厚い塗膜に微細な割れが発生する。塗膜と基材とは熱膨張率が異なるため、温度変化の繰り返しなどにより塗膜に層間ひずみ応力がかかり、微細な割れはやがて成長する。たとえば扉の取っ手取り付け部では、取っ手カバーで隠れる部分を超えて割れが成長し、外観異常が発生する。
【0003】
そこで、従来では、加工時に割れが発生した塗膜部分を前もってサンドペーパーなどによって研磨して除去し、補修しているが、微細なクラックを完全に除去しきることは難しく、また、作業の手間がかかっていた。
【0004】
一方、特許文献1には、戸において、取っ手カバーに連設された連結縁を戸に形成した溝に挿入し、溝に合成樹脂材を充填して連結縁を溝に埋設、固定することが記載されている。
【特許文献1】特開平5−163856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された戸では、取っ手の取り付けのために穴形成やビス、釘などの固着具を行う加工は行われないので、加工にともなって塗膜に生じる微細な割れの成長をいかにして防止すればよいのかについて全く示唆されない。また、取っ手取り付けのために、連結縁、溝および合成樹脂材という新たな技術手段が必要とされており、従来の取っ手を従来と同様に取り付けることはできない。さらに、溝には合成樹脂材が充填されるが、充填した合成樹脂材は露出する。鏡面塗装体では特に外観が重視されるので、取っ手外周部における異質の合成樹脂材の露出は避けたい。
【0006】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、鏡面塗装体に部品を取り付けるなどのために加工を行い、塗膜に微細な割れが発生しても、割れが一定域を超えて成長するのを防止することのできる鏡面塗装体の製造方法とこの鏡面塗装体の製造方法により製造される鏡面塗装体を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の鏡面塗装体の製造方法は、以下のことを特徴としている。
【0008】
第1に、鏡面塗装体における表面加工部に対応する基材面にシートを配設した後、シート表面を含めて基材面を鏡面塗装する。
【0009】
第2に、上記において、シートが繊維質である。
【0010】
第3に、上記において、シートの厚みが5μm以上90μm以下である。
【0011】
本発明の鏡面塗装体は、第4として、上記第1ないし第3のいずれか一つの特徴を有する鏡面塗装体の製造方法により製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上記第1および第4の発明によれば、鏡面塗装体には、部品の取り付けなどのための加工が行われる表面加工部において塗膜直下にシートが存在するため、シートが塗膜と基材との間の緩衝層として機能し、加工により塗膜に微細な割れが発生しても、層間ひずみ応力がシートにより緩和され、割れが成長するのを防止することができる。部品の取り付けなどは従来と同様にして行うことができ、特別の手段を要しない。鏡面塗装体の外観は良好に維持される。
【0013】
上記第2および第4の発明によれば、上記の発明の効果に加え、シートが繊維質であるため、塗料が適度に含浸し、塗膜との密着性が確保され、シートと塗膜との境界から副次的な割れを発生させることがない。
【0014】
上記第3および第4の発明によれば、上記の発明の効果に加え、割れの成長を十分防止することができるとともに、塗膜の平滑性を十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1<a><b>は、それぞれ、本発明の鏡面塗装体の製造方法と鏡面塗装体の一実施形態を示した要部平面図、要部断面図である。
【0016】
図1<a><b>に示した実施形態では、鏡面塗装体1における表面加工部2、すなわち、部品を取り付けるなどのために、ドリルやルーターなどにより穴が形成されたり、ビス、釘などの固着具が打ち込まれたりするなどの加工が行われる部分に対応して、基材3の表面または表裏面にシート4を配設し、その後、シート4の表面を含めた基材3の表面または表裏面に鏡面塗装を行い、塗膜5を形成させている。シート4の大きさは、塗膜5に加工により発生する微細な割れの成長を抑え込むことができる、すなわち、基材3と塗膜5との間の熱膨張率の差に起因して発生するなどの層間ひずみ力を十分緩和することのできる大きさとする。基本的には、鏡面塗装体1の表面加工部2の大きさよりやや大きくし、好ましくは、表面加工部2に取り付けられる部品などによって微細な割れが隠れ、表出しない程度の大きさとする。具体的には、鏡面塗装体1がたとえば扉の場合、ハンドル6aを備えた取っ手6を取り付ける部分では、取っ手6のカバー6bによって取り付け後に覆われ、露出しない範囲内の大きさが例示される。
【0017】
このように、鏡面塗装体1の表面加工部2には、基材3の表面または表裏面にシート4が配設され、その後鏡面塗装されて塗膜5が形成されているため、鏡面塗装体1の表面加工部2では、塗膜5の直下にシート4が存在し、鏡面塗装体1の表裏を貫通する穴7の形成やビス、釘などの打ち込みなどの加工を行い、加工にともなって塗膜5に微小な割れが生じても、シート4が塗膜5と基材3との間の緩衝層として機能し、塗膜5と基材3との間の熱膨張率の差に起因して発生するなどの層間ひずみ応力がシート4により緩和され、割れが成長するのを防止することができる。微細な割れは、表面加工部2に取り付けられる部品などによって隠蔽され、実質的に露出しない。したがって、鏡面塗装体1の外観は良好に維持される。また、部品の取り付けなどは従来と同様にして行うことができ、特別の手段を要しない。
【0018】
シート4としては、各種のものが使用可能であるが、パルプなどの植物性天然繊維またはポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニルなどの合成繊維から形成された繊維質のものが好ましい。繊維質のシート4であると、鏡面塗装に際して塗料がシート4に適度に含浸し、塗膜5との密着性が確保され、シート4と塗膜5との境界から副次的な割れを発生させることがない。シート4の基材3への配設は、接着、粘着などにより行うことができる。接着剤、粘着剤などについてはシート4および塗膜5の性状に影響を及ぼすものでない限り適宜なものを選択することができる。
【0019】
シート4の厚みについては、割れの成長を抑え込み、かつ塗膜5の表面の平滑性を阻害しない範囲で調整することができる。塗膜5の厚みが、上記の通り、通常100〜200μm以上であることから、シート4の厚みは5μm以上90μm以下とするのが好ましい。5μm未満では割れの成長を十分に防止することが難しく、90μmを超えると、塗膜5の厚みが厚くなるため、塗膜5の平滑性を十分に確保するのが難しくなる。
【0020】
基材3としては、表面または表裏面が突板や無垢材などにより形成された木質材が例示される。
【0021】
以上に例示される本発明の鏡面塗装体の製造方法と鏡面塗装体は、鏡面塗装された内装ドアや収納扉などの建具に特に好ましく適用される。
【0022】
以下に、実施例を示す。
【実施例】
【0023】
(実施例1、比較例1)
鏡面塗装体として内装ドアを選定した。内装ドアはフラッシュ構造を有し、ハニカム芯材の表裏にMDF5mm厚の面材を貼り付け、表面材として天然銘木突板を貼り付けたものとした。
【0024】
表面加工部は取っ手取り付け部とし、φ20mmの貫通穴をあけることを前提とした。
【0025】
表面加工部に対応して上記フラッシュ構造を有する未塗装の基材の表裏面に、25μm厚で30mm角の大きさのポリエステル繊維から形成されたマスキングシートを接着し、その後、鏡面塗装を行った(実施例1)。シートを接着せずに鏡面塗装を行った(比較例1)。
【0026】
鏡面塗装は以下の通りに行った。
【0027】
下塗り:ウレタン塗料
中塗り:ポリエステル塗料
上塗り:ウレタンアクリレート塗料(UV硬化)
塗膜厚:150μm
鏡面塗装体の表面加工部においてφ20mmの貫通穴を、溝加工後に木工用刃物を用いて形成した(N=4)。そして、取っ手を取り付けた。取っ手を取り付けた内装ドアの取っ手周辺を30cm角に切り出し、サンプルを4検体作製した。各サンプルの周囲は♯320ペーパーで面取りした後、アルミテープで保護した。
【0028】
各サンプルの塗膜割れの成長について、−5℃2時間後、+35℃2時間の環境間を5分間以内で移動させ、移動を50回繰り返すヒートショック試験によって評価した。評価結果は表1に示す通りである。
【0029】
【表1】

実施例1のサンプルでは4検体のいずれにも割れの発生はなく、外観は非常に良好であった。一方、比較例1のサンプルでは、4検体中2検体で取っ手カバーを超える割れの成長が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】<a><b>は、それぞれ、本発明の鏡面塗装体の製造方法と鏡面塗装体の一実施形態を示した要部平面図、要部断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 鏡面塗装体
2 表面加工部
3 基材
4 シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏡面塗装体における表面加工部に対応する基材面にシートを配設した後、シート表面を含めて基材面を鏡面塗装することを特徴とする鏡面塗装体の製造方法。
【請求項2】
シートが繊維質であることを特徴とする請求項1に記載の鏡面塗装体の製造方法。
【請求項3】
シートの厚みが5μm以上90μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の鏡面塗装体の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか一項に記載された鏡面塗装体の製造方法により製造されたことを特徴とする鏡面塗装体。

【図1】
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