説明

【課題】平面鏡、凹面鏡に変化させることができる性能の優れた鏡を提供する。
【解決手段】
浅皿状のベース1と、ここに回動自在に収まり螺合によってベースに対して出没するミラーホルダー2とからなり、該記ミラーホルダー2にはそれぞれ曲率変化が可能な鏡面シート12と背面シート13とを間隔をおいてかつ両シート間の空間を気密状態に保持し、さらに前記背面シート13はその中心位置に一端が固定され他の一端がベース部に回動可能に固定されたシートテンション部材14によって保持し、前記ミラーホルダー2の出没による背面シート13の変形によって前記気密状態の空間の圧力を変え鏡面の曲率を変化させるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化粧用あるいは髭剃り用等に使用する鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧あるいは髭剃り等を行なう場合、鏡が不可欠で種々の鏡が使用されている。これらの用途に用いる鏡としては、平面鏡が一般的であるが、凹面鏡としても使用することが必要な場合がある。
このために、鏡の両面を用い一方を平面鏡、他方を凹面鏡とし、目的に応じて反転させて使用する洗面用の鏡が、古くからホテル等で用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−165273号公報
【0004】
【非特許文献1】Arthur L. Palisoc(L’Garde,Inc.)、”Large Telescope Using a Holographically-Corrected Membrane Mirror”、[Online]、June 6-7,2000、[平成21年6月3日検索]、インターネット、<URL: 1244415965812_0.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の先行技術文献のうち、特許文献1に示された可変ミラーは、周縁部をフレームに支持された可撓性鏡面板の中央部を、スライドする軸とカムを組合わせた調節機構を操作ハンドルの回転により作動させ、平面鏡、凹面鏡、凸面鏡に切り替えるもので、手鏡等として用いられるものである。
このように板状の鏡面材を用いてこの曲率を変化させる場合、特許文献1のように鏡面板に直接力を加えると、力を加えた箇所とそうでない箇所との曲率の変化に微妙な差ができて鏡面が歪むおそれがあり、また機械的に曲率を変えるためある程度曲率の変化を段階的にせざるを得ない場合も生じ、任意の曲率が選びにくい面もある。
【0006】
一方非特許文献1には、曲率変化が可能な鏡面シートを気体の圧力で変形させて一種の凹面鏡や凸面鏡とし、大型の反射望遠鏡に利用する技術が開示されている。この技術によれば、前記特許文献1に開示された鏡とは異なり、鏡面シートに非接触な状態で変化させることができるため、鏡面が歪んだり曲率変化が段階的になるという惧れはなくなる。
【0007】
本発明は、非特許文献1の着想と同様に、気体を巧みに利用し、鏡面に非接触の状態で曲面が変化できる機構を採用するものであるが、このような大規模な光学装置に用いるものではなく、身近で手軽に用いることができる鏡について検討した結果、ともに曲率変化が可能な鏡面シートと背面シートを対設して気密状態の空間を形成し、この空間の圧力を変化させて平面鏡又は凹面鏡等として使用できる鏡を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明の要旨とするところは、浅皿状のベースと、ここに回動自在に収まり螺合によってベースに対して出没するミラーホルダーとからなり、該記ミラーホルダーにはそれぞれ曲率変化が可能な鏡面シートと背面シートとを間隔をおいてかつ両シート間の空間を気密状態に保持し、さらに前記背面シートはその中心位置に一端が固定され他の一端がベース部に回動可能に固定されたシートテンション部材によって保持し、前記ミラーホルダーの出没による背面シートの変形によって前記気密状態の空間の圧力を変え鏡面の曲率を変化させるようにしたことを特徴とする鏡にある。また本発明は、ミラーホルダーの回動による弁の開閉によって、前記気密状態の空間が大気圧と適宜同調することができる手段を組込んだことも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、前述の如き特徴を有するものであるから、鏡面シートと背面シートとを間隔をおきかつその空間を気密状態に保持し、この空間の圧力を、ミラーホルダーを出没させ鏡面シートとは非接触で操作して鏡面の曲率を変化させることができるようになっており、この結果鏡面シート全面にわたって曲面部の曲率を滑らかに変化させることができるので歪みがない鏡が提供でき、しかもその構造上平面鏡と凹面鏡とを所望の曲面に任意にかつ簡単に操作できる利点があり、なおかつ構造が簡潔であって軽量化を図ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明を平面鏡として使用したときの部分拡大断面図である。
【図3】本発明を凹面鏡として使用したときの部分拡大断面図である。
【図4】本発明の圧力調整機構を説明するための部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図面は本発明の一実施例を示すもので、これらの図において1は浅皿上のベース、2は該ベースに回動自在に収まり螺合によってベース1に対して出没するミラーホルダーで、この2つの部材で鏡の本体が形成されている。この本体は、例えば合成樹脂などの材料で成形することができる。
このうちベース1の立上り壁3内側には、螺旋溝4が刻設されているが、この例の螺旋は90度ピッチで4個の右ねじが設けられている。またベース1底面の中心位置Cには、後述する背面シート13を固定させるために用いる突出部5が設けられている。さらに図中6は、立上り部3内側に設け、後述する圧力調整のために用いる縦溝であり、7は螺旋溝4の上部に設けた踊り場、8はスットパーである。
【0012】
一方ミラーホルダー2は前述の中心位置Cを同芯として回動するもので、周囲の側壁9外側には、前述の螺旋溝4に嵌合する円柱状突起10が螺旋溝4に対応するよう90度ピッチで4個突設されている。この円柱状突起10は、前述した螺旋溝4に嵌合して摺動するようになっている。
そして、このミラーホルダー2を前記ベース1に収めて螺合して回動させるが、ベース1を固定して反時計方向に回すと上方に出るようになっており、逆に時計方向に回すとベース1に没するようになっている。
【0013】
図2はミラーホルダー2の回転軸を含む面で切断した断面図であるが、このミラーホルダー2の側壁9内側には、フランジ11が設けられ、ここにはそれぞれ曲率変化が可能な鏡面シート12と背面シート13とが両シート間を機密状態に保持して固定されている。
鏡面シート12と背面シート13の固定についてさらに説明すると、2つのシート12、13とそれぞれフランジ11との間に、接着剤を介在させるとともに、弛みを防止するため、フランジ11に設けた上部プレスリング17により鏡面シート12を、また下部プレスリング18により背面シート13をそれぞれ挟み込み、フランジ11の円周方向に延びる突条19とこれに対応する箇所に溝条20を設けた上部及び下部プレスリング17、18によってシート12、13を噛み合わせ、弛みが生じないように接着している。
したがって両シート12、13は弛みがなく、しかも2つのシート間の空間は気密状態を保持するようになっている。
なお図中21は、上面に設けた透明カバーであり、鏡面が汚れたり傷が付くのを防止するためのものであるが、この透明カバー21はアクリル樹脂シート等が用いられこの両面には反射防止膜を設けることが好ましい。
【0014】
図2のように鏡として組立てたときは、背面シート13の中心に設けられた孔に、プレート状のシートテンション部材14の軸15が嵌り込んで、背面シート13の一端が固定され、他の一端はベース1底面の突出部5に設けた孔5Aに嵌合し輪留め16により固定されるが、このとき軸15による回動方向は自在で上下方向が動かないように規制されている。なお背面シート13の軸15に嵌め込んだ箇所は、接着剤等でシールする。
このときの背面シート13の一端の固定は、背面シート13の下側の面(空間とは反対側の面)に接着して行ってもよい。
【0015】
以上のように構成された鏡を使用する際にミラーホルダー2を反時計方向に回すと、図3のようにミラーホルダー2が上方に出てくるが、シートテンション部材14はベース1に固定されたままになっているので、背面シート13が下側に凸の状態となり、空間Sは減圧され、大気圧によって鏡面シート12は綺麗な球面に凹み、鏡面シート12は凹面鏡として機能することになる。この例では螺旋溝4の上部の踊り場7を設けているので、円柱状突起10がここに一時的に止まって凹面鏡の状態を保持しうるようになっており、またストッパー8がミラーホルダー2がさらに回動し抜け落ちるのを防止している。このようになっており、ミラーホルダー2の突出量を調節することにより、凹面鏡の拡大率を任意に変えることが可能となる。
【0016】
なお本発明に使用する曲率変化が可能な鏡面シート12としては、例えば厚さ 5〜50μm程度の透明ポリエステルフィルムの内側面に、アルミ蒸着又は銀等による鏡面膜を設けたシートが使用できる。また背面シート13も曲率変化が可能な同様厚さのポリエステルフィルムその他合成樹脂フィルムが使用できる。さらにベース1及びミラーホルダー2としては、前述した合成樹脂のほか軽合金などの金属による成形品が使用できる。
特に前述の上部及び下部プレスリング17、18を金属製にするとシートの固定が強固に行われ鏡面シート12の平滑性が向上するので好ましい。
【0017】
図4は、本発明の実施例における圧力調整の機能を説明すもので、図は平面鏡の状態において、ミラーホルダー2の気密状態となった空間Sが大気圧と同調している状態を示している。なおこの図も図2と同様な断面で圧力調整機構の部分を拡大したものである。
本発明の鏡は通常状態では平面鏡として使用あるいは保管されることが多いが、このような状態で気温が上がったり、気圧が変化した際に大気圧に同調させて、内部の気体が膨張収縮することを防止ししようとするものである。
【0018】
すなわち図4において、ミラーホルダー2の側壁4に中心軸方向に延びる段付きの孔を設け、この一番奥の段にバネ22を埋設し、バネ22の手前側にOリング23を収め、ここに図左方向に付勢されるようになったボール弁24が位置すると共に、一番手前側にはキャップ25が嵌っている。そしてこのキャップ25には、ゴム座26が内蔵され、ボール弁24によって図右方向に押されている。
この状態では、キャップ25がベース1の縦溝6に収まっているので、ボール弁24は開の状態となっており、空間Sは大気圧と同調しているので、気圧の変化や温度の変化により、鏡面が撓んだりすることがなく平面鏡の状態を保つことこととなる。この状態から、ミラーホルダー2を反時計方向に回動させると、キャップ25は縦溝6を乗り越えて内側に押されるため、立上り壁3の内面でボール弁24は図左方向に押されて弁を閉じ、空間Sは再び気密状態となり、図3のように背面シート12が下方に凹に膨出すれば、それに応じて鏡面シート11が凹面に変形して凹面鏡の状態に変化する。
【0019】
以上図示した実施例においては、平面鏡と凹面鏡とに使用できる鏡について説明したが、本発明ではこの構成を踏襲しかつ背面シー12を上方凸に膨出するようにすれば、凸面鏡としての機能をもつ鏡とすることも可能である。
またこの例では、ミラーホルダー2の空間を大気圧と同調させることができる発明に基づいて説明したが、本発明では気温や気圧の変化があまり激しくない場所などで使用する場合は、このような機構を省略することが可能である。
さらにこの例において、プレート状のシートテンション部材14は軸15によって回動自在に固定しているが、この構成に代えて回動によって捩れることができる紐状物を背面シート12及びベース1の中心位置Cに固定することによっても同様な効果を果たすことができ、本発明ではこれらを含めて回動可能としている。
なお本発明は、鏡として使用するために便利な、例えば鏡のカバーや手鏡として用いる際の把持部あるいは壁面等への部材を取付けたりすることが可能であり、またミラーホルダー2に枠材等を取り付けることによって鏡面の形を角形等として用いることも可能である。
【符号の説明】
【0020】
S 空間
C 中心位置
1 ベース
2 ミラーホルダー
3 立上り壁
4 螺旋溝
5 突出部
5A 孔
6 縦溝
7 踊り場
8 ストッパー
9 側壁
10 円柱状突起
11 フランジ
12 鏡面シート
13 背面シート
14 シートテンション部材
15 軸
16 輪留め
17 上部プレスリング
18 下部プレスリング
19 突条
20 溝条
21 透明カバー
22 ネジ
23 Oリング
24 ボール弁
25 キャップ
26 ゴム座


【特許請求の範囲】
【請求項1】
浅皿状のベースと、ここに回動自在に収まり螺合によってベースに対して出没するミラーホルダーとからなり、該記ミラーホルダーにはそれぞれ曲率変化が可能な鏡面シートと背面シートとを間隔をおいてかつ両シート間の空間を気密状態に保持し、さらに前記背面シートはその中心位置に一端が固定され他の一端がベース部に回動可能に固定されたシートテンション部材によって保持し、前記ミラーホルダーの出没による背面シートの変形によって前記気密状態の空間の圧力を変え鏡面の曲率を変化させるようにしたことを特徴とする鏡。
【請求項2】
ミラーホルダーの回動による弁の開閉によって、前記の気密状態の空間が大気圧と適宜同調することができる手段を組込んだことを特徴とする請求項1記載の鏡。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−279629(P2010−279629A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136775(P2009−136775)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(591106923)
【Fターム(参考)】