説明

開口するチャンバを備えたマルチスパークプラグ

絶縁体(4)により分離される2つのプラズマ生成用の電極(2,3)を有して構成され、一方の電極は絶縁体を囲む外側シェル(3)として与えられ、他方の電極は絶縁体に形成された中央孔部内に収容される中央電極(2)として与えられる内燃機関用の無線周波数点火スパークプラグ(1)において、シェル(3)内にはシェル(3)の全周にわたって深い開口部(6)が設けられ、該開口部によりスパークプラグ(1)内に外部に開口する熱交換チャンバが形成される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本願発明は、プラズマ生成用のスパークプラグに係り、特に電極間に発生する電気火花により内燃機関を点火するために使用されるスパークプラグに関する。
【0002】
より詳細には、本願発明は、絶縁体により分離される2つのプラズマ生成用の電極を備えた、内燃機関用の無線周波数点火スパークプラグに関する。2つの電極のなかの1つの電極を、シリンダヘッドおよびスパークプラグのシェル全体として構成することが可能である。
【0003】
プラズマ生成用のスパークプラグは、高周波のマルチスパーク点火システムを構成し、最適な状態でエンジンを点火することを保証することができ、同時に特に希薄燃焼条件における汚染排出物を低減させる。プラズマ生成用のスパークプラグは、特に温度が低いと炭素等の付着物が発生しやすくなる。
【0004】
あらゆるスパークプラグと同様に、プラズマ生成用のスパークプラグは熱指数によって特徴づけられる。この熱指数については、特定のエンジン作動ポイントにおけるスパークプラグの熱反応が考慮に入れられる。特に、この熱指数は、「プレイグニッション(pre−ignition)」することなく、熱分解によって付着物を除去するのに十分な高い温度に耐える能力を示す。
【0005】
フランス特許公開公報FR2859830、FR2859869およびFR2859831には、コールドスパークプラグと称されるマルチスパークプラグが開示されている。コールドスパークプラグと称されるのは、このマルチスパークプラグは付着物の発生を避けるための十分な温度にまで迅速に温度が上昇しないからである。このようなスパークプラグに関しては、実際、前記電極上で炭素等の付着物が蓄積することが確認され、中央電極の先端とスパークプラグのシェルとの間で必要とされる絶縁性は明らかに低減する。絶縁性が弱いとスパークプラグへの高電圧の供給が不十分になって、電気火花を引き起こすのに必要とされる「絶縁破壊」が生じなくなる危険性がある。
【特許文献1】FR2859830
【特許文献2】FR2859869
【特許文献3】FR2859831
【0006】
特に温度が低い際に、燃焼チャンバ内の雰囲気に曝されるスパークプラグの電極における炭素等の付着物の蓄積を防止する1つの方法として、熱分解現象による付着物の崩壊を促進するように絶縁体の温度を上昇させることが挙げられる。この温度は、絶縁体も含んだスパークプラグ全体としての熱抵抗により定まる。
【0007】
絶縁体の温度を上昇させるために通常採られる手段は、動作中の温度があまりにも上昇してスパークプラグにおいてプレイグニッションが発生することを回避する必要性から、制限を受ける。
【0008】
本願発明は、プレイグニッションが発生する危険性を伴うことなく、温度を迅速に上昇させるために、マルチスパークプラグの熱指数を調整することを目的とする。
【0009】
この目的のために、本願発明は、シェルの全周にわたって深い開口部を形成する。この開口部により、スパークプラグのシェル内に外部へ開口する熱交換チャンバが形成される。
【0010】
本願発明の好ましい一つの実施の形態によれば、前記チャンバはスパークプラグのシェルと絶縁体との間に配置される。
【0011】
本願発明によれば、前記チャンバは高温ガスへの入口部を開閉可能な膨張部材を収容することができる。
【0012】
本願発明について提案される手段によって、起動段階で、動作温度を上昇させることなく、セラミックの温度が低くなるのを制限することができる。これにより、温度が高い状態におけるプレイグニッションの発生の危険性を伴うことなく、スパークプラグを迅速に加熱することを可能とする非線形的な熱指数が得られる。
【0013】
本願発明は、本願発明の技術的範囲を限定するものではない以下の明細書を読み、添付の図面を参照することにより、よりよく理解されよう。
【0014】
図1には、セラミック等の誘電材料から成る絶縁体4により分離されるプラズマ生成用の2つの電極2,3を有する公知のタイプのマルチスパークプラグ1が示されている。2つの電極2,3は、それぞれ、絶縁体4を囲む外側シェル3と、絶縁体4の中央孔部内に収容される中央電極2とを構成している。従来技術に係るシェル3は、エンジンのシリンダヘッド内にスパークプラグを螺合できるように、外側ねじ山3aを有している。前述したように、絶縁体4が十分な温度に到達していない際には、炭素等の付着物が蓄積することで、電流漏れの経路が形成されるために、スパークプラグの動作が阻害される。約400度程度の所定の温度を超えると、炭素等の付着物は熱分解により崩壊させられる。
【0015】
図2に示されるスパークプラグは、さらに、外部に開口するチャンバを形成する空間6を有している。チャンバ6は、シェル3と絶縁体4との間に延びる。図に示されるように、チャンバ6は、外部に開口する環状の第2セクタ6bに連接するチューブ状の第1セクタ6aを有するのが好適である。
【0016】
本願発明の他の特徴によれば、図2に示されるように、チャンバ6の壁部が金属から形成される。絶縁体に対して付加される金属層または金属製スリーブ7は、高温ガスに直接的に接触する。この高温ガスは、特に燃焼チャンバ内の希薄燃焼(Lean Burn)下において、酸化作用を有する。チャンバ6の壁部を金属から形成することで、特に絶縁体のセラミックとシェルとの間にプラズマが生成されるのを防止することができる。例えばセラミックに対してろう付けされたスリーブから成る金属層7によって、酸化ガスに対するセラミックの耐久性を向上することができる。事実上、スリーブの厚さは、熱化学的な損耗に対する耐久性と、熱抵抗と、製造コストとの間の妥協点として与えられる。実際には、スリーブが厚すぎると、熱抵抗が下がりすぎて、熱分解により付着物を崩壊させるのに十分な温度にまでセラミックを加熱することが困難となる。さらに、スリーブの材料は、その導電率および膨張係数に応じて選択されなければならない。これらの材料係数については、セラミックの材料係数およびセラミックの機械的特性に適合させる必要がある。さらに、本願発明に係る技術的思想から離れることなく、不活性被覆層、薄いセラミック層、あるいは例えばニッケルのような特に酸化に対する耐性を有する別の金属被覆層により前記金属層を保護するように構成することもできる。
【0017】
図3には、本願発明に係る第2の実施の形態が示されている。チャンバ6は、シェル3の全周にわたって形成された単純な形態のチューブ状の開口部として与えられる。この場合、チャンバは、シェルと絶縁体との間には延びていないが、シェル全体において遮断領域を形成する。金属層7を形成することは、プラズマの生成を防止するために必須である。ここで、チャンバ6と独立して形成された金属層は、単にセラミック4とシェル3との接合領域として機能する。
【0018】
図4Aから図5Bは、スパークプラグの熱指数の「非線形的」調整をさらに改良するように、スパークプラグの温度状態に応じてチャンバが自動的に適合するように動作することを可能とする追加的な構造を示すものである。これらの構造を採ることで、特にエンジンの温度がまだ低い際に非常に熱い加熱スパークプラグとして機能させ、エンジンの温度が高い際には特に高負荷環境において暖かいスパークプラグとして動作させることができる。
【0019】
これらの図に示されるように、チャンバ6は、高温ガスへの入口部を開閉することができる膨張部材8,9を収容することが可能である。温度が低下した際には、膨張部材は収縮して、スパークプラグの動作を加速させる熱流束を供給する高温ガスへの通路を開放する。スパークプラグがその動作温度に到達すれば、膨張部材は膨張して高温ガスへの通路を閉鎖する。これにより、スパークプラグは、チャンバが開放されたままである場合と比較して、より低い温度で熱平衡に到達する。
【0020】
図4Aおよび図4Bには、波形のスリーブの形態を有する膨張部材8が示されている。膨張部材8の一方の端部は固定され、他方の端部は円筒状のシャッタ8aに連結されている。シャッタ8aは、スリーブが膨張する際に、チャンバ6の入口部を閉鎖する。
【0021】
図5Aおよび図5Bには、比較的低い温度で溶融する金属9aを内包する2つの壁部から成るスリーブの形態を有する膨張部材9が示されている。液状の金属9aが膨張することで、スリーブ9が膨らみ、これにより高温ガスへの通路を閉鎖する。
【0022】
上記の2つの実施形態は、本願発明を限定するものではない。例えば、シャッタとして機能するフランジ、形状記憶合金またはバイメタルストリップの使用を含めて、他の形態のシャッタを使用することが可能である。
【0023】
結論として、本願発明に関して提案されたすべての技術的手段は、絶縁体とシェルとの間において空間または外部に開口するチャンバを形成することを基本としている。これにより、スパークプラグの熱指数を調整することが可能となり、特に非線形的な熱指数を得ることができる。さらに、チャンバの壁部に金属層を形成することは、特に希薄燃焼における動作に適合する。これは、チャンバの壁部に金属層を形成することにより、内燃ガス内の酸化剤からセラミックを保護できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】公知の先行技術を示す図である。
【図2】本願発明の1つの実施形態を示す図である。
【図3】本願発明の1つの実施形態を示す図である。
【図4A】本願発明の1つの実施形態を示す図である。
【図4B】本願発明の1つの実施形態を示す図である。
【図5A】本願発明の1つの実施形態を示す図である。
【図5B】本願発明の1つの実施形態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体(4)により分離される2つのプラズマ生成用の電極(2,3)を有して構成され、一方の前記電極は前記絶縁体を囲む外側シェル(3)として与えられ、他方の前記電極は前記絶縁体に形成された中央孔部内に収容される中央電極(2)として与えられる内燃機関用の無線周波数点火スパークプラグ(1)において、前記シェル(3)内には前記シェル(3)の全周にわたって深い開口部(6)が設けられ、該開口部により外部に開口する熱交換チャンバが形成されることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
前記チャンバが、前記シェル(3)と前記絶縁体(4)との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記チャンバ(6)は、外部に開口する環状の第2セクタ(6b)に連接するチューブ状の第1セクタ(6a)を有することを特徴とする請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記チャンバ(6)の壁部に金属層が形成されることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記チャンバ(6)は、前記シェル(3)の全周にわたって形成された単純な形態のチューブ状の開口部であることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記シェル(3)の内部表面に金属層が形成されることを特徴とする請求項5に記載のスパークプラグ。
【請求項7】
金属層の形成が、薄い金属製スリーブ(7)をセラミックにろう付けすることにより為されることを特徴とする請求項1から請求項4および請求項6のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項8】
前記金属層(7)が、高温で酸化作用を有する雰囲気に対して耐性を有する被覆層により保護されることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のスパークプラグ。
【請求項9】
前記チャンバ(6)が、高温ガスへの入口部を開閉することができる膨張部材(8,9)を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項10】
前記膨張部材(8)が波形のスリーブであり、該スリーブの一方の端部は固定され、該スリーブの他方の端部はシャッタ(8a)に連結され、該シャッタは前記スリーブが膨張する際に前記チャンバ(6)の入口部を閉鎖することを特徴とする請求項9に記載のスパークプラグ。
【請求項11】
前記膨張部材(9)が比較的低い温度で溶融する金属(9a)を内包する2つの壁部から成るスリーブであり、前記金属(9a)が膨張することにより、高温ガスへの入口部を閉鎖するように前記スリーブが膨らむことを特徴とする請求項9に記載のスパークプラグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2008−535195(P2008−535195A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504815(P2008−504815)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【国際出願番号】PCT/FR2006/050302
【国際公開番号】WO2006/106267
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【Fターム(参考)】