説明

開閉器用電動操作装置の異常診断装置

【課題】 点検者の個人差や測定器具の精度等の制約を受けず、かつ不急の手入れを省いて保守点検を合理化できる、開閉器用電動操作装置の異常診断装置を提供する。
【解決手段】 電動機31を制御及び駆動する制御電源13及び操作電源14とを備え開閉器本体10の開閉操作を行う電動操作装置11の異常診断装置において、制御電源13の制御電流15を検出する制御電流検出部21と、操作電源14の操作電流16を検出する操作電流検出部22と、これら検出部21、22でそれぞれ検出された制御電流波形及び操作電流波形を記録する記録部23と、記録された前記制御電流波形及び操作電流波形から両者の流れ始める時間差を求め、この時間差とあらかじめ設定しておいた管理値とを比較して、異常の有無を判定する演算判定部24と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、断路器あるいは接地装置などの開閉器の本体を開閉操作する開閉器用電動操作装置の異常診断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、開閉器本体の開閉操作を行う電動操作装置の異常診断は、定期的な保守点検時に、目視による動作状況確認、及びスケールによる調整箇所の寸法測定、ならびにストップウォッチによる動作時間測定を行い、異常の有無を判定している。また、経年使用による機能低下が懸念される部分については、定期的な部品交換と再調整による手入れにより対応している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記の定期的な点検による異常診断では、点検者の個人差や測定器具の精度等の制約により、必ずしも十分な信頼性を有する診断が行えず、次回の点検までの間に開閉動作不良等の不具合を生じる場合がある。また、部品交換と再調整を定期的かつ一律に全数実施することは、機能低下していない大多数の正常な開閉器に対して不急の手入れをしていることになり、経済的な面で損失を生じている。
【0004】そこで、本発明の目的は、従来よりも高い信頼性を有する異常診断を行い、開閉動作不良等を軽減し、かつ不急の手入れを省いて保守点検を合理化できる、開閉器用電動操作装置の異常診断装置を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明では、電動機と、この電動機を制御及び駆動する制御電源及び操作電源とを備え、前記電動機によって開閉器本体の開閉操作を行う開閉器の電動操作装置の異常診断装置において、前記制御電源の制御電流を検出する制御電流検出部と、前記操作電源の操作電流を検出する操作電流検出部とを設ける。また、前記制御電流検出部及び前記操作電流検出部でそれぞれ検出された制御電流波形及び操作電流波形を記録する記録部とを設ける。さらに、前記記録部で記録された前記制御電流波形及び操作電流波形から両者の流れ始める時間差を求め、この時間差とあらかじめ設定しておいた管理値とを比較して、異常の有無を判定する演算判定部を設ける。
【0006】前述のように構成した請求項1の発明では、次のように作用する。開閉器用電動操作装置に対して開放あるいは投入の操作指令が出されると、先ず制御電源が投入され、機械的ロック機構が引き外され、補助継電器が励磁されて、操作電源が投入される。操作電源の投入により電動機が始動して、連結機構を駆動し、最終的には接触部を開閉動作させる。この時、機械的ロック機構の引き外しや補助継電器の励磁にはメカニカルな動作が必要であり、操作指令と電動機の始動の間にはタイミングのずれが発生する。したがって、制御電流を制御電流検出部で、操作電流を操作電流検出部でそれぞれ検出し、記録部で波形記録して、演算判定部で、両者の流れ始める時間差を比較演算により求めてやれば、このタイミングのずれに相当する時間差を求めることができる。開閉器が正常な状態では、この時間差はほぼ一定であるが、機械的ロック機構や補助継電器に異常が生じると、この時間差は大きく変化する。そこで、あらかじめ管理値として許容範囲を設定しておくことにより、求めた時間差が許容範囲を逸脱した場合に異常と判定することができる。
【0007】請求項2の発明では、請求項1の手段に加えて、電動操作装置の制御電源の制御電圧を検出する制御電圧検出部、及び電動操作装置の内部温度を検出する温度検出部を設ける。また、これらの検出部で検出した制御電圧及び装置内部温度を記録部で記録する。さらに、演算判定部の管理値は、制御電圧及び装置内部温度をパラメータとしてあらかじめ設定しておく。
【0008】前述のように構成した請求項2の発明では、請求項1の作用に加えて次のように作用する。開放あるいは投入の操作指令により、最終的には接触部を開閉動作させるが、この時、制御電圧検出部により制御電圧の値が検出でき、温度検出部により電動操作装置の内部温度が検出できる。一方、開閉器が正常な状態でも、前記の制御電流と操作電流の流れ始める時間差は、制御電圧と装置内部温度により微妙に変化するため、これらをパラメータとして、管理値を数表あるいは計算式等により設定しておくことができる。したがって、求めた時間差と、制御電圧及び装置内部温度をパラメータとした管理値との比較を行えば、精度の高い異常診断が行える。
【0009】
【発明の実施の形態】請求項1の発明の実施の形態を図1R>1及び図2に示す。これらの図において、断路器は断路器本体10と、連結機構12を介して断路器本体10の開閉操作を行う電動操作装置11とから構成される。断路器本体10は電路を構成する導電部1及び接触部2と、これら電路と大地4との絶縁を維持する碍子部3とから構成される。
【0010】電動操作装置11は制御電源13及び操作電源14によって制御及び駆動される電動機31を有する。制御電源13には、操作指令押ボタン32、補助継電器35及び引き外しコイル34が接続されて、回路が形成される。また、操作電源14には、電動機31、補助継電器35の接点35a及び引き外しコイル34によって作動される機械的ロック機構33が接続されて、回路が形成される。
【0011】また制御電源13が接続された回路に、制御電流15を検出する制御電流検出部21を設け、操作電源14が接続された回路に、操作電流16を検出する操作電流検出部22を設ける。制御電流検出部21及び操作電流検出部22としては、クランプ式変流器や分路抵抗等を用いることができる。
【0012】また、制御電流検出部21及び操作電流検出部22の出力信号を取込み、検出した制御電流波形及び操作電流波形をそれぞれ記録する記録部23を設ける。記録部23としては、デジタル式オシロスコープ等を用いることができる。
【0013】さらに、記録部23で記録した制御電流波形及び操作電流波形を取込み、両者の流れ始める時間差△Tx を求め、この時間差△Tx をあらかじめ設定しておいた管理値△T0 と比較して、異常の有無を判定する演算判定部24を設ける。演算判定部24としては、パーソナルコンピュータ等を用いることができる。なお、演算判定部24の前記管理値△T0 は次のように設定する。すなわち、前記時間差△Tx は、機械的ロック機構33の引き外しあるいは補助継電器35の接点を安定した導通状態とするまでのメカニカルな動作に要する時間である。したがって、電動操作装置11が正常な状態であれば、この時間差△Tx はほぼ一定値であるため、断路器据付け当初の初期の値に対して、測定上の誤差などを見込んだ許容範囲で管理値△T0 をあらかじめ設定する。
【0014】次に、上述のように構成された請求項1の発明の動作について説明する。電動操作装置11の電動機31の操作電源14は、常時、機械的ロック機構33と補助継電器35の接点35aにより、二重に遮断されている。また、制御電源13も常時は操作指令押ボタン32によって遮断されている。
【0015】断路器本体10の開閉操作を行う場合には、操作指令押ボタン32を押して、開放あるいは投入の操作指令を出すと、制御電源13が投入されて、制御電流15が流れる。これにより、引き外しコイル34が励磁され、機械的ロック機構33が外れ、さらに補助継電器35も励磁されることにより接点35aが閉路し、操作電源14が投入される。これにより、操作電流16が流れて、電動機31が始動する。電動機31の駆動力は連結機構12を介して、断路器本体10に伝達され、断路器本体10の接触部2が開閉される。
【0016】上記過程において、制御電流15は制御電流検出部21で検出されるとともに、操作電流16は操作電流検出部22で検出され、検出されたこれらの制御電流波形及び操作電流波形は記録部23で記録され、図3R>3に示すような動作タイミングとなる。この2つの波形が演算判定部24で比較演算され、両者の流れ始める時間差△Tx が求められる。
【0017】また、演算判定部24では、この時間差△Tx が管理値△T0 と比較され、異常の有無が判定される。例えば、機械的ロック機構33にかじりやこじれが発生したり、補助継電器35の励磁コイルが焼損したりすれば、操作電流16の流れ始めるタイミングが遅れ、時間差△Tx は大きくなるので、管理値△T0 の範囲外となり、異常と判定される。
【0018】図5は、84kV2000A水平中心一点切断路器を供試器として、正常な状態及び電動操作装置11の機械的ロック機構33の異常を模擬した状態で、制御電圧及び操作電圧は共に直流100Vとして、それぞれ実測した波形例である。機械的ロック機構33の引き外しに必要な力は正常時4N(ニュートン)程度であり、この時の時間差△Tx1は図5(A)に示すように130ms程度であった。異常を模擬して引外しに必要な力を5倍程度とすると、時間差△Tx2は図5(B)に示すように290ms程度と大幅に大きくなっていることから、異常と判定することができる。
【0019】次に請求項2の発明の実施の形態を図4に示す。請求項1の形態に加えて、電動操作装置11の制御電源13の制御電圧を検出する制御電圧検出部25を設ける。また、電動操作装置11の内部温度を検出する温度検出部26を設ける。また、これらの検出部25、26で検出した制御電圧及び装置内部温度を記録するとともに、制御電流検出部21及び操作電流検出部22で検出された制御電流15及び操作電流16を記録する記録部43を設ける。
【0020】さらに、記録部43で記録された制御電流波形及び操作電流波形を取込み、両者の流れ始める時間差△Tx を求め、かつ、この時間差△Tx を記録部43で記録した制御電圧及び装置内部温度をパラメータとしてて、あらかじめ設定された管理値△T0 と比較して異常の有無を判定する演算判定部44を設ける。
【0021】なお、演算判定部44の管理値△T0 は次のように設定する。すなわち、制御電圧が低下すると、引外しコイル34ならびに補助継電器35を励磁する電圧が低下して、パワーが弱くなるため、必然的にメカニカルな動作の所要時間が増大し、時間差△Tx は増加する。また、装置内部温度が低下すると、引き外しコイル34の巻線抵抗は減少して、制御電流15は大きくなるので、パワーは強くなるが、機械的ロック機構33の摩擦抵抗は増加するため、差し引き分だけ時間差△Tx は変化する。このような影響度合いを構造の異なる断路器の形式ごとに実験的に求め、制御電圧と装置内部温度をパラメータとして管理値△T0 をきめ細かく設定しておく。具体的な設定方法としては、制御電圧と装置内部温度の変動範囲に対する管理値△T0 を表形式で記憶しておく方法や、計算式を用いる方法がある。
【0022】次に、上述のように構成された請求項2の発明の動作について説明する。かかる実施の形態においても、上述した請求項1の発明の実施の形態と全く同様に、操作指令押ボタン32を押すことにより、電動機31が始動し、断路器本体10の接触部2が開閉される。
【0023】一方、この過程において、制御電流15及び操作電流16は、制御電流検出部21及び操作電流検出部22でそれぞれ検出されるとともに、制御電圧及び装置内部温度は、制御電圧検出部25及び温度検出部26でそれぞれ検出され、これらが記録部43で記録される。
【0024】記録部43で記録された制御電流波形及び操作電流波形は、演算判定部44で比較演算され、両者の流れ始める時間差△Tx が求められる。この時間差△Txが、記録部43で記録された制御電圧及び装置内部温度に対応する管理値△T0と比較されて、異常の有無が判定される。したがって、時間差△Tx が制御電圧と装置内部温度をパラメータとして設定しておいた管理値△T0 と比較されるので、精度の高い異常診断が行える。
【0025】なお、上記実施の形態はいずれも断路器に適用した場合を説明したが、接地装置など他の開閉器にも適用することもできる。
【0026】
【発明の効果】上述に説明したように、本発明によれば、制御電流と操作電流の流れ始める時間差を求めて異常の有無を診断することにより、従来よりも高い信頼性で診断でき、次回の点検までの間に発生する不具合を低減することができる。また、不急の部品交換や再調整の手間を省き、経済的かつ合理的な保守点検を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】請求項1の発明の実施の形態を示す図である。
【図2】その電動操作装置の詳細を示す図である。
【図3】その動作タイミングを説明するための図である。
【図4】請求項2の発明の実施の形態を示す図である。
【図5】請求項1の発明の実施の形態を用いた実験で得られた動作タイミングの図である。
【符号の説明】
1 導電部
2 接触部
3 碍子部
4 大地
10 断路器本体
11 電動操作装置
12 連結機構
13 制御電源
14 操作電源
15 制御電流
16 操作電流
21 制御電流検出部
22 操作電流検出部
23,43 記録部
24,44 演算判定部
25 制御電圧検出部
26 温度検出部
31 電動機
32 操作指令押ボタン
33 機械的ロック機構
34 引き外しコイル
35 補助継電器

【特許請求の範囲】
【請求項1】 電動機と、この電動機を制御及び駆動する制御電源及び操作電源とを備え、前記電動機によって開閉器本体の開閉操作を行う開閉器の電動操作装置の異常診断装置において、前記制御電源の制御電流を検出する制御電流検出部と、前記操作電源の操作電流を検出する操作電流検出部と、前記制御電流検出部及び前記操作電流検出部でそれぞれ検出された制御電流波形及び操作電流波形を記録する記録部と、前記記録部で記録された前記制御電流波形及び操作電流波形から両者の流れ始める時間差を求め、この時間差とあらかじめ設定しておいた管理値とを比較して、異常の有無を判定する演算判定部と、を備えたことを特徴とする開閉器用電動操作装置の異常診断装置。
【請求項2】 電動機と、この電動機を制御及び駆動する制御電源及び操作電源とを備え、前記電動機によって開閉器本体の開閉操作を行う開閉器の電動操作装置の異常診断装置において、前記制御電源の制御電流を検出する制御電流検出部と、前記操作電源の操作電流を検出する操作電流検出部と、前記制御電源の制御電圧を検出する制御電圧検出部と、前記電動操作装置の内部温度を検出する温度検出部と、前記制御電流検出部及び前記操作電流検出部でそれぞれ検出された制御電流波形及び操作電流波形、ならびに前記制御電圧検出部で検出された制御電圧、ならびに前記温度検出部で検出された装置内部温度を記録する記録部と、前記記録部で記録された前記制御電流波形及び操作電流波形から両者の流れ始める時間差を求め、かつ、前記記録部で記録された制御電圧及び装置内部温度をパラメータとして、前記時間差とあらかじめ設定しておいた管理値とを比較して、異常の有無を判定する演算判定部と、を備えたことを特徴とする開閉器用電動操作装置の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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