説明

防塵剤およびその固化方法

【課題】広範囲のpHの土壌、更には土壌のみならず、瓦礫や木材等であっても表面に被膜状の不織布を生成することで防塵効果を有し、木片や枯葉等の小さな対象物を被膜状不織布で覆うことによる固化が可能であり、固化物は優れた強度を有する防塵剤およびその固化方法を提供する。
【解決手段】乾燥することで固化する性質を有する水溶液中にショートカット繊維を含有することを特徴とする防塵剤および該防塵剤を散布した後に被固化体の表面に不織布形状が形成されることを特徴とする防塵固化材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌や瓦礫の飛散を防止するための防塵剤および該防塵剤の固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公園などの運動場や港、道路、工場などの造成や土木工事に伴って発生する土壌などの堆積物は、そのまま放置しておくと雨や風によって侵食されて流出したり、粉塵となって飛散し、公害の発生源となる恐れがある。
また、最近発生した東日本大震災による被災現場では、未だ剥き出しの土壌の上に多量の瓦礫がある状態であり、風などによる粉塵の飛散が問題となっている。これに対しては現在ブルーシートによる土壌や瓦礫の被覆などの対策がとられているものの未だ不十分であるのが現状である。
【0003】
上記粉塵などの飛散防止として、堆積物や瓦礫に散布、浸透させて表面層を固める防塵 剤が使用されており、従来はPVAまたはPVA共重合物とホウ酸とを含有した水溶液からなる防塵剤や、液体状エチレン・酢酸ビニル共重合体にPVAを混合したものを主成分とした防塵剤などが検討されている(例えば、特許文献1〜2参照。)。
【0004】
しかし、これらの防塵剤では1)土壌等、防塵剤が浸透するものは固めるものの瓦礫や木材等剤には防塵効果が発現しない。2)土壌等固化対象のpHをアルカリ性に調整する必要がある、などの問題(課題)があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3497677号公報
【特許文献2】特開2002−227155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は広範囲のpHの土壌、更には土壌のみならず、瓦礫や木材等であっても表面に被膜状の不織布を生成することで防塵効果を有し、木片や枯葉等の小さな対象物を被膜状不織布で覆うことによる固化が可能であり、固化物は優れた強度を有する防塵剤およびその固化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記目的を達成すべく、鋭意検討した結果、以下の性能を有する防塵剤を土壌に散布することにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
1)散布もしくは塗布が容易な液体状であること、
2)散布後に溶媒が乾くことで散布対象上に散布対象と一体化した不織布状物が生成し、さらに、
3)生成した被膜状不織布は所定以上の強度を有すること、
【0008】
すなわち、本発明は、乾燥することで固化する性質を有する水溶液中にショートカット繊維を含有することを特徴とする防塵剤であり、好ましくは、上記防塵剤を散布した後に被固化体の表面に不織布形状が形成されることを特徴とする防塵固化材であり、さらに好ましくは被固化体の表面に前記ショートカット繊維を2.5g/m以上含有し、かつ目付が5g/mである不織布形状が形成されてなる防塵固化材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防塵剤を固化することにより、土壌や瓦礫、木材などの被固化体の表面に不織布状物が形成されることにより、土壌や瓦礫、木材などから発生する粉塵の飛散を防止することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の防塵材を構成するショートカット繊維は、散水時にノズルやホースなどの散水管中に詰まらない程度の繊維である。
水溶液中で凝集するショートカット繊維を含む防塵剤は被固化体への散布が困難となったり、散布できたとしても、散布後、乾燥・固化させた後に被固化体上に形成する不織布が不均一に形成されるので、不織布が破れやすく、強度などの物性に劣る。
【0011】
本発明に用いられるショートカット繊維の繊度は溶媒への分散性、塗布・散布性の観点から、0.1〜20dtexであることが好ましく、0.3〜10dtexであることがさらに好ましい。
また繊維長は溶媒への分散性、塗布・散布性および生成する不織布の強度の観点から、0.5〜30mmであることが好ましく、2〜10mmであることがさらに好ましい。
【0012】
本発明にて用いられるショートカット繊維は特に限定されず、有機、無機いずれの繊維でもよいが、中でもポリビニルアルコール繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、レーヨンなどのセルロース系繊維などが好適に使用できるが、これらの中でもポリビニルアルコール繊維、ポリエステル系繊維、セルロース系繊維などが特に好適に使用できる。
【0013】
本発明に用いられるポリビニルアルコール繊維の製法は湿式紡糸方法や乾式紡糸方法が知られているが、特に限定されるものではない。本発明に用いられるポリビニルアルコール繊維の構成は特に限定されないが、機械的特性、耐熱性等の点からは平均重合度1000以上さらに1200以上であるのが好ましく、5000以下、特に4000以下であるのが好ましい。また同理由からケン化度は95モル%以上、特に97モル%以上であるのが好ましい。繊維を構成するビニルアルコール系ポリマーは他の成分により変性されていたり、共重合されていてもよい。
【0014】
乾燥することで固化する性質を有する水溶液中に前記ショートカット繊維を添加、分散させて本発明の防塵剤を調製する。本発明において、乾燥することで固化する性質を有する水溶液とは、乾燥後にフィルム状の皮膜を形成する性質を有するポリマーを含有した水溶液である。そのようなポリマーとしてはポリビニルアルコール系、酢酸ビニル系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系などが挙げられる。
ポリビニルアルコール系ポリマーを使用する際は、粉体や粒状の樹脂を水に溶解させても良く、繊維化したものを水に溶解させても良いが、屋外で簡便に防塵剤を調整するためには、繊維化したものを使用することが好ましい。
【0015】
水溶液中における前記ポリマーの濃度としては0.1〜10重量%であることが好ましい。ポリマーの濃度が0.1重量%未満であると防塵効果が得られず、逆に10重量%よりも多いと散布・塗布性が低下する問題がある。より好ましくは0.2〜7重量%であり、さらに好ましくは0.4〜5重量%である。
【0016】
上記した、乾燥することで固化する性質を有する水溶液中に添加するショートカット繊維の添加量は0.1〜10重量%であることが好ましい。ショートカット繊維の添加量が0.1重量%未満であると生成する不織布の強度が得られ難く、逆に10重量%よりも多いと分散性および散布・塗布性が低下する問題がある。より好ましくは0.2〜5重量%であり、さらに好ましくは0.4〜3重量%である。
【0017】
本発明の防塵剤の散水方法としてはシャワー、スプレー、如雨露などが挙げられるが、被固化体の表面を被覆し、防塵効果が発現される程度に前記防塵剤が散布できるのであれば、何等限定されない。
【0018】
上記のような方法にて本発明の防塵剤を被固化面に散水後、乾燥固化させ、防塵固化材を形成させる。乾燥方法としては天日や風等による自然乾燥が一般的であるが、送風機や加熱機の使用も可能である。
【0019】
乾燥後、固化した後の被固化体表面には被膜状の不織布形状の防塵固化材が形成され、覆われていることが好ましい。
形成される不織布形状物は被固化体の形状によって異なるが、不織布形状を形成する為には、ショートカット繊維を2.5g/m以上、より好適には5.0g/m以上含有していることが好ましく、かつ不織布が十分な強度を有するという点から、目付けが5g/m以上であることが好ましく、10g/m以上であることがさらに好ましい。より好ましくは20g/mである。
【0020】
被固化体の表面を被覆する不織布形状物の強度は風速15〜20m/秒の空気を吹き付けても、被固化体および付着している粉塵が飛散しない程度の強度を有することが好ましく、より好ましくは風速25〜30m/秒の空気を吹き付けても、被固化体および付着している粉塵が飛散しない程度の強度を有することが好ましい。
【0021】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等
限定されるものではない。なお以下の実施例において、各物性値は以下の方法により測定
したものである。なお、実施例中の部及び%はことわりのない限り質量に関するものであ
る。
【0022】
[不織布形状物の皮膜強度]
風速15〜20m/秒および25〜30m/秒のエアーを固化体に吹き付け、粉塵および固化体の飛散の有無を目視で3段階評価した(良
A>B>C 悪)。
【0023】
[防塵性評価]
A 25〜30m/秒のエアーで粉塵、ウッドチップの飛散なし
B 15〜20m/秒のエアーでは飛散はないが、25〜30m/秒のエアーでは飛散あり
C 15〜20m/秒のエアーで粉塵、ウッドチップの飛散あり
【0024】
[不織布の目付け]
JIS L1913試験法に準じて測定。なお、目付けは最大目付けであり、防塵在中の固化成分が全て不織布となったと仮定したものとして測定。
【0025】
表1に実施例1〜6、比較例1〜3として組成を示す。実施例1〜6は本発明を適用したショートカット繊維を含有する防塵剤の実施例、比較例1〜3はショートカット繊維を含有しない固化剤の例である。また、実施例1〜3、5は固化成分としてPVA樹脂を使用したが、実施例6はPVA繊維を水に溶解させ、固化成分とした。
【0026】
【表1】

【0027】
[実施例1]
平均重合度1700、鹸化度96%のポリビニルアルコール樹脂を3重量%溶解した水溶液に、水中溶解温度70℃、カット長4mmのポリビニルアルコール繊維を2重量%添加した。ショートカット繊維の分散性は良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて散布することが出来た。
【0028】
[実施例2]
実施例1と同じポリビニルアルコール樹脂を1重量%溶解した水溶液に、実施例1と同じポリビニルアルコール繊維を2重量%添加した。実施例1と同様に分散性は良好で、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて非常に均一に散布することができた。
【0029】
[実施例3]
平均重合度1700、鹸化度99%のポリビニルアルコール樹脂を3重量%溶解した水溶液に、実施例1と同じポリビニルアルコール繊維を2重量%添加した。ショートカット繊維の分散性は実施例1よりは劣るものの良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて散布することができた。
【0030】
[実施例4]
ポリ酢酸ビニルエマルジョン樹脂を2重量%溶解した水溶液に、実施例1と同じポリビニルアルコール繊維を2重量%添加した。ショートカット繊維の分散性は良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて散布することができた。
【0031】
[実施例5]
平均重合度1700、鹸化度96%のポリビニルアルコール樹脂を3重量%溶解した水溶液に、カット長4mmのポリエチレンテレフタレート繊維を2重量%添加した。ショートカット繊維の分散性は良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて散布することができた。
【0032】
[実施例6]
水溶性ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、鹸化度96%)を原料として作製したPVA繊維を3重量%溶解した水溶液に、実施例1と同じポリビニルアルコール繊維を2重量%添加した。ショートカット繊維の分散は非常に良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて非常に均一に散布することができた。
【0033】
[実施例7]
水溶性ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、鹸化度96%)を原料として作製したPVA繊維を0.25重量%溶解した水溶液に、実施例1と同じポリビニルアルコール繊維を0.25重量%添加した。ショートカット繊維の分散は非常に良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて非常に均一に散布することができた。
【0034】
[比較例1]
ショートカット繊維の添加が無い、平均重合度1700、鹸化度99%のポリビニルアルコール樹脂を3重量%溶解した水溶液を調製した。
【0035】
[比較例2]
ショートカット繊維の添加が無い、平均重合度1700、鹸化度99%のポリビニルアルコール樹脂3重量%および硼酸を3重量%/PVA樹脂を溶解させた水溶液を調製した。
【0036】
[比較例3]
ショートカット繊維の添加が無い、ポリ酢酸ビニル樹脂を3重量%を溶解させた水溶液を調製した。
【0037】
[比較例4]
水溶性ポリビニルアルコール樹脂(平均重合度1700、鹸化度96%)を原料として作製したPVA繊維を0.15重量%溶解した水溶液に、実施例1と同じポリビニルアルコール繊維を0.15重量%添加した。ショートカット繊維の分散は非常に良好であり、穴径1mmのノズル(株式会社工進製蓄圧式噴霧器HS−251BT)を用いて非常に均一に散布することができた。
【0038】
これらの防塵剤を黒土(厚さ2cm、25×30cm)およびウッドチップ(1片の厚さ3〜5mm、大きさ約2×4cm)を堆積させたもの(厚さ2cm、25×30cm)にそれぞれスプレーし、風乾を3日行った後にエアーを噴きつけて粉塵およびウッドチップの飛散を評価した。結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に示したとおり、ショートカット繊維を含有する防塵剤は、黒土およびウッドチップ表面のpHに関わり無く被膜状の不織布を生成することで、高い防塵効果が得られた。濃度が低い防塵剤を使用した際は3l/m散布することで、濃度が高い防塵剤と同様の効果が得られた。
【0041】
また同表からわかるように、ウッドチップ表面に生成した被膜状の不織布によりウッドチップが固化され、エアーによる飛散を防止する効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の防塵剤は広範囲のpHの土壌、更には土壌のみならず、瓦礫や木材等であっても、それら表面に被膜状の不織布を生成することで防塵効果を有するので、土壌や瓦礫、木材などから発生する粉塵の飛散を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の防塵剤を散布した後に被固化体の表面に不織布形状が形成された状態を示す写真(写真1〜2)。
【図2】本発明の防塵剤を散布した後に被固化体の表面に形成した不織布形状物の形態を示すSEM写真(写真3〜4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥することで固化する性質を有する水溶液中にショートカット繊維を含有することを特徴とする防塵剤。
【請求項2】
請求項1記載の防塵剤を散布した後に被固化体の表面に不織布形状が形成されることを特徴とする防塵固化材。
【請求項3】
前記ショートカット繊維を2.5g/m以上含み、目付が5g/m以上である不織布形状が形成されてなる請求項2記載の防塵固化材。

【図1】
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【図2】
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