説明

防寒衣服およびその製造方法

【課題】均一性に優れた効率のよい保温性、具体的には、軽量化を図りつつ充分な保温効果を得ることができる保温性を有する防寒衣服を提供する。
【解決手段】本発明の防寒衣服は、表地1と中地2と裏地3とを積層した防寒衣服であって、中地2を表地1に対して線状に止着した表止着線4と、表地1と中地2と2本の表止着線4により画される表側区画6と、中地2を裏地3に対して線状に止着した裏止着線と、裏地3と中地2と2本の裏止着線により画される裏側区画7と、これら表側区画および裏側区画に収容された中材8とを有し、表止着線4と裏止着線とは互いに重ならないように配されており、中地2の通気量が5cc/cm/sec以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽毛、羽根、綿等の中材を備えた保温効果の高い防寒衣服とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、表地と裏地との間に羽毛や羽根や中綿等の如き中材を収容した積層構造の防寒衣服は、中材が移動して偏ることがないよう、表地と裏地とを縫い合わせていくつかの区画を形成し、各区画に中材を閉じ込めた構造になっている。しかし、かかる構造では、区画の境界(すなわち縫い目)において中材が存在しない状態になるため、ここから内部の暖気が放散されて保温性を損なうという問題があった。
【0003】
防寒衣服におけるこのような問題を解決する手段としては、表地と裏地との間に中地を介入させ、中地を表地と裏地に交互かつ平行に縫着して二重かつ交互に区画を形成し、該区画に羽毛を充填した構造が提案されている(特許文献1、第二図参照)。この構造は、換言すれば、表地と裏地の間に中地を設け、表地と中地で形成される区間の境界(縫合線)と、裏地と中地で形成される区画の境界(縫合線)とが重ならないようにした2層構造である。
【0004】
なお、区画の境界に中材が存在しないことにより保温性を損なうといった問題は、布団などの用途においても同様に起こるものであり、前記特許文献1に記載の如き2層構造を適用した羽毛布団も知られている(特許文献2、3参照)。
【0005】
しかしながら、主に羽毛布団に関する特許文献1〜3で開示された2層構造をダウンウエア等の防寒衣服に単に適用しても、防寒衣服として必要である均一な保温性は得られないと考えられる。
【0006】
すなわち、上記2層構造を布団に適用する場合においては、体温によって温められた暖気が身体を覆う部分(身体に接する部分)に留まり、身体に直接接しない外縁の部分にまでは到達しない方が、身体保温性の点でむしろ有利であると言える。上述した従来の2層構造は、中地と表地または裏地とで形成される各区画がそれぞれ独立して体温等で温められた暖気を保持するようになっているので、かかる布団に求められる保温性を実現するうえでは有効である。しかしながら、防寒衣服においては、逆に、一部分で温められた暖気が衣服内部の各所にまで均等に行き渡る方が、着用者の身体全体を効率よく保温することができ、望ましい。防寒衣服に求められるこのような均一性の高い保温は、上述した従来の2層構造では実現し得なかったものである。
【0007】
また、防寒衣服としては、近年、軽量で且つ保温性に優れたものが要望されており、中材の使用量を少量に抑えて軽量化を図りつつも充分な保温効果を発揮させることが求められている。しかし、上述した従来の2層構造を適用しただけの防寒衣服では、保温性は各区画に収容されている中材の量に依存することになるので、軽量化しつつ充分な保温効果を保持させることは難しい。
【0008】
なお、近年、羽毛等の中材入りの衣服として、表地と裏地とを有し、かつその間に羽毛と、所定の通気量を有する朱子織物または不織布とを備えた衣服が知られている(特許文献4、5参照)。しかし、これらの衣服は、洗濯時の問題(洗液浸透および脱水性)を改善することを目的に、衣服の厚み方向に通気性を持たせたものであり、身体の均一な保温性に関しては改良されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】昭和17年実用新案出願公告第2007号公報
【特許文献2】実開昭62−190569号公報
【特許文献3】特開平11−178687号公報
【特許文献4】特開2005−68571号公報
【特許文献5】特開2005−194649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、均一性に優れた効率のよい保温性、具体的には、軽量化を図りつつ充分な保温効果を得ることができる保温性を有する防寒衣服とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し得た本発明の防寒衣服とは、表地と中地と裏地とを積層した防寒衣服であって、前記中地を前記表地に対して線状に止着した表止着線と、前記表地と前記中地と2本の表止着線により画される表側区画と、前記中地を前記裏地に対して線状に止着した裏止着線と、前記裏地と前記中地と2本の裏止着線により画される裏側区画と、これら表側区画および裏側区画に収容された中材とを有し、前記表止着線と前記裏止着線とは互いに重ならないように配されており、前記中地の通気量が5cc/cm/sec以上であることを特徴とするものである。このように上述した従来の2層構造において一定以上の通気性を有する中地を用いることによって、中地で画された隣り合う区画間で空気の移動が可能になり、その結果、衣服内部の隅々にまで均等に暖気が行渡り、均一性に優れた保温が可能な防寒衣服となる。
【0012】
本発明の防寒衣服においては、蓄熱材および/または発熱材を含有していることが好ましい。蓄熱材を含有する場合には、表地から透過した太陽光を吸収して熱が蓄積され、発熱材を含有する場合には、例えば吸湿発熱材であれば汗や衣服内に篭った湿気により発熱するので、それらの熱でさらに発生した暖気が衣服内部を巡り、保温均一性がより向上する。例えば、背面から太陽光を受けて後身頃で蓄熱されると、それによって温められた暖気が通気性のある中地を通過して前身頃にまで移動するので、太陽光が当たらない前面にも暖かさが伝わる。なお、蓄熱材および/または発熱材は、表地、中地、裏地、中材のいずれに含有されていてもよいが、蓄熱もしくは発熱した熱の放散を抑えるうえで、裏地に含有されているのが好ましい。
【0013】
本発明の防寒衣服においては、前記中地、前記表地、前記裏地のいずれか少なくとも一つの伸度が10%以上であることが好ましい。前記中地、前記表地、前記裏地のいずれか少なくとも一つが所定の伸縮性を有することにより、衣服自体にストレッチ性を付与でき、着心地よく着用できる防寒衣服となる。ただし、前記表地および前記裏地については、羽毛などの中材が通り抜けて衣服表面に飛び出さないだけの緻密性を有することが要求される。一般に、伸度が大きくなると緻密性は低下する傾向があるため、伸度を前記範囲に設計する際には、緻密性とのバランスを考慮することが望まれる。これに対して、前記中地においては、緻密性とのバランスを考慮する必要はないので、前記中地、前記表地および前記裏地の中では特に、中地の伸度を前記範囲に設計するのが好ましい。
【0014】
本発明の防寒衣服においては、前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う表止着線間では前記表地の長さが前記中地の長さよりも長く、隣り合う裏止着線間では前記裏地の長さが前記中地の長さよりも長いことが好ましい。例えば、前記中地の伸度を前記範囲に設定して衣服自体のストレッチ性を向上させようとする場合、表地または裏地の長さが中地の長さと同じかそれよりも短いと、中地が伸び始めるより先に、表地または裏地によって衣服自体の伸びが制限されることになり、中地が有する伸びを活かすことができなくなる。
【0015】
さらに、本発明の防寒衣服においては、前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う表止着線間では前記中地の長さが前記表地の長さよりも長くなるよう設定してもよいし、隣り合う裏止着線間では前記中地の長さが前記裏地の長さよりも長くなるよう設定してもよい。これらの場合には、必要に応じて、前記表地または前記裏地に、緻密性と両立させうるような方法でストレッチ性を付与することが望ましい。他方、衣服自体のストレッチ性よりもむしろ、製造時の作業性(特に縫製のし易さ)を重視する場合には、前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う表止着線間では前記表地の長さが前記中地の長さと略等しく、隣り合う裏止着線間では前記裏地の長さが前記中地の長さと略等しくなるよう設計することが好ましい。
【0016】
また、本発明の第一の防寒衣服の製造方法は、表地と中地と裏地とを積層した防寒衣服の製造方法であって、前記中地の複数の箇所に、前記裏地側に対して突出する帯線状の重ね代を形成する工程と、前記中地と前記表地との間に中材を挟持した状態で前記重ね代を除く複数箇所において前記中地と前記表地とを線状に止着した表止着線を形成することにより、前記表地と前記中地と2本の表止着線により画されかつ内部に中材を有する表側区画を構成する工程と、前記中地の重ね代と前記裏地とを線状に止着して裏止着線を形成することにより、前記裏地と前記中地と2本の裏止着線により画される裏側区画を構成する工程と、前記裏側区画に中材を挿入する工程とを有する。このような第一の製造方法によれば、縫合によって表側区画の形成と中材の挿入とを同じ工程で行えるので、簡便に効率よく本発明の防寒衣服を製造することができる。ここで、前記重ね代の形成は、2枚の中地を所定幅の縫代を残して縫合することにより行うことが、作業性の点で好ましい。
【0017】
また、本発明の第二の防寒衣服の製造方法は、表地と中地と裏地とを積層した防寒衣服の製造方法であって、前記中地と、前記表地または前記裏地とを線状に止着することにより表止着線または裏止着線である第一止着線を形成する工程と、次いで、前記中地と、前記表地または前記裏地とを線状に止着することにより表止着線または裏止着線である第二止着線を形成する工程と、以降順次、Nを3以上の自然数、nを3以上N以下の自然数として、前記中地と、前記表地または前記裏地とを線状に止着することにより表止着線または裏止着線である第n止着線を形成する工程とを有し、前記第一止着線ないし前記第N止着線は、第一から第Nの順に並列に配されたものであり、次いで、前記表地と前記中地と隣り合う2本の表止着線により画される表側区画、および、前記裏地と前記中地と隣り合う2本の裏止着線により画される裏側区画に中材を挿入する工程とを有する。このような第二の製造方法によれば、中地と表地または裏地との止着を縫合によって行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、中材を収容する表側区画および裏側区画が一定以上の通気性を有する中地で画されているので、隣り合う区画間で空気の移動が可能になり、その結果、衣服内部の隅々にまで均等に暖気が行渡り、均一性に優れた効率のよい保温性を発現するという効果が得られる。これにより、軽量化を図りつつ充分な保温効果を発揮する防寒衣服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の防寒衣服の一実施形態を前身頃側から見たときの正面図である。
【図2】図1に示す実施形態について、防寒衣服の前身頃をX−X線で切断したときの拡大断面斜視図である。
【図3】本発明の防寒衣服の他の実施形態について、防寒衣服の前身頃を図2と同様に切断したときの断面斜視図である。
【図4】本発明の防寒衣服のさらに他の実施形態について、防寒衣服の前身頃を図2と同様に切断したときの断面斜視図である。
【図5】本発明の第一の防寒衣服の製造方法を説明するための概念図である。
【図6】本発明の第一の防寒衣服の製造方法における各段階(a)〜(d)を説明するための工程断面図である。
【図7】本発明の第二の防寒衣服の製造方法を説明するための概念図である。
【図8】本発明の第二の防寒衣服の製造方法における各段階(a)〜(f)を説明するための工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(防寒衣服)
以下、本発明に係る防寒衣服に関し、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1および図2に、本発明の防寒衣服の一実施形態であるダウンジャケットを示す。図1はダウンジャケットを前身頃側から見たときの正面図であり、図2はダウンジャケットの前身頃をX−X線で切断したときの拡大断面斜視図である。
【0021】
本発明の防寒衣服においては、表地1と中地2と裏地3とが積層されており、中地2を表地1に対して線状に止着した表止着線4と、中地2を裏地3に対して線状に止着した裏止着線5とが、互いに重ならないように複数配されている。そして、表地1と中地2と2本の表止着線4により画される表側区画6と、裏地3と中地2と2本の裏止着線5により画される裏側区画7には、中材8が収容されている。
【0022】
本発明においては、中地2の通気量が5cc/cm/sec以上であることが重要であり、好ましくは、10cc/cm/sec以上、より好ましくは15cc/cm/sec以上であるのがよい。中地2の通気量が5cc/cm/sec未満であると、隣り合う区画間で空気の移動ができなくなり、衣服内部の隅々にまで均等に暖気が行渡り、均一性に優れた保温性を発現するという本発明の効果が得られなくなる。一方、中地2の通気量があまりに多すぎると、羽毛などの中材8が中地2を通りぬけ中材8が偏ってしまうおそれがあるので、中地2の通気量は、好ましくは50cc/cm/sec以下、より好ましくは40cc/cm/sec以下、さらに好ましくは30cc/cm/sec以下であるのがよい。なお、本発明において、通気量は、JIS−L−1096(フラジール法)に従って測定されるものとする。
【0023】
本発明においては、中地2、表地1、裏地3のいずれか少なくとも一つの伸度が10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上であるのがよい。伸度が10%未満であると、衣服にストレッチ性が付与されにくく、着心地が悪くなる場合があるからである。ここで、伸度は、経緯方向およびバイアス方向のいずれの方向に関する伸度であってもよく、少なくともいずれか一方向の伸度が前記範囲であればよい。また、中地2、表地1および裏地3の中では特に、中地2の伸度を前記範囲に設定するのが好ましい。一方、中地2、表地1、裏地3の伸度は、上限は特にないが、あまりに大きすぎると、羽毛などの中材8が中地2、表地1、裏地3を通りぬけてしまうおそれがあるので、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。なお、本発明において、伸度は、JIS−L−1096 B−1(定荷重法)に従って測定されるものとする。
【0024】
さらに、中地2、表地1、裏地3の伸度は、それぞれ、衣服を構成する部位ごとに異なるよう設計してもよく(例えば、ジャケットであれば、肘や肩甲骨の部分の伸度を、他の部分の伸度よりも大きく設定する等)、その場合には、よりストレッチ性が高く着心地の良い防寒衣服にすることができる。具体的には、例えば、中地2、表地1または裏地3として、部位ごとに糸の種類、糸の本数もしくは織編の方法を変えた一枚の織編物を用いるか、糸の種類、糸の本数もしくは織編の方法が異なる複数の織編物を繋ぎ合わせて用いるなどすればよい。
【0025】
前記中地2は、前記範囲の通気性を有するものであれば特に制限されるものではなく、前記表地1および前記裏地3は、羽毛などの中材8が通り抜けて衣服表面に飛び出さない程度の緻密性を有するものであれば特に制限されるものではない。中地2、表地1、裏地3として用いる生地(織編物)の織組織、編組織、糸材料(組成)、目付けなどは、適宜設定すればよく、限定はされないが、例えば、織物であれば、平織、綾織、斜文織、朱子織などの組織の織物を挙げることができ、編物であれば、丸編み、緯編み、経編みなどの組織の編物を挙げることができる。伸縮性を持たせた中地2の好ましい一例としては、例えば、通気量が20cc/cm/sec、経方向の伸度が24.9%、緯方向の伸度が17.8%である、ポリエステル84%/ポリウレタン16%混合糸からなる平織の生地が挙げられる。
【0026】
なお、緻密性を要する表地1および裏地3にストレッチ性を付与しようとする場合には、編物(ニット)にウレタン等のコーティングを施した生地のごときストレッチ性の高い生地を用いたり、織組織のバイアス方向を表止着線または裏止着線に直角に交わるように向けて使用したりすればよい。
【0027】
前記表止着線4または裏止着線5に直交する面(すなわち図2に示す断面)において、隣り合う表止着線間Yでは表地1の長さが中地2の長さよりも長く、隣り合う裏止着線間Zでは裏地3の長さが中地2の長さよりも長いことが好ましい。例えば、前記中地2の伸度が経緯とも10%以上である場合、表地1および裏地3の長さが中地2の長さよりも短いと、表地1または裏地3の長さによって中地2の伸びが制限されることになり、中地2の伸度に関わらず表地1または裏地3によって衣服のストレッチ性が制約されるからである。
【0028】
ただし、後述するように表地1および裏地3にストレッチ性を付与した場合には、前記表止着線4または裏止着線5に直交する面において、隣り合う表止着線間Yでは前記中地2の長さが前記表地1の長さよりも長くなるよう設定してもよいし、隣り合う裏止着線間Zでは前記中地2の長さが前記裏地3の長さよりも長くなるよう設定してもよい。さらに、製造時の作業性(特に縫製のし易さ)を重視する場合には、前記表止着線4または裏止着線5に直交する面において、隣り合う表止着線間Yでは前記表地1の長さが前記中地2の長さと略等しく、隣り合う裏止着線間Zでは前記裏地3の長さが前記中地2の長さと略等しくなるよう設計することが好ましい。
【0029】
前記中地2を前記表地1または前記裏地3に線状に止着する手段としては、縫合が一般的であるが、これに限定されるものではなく、例えば、接着などの手段を採用してもよい。
【0030】
前記中材8としては、例えば、羽毛(ダウン)、羽根(フェザー)、綿などが、単独でもしくは併用して用いられる。中でも、羽毛、羽根またはそれらの混合物が好ましい。
【0031】
本発明の防寒衣服は、蓄熱材および/または発熱材を含有していることが好ましい。蓄熱材を含有する場合には、表地から透過した太陽光を吸収して熱が蓄積され、発熱材を含有する場合には、例えば吸湿発熱材であれば汗や衣服内に篭った湿気により発熱するので、それらの熱でさらに発生した暖気が衣服内部を巡り、均一保温性がより向上する。例えば、背面から太陽光を受けて後身頃で蓄熱されると、それによって温められた暖気が前身頃にまで移動するので、太陽光が当たらない前面にも暖かさが伝わる。なお、蓄熱材および/または発熱材は、表地、中地、裏地、中材のいずれに含有されていてもよいが、蓄熱もしくは発熱した熱の放散を抑えるうえでは、裏地に含有されているのが好ましい。
【0032】
本発明の防寒衣服においては、前記表止着線4と前記裏止着線5とが互いに重ならないように複数配されていればよく、隣り合う表止着線間Yのピッチと隣り合う裏止着線間Zのピッチの比率(Y:Z)は、図1および図2に示す実施形態の如く任意の比率で異なっていてもよいし、図3に示す実施形態の如く同じであってもよい。好ましくはY:Z=1:2〜3、より好ましくはY:Z=1:1であるのがよい。なお、ピッチの比率(Y:Z)はYとZが入れ替わっていてもよく、例えばZ:Y=1:2〜3としてもよい。
【0033】
また、本発明の防寒衣服においては、表止着線4および裏止着線5以外の止着線が形成されていてもよく、例えば任意のデザインとなるよう縫合によりステッチ(縫合線)を形成することができる。ただし、その場合には、図4に示す実施形態の如く、表止着線4および裏止着線5以外の止着線9が互いに平行になる(換言すれば、互いに重ならない)ようにすることが望ましい。そうすれば、少なくとも平行に配された2本の止着線9で囲まれた領域においては空気の移動が可能になり、衣服の離れた部分にまで暖気を行渡らせることができる。なお、逆に、表止着線4および裏止着線5以外の止着線を形成することにより、敢えて暖気の移動を遮断して、熱が伝わる領域を制御するようにしてもよい。
【0034】
(防寒衣服の製造方法)
以下、本発明に係る防寒衣服の製造方法に関し、図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図5および図6を用いて第一の製造方法を説明し、次いで、図7および図8を用いて第二の製造方法を説明する。なお、これら第一および第二の製造方法は、本発明の防寒衣服を得るのに適した方法ではあるが、上述した本発明の防寒衣服が第一および第二の製造方法で得られたものに限定される訳ではない。
【0035】
図5は、第一の製造方法を説明するための概念図である。図5には、第一の製造方法における各生地および中材の積層状態と各止着線の配置を示す。また、図6は、第一の製造方法の各段階(a)〜(d)における工程断面図である。
本発明の第一の製造方法は、下記の工程(I)〜(IV)を経て防寒衣服を作製するものである。
【0036】
工程(I);中地2に、裏地3側に対して突出する帯線状の重ね代10を複数形成する。工程(I)において重ね代10の形成は、図5および図6(a)に示すように、2枚の中地2を所定幅の縫代を残して縫合することにより行うことが好ましい。勿論、重ね代の形成方法はこれに限定されるものではなく、例えば、1枚の中地2に対して帯線状のリボンを縫合や接着等により止着するなどしてもよい。この工程(I)は、通常、後述する工程(II)に先立ち行われるが、例えば帯線状のリボンを接着等で止着する方法を採用すれば、工程(II)の後に行うこともできる。
【0037】
なお、後述する工程(III)で形成する裏止着線5の位置は、工程(I)で形成する複数の重ね代10の位置に応じて決まることになるので、工程(I)で複数の重ね代10を形成する際に、後に形成しようとする裏止着線5の配置を考慮しておくことが望ましい。
【0038】
工程(II);図6(a)に示すように、中地2と表地1との間に中材8を挟持した状態で重ね代10を除く複数箇所αにおいて中地2と表地1とを線状に止着した表止着線4を形成する。これにより、図6(b)に示すように、表地1と中地2と2本の表止着線4により画されかつ内部に中材8を有する表側区画6が構成される。この工程(II)における表地1と中地2との止着の手段としては縫合が一般的であるが、これに限定されるものではなく、例えば、接着などの手段を採用してもよい。
【0039】
工程(III);中地2の重ね代10と裏地3とを線状に止着して裏止着線5を形成する。つまり、図6(c)に示すように、中地2の重ね代10と裏地3とが重なる箇所βにおいて重ね代10と裏地3とを線状に止着する。これにより、裏地3と中地2と2本の裏止着線5により画される裏側区画7が構成される。この工程(III)における裏地3と重ね代10との止着は、縫合により行ってもよいし接着等により行ってもよい。ただし、縫合により止着する場合には、中地2に設けられた複数の重ね代10のうち、中地2の一方の端部(すなわち、重ね代10に対向する辺)に近いものから、他方の端部に近いものにむけて順に縫合していけばよい。
【0040】
工程(IV);裏側区画7に中材8を挿入する。詳しくは、裏側区画7において、紙面に対し垂直方向(手前および奥)に存在する裏側区画7の開口部から、図6(d)に示すように中材8を挿入する。中材8の挿入は、羽毛充填機を用いるなど公知の手法によればよい。挿入する中材8の量などは、中材8の種類(嵩高さ)や所望する防寒衣服の保温性と軽量性とのバランス等に応じて適宜設定される。
【0041】
図7は、第二の製造方法を説明するための概念図である。図7には、第二の製造方法における各生地および中材の積層状態と各止着線の配置を示す。また、図8は、第二の製造方法の各段階(a)〜(f)における工程断面図である。本発明の第二の製造方法は、下記の工程(I−1)〜(I−N)および工程(II)を経て防寒衣服を作製するものである。
【0042】
工程(I−1);中地2と、表地1または裏地3とを線状に止着することにより表止着線4または裏止着線5である第一止着線L1を形成する。具体的には、例えば、図8(a)に示すように、中地2と表地1とを図中の破線箇所α1で縫合することにより、図8(b)に示す表止着線4(L1)が形成される。
【0043】
工程(I−2);工程(I−1)に次いで、中地2と、表地1または裏地3とを線状に止着することにより表止着線4または裏止着線5である第二止着線L2を形成する。具体的には、例えば、図8(b)に示すように、中地2と裏地3とを図中の破線箇所β1で縫合することにより、図8(c)に示す裏止着線5(L2)が形成される。
【0044】
工程(I−n);工程(I−2)に次いで、以降順次、Nを3以上の自然数、nを3以上N以下の自然数として、中地2と、表地1または裏地3とを線状に止着することにより表止着線4または裏止着線5である第n止着線Lnを形成する。具体的には、例えば、図8(d)に示す表止着線4(L3)は、図8(c)に示すように中地2と表地1とを図中の破線箇所α2で縫合することにより形成され、図8(e)に示す裏止着線5(L4)は、図8(d)に示すように中地2と裏地3とを図中の破線箇所β2で縫合することにより形成され、図8(f)に示す表止着線4(L5)は、図8(e)に示すように中地2と表地1とを図中の破線箇所α3で縫合することにより形成される。以上の工程をnがNになるまで繰り返す。
【0045】
以上の工程(I−1)ないし工程(I−N)において、第一止着線L1ないし前記第N止着線LNは、第一から第Nの順に並列に配されたものである。
【0046】
工程(II);次いで、表地1と中地2と隣り合う2本の表止着線4,4により画される表側区画6、および、裏地3と中地2と隣り合う2本の裏止着線5,5により画される裏側区画7に中材8を挿入する。詳しくは、表側区画6および裏側区画7において、紙面に対し垂直方向(手前および奥)に存在する表側区画6の開口部および裏側区画7の開口部から、図8(f)に示すように中材8を挿入する。中材8の挿入は、羽毛充填機を用いるなど公知の手法によればよい。挿入する中材8の量などは、中材8の種類(嵩高さ)や所望する防寒衣服の保温性と軽量性とのバランス等に応じて適宜設定される。
【0047】
以上、本発明に係る防寒衣服とその製造方法に関して、図面を参照しつつ具体的に説明したが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0048】
1 表地
2 中地
3 裏地
4 表止着線
5 裏止着線
6 表側区画
7 裏側区画
8 中材
9 止着線
10 重ね代


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地と中地と裏地とを積層した防寒衣服であって、
前記中地を前記表地に対して線状に止着した表止着線と、前記表地と前記中地と2本の表止着線により画される表側区画と、前記中地を前記裏地に対して線状に止着した裏止着線と、前記裏地と前記中地と2本の裏止着線により画される裏側区画と、これら表側区画および裏側区画に収容された中材とを有し、
前記表止着線と前記裏止着線とは互いに重ならないように配されており、
前記中地の通気量が5cc/cm/sec以上であることを特徴とする防寒衣服。
【請求項2】
蓄熱材および/または発熱材を含有している請求項1に記載の防寒衣服。
【請求項3】
前記裏地が蓄熱材および/または発熱材を含有している請求項2に記載の防寒衣服。
【請求項4】
前記中地、前記表地、前記裏地のいずれか少なくとも一つの伸度が10%以上である請求項1〜3のいずれかに記載の防寒衣服。
【請求項5】
前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う表止着線間では前記表地の長さが前記中地の長さよりも長く、隣り合う裏止着線間では前記裏地の長さが前記中地の長さよりも長い請求項1〜4のいずれかに記載の防寒衣服。
【請求項6】
前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う表止着線間では前記中地の長さが前記表地の長さよりも長い請求項1〜4のいずれかに記載の防寒衣服。
【請求項7】
前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う裏止着線間では前記中地の長さが前記裏地の長さよりも長い請求項1〜4のいずれかに記載の防寒衣服。
【請求項8】
前記表止着線または裏止着線に直交する面において、隣り合う表止着線間では前記表地の長さが前記中地の長さと略等しく、隣り合う裏止着線間では前記裏地の長さが前記中地の長さと略等しい請求項1〜4のいずれかに記載の防寒衣服。
【請求項9】
表地と中地と裏地とを積層した防寒衣服の製造方法であって、
前記中地に、前記裏地側に対して突出する帯線状の重ね代を複数形成する工程と、
前記中地と前記表地との間に中材を挟持した状態で前記重ね代を除く複数箇所において前記中地と前記表地とを線状に止着した表止着線を形成することにより、前記表地と前記中地と2本の表止着線により画されかつ内部に中材を有する表側区画を構成する工程と、
前記中地の重ね代と前記裏地とを線状に止着して裏止着線を形成することにより、前記裏地と前記中地と2本の裏止着線により画される裏側区画を構成する工程と、
前記裏側区画に中材を挿入する工程とを有する防寒衣服の製造方法。
【請求項10】
前記重ね代の形成は、2枚の中地を所定幅の縫代を残して縫合することにより行う請求項9に記載の防寒衣類の製造方法。
【請求項11】
表地と中地と裏地とを積層した防寒衣服の製造方法であって、
前記中地と、前記表地または前記裏地とを線状に止着することにより表止着線または裏止着線である第一止着線を形成する工程と、次いで、
前記中地と、前記表地または前記裏地とを線状に止着することにより表止着線または裏止着線である第二止着線を形成する工程と、以降順次、
Nを3以上の自然数、nを3以上N以下の自然数として、
前記中地と、前記表地または前記裏地とを線状に止着することにより表止着線または裏止着線である第n止着線を形成する工程とを有し、
前記第一止着線ないし前記第N止着線は、第一から第Nの順に並列に配されたものであり、
次いで、前記表地と前記中地と隣り合う2本の表止着線により画される表側区画、および、前記裏地と前記中地と隣り合う2本の裏止着線により画される裏側区画に中材を挿入する工程とを有する防寒衣服の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−202295(P2011−202295A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68910(P2010−68910)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (A)株式会社デサント発行、「10FW DESCENTEATHLETIC 商品政策骨子」、2010年1月21日 (B)株式会社日本繊維新聞社発行、日本繊維新聞、平成22年1月25日 (C)株式会社繊研新聞社発行、繊研新聞、平成22年1月25日 (D)株式会社センイ・ジヤァナル発行、センイ・ジヤァナル、平成22年2月10日 (E)株式会社日本運動具新報社発行、スポーツ産業新報、平成22年2月10日
【出願人】(591038820)株式会社デサント (42)
【Fターム(参考)】