説明

防曇剤組成物

【課題】 本発明の主目的は、ガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面に、簡便な方法で、高い防曇性及び防汚性を付与できる防曇剤組成物でありながらも、耐水性及び耐久性に優れた防曇被膜を形成でき、その上防曇効果の持続性及び反復性に優れる防曇剤組成物を提供することにある。
【解決手段】
(A)一般式:R−O[−R−O]−R−SiR(OR3−n
(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜8の1価炭化水素基、R及びRは炭素数が1〜8の2価炭化水素基、nは0または1、mは1〜200の整数である。)で示されるシラン化合物と、
(B)塩基性のコロイダルシリカゾル
とを共加水分解・縮合反応させたものを含むことを特徴とする防曇剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇剤組成物に関し、より詳細には、ガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面に防曇性を付与する防曇剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物や自動車の窓ガラスや鏡等のガラス製品、金属、合成樹脂成形品などでは、その表面温度が露点以下になると、空気中の水蒸気がその表面に凝結して細かい水滴となって付着し、透明性が低下して、いわゆる曇り現象が現れる。例えば、自動車のドアミラーやウインドウガラス等は寒冷期になると凝縮湿分によって表面が曇り、可視性が失われる。また、浴室や洗面所等の鏡では、湯気により表面に細かい水滴が付着して曇ったり、前記細かい凝縮水滴が互いに融合してやや大きな水滴になると、反射像が乱されたりする。さらに、凝縮水滴が付着した成形品をそのまま乾燥すると、水滴に取り込まれた空気中の塵芥に起因する汚れが例えば斑状に成形品表面に残る。
【0003】
上記のような曇り現象を防止するための一般的な方法としては、防曇剤組成物を用いて防曇性の塗膜を作製する方法が簡便であり、広く各種成形品の表面に防曇性を付与することができるものとして知られている。一例として、ガラス等の表面に、界面活性剤水溶液又は界面活性剤と親水性ポリマーとを含む溶液を塗布することにより曇りを防ぐ方法が知られている。しかしながら、防曇性が高い防曇剤組成物は非常に親水性が高く、水と相互作用を起こしやすいという性質を本来的に有する。従って、このような界面活性剤水溶液を塗布する方法では、被膜が水で簡単に洗い流されていまい、防曇性の持続性が短く、また、親水性ポリマーを用いた方法でも、得られる被膜が耐水性に劣るため、流水にさらすとすぐに効果が失われるという問題があった。その為、良好な防曇性の塗膜を簡便に作製できる防曇剤組成物でありながらも、耐久性及び耐水性を有する防曇剤組成物が望まれていた。
【0004】
上記の問題を解決することを目的として、特許文献1、特許文献2及び特許文献3には、シリカゾルとアルミナゾルと界面活性剤とを含む防曇剤組成物が提案されている。しかしながら、この防曇剤組成物により得られる防曇被膜は、ガラス等に対する密着性及び耐磨耗性に乏しく、剥がれやすいという欠点を有する。その上、一般にこのような界面活性剤等を用いた防曇剤組成物は、界面活性剤等が表面にブリードアウトして初期の防曇性(初期防曇性)を示すが、防曇剤組成物中の界面活性剤等がすべてブリードアウトして出てしまえば防曇効果がなくなるため、該提案では防曇効果の耐久性も十分ではない。
【0005】
また、特許文献4には、基材の表面に、酸化チタンなどの光触媒材料とシリカとを含む光触媒性被膜を形成し、前記光触媒材料の光励起により被膜に親水性を発現させることで、基材の曇りや水滴形成を防止する防曇技術が提案されている。しかしながら、この方法では、酸化チタン等の光触媒を基材表面に焼き付けなければならず、引用文献1等の塗膜することができる組成物と比べ操作、作業が煩雑な上、光が当たらないと表面が親水化せず防曇性を発揮しないという欠点を有する。従って、前記問題の根本的解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭64−2158号公報
【特許文献2】特開平3−50288号公報
【特許文献3】特開平7−82398号公報
【特許文献4】特許第2756474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、本発明の主目的は、ガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面に、簡便な方法で、高い防曇性及び防汚性を付与できる防曇剤組成物でありながらも、耐水性及び耐久性に優れた防曇被膜を形成でき、その上防曇効果の持続性及び反復性にも優れる防曇剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、
(A)一般式:R−O[−R−O]−R−SiR(OR3−n
(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜8の1価炭化水素基、R及びRは炭素数が1〜8の2価炭化水素基、nは0または1、mは1〜200の整数である。)で示されるシラン化合物と、
(B)塩基性のコロイダルシリカゾル
とを共加水分解・縮合反応させたものを含むことを特徴とする防曇剤組成物を提供する。
【0009】
このような防曇剤組成物であれば、ガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面に、簡便な方法で、高い防曇性及び防汚性を付与できる防曇剤組成物でありながらも、耐水性及び耐久性に優れた防曇被膜を形成でき、その上防曇効果の持続性及び反復性に優れる防曇剤組成物を提供することができる。
【0010】
また、前記(A)シラン化合物のmが1〜100の整数であることが好ましい。
【0011】
このように、(A)シラン化合物のmが1〜100の整数であれば、上記した防曇剤組成物の特性がより顕著なものとなる。
【0012】
また、前記(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの固形分100質量部に対して、前記(A)シラン化合物0.1〜50質量部を共加水分解・縮合反応させたものであることが好ましい。
【0013】
このように、(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの固形分100質量部に対して、前記(A)シラン化合物0.1〜50質量部を共加水分解・縮合反応させたものであれば、防曇性や耐久性がよく、またコスト的にも有利な防曇剤組成物を得ることができる。
【0014】
更に前記(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの固形分100質量部に対し、(C)多価アルコールを1〜500質量部含むことが好ましい。
【0015】
このような(C)多価アルコールを含むことで、防曇剤組成物を塗布した場合に、塗膜が均一、透明になりやすく、かつ塗膜がべとついたり光芒を発生したりすることを防ぐことができ質の高い防曇膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、ガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面に、簡便な方法で、高い防曇性及び防汚性を付与できる防曇剤組成物でありながらも、耐水性及び耐久性に優れた防曇被膜を形成でき、その上防曇効果の持続性、反復性に優れる防曇剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、優れた防曇性を有し、持続性が長く、耐水性のある防曇剤組成物が望まれていた。
【0018】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定のシラン化合物と塩基性のコロイダルシリカゾルとを共加水分解・縮合反応させることにより、塩基性のコロイダルシリカゾル表面に該シラン化合物が結合しているものを含む防曇剤組成物を作製できることを知見し、該防曇剤組成物はガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面に、簡便な方法で、高い防曇性及び防汚性を持ちながらも、耐水性及び耐久性に優れた防曇被膜を形成でき、その上防曇効果の持続性、反復性に優れる防曇被膜を形成できることを見出し、本発明を完成した。以下、詳細に説明していく。
【0019】
本発明は、
(A)一般式:R−O[−R−O]−R−SiR(OR3−n
(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜8の1価炭化水素基、R及びRは炭素数が1〜8の2価炭化水素基、nは0または1、mは1〜200の整数である。)で示されるシラン化合物と、
(B)塩基性のコロイダルシリカゾル
とを共加水分解・縮合反応させたものを含むことを特徴とする防曇剤組成物を提供する。
【0020】
上記式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基であり、具体的には水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基が例示され、合成の容易さ及び加水分解性の観点から、メチル基、エチル基が好ましい。
【0021】
は炭素数が1〜4のアルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基が例示され、好ましくはメチル基である。
【0022】
は炭素数が1〜8の1価炭化水素基であり、具体的には鎖状、分枝状及び環状アルキル基が例示され、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0023】
、Rは炭素数が1〜8の2価炭化水素基であり、具体的には鎖状、分枝状及び環状アルキレン基が例示され、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基等が例示される。Rはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基がより好ましく、特にエチレン基が好ましい。Rは、同一でも異なる2種以上であってもよい。
は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基が好ましく、プロピレン基が特に好ましい。
【0024】
nは0または1であり、反応性の観点から0が好ましい。mは1〜200の整数であり、好ましくは1〜100の整数、特に有利には2〜40の整数である。
【0025】
このような(A)シラン化合物は、一連の3−[ポリ(エチレングリコール)モノメチルエーテル]プロピルトリアルコキシシラン、3−[ポリ(プロピレングリコール)モノメチルエーテル]プロピルトリアルコキシシラン、3−[ポリ(エチレングリコール−コプロピレングリコール)モノメチルエーテル]プロピルトリアルコキシシランが例示され、具体的には3−[(ポリエチレングリコール)モノメチルエーテル]プロピルトリエトキシシラン、3−[(ポリエチレングリコール)モノエチルエーテル]プロピルトリメトキシシラン、3−[(ポリエチレングリコール)モノメチルエーテル]エチルトリメトキシシラン、3−[(ポリエチレングリコール)モノブチルエーテル]プロピルトリメトキシシランおよび5−[(ポリエチレングリコール)モノメチルエーテル]ペンチルトリメトキシシランが例示される。
【0026】
このような(A)シラン化合物は、一種又は二種以上の混合物でもよい。
【0027】
本発明の防曇剤組成物に使用する(B)塩基性のコロイダルシリカゾルは、特にpHが8以上の塩基性下で分散安定しているコロイダルシリカが好ましい。コロイダルシリカが塩基性でないと、防曇耐久性が不十分となる。
【0028】
コロイダルシリカゾルは、一般式MeO・pSiO〔pは50〜300であり、MeはNa、RNまたはRN(Rは水素原子またはコリン、モノメチルトリエタノールアンモニウム等の有機基)である。〕で示される粒径5〜50nmのシリカ化合物が分散したコロイド溶液である。本発明の防曇剤組成物に使用する(B)塩基性のコロイダルシリカゾルとしては、SiO濃度20〜50質量%(より好ましくは30〜40質量%)のものを用いることができ、水分散系のものとアルコール等の有機溶媒分散系のものを用いることができる。本発明の防曇剤組成物に使用する(B)塩基性のコロイダルシリカゾルとしては、特に水分散系のコロイダルシリカゾルが好ましい。
【0029】
このような(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの市販品としては、日産化学社製の商品名スノーテックスS、スノーテックスC、スノーテックスN、スノーテックス20Lなどが好適に使用可能である。
【0030】
本発明の(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの質量部比は、(B)塩基性のコロイダルシリカゾル(一般式MeO・pSiO)の固形分100質量部に対し、(A)シラン化合物0.1〜50質量部であることが好ましく、更に好ましくは1.0〜30質量部であることが好ましい。この量が0.1質量部以上であれば初期の防曇性(初期防曇性)や耐久性がより良好となるため好ましい。また、この量が50質量部以下であればコスト的により有利となるため好ましい。
【0031】
また、(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルを反応させる時、溶媒を使用するのが好ましく、溶媒は特に水が好ましい。さらに、水に対し他の有機溶媒を併用することもできる。併用される有機溶媒としては、好ましくはアルコール系、ケトン系、エステル系溶媒が好ましく、特にアルコール系が好ましい。アルコール系の中でも特に低級アルコールが好ましい。低級アルコールとしては特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、i−プロピルアルコール、n−プロピルアルコールが挙げられる。
【0032】
その際の溶媒の使用量は、(A)シラン化合物のシロキサン(Si−O)換算量と(B)塩基性のコロイダルシリカゾル(一般式MeO・pSiO)の固形分との合計100質量部に対して、200〜2,000質量部となる量が好ましく、より好ましくは400〜1,200質量部である。この量が2,000質量部以下であれば共加水分解・縮合反応の時間がより短くなりコスト的に好ましい。またこの量が200質量部以上であれば反応系がより安定になり、ゲル化等が起こらないため好ましい。なお、前記シロキサン(Si−O)換算量は、(A)シラン化合物に含まれるSi−O結合の量でありnの値に応じて変化し、例えば(A)シラン化合物を100質量部としたとき、nが0であれば前記シロキサン(Si−O)換算量は300質量部、nが1であれば前記シロキサン(Si−O)換算量は200質量部として換算される量である。
【0033】
本発明において、(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの共加水分解・縮合反応時の反応温度は特に限定するものではないが、例えば、反応温度が10〜60℃であることが好ましい。反応時間も特に限定するものではないが、1〜6時間程度であることが好ましい。共加水分解・縮合反応の加水分解では、Si原子上に存在するアルコキシ基の加水分解によりSiOH(シラノール基)とアルコールが生じる。続いてSiOH(シラノール基)同士が縮合することで共加水分解・縮合反応が完結する。
【0034】
このように(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルとを共加水分解・縮合反応させることにより、(B)塩基性のコロイダルシリカゾル表面に(A)シラン化合物が結合しているものを含む防曇剤組成物を作製することができる。
【0035】
更に本発明の防曇剤組成物には、(C)多価アルコールを配合することが好ましい。(C)多価アルコールとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどが例示され、特に好ましいのは、グリセリンである。(C)多価アルコールの量は、(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの固形分100質量部に対し、1〜500質量部含有させることが好ましく、特に好ましくは1〜400質量部である。この量が500質量部以下であれば、ガラスや合成樹脂等からなる各種成形品の表面にこの防曇剤組成物を塗工した場合に、塗りムラやギラツキの発生を抑制でき好ましい。
【0036】
この(C)多価アルコールは(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの共加水分解・縮合反応前に添加してもよいし、反応後に添加してもよい。
【0037】
本発明の防曇剤組成物は、上記各成分のほか、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分、例えば、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、pH調整剤、シリカ以外の無機物質、有機電解質、有機金属化合物、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候剤、防腐剤、消泡剤等を含んでいてもよい。
【0038】
最終的に本発明の防曇剤組成物を適用する場合、(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルとを共加水分解・縮合反応させたものからなる有効成分の濃度が防曇剤組成物の0.1〜5質量%になるように、水や低級アルコールで希釈して適用することが、組成物の保存安定性や塗工性の観点から好ましい。この量が0.1質量%以上であれば初期防曇性がより良好となり好ましい。また、この量が5質量%以下であれば保存安定性がより良好となり好ましい。
【0039】
本発明の防曇剤組成物を適用する被適用物としては、曇り現象を呈するものであれば特に制限されないが、例えば、無機ガラス、プラスチック、透明セラミック、金属からなる成形品などが挙げられ、より具体的には、浴室や洗面所の鏡や窓ガラス、自動車等の車両のドアミラー、サイドミラー、ウインドウガラス、レンズ、プラスチックフィルム、シート、アルミフィンなどが例示される。
【0040】
また、本発明によれば、焼き付け等の煩雑な作業を必要とせず、防曇剤組成物を被適用物に適用した後、乾燥するという、簡単な方法で、親水性の防曇被膜を形成することができる。防曇剤組成物の適用方法としては、慣用のコーティング法、例えば、ロールコート法、ディップコート法、刷毛塗り法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法などを用いることができる。防曇剤組成物の適用後の乾燥は、自然乾燥及び強制乾燥の何れの方法で行うこともできる。前記防曇剤組成物の適用量は、不揮発分換算で、例えば、0.001〜2g/m程度、好ましくは0.005〜1g/m程度である。
【0041】
こうして形成された防曇被膜は、耐水性、耐久性にも優れ、流水や蒸気に曝したり、指で擦っても容易には剥離しないものとなる。また、初期防曇性だけでなく、防曇性の耐久性に優れ、曇りを長期間持続して防止できるものとなる。更に防曇膜を擦ってもその防曇性は維持される。また、被膜は高い親水性を有しているので、親油性成分を多く含む塵芥を付着しにくい上、凝縮水分が水滴となって表面に付着しないので、乾燥後に、汚れとして残りにくいものとなる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
蛇管コンデンサ及び温度計を設けた3リットル四つ口フラスコに、CHO−(CO)10−(CHSi(OCH6.9g(0.01モル)、塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0−10.5)200g、イオン交換水304g及びグリセリン236gを添加し、撹拌しながら系内にごく少量の流速で窒素を通じた。この状態で溶液を撹拌させた。内温25℃で、3時間攪拌させ共加水分解・縮合反応を進行させた。
この後、更にイオン交換水1,436gを投入し、混合することにより防曇剤組成物1を得た。この防曇剤組成物1のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0044】
[実施例2]
実施例1の塩基性のコロイダルシリカゾルをスノーテックスC(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH8.5−9.0)300gとした以外は実施例1と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより防曇剤組成物2を得た。この防曇剤組成物2のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0045】
[実施例3]
実施例1の塩基性のコロイダルシリカゾルをスノーテックス20L(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH9.5−11.0)300gとした以外は実施例2と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより防曇剤組成物3を得た。この防曇剤組成物3のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0046】
[実施例4]
実施例2の塩基性のコロイダルシリカゾルをスノーテックスN(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH9.0−10.0)300gとした以外は実施例2と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより防曇剤組成物4を得た。この防曇剤組成物4のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0047】
[実施例5]
実施例1のCHO−(CO)10−(CHSi(OCHを18.0g(0.03モル)とした以外は実施例1と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,425gを投入し、混合することにより防曇剤組成物5を得た。この防曇剤組成物5のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0048】
[実施例6]
実施例2においてグリセリンを添加せずに同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,572gを投入し、混合することにより防曇剤組成物6を得た。この防曇剤組成物6のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0049】
[比較例1]
実施例1の塩基性のコロイダルシリカゾルを酸性のコロイダルシリカであるスノーテックスO(日産化学工業(株)製、シリカ含有量20質量%、pH2.0−4.0)300gとした以外は実施例1と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,336gを投入し、混合することにより防曇剤組成物7を得た。この防曇剤組成物7のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
[比較例2]
実施例1のCHO−(CO)10−(CHSi(OCH6.9g(0.01モル)、を3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2.3g(0.01モル)
とした以外は実施例1と同様に共加水分解・縮合反応を進行させ、更にイオン交換水1,314gを投入し、混合することにより防曇剤組成物8を得た。この防曇剤組成物8のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
[比較例3]
3LビーカーにCHO−(CO)10−(CHSi(OCH6.9g(0.01モル)、塩基性のコロイダルシリカゾル(スノーテックスS:日産化学工業(株)製、シリカ含有量30質量%、pH9.0−10.5)200g、イオン交換水1740g及びグリセリン236gを添加し混合し、共加水分解・縮合反応は進行させていない混合物を防曇剤組成物9として得た。この防曇剤組成物9のシリカとシロキサンの成分量は3質量%である。
【0050】
[評価試験方法]上記の実施例及び比較例で得られた各防曇剤組成物について、下記のように初期防曇性、耐水性、耐熱性、耐布摩耗性、耐湿性防曇効果の反復性の評価試験を行った。
【0051】
(防曇塗膜の形成方法)
基材:ガラス板(15×5×2mm)を市販の油膜とり剤(ソフト99社製)にて洗浄後、更にイオン交換水にて洗浄、乾燥したものを用いた。その後、上記防曇剤組成物をディップ法(10秒浸漬、引き上げ速度85mm/分)で塗工した。キュアー(硬化)は室温下で1時間乾燥させることで行い、防曇膜を形成させた。
【0052】
(1)呼気防曇性
温度20℃、相対湿度50%RH(relative humidity)の恒温室内でガラス板の防曇層に息を吹きかけ、曇りの様態を目視により次の基準にて呼気防曇性を判定した(呼気防曇性試験)。
○:全く曇らない、△:やや曇りが観察される、×:全面が曇る。
【0053】
(2)蒸気防曇性
温度60℃の恒温水槽上の水面から1cmの位置にガラス板を固定し、10分後の曇りの状態を目視により次の基準にて蒸気防曇性を判定した。
◎:水滴が全くない、○:直径5mm以下の水滴がない、△:直径5mm以下の水滴が部分的にある、×:全面に直径5mm以下の水滴がある。
【0054】
(3)耐水性
室温の水道水を満たしたビーカー中にガラス板を1000時間浸漬し、取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行うことで耐水性を判定した。
○:全く曇らない(耐水性有り)、△:やや曇りが観察される(やや耐水性有り)、×:全面が曇る(耐水性なし)。
【0055】
(4)耐熱性
ガラス板を105℃の乾燥器の中に入れ、10日間静置して取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後呼気防曇性試験を行うことで耐熱性を判定した。
○:全く曇らない(耐熱性有り)、△:やや曇りが観察される(やや耐熱性有り)、×:全面が曇る(耐熱性なし)。
【0056】
(5)耐布摩耗性
HEIDON社製SCRATCHING INTENSITY TESTER HEIDON−18機を使用し、ガラス板の防曇層表面に、200g荷重でネル布(綿300番)を1000回往復させたときの外観と呼気防曇性を判定し、異常がなかったものを合格(○)、異常があったものを不合格(×)として耐布摩耗性を判定した。
【0057】
(6)耐湿性
ガラス板を温度80℃、相対湿度99%RHの環境に10日間静置して取り出した後、温度20℃、相対湿度50%RHの雰囲気下で24時間放置した。その後、呼気防曇性試験を行うことで耐湿性を判定した。
○:全く曇らない(耐湿性有り)、△:やや曇りが観察される(やや耐湿性有り)、×:全面が曇る(耐湿性なし)。
【0058】
(7)防曇効果の反復性
ガラス板を、塗工面を下にして、水温50℃に恒温保持した水槽の水面上約10cmのところに、水面に対して約15°の角度で設置し、5分間湯気に曝した後、室温で10分間乾燥させるという操作を、初期防曇性が失効するまで繰り返した。その回数により、防曇効果の反復性を評価した。
【0059】
(1)〜(7)の評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
比較例において示されるように、本発明の(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルとを共加水分解・縮合反応を進行させたものを含まない防曇剤組成物からなる防曇塗膜は、呼気防曇性及び蒸気防曇性の試験においてはやや曇りが観察され、耐水性、耐熱性、耐布摩耗性及び耐湿性はなく、防曇効果の反復性もないことが明らかとなった。一方で、実施例において示されるように、本発明の(A)シラン化合物と(B)塩基性のコロイダルシリカゾルとを共加水分解・縮合反応を進行させたものを含む防曇剤組成物からなる防曇塗膜は呼気防曇性及び蒸気防曇性の試験においては水滴が全くなく、耐水性、耐熱性、耐布摩耗性及び耐湿性は有り、その上防曇効果の反復性も20回以上あることが明らかとなった。
【0062】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)一般式:R−O[−R−O]−R−SiR(OR3−n
(式中、Rは水素原子又は炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜4のアルキル基、Rは炭素数が1〜8の1価炭化水素基、R及びRは炭素数が1〜8の2価炭化水素基、nは0または1、mは1〜200の整数である。)で示されるシラン化合物と、
(B)塩基性のコロイダルシリカゾル
とを共加水分解・縮合反応させたものを含むことを特徴とする防曇剤組成物。
【請求項2】
前記(A)シラン化合物のmが1〜100の整数であることを特徴とする請求項1に記載の防曇剤組成物。
【請求項3】
前記(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの固形分100質量部に対して、前記(A)シラン化合物0.1〜50質量部を共加水分解・縮合反応させたものを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防曇剤組成物。
【請求項4】
更に前記(B)塩基性のコロイダルシリカゾルの固形分100質量部に対し、(C)多価アルコールを1〜500質量部含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれか1項に記載の防曇剤組成物。

【公開番号】特開2012−7037(P2012−7037A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−142649(P2010−142649)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】