説明

防水シート固定具

【課題】
本発明の目的とするところは、ビス固定時に、締めすぎた場合でも固定具の補強用リブより外側の熱溶着層部分が湾曲せず防水シートとの溶着強度を損なうことのない防水シート固定具を提供することにある。
【解決手段】
上面が熱溶着層で被覆された固定板の上面に補強用リブが凹設され且つ中心部には固定用ビスを貫通させる取付け穴とその周囲にビス頭固定用座繰り凹部が形成され、防水施工面と合成樹脂製防水シートとの間に介在させて当該防水シートを防水施工面上に固定するための防水シート固定具であって、
上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に易撓性構造を設けた防水シート固定具としたことである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の陸屋根や勾配屋根、或いは住宅のベランダやルーフバルコニーにおける床面、または土木用の防水工事等において、防水施工面と合成樹脂製防水シートとの間に介在させて当該防水シートを防水施工面上に機械的に固定するための防水シート固定具に関し、更に詳しくは、上面が熱溶着層で被覆された固定板を防水施工面上にビスで固定しておき、防水施工面上に防水シートを敷設した後に上記固定板と対応する位置の防水シートの上面に誘導加熱装置を置いて、誘導加熱により防水シートを前記熱溶着層に溶融一体化させることにより、防水シートを防水施工面上に固定させるための防水シート固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の防水シート固定具Aは、図3に示す如く鋼板等の固定板を用いて円形状に形成されると共に、その中心部に固定用ビスDを貫通させる取付け穴3とその周囲に固定用ビスの頭部Dを納めるためのビス頭固定用座繰り凹部4が形成され、更に、固定具として所要の強度を持たせるために補強用リブ5が凹設されている。
しかし、下地に防水シート固定具をドライバー等のより固定用ビスで固定する時に、ビスを締め過ぎた場合など図2に示す如く、固定板の中心から外周にかけて湾曲し、その結果、熱溶着層2と防水シートの溶着面積が減少し、溶着強度の低下が生ずる。また、断熱材の上に固定具を施工する場合においてはその問題が顕著に現れる。
【0003】
一般的な固定具は特許文献1及び2に示すような形状をしているが、固定用ビスをドライバー等で固定する時に、締め過ぎた場合など固定板の中心から外周にかけて湾曲し易く、十分な溶着面積が得られず、その結果、溶着強度の低下が起こる。また、この問題を解決するには、固定具の材料自体の厚みや材質を変える方法が考えられるが、その場合は、固定具が高価になることが懸念される。
【0004】
【特許文献1】特開2002−168226号公報
【特許文献2】特開2003−328506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固定具を下地に固定する場合、作業性とコストを考えるとトルク調整機能付き工具は使用しづらく、インパクトドライバー等を使用することが多く、固定板を強く締めすぎることが増える。締め過ぎた場合、固定板の中心から外周にわたり湾曲してしまう。誘導加熱などにより固定板と防水シートを熱溶着する場合、上記湾曲した部分は熱溶着できず固定板と防水シートの溶着面積が減少するため、十分な溶着強度が得られない。結果として繰り返し受ける風圧の影響(接合したシートを持ち上げる力)で経年による溶着強度の低下を引きおこし、防水施工の信頼性が失われる。
【0006】
本発明はこの様な現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ビス固定時に、締めすぎた場合でも固定具の補強用リブより外側の熱溶着層部分は湾曲せず防水シートとの溶着強度を損なうことのない防水シート固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明の防水シート固定具は、上面が熱溶着層で被覆された固定板の上面に補強用のリブが凹設され且つ中心部には固定用ビスを貫通させる取付け穴とその周囲にビス頭固定用座繰り凹部が形成され、防水施工面と合成樹脂製防水シートとの間に介在させて当該防水シートを防水施工面上に固定するための防水シート固定具であって、
上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に易撓性構造を設けたことを特徴とする防水シート固定具である(請求項1)。
上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に設けた易撓性構造が凹み部及び/又は小孔であることが好ましく(請求項2)。また、上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に設ける易撓性構造を、上記固定用ビスの取付け穴に対して、非対称の位置に設けることが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係わる防水シート固定具によれば、固定板の固定用ビス取付け穴と凹設された補強用リブとの間に易撓性構造を設けることにより、ビス固定時の衝撃が易撓性構造周辺に伝わり、図1に示すように固定用ビス取付け穴と補強用リブの間がへ込むようになる。
すなわち、易撓性構造の周辺がビス固定時に発生する応力に対して構造的に弱いためその部分がへ込み、ビス固定時に発生する応力を吸収することができる。
その結果、補強用リブより外側の熱溶着層部分は湾曲せず、固定板と防水シートの溶着面積が減少することも無く、防水シートとの溶着部分に剥離現象を発生させる恐れがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、全図面を通して、同様の構成部材には同じ符号を付してある。
【0010】
本発明に係る防水シート固定具Aは、防水施工面C上に固定される固定板1の上面に、防水シートB側に固定される熱溶着層2を積層一体化して構成される。
ちなみに、防水施工面Cとしては、建物の陸屋根や勾配屋根、或いは住宅のベランダやルーフバルコニーにおける床面、または土木用の防水工事等が挙げられる。
【0011】
防水施工面C上に固定される固定板1としては特に限定はないが、ステンレス板や、亜鉛・アルミニウム・マグネシウムメッキまたは亜鉛メッキ等の防錆処理が施された鋼板など、多湿状態においても錆びにくい鋼板が好適に使用される。
【0012】
また、固定板1は、従来のこの種防水シート固定具に使用されていた鋼板と同様の厚み、形状、大きさに形成される。例えば、厚みは0.6〜1mm程度で、形状は正方形または長方形をした矩形状のプレート状や、円形または楕円形状のディスク状など任意であり、大きさは1辺または外径が50〜100mm程度に形成される。
【0013】
固定板1の上面に積層一体化される熱溶着層2は、加熱により防水シートBに熱溶着できる熱可塑性樹脂、ホットメルト接着剤等で形成される。ここで使用される熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、EEA(エチレンエチルアクリレート)等のオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、ホットメルト接着剤としては、ポリエステル系、ポリアミド系、エチレン−酢酸ビニル共重合体系のホットメルト接着剤等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂、ホットメルト接着剤等を、塗布コーティング法やシートラミネート法など公知の方法でもって固定板1の上面に0.01〜1.0mmの厚みに積層一体化することにより、熱溶着層2が形成される。
この際、固定板1の防錆処理として、裏面にも上記熱可塑性樹脂、ホットメルト接着剤等を積層一体化しても良い。
【0014】
そして、固定板1の外周縁には全周にわたって立上げリブ1aが形成され、中心部分には当該固定板1(防水シート固定具A)を防水施工面C上に固定する固定用ビスDを貫挿通させるためのビス取付け穴3と、その周囲に固定用ビスDの頭部D’を固定板1の上面から突出しないように納めるためのビス頭固定用座繰り凹部4が形成され、更に、ビス頭固定用座繰り凹部4を取り囲むようにして補強用リブ5が凹設される。
【0015】
補強用リブ5は固定板1の強度を高めるために形成するものであるが、補強用リブ5の上面には防水シートBが溶着されないので、当該補強用リブ5が固定板1上面に占める面積を防水シートBとの溶着強度を保持し得る範囲にとどめる必要がある。
すなわち、防水シートBとの溶着強度を保持し得る範囲内であれば、補強用リブ5はその平面から見た形状に格別な制限はなく、図5に示した実施例の如く不連続に形成された複数個の凹部で形成しても良いし、或いは図4に示した実施例の如く連続したリング状の凹部で形成しても良い。更に後者の場合、リング状の凹部は一重に限らず2重でも3重でも良い。
【0016】
また、固定板1(防水シート固定具A)を防水施工面C上に固定する場合に、固定板1に形成するビス取付け穴3は1箇所とは限らず複数個を設け、それに見合った数の固定用ビスDで固定される。
ビス固定用の座繰り形状は、固定用ビスに合わせた形状をしているのが一般的であるが、図4に示すような皿ビスに合わせた形状のものもあれば、図9に示すような穴部周辺がフラットになっているものもある。どちらの場合でも可能である。
【0017】
固定板1には、ビス取付け穴3と補強用リブ5の間の任意の箇所に易撓性構造が形成される。易撓性構造は、容易に撓む構造であれば特に制限はなく、凹み部、小孔、固定具本体材質より撓み易い異材質で形成した構造、固定具本体の厚みよりも薄い構造、凸部構造、傷付き構造などを挙げることができるが、コスト、固定具の生産性などを考慮すると、易撓性構造は、凹み部及び/又は小孔であることが好ましい。小孔の径は通常5mm以下であり、1〜3mmが好ましく、図中では小孔は黒く塗りつぶして表記してある。
【0018】
易撓性構造の個数や大きさは任意であり、さらにビス取付け穴に対して、易撓性構造を非対称に設けることが効果的である。非対称にすることにより、ビス固定時の応力がビス固定座繰り部分及びその周辺に加わった時に、均一ではなく局所的に応力が集中してその部分がへ込んで応力を吸収するからである。
この様に易撓性構造を設けることにより、固定具の強度は多少低下するが、その低下の程度は防水構造として必要なビスの引き抜き強度などには影響しない範囲にとどめる必要がある。
【0019】
また、易撓性構造はビス頭固定用座繰り凹部4に設けることもでき、この場合、ビス頭座繰り凹部4から補強用リブ5にかけて易撓性構造を設けることも可能である。
【0020】
この様なビス取付け穴3と補強用リブ5の間に易撓性構造を設けた場合、ドライバー等で強く締めても図1に示す様に、ビス取付け穴3と補強用リブ5の間でへ込み、その結果、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲しない為、固定板と防水シートの接着面積が減少することも無く、防水シートとの溶着部分に剥離現象を発生させる恐れがなくなる。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
<実施例1>
図4に示した実施例はビス頭固定用座繰り凹部4と補強用リブ5の間に周囲に渡り凹み部6aを施した。その結果、ビス固定時に凹み部6a周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、十分な溶着面積が確保できた。
【0023】
<実施例2>
図5に示した実施例はビス頭固定用座繰り凹部4と補強用リブ5の間に周囲に渡り小孔6bを施したものである。その結果、ビス固定時に小孔6b周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、十分な溶着面積が確保できた。
【0024】
<実施例3>
図6に示した実施例はビス頭固定用座繰り凹部4と補強用リブ5の間に凹み部6aを施したものである。その結果、ビス固定時に凹み部6a周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、十分な溶着面積が確保できた。
【0025】
<実施例4>
図7に示した実施例はビス頭固定用座繰り凹部4と補強用リブ5の間に小孔6bを施したものである。その結果、ビス固定時に小孔6b周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、十分な溶着面積が確保できた。
【0026】
<実施例5>
図8に示した実施例はビス取付け穴3と補強用リブ5の間に非対称に凹み部6aを施したものである。その結果、ビス固定時に凹み部6a周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、十分な溶着面積が確保できた。
【0027】
<実施例6>
図9に示した実施例はビス取付け穴3と補強用リブ5の間に非対称に小孔6bを施したものである。その結果、ビス固定時に小孔6b周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、目視により溶着面積が十分なことを確認できた(ビス固定用座繰り凹部4はフラット形状である)。
【0028】
<実施例7>
図10に示した実施例はビス固定用座繰り凹部4に凹み部6aを施したものである。その結果、ビス固定時に凹み部6a周辺がへ込み、補強用リブ5より外側の熱溶着層は湾曲せず、十分な溶着面積が確保できた。
【0029】
各実施例の固定具を下地にビス固定し、防水シートを敷設し誘導加熱装置で施工したところ、溶着面積を十分に確保でき、十分な溶着強度を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の防水シート固定具は、ビス固定時に、締めすぎた場合でも固定具の補強用リブ凹部より外側の熱溶着層部分は湾曲せず防水シートとの溶着強度を損なうことがないため、防水工事等に広範に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ビス固定時、固定用ビスを締めすぎた場合の本発明に係わる防水シート固定具を示す断面図。
【図2】ビス固定時、固定用ビスを締めすぎた場合の従来例の防水シート固定具を示す断面図。
【図3】従来例を示す断面図。
【図4】本発明の実施例1に係る防水シート固定具の斜視図。
【図5】本発明の実施例2に係る防水シート固定具の斜視図。
【図6】本発明の実施例3に係る防水シート固定具の斜視図。
【図7】本発明の実施例4に係る防水シート固定具の斜視図。
【図8】本発明の実施例5に係る防水シート固定具の斜視図。
【図9】(a)本発明の実施例6に係る防水シート固定具の斜視図。 (b)上記実施例6座繰り部の断面図。
【図10】本発明の実施例7に係る防水シート固定具の斜視図。
【符号の説明】
【0032】
A:防水シート固定具
B:防水シート
C:防水施工面
D:固定用ビス
D’:ビスの頭部
1:固定板
1a:立上げリブ
2:熱溶着層
3:ビス取付け穴
4:ビス頭固定用座繰り凹部
5、5’:補強用リブ
6:易撓性構造部
6a:凹み部
6b:小孔
7:断熱材











【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が熱溶着層で被覆された固定板の上面に補強用リブが凹設され且つ中心部には固定用ビスを貫通させる取付け穴とその周囲にビス頭固定用座繰り凹部が形成され、防水施工面と合成樹脂製防水シートとの間に介在させて当該防水シートを防水施工面上に固定するための防水シート固定具であって、
上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に易撓性構造を設けたことを特徴とする防水シート固定具。
【請求項2】
上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に設けた易撓性構造が凹み部及び/又は小孔であることを特徴とする請求項1記載の防水シート固定具。
【請求項3】
上記固定板のビス取付け穴と補強用リブとの間に設ける易撓性構造を、上記固定用ビスの取付け穴に対して、非対称の位置に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の防水シート固定具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2007−56454(P2007−56454A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239421(P2005−239421)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)