説明

防水シート施工用役物

【課題】役物を構成する素材として未加硫ゴム組成物を用いることによって下地に多少の不陸が存在しても、その形状に追従して沿うことができるので役物と下地との間に空間を生じたり役物と防水シートとの接合を阻害するのを防止することができる防水シート施工用役物を提供する。
【解決手段】防水シート5、5’を敷設する下地1、2で、複数の面が交差する出入隅部4に予め該出入隅部5と同形状に成形された役物を使用して各面の防水シート5、5’を固定・接合するのに用いられる防水シート施工用役物6において、素材として未加硫ゴム組成物が用いられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の屋上などに防水シートを敷設する下地において、平面部と立ち上がり部との境界や排水孔部分など複数の面が交差している出入隅部に用いられる予め該出入隅部の形状に合わせて成形された防水シート施工用役物に係り、詳しくは施工する面が複雑形状であってもより沿いやすく施工不良や漏水などの問題が起こりにくい防水シート施工用役物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の屋上や駐車場などにおいて下地にゴム製の防水シートを敷設して防水を施すことが行われている。そして、端部などには平場に対して例えば垂直方向に立ち上がり部が形成されており、平場と立ち上がり部との境界では水平面と垂直面が互いに交差した状態になっている出入隅部がある。この出入隅部は立ち上がり部のみならず排水孔などの箇所にも形成されるものであり、立ち上がり部の傾斜角や形状が一定していないことから、その箇所によって形状が様々であり、その形状に合わせた役物が予め成形されて用いられる。
【0003】
このような出入隅部に防水シートを施工する場合には、該出入隅部の形状に合わせて予め成形された役物を出入隅部に配置して平場に敷設された防水シートと立ち上がり部に敷設された防水シート同士を接合したり固定したりしていた。
【0004】
防水シート施工用役物としては、特許文献1に開示されているように例えば金属や繊維材などからなる心材の表面にゴムや樹脂などを被覆したものであったり、特許文献2、特許文献3のように心材を用いずゴムや樹脂のみからなるものがある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−25861号公報
【特許文献2】実開平7−10159号公報
【特許文献3】特開平10−61035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような役物の場合、形状を持たせるという意味では金属などの心材を埋設したものや加硫ゴムや樹脂からなり、ある程度の厚みを有するものとなる。しかし、役物とそれを配置する出入隅部の形状は必ずしも完全に一致しない。実際の現場においては下地表面の起伏などが存在したり、立ち上がり部の傾斜角がわずかに異なっていたり様々なばらつき要因がある。それに対して個別に形状を合わせた役物を成形することは実際的ではなく、現実には略同じ形状を有する役物を配置することになる。
【0007】
そうすると役物と下地との間にどうしても隙間ができることになり、形状の差の大きいところでは施工不良を発生して漏水につながるといった問題もある。
【0008】
そこで本発明では出入隅部における下地の形状にばらつきがあり、役物と形状の差があるような場合であっても、下地に対して追従して隙間を生じることがなく、防水シートとの接合も良好に行うことができる防水シート施工用役物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために本発明の請求項1は、防水シートを敷設する下地で、複数の面が交差する出入隅部に予め該出入隅部と同形状に成形された役物を使用して各面の防水シートを固定・接合するのに用いられる防水シート施工用役物において、素材として未加硫ゴム組成物が用いられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2および請求項3ではゴムの種類がエチレン−α−オレフィンエラストマー、ブチルゴムの単体もしくはそれらのブレンド物であること、また未加硫ゴム組成物はゴム100質量部に対して、加硫剤が2〜8質量部と粘着付与剤10〜80質量部、軟化剤が5〜50質量部配合された組成物である防水シート施工用役物としている。
【0011】
請求項4では、防水シート施工用役物に用いる未加硫ゴム中には、補強材を埋設してなる防水シート施工用役物としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1では、役物を構成する素材として未加硫ゴム組成物を用いていることから下地に多少の不陸が存在しても、その形状に追従して沿うことができるので役物と下地との間に空間を生じたり役物と防水シートとの接合を阻害するのを防止することができる。
【0013】
請求項2および3では、ゴムの種類を限定し、またその配合を上記のようなものとすることによって、未加硫ゴムからなる防水シート施工法役物が時間の経過とともに自然加硫し、設置している出入隅部の形状に沿った状態で加硫されて役物自身の強度を増し、また防水シートの間の接合も強固なものとなる。
【0014】
請求項4では、防水シート施工用役物に用いる未加硫ゴム中には、補強材を埋設してなる防水シート施工用役物としていることから、加硫が完了するまで十分な強度がでない未加硫ゴムを用いた役物において未加硫状態での強度を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
建築物の屋上には大きな平場を有する下面と建物の縁部には周囲を取り囲むように立ち上がり壁が設けられている。例えばその四隅には下面1と立ち上がり壁であって直角に交わる二つの壁面2が交差している。このような箇所には三つの壁1、2、2が突き合わさる箇所に入隅角部3が形成されることになる。また、下面1と一つの壁面2との交差部分にも入隅部4が形成される。
【0016】
屋上を防水シート5で防水施工する場合、このような入隅角部3において防水シートを下地に沿って敷設配置するには、防水シートを折り曲げて収めるかもしくは防水シートに切れ目を入れて収めるなどの方法を採らざるを得ない。防水シートを折り曲げて収める方法ではシートに孔をあける必要がないので漏水の問題が起きないという利点があるもののある程度厚みを有する防水シートを折り曲げることによって完全に収めることは困難であり、行ったとしても外観上はあまり望ましいものにはならない。入隅部4においてもシートを折り曲げて使用することになり、浮きが生じるという問題がある。
【0017】
一方で、防水シートに切れ目を入れることによって収める方法では、基本的に不要部分を切り取ってしまうということなので外観上は比較的好ましい状態で収めることができるものの、防水という本来の目的に反するシートへの孔あけを行わなければならない。しかも入隅部の頂点に孔をあけることになるので、止水材を充填するなど十分な漏水対策は採るものの長期間で考えるとシートに孔をあけることは極めて好ましくない。
【0018】
そこで入隅部の形状に合わせて予め成形した防水シート施工用役物6を用いることによって防水シートを折り曲げることなく、また、入隅角部3の頂点にも孔のない状態で防水施工することができる。防水シート施工用役物6と防水シート5との間の接合は必要であるが、シート同士の接合と同様に行うことができることから信頼度の高い接合が可能である。しかし、下地の表面も凸凹があったり、下面と壁面との角度が一定していなかったりすると役物を使用してもそれらが下地に完全に沿うことができず、やはり浮きが発生して漏水などの問題につながることがあった。
【0019】
そこで、本発明では防水シート施工用役物6としてその素材に未加硫ゴムを使用したものを用いることによって、多少凹凸のある下地であっても十分に沿うことができるという効果を得ることができる。
【0020】
図1は本発明の防水シート施工用役物6を用いて下面1に敷設した防水シート5と壁面2に敷設した防水シート5’とを接合するとともに固定している。防水シート施工用役物6の形状としては図2に示すようなL字状のものであり、入隅部4における下地上にまず防水シート施工用役物6を配置して下地と接着固定する。次いで屋上下面1に敷設する防水シート5と壁面2に敷設する防水シート5’の端部をそれぞれ防水シート施工用役物6の上に重ね合わせて接合・固定している。
【0021】
建築物の屋上下面1や立ち上がり壁の壁面2などはモルタルなどで形成されており、その表面は必ずしも滑らかな平面というわけではなく多少の凹凸を有する不陸状態であることが多い。そこで本発明の防水シート施工用役物6は、素材として未加硫ゴムを用いていることから容易に塑性変形することができ、下地の凹凸や角度のずれに対しても容易に追従し隙間を空けることなく配置固定することができる。よって、防水シート5との接合も確実に行うことができ接合不良による漏水などの問題を防止できる。
【0022】
防水シート施工用役物6の未加硫ゴムとしてはエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などのエチレン−α−オレフィンエラストマー、ブチルゴム、変性ブチルゴム、ポリイソブチレン(PIB)、変性ポリイソブチレン(変性PIB)などのゴム単体もしくはこれらのブレンドゴムを用いることができる。
【0023】
また、これらのゴム100質量部に対して加硫剤と加硫促進剤を併せた配合量が2〜8質量部、粘着付与剤を10〜80質量部、軟化剤を5〜50質量部配合したゴム組成物を用いる。
【0024】
ゴムに対する加硫剤と加硫促進剤を併せた配合量が2質量部未満であると施工後、役物がほとんど加硫しないので強度がでず耐久性に問題があり、8質量部を超えると加硫が進みやすくなり、未使用の状態での保存期間が短くなってしまうという問題があることと、加硫剤がゴムの表面にでてくるブルームの問題があるので好ましくない。
【0025】
粘着付与剤の配合量が10質量部未満であると粘着性が少なくなり施工時の接着力不足する。また80質量部を超えると固定力不足になり施工後初期における固定力に劣ることになるので好ましくない。
【0026】
軟化剤が5質量部未満であると、配合材料がまとまらないなど加工性が悪くなるという問題があり、50質量部を超えると軟らかくなり過ぎてやはり加工性を阻害する要因となったり、軟化剤がゴムの表面に出てくるブリードの問題を生じるので好ましくない。
【0027】
加硫剤としては硫黄やジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−t−ブチルペロキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン−3、ビス(t−ブチルペロキシ−ジ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシベンゾアート、t−ブチルペロキシ−2−エチル−ヘキシルカーボネートなどの有機化酸化物を挙げることができる。
【0028】
加硫促進剤として用いることができるのはジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸銅、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N−シクロヘキシル−2−ベンゾジチジルスルフェンアミド、N,N’−ジシクロヘキシル2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、ジベンゾチアジルジスルフィド、メルカプトベンゾチアゾール、ジ−o−トリグアニジン、ジフェニルグアニジンなどを挙げることができる。
【0029】
粘着付与剤として用いることができるのは炭化水素樹脂や脂肪族環状炭化水素樹脂といった石油系炭化水素、アルキルフェノール樹脂、ロジンエステルなどを挙げることができる。
【0030】
軟化剤としては、パラフィン系やナフテン系の石油系軟化剤、ジオクチルナフタレート、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケートなどを用いることができる。
【0031】
これら以外にカーボンブラック、炭酸カルシウム、タルクなどの耐摩耗性を向上させる充填剤、そして可塑剤、安定剤、加工補助剤、老化防止剤、着色剤などの添加剤を使用目的に応じて配合することは可能である。
【0032】
以上のような配合のゴムを用いることによって、施工時には未加硫の状態であって柔軟であるために、下地や防水シートに対して沿いやすい。また、施工した後には太陽の輻射熱によって加硫されるので、凝集力が向上して接着力や本体の強度ともに十分なものをえることができる。
【0033】
その他、炭酸カルシウム、老化防止剤、着色剤、充填剤など通常ゴムに配合される配合剤を配合することは可能である。
【0034】
また、未加硫ゴム組成物は加硫ゴムと比べると強度が低く、時間の経過につれて加硫され十分な強度を発揮することができるものの、加硫されるまでの期間は強度不足の状態となる。そこで本発明では、未加硫ゴムからなる防水シート施工用役物に、補強材を埋設することによって未加硫ゴムからなる役物であっても強度を向上させることができ、ゴムが加硫されるまでの間の強度不足を補完することができる。
【0035】
補強材として用いることができるものとしては、基布や短繊維等が挙げられる。補強材は遮水シートに引裂抵抗性を付与するためと、耐衝撃性を増すために埋設されるもので、素材としてはポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン等の有機合成樹脂からなるフィルムや、同様に合成樹脂からなる糸や偏平テープ状のものを編織したり、単にクロスして重ね合わせ部分を熱融着しネット状にしたりしたもの、また粗目の不織布によってネットを形成したもの等、その他、ガラス繊維等の無機繊維や金属繊維からなる織物等が挙げられる。その中でもポリエステル繊維からなる織布を用いることが高強度で耐熱性、耐水性にも優れ、汎用品であることから価格的にも安価であるという理由から好ましい。また、伸びが15〜35%で強度が100〜700N/cm程度のものを用いることが好ましい。
【0036】
基布の伸びが15%未満であると地盤沈下があった際などに伸びきってしまって糸が切れてしまうといった問題があり、35%を超えると法面でのシートが滑りやすく伸びやすくなってしまうのでゴムのストレスが大きくなり耐久性の面で影響を受けてしまうので好ましくない。また、強度が100N/cm未満であると強度不足で引裂衝撃などの物性が弱くなるという問題があり、700N/cmを超えるとシートの剛性が高くなりすぎてシート敷設時の施工性が悪くなるので好ましくない。
【0037】
以上のような物性を持たせるためには糸番手は300d〜1500d、厚みが0.25mm〜0.6mm、密度が25本/5cm〜40本/5cm幅であるものが好適に用いられる。
【0038】
防水シート5としては上記防水シート施工用役物と同様の素材が挙げられできエチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、ブチルゴム、変性ブチルゴム、ポリイソブチレン(PIB)、変性ポリイソブチレン(変性PIB)などのゴム単体もしくはこれらのブレンドゴムを用いることができる。
【0039】
防水シート施工用役物6の形状は図2のL字状のものだけではなく、図3に示すように出隅角用の形状を有するものや、図4のような入隅角用の形状を有するもの、また図5のような側壁面と下面との境界において面取りしたような形状のものも含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
建築物の屋上などの屋上防水において、防水シートを敷設する際に下面と立ち上がりとの間に形成される出入隅部の敷設作業に用いることができ、更に下地に沿いやすく凹凸の多い下地に対して用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】入隅部に防水シート施工用役物を用いて防水シートを敷設したところの断面図である。
【図2】入隅角部の斜視図である。
【図3】役物の一例を示す斜視図である。
【図4】役物の別の例を示す斜視図である。
【図5】役物の更に別の例を示す斜視図である。
【図6】役物の更に別の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
1 下面
2 壁面
3 入隅角部
4 入隅部
5 防水シート
5’ 防水シート
6 防水シート施工用役物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防水シートを敷設する下地で、複数の面が交差する出入隅部に予め該出入隅部と同形状に成形された役物を使用して各面の防水シートを固定・接合するのに用いられる防水シート施工用役物において、素材として未加硫ゴム組成物が用いられていることを特徴とする防水シート施工用役物。
【請求項2】
ゴムの種類がエチレン−α−オレフィンエラストマー、ブチルゴムの単体もしくはそれらのブレンド物である請求項1記載の防水シート施工用役物。
【請求項3】
未加硫ゴム組成物はゴム100質量部に対して、加硫剤が2〜8質量部と粘着付与剤が10〜80質量部、軟化剤が5〜50質量部配合された組成物である請求項1〜2記載の防水シート施工用役物。
【請求項4】
防水シート施工用役物に用いる未加硫ゴム中には、補強材を埋設してなる請求項1〜3記載の防水シート施工用役物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−9565(P2006−9565A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146042(P2005−146042)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)