説明

防汚フィルタ

【課題】フィルタに直接炎が当たった場合に、変色や焦げを防止するとともに溶融かすの落下を防止する防汚フィルタを提供する。
【解決手段】繊維シートからなる防汚フィルタであって、前記繊維シートは非溶融性繊維と熱融着性繊維とを含んでなり、該非溶融性繊維の混合比率が5質量%以上15質量%以下であり、前記熱融着性繊維により繊維どうしが接着している防汚フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防汚フィルタに関し、特に換気扇やレンジフードの吸入口に取り付ける防汚フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
軸流ファンやシロッコファン等のファンを有する換気扇、換気扇に設けられたレンジフード等の吸入口には、通常、グリスフィルタと呼ばれる金属製のフィルタが取り付けられている。このグリスフィルタによって、調理時に発生する油煙や埃を捕集し、排煙用のファン、モータ等の内部部品が直接汚れないようにしている。このグリスフィルタは、一般に、多数の開口と凹凸とを有しているため、換気性能を維持するためにグリスフィルタに付着した油や埃を除去する清掃が必要となっている。しかし、その清掃は手間がかかり面倒であった。そこで、グリスフィルタの汚れを軽減するために、グリスフィルタの吸入口の上流側に不織布等の素材を用いた使い捨ての市販品フィルタを取り付けることが多い。
【0003】
この市販品フィルタは、高熱や高温の油煙等にさらされるため、難燃性能が付与されている。市販品フィルタには、主に、ポリエチレンテレフタレート繊維に難燃性熱可塑性樹脂をバインダーとして繊維間結合してなる不織布が用いられている(例えば、特許文献1、2参照。)。この不織布は、調理におけるフランベなどの炎が直接当たった場合であっても燃焼が継続することはない。
【0004】
さらに、非溶融性繊維と熱融着性繊維との混繊からなり、非溶融繊維の混合比率が20質量%〜60質量%であり、空気保有空間を保持させて、熱融着性繊維の融着により繊維間を接着した不織布を用いたフィルタが開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−169617号公報
【特許文献2】特開2003−236320号公報
【特許文献3】特開2006−281108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、市販品フィルタの不織布にフランベ時などに発生した炎が直接当たった場合、不織布の一部が溶融し、さらにその溶融面積が大きくなった場合には、溶融かすが発生して落下する虞があった。その場合、調理中の食品上に溶融かすが落下する場合も想定される。また、市販品フィルタは、難燃性熱可塑性樹脂をバインダーとして繊維間結合させた不織布である。通常の使用時には、バインダーが長期間にわたって高温にさらされるため、変色や焦げが生じ、さらに、難燃性熱可塑性樹脂が不織布から脱落し落下する可能性もあった。
【0007】
そこで本発明は、フィルタに直接炎が当たった場合に、変色や焦げ、炎上を防止し、溶融かすが落下するという問題の解決を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、繊維シートからなる防汚フィルタであって、前記繊維シートは、非溶融性繊維と熱融着性繊維とを含んでなり、該非溶融性繊維の混合比率が5質量%以上15質量%以下であり、前記熱融着性繊維により繊維どうしが接着している防汚フィルタを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防汚フィルタは、フランベ時に発生するような炎が不織布に直接当たったとしても、変色や焦げの発生や炎上を防止できるとともに不織布から溶融かすが落下することはないという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明における好ましい実施形態(実施形態1)としての防汚フィルタを空気流入方向から模式的に示した一部切欠き斜視図である。
【図2】本発明の防汚フィルタにおける油の捕集の様子を拡大して示した断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施形態1]
本発明に係る防汚フィルタの好ましい一実施形態(実施形態1)について、以下に説明する。なお、以下の実施形態1では表面層を含む複数の層を有する防汚フィルタの例を挙げたが、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、後述する実施形態2のように繊維シート1層からなる単層の防汚フィルタであってもよい。
【0012】
本実施形態1における防汚フィルタは、繊維シートからなる表面層を含む複数層を有する。表面層は流体が吸入される上流側に配置されるものであり、非溶融性繊維と熱融着性繊維とからなる混合層で構成されている。表面層における非溶融性繊維の混合比率は、5質量%以上15質量%以下である。この熱融着性繊維により非溶融性繊維と熱融着性繊維、また熱融着繊維どうしが接着している。この接着は、例えば加熱処理によって熱融着性繊維を溶融させ、冷却させることで繊維どうしを接着させてなる。
【0013】
次に、表面層について説明する。
表面層には、例えば、繊維間を熱接着されたサーマルボンド不織布のエアスルー不織布、エアレイ不織布、ウェブ形成とボンディングとを一緒に行って形成されるメルトブロー不織布、スパンボンド不織布等の形態の不織布が用いられ、その中でも嵩高な構造を形成しやすく、繊維選択の自由度が高いという観点からエアスルー不織布が好ましい。
【0014】
上記熱融着性繊維には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン系樹脂、およびナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂の何れかが用いられる。また、熱融着性繊維には、低融点ポリエチレンテレフタレート繊維を用いることもできる。また、ポリ塩化ビニル等のビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン等のビニリデン系樹脂等を用いることもできる。さらに、これらの樹脂の変性物、アロイまたは混合物を用いることもできる。
【0015】
上記熱融着性繊維は、同種または異種の熱可塑性樹脂の高融点成分と低融点成分とで構成される熱融着性複合繊維を用いることができる。熱融着性複合繊維は、高融点成分が芯部分で低融点成分が鞘部分とする芯鞘繊維、また高融点成分と低融点成分とが並列するサイドバイサイド繊維が上げられる。高融点成分と低融点成分としては、前述の熱融着性繊維に用いられる各種の樹脂が挙げられる。熱融着性複合繊維の鞘部分又は低融点成分としては、低融点ポリエチレンテレフタレート繊維が好ましく用いられ、その芯部分又は高融点成分としては、難燃性のポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。これは、ポリエチレンテレフタレート繊維は熱融着性繊維の中で融点が高い部類に属し、さらに生産コストも安く抑えられるためである。例えば、芯鞘繊維の場合、芯部分は融点が260℃のポリエチレンテレフタレートで形成されている。なお、本発明において熱融着性繊維とは、サーマルボンド加工において繊維どうしが融着するものと定義され、典型的には当該繊維の表面側あるいは鞘部における融点が100〜230℃(またはガラス転移点が65℃〜80℃)のものをいう。
【0016】
上記非溶融性繊維としては、ガラス繊維、炭化繊維等の不燃性繊維、アクリル、レーヨン等があげられる。それらの中でも、炎に触れたときの安全性をより高める観点、及びコストと汎用性の観点から、難燃性であるレーヨンを用いることが好ましい。さらに、不燃性繊維および難燃性繊維の何れかの同種または異種を混合して用いることもできる。難燃レーヨンは、通常のレーヨンにハロゲン系やリン系などの難燃剤が練り込むことによって難燃性を向上させた、LOI値が26以上のレーヨン繊維である。例えば、ダイワボウレーヨン株式会社製DFGなどが挙げられる。なお、本発明において非溶融性繊維とは、炎に直接接触しても変化を起こさないか、溶融することなく炭化して繊維形状を維持するタイプの繊維をいう。
【0017】
また表面層における非溶融性繊維の混合比率は5質量%以上としてある。このようにすることで、例えばフランベ時に発生するような炎が表面層に直接当たったとしても、非溶融繊維が網目状に残り、表面層から溶融かすが落下することが抑えられる。
【0018】
一方、非溶融性繊維の混合比率が多くなると、表面層自体の破断強度(例えば、CD強度)が弱くなり、表面層をシート形状に保つことが困難になる。さらに、フィルタとしての難燃性が低下してしまう。これは、非溶融性繊維の混合比率が15%より多いと、フランベ等の炎で熱融着性繊維が溶けた際、非溶融性繊維の周りに熱融着性繊維が付着した状態となる部分が多くなり、非溶融性繊維がロウソクの芯のような働きをして、フィルタが燃えやすくなってしまうという現象が起こるためである。しかしながら、非溶融性繊維の混合比率が15質量%以下であれば、実用上の好ましい破断強度を保つことができ、表面層を好ましい薄さに形成でき、さらに難燃性も維持することができる。また、シート内での非溶融性繊維の局在を考慮し、安全性を確実に担保させる観点から、非溶融性繊維の混合比率は、10質量%以下であることが好ましい。
【0019】
また、熱融着性複合繊維の鞘部分の溶融によって繊維どうしが接着していることで、繊維どうしの接着にバインダーを用いる必要がなくなる。よって、例えばフランベ時に発生するような炎が表面層に直接当たったとしても、バインダーが焦げたり、変色を起こしたりすることはなく、またバインダーが溶融かすとなることもない。また、直接炎が当たらなくてもコンロとフィルタ間の距離が近い場合、通常の調理条件でフィルタ付近の温度は140℃程度に到達することがある。この場合、バインダーの変色が起こる可能性があり、外観上好ましくないが、本実施形態のフィルタは繊維どうしの接着にバインダーを用いていないため、そのような環境下でも変色することはない。さらに、本実施形態フィルタは、繊維どうしの接着にバインダーを用いていないため剛性が低く、隙間なく取り付けができ、触感もやわらかい。
【0020】
表面層を構成する繊維は、その繊維径が5μm以上35μm未満になるように形成されていることが好ましい。この繊維径は、従来市販されている油捕集用フィルタを構成する不織布の繊維径よりも小さい範囲となっている。このような小径の繊維を用いることで、繊維間の空隙を小さくすることができ、油煙や埃等の捕集効果を高めることが可能になる。換気扇のファンによる油煙等の吸収効率の低下を最小限に抑え、油煙等の捕集効果を一層高めるという観点から、表面層の構成繊維のより好ましい繊維径は7μm以上25μm未満である。また、異なる繊維径を有する繊維を組み合わせて用いることにより、高い防汚性を発現することができる。例えば、繊維の一部に25μm以上35μm未満の比較的太い繊維径を有する繊維が含まれていても、それ以外の繊維が5μm以上25μm未満の繊維径を有する細い繊維で構成されていれば、一層高い油煙等の捕集効果を発現することができる。
【0021】
防汚フィルタの坪量は、特に限定されないが、単層の場合は20g/m以上150g/m以下が好ましく、20g/m以上100g/m以下であることがより好ましい。この坪量の範囲は、積層タイプの防汚フィルタの場合でも同様である。また、非溶融性繊維の含まれる表面層の坪量が少なすぎると防汚フィルタ全体の難燃性が低下する恐れがあることから、積層タイプの防汚フィルタの場合、表面層の坪量が全体の40%以上90%以下であることが好ましく、60%以上90%以下であることがより好ましい。
【0022】
また、表面層の厚みは特に限定されないが、0.5mm以上10mm以下が好ましく、1mm以上8mm以下であることがより好ましい。表面層の厚みは、後述する実施例に記載の測定方法に基づく。なお、上記範囲を外れるような薄い表面層では、破れやすくなり、取り扱いが難しくなる虞がある。また、上記範囲を外れるような厚い表面層では、厚過ぎることで、防汚フィルタの取り付けが難しくなる虞がある。
【0023】
防汚フィルタの吸引時の圧力損失は、例えば0.8m/sの風速で吸引した時における圧力損失であり、換気扇等の吸引力を損なわないように、40Pa以下が好ましく、より好ましくは30Pa以下である。
【0024】
防汚フィルタの破断強度は、フィルタとしてのシート形態維持や取り付け時の扱いやすさの観点から、1N/25mm以上150N/25mm以下が好ましく、特に3N/25mm以上100N/25mm以下が好ましい。
【0025】
上記破断強度は、フィルタの機械方向(MD)と幅方向(CD)のいずれか一方において上述の範囲を満たしていることが好ましく、両方向において上述の範囲を満たしていることがより好ましい。なお、上記機械方向(MD)とは、不織布の製造時における流れ方向であり、上記幅方向(CD)とは機械方向と直交する方向である。
【0026】
防汚フィルタの難燃性は、調理により発生した炎がフィルタに直接当たった場合でも燃え上がらず形態を維持する必要があることから、JIS L1019 A−1法(ミクロバーナー法)で測定した場合に、区分3であることが好ましい(下表A参照)。
[表A]

【0027】
第1実施形態の防汚フィルタに、熱融着性複合繊維は芯部分が難燃性の芯鞘構造を有しているものを使った場合、例えばフランベ時に発生するような炎が表面層に直接当たった場合に、少なくとも芯部分は溶融せずに残る。また、非溶融性繊維も残る。したがって、たとえ熱融着性複合繊維の溶融性部分が溶融したとしても、その溶融部分が芯部分や非溶融性繊維に付着して落下するのが防止される。よって、さらに溶融かすの発生を防止することができる。これにより表面層が炎にあぶられたとしても表面層を構成する繊維構造が保持される。また、本発明の防汚フィルタは、フランベ時に発生する炎に限らず、中華料理等で発生するような油に引火した炎に対しても効果を奏する。さらに本発明の防汚フィルタの表面層は、バインダーを用いていないため、炎にあぶられることによる変色や焦げが生じにくいので、防汚フィルタの外観上の美観を維持することができる。
【0028】
また、第1実施形態の防汚フィルタは、表面層の非溶融繊維の混綿量が5〜15%としているため上記で述べたように、異種繊維の混綿による難燃性の低下を防ぐことができるため、炎が直接当たっても燃え上がることはなく、確実に安全性が維持できる。
【0029】
次に、上記表面層を含む複数層の層構造について説明する。
上記表面層は、防汚フィルタに流体が吸入される上流側に配置されている。
【0030】
・2層構造の一例
例えば、上記表面層を含む複数層は、表面層で形成された油捕集層と、空間形成層との2層構造からなる。空間形成層は、油捕集層よりも、防汚フィルタに吸入される流体の下流側に配置される。空間形成層については、特開2009−279554号公報に開示されている空間形成層を用いることが好ましい。空間形成層を設けたことにより、フィルタの通気性と油煙や埃等の捕集対象物の捕集性とを共に高めることができる。
【0031】
・2層構造の別の一例
また、表面層を含む複数層は、表面層で形成された油捕集層と、撥油層との2層構造となっていてもよい。油捕集層は、撥油層よりも、防汚フィルタに吸入される流体の上流側に設けられる。撥油層は、例えば撥油性を有していない繊維を用いて形成された不織布の繊維表面に撥油性処理を施して得ることができる。撥油性処理は、例えば、撥油剤または撥油剤を添加した樹脂を塗工する処理である。例えば、繊維表面にフッ素系撥油剤の被膜を形成するような処理をして撥油性を付与すればよい。または、撥油層は、撥油性繊維を用いた不織布で形成されてもよい。
【0032】
繊維表面をフッ素系撥油剤で被膜処理するには、例えば繊維表面にフッ素樹脂のエマルジョンを付与して乾燥させることによって、繊維表面にフッ素樹脂膜を形成することができる。乾燥後に熱処理を施すことで、繊維表面に付着したフッ素樹脂の密着性を高めてもよい。フッ素樹脂のエマルジョンを繊維表面に付与するには、例えば、繊維にエマルジョンを含浸させる、繊維にエマルジョンを噴霧する、またはエマルジョンを泡立て処理する等の方法で行う。その他の方法として、フッ素プラズマを用いた低温プラズマ処理、フッ素ガス雰囲気にグロー放電を発生させたドーピング処理によって、繊維表面をフッ素化して、撥油性を付与することができる。
【0033】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。また、ポリイミド系変性フッ素樹脂、PPS系変性フッ素樹脂、エポキシ系変性フッ素樹脂、PES系変性フッ素樹脂、フェノール系変性フッ素樹脂、パーフルオロアルキルエチレン基を有するアクリレート重合体やメタクリレート共重合体等が挙げられる。さらに、フッ素樹脂のエマルジョンを用いることもできる。このようなエマルジョンとしては、例えば旭硝子製のフッ素樹脂であるアサヒガード(登録商標)AG―7000を用いることができる。
【0034】
フッ素樹脂を付着させる量は、フッ素樹脂を付着させる前の繊維の重量に対して0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%とすることがより好ましい。上記下限以上とすることで、繊維の表面に十分な撥油性が付与される。また上記上限以下とすることで、過剰付着に起因するフィルタの通気性の低下が抑えられる。
【0035】
撥油層の繊維自体を、撥油性を有する材料から構成する場合、その材料としては、上述した各種のフッ素樹脂を用いることができる。
【0036】
撥油性処理に使用する撥油剤として、フッ素系撥油剤以外に、一部の界面活性剤を用いることもできる。そのような界面活性剤は、これを不織布に塗工し乾燥させることによって、撥油性が発現される。例えば、非イオン性界面活性剤であるアルキルグルコシド、両性界面活性剤であるラウラミドプロピルベタインを不織布に塗工し乾燥させることによって、繊維に撥油性が付与される。また、フッ素を配合した油剤を表面に塗布した一部の繊維では、その繊維を加熱することにより繊維表面が撥油性を示すものがある。このような繊維で撥油層を構成してもよい。そのような繊維の例としては、宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR―PLE(商品名)が挙げられる。
【0037】
撥油性の繊維としては、フッ素がドーピングされた繊維、フッ素樹脂からなる繊維が挙げられる。そのような繊維の例としては、東レ製のフッ素繊維であるトヨフロン(登録商標)や、デュポン製のテフロン(登録商標)等が挙げられる。
【0038】
・3層構造の一例
さらに、表面層を含む複数層は、表面層で形成された油捕集層と、撥油層と、空間形成層とを順に積層した3層構造となっていてもよい。油捕集層、撥油層および空間形成層は、上述の2層構造の構成のものを用いることができる。
【0039】
以下、本発明の3層構造の防汚フィルタにおける好ましい一実施形態を、図1および図2によって詳細に説明する。図1は、本発明における実施形態(実施形態1)としての防汚フィルタを空気流入方向から示した一部切欠斜視図である。図2は、本発明の防汚フィルタにおける油の捕集の様子を拡大して示した断面模式図である。
【0040】
図1に示すように、本実施形態における防汚フィルタ10は、3層のシート材から構成されている。図面上、上層(流体吸入側)より、表面層で形成された油捕集層1、繊維で構成された層からなる撥油層2、繊維で構成された層もしくは多孔質層状部材で構成された層からなる空間形成層3の順に積層された構成となっている。また、この3層のシート材はそれぞれシート状に成形され、四辺10a、10b、10c、10dでシール加工された端縁シール部8により接合されている。これにより防汚フィルタ10は一体化した積層シートとして構成されている。その接合状態は、線状シールにより3層が端縁シール部8で熱融着され一体化されている。積層シートにするための一体化は、端縁シール部8に制限されず、フィルタ全面を多数のポイントエンボスにより3層がポイントシール部(図示せず)で熱融着され一体化されていてもよく、端縁シール部8とポイントシール部を組み合わせてもよい。なお、点状のポイントシール部(図示せず)はシート全体に多数間欠的に施すことが好ましくその配設パターンとしては格子状であったり、直線が並列した縞状であったりしてもよく、フィルタの大きさや用途等に合わせ適宜定めることが好ましい。
【0041】
一般的に防汚フィルタの汚れは、油煙等の立ち上る直上もしくはファン吸い込み口の吸引力が強い中心に油分が付着し、毛細管力により該中心を基点とし広がっていく。
【0042】
図2は本発明の防汚フィルタ10における油の捕集の様子を拡大して示す断面模式図である。同図中、太線の円は油捕集層1を構成する非撥油性の繊維1aであり、細線の円は撥油層2を構成する撥油性の繊維2aである。斜線が施された円は油滴91を示す。
【0043】
図2に示すように、油煙等を含む雰囲気の流れWは防汚フィルタ10を通過する際に、油煙等が除去され、清浄な流れWとなって図示していないファン側に流れる。このとき、油捕集層1で捕集された油分は毛細管力により油捕集層1の厚み方向へ移行し内部に浸透していくが、撥油層2のもつ撥油性によりファン側への移行は防がれ、油等の裏抜けは極めて効率的に防止される。これを続けることにより油分が防汚フィルタ10内に溜まることができる。
【0044】
以下、より具体的に説明する。油煙等を含む雰囲気の流れWに含まれる油分ないし埃等からなる油滴91は、先ず油煙等を含む雰囲気の流れWが発生する側(例えば調理器側)に位置する油捕集層1の非撥油性繊維1aに付着する。油捕集層1に付着した油滴91は、その数が増加すると徐々に油捕集層1の表面に濡れ広がったようになり、油液溜り92を形成する。油液溜り92は繊維の表面張力や図示していない換気扇のファンの吸引力によってファン側に向かって浸透していき、防汚フィルタ10の厚み方向にも移行し広がる。ただし、本実施形態においてはファン側に向かって移行する油分は油捕集層1が存在する領域を過ぎると撥油層2に達するため、それを構成する撥油性繊維2aの撥油性によって液溜92のそれ以上の浸透が妨げられる。その結果、油分のファン側への移行を効果的に遮断しその裏抜けが抑えられる。よって、図示していないグリスフィルタやレンジフードのファン等の内部部品は汚れのない状態を長期間維持することができる。
【0045】
上述の油煙等を含む雰囲気の流れWが油捕集層1および撥油層2を通過すると、油捕集層1および撥油層2を構成する繊維の密度が高いため流れが遅くなる虞があった。これに対し本実施形態では、空間形成層3を設けたことで、嵩高で空間形成能の高い空間形成層3が油捕集層1および撥油層2とグリスフィルタ(図示せず)との間に存在することにより、この領域で気流が整えられる。この整流作用により、上述した油滴91から油液溜り92への成長が分散化し、油捕集層1および撥油層2の相互作用を一層効果的に引き出すことができる。この点から、本実施形態の空間形成層3は油捕集層1および撥油層2に比べ充填率が低く通気性の高い疎な構造であることが好ましい。つまり本実施形態の防汚フィルタ10は、流体吸入の上流側が密(つまり繊維密度が高い)で、下流側(フィルタ取り付け部側)が疎(つまり繊維密度が低い)な層構造を持つフィルタであることが好ましい。また、空間形成層3が油捕集層1および撥油層2の支持体としての働きを有していることが好ましく、このような防汚フィルタ10では、その取り扱い性が一層良好になるという効果を有する。
【0046】
次に、上述の2層構造および3層構造の防汚フィルタに用いた空間形成層について、詳細を以下に説明する。
【0047】
上記空間形成層は、それ自体に吸引力が作用しても十分な空間を確保できることが好ましい。この点から、空間形成層の充填率を0.3kPa荷重下で評価することとし、この荷重下での充填率は1%〜7%となることが好ましく、1%〜3%となることがより好ましい。この範囲であれば、防汚フィルタの使用時において吸引力が作用した状態でも流体の速度低下を十分に抑えることが可能となる。
【0048】
空間形成層の厚みは特に限定されないが、その厚みを1mm〜12mmとすることが好ましく、1mm〜5mmに設定することがより好ましい。こうすることで、空間形成層を通って吸入される流体の流路長を十分に短くすることができる。
【0049】
空間形成層は、嵩高な空間を形成し得る材料から構成されていることが好ましい。この点から、繊維シートまたは発泡体等の多孔質体から構成されていることが好ましい。繊維シートとしては、不織布、織布、編み物地、ネット材料またはこれらの複合材料等を用いることができる。さらに、経済性を考慮すると、繊維シートには不織布を用いることが好ましい。要求される上述の種々の特性を考慮すると、繊維シートに用いる不織布としては、目が粗くかつ強度の高い不織布であるスパンボンド不織布を用いることが好ましい。繊維シートとして用いる不織布の坪量は、通気性を十分に高める点から、10g/m〜50g/m、特に10g/m〜30g/mであることが好ましい。また、繊維シートとして用いる不織布に立体的な二次加工が施されたものを用いることによって、上述の充填率が容易に達成される。立体的な二次加工の一例としては、スチールマッチエンボス加工が挙げられる。または、高圧流体を吹き付ける立体賦形方法、さらには特開2004−174234号公報の図2ないし図5に記載の装置を用いた立体賦形方法を用いることもできる。
【0050】
空間形成層として特に好ましく用いられる繊維シートは、スパンボンド不織布をスチールマッチエンボス加工によって立体賦形したものや、ネット材料にスチールマッチエンボス加工によって立体賦形したものである。これらのシートは、構成繊維の目が粗く、かつ充填率が低いという特徴を有している。また、このシートは破断強度が高く、かつ伸度が低いという特徴を有している。また、繊維径20〜100μm程度の太い繊維で構成されたエアレイ不織布やエアスルー不織布なども、厚みがあり充填率が低いシートを形成できることから、好適に用いることができる。
【0051】
空間形成層に発泡体等の多孔質体を用いる場合、該多孔質体としてはポリウレタン製の発泡体が挙げられる。かかる発泡体も、構成繊維の目が粗く、かつ充填率が低いという特徴を有している。また、破断強度が高く、かつ伸度が低いという特徴を有している。そのような発泡体の具体例としては、三次元構造の骨格組織を有するポリウレタン製の発泡体であるブリジストン製のエバーライト(登録商標)SF HR―08およびSF HR―13等が挙げられる。
【0052】
上述した第1実施形態の防汚フィルタは、上述の2層構造および3層構造において、さらに他の層を設けたものであってもよい。
【0053】
上述した第1実施形態の防汚フィルタは、表面層の破断強度を保ちつつ、表面層の厚みを例えば2mm以下に薄くできるので、表面層を含む複数層に構成しても、その厚みが厚くなりすぎることはない。また、表面層の1層で構成されたものより、防汚フィルタの破断強度を高めることが可能になる。これにより、油捕集性が保てる範囲内で表面層をさらに薄くすることが可能になり、防汚フィルタ全体の厚みもさらに薄くすることが可能になる。また、上記撥油層の効果により、フィルタが過剰に油分を捕集した場合でも、裏抜けを極めて効率的に防止し、フィルタの下流側の汚れを防ぐことができる。さらに、上記空間形成層の効果により、十分は捕集性を維持しつつ、圧力損失を低くすることができる。
【0054】
[実施形態2]
本実施形態の防汚シートは、単層の繊維シートからなり、該繊維シートは上記非溶融性繊維と熱融着性複合繊維とが混合されてなる上記実施形態1の繊維シートと同様のものである。換言すると、上記実施形態1の表面層のみからなる防汚シートと実質的に同義である。両繊維の混合比率や繊維径等は上述のとおり実施形態1と同様の範囲のものを適用することが好ましい。実施形態2の防汚シートの場合、防汚シートとしての最低限の性能である、フィルタ下流側の汚れの防止や難燃性を実現しながらも、複層構造のシートに比べ構造が単純なため、生産コストが安く抑えられるという利点がある。
【0055】
[枠体付き防汚フィルタ]
上述の実施形態の各防汚フィルタは、その周縁が枠体に取り付けられていてもよい。また、上記枠体は枠内に桟が形成されていてもよい。桟は、1本であっても複数本であってもよく、または十字状、格子状であってもよい。この桟にも上記防汚フィルタの表面層を含む複数層が取り付けられていることが好ましい。また、桟によって防汚フィルタを挟み込むようにしてもよい。この枠体および桟は、アルミニウム、ステンレス等の金属であっても難燃性樹脂であってもよい。要するに、フランベ時等の炎にさらされても、燃焼、変形、変色等を起こさない材料で形成されることが好ましい。
【0056】
枠体を有する防汚フィルタでは、その枠体によって表面層を含む複数層が支持されることから、例えばフランベ時に発生するような炎が表面層に直接当たったとしても、枠体や桟によって表面層の形状が保持されやすくなる。
また、換気扇等の吸入口に枠体ごと防汚フィルタを取り付けることができるので、防汚フィルタの取り付けが容易になる。
【0057】
[防汚フィルタが適用された製品]
次に、上述の第1、第2実施形態の各防汚フィルタが取り付けられている製品について以下に説明する。
【0058】
[レンジフード付き換気扇]
上記製品例として換気扇がある。具体的には、換気扇にはレンジフードが取り付けられ、そのレンジフードの吸入側にグリスフィルタが取り付けられている。さらに、そのグリスフィルタの吸入側には、上述の第1または第2実施形態の防汚フィルタが取り付けられている。すなわち、防汚フィルタは吸入側の最も外側に取り付けられている。
【0059】
[レンジフード]
また、上記製品例としてレンジフードがある。レンジフードは換気扇の吸入側に取り付けられるもので、その吸入側の最も外側に上述の第1または第2実施形態の防汚フィルタが取り付けられている。具体的には、上述したのと同様に、グリスフィルタの吸入側に防汚フィルタが取り付けられている。
【0060】
[換気扇]
また、上記製品例としてレンジフードを設けていない換気扇がある。このような換気扇の吸入側の最も外側に、上述の第1または第2実施形態の防汚フィルタの一つが取り付けられている。例えば、換気扇の吸入側にグリスフィルタが設けられ、そのグリスフィルタの吸入側に防汚フィルタが取り付けられている。
【0061】
上記換気扇やレンジフードでは、グリスフィルタを設けているが、グリスフィルタを設けず、防汚フィルタを直接取り付けた構成であってもよい。
【実施例】
【0062】
[実施例1] 単層タイプの防汚フィルタ
表1に示した構成を有する防汚フィルタ(試験体)を製造した。
繊維同士の接着にはエアスルー方式を用い、そのシート構造は単層構造とした。
繊維構成は、熱融着性繊維としての芯鞘構造のポリエチレンテレフタレート(PET)繊維と非溶融性繊維としての難燃レーヨン繊維(ダイワボウレーヨン株式会社製DFG)との混綿とした。芯鞘構造のポリエチレンテレフタレート繊維には、その芯部分が難燃性ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)で形成され、その鞘部分が共重合ポリエチレンテレフタレート(融点:160℃)で形成されたものを用いた。
混合比率は、ポリエチレンテレフタレート繊維を95質量%とし、レーヨン繊維を5質量%とした。ポリエチレンテレフタレート繊維には繊維径が14μmのものを用い、レーヨン繊維には繊維径が17μmのものを用いた。坪量は40g/mとした。また、0.3kPa付加荷重時の厚みは1.6mmとした。
【0063】
[実施例2]
表1に示したとおり、熱融着性複合繊維としてのポリエチレンテレフタレート繊維と非溶融性繊維としてのレーヨン繊維との混合比率と厚み以外、実施例1と同様に製造した。
混合比率は、ポリエチレンテレフタレート繊維を90質量%とし、レーヨン繊維を10質量%とした。0.3kPa付加加重時の厚みは1.7mmとした。
【0064】
[実施例3]
表1に示したとおり、熱融着性複合繊維としてのポリエチレンテレフタレート繊維と非溶融性繊維としてのレーヨン繊維との混合比率と厚み以外、実施例1と同様に製造した。
混合比率は、ポリエチレンテレフタレート繊維を85質量%とし、レーヨン繊維を15質量%とした。0.3kPa付加加重時の厚みは1.8mmとした。
【0065】
[実施例4]
表1に示したとおり、裏面層を含む2層構造とした。表面層の製造方法は実施例1と同様とした。
繊維構成は、吸引される流体の上流側に配置される表面層(油捕集層)は、実施例1と同様に形成した。
また吸引される流体の下流側に配置される裏面層(例えば空間形成層)には、芯鞘構造を有する熱融着性複合繊維としてのポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布を用いた。2層の不織布は重ねた状態で180度の熱をかけ、融着させることで行なった。この芯鞘構造を有するポリエチレンテレフタレート繊維は、実施例1で用いたものと同様である。空間形成層の坪量は23g/mとした。空間形成層の繊維には、繊維径が39μmのものを用いた。また、0.3kPa付加荷重時の厚みは4.3mmとした。
【0066】
[比較例1]
表1に示したとおり、熱融着性複合繊維としての芯鞘構造のポリエチレンテレフタレート繊維で100%構成されている点と、厚みが1.5mmである点を除いて、製造方法は実施例1と同様とした。比較例1における芯鞘構造のポリエチレンテレフタレート繊維は、実施例1で用いたものと同様である。
【0067】
[比較例2]
表1に示したとおり、熱融着性複合繊維としてのポリエチレンテレフタレート繊維と非溶融性繊維としてのレーヨン繊維との混合比率以外、実施例1と同様に製造した。
混合比率は、ポリエチレンテレフタレート繊維を80質量%とし、レーヨン繊維を20質量%とした。
【0068】
[比較例3]
表1に示したとおり、表面層の繊維の混合比率を、ポリエチレンテレフタレート繊維を70質量%とし、レーヨン繊維を30質量%とし、表面層の厚みが1.4mmである点を除いて、製造方法は実施例1と同様とした。比較例3における芯鞘構造のポリエチレンテレフタレート繊維は、実施例1で用いたものと同様である。
【0069】
[比較例4,5]
表1に示したとおり、ケミカルボンド法で繊維どうしが結合された単層構造の不織布で形成された市販のフィルタを用いた。
比較例4は、繊維径が23μmのポリエチレンテレフタレート繊維で構成され、その坪量は50g/mで、0.3kPa付加荷重時の厚みは0.6mmであった。
比較例5は、繊維径が40μmのポリエチレンテレフタレート繊維と繊維径が40μmのレーヨン繊維とで構成され、その坪量は207g/mで、0.3kPa付加荷重時の厚みは8.4mmであった。
【0070】
得られた各実施例および各比較例に関し、下記の測定および評価を行い、その結果を表1に示した。
【0071】
[破断強度の測定方法]
この破断強度は、
測定対象を、MDに100mm、該MDと直交する方向であるCDに25mmの寸法の長方形形状を切り出し、この切り出された長方形形状を測定サンプルとする。この測定サンプルを、そのMDが引っ張り方向となるように、引張試験機のチャックに取り付ける。チャック間距離は50mmとする。測定サンプルを300mm/分で引っ張り、サンプル破断前の最大荷重点を破断強度とする。 また、上記フィルタから、CDに100mm、MDに25mmの寸法の長方形形状を切り出してこれを測定サンプルとし、この測定サンプルを、そのCD方向が引張方向となるように引張試験機のチャックに取り付け、上記と同様の手順により、破断強度を求める。
【0072】
[厚みの測定方法・防汚フィルタが単層の場合]
防汚フィルタの厚みの測定方法は、防汚フィルタに0.3kPaの荷重を加えた状態で、厚み測定器を用いて測定する。厚み測定器には、例えば、MITUTOYO社製の厚み計(例えば、商品名:ABSOLUTE)を用いる。厚み測定は、例えば10点測定し、それらの平均値を算出して厚みとする。もちろん、厚み測定器は上記に限定されることはなく、測定点数も10点に限定されない。
〔厚みの測定法・防汚フィルタが積層の場合〕
表面層が積層フィルタから容易に剥離できる場合には、積層フィルタから剥離した表面層に0.3kPaの荷重を加えた状態で、厚み測定器を用いて測定する。厚み測定器には、例えば、MITUTOYO社製の厚み計(例えば、商品名:ABSOLUTE)を用いる。厚み測定は、例えば10点測定し、それらの平均値を算出して厚みとする。もちろん、厚み測定器は上記に限定されることはなく、測定点数も10点に限定されない。
表面層が積層フィルタから容易には剥離できない場合には、積層フィルタに0.3KPaの荷重をかけた状態で側面から顕微鏡を用いて観測し、表面層の厚みを目視で10点測定し、それらを平均した値を空間形成層の厚みとする。
【0073】
[評価]
防汚フィルタの試験体について、フランベ時の溶融かすの落下率、フランベ時の溶融かすの落下回数、通常使用状態における外観、グリスフィルタの防汚性について、以下の方法で評価する。その結果を表1に示す。
【0074】
[フランベ試験方法]
フランベ試験は、以下の(1)〜(6)の手順を10回繰り返して行う。
(1)試験体とする防汚フィルタをレンジフードのグリルフィルタの上流側に設置する。例えば、加熱調理器から高さ80cmの位置に例えば水平に、試験体を設置する。加熱調理器にはガス調理器を用いたが、電磁調理器を用いた場合も同様である。
(2)ガス調理器のコンロを最大火力でフッ素加工を施したフライパンを加熱する。なお、電磁調理器の場合には電磁波の最大出力とする。
(3)非接触温度計で、フライパンの中心温度を測定する。その温度が200℃になった時点で、ブランデー15ccをフライパン内に投入すると同時に、着火装置、例えばライターで揮発したブランデーに着火する。15ccのブランデーは、通常の調理における大さじ1杯分であり、その大さじ1杯分のブランデーを一気にフライパン上に投入する。
(4)フライパン上でフランベが起こり、試験フィルタにフランベの炎が当たる。
(5)フライパン上の炎が消えたら、コンロの火を消す。
(6)フランベ時の試験フィルタの溶けカスの落下の有無を観察する。
上記(1)〜(6)の手順によるフランベ試験を10回繰り返した後、試験フィルタの溶けカスの落下の発生確率を算出する。その算出方法は、フランベ試験の回数に対する溶けかすが発生したフランベ試験数の比で表す。
【0075】
[通常使用時における外観検査方法]
通常使用時における外観検査は、以下の手順で行う。
(1)加熱調理器から高さ60cmの位置に試験フィルタを例えば水平に設置する。加熱調理器にはガス調理器を用いる。
(2)ガス調理器のコンロを最大火力で15分間加熱する。
(3)試験終了後、試験フィルタの外観を目視で評価する。
上記手順で試験を行った後、試験フィルタの変色状態を目視で観察し、下記の3段階で評価する。
○:防汚フィルタの外観に変化なし。
△:防汚フィルタに若干の変色が認められる。
×:防汚フィルタに著しい変色が認められる。
【0076】
[グリスフィルタの防汚性]
油の捕集試験後、レンジフードから試験フィルタを取り外し、グリスフィルタの汚れ具合を目視により観察して、下記の3段階を評価する。
○:グリスフィルタに油が付着していない。
△:グリスフィルタに油が若干付着している。
×:グリスフィルタに油が多量に付着している。
上記油の捕集試験は以下のようにして行う。
【0077】
油の捕集試験方法は、財団法人ベターリビングが公表している優良住宅部品性能試験書における換気ユニット(台所ファン)フィルタの油捕集効率試験(BLT VU−08)を参考にして行う。この試験では、ガス調理器のコンロ上にフライパンを置き、そのフライパン上に円筒状の筒体を置く。また、フライパン上方には、レンジフードが取り付けられた換気扇が配置されている。レンジフードには油煙や埃を除去するグリスフィルタが換気扇のファンの吸入(上流)側に取り付けられている。さらにグリスフィルタの吸入(上流)側に試験フィルタの防汚フィルタが取り付けられている。
【0078】
上述の試験装置により油の捕集試験を、以下の手順で行う。
(1)フライパン上に12.5gの食用油を入れて、コンロ(例えば、出力5.25kW/h)により1分間加熱する。
(2)1分間加熱した後、フライパンの上方より水滴を200g/25分で滴下し、フライパン上に油煙を発生させる。好ましくは、水滴の滴下総量が200gになるように、水滴を等量で等間隔に25分間滴下する。水滴の滴下期間中もコンロによってフライパンを所定の熱量で加熱し続ける。このときの換気扇の排気量は「強」に設定した。なお、使用した換気扇のレンジフードファンは、日立製作所製の型番HB−606M−BLである。
(3)発生した油煙を、筒体内を通して換気扇で排気するとともに、試験フィルタで油分を捕集する。
(4)1回の試験時間は30分とする。そして、上記手順を3回繰り返し行う。
(5)試験フィルタの油捕集率は、下記式(1)から算出し、3回の測定の平均値を用いる。
なお、レンジフードに到達した油量は、フライパンに入れた油量から試験後のフライパンに残った油量とレンジ周りに飛散した油量とを差し引いて計算される。
【0079】
[数1]
油捕集率(%)=〔油の捕集量(g)/レンジフードに到達した油量(g)〕×100・・・式(1)
【0080】
[難燃性の測定方法]
JIS L1091 A−1法(ミクロバーナー法)に準じた方法で測定した。区分3が合格、区分1,2では直接炎が当たると炎上してしまうため不合格とする(前記表A参照)。
【0081】
【表1】

【0082】
表1に示した結果から明らかなように、各実施例1〜4の試験体は、溶融かすが落下することがなく、難燃性も区分3であるという優れた効果を奏する。
また、実施例1〜3の試験体のように、厚みが1,5mmから1.6mmと薄くとも、十分な破断強度が得られていることから、特に、実施例4のような表面層を含む複数層からなる防汚フィルタでは、表面層の厚みを薄くできる分、全体の厚みを薄くすることができるという利点がある。
また、表面層を薄くしても、グリスフィルタが油煙等でほとんど汚れることはなく、その防汚性にも優れた効果を奏する。
さらに、通常使用回数における外観検査において、焦げや変色が認められなかったという優れた外観保持性能が得られる。
【0083】
また、実施例4の試験体は、防汚フィルタを複数層に形成することで、破断強度(CD強度)を、1層の構成のものより向上させることができる。さらに、グリスフィルタの防汚性を低下させることなく、圧力損失を実施例1〜3の28Pa〜29Paから25Paに低下させて、通気性を向上させることができる。
【0084】
ここで、前述の特開2006−281108号公報(特許文献3)と本願発明との差異について以下に説明する。
【0085】
特許文献3に開示されている実施例1〜3の不織布は、熱融着性繊維と非溶融性繊維と芯鞘構造の熱融着性繊維からなる不織布である。一方、本願発明の防汚フィルタの表面層は、非溶融性繊維と芯鞘構造の熱融着性複合繊維からなる不織布である。したがって、不織布の構成という点で異なっている。また、特許文献3に開示された実施例1〜3では、熱融着性繊維に芯鞘構造を持たない熱融着性繊維が含まれていることによって、不織布に炎が当たった場合、芯鞘構造を持たない熱融着性繊維が溶融し、不織布の形状を崩す可能性がある。一方、本願発明の防汚フィルタの表面層は、熱融着性複合繊維の溶融性部分が溶融したとしても、熱融着性複合繊維の芯部分や非溶融性繊維が残るので、表面層の形状が崩れることが抑制される。
【0086】
また、特許文献3に開示されている実施例4には、非溶融性繊維のアクリル繊維と芯鞘構造の熱融着性繊維のポリエステル繊維からなる不織布が開示されている。さらに特許文献3では、非溶融性繊維が含まれる範囲を20質量%以上60質量%以下と規定しているが、その実施例(実施例4)に開示されているのは、非溶融性繊維のアクリル繊維が30質量%含まれている不織布だけであり、非溶融性繊維がレーヨン繊維の場合については、その混合比率の上限および下限について実施例は明らかにしていない。
【0087】
また、非溶融性繊維が30質量%含まれ、熱融着性繊維が70質量%含まれている不織布では、十分な破断強度を得ることができない可能性がある。以下、その理由について説明する。
【0088】
本発明の実施例および比較例から、不織布の実用上の破断強度が維持されるのは、非溶融性繊維が20質量%以下の不織布であることがわかる。すなわち、破断強度は、坪量を同一にした場合、非溶融性繊維が5質量%では3.5N/25mm、10質量%では4.0N/25mm、20質量%では1.5N/25mm、20質量%を超えて50質量%では0.8N/25mmであり、10質量%〜50質量%の範囲では、非溶融性繊維の比率が高くなるに従い、破断強度が低下していることが認められた。換気扇等に用いる不織布の破断強度は、1.0N/25mm以上有すればよいとされている。より好ましくは、3.0N/25mm以上の破壊強度を有する必要がある。しかしながら、特許文献3に開示されているような非溶融性繊維を30質量%含む不織布では破断強度を十分に得ることができない可能性がある。
【0089】
一方、本願発明の防汚フィルタは、非溶融性繊維の混合比率を5質量%以上15質量%以下としたことにより、破断強度を保ちつつ、表面層が炎にあぶられても溶融かすが落下しないという、特有の効果を奏する。
また、非溶融繊維の混合比率の上限は、破断強度の観点からは、20質量%以下が好ましく、より好ましい破断強度が得られる10質量%以下が好適である。
さらに、防汚フィルタ全体の厚みは厚くなりすぎないことは、取り付け等、取り扱いの点から好ましいことから、表面層は薄くすることが好ましい。本発明の防汚フィルタの表面層は、必要とされる破断強度が得られる範囲内で、一例であるが厚みを1.5mm〜1.6mmと薄くすることが可能になる。このように、表面層の厚みを薄くすることで、防汚フィルタ全体の厚みを例えば4.3mmと薄くすることができる。すなわち、本発明の好ましい実施形態によれば、非溶融性繊維を混繊したことによる溶融かすの落下防止効果と、積層防汚フィルタにとって特に有効な表面層の薄層化および高強度化とを同時に満足することができ好ましい。
【0090】
さらに、非溶融性繊維が20質量%含まれ、熱融着性繊維が80質量%含まれている不織布では、フィルタに調理により発生した炎が触れたとき、十分な難燃性を得ることができない可能性がある。以下、その理由について説明する。
【0091】
本発明の実施例および比較例から、不織布の十分な難燃性である区分3が維持されるのは、非溶融性繊維が15質量%以下の不織布であることがわかる。これは、異種難燃性繊維、特に溶融性繊維と非溶融性繊維を混合した場合に難燃性が低下する場面があることに起因する。これは、溶融性繊維が高温にさらされて溶融し、その周りに20重量%より多い非溶融性繊維が存在する場合、非溶融性繊維の周りに溶融した溶融性繊維が付着しやすくなるため、非溶融性繊維がロウソクの芯のような働きをしてしまい、燃え上がりやすくなるためである。そのため、本発明のフィルタは、溶融性繊維と非溶融性繊維を混合したことによる溶融かすの落下防止効果と、炎に触れたときも燃え上がらない高い難燃性とを同時に満足することができ望ましい。
【0092】
このように、本発明の防汚フィルタが取り付けられた換気扇やレンジフードでは、例えばフランベ時に発生するような炎が防汚フィルタの表面層に直接当たって、熱融着性複合繊維の溶融性部分が溶融したとしても、前述したように、その溶融部分が芯部分や非溶融性繊維に付着して落下するのが防止される。したがって、溶融かすが落下することはない。さらに、非溶融性繊維の混綿率を5重量%以上15重量%以下としていることから、十分な破断強度及び難燃性を保ちつつ、溶解かすが落下することはない。
【符号の説明】
【0093】
1 油捕集層
2 撥油層
3 空間形成層
10 防汚フィルタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維シートからなる防汚フィルタであって、
前記繊維シートは非溶融性繊維と熱融着性繊維とを含んでなり、該非溶融性繊維の混合比率が5質量%以上15質量%以下であり、前記熱融着性繊維により繊維どうしが接着している防汚フィルタ。
【請求項2】
前記防汚フィルタは複数層からなり、前記繊維シートは、流体が吸入される上流側に配置される表面層である、請求項1記載の防汚フィルタ。
【請求項3】
前記熱融着性繊維は複合繊維である、請求項1又は2記載の防汚フィルタ。
【請求項4】
前記熱融着性複合繊維は芯部分が難燃性の芯鞘構造を有し、
前記非溶融繊維はレーヨン繊維からなる
請求項1〜3のいずれかに記載の防汚フィルタ。

【図1】
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【図2】
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