説明

防汚性手袋

【課題】優れた殺菌効果、防臭効果を有すると共に、特に、防汚効果に優れた樹脂製の手袋を提供する。
【解決手段】樹脂からなる基体材料100重量部に対し、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタン及び3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されている原料から形成され、又は、該原料からなるコーティング層が外表面に設けられていることを特徴とする防汚性手袋である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌、防臭及び防汚性に優れた手袋に関し、更に詳しくは、光を照射することにより、特に、手袋に付着した汚れを分解することが出来る防汚性手袋に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂製あるいはゴム製の手袋は、家庭用、食品加工用、医療用、精密工業用など、さまざまな分野で使用されている。これらの手袋はその使用目的から、清潔であることが要求されるものの、洗浄がしにくいため汚れが残りやすく、カビや微生物の繁殖が起こりがちで、腐敗臭なども発生することがあるという問題を含んでいる。
このような問題を解決するための手袋として、従来より、殺菌作用のある物質を原料の中に練り込み、この原料を所定の形状に成形してなる手袋が各種提案されている。
【0003】
例えば、銀、銅、亜鉛の内少なくとも一種を含むゼオライト系抗菌剤または/及びシリカゲル系抗菌剤を含有することを特徴とする、ゴム製指サックまたはゴム製手袋が開示されている(特許文献1参照)。これはゼオライト系抗菌剤から溶け出した銀、銅、亜鉛イオンが手袋に付着した細菌等を殺菌するものであり、食中毒や細菌による汚染の拡大を防ぐ効果がある。
しかしながら、手袋に付着する汚れそのものに対する防汚効果、あるいはこの汚れから発生する臭いについての消臭効果については充分でなく、問題の根本的な解決には至っていない。
【0004】
また、抗菌性をもつ、シリカ、アルミナ、酸化チタンを主成分とするセラミックス混合物を0.1〜1.0%(重量%、以下同じ)の割合で添加した塩化ビニルを主成分とする配合液を原料として成形された手袋の表面に、ポリ塩化ビニル5〜15%、アクリル系樹脂8〜23%、マイカ粉末あるいはシリカ粉末等の充填材5〜25%及び残部がポリエステルを添加してなる混合処理液を一様に塗布し、前記処理液を100℃前後で過熱して固化したことを特徴とする塩化ビニル手袋が提案されている(特許文献2参照)。これは、シリカ、アルミナ、酸化チタンのセラミックス混合物により空気中の酸素から活性酸素を作成し、殺菌及び脱臭を行おうとするものである。
しかしながら、手袋に付着する汚れそのものについての防汚効果は不十分で、やはり、問題の根本的な解決には至っていない。
さらに、塩化ビニルに1重量%以上のセラミックス混合物を添加すると、手袋の主材となる配合液の均一性が壊され、原材料の劣化が激しく加工がしにくくなるため、それ以上のセラミックス混合物を添加することができず、これが殺菌効果、防臭効果の限界になるという問題点があった(特許文献2〔0008〕、〔0010〕)。
【0005】
以上のように、酸化チタンは殺菌及び脱臭作用を有することが知られているが、手袋の基体材料となる樹脂をも著しく劣化させてしまうため、大量の酸化チタンを樹脂に配合することができず、結局、十分な殺菌、防臭効果が得られず、更に、防汚効果を有する樹脂製の手袋が得られていないのが実情である。
【特許文献1】特開平9−111053号公報
【特許文献2】特開平11−93008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる実情に鑑み、上記のような従来技術の問題点を解消し、殺菌効果、防臭効果を有すると共に、特に、防汚効果に優れた樹脂製の手袋を提供することを目的とするものである。
本発明者らは上記問題点を解消するべく鋭意研究の結果、基体材料となる樹脂に特定の安定剤を特定量配合することにより、活性酸化チタンによる樹脂の劣化が抑えられ、従って、活性酸化チタンを多量に含有させることができ、優れた殺菌、防臭効果及び防汚効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の請求項1は、樹脂からなる基体材料100重量部に対し、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタン及び3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されている原料から形成されていることを特徴とする防汚性手袋を内容とする。
【0008】
本発明の請求項2は、樹脂からなる基体材料100重量部に対し、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタン及び3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されている原料からなるコーティング層が、外表面に設けられていることを特徴とする防汚性手袋を内容とする。
【0009】
本発明の請求項3は、金属石鹸系安定剤がMg−Zn系安定剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防汚性手袋を内容とする。
【0010】
本発明の請求項4は、さらに、ホスファイト系安定剤を1〜6重量部含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の防汚性手袋を内容とする。
【0011】
本発明の請求項5は、ホスファイト系安定化剤が亜リン酸エステルであることを特徴とする請求項4に記載の防汚性手袋を内容とする。
【0012】
本発明の請求項6は、活性酸化チタンの結晶型がアナターゼ型であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の防汚性手袋を内容とする。
【0013】
本発明の請求項7は、活性酸化チタンが紫外光吸収型であり、含有量が20〜30重量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の防汚性手袋を内容とする。
【0014】
本発明の請求項8は、活性酸化チタンが可視光吸収型であり、含有量が3.5〜10重量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の防汚性手袋を内容とする。
【0015】
本発明の請求項9は、活性酸化チタン粒子の粒径が2nm〜15,000nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の防汚性手袋を内容とする。
【0016】
本発明の請求項10は、手袋の肉厚、又はコーティング層の厚さが0.4mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の防汚性手袋を内容とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の防汚性手袋は、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタンが含有されているため、殺菌効果、防臭効果を有するとともに、優れた防汚効果を有する。さらに基体材料100重量部に対し3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されているため、樹脂からなる基体材料は活性酸化チタンの光触媒作用によって劣化することがなく、長期間使用できるとともに、樹脂の変色等もない。
【0018】
請求項2に記載の防汚性手袋は、活性酸化チタンを所定の量だけ含有するコーティング層が外表面に設けられているため、請求項1に記載の発明と同様の殺菌効果、防臭効果、防汚効果を有し、基体材料の劣化もない。これに加え、殺菌、防臭、防汚が必要な部分のみにコーティング層を設けることができるため、手袋の設計がし易い。
【0019】
請求項3に記載の防汚性手袋は、金属石鹸系安定剤がMg−Zn系安定剤であるため、材料の劣化や変色の抑制効果がさらに優れている。
【0020】
請求項4に記載の防汚性手袋は、さらにホスファイト系安定剤を1〜6重量部含有するため、材料の劣化や変色が一層抑えられさらに長期間使用できる。
【0021】
請求項5に記載の防汚性手袋は、ホスファイト系安定化剤が亜リン酸エステルであるため、材料の劣化や変色の抑制効果がさらに優れている。
【0022】
請求項6に記載の防汚性手袋は、活性酸化チタンの結晶型がアナターゼ型であるから、少量でも十分な光触媒作用が十分発揮され、強力な汚れ分解効果がある防汚性手袋が得られる。
【0023】
請求項7に記載の防汚性手袋は、活性酸化チタンとして紫外光吸収型の物を使用するため、例えば病院などのように、紫外線照射による殺菌作業を行うときに、この手袋に付着した汚れも同時に分解できる。
【0024】
請求項8に記載の防汚性手袋は、活性酸化チタンとして可視光吸収型のものを使用するため、紫外線照射装置など特別の装置が不要で、日常的に扱いやすい防汚性手袋を得ることができる。
【0025】
請求項9に記載の防汚性手袋は、活性酸化チタン粒子の粒径が2nm〜15,000nmであるため、原材料の劣化が抑えられ長期間使用でき、加工がし易いとともに、光触媒作用が十分発揮され強力な汚れ分解効果を有する防汚性手袋が得られる。
【0026】
請求項10に記載の防汚性手袋は、手袋の肉厚、又はコーティング層の厚さが0.4mm以下であるため、殺菌、消臭、汚れの分解がさらに好適に行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の防汚性手袋は、樹脂からなる基体材料100重量部に対し、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタン及び3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されている原料から形成されているか、あるいはその原料からなるコーティング層が外表面に設けられていることを特徴とする。
【0028】
本発明で基体材料として使用できる樹脂としては、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、経時的な劣化が少ない点で塩化ビニルを使用するのがより好ましい。
【0029】
本発明において用いられる活性酸化チタンは光触媒としての活性を有する酸化チタンであり、主にルチル型、アナターゼ型、ブルッカイト型の3種類の結晶構造が知られているが、アナターゼ型(正方晶低温型)が最も光触媒作用が強いため好ましい。この活性酸化チタンは紫外光領域から可視光領域の光を吸収することにより殺菌、消臭、汚れの分解を行う。
【0030】
活性酸化チタンの粒径は特に限定されないが、2nm〜15,000nmのものを好適に使用できる。ここで酸化チタンの粒径が2nm未満であると金属石鹸系安定剤を添加しても基体材料の劣化が生じる可能性があり、手袋を加工しにくくする場合がある。一方、15,000nmよりも大きいと活性酸化チタンの表面積が小さくなって光触媒作用も小さくなり、汚れの分解速度も遅くなるため、医療用、精密工業用など特に清潔さが要求される用途としては適さなくなることがある。
なお、活性酸化チタンの粒径は2nm〜5,000nmであればより好ましく、5nm〜500nmであれば更に好ましく、10nm〜100nmであれば特に好ましい。
【0031】
本発明で使用する活性酸化チタンは、粒子に特に表面処理されていないものでも使用可能であるが、酸化チタン表面に無機質の多孔質保護膜を施す表面加工がされたもの(マスクメロン型)に代表される紫外光吸収型のものや、白金や白金化合物で表面が被覆されたものに代表される可視光吸収型のものを使用すれば更に好ましい。
【0032】
活性酸化チタンの適当な使用量は手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量であり、使用する活性酸化チタンの粒径、結晶型、表面処理方法等によって異なり一概には云えないが、概ね基体材料100重量部に対し0.5〜31重量部程度である。0.5重量部未満であると殺菌、消臭効果は現れるものの、防汚効果が十分とはならない場合がある。一方、31重量部を超えると加工が難しくなってしまう場合がある。
【0033】
紫外光吸収型の活性酸化チタンを使用した場合、例えば病院などのように常時紫外線照射による殺菌作業を行っているような施設では、殺菌作業と同時にこの手袋に付着した汚れも同時に分解できる。この場合、活性酸化チタンの含有量は9〜31重量部が好ましく、20〜30重量部がより好ましい。9重量部より少ない場合は光触媒作用が弱く、汚れの分解に長時間かかってしまう。31重量部を超えると原料の粘度が高すぎて、手袋の作製自体が非常に困難になる傾向がある。
【0034】
可視光吸収型の活性酸化チタンを使用した場合、光触媒作用を起こすために特別な処理や装置(例えば紫外線照射装置)が必要でなく、蛍光灯など生活に通常使用している光源の光や日光等を照射するだけで汚れを分解することができ、日常的に扱いやすい防汚性手袋が得られる。この場合、活性酸化チタンの含有量は0.5〜10重量部が好ましく、3.5〜10重量部であるのがより好ましい。0.5重量部より少ない場合は光触媒作用が弱く、汚れの分解に長時間かかってしまう。10重量部を超えると原料の粘度が高すぎて、手袋の作製自体が困難になる傾向がある。
【0035】
本発明においては基体材料に大量の活性酸化チタンを含有させるため、光触媒作用による樹脂の熱変性を防ぐために安定剤を用いる。
本発明で使用する安定剤としては、金属石鹸系安定剤、特に好ましいものとして、カルボン酸マグネシウム塩及びカルボン酸亜鉛塩を主成分とするMg−Zn系やカルボン酸バリウム塩及びカルボン酸亜鉛塩を主成分とするBa−Zn系の金属石鹸系安定剤等が例示できる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。カルボン酸カルシウム塩及びカルボン酸亜鉛塩を主成分とするCa−Zn系の金属石鹸系安定剤も使用可能であるが、Mg−Zn系やBa−Zn系のものと比較して効果が劣る。更に、Ba−Zn系の金属石鹸系安定剤は好適に熱変性を防ぐ効果はあるものの、安全性が未だ確認されていないため、現状では人体と直接接触する部分には使用しないほうが無難であると考えられる。なお、本発明で好適に使用できるMg−Zn系金属石鹸系安定剤としてSC−72(旭電化工業株式会社製)等が市販されている。
【0036】
なお、本発明において使用可能な金属石鹸系安定剤を構成する、カルボン酸マグネシウム塩、カルボン酸亜鉛塩、カルボン酸バリウム塩、カルボン酸カルシウム塩を形成するカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、2 −エチルへキシル酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、クロロステアリン酸、12−ケトステアリン酸、フェニルステアリン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、ブラシジン酸及び類似酸並びに獣脂脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、桐油脂肪酸、大豆油脂肪酸及び綿実油脂肪酸等の天然に産出する上記酸の混合物、安息香酸、p−第三ブチル安息香酸、エチル安息香酸、イソプロピル安息香酸、トルイル酸、キシリル酸、サリチル酸、5 −第三オクチルサリチル酸、ナフテン酸、シクロヘキサンカルボン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の一価カルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、オキシフタル酸、クロルフタル酸、アミノフタル酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、メタコン酸、イタコン酸、アコニット酸等の二価カルボン酸及びそのモノエステル等が挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0037】
金属石鹸系安定剤の配合量は、一般に、基体材料100重量部に対して3重量部程度が適当とされているが、本発明では、単独で使用する場合は、3〜19重量部を配合するのが好ましく、3〜16重量部であればより好ましい。3重量部未満では劣化や変色が抑制できない場合がある。一方、19重量部よりも多いとブリードすることがある。
なお、後述のホスファイト系安定剤を併用する場合には、金属石鹸系安定剤の配合量は3〜10重量部であればより好ましく、4〜7重量部であれば更に好ましい。
【0038】
本発明において、好ましくは、金属石鹸系安定剤とともにホスファイト系安定剤を使用する。本発明において使用可能なホスファイト系安定剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2−第三ブチル−4,6−ジメチルフェニル)・エチルホスファイト、ジフェニルアシッドホスファイト、2,2' −メチレンビス(4,6−ジ第三ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、ジブチルアシッドホスファイト、ジラウリルアシッドホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(ネオペンチルグリコール)・1,4−シクロヘキサンジメチルジホスフィト、ビス(2,4−ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ第三ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、フェニル−4,4' −イソプロピリデンジフェノール・ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(C12〜15混合アルキル)−4,4' −イソプロピリデンジフェニルホスファイト、ビス[ 2,2' −メチレンビス( 4,6−ジアミルフェニル)]・イソプロピリデンジフェニルホスファイト、水素化−4,4' −イソプロピリデンジフェノールポリホスファイト、ビス( オクチルフェニル) ・ビス[ 4,4' −n―ブチリデンビス( 2−第三ブチル−5−メチルフェノール)]・1,6−ヘキサンジオール・ジホスファイト、テトラトリデシル・4,4' −ブチリデンビス( 2−第三ブチル−5−メチルフェノール) ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)・1,1,3−トリス(2−メチル−5−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン・トリホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2−ブチル−2−エチルプロパンジオール・2,4,6−トリ第三ブチルフェノールモノホスファイト等が挙げられるが、特に亜リン酸エステル系安定剤が好ましい。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
ホスファイト系安定剤の配合量は、基体材料100重量部に対して1〜6重量部が好ましい。1重量部未満では劣化や変色を抑制できないことがある。一方、6重量部よりも多いとブリードすることがある。なお、この配合量は2〜4重量部がより好ましい。
【0039】
本発明においては、更に、基体材料に通常使用される他の添加剤、例えば、可塑剤、安定剤、増粘剤、減粘剤、着色料等を必要に応じて配合することができる。
【0040】
上記原料は、通常の方法で手袋の作製に供し、殺菌、防臭、防汚性に優れた手袋としてもよく、また、手袋の外表面の任意の場所にコーティング層として供し、部分的に殺菌、防臭、防汚性に優れた手袋とすることができる。
【0041】
本発明は基体材料に含まれる活性酸化チタンの光触媒作用により、殺菌、消臭、汚れの分解が行われる。ここで、活性酸化チタンを含有する基体材料からなる手袋の肉厚又はコーティング層の厚さが0.4mmを超えると殺菌、消臭、汚れの分解の効果が減少する傾向が確認された。その理由は明らかではないが、厚さが0.4mm以下の場合は手袋の表面から入射した光のみならず、裏面で反射した反射光も活性酸化チタンに照射されるので光触媒作用が活発になるのに対し、0.4mmを超えると入射した光が基体材料に吸収され反射光が生じないため、活性酸化チタンに照射される光が減少して光触媒作用が減少するためであると考えられる。従って、手袋の肉厚、コーティング層の厚さは0.4mm以下であるのが好ましい。
なお、0.1〜0.4mmの間でその効果に変化は殆どなく、0.1mm未満であっても同様の効果が得られると予想されるが、現行の技術では活性酸化チタンを含んだ原料で厚さ0.1mm未満のコーティング層や手袋を作製するのは極めて困難であり、効果が確認できなかった。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、カッコ内は製造者及び製品名を表す。
【0043】
実施例1
塩化ビニル樹脂(株式会社カネカ製、PSM−30)100重量部、エステル系可塑剤(ランクセス株式会社、メザモールアゼップ)100重量部、可視光型活性酸化チタン(石原産業株式会社製、MPT−623、結晶型はアナターゼ型)3.5重量部、金属石鹸系安定剤としてMg−Zn系安定剤(旭電化工業株式会社製、SC−72)6重量部、ホスファイト系安定剤(旭電化工業株式会社製、SC−126)3重量部を添加した塩化ビニル原料を調整した。
これらの配合により得られた原料に陶器製手形を浸漬して、原料が滴下しないように引き上げ、手形表面に塩化ビニル原料を付着させた。
原料が付着した手形を190±10℃の加熱室で約10分間加熱処理して塩化ビニル樹脂の皮膜を形成し、手形から手袋を反転剥離して手袋を作製した。得られた手袋の肉厚は0.3mmであった。
【0044】
実施例2
実施例1における可視光型活性酸化チタン3.5重量部に代えて、紫外光型活性酸化チタン(太平化学産業株式会社製、マスクメロン型光触媒、結晶型はアナターゼ型)30重量部を使用した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0045】
実施例3
実施例1に記載の塩化ビニル原料に、陶器製手形を手首付近まで浸漬し、ゾルが滴下しないように引き上げて手形表面に塩化ビニルゾルを付着させ、260℃で1分間加熱した後冷却した。
その後、塩化ビニル樹脂(株式会社カネカ製、PSM−30)100重量部、エステル系可塑剤(ランクセス株式会社、メザモールアゼップ)100重量部、Mg−Zn系安定剤(旭電化工業株式会社製、SC−72)3重量部を添加して調整した塩化ビニルペーストに、上記の冷却した陶器製手形を浸漬してゾルが滴下しないように引き上げて手形表面に塩化ビニルゾルを付着させ、これを190±10℃の加熱室で約10分間加熱処理して塩化ビニル樹脂の皮膜を形成し、手形から手袋を反転剥離して、指先から手首部分までの外表面に活性酸化チタンを含むコーティング層が設けられた手袋を作製した。得られた手袋のコーティング層の厚さは0.3mmであった。
【0046】
実施例4
実施例1におけるホスファイト系安定剤の量を1重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0047】
実施例5
実施例1におけるホスファイト系安定剤の量を2重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0048】
実施例6
実施例1におけるホスファイト系安定剤の量を4重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0049】
実施例7
実施例1におけるホスファイト系安定剤の量を6重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0050】
実施例8
実施例1におけるホスファイト系安定剤の量を7重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0051】
実施例9
実施例1におけるホスファイト系安定剤を添加しなかった他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0052】
実施例10
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を3重量部に変更し、ホスファイト系安定剤を添加しなかった他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0053】
実施例11
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を19重量部に変更し、ホスファイト系安定剤を添加しなかった他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0054】
実施例12
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を4重量部に変更し、ホスファイト系安定剤の量を2重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0055】
実施例13
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を7重量部に変更し、ホスファイト系安定剤の量を4重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0056】
実施例14
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を7重量部に変更し、ホスファイト系安定剤の量を5重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0057】
実施例15
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を8重量部に変更し、ホスファイト系安定剤の量を4重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0058】
実施例16
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を16重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0059】
実施例17
実施例1における可視光型活性酸化チタンの量を0.5重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0060】
実施例18
実施例1における可視光型活性酸化チタンの量を7重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0061】
実施例19
実施例1における可視光型活性酸化チタンの量を7重量部に変更し、Mg−Zn型安定剤の量を4重量部に変更し、ホスファイト系安定剤の量を2重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0062】
実施例20
実施例1における可視光型活性酸化チタンの量を10重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0063】
実施例21
実施例2における紫外光型活性酸化チタンの量を15重量部に変更した他は、全て実施例2と同様に手袋を作製した。
【0064】
実施例22
実施例2におけるホスファイト系安定剤の量を1重量部に変更した他は、全て実施例2と同様に手袋を作製した。
【0065】
実施例23
実施例2におけるホスファイト系安定剤の量を6重量部に変更した他は、全て実施例2と同様に手袋を作製した。
【0066】
実施例24
実施例2における紫外光型酸化チタンの量を20重量部に変更した他は、全て実施例2と同様に手袋を作製した。
【0067】
比較例1, 2
実施例1におけるMg−Zn型安定剤を添加せず、ホスファイト系安定剤の量をそれぞれ6,9重量部に変更した他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0068】
比較例3
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を20重量部に変更し、ホスファイト系安定剤を添加しなかった他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0069】
比較例4
実施例1におけるMg−Zn型安定剤の量を2重量部に変更し、ホスファイト系安定剤を添加しなかった他は、全て実施例1と同様に手袋を作製した。
【0070】
上記した実施例及び比較例で得られた手袋について、変色の有無、およびブリードの有無を観察し、また、光触媒作用による脱色の試験を行った。その結果を表1に示す。尚、手袋に配合した活性酸化チタンの型、活性酸化チタンの量、Mg−Zn系金属石鹸系安定剤の量、ホスファイト系安定剤の量も表1に示す。
活性酸化チタンの型について、Vは可視光吸収型を、UVは紫外光吸収型を示す。
活性酸化チタンの量、Mg−Zn系金属石鹸系安定剤の量、ホスファイト系安定剤の量については、基体材料100重量部に対する添加量を示す。単位は重量部である。
【0071】
変色については、配合直後の原料、及び配合1ヵ月経過した後の原料を用いて手袋を作製し、変色の有無を確認した。表中、○はいずれの原料を使用した場合でも変色が確認されなかったことを示し、△は配合直後の原料では変色しなかったが、1ヶ月経過後の原料では変色したことを示し、×は配合直後で既に変色が確認されたことを示す。なお△↑は1ヶ月経過後の原料を使用した場合の変色が僅かであったことを、△↓は変色が著しかったことを示す。
【0072】
ブリードについては、作製された手袋の表面を目視観察し、ブリードの有無を確認した。表中、○はブリードが全く確認されなかったことを、○↓は高温多湿条件下で僅かにブリードが確認されたが手袋として使用可能であることを、△は僅かにブリードが確認されたが手袋として使用可能であることを、×は手袋として使用に耐えない程度のブリードが確認されたことを示す。
【0073】
脱色については、作製された手袋から30mm角の試料を切り出し、この試料の上に10mg/リットルのメチレンブルー溶液を0.1ミリリットル滴下して太陽光を照射し、完全に脱色されるまでの時間を測定した。表中、○は1時間以内に脱色されたことを、△↑は1〜2時間で脱色させたことを、△は2時間超〜4時間で脱色されたことを、△↓は4時間超〜5時間で脱色されたことを、×は5時間以内に脱色されなかったことを示す。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
叙上のとおり、本発明の防汚性手袋は、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタンを所定量の特定の安定剤とともに配合したことにより、基体材料である樹脂を劣化させることなく、活発な光触媒作用が得られ、殺菌効果、消臭効果のみならず、優れた防汚効果を有する。本発明の防汚性手袋は、家庭用、食品加工用、医療用、精密工業用の手袋として好適に用いられ、特に汚れのない清潔さを要求される作業に対し好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなる基体材料100重量部に対し、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタン及び3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されている原料から形成されていることを特徴とする防汚性手袋。
【請求項2】
樹脂からなる基体材料100重量部に対し、手袋表面の汚れを分解できる光触媒作用が得られる量の活性酸化チタン及び3〜19重量部の金属石鹸系安定剤が含有されている原料からなるコーティング層が、外表面に設けられていることを特徴とする防汚性手袋。
【請求項3】
金属石鹸系安定剤がMg−Zn系安定剤であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防汚性手袋。
【請求項4】
さらに、ホスファイト系安定剤を1〜6重量部含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の防汚性手袋。
【請求項5】
ホスファイト系安定化剤が亜リン酸エステルであることを特徴とする請求項4に記載の防汚性手袋。
【請求項6】
活性酸化チタンの結晶型がアナターゼ型であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の防汚性手袋。
【請求項7】
活性酸化チタンが紫外光吸収型であり、含有量が20〜30重量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の防汚性手袋。
【請求項8】
活性酸化チタンが可視光吸収型であり、含有量が3.5〜10重量部であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の防汚性手袋。
【請求項9】
活性酸化チタン粒子の粒径が2nm〜15,000nmであることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の防汚性手袋。
【請求項10】
手袋の肉厚、又はコーティング層の厚さが0.4mm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の防汚性手袋。

【公開番号】特開2008−163478(P2008−163478A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−351218(P2006−351218)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】