説明

防火構造物

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、防火構造物に関し、特に、火災時に防火構造物の内部から発生するガスを抜くことが容易な防火構造物に関する。
【0002】
【従来の技術】高層建築物、デパート、ホテルなど火災が発生すると被害が大きいと予想される場所においては、消防法により防火構造物および/または防火ドアを備えることが義務づけられており、延焼防止により被害を最小限に押さえている。
【0003】実際に火災が発生すると、数百度以上の温度にさらされるため、壁、天井、床などの防火構造物または防火ドアの内部から、構造物自体に起因するガスが発生することが知られている。すなわち、防火構造物や防火ドアは、ほとんどの部分が耐熱性の不燃材料などで構成されているが、その内部には接着剤や有機物が存在するので、これらに起因して火災時に内部からガスが発生する。このガスは、火災時の高温化によって一気に噴出する傾向があるため、噴出ガスの圧力により防火構造物や防火ドアが破壊してしまうという問題が、従来から知られている。従って、防火構造物に要求される性能として、遮炎性、遮煙性、遮熱性、耐熱強度の他に、内部ガス抜け性も重要視される。
【0004】従来、防火構造物の構造として、(1) 耐火性板5とフレーム2を、有機系接着剤21により固定した構造(図8参照)。
(2) 耐火性板5とフレーム2を、釘等の針状固定体8を用いて直接固定した構造(図9参照)。
などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図8に示すような、耐火性板とフレームとを有機系接着剤により固定しているものは、火災時の高温化により、接着力が失われて保持力が低下する共に、フレーム又は芯材の内部又は表面に存する有機成分の揮発や水分の気化により、構造内部のガス圧力が高くなって耐火性板を内部から圧迫し、耐火性板がフレームから剥がれ落ちることになり、防火の機能が失われてしまうという課題があった。
【0006】また、図9に示すような、耐火性板の剥がれ落ちを防止するために、釘等の針状固定体を用いて耐火性板とフレームとを直接固定することが考えられるが、石膏、セメント、無機繊維集積体等からなる耐火性板に針状固定体を打ち込むと、局部的応力のために歪みが発生して、容易に耐火性板が破損してしまい、防火構造物の製造が困難であった。また、製造時に破損を免れても、針状固定体の打ち込みによる局部的応力が残留して破壊応力が著しく低下し、火災時の熱膨張や内部ガス圧力の発生により、簡単に破損するという課題があった。
【0007】前記課題を解決するため、本発明は、火災時に耐火性板が剥がれ落ちることなく防火機能を維持すると共に、防火構造物の内部ガス抜きが容易にできる防火構造物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の防火構造物は、フレームの中空部に断熱性の芯材を充填した構造物本体の少なくとも片面側に、耐火性板と可燃性板とが順に積層されている構造物であって、前記可燃性板の上から針状固定体により前記可燃性板と前記耐火性板が前記フレームに固定されていることを特徴とする。
【0009】前記構成においては、耐火性板が、少なくとも無機繊維層と無機微粒子及びバインダーを含む層とからなる積層体であって、無機繊維層はロックウール、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、炭素繊維、シリカーアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、金属繊維、セラミックス繊維から選ばれる少なくとも一種の耐熱性繊維であることが好ましい。
【0010】また、前記構成においては、構造物がドアであることが好ましい。
【0011】
【作用】本発明の防火構造物の構成によれば、フレームの中空部に断熱性の芯材を充填した構造物本体の少なくとも片側面に耐火性板を固定する際に、可燃性板を介して釘等の針状固定体を打ち込んで固定するため、可燃性板が緩衝材として働き、局部的応力が緩和されて歪みが発生し難くなり、製造時の破損が少なくなる。また、局部的応力の残留が減少して破壊応力の低下が少なくなり、火災時の破損を防止することができる。
【0012】また、火災発生時には可燃性板が炭化したり燃焼することにより、針状固定体の係止部と耐火性板の間の可燃性板が薄くなり又は消滅して、可燃性板の厚さに相当する隙間が生じ、内部ガス圧力により耐火性板が針状固定体の係止部まで移動できる。そのため、フレームと耐火性板との間に間隙が生じて、そこから内部ガスが解放されると共に、針状固定体の係止部により耐火性板が剥がれ落ちないため、防火構造物の防火性能をそのまま維持することができる。
【0013】また、耐火性板が、少なくとも無機繊維層と無機微粒子及びバインダーを含む層とからなる積層体であって、無機繊維層はロックウール、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、炭素繊維、シリカーアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、金属繊維、セラミックス繊維から選ばれる少なくとも一種の耐熱性繊維であるという本発明の好ましい構成によれば、防火性に優れ、強度も高く、軽量で、防音性にも優れ、防火建築材料として総合的に優れたものとすることができる。
【0014】また、構造物がドアであるという好ましい構成によれば、強度を保つフレーム以外の断熱性の芯材は多くの空気層を含み、耐火性板は無機微粒子及びバインダーを含んでいるため、強度が強く、且つ、音の吸収や散乱が効率的に行われるため、ドアに要求される軽量性と遮音性の両方を満足することが容易である。
【0015】
【実施例】以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
【0016】図1は、本発明の防火構造物の一実施例の部分破断斜視図である。フレーム2は、天然木材等の有機材料、金属やセラミックス等の無機材料、天然木材に防火剤を注入したもの、又はこれらの複合材料からなり、一般に、方形状枠の形状に組み立てられる。なお、強度を増すために、フレーム2を構成する辺の間に中桟を組み込むのも好ましい構成である。
【0017】フレーム2の中空部には、断熱性の芯材3が装填され、構造物本体を構成する。断熱性の芯材3に使用可能な耐熱性繊維としては、一例としてロックウール、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、炭素繊維、シリカーアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、金属繊維などを1種類以上使用するのが好ましい。別の繊維としては、メタ系またはパラ系芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリアミドイミド繊維、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素繊維、芳香族ポリエーテルアミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、フェノール繊維、セルロース繊維などのように有機繊維であっても300℃以上で形状を保持できる繊維であれば使用できる。これらの中でも特に好ましいのはロックウールである。本発明の断熱性の芯材3を形成するには耐熱性の接着剤を用いることもできる。
【0018】芯材3は断熱性や遮音性としての機能と実際の使用上の厚みの比較衡量から、約10〜40mm程度の厚さにするのが好ましい。芯材2を形成する手段は、前記耐熱性繊維を使用して乾式法または湿式法により繊維集合体を形成させたり、あらかじめ耐火性板5内部に前記耐熱性繊維を詰め込む手段などがある。また芯材3の好ましい見掛比重は0.05〜0.3g/cm3 の範囲である。断熱性、軽量化、および耐火性板5に外力が加わった際の緩衝機能などを発揮させるためである。
【0019】構造物本体の片面又は両面には、耐火性板5と可燃性板6とが順に部分又は全面に渡って積層される。可燃性板6は、天然木の挽材、単板、合板やパーチクルボード、繊維板等からなり、1mm〜5mm程度の厚さにするのが好ましい。これは、厚みが1mm未満では板自体の強度が低下する傾向にあり、逆に5mmより厚い場合は、板が炭化又は燃焼して消滅するまでの時間がかかる等の理由によるものであり、通常の火災では、この間の厚みが好ましい。
【0020】なお、フレーム2の最外周面には、無機材料からなる耐火性側板7が部分又は全面に渡って貼着される。
【0021】図2は、本発明の防火構造物の正面図である。フレーム2と耐火性板5及び可燃性板6との固定は、可燃性板6の上からフレーム2に当たるように、釘等の針状固定体8を打ち込むことにより行われる。なお、耐火性板5及び可燃性板6が均一な平面性を保つために、フレーム全体に均等分散させて固定するのが好ましい。
【0022】図3に針状固定体8の例を示す。図3aは、釘の正面図であり、棒状本体の一端に係止部9を有し、他端は尖頭状に形成されている。図3bは、ステープルの正面図であり、コ字状本体の頭部に係止部9´を有し、足部は尖頭状に形成されている。但し、本発明に用いられる針状固定体8は、係止部を有するものであれば、これらのものに限定されない。
【0023】図4は、本発明の防火構造物を図2のA−A´断面から見た断面図であり、図4aは火災発生前の様子であり、図4bは火災発生時の様子を示す。火災発生前の通常の使用状態では、フレーム2と耐火性板5と可燃性板6とは、針状固定体8により各々密着して固定され、それらの間隙は殆ど空いていない。しかし、火災が発生して可燃性板6が炭化したり燃焼したりすると、火災発生側の可燃性板6の厚み分が消滅し、耐火性板5の固定力が減少して、針状固定体8の係止部までの範囲で可動状態となる。火災発生時の熱により、防火構造物の内部は水蒸気や有機ガスが充満して高圧状態になるため、可燃性板6に圧力が内部から作用して、針状固定体8の係止部まで動いてフレーム2との間に間隙が生じ、内部ガスはそこから解放されて、内部圧力が低下することになる。そのため、防火構造物全体の破壊を防止することができる。また、火災発生側の耐火性板5も針状固定体8の係止部で保持されるため、炎は防火構造物を越えて侵入できず延焼を止めることが可能になる。なお、炎がフレーム2との間隙から侵入することが想定されるが、内部ガスの噴出により防止される。
【0024】図5は、火災発生時の内部ガスが解放される様子の部分斜視図である。針状固定体8で固定された可燃性板6の周辺部が燃焼して消滅し、耐火性板5が内部ガスの噴出により外側へ反った状態になり、フレーム2との間に間隙が生じている。その間隙から内部ガスが噴出して、内部圧力を低下させることができる。
【0025】図6は、本発明の防火構造物における耐熱性板の断面図であり、図6aは全体断面図で、図6bは図6aのC−C´部分断面図である。耐火性板5は高温流体や炎を遮断する機能を有する。また耐熱性繊維層を含むので、高温流体の圧力によって破壊される恐れがない。さらに緩衝機能を発揮する芯材3と相俟って防火構造全体として弾力性を発揮し、より高温の流体の圧力に対して対抗できる。さらに、耐火性板5を芯材3の両面に形成することにより、もし一方の面の耐火性板5が破壊されても残る他方の耐火性板5´により高温流体の伝播や延焼防止ができる。このような耐火性板5、5´を構成する耐熱性繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ−シリカ繊維、炭化ケイ素繊維(以上をセラミックス繊維ともいう)などの耐熱性1000℃以上の無機繊維を使用することが好ましい。なお、ガラス繊維などのように耐熱性がやや低い繊維であっても、これらのセラミックス繊維と併用することにより使用できる。そして特に好ましくは、耐火性板5は、少なくともセラミックス繊維層と無機微粒子及びバインダーを含む層とからなる積層体(以下無機繊維ボードという)で形成することである。
【0026】前記無機繊維ボードを形成するための好ましいセラミックス繊維層は、乾式法または湿式法により不織布や抄紙シートのように形成してもよいし、織物布または編物を形成してもよい。このようにして得られたセラミックス繊維層の表面に無機微粒子を含浸または塗布し、さらにその上にバインダーを塗布するか、または無機微粒子とバインダーを混合した組成物を含浸または塗布し、乾燥または熱処理などによって接着一体化させる。前記バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、ケイ酸塩、リン酸塩、またはシリカセメント、アルミナセメント、マグネシアセメント、ジルコニアセメントのような耐熱セメント類から選ばれるものを例示できる。次に無機微粒子としては、ロウ石、長石、マグネシア、ケイソウ土、シリカ、シリカーアルミナ、ムライトアルミナ、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、ジルコン、ジルコニア、酸化チタン、酸化マグネシア、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シラス、シラスバルーン、ガラス、ガラスバルーン、パーライト、ドロマイト、カオリン、シャモット、雲母、コージェライト、窒化ケイ素、窒化ホウ素、セピオライト、アタパルジャイト、ベントナイト、ヘクトライト、合成フッ素雲母、モンモリロナイト、各種ウィスカー、炭素粉末、金属粉末などを例示できる。
【0027】耐火性板5、5´の見掛密度は0.2〜0.8g/cm3 程度が好ましく、耐火性板5、5´の厚さは2mm以上が好ましい。
【0028】次に耐熱性板5の製造方法の一例を説明する。繊維直径2〜3μmのシリカーアルミナ系セラミック繊維集合体シートを湿式抄造法によって作成する。この繊維集合体シートは、2wt%アクリルエマルジョンを含む、目付90g/m2 、見掛密度0.18g/cm3 、厚さ0.5mmのものである。この繊維集合体シートを8枚用意し、下記に示す配合により作成した粘度1000cps のバインダーを、1枚の繊維シート上に乾燥重量で470g/m2 塗布した。このようにして得られた繊維シート上無機微粒子を含むバインダーを塗布したものを8枚積層し、10kg/cm2 の圧力を掛けて密着させた後、乾燥し、目付4000g/m2 、見掛密度0.70g/cm3 、厚さ5.7mmの板状に成形した。
【0029】
(配合)
アルミナ粉末(平均粒子直径:3μm) 32重量% シリカ粉末(平均粒子直径:2μm) 16重量% コロイダルシリカ(濃度30wt%) 39重量% セピオライト 6.5重量% 水 6.5重量%図7は、本発明の防火構造物の他の実施例の部分破断斜視図である。フレーム2の内側の中空部には断熱性の芯材3が装填され、フレームの外側面には耐火性側板7が貼着される。この両面には、耐火性板5、5´及び可燃性板6、6´が部分又は全面に渡って針状固定体8により固定される。この外側面には、熱膨張率の大きい膨脹材12が板状に貼着される。そして、全ての表面に化粧板11、13を貼着して、防火構造物の装飾を行う。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の防火構造物は、火災時に耐火性板が剥がれ落ちることなく防火機能を維持すると共に、防火構造物の内部ガス抜きが容易にできるため、防火構造物が破壊して延焼が拡大するのを防止することができる。
【0031】また、耐火性板を固定する際に、可燃性板が緩衝材として働き、局部的応力が緩和されて歪みが発生し難くなり、製造時の破損が少なくなるため、防火構造物の製造歩留まりを上げることができる。また、緩衝材としての可燃性板により局部的応力の残留が減少して破壊応力の低下が少なくなり、火災時の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の防火構造物の一実施例の部分破断斜視図である。
【図2】本発明の防火構造物の一実施例の正面図である。
【図3】本発明の防火構造物に使用する針状固定体の例である。
【図4】本発明の防火構造物を図2のA−A´断面から見た断面図であり、図4aは火災発生前の様子であり、図4bは火災発生時の様子を示す。
【図5】火災発生時の内部ガスが解放される様子の部分斜視図である。
【図6】本発明の防火構造物に使用する耐熱性板の断面図であり、図6aは全体断面図で、図6bは図6aのC−C´部分断面図である。
【図7】本発明の防火構造物の他の実施例の部分破断斜視図である。
【図8】従来の防火構造物の一例の部分破断斜視図である。
【図9】従来の防火構造物の他の例の部分破断斜視図である。
【符号の説明】
1 防火構造物
2 フレーム
3 芯材
5、5´ 耐火性板
6、6´ 可燃性板
7 耐火性側板
8、8´ 針状固定体
9、9´ 係止部
11、11´、13 化粧板
12 膨脹材
21 有機系接着材
32、32´ 無機繊維層
33、33´ 無機繊維、無機微粒子と無機接着剤の混合層
34 バインダー層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 フレームの中空部に断熱性の芯材を装填した構造物本体の少なくとも片面側に、耐火性板と可燃性板とが順に積層されている構造物であって、前記可燃性板の上から針状固定体により前記可燃性板と前記耐火性板が前記フレームに固定されていることを特徴とする防火構造物。
【請求項2】 耐火性板が、少なくとも無機繊維層と無機微粒子及びバインダーを含む層とからなる積層体であって、無機繊維層はロックウール、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、炭素繊維、シリカーアルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、金属繊維、セラミックス繊維から選ばれる少なくとも一種の耐熱性繊維である請求項1に記載の防火構造物。
【請求項3】 構造物がドアである請求項1に記載の防火構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【特許番号】特許第3025331号(P3025331)
【登録日】平成12年1月21日(2000.1.21)
【発行日】平成12年3月27日(2000.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−80188
【出願日】平成3年4月12日(1991.4.12)
【公開番号】特開平4−315690
【公開日】平成4年11月6日(1992.11.6)
【審査請求日】平成10年2月25日(1998.2.25)
【出願人】(000116541)阿部興業株式会社 (5)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)